霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

38 / 100
運命

「えー、では、次の試合へ進みますね……」

 

シカマルの刺したクナイを全て回収し終えた後、電光掲示板が動きだした。

次に表示された名前は……

 

ウズマキ・ナルトvsヒュウガ・ネジ

 

「来たぁ、来たぁ! 長らくお待たせしました! よーやくオレの出番だってばよ!」

 

「ふん、ウワサの落ちこぼれくんか……」

 

中忍試験予選も後半。

ずっと待たされていた自分の名がやっと出たことに、おおはしゃぎするナルト。

そんなナルトを見ながら、ハク、長十郎、再不斬が、激励の言葉を送る。

 

「ついに来ましたね、ナルトくん!」

「頑張って下さい。ナルトさん!」

「漸くお前の成長を見せつける時が来たな……不様な闘いをするんじゃねーぞ!」

 

と、それぞれ少年の背中を押した。

それにナルトは笑顔で応える。

 

「にししし〜、オレってば強くなったもんね〜。ハクと長十郎に続いて、サクっと勝ってくるってばよ!」

 

一方、木の葉サイド。

ネジ側の陣地では、

カンクロウに眠らされたテンテンが、漸く目を覚まし……

 

「zzz……あれ? 私……そっか、負けちゃって……」

 

それに気づいたリーとガイが、ハイテンションの声を上げる。

 

「目が覚めましたか、テンテン!」

「む! グッドタイミングだな、テンテン! ちょうど、ネジの試合が始まるところだ! 試合に負けて悔しいだろうが、今は熱く仲間の応援をしようではないか!」

「ガイ先生の言うとおりです、テンテン!」

「さあ、テンテン! 立ち上がるのだ!」

 

ガミガミうるさい二人に、テンテンは一喝。

 

「アンタら、うるさーい! ったく、ネジなら応援なんかしなくたって勝つわよ……まったく」

 

と、熱烈な目覚ましにより、体を起こした。

 

続けて、シカマル、チョウジ、いの。

 

「ナルトvsネジか……さすがにネジの相手はナルトには無理だろう……」

「だね……ナルトには残念だけど、勝負になんないよ」

「どうかな……正直、私にはわかんない闘いになりそう……」

 

ヒナタは誰にも聞こえないぐらいの小声で、

 

(な、ナルトくんの相手が、ネジ兄さんだなんて……でも……)

「が……頑張って、ナルトくん……」

 

ナルトを応援していた。

 

そして、カカシとサクラは、

 

「やっと来たな……」

「……うん」

 

手すりにしがみつく勢いで、試合が始まるのを待っていた。

カカシは額あてに手をあて、写輪眼を出す。

 

(さあ、ナルト……お前の成長を見せてもらうぞ……)

 

「…………」

「…………」

 

対戦者の二人。

ナルトとネジが、下に下り立つ。

それを少し離れた場所から見ていたイルカと三代目火影は、心の中で呟いた。

 

(ナルトの相手は、あのネジか……なんとか勝ってほしいが、いくらなんでもネジの相手は……いかんいかん、教師のオレが一人の生徒を贔屓するなど……)

(ふむ……これは見物じゃな)

 

ナルトとネジの闘いに、今までの試合より一際大きな注目が集まる。

そんな中、ナルトは自身の正面に立つネジを見て、今さらながらのことを思い出していた。

 

(日向って、やっと思いだした。コイツ、ヒナタの兄ちゃんだな……でも、試合で手加減なんかできねーってばよ!)

 

と、睨みつけるナルト。

相手の視線に気づいたネジが訊く。

 

「何か言いたそうだな……」

 

ナルトは拳を突き出し、言った。

 

「ぜってー勝つ!」

 

そんなナルトを、ネジは白眼で見る。

面白い……と口元を歪めて……

なぜなら……

 

「ふん、その方がやりがいがある……本当の現実を知った時。その時の落胆の目が楽しみだ……」

 

相手を見下すネジ。

互いに、自分の勝利以外はありえない……

そう、思っていた。

だからこそ、

今までずっと待たされていたナルトは、痺れを切らし、

 

「ごちゃごちゃ言ってねーで」

 

青いチャクラが溢れ出す。

びゅー!! ゴォー!!

屋内だというのに、

 

「さっさと……」

 

一陣の風が舞い……

 

「始めようぜ!」

 

風が治まる。

まるで嵐の前の静けさを表すかのように。

そして、ついに、ハヤテが告げる。

 

「うずまきナルト 日向ネジ 両者、準備はよろしいですね?」

「ああ」

「……こちらもだ」

 

両者が頷いたのを見て、ハヤテが試合開始を宣言した。

 

「では、第十回戦……始めて下さい」

 

先に動いたのは、ナルトの方だった。

 

「行くってばよ!」

 

ポーチから二枚の手裏剣を取り出し、ネジへと投げつける。

それを右へ左へ、最小限の動きで避けるネジ。

続けてナルトが十字に印を結び、

 

「影分身の術!」

 

ボン!

四人の分身ナルトが出現し、全員が前を見据えて、ネジに突貫。

 

「「「行くぞー!」」」

 

それを白眼で観察しながら、掌を前に突き出し、ネジが構えた。

 

「影分身か……面白い」

 

うおー! と、ナルト達が突撃する。

が――

分身ナルトの一人が、ネジに真っ直ぐ突っ込み、拳を振りかざすも……

ひらりとすり抜ける。

掠りすらせず、苦もなく躱されてしまう。

 

「……だったら」

 

次に、分身ナルトが二人がかりで、ネジを左右から挟み撃ちにする。

本来なら、相手の死角を突いた絶妙な攻撃。

だが、

それを意図も簡単に、白眼の洞察眼で見切られ、ナルトが繰り出したパンチと蹴りは、顔色一つ変えないネジに……あっさりと避けられてしまった。

 

「くっそぉ……!」

「もうい…やべぇ!?」

 

もう一回、攻めに転じようとしたナルト達だが……

体勢を立て直す間もなく、ネジの手掌を反撃に受け、

ボン! ボン!

呆気なく、消滅。

残った分身二人が、

 

「「このォ!」」

 

相手の前後を挟み、攻撃しようとするも……

ネジがバク転。

着地。

分身ナルトの後ろへ、逆に回り込み、そのまま襟を掴んで、前方の分身に投げつけた。

 

「「うわー!」」

 

ボン!ボン!

華麗。

あっさりとナルト達が消える。

余裕の笑みを浮かべるネジ。

しかし……

その笑みは、すぐに戸惑いに変わる。

周囲を見回すネジ。

だが……

本体のナルトが見当たらない。

代わりに地面には一つの穴が空いてあり……

と――

ボコッ!

地面が割れ、

ちょうどネジの真下から、

 

「とおりゃー!」

 

本体のナルトが拳を突き出した。

勢いをつけたまま、その拳でネジを殴り飛ばす。

 

「ゴバっ!」

 

ネジは顎にパンチを受けるも、白眼のお陰でなんとか直撃だけは避けた。

それから、お返しと言わんばかりに、空中で無理矢理腰を捻り、

 

「やってくれたな!」

 

回し蹴りをナルト目掛けて放つ。

その蹴りが、吸い込まれるように、ナルトの腹に入り……

 

「がぁっ!」

 

まともに反撃を受けたナルト。

思わぬ攻撃に、体勢を崩されたネジ。

両者が床に激突し、服を汚し、手をつく。

が、

すぐさま。

同時に。

ネジは唇から流した血を拭いながら、

ナルトは横腹を抑えながら、

眼前の敵を見据えながら、立ち上がる。

一瞬の攻防。

息を飲む、観戦者達。

そして、口々に驚きの声を上げる。

 

上から見ていたシカマル、チョウジ、いのが、目を丸くする。

 

「……ウソだろ……あのナルトがネジとやり合ってるぞ……」

「す、凄い……」

「だから言ったじゃない! でも、実際に目の前で見せられると私も衝撃だわ……」

 

ネジと同じ班の、リー、テンテン、ガイは、ネジの実力を知る分、驚きも大きく。

 

「な、なんという素晴らしい闘い!」

「ウソでしょ……ネジが血を流すなんて」

「うむ……これは予想以上に白熱してきたな」

 

そして、ヒナタが目を輝かせて、

 

「ナルトくん……凄い!」

 

と、ナルトの奮闘を応援していた。

 

ネジは口元を拭いながら、

 

「……正直、お前のことをなめていた。ウワサ通りの、ただの落ちこぼれくんかと思っていたが……どうやらリーと同じく、少しはやるみたいだな……以前、ヒナタ様がお前の話をしていたが、あの人も人を見る目だけはあったということか……」

「誰が落ちこぼれだ! 余計なお世話だってばよ……へっ、オレの実力はまだまだこんなもんじゃねーぞ……」

 

ナルトはそう言うや否や、ポーチから白い玉を取り出し、

 

「にしし……」

 

と、イタズラをする子供のような仕草で、地面に叩きつけようとする。

それを見たネジは僅かに身を屈め、

 

(煙玉? 白眼の視界を塞ぐつもりか……その程度の戦術はオレには通用しないぞ)

 

足にチャクラを溜め、

加速。

一気にナルトの方へと詰め寄ろうとしたところで……

 

ボン! ボン!

 

ネジの左右の後方から、変化の術を解き、二人の分身ナルトが現れた。

それは最初にナルトが放った手裏剣――予め変化の術で化けていた影分身であった。

事態に気づいたネジが、心の中で呻く。

 

(コイツ……まさか!)

 

それにナルトは、してやったりと、笑みを浮かべて、地面にではなく、ネジに向かって白い玉を投げつけた。

 

「バーカ。これはオレが修行で使ってた、ただのゴムボールだってばよ!」

 

そう、ナルトがポーチから取り出した物は、煙玉でもなければ、忍具ですらない。

ただのゴムボール。

何の殺傷能力も妨害能力もないボールを、ネジの気を一瞬誘導するためだけに、利用したのだ。

それを心の底から鬱陶しく感じながら、手ではね除けるネジ。

 

「くっ……」

 

そのネジを見事に誘い込んだ三人のナルトが、攻撃にでる。

 

「これで逃がさねーってばよ!」

 

三方向からの攻撃。

しかも、相手の意表を突いた攻撃だ。

あたると、ナルトが確信した時、

途端。

ネジが体中のチャクラ穴から、チャクラを多量放出し、

 

「……ふん」

 

体をコマのように回転しながら、

 

「「「なっ……うわー!」」」

 

三人のナルトを弾き飛ばした。

分身は消え、本体のナルトも地面を転がる。

そのナルトを見下ろしながら、

 

「勝ったと思ったか?」

 

ネジが嘲笑した。

 

上から見ていたサクラとカカシが呟く。

 

「なんで? ナルトの攻撃はタイミングバッチリだったはずなのに……」

「……何て奴だ」

 

ヒナタは信じられないといった表情で、呟いた。

 

「あれは……お父様の……回天」

 

そして、テンテンはネジの優勢に、得意気な顔を見せる。

 

「ふふ、あれがネジの防御よ」

 

回天。

それがネジの術の名。

白眼の最大視界はほぼ360°。

その白眼で相手の動きを感知し、攻撃を受ける瞬間に体中のチャクラ穴から、チャクラを多量放出。

そのチャクラで敵の攻撃を受け止め、自分の体をコマのように円運動させ、いなして弾き返す。

それが、ネジの絶対防御。

しかし、本来回天は宗家にしか伝えられない秘術……

それを独自で身につけたネジに、

 

「ほほ……さすが日向家、始まって以来の天才と呼ばれるだけのことはある」

 

と、三代目火影すら、感嘆の言葉をこぼした。

 

しかし、ナルトは立ち上がる。

どうすれば今の防御を越えられるか、

考える。

この程度でへこたれるナルトではなかった。

 

(よくわかんねーけど、アイツは回転して攻撃を弾いた訳だよな……だったら)

 

再び十字に印を結び、

 

「多重影分身の術!」

 

二十人のナルトが、ネジをぐるっと囲む。

それを白眼で見たネジが、ハクと闘った時にヒナタが見せたものと同じ……

日向家特有の姿勢で、構えを取り、言った。

 

「来い!」

 

ナルト達は余裕を見せるネジに、少しむっとした表情で、ポーチからクナイを取り出し、

 

「おい!」

「オレを」

「甘く」

「見るんじゃ」

「ねーぜ!」

 

一斉に、駆け出した。

二十人のナルトによる波状攻撃。

二十対一。

あまりにも戦力差が歴然だと思える状況で、

だというのに、ネジは焦りすら見せずに、それを余裕の表情で捌いていく。

ボン!

一人。

ボン!

また一人、ナルトの分身が消されていく。

だが……

漸く、ナルトの狙っていた展開が訪れた。

 

「ちっ……流石に数が多いな」

 

ネジが分身の攻撃をバク転しながら、跳ぶように避ける。

そこへ、今だ! と言わんばかりに、分身ナルト達が、着地の瞬間を狙って一斉に飛びかかった。

そのナルト達を、まるでジャンプ台を使うかのようにネジが足裏で踏み蹴り、瞬く間に消滅させていく。

その体を宙に浮かせて……

 

(ここだ!)

 

分身が掴んだチャンスを逃さないように、本体のナルトが上空にいるネジに向かって手裏剣を投げた。

それを見たネジは、

 

「ふん、オレに手裏剣など通用しないぞ……」

 

一蹴するが、ナルトはお構い無しに印を結ぶ。

 

「丑 戌 辰 子 戌 亥 巳 寅」

「!?」

 

見たこともない印に、ネジが警戒する。

そこに、印を結び終えたナルトが術を発動した。

 

「手裏剣影分身の術!!」

 

直後。

ナルトの投げていた一枚の手裏剣が、その数を増幅させていく。

二枚、三枚、四枚、五枚……

その数。

――数十枚。

 

「なに!?」

 

ネジの顔に驚愕の色が浮かぶ。

それもそのはず。

幻術で数を多く見せるなら、まだわかる。

しかしナルトの使った忍術は、実際に、本当に実体のある手裏剣を増やしていたのだ。

ナルトの考えた作戦。

それはネジを空中に浮かせ、足を地面から放すこと。

自由に動けない空中でなら、体を上手く動かせず、回天も使えないと考えたからだ。

……しかし、

日向の天才は、ナルトの予想を越えていた。

迫りくる手裏剣を白眼で全て感知しながら、全身からチャクラを放出し、

 

「回天!!」

 

ネジは空中にいながらも技を繰り出し、ナルトの術を弾き返した。

地面に降り立つ。

一枚の手裏剣も刺さることなく……

ネジはナルトを見ながら、感心した声音で、

 

「なるほど……本当に予想以上だった……」

「くそっ……あの状態でも使えるのかよ! 反則じゃねーの、その技!」

「ふん……面白い奴だ……だが」

 

ネジが腰を低く落とし、見たこともない構えを取った。

ナルトの背筋に、悪寒が走る。

わからない。

わからないが、これはヤバい。

 

「これで終わりだ……お前はオレの八卦の領域内にいる……」

 

途端。

ネジの雰囲気が変わる。

そこはもう……彼の領域であった。

そこから逃れようとするナルトだが……

足が思うように動かない。

砂の忍とやり合った時のダメージが残っていたのか?

ネジの迫力に押されたのか?

どちらの理由かは、わからないが……

 

「ぅ……」

 

一瞬の隙ができる。

一瞬の隙間。

一秒にも満たない時間。

それをネジは――逃さなかった。

 

「柔拳法・八卦六十四掌」

 

手と足にチャクラを巡らし、半回転。

地面を削りながら腰を捻り、指先をチャクラの針にして、ネジがナルトを撃つ。

 

「八卦二掌!」

「ぐっ!」

 

苦痛に呻き声が出る。

だが、こんなものではない。

自分が感じた嫌な予感の正体が、この程度で済む訳がない。

と、わかっているのに、ナルトはネジの攻撃を棒立ちで受けることしかできず……

 

「四掌!」

「八掌!」

「十六掌!」

「三十二掌!」

「ぐぁぁああ!」

 

雨のように降り注ぐ、ネジの柔拳。

手から、腕から、次々と力が失われていく。

 

「六十四掌!!」

 

ネジの奥義が炸裂。

ナルトの六十四の点穴を刺し貫いた……

 

「ぐはぁああ――っ!」

 

どさり……

吹き飛ばされたナルトは、受け身すら取れずに、その体を地面に転げさせた。

 

それを上から見ていた木の葉の面々。

ヒナタは心配そうな面持ちで、

 

(ナルトくん……負けないで)

 

と応援するも……

他の忍達は……

 

シカマル、いの。

 

「やっぱ、ナルトには厳しかったか……いや、大健闘だったがよ……」

「私、ナルトが勝つんじゃないかって、少し期待してたんだけどなぁ……」

 

リー、テンテン、ガイ。

 

「やはりネジは強いですね……ですが、熱い勝負でした!」

「あのネジとここまで闘えるなんて……あの金髪の子、本当に運が悪かったわね……」

「ネジの勝ちだな……可哀想だが、もう立てまい……」

 

カカシ、サクラ。

 

「この勝負見えたな……」

「え? どうして、カカシ先生? まだナルトが立つ可能性だって……」

「そりゃ無理だな……今のネジくんの攻撃で、ナルトは身体中の点穴を突かれた……もう、どうしようもない……」

「うそ! どうしてカカシ先生にそんなことがわかるの?」

 

サクラの疑問に、カカシが答える。

 

「ネジくんの白眼。あれはただ視野が広いってだけじゃない。身体中に流れるチャクラの通り道…経絡系。そして、点穴と呼ばれるチャクラのツボ。という、忍者がチャクラを練るのに絶対に欠かせない、重要な箇所があるんだが……ナルトはその点穴を、さっきのネジくんの攻撃によって完全に閉ざされてしまった……」

「つまり点穴を、チャクラを封じられたってこと?」

「ま、そういうことだな」

 

サクラは、カカシの説明に驚きながらも、納得した。

チャクラを封じられれば、忍者もただの人。

つまり、ナルトの敗けは確定だと……

最後にネジを見て、サクラが呟いた。

 

「あのネジって人……反則レベルの強さじゃない……」

 

カカシも写輪眼をしまい……

 

(ネジか……なんて奴だ。サスケですら手も足も出ないぞ。こりゃあ、むしろナルトは頑張った方だ……)

 

全員が、ネジの勝利だと決めつけてしまった。

 

そして、霧隠れ第一班。

ナルトの圧勝を予想していたら、予想外の展開に、長十郎が顔を青ざめる。

 

「あわわわ、な、ナルトさんが……これ、不味いんじゃ……」

 

それに再不斬が、

 

「ガタガタ喚くな! 長十郎…お前はやればできるくせに、もっと毅然とした態度が取れねーのか?」

 

と、余裕さえ感じられる対応をする。

そんな再不斬にハクが訊いた。

 

「ですが、再不斬さん。さすがにこれは不味いのでは? あのネジって人、本当に強いですよ。このままナルトくんが負けたら……」

「ああ、確かにつえーな。いわゆる天才って奴だ……」

「でしたら、どうしてそこまで落ち着いていられるのですか?」

「そんなこといちいち説明するまでもねーだろ……確かに、あの日向の小僧は強い。まさか木の葉にあんなガキがいるとはな……だが所詮、ただの天才だ……」

「?……それは、どういう……」

 

首を傾げるハク。

そんな心配そうな顔をするハクと長十郎に、再不斬はきっぱりと、

 

「お前達は、このオレ様が鍛えたんだぞ? ナルトもそうだ……ただの天才じゃ、うずまきナルトには勝てない。

本物の忍ってのはな、どんな天才様だろーが、温室の中でぬくぬくしてるような奴には絶対になれねーんだよ。

お前達と木の葉の忍じゃ、ものが違う。

オレが予測できないことと言やぁ、こっからナルトがどうやって逆転するか……それだけだ……」

 

そう言った。

そんな再不斬の言葉に、

 

「「…………」」

 

我を失うハクと長十郎。

確かに、霧隠れ全体の改変をきっかけに、再不斬も変わり始めているのは、側にいたハクだけでなく、長十郎や他の忍達も感じていたことだ。

だが、それでも、ここまで変わるとは……

ハクと長十郎は、内心で動揺を見せるほど、自分の担当上忍の成長? に、感動を覚えずにはいられなかった。

決して、本人には言えないが……

言えば、たぶん殺されるだろう……

と――

それから、再不斬の言うとおり、ナルトならこの状況でも逆転してしまうのでは?

と期待し、ハクと長十郎は、静かに視線を下に戻したのであった。

 

「ごはっ!」

 

血を吐き、床に倒れるナルト。

それを上から見下ろしながら、ネジが言う。

 

「確かにお前は健闘した。だが、試合は終了だ。全身六十四の点穴を突かれたお前は、チャクラを練るどころか、立てもしない」

「……う……」

「ふっ、悔しいか? 変えようのない力の前に跪き、己の無力を知る。アカデミーの卒業試験に落ち、霧に逃げたお前のような落ちこぼれがオレに勝てる道理はない……お前の負けはオレが対戦相手に選ばれた時点で、すでに決められた運命だったんだよ……」

 

そう言った後、勝ち宣言を受ける必要すらないと背を向けて歩き出すネジに、

 

「待ちやがれ……シスコン野郎」

 

痛む体を押さえながら、息も絶え絶えにナルトが立ち上がった。

背を向けていたネジが、再び体の向きを戻し、驚きを漏らす。

 

「コイツ……バカな……」

「わりーな、オレは諦めが悪いんだってばよ……」

 

口から血を流しながら、ナルトは試合の続行を促す。

それをネジは、哀れみの感情を込めた目で、

 

「……もう止めとけ……これ以上やれば、下手をすれば死ぬぞ。別にお前に恨みはない。棄権しろ」

「お断りだってばよ……オレはお前と違って、負けられない理由があるんだ!」

「負けられない……理由?」

 

そんなものが何だ? と、言わんばかりの表情でネジが尋ねた。

すると、ナルトは、ああ、と頷き、

 

「そうだ! だから、お前みたいなシスコン野郎に負けるわけにはいかねーんだ!」

「……お前、さっきから人を変態呼ばわりして、何のつもりだ?」

 

首を傾げるナルト。

それから、当然といった顔で言う。

 

「妹を様づけで呼ぶような奴、変態と呼ばずになんて呼ぶんだってばよ?」

 

それにネジは呆れた視線を向け、

 

「…………何も知らぬガキが……オレとヒナタ様は兄妹じゃない……分家と宗家だ」

「え? 分家と宗家?」

「ふん……そういえば、お前はヒナタ様と仲がよかったと聞く……」

「ん? いや……悪くはなかったけど……」

 

そこでネジは笑う。

まるで自分を自嘲するかのように笑い、

 

「いいだろう……ここまで闘い抜いたお前に、一つ面白い話を聞かせてやる……日向の憎しみの運命を!」

 

ネジが語り始めた。

一族にまつわる悲しい話を……

 

「日向宗家には代々伝わる秘伝忍術がある。それが呪印術……」

「……呪印術?」

「その呪いの印は籠の中の鳥を意味し、それは逃れられない運命に縛られた者の証!」

 

と言うと同時に、ネジが額あての布を外す。

ネジの話を最初から知っていた三代目火影とヒナタは目を閉じ、黙って見守っていた。

ナルトは尋ねる。

 

「なんだってばよ……それ?」

 

ネジの額には卍の模様が描かれていた。

まるで何かを縛るかのように……

 

「四歳のある日。オレはこの呪印術により、忌まわしい印を額に刻まれた……その日、木の葉では盛大なセレモニーが行われていた。長年、木の葉と争っていた雲の国の忍頭が同盟条約締結のため、来訪していたからだ……しかし、木の葉の上忍から下忍にいたるまで、誰もが参加したそのセレモニーに、出席していない一族があった……それが、日向一族。その日は宗家の嫡子が三才になる、待望の一日だったからだ……」

 

ネジは上を、観戦席を見上げ、

 

「ヒナタ様の誕生日だ!」

「!!」

 

その言葉にナルトも釣られ、ヒナタを見る。

ネジが話を続ける。

 

「……オレの父、日向ヒザシとあそこにいるヒナタ様の父、日向ヒアシ様は双子の兄弟だった……しかし、ヒアシ様はこの世に先に生まれた長男……宗家の者。そして、次男であるオレの父は分家の者……この忌まわしい呪印を刻まれた者だ……」

「……なんで、そんな事する必要があるんだよ? 宗家とか分家とか、分けることに意味なんてあるのか?」

「この額の印はただの飾りじゃないんだよ……この呪印はな、いわば宗家が分家に与える死という絶対的恐怖。宗家が結ぶ印は分家の者の脳神経を簡単に破壊する……無論、殺すことすら容易だ……」

「なっ!?」

「そして、この呪印は死んだ時のみ消えてくれる……白眼の能力を封印してな……」

「能力を……封印……」

「そうだ。つまり、この呪印は宗家を守るために分家は生かされ、分家が宗家に逆らうことを決して許さない……日向の白眼という血継限界を永劫守るために作られた、効率のいいシステムなんだよ……」

「…………」

「そして、あの事件が起きた……」

「あの事件?」

「ふふ……オレの父親は宗家に殺されたんだ」

「えっ!?」

 

ネジは遠い日を思い出すかのように、目を細めながら、話を続ける。

 

「ある夜。ヒナタ様が何者かに拐われかけた……その時、ヒアシ様はすぐにかけつけ、そいつを殺した。暗がりで、しかもマスクをしていたそいつ、一体誰だったと思う?」

「…………」

「……そいつは同盟条約を結んだばかりの、雲の国の忍頭だった……」

「!?」

「初めから白眼の秘密を狙ってやってきたことは明らかだった! しかし、雲の国は計画失敗で自国の忍が殺されたことをいいことに……木の葉の条約違反として、理不尽な条件を突きつけてきた。当然、木の葉と雲は拗れに拗れ、戦争にまでなりかけた……しかし、戦争を避けたい木の葉は雲と、ある、裏取り引きをした」

「裏取り引き?」

「雲の要求は白眼の血継限界を持つ、日向宗家……つまりヒアシ様の死体を渡せというものだった……そして、木の葉はその条件を飲んだ」

 

ナルトはヒナタを見上げ、

(じゃあ、ヒナタのとうちゃんは……)

 

しかし、その考えはすぐにネジに否定された。

 

「無事、戦争は回避された……宗家を守るため、木の葉を守るため、日向ヒアシの影武者として殺された……

――オレの父親のお陰でな!!」

「な!?」

 

驚きの声を上げるナルト。

正直、最初はこんな重い話になるとは思ってもみなかった。

体を回復させながら、作戦を考えるための時間稼ぎをしよう。

などと、悪知恵を働かせていたくらいだ。

だから、ナルトはネジの話を気軽に聞いて……

でも、

途中から耳が離せなくなり、

そして、

その結末がこれでは……

そう唖然とするナルトにネジは、

 

「くく……力もほぼ同じ双子なのに、先に生まれるか、後に生まれるか。そこですでに運命は決められていたのだ……」

 

悲しく、哀しく、額あてを握りしめた。

 

「………………」

 

ネジの話にナルトは……

いや、こんな話、聞いたことすらなかった自分達の里の話に、木の葉の忍達も絶句する。

深々と沈黙する場の空気。

そんな周りの反応をよそに、ネジは再び額あてをつけ、諭すように言った。

 

「そして、この試合、お前の運命もオレが相手になった時点で決まっている……」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。