霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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12年の時を経て

「お前はオレに負ける運命だ……絶対にな」

 

運命。

ネジの語った話は、ナルトにとっても何故か無関係のように思えなかった。

それは何故なのか……

ナルトは上手く言えないが、悲壮な顔で話すネジを見て、

 

「……お前も……辛い目にあってきたんだな……」

「……気安い同情ならやめろ……人は生まれながらに違う……この白眼でわかってしまうんだよ……才能のある者、そうでない者。幸福を掴む者、掴めない者……それは最初から運命で分けられている」

 

断言するネジ。

しかし、ナルトは首を振り、

 

「……そんなの、生きてみねーと、わからねーじゃねーか!」

 

と、真っ向から対立する。

その言葉にネジは、

 

「わかると言っただろ……人はそれぞれ違う……逆らえない流れの中で生きるしかない……努力すれば何かが変わるなど、それは現実を見れない奴の、ただの幻想だ……」

「お前の気持ちは痛いほどわかるってばよ……けど、それで全てを決めつけるのは悲しすぎるだろ!」

 

ナルトは少し声音を上げ、そう言った。

お前の気持ちはわかる

けど……と。

それにネジは、またも自嘲の笑みを浮かべ、身体を震わせながら叫んだ。

 

「わかる……だと……ふ……わかるものか……一生拭い落とせぬ印を背負う運命がどんなものか、お前などにわかるものか!!」

 

普段はクールなネジが、ナルトに指を突きつけ、声を荒げる。

魂の叫び。

心からの咆哮。

それに、

その痛みに、

ナルトは腹に手をあてながら、真っ直ぐな瞳で応える。

 

「ああ……お前以上にわかるってばよ……」

「なに!?」

 

そして、怪訝な表情を浮かべるネジに、ナルトはきっぱりと言った。

 

「ンで……それが……なに?」

「コイツ……!」

 

白眼を出し、相手を睨みつけるネジ。

恨みはない、と言った時とは違い、その白い眼に確かな殺意を込めながら。

だが、

その目をナルトがさらに睨み返し、

 

「お前の方こそ…ふざけんな! 確かに逆らえない運命ってのはオレもあると思う……けど、そんな運命を背負っている奴が、必ずしも不幸って決めつけるのは勝手もいいところだってばよ!」

「何を……言っている……」

 

ナルトはネジの気持ちがわかると言った。

その上で、運命を決められた者が不幸だとは限らない?

何を……? と。

ネジは目の前に立つ相手の心の内が、まったく読めずにいた。

 

そして……

ナルトの話に耳を傾けていたのは、ネジや周りの忍達だけでなく……

 

『……………………』

 

少年の腹にある檻の中で、ぴくりと耳を動かし、オレンジの妖狐が、九尾までもが、こちらに意識を傾けていた。

 

様々な視線が集まる中、ナルトが口を開く。

 

「オレってば、お前と同じで生まれた時に両親を亡くしてる……木の葉の里とオレを守るために、父ちゃんも母ちゃんも死んじまった……」

「なに……!?」

 

驚きの表情を浮かべるネジ。

コイツも父親を、いや、両親を亡くしているのだと。

同じく運命に翻弄された者だと。

だが、ナルトの話はそれで終わりではなく……

 

「それどころか、木の葉にいた頃は里の大人達は、みんなオレを蔑んだ目で見ていた……オレはずっと一人ぼっちだった……」

「…………」

 

今度はネジが白眼を解き、ナルトの話を聞く姿勢を取った。

問答無用で叩き伏せてもよかった。

いや、試合中に相手と話す必要など、本来ない。

しかし、それでもナルトの話を聞かずにはいられなかった。

コイツの運命に対する答えを聞いてみたいと思ってしまい……

だから、ネジは耳を傾ける。

ナルトは一度後ろを振り向き、三代目火影とイルカを見た後、また前を向き、静かに語り始めた。

 

「オレってば、いつもイタズラばっかして、火影のじいちゃんやイルカ先生を困らせてばかりで……でも、オレにはそれぐらいしか、自分の存在を認めさせる方法が思いつかなかった……けど、本当は一人が辛かった……里の奴らがどいつもこいつも、憎くて憎くて仕方なかった……」

「…………」

「そしてオレが木の葉にいた最後の一日、アカデミーの卒業試験の日。試験に落ちたオレに何が起こったと思う?」

 

先ほどの意趣返しのように、ネジに尋ねるナルト。

それにネジが応える。

 

「お前が里を抜けた日か……」

「ああ、そうだ……あの日、オレはイルカ先生にラーメンを奢ってもらった後の帰り道でミズキに声をかけられて……その後、木の葉の森へ行ったんだ……そこである出来事が起きた……」

「ある出来事?」

 

ナルトは一度目を閉じ――刮目。

抑揚のない声音で、淡々と告げた。

 

「……お前達、木の葉の忍による……オレの抹殺だってばよ」

「なっ!?」

 

ナルトの言葉に絶句するネジ。

いや、木の葉の忍の殆んどが慌てふためく。

抹殺って、何だ? と、下忍達が自らの担当上忍に尋ねる。

上忍達も対応に困ってしまい、場が騒然とする。

ハヤテがナルトを止めるか、三代目火影に目で問いかけるが……

三代目火影はそれを手で制した。

黙って様子を見守れと……

ネジはすかさず、

 

「ば、バカな! なぜアカデミーすら卒業できなかったお前を殺す必要がある……出鱈目を言うな」

「へっ……お前、白眼で何でもわかったかのように話していたくせに、オレの言ってることが、本当のことかどうかすらわかんねーのか?」

「……くっ……」

「……そして、オレは命懸けで逃げた。木の葉の忍達に殺されないようにな……」

「……結局、お前はオレに何が言いたいんだ! 同じ辛い思いをしているお前が頑張っているのだから、オレにも頑張れなどと、そんな陳腐な台詞を言いたいのか?」

 

ナルトの話に、業を煮やしたネジが苛立ちを顕にする。

いや、違う。

別に長い話に嫌気がさした訳ではない。

むしろ逆で……

まるで、殻を破られる予感がして、

このままでは何かが崩れる予感がして、

それにナルトは、

 

「……違うってばよ……そんなことオレがわざわざ言わなくても、お前だって本当はわかってるはずだろ……」

 

などと、見事に痛いところを突いてきた。

その言葉にネジは、

 

「………………」

 

無言になる。

わかっているとも わかっていないとも

どちらの答えも出せずにいる。

答えられる訳がない。

だが、そんなネジに、ナルトは更なる追い打ちをかける。

 

「オレが言いてーのは、お前は自分の父ちゃんのことをわかってねーってことだってばよ……」

 

それに、

そのナルトの言葉を聞いたネジが激昂し、

 

「貴様ぁ!!」

 

ナルト目掛けて駆け、その左肩の点穴を柔拳で叩き込んだ。

頭に血が上り、無我夢中で叩き込んだ。

すでにボロボロだったナルトは攻撃を避けることすらできず、ネジの柔拳をまともに受け、口から血を流す。

しかし、ナルトは倒れない。

倒れそうな身体を何とか踏ん張らせて……

 

「が……ぐっ……へ……」

 

ナルトは点穴を突かれながらも、ネジの腕を左手で掴み、

余った右手で拳を握り……

 

「チャクラを封じたぐらいで……いい気になるなよ!」

 

力一杯、ネジの顔をぶん殴った。

チャクラの欠片も込もっていないナルトの拳がネジの頬に入り、

 

「ぐっ……」

「ハア、ハア、ハア……」

 

二人の距離が再び開く。

ナルトは肩で息をしながら、

 

「…お前は…大事なものが見えちゃいねぇ」

「……大事な…ものだと……」

 

もう止めろ!

そう心の中で、警告を鳴らすネジ。

しかし、ナルトは話し続ける。

 

「お前の父ちゃんは、呪われた運命だとか、木の葉を守る使命だとか、そんなもんのために命を懸けたんじゃねーってばよ」

「なにを、何を言っている! オレの父は、宗家に、白眼の秘密を守るために殺されたんだ!」

 

もはやクールな体裁は何処へやら。

声を荒げるネジに、ナルトは言った。

 

「そんな訳のわかんねーもんに、人が命を懸ける訳ねーだろ! お前の父ちゃんはな……お前やヒナタの未来を守るために命を捨てたんだろーが!」

「な!? そ……そんな訳があってたまるか! オレの父親は分家に生まれた時から、宗家のために死ぬことが運命で決められていたんだよ! 事実、オレの父親か、ヒアシ様のどちらかが死ななければ、木の葉は戦争になっていた……」

 

が、ネジの言葉をナルトが遮り、言った。

 

「それは違うってばよ……」

 

その否定にネジは、怪訝そうに眉をよせ、

 

「どういう意味だ……」

「お前の父ちゃんはすげー奴だ……けど、お前の父ちゃんやヒナタの父ちゃんが犠牲にならなければって、考えがそもそもおかしいだろ……」

「今さら何を言っている……そうしなければ木の葉は……」

「違うだろ……それ以外にも選択肢はあったはずだ……お前の父ちゃんが生き残る未来だって……」

「ふ、ふざけるな! お前の言ってることは理想論だ! もし、雲の国の約束を反故にすれば……」

 

ナルトの言い分にまたも激怒するネジ。

頭が真っ白になる。

しかし、ナルトは言った。

 

「何言ってるんだ? お前の話が正しければ、約束を破ったのは雲だろ? そんな雲が出した条件を聞く必要がどこにあるんだ。それに、そんな約束を破る国とまた約束をして、それを破られない保証がどこにあるんだ?」

「そ……それは……」

「お前の父ちゃんを見殺しにした奴らが、そんな不確定な未来にすがり、たった一人の仲間のために立ち上がることすらしなかった……ただの腰抜けだっただけだろ!」

「ぐ……」

 

ナルトの滅茶苦茶な言い分に、反論ようとしたネジ。

今のナルトの発言は、本人にその意図があったかは兎も角。

木の葉の忍は腰抜けだと。

そう言ったのだ。

木の葉の忍が大勢いる。

火影がいるこの場で。

そして、ネジは木の葉の忍。

当然ナルトの発言に、断固拒絶を示さなければいけない立場であった。

しかし……

 

「…………」

 

なぜかその言葉が見つからなかった。

何も……言えなかった。

いや……

違う。

認めたくはないがネジは心のどこかで、ナルトの言ってることの方が正しいのではと思い始めていた……

そして、ナルトは力強く、試合中に不釣り合いな希望に満ちた声で、

 

「……オレは里を抜けてから、すぐにハクと出会って、再不斬、長十郎、水影の姉ちゃん、風雲姫の姉ちゃん、それから里のみんな……霧の里に行ったオレには仲間が一杯できた。

他人からすりゃー、当たり前のことかも知れねーけど、オレにとっては、すげー大切なものなんだ。

だから、オレの夢は、霧の里で、そんな本当に大切なものを守り通せる四代目火影のような忍になることだ!

……お前の父ちゃんのようにな」

 

――そう言い切った。

 

「………………」

 

目を見張るネジ。

いや、話を聞いていた殆んどの者が、いつの間にやらナルトの言葉に心を揺さぶられていた。

そして、次の瞬間、

 

「だけど、お前の父ちゃんを見捨てた奴らは一体何なんだ! 里を守るために、雲の国と条約? ふざけんじゃねーってばよ! たった一人の仲間すら大切にできない奴らが、里を、仲間を、そして未来を語るんじゃねェ!!」

 

と、手で空を切り、ナルトが叫んだ。

そんな少年の姿に、

ネジは狼狽する。

何故、コイツはここまで言えるのか?

一体、今まで何を見てきて、これから何処を目指そうとしているのか?

自分より年下の少年の言葉に、ネジは底知れない何かを感じ取り、思わず呟いていた。

 

「……うずまき……ナルト」

 

今や、チャクラすら練れないナルト。

だというのにネジは。

そんな相手から距離をあけるように、無意識のうちに後退りをしていた。

 

ナルトにとって、ネジの話は絶対に認めるわけにはいかないものだった……

それを認めるということは、ナルトの父親も運命に殺されたと認めるも同義。

うずまきナルトの夢を全て否定するということだ。

だからこそ、無我夢中で話した。

そのナルトの想いが少しは届いたのか、ネジの顔に動揺が見られる。

いや、三代目火影を含む、会場にいる殆んどの木の葉の忍が、悲痛な顔を浮かべていた……

 

しかし、

これは中忍試験予選。

弁論大会の場ではない。

勝負を決めるのは、力だった……

 

暫くの間。

放心状態になっていたネジが、再び目に力を入れ、

 

「……お前の言い分が正しいのか、やはりただの理想論なのか……オレにはわからない……だが、この試合の運命はすでに決まっている。チャクラの使えないお前では、オレには勝てない」

 

運命は決まっている。

という、ネジの言葉に。

やはりナルトは、こう言い返した。

 

「なら、その運命ってやつをオレが変えてやるよ!」

「……ふ……面白い。なら、その運命を変えるところを見せてもらおうか……」

 

ネジの言うことは正しい。

チャクラの練れないナルトでは、ネジに勝つのは不可能だ。

根性でどうにかなる話ではない。

 

(どうする……あれから数分ぐらい話してたけど、チャクラが全く感じられないってばよ……まるで雪の国で、変な装置をつけられた時と同じだ……ん? そうか……)

 

ナルトはそこで、一つだけ勝てる可能性を思いつき、目を閉じる。

精神を集中。

集中。

集中。

瞬間。

ナルトの意識は強い力に引っ張られるかのように、深く、深く、潜っていった……

 

目を開くと、

そこは以前から何度か来ていた赤い檻の前であった。

その檻の中には、禍々しいまでの巨大なチャクラを宿した九尾の妖狐が封印されていた。

その妖狐が 、

 

『よォ、ナルト!』

 

と、気軽に話しかけてきて……

もはや、封印なんかされてないんじゃないかと、疑わしくなるほど気軽に……

それにナルトは、

 

「えぇと、どーも、九尾……実はですね、少しお願いがありまして……」

 

滅茶苦茶下手に話しかける。

チャクラを封じられたナルトには、もはや九尾に頼る以外、術がなかった。

しかし、この九尾が今まで好意的に協力してくれたことは、ナルトの記憶の中では殆んどなかった……

なかった……

今までは。

 

『フン、お前の闘いはワシも見させてもらっていた。用件はわかっている……ったく、九尾の人柱力ともあろう者が情けない』

「えーと、それって、オレにチャクラを貸してくれるってことか?」

『ただの暇潰しだ……お前の闘いをもう少し見てみたくなったからな……』

 

と、意外なほどあっさり九尾から了承を得られた。

ナルトはそれに目を輝かせ、

 

「うははは〜! どうしたんだってばよ九尾。正直、断られるかなーって思ってたのに……」

『ただし、力を貸す前に、ワシはお前に一つ聞いておきたいことがある』

 

早速、チャクラを借りようとしていたナルトに、九尾から待ったがかかる。

ナルトは首を捻り、

 

「聞いておきたいこと? なんだってばよ?」

 

と、気軽に訊く。

そんなナルトの目を真剣に見ながら、九尾が言った。

 

『先ほどの闘いでも少し話に出ていたが……お前、お前の両親を殺したワシが憎くないのか?』

 

その言葉に、

静寂。

沈黙。

ナルトの雰囲気が一転。

先ほどの下手に出るような表情とは真逆に、九尾を睨みつけながら、

 

「九尾……ちょっと檻の隙間から顔を出してくれ……」

『アア? こうか?』

 

と、封印の隙間から顔を出す九尾。

殆んど、鼻しか出ていないが……

その鼻の前にナルトが立ち、拳を握り、

 

「くらいやがれぇええ!!」

 

思い切り殴り飛ばした。

自分の身体の数十倍はある。

各国の忍達が畏れ畏れる九尾を、

尾の一振りで山を吹き飛ばし、津波すら呼ぶ九尾を、

その気になれば、世界すら壊せる力を持つ九尾を、

ナルトが力一杯、殴った。

当然、九尾は憤怒を撒き散らす。

 

『ナルトォオ! テメー! 何しやがるゥ!! 食い殺されてぇーのかァ!』

「……これで」

『アア? 返答次第じゃ、テメー、マジで……』

「これで、お前とオレとの間に恨みっこはなしだ!」

『あ?』

「母ちゃんは、面の男にお前を身体から抜かれた時点で命を懸けてた……父ちゃんはお前を封印すると決めた時点で命を懸けてた……これ以上お前に文句言っちまったら、父ちゃんと母ちゃんを侮辱することになるからな……だから、九尾……オレはお前を恨んだりしないってばよ!」

 

そう、頭の後ろに手を組み、にっこり笑いながら、ナルトが言った。

何の表裏もない表情で……

いや……少し寂しそうではあるが、

それでも、ナルトは笑顔で言った。

その笑顔に、

その決意に、九尾も怒りの矛を納める。

そして、この少年なら信用できるのではないか?という考えが頭を過る。

九尾……いや、尾獣達は本来、世界に平和と安寧をもたらすために、この世界に姿を現した存在。

しかし、今まで九尾に接して来た人間達は……

 

「知の足らぬただの力でしかないお前に導きを与える者……それがうちはだ……従え」

 

「九尾……お前の力は強大過ぎる。悪いが野放しにはしておけん」

 

「アナタが力を振るえば、憎しみを引き寄せる。私の中でじっとしていて下さい……」

 

『………………』

 

人間達はその願いを踏みにじり、尾獣達の力にだけ目を向け、ただの殺戮兵器として扱った……いや、人の手に余る力を扱い切れる訳がなかった……

故に、その力を封印し、いざという時のための人柱、人柱力などという言葉を身勝手に造ったのだ。

そして戦争の度々に力を利用し、終戦した後は自分達が勝手に始めた戦争の憎しみを全て尾獣達に押しつけて来た。

そんな人間達に九尾をはじめとした殆んどの尾獣達は嫌気をさし、いつしかその心を閉ざしてしまった……

 

だが、

 

「オレ達が諦めるのを諦めろーー!!」

 

波の国で再不斬を守るためカカシを吹き飛ばし、

 

「オレが絶対守りきって、やるってばよ!!」

 

ガトーの手下を返り討ちにした時。

 

「終わらせねー! オレは絶対諦めねえ! あんたが諦めるっていうなら、オレは意地でも絶対諦めねー!」

 

雪の国ので風雲姫を背負いながら汽車に追われ、絶対絶命のピンチを切り抜けた時。

 

そして、

 

お前のことは水影の姉ちゃんから聞いた……

『…………』

確かに人間を憎む気持ちはオレにだってわかる!

けど、ここでオレ達が頑張れば、そんな奴らだって見返せるんじゃないのか?

『そんな事をしてなんになる? 大体、人間がワシ等を見る目を変えるとは到底思えないがな』

そりゃあ、そりゃあさ、そうかも知れねーけど、どっちかが歩み寄らなければ、ずっとこのままだってばよ!

 

お前はそれでいいのか九尾?

 

皆で力を合わせて、ドトウを倒した時……

 

九尾は今までのナルトの言動の一つ一つを思い出していた。

まだ、産まれてから十数年とはいえ、尾獣達と殆んど変わらない扱いを受け、人々に虐げられてきたにもかかわらず、前を突っ走るナルトの姿を九尾はずっと見てきた。

ナルトが赤ん坊の頃から、ずっと見てきた。

 

だからこそ、

 

この少年になら、もう一度、懸ける価値があるのでは……と

この少年になら、力を貸しても、

……いや、

言い訳は、もうやめよう。

九尾は悩んでなどいなかった。

この場にナルトを引っ張って来たのは、他ならぬ九尾である。

既に最初から答えは決まっていた……

 

だからこそ、

 

――告げる。

 

『…………ワシの名前は九尾ではない。九喇嘛だ……』

「へ? クラマ? お前の名前って、九尾じゃねーの?」

『それは人間どもが勝手につけた呼び名だ! ったく、力を貸して欲しいなら名前ぐらい覚えやがれ! 相変わらずアホだな、お前は……』

「あぁ? ンなの、アホとか関係ねーだろ! 名前があるなら、最初から言えってーの!」

 

と、文句をいうナルトに、

 

『ほれ』

 

九喇嘛が檻の隙間から拳を突き出す。

最初、何のことかわからなかったナルトだが、すぐに理解し、九喇嘛と拳を合わせる。

 

「……へへへ」

『……フン』

 

直後。

明かりが灯る。

瞬間。

二人の心の距離が0になり、

互いのチャクラが混ざり、交ざり合う。

 

九喇嘛はナルトと拳を合わせながら、四代目火影

……ミナトのことを思い出していた。

 

「九尾、ナルトのことをこれから少しだけ気にかけてあげてくれないかい?」

 

『…………ワシの力をコイツに貸すつもりはない』

 

(フン……あの時はああ言ったんだがな……もう少しだけ、コイツの進む道の先を見てみたくなった……四代目火影よ……ワシの負け……だな……)

 

――息子のこと、頼んだよ……

 

九喇嘛の耳にミナトの声が届いた気がした……

 

準備を終えたナルトが、檻の前に両腕を広げて立つ。

 

「さあ、暴れるってばよ! 九喇嘛!!」

 

『ケッ……!!』

 

相変わらず、檻は閉じたまま。

しかし、

二人を阻むものは、もう何もなかった。

 

12年の時を、

いや、何十年もの時を経て、

世界最強のチャクラを宿した九尾の妖狐が……

 

――今一度、その力を世に顕現させる。

 

 


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