霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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霧のオレンジ 九喇嘛の人柱力

ナルトが目を閉じてから、暫く待っていたネジだが、動く気配がないのを察して……

 

「試験官、オレはコイツを殺すつもりでやる! 止めるなら好きにしてくれ」

 

(ゴホ、えー、私としては止めたいのですが、どうしますかね……)

 

ネジの発言にハヤテが思案していた時。

 

「……へ……誰が、誰を殺すって?」

 

ナルトが目を開ける。

それを見たネジが薄く笑みを浮かべ、

 

「ふん、どうした? 運命を変えるところを見せてくれるんじゃなかったのか?」

「ああ、見せてやる! 正真正銘、オレのとっておきをな!」

 

印を結びながら、ナルトがチャクラを捻り出そうとする。

 

「ハァアァアァアア」

 

(この試合、絶対に負けられねぇ!)

 

「無駄だ。お前の点穴はすでに閉じてある」

 

ただただ事実を告げるネジ。

が、

その声には耳を傾けず、ナルトは別の声に心を向けていた。

 

クシナとミナト。

二人の最期の言葉を――

 

「ナルト…これからつらい事…苦しい事も……いっぱいある……自分を…ちゃんと持って、そして夢を持って、そして夢を叶えようとする自信を持って……ごめん……ミナト……私ばっかり……」

 

「いいんだ……ナルト……父さんの言葉は……口うるさい母さんと……同じかな……」

 

ミナトとクシナ。

ナルトの両親は、ナルトが産まれた日に死んでしまった。

でも……

沢山の大切なものを遺してくれていた。

だからこそ、ナルトは想った。

 

(自分の父ちゃんをバカにするような生き方をしているコイツにだけは、死んでも負けられねェ!)

 

「ハァアアア!」

 

必死にチャクラを練るナルト。

だが、そのチャクラが表に現れる様子はなく……

そんなナルトに首を振り、憫笑しながら、それでもどこか目の奥に期待を宿し、ネジが尋ねた。

 

「一ついいか? どうしてお前はそこまで……自分の運命に抗おうとする?」

 

ナルトは、まっすぐな瞳に、ネジを映し……

――告げた。

 

「……オレが…四代目火影の火の意志を受け継ぐ――忍だからだ!!」

「!?」

 

想いを込め、枷を解き放つ。

 

「っあらぁあああ!! ハァアアアァアア!!」

 

途端。

地面が、

世界が揺れ動く。

ナルトの身体を中心に風が舞い、

その風が突風を巻き起こす……

少しずつ、少しずつ

だが、確実に明確になりながら、ナルトから朱い……

否。

今までは、ただ赤黒かったチャクラにナルトのチャクラが交ざり、オレンジ色とも言える朱のチャクラの奔流が溢れ出していた。

 

それを見たネジは、自身の常識では到底収まり切らない、得体の知れない相手に、息を呑み、辛うじて言葉を紡ぐ。

 

「ば、バカな! チャクラが漏れ出している……どういう事だ……お前、一体……」

 

この光景を上から見ていた忍達も、目を皿にして我が目を疑う。

上忍であるガイとカカシですら……

 

「そんな……バカな!」

「……ありえない……点穴を突かれているんだぞ……(まさか、九尾の封印が解けたのか!?)」

 

カカシはそう警戒しながら、再び額あてを上げ、写輪眼を露わにした。

 

反対側に立っていた我愛羅は腕を組み、

 

「…………!」

 

九喇嘛のチャクラに反応し、口を閉ざしながらも試合の行方を注視していた。

 

全ての者が唾を飲み込み、手すりにかじりつく勢いで、この光景を見守っていた……

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

次第に朱いチャクラが九本の尾を形取り、周囲のコンクリートの床や壁を削りながら、ゆらゆらと揺れ……

意志が形となり、ナルトの後ろへと集まり始める。

一瞬。

刹那。

幻とも思える時間。

そんな一瞬の間、白眼を見開いていたネジは……

いや、ネジのように特殊な瞳など必要がないほど、濃密なチャクラの集まりが……その姿を顕現させる。

オレンジ色の体毛に、九本の尻尾をたなびかせ、ナルトの後ろに立つ大きな狐……

 

――九喇嘛の姿が全員の目に映った。

 

「「「「「!!??」」」」」

 

三代目火影は、記憶よりサイズは小さいものの、その見覚えのある姿に、腰を浮かせる。

 

(あれは九尾! まさかナルトの奴……いつの間に九尾のチャクラを!?)

 

会場にいた全ての者が声を失う。

脈動が常識を切り裂く。

亀裂が広がり……

オレンジのチャクラが、まるでナルトを守るかのように螺旋を描き、渦巻いていく……

九喇嘛がナルトの傷をみるみると治癒していく……

ありえない光景だった。

異常な光景であった。

だが、こんなもので終わりではない。

直後。

氾濫。

メラメラメラ。

燃え盛る火の如く。

轟々と烈火の如く。

ナルトの身体から、際限などないと言わんばかりに、淀みないチャクラの激流が噴出する。

今までのように目を朱く染まることも、縦に割けることもなく、ナルトはただ悠然と自然な形で九喇嘛の力をその身に纏っていた。

 

(すげぇ力だ……サスケの時より、ドトウの時よりも……感じる!)

 

指先から、足の爪先までチャクラが巡り、行き渡る。

力がどんどん漲ってくる。

自身の身体が、チャクラそのものになったかと錯覚を覚えるほどに……

 

『フン、当たり前だ。今までは感情の高ぶりで無理矢理引き出していたんだ……封印されている今はまだ、その程度のチャクラしか送れないが、同じチャクラでも自分の意思で操るのと、そうでないのとでは、天地の差がある……さて……』

 

謙遜もいいところであった。

その程度のチャクラで、すでに下忍、中忍はおろか、上忍すら、チャクラだけでいえば軽く凌駕しているのだから……

と――

準備が整ったのを見計らい、ナルトと九喇嘛が同時に。

 

『さあ、行くぞ! 九喇嘛!!』

『ケッ……! 日向の小僧に目にものを見せてやるか!』

 

一心同体のツーマンセルが動き出す。

ナルトは対戦相手に一言、

 

「行くぞ……ネジ!」

「……く……」

 

次の瞬間。

――オレンジの閃光

地面を爆ぜ、

加速。

 

「――ォォオラァ!!」

 

ナルトが叫んだ、

次の瞬間。

 

「ぐはっ!」

 

ネジは殴り飛ばされていた。

白眼で警戒していたネジだが、その洞察力を持ってしても、殆んど目に映らないスピード。

目で反応できないのだ……体などなおさらであった……

 

「どういう事だ……スピードの次元が今までと桁違いだぞ……殆んど見えなかった……」

 

殴られた顔を拭い、立ち上がるネジ。

そのネジに挑むかのように、あえて彼の得意な近接戦闘に踏み込むナルト。

それに気づいたネジが、

 

「オレをなめるなぁ!」

 

腰を低く落とし、彼の領域を展開する。

 

「柔拳法・八卦六十四掌」

 

指先をチャクラの針にして、技を撃つ。

 

「八卦二掌!」

 

一針、一針が忍の急所を突く、一撃。

だというのに、その攻撃は意味を成さない。

バシ! バシ!

点穴を突かれないようにと、指先に気を払いながら、ナルトが余裕を持ってネジの腕を捌き落としたから。

予想外の対処に驚くも、ネジは止まることなく、

 

「くっ、四掌」

「八掌!」

「十六掌! 三十二掌!」

 

バシ! バシ! バシ! バシ! バシ!

何回。

何十回。

目にも止まらぬ体術の応酬。

息もつかせぬ連撃。

豪雨が降り注ぐ。

が、届かない。

ネジの奥義を全て叩き落とし、無力化していくナルト。

それはまるで、ハクとヒナタの試合の再現であった。

スピード、技術、その全てが、一回りは確実に上回った闘いであったが……

 

「六十四掌!!」

 

凄まじい猛攻をかけるネジ。

篠突く雨が降り注ぐ。

その怒濤の攻撃を、

バシ! バシ! バシ! バシ! ガシッ!

途中でナルトがネジの腕を掴み、捕らえた。

 

「こ、こんな……バカな……く……!」

 

手を封じられ、足技をかけようとするネジ。

その動きを察知したナルトが、相手の足を踏みつけ。

そのまま体の上体を反らし……気合い一徹。

頭突きをかました。

 

「おらァ!」

「な!? 痛っ……」

 

カラン、カラン。

音を立て、霧と木の葉、二つの額あてが地面に転がる。

互いに、額あてをしていたところから血を流すナルトとネジ。

 

「…………」

「…………」

 

よろめきながら、無言で睨み合う二人。

数秒程、視線を交差させる。

このままではラチが明かない。

ネジはのけ反りながら後ろへ跳び、ホルスターからクナイを取り出した。

接近戦一本では分が悪いと、判断したのだ。

武具にチャクラを込め、狙いを定め、放つ。

 

「セ――イッ!」

 

迫り来る一本のクナイ。

軌道を見切り、同じくクナイで迎え撃とうとしたナルトだったが……

それよりも早く、

ビューン!! キンッ!

旋風。

轟音を発しながら、ナルトの意思とは関係なく、九喇嘛のチャクラが尻尾の形を形取り、クナイを弾き飛ばした。

ただのチャクラが物理的に攻撃を防ぎ、あまつさえ自らの意志で動く……

もはやチャクラという概念そのものをねじ曲げる事象を目の当たりに、思わず呻くネジ。

 

「なんて出鱈目なチャクラだ……具現化までするのか……」

 

二人の間に一瞬の間ができた。

その時に九喇嘛が、心の内でナルトに言う。

 

『ナルト……勝負に熱くなるのはいいが、ワシのチャクラはお前の身体にはまだ馴染めないはずだ……時間は無制限ではない……そろそろケリをつけろ。まあ、お前に無理ならワシが倒してやってもいいが?』

『ダメダメ! ネジは、アイツはオレが倒さなきゃ意味ないってばよ!』

『フン……ならさっさと殺れ!』

『言われなくてもそのつもりだ!』

 

ナルトは十字に印を結び、

 

「わりーな、ネジ。そろそろケリ……つけてやる! 多重影分身の術!!」

 

直後。

煙が会場全体を包み込み、その中から、

 

「「「さあ、行くぞォ!!」」」

 

地面だけには収まり切らず、観戦者の壁や天井にまで張りつくナルトの分身達が現れた。

その数、百は越える。

圧倒的である。

と――

白眼を使い、その全てのナルト達に警戒するネジに、

 

「「「たった今から、秘伝体術奥義!」」」

 

半分のナルトが、背負うように半分のナルトの襟を掴み、

 

「「「うずまきナルト! 分身体当たり!!」」」

 

一斉に投げた。

さながら人間砲弾である。

そのナルトの攻撃に対し、ネジは全身をコマのように円運動させて、

 

「回天!」

 

弾き返した。

ボン、ボンと音を立て、幾つかの分身が消える。

だが、

 

「数が多すぎる……回天だけでは防ぎ切れない……なら……」

 

防御だけでは無理だと察したネジが、腰を沈め、

次々と迫り来るナルトを自分の領域に捉える。

 

「柔拳法・八卦六十四掌!!」

 

ナルトの大群の動きを白眼で全て看破し、

 

「八卦二掌 四掌 八掌 十六掌 三十二掌!!」

 

ボン! ボン! ボン! ボン!

分身ナルトを一体、一体、確実に消していき、

 

「六十四掌!!」

 

ボン! ボン! ボン! ボン……

 

静寂。

戦闘音がぴたりと止まり、辺りが静まり返る。

ネジは攻めてきた分身ナルト達を全て、数秒間の間に撃退し、消滅させていた。

 

「すー、はぁー……」

 

息を整えるネジ。

が――

ナルトには、とっておきが残っていた。

風雲。

後ろから押し寄せる強烈な波動に、ネジが振り向く。

その顔には冷や汗が絶えることなく伝っていた……

分身が消えた事により発生した白い煙が、竜巻を巻き上げ、その小さな台風の中心に灯る朱い一等星が一つ。

疾風が煙を消し飛ばす。

はっきりとした視界に映ったのは、手を重ね合わせる二人のナルトの姿だった。

その重ね合わせた手の中心には、渦巻くチャクラの球が輝かんばかりの光を放っている。

雪の国でハクと作りあげた方法を参考に、ナルトが導き出した答え。

――螺旋丸を完全に会得した瞬間であった。

 

二人のナルトがネジをまっすぐ見据え、

 

「父ちゃんってのはな、口下手でも、背中で大事なもんを語ってんだ!」

「息子ってのはな、そんな父ちゃんの背中を見て、まっすぐ歩いて行くんだ!」

 

分身ナルトが本体の左手を手に取り、その体をブンブンと振り回し、

 

「自分の父ちゃんに、命を懸けてまで大切なもんを託されたお前が、いつまでも不幸そうな面して――生きてんじゃねェ!!」

 

有らん限りの力でネジに向かって投げ飛ばした。

その加速を受け、ナルトは乱回転する朱いチャクラの塊を右手に宿しながら、前方へと駆け出す。

疾走するオレンジの影を、

迫り来るナルトを見ながら、ネジは一瞬だけ遠い目をして……

 

――ネジ……お前は生きろ……お前は一族の誰よりも日向の才に愛された男だ……

 

自分の父親。

ヒザシのことを思い出していた……

 

(ナルト……お前の言う通りだ……この白眼を持ってしても未来なんて見えやしない……そんな事はじめからわかっていた……だというのにオレは……今まで…………ふ……これは……勝てないな……)

 

しかし、ただで負ける訳にはいかない。

 

自分は日向の才に愛された男なのだから。

 

ネジが、もはや後先のことを考えず、ありったけのチャクラを全身のチャクラ穴から放出し、自分の全てを懸けてナルトを迎え撃つ。

 

「うずまきナルトォォ!!」

「日向ネジィィ!!」

 

瞬間。

激突。

 

「回天!!」「螺旋丸!!」

「「ハァアァアア!!!!」」

 

轟音。

会場を吹き飛ばさんばかりの衝撃が発生する。

拮抗する二人。

意地と意地の衝突。

しかしその均衡は、すぐに終わりを迎える。

刹那の間であった。

ナルトとネジでは……

いや、ナルトと九喇嘛の二人に、今のネジでは到底勝てる見込みがなかった……

 

「ハァアアアア!!」

 

回天を突き破り、ナルトの手に託された螺旋丸がネジの懐に入り……入りそうになったところで……

 

「「そこまでだ!」」

「「!?」」

 

カカシがナルトの腕を掴み、ガイが対戦者の二人の間に立っていた。

その写輪眼に様々な感情を込めながら、カカシは、動きを止めたナルトの腕を放し、

 

「ナルト……もう十分だ……勝負はついた……」

 

そう、言った。

それを聞いたナルトは、

 

「……カカシ…先生……」

 

螺旋丸を消し、腕を引く。

その後、ガイが汗を大量に流しているネジに顔を向け、

 

「ネジ……お前の負けだ……」

 

短く、はっきりと言った。

チャクラを使い果たしたネジは地面に膝をつく。

そんな部下を労いながら、

 

(まさかネジが負けるとは……正直、予想だにしていなかった……何て子だ……)

 

悔しさやら、これからのネジの成長が楽しみになるやら、色々な感情を渦巻かせ、ガイがナルトに顔を向けた時。

そこにハヤテが近づいて来て、勝者を宣言した。

 

「第十回戦……勝者、うずまきナルト」

 

ナルトは落とした額あてを拾いあげた後、霧隠れ第一班にピースサインを向けて。

 

「やったー! 勝ったってばよ!」

 

そんな風に喜びの声を上げるナルトを、カカシは親友の形見である眼に映しながら、

 

(見えるか……オビト……コイツを見ているとオレは昔のお前を思い出すよ……ミナト先生に似ていると思っていたんだが、性格はクシナさんやお前そっくりだ……)

 

独り静かに、天を仰いだ。

 

まさかのナルトの勝利に、目を見開き、丸くさせる下忍達。

 

いの、シカマル、チョウジ。

 

「勝った……ナルトが……」

「オイオイ、マジかよ……つーか、どんだけ強くなってんだよアイツ……」

「ねえ、これ本選でナルトにあたったらどうなるの僕達……」

 

サクラ、サイ。

 

「しゃんなろー! いい感じ!」

「いや……彼、一応敵だよ……何で応援してるの?」

 

ヒナタ、シノ。

 

「ナルトくん……おめでとう……」

「……素晴らしい試合だった」

 

リー、テンテン。

 

「ネジが……負けた……」

「……ネジ」

 

三代目火影。

 

「まさか、己を失わずに、ここまで九尾の力を操れるとは……夢を見ているようじゃ……」

 

イルカは目から涙を流しながら、

 

「ナルトが……あのネジに勝つなんて……何て奴だ……ははは……おめでとう、ナルト……本当に……おめでとう」

 

周囲の称賛を受け、ステップするように階段を駆け上がるナルト。

その彼を迎えたのは……

 

「ナルトくん、おめでとうございます!」

「ナ、ナルトさん……う う う う、ぼ、僕、もう途中から涙で前が……」

「ま、ギリギリ及第点だな……」

 

ハク、長十郎、再不斬の三人であった。

その仲間にナルトは笑顔で、

 

「へへへ♪ 楽勝だったってばよ!」

 

と応えるが、それに担当上忍の再不斬は腕を組ながら、否定する。

 

「どこがだ! 途中、結構不味かっただろうが!」

「う……いや〜でも、最後は勝ったわけだし……」

「結果だけを見て、結論を語るなと修行の時にも教えただろうが! テメーは試験の後、反省会だな……」

「そ、そんな〜、何でオレだけ……」

 

落ち込むナルトを、ハクと長十郎は微笑みで祝福するのであった……

 

 


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