ナルトとネジの激闘の後。
十分ほど会場整備に時間を使い、再び試験が再開された。
次に電光掲示板に表示された二人は……
ガアラvsドス・キヌタ
「…………」
無言で歩き出す我愛羅。
うずうずと舌を舐め回しながら……
その顔を見たカンクロウとテマリは、恐怖に身体を強張らせる。
「さっきの闘いを見て、もう一人の我愛羅が完全に目覚めていやがる……ったく、今年の中忍試験は化け物だらけかよ」
「ヤ、ヤバい……こんな我愛羅は久し振りに見る」
我愛羅とドスが向き合う。
対戦者が揃ったことにより、ハヤテが告げた。
「では、第十一回戦……始めて下さい」
先手必勝とばかりに、ドスがスピーカーを出し、
「悪いけど、僕は試合を長引かせるつもりはない。遊ばずにさっさと……!?」
「クク……」
ズズズズズ!
試合開始と同時に、ドスの体が我愛羅の操る砂に捕まり、
「砂縛柩」
その砂はすぐにドスの体を覆い、宙へと持ち上げ、
「砂漠送葬!!」
その命を握り潰した。
瞬殺。
人間一人分の血の雨が床を汚し、場の空気を凍らせる。
ナルトとネジの試合とは別の意味で、会場にいた殆んどの忍達が言葉を飲み込んだ。
「えー、これは確める必要というより、確めることすらできませんね……」
ドスを殺した後、来た道をスタスタと歩き出す我愛羅の背中に、ハヤテが手をかざし、
「第十一回戦……勝者、我愛羅」
勝者宣言をした。
戻ってきた我愛羅にビビりながら、カンクロウとテマリが道を譲る。
会場の雰囲気は一気に冷え切っていた。
この二人を除いて……
全身緑タイツに身を包んだ師弟。
「リー、ついにお前の出番だぞ!」
「はい、ガイ先生! 僕は見事にトリを飾ってみせます!」
残る試合はあと一つ。
もはや電光掲示板は必要なかったのだが、それでも一応という形で、対戦者の名前が表示される。
ロック・リーvsヤクシ・カブト
「主役は遅れて登場する者です!」
(サスケくんか、霧の誰かと闘かってみたかったのだけど……さすがに狙いは外れたか)
最後の二人が、試合の場に下り立つ。
リーとカブトは互いに向かい合い、
「お互い、悔いの残らない試合にしましょう!」
「ああ、よろしくお願いするよ」
ハヤテが準備が整ったのを確認し、
「では、第十二回戦……始めて下さい」
試合開始を宣言した。
すぐさまリーが一直線に駆け出す。
下忍にしてはなかなかのスピードだ。
洗練された流れるような動きで、
「木の葉旋風!」
上段後ろ回し蹴りから、下段回し蹴りを連続で放つ。
その攻撃を拙いながらもカブトが後ろに跳んで避ける。
カブトは、ふぅと一息入れ、
「凄く速いね。避けるので精一杯だったよ」
「今のを避けますか……相手にとって不足なしです!」
「では、僕からも行くよ?」
「望むところです!」
そこからは互いに忍術を使わない、体術一本の応酬が始まった。
それを上から見ていたサクラが、
「あの速いリーさんと体術で互角にやり合うなんて……どっちも凄いけど、どうして二人とも忍術を使わないの?」
その疑問に近くにいたガイが答える。
「リーの場合は使わないんじゃない……使えないんだ」
「え?」
「リーには殆んど、忍術・幻術の才能がない……」
「う、ウソ!?」
「俺が初めて会った頃は全くのノーセンス。何の才能もなかった」
「そ、そんな……信じられない」
ガイから聞くリーの話に、サクラが驚きながらも試合は動き始める。
「ハッ!セイッ!」
リーがカブト目掛けて正拳突きを繰り出す。
それを見たカブトが、この試合で初めて印を結び、
「土遁・地動核」
突如、不意討ちの形でリーの立っていた地面が盛り上がり、体勢が崩される。
そこにカブトが接近し、
「隙だらけだよ!」
リーの腹に蹴りを入れた。
「ぐっ……」
地面を転がりながらリーは体勢を立て直し、そのままバク転の要領でくるくると回り、カブトから距離をあける。
少しずつ戦局がカブトの方に傾き始めた。
サクラは心配そうに手を握り締め、
「リーさんが押され始めてる……忍術が使えないんじゃ、このままだと……」
「ハハハ、そんな心配は必要ないさ」
ガイがサクラの不安を笑い飛ばし、
「確かに忍術も幻術も使えない忍者なんて、そうはいない……だが、だからこそ勝てる!」
「え?」
「ん?」
横で聞いていたサクラとカカシが疑問をかかげる中、ガイはナイスガイポーズで、声を大にして叫んだ。
「リー! 外せー!!」
その声に、戦っていた二人が動きを止める。
リーがガイに顔を向け、
「で、ですが、ガイ先生。それは、沢山の大切な人を守る時じゃないとダメだって……」
「構わーん!! オレが許す!!」
「……あは……ははは……」
ガイの言葉にリーは笑いながら腰を下ろし、足元の布を外す。
そこには「根性」とびっしり書かれた重りが着けられていた。
それは中忍試験が始まってから、いや、それよりもずっと前からリーが着けていた物であった。
その重りの留め具を外し、足から抜き取っていく……
様子を見ていた観戦者は、
「重りか?」
「何てベタな……」
と、口々に言い、リーとガイの修行を甘く見ていた。
忍の世界で重りを着けた修行は決して珍しいものではない。
しかし、
「よーし! これで楽に動けるぞー!!」
重りを両手に、元気よく立ち上がるリー。
そして、それを手放し……
放された重りは地面にぐんぐんと落下していき……
ドゴ! ドゴ! ズドーン!!
凄まじい音を立てて、コンクリートの床を粉砕した。
目を丸くする忍達。
どう考えてもやり過ぎ……というより、どうして今まで動けていたのか不思議でならない重りの重さであった。
呆然となる場の空気。
それを振り払うかのように、ガイが指を二本立て、リーに降り下ろし、
「行けー!! リー!!」
「オーッス!!」
次の瞬間。
リーの体が消えた。
と同時に。
「ハッ!」
カブトの後ろから正拳を繰り出していた。
その攻撃を何とか捌きながらカブトは、
「くっ、速い!」
今までわざとリーの速度に合わせていた動きをやめ、相手の評価を改める。
(本当に速い! まったく、僕は体術は苦手何ですがね……だけど嬉しい計算違いだ。少しは遊べそうかな)
不敵な笑みを浮かべるカブト。
二人の闘いは一気に加速する。
縦横無尽に駆け回りながら、下忍にしては破格の速度で拳や蹴りを放つリー。
それを動きはリーより少し遅いながらも、予測と経験則で補い、何とか防御するカブト。
先ほどまでカブトが優勢だった闘いは五分五分、いや、少しばかりリーの方に天秤が傾き始めていた。
周囲の者達が試合にどんどん目を奪われていく。
そんな雰囲気を感じ取りながら、リーの優勢にガイは腕を組み、自慢気に語る。
「忍術や幻術が使えない。だからこそ、体術のために時間を費やし、体術のために努力し、全てを体術だけに注いできた。たとえ他の術は出来ぬとも……アイツは誰にも負けない…体術のスペシャリストだ!」
びゅんびゅんと風切る音を立て、リーがカブトの周りを高速旋回し、そのまま勢いをつけて、
「ダイナミック・エントリー!!」
「ぐっ」
リーが放った飛び蹴りをカブトが両腕でガードした。
しかし、ガードをしてもなお、勢いを殺し切れず、カブトは吹き飛ばされる。
床に転がるカブトを見て、
「ふっ」
口元を緩ませ、リーが笑みを浮かべる。
それを上から見ていたカブトの担当上忍、大蛇丸は薄く笑みをもらし、
「ふふ、カブトの奴。今のは演技ではなく、本当にくらったわね……見せ物としては少し面白くなってきたじゃない」
余裕の表情で部下のピンチを楽しんでいた。
直後。
大蛇丸の対岸にいたガイが歯をキラリと輝かせ、激を飛ばす。
「青春は爆発だぁー!!」
「オ――ッス!!」
その激励にリーは目を燃やし、速度を上げる。
正面から突っ込むリーに、カブトが苛立ちを露に印を結び、
「調子に乗るな!」
術を繰り出そうとした。
だが、
直前で相手の姿を見失い、
「こっちですよ」
声のした方へ振り向くと同時に、
「がはっ!」
リーに殴り飛ばされた。
普段のカブトなら避けられない攻撃ではなかったが、頭に血を上らせた結果である。
リーが片手の甲を見せる構えで、
「手応えありです!」
しかし油断はしない。
手を抜くことは、自分にも対戦相手にも失礼というもの。
だから、勝負はここから。
と、意気込みを入れるリーに対し、起き上がったカブトが取った行動は……
信じられないものであった。
「あはは、まいった。ギブアップするよ」
少し汚れた服をパンパンと叩きながら、朗らかな顔でカブトが言った。
ハヤテが確認を取る。
「えー、薬師カブト。棄権で構いませんね?」
「はい」
「……わかりました」
ハヤテが頷き、リーに顔を向け、手を掲げた。
「第十二回戦……勝者、ロック・リー」
愛すべき部下の勝利宣言を聞き、ガイが拳を握り締める。
「よし!」
どこか釈然としないリーであったが、喜びの声を上げる師の顔を見た途端、そんなものは吹き飛んだ。
熱い涙を流しながら、リーは上を見上げ、
「ガイ先生! 僕は、僕はついにやりました!」
「さすがオレの教え子だ! よくやったぞ、リーよ!」
「ありがとうございます! ガイ先生!!」
青春を噛み締める二人であった。
***
これにて予選は終了です。
そして、次回からの投稿なのですが、取りあえずキリのいいところまで、二月の頭から一日一話のペースで上げていくことにしました。
そこからは、また期間が空いてしまう可能性が高いと思いますので、ご了承下さいm(ー ー)m