霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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飛雷神 伝承開始

霧と木の葉。

現在この二つの里は、かなり微妙な立ち位置となっている。

そんな里の忍が二人、顔を会わせればどうなるか……

 

「「がはははははは!」」

 

霧隠れ第一班の宿。

再不斬と自来也は酒を酌み交わしていた。

 

「意外と話がわかるじゃねーか、さすが伝説の忍という訳か!」

「そちらこそ、忍刀七人衆と言やぁ、血生臭いウワサばかり聞いとったが、話せば案外人間味のある奴じゃねーの」

「「……………」」

「「がはははははは!」」

 

完全にできあがっていた……

ここは宿。

他の客もいて、迷惑この上ない二人。

その上、さらに注文の声を上げる。

 

「ハク〜、酒追加しろ〜!」

「ワシはさっきの鶏のからあげを追加して欲しいのォ……」

 

それに台所にいたハクは、

 

「お酒と鶏のからあげですね。少しお待ち下さい」

 

と、丁寧に対応する。

部屋は食べ物で溢れ返り、アルコール独特のつーんとした臭いが充満していた。

ナルトと長十郎は、この惨状を見て、

 

「オレってば、大人になっても酒は飲まねーって、今決めた……」

「僕も同じくです……」

 

大人は子供に戻り、子供は大人になる。

夜中までこのどんちゃん騒ぎは続いたのであった……

 

 

そして、次の日の朝。

 

「じゃあの、ナルトは暫くワシが預かる。本選の前日には、ここに連れてくるからのォ」

 

自来也が再不斬達に挨拶をする。

昨日のうちに、一月だけナルトの修行を自来也が見るということで話がまとまっていた。

本来、他里の忍に人柱力を預けるなど前代未聞の話だったのだが、自来也はミナトの師匠。

さらに、ナルト自身の強い希望もあって、期間限定ではあるが、いくつかの条件付きで自来也に預けることとなった。

再不斬、ハク、長十郎の三人は玄関の前に立ち、それぞれナルトを送り出す。

 

「伝説の三忍に鍛えてもらえるのは、お前にとっても貴重な経験になるはずだ……行ってこい!」

「いってらっしゃい、ナルトくん」

「本選、楽しみにしています」

 

それにナルトと自来也の二人は、

 

「行ってくるってばよ!」

「よぉーしぃ、出ぱーつ!」

 

元気よく歩き出した。

 

 

数分後。

木の葉のはずれにある自然に囲まれた川。

そこで、自来也はぴたりと足を止めた。

突然歩みを止めた背中に、ん? と、首を傾げるナルト。

小首を傾げるナルトに、自来也は振り向き、

 

「では、とりあえず……ナルト」

 

言うや否や、印を結び、術を発動する。

 

「口寄せの術!」

 

ボーンと煙とともに、昨日と同じガマが現れた。

そのガマが舌から巻物をべろーとナルトに差し出し……

 

「ん? 自来也先生?」

「それはワシが代々引き継ぐ、ガマ達の口寄せ契約書だ」

「おお〜! 待ってました!」

「そこに自分の血で名前を書き、最後に片手の指、全ての指紋を血で押せ!」

 

ミナトの名前が記されてある横に、ナルトは自分の名前を書き加えた。

 

「よし! これでいいんだな!」

「印は亥 戌 酉 申 未だ……試しにやってみろ! ガマの口寄せはチャクラを膨大に使うからのォ……さて、何が出るかな?」

 

自来也の説明を聞き、ナルトは心の中で九喇嘛に呼びかける。

 

『たすけて〜 九喇嘛〜』

『ケッ! そんな蛙が役に立つのか、ナルト』

『いやー、大きい奴をドーンって、かっこいいじゃねーか! それともお前がドーンって出てきてくれるのか?』

『……ワシが出れば、お前が死ぬぞ?』

『無理、無理、こんな冗談で死ねるか!』

『……ま、蛙でもいないよりはマシか』

 

会話の後、ナルトの身体がオレンジ色のチャクラに包まれる。

それを見た自来也は、にわかに信じがたい光景に目を細めた。

 

(やはりか……昨日、ナルト本人は誤魔化そうとしておったが、こいつ九尾のチャクラをコントロールしとる……ミナトの選択は正しかったという訳か……)

 

「亥 戌 酉 申 未……口寄せの術!!」

 

ド――ン!!

 

一際大きな煙と一緒に現れたのは……

50メートルはあるだろうか?

ドスを腰に差した、とてつもなく大きな赤いガマであった。

そのガマの上で、ナルトはぴょんぴょんと跳ね、喜びの声を上げる。

 

「よっしゃああ!! 口寄せの術、成功! ん? お前ってば、たしか……ガマブンタ?」

 

ガマブン太は自身の頭の上から降ってきた声をギロリと一瞥し、

 

「あ? 誰じゃワリャ! ワシの頭の上で何騒いどんじゃボケ!!……オイ! 自来也、コイツ誰じゃ」

 

視線を自来也の方へと移す。

それに自来也は困り顔で応えた。

 

「……いやぁ〜のォ……さすがのワシも、いきなりお前が出てくるとは思ってもみんかったのォ……ガマブン太」

「なんなら? お前が喚んだんじゃないんかい?」

 

自来也に向かって話かけていたガマブン太の頭を、ナルトがバシバシと叩いて、

 

「ガマブン太を口寄せしたのは、オレだってばよ!」

「あ? オメーが?……ガハハハ、お前みたいなちんちくりんに、ワシが口寄せできるはずがなかろーが!」

 

自身を笑い飛ばすガマブン太の頭上で、ナルトは地団駄を踏み、ビシッとポーズを決める。

 

「誰がちんちくりんだ! オレってば、いずれ父ちゃんを越えるスーパー忍者! 名をうずまきナルトという……覚えとけ!」

 

そんなナルトの自己紹介に、ガマブン太はハッとした表情で、

 

「……! そうか……わりゃ、お前がナルトか……なるほどのォ…確かに四代目の面影があるのぅ……」

「あれ? もしかしてオレのこと知ってんのか?」

 

ガマブン太はナルトの疑問には答えず、もう一度自来也の方を向き、

 

「自来也ァ、ワシは先に戻っとるで! 頭に逆口寄せを頼めばええんじゃな」

「ああ、すまんのブン太」

「じゃーのォ、ナルト。ワシは先に帰っとるでェ」

 

ボン!!

 

言うや否や、ガマブン太は返事を聞く前に、元いた場所へと帰っていった。

ナルトは一人、ぽつーんとしており……

 

「あ、あれ? 消えたってばよ……」

「まさかブン太を喚ぶとはのォ。こりゃ一月あれば、本気で化けるやも知れんのォ……」

「じ、自来也先生?」

 

戸惑っているナルトに自来也は顎を擦り、うむと頷いて、

 

「これにて口寄せの契約は完了! 次のステップに移るぞ!」

「えっ!? まだ一回しか口寄せしてねーってばよ」

「その一回でブン太を喚んだのは誰だ? あとは実際にガマ達に会えば、おのずと口寄せは上達する……ナルト、お前にはもう一つ覚えねばならん術があったはずだがのォ」

「……それってば、もしかして」

 

ナルトの期待した眼差しに、自来也は見得切りのポーズを踏み、

 

「これより、“飛雷神の術”会得に向けた修行を始める!!」

「え……えー!? 自来也先生、飛雷神使えるのか?」

「無理だ! ワシには術式がない。だがしかし、できるのと教えるのとでは、まるで意味が違う。ミナトがいない今、あやつの師匠だったワシが、飛雷神を教えるのには一番適しておるのは間違いない……それともワシに教わるのは嫌か?」

「そ、そんなことないってばよ!」

 

そのナルトの返事に、自来也が頷いたところで……

突如。

 

ボン! ボン!

 

ナルトと自来也。

二人の姿は川辺から……

蝦蟇たちの暮らす秘境――

“妙木山”へと一瞬で移動し、煙とともに、その場から姿を消したのであった……

 

気づけば辺り一面緑だらけの、何やらメルヘンチックな場所へと体を飛ばされていて……

急に場所が変わり、戸惑うナルト。

 

「え!? いきなり変な場所に! どこだってばよ、ここ?」

 

妙木山。

そこは木の葉から普通に歩けば一月はかかり、さらには迷いの山とも言われ、秘密のルートを知らなければ、絶対に辿り着けない秘境。

ガマ達の楽園。

 

そんな場所へ、ナルトを誘ったのは……

 

「自来也ちゃん、この子がナルトちゃんで間違いないかいの?」

 

普通の蛙サイズ並のじいちゃんガマ。

フカサクであった。

自来也は、その蛙に一礼して、

 

「また世話になります、頭。ほれ、ナルト、お前も挨拶せんか」

「お、オッス! オレってば、うずまきナルト! えーと、じいちゃん蛙?」

「バッカもーん! この方はワシより偉い御方……二大仙蝦蟇のお一人、フカサク様だ! フカサク様か、頭と呼ばんか……」

 

が、途中でフカサクが遮り、

 

「ええんじゃ、自来也ちゃん」

 

と言って、ナルトを見る。

 

「ナルトちゃん、ワシのことは好きに呼んだらええ。そんで一月間、この妙木山で修行する話も…昨日、自来也ちゃんから聞いちょるけん、自由にしたらええけんの」

 

フカサクはナルトに拳を突き出し、

 

「自来也ちゃんが忙しい時は、ワシらガマ達が修行の相手をしちゃるけん……肩肘張らず、リラックスしんさい」

「オッス!(こんな小さいじいちゃん蛙に修行?)」

 

ナルトは心の中でそっと呟いた。

すると、それを察したのか横にいた自来也がこっそりと、

 

「ナルト、ここにいるガマ達は基本的に皆、お前より強い奴ばかりだのォ……」

「えっ?」

「ちなみに今目の前におられる頭は、ワシより凄いぞ。ワシも昔からボコボコにされて来たから……覚悟しとけよのォ……」

「…………」

 

衝撃の事実にナルトの頭がついていけていない中。

用が済んだとばかりに、フカサクはペタペタとその場を去っていった……

その後。

さっそく本題に入るべく、自来也がナルトの方を向き、

 

「ナルト。お前、瞬身の術と飛雷神の術。この二つの違いはわかっておるのか?」

 

自来也はまず、瞬身と飛雷神がまったく違う術であるということをナルトに教えるところからスタートする。

 

「えっ?……うーん、瞬身より速いのが飛雷神じゃねーの?」

「まあ……間違いではないが、ちと違うのォ……いいか……」

 

と言って、自来也は懐から、昨日買ったエロ本を取り出した。

 

「お前、エロ本を読んだりはしたことあるのか?」

「え? あるってばよ、お色気の術の修行に……」

「ほう! ええのー。お前さん、ミナトより優秀だのォ」

「え! 本当!?」

「ミナトはこういう話になると、すぐに『失礼します』と言いおってのォ……」

「……あの……それ、自分で言うのも悲しいんだけど、父ちゃんの方が人としては正しいんじゃ……」

「わかっとらんのぅ、ナルト。男という生き物はこういうのを見て、大人の階段を……話がズレとるのォ……」

 

自来也はそこで一度言葉を区切り、エロ本片手に話を戻す。

 

「いいか、ナルト……例えば、この10ページの女がお前のタイプだとしよう」

「おお〜!」

「で、瞬身の方は最初のページからパラパラとめくって、10ページでストップする」

 

実際に自来也がパラパラめくるのを見て、ナルトは頷く。

 

「これが瞬身……そして次は予め10ページに折り目をつけておく……」

 

ページに折り目をつけてから、自来也は一度本を閉じて。

バッと開いた。

目的のページがスムーズに現れる。

 

「そうすると前のページをめくる必要なく、目的のページを開けることができる。これが飛雷神の術だ!」

「なるほど〜」

「行き着くさきは同じ。が、しかし。そこへの辿り着き方、そしてスピードがまーったく違う! 忍の世界では1秒でさえ生死を分ける時がある。それを何秒、下手すれば何時間と省略できるのが飛雷神だ……少しは理解できたかのォ?」

「オッス!」

 

一見ふざけているように見えるかも知れない。

しかし、わりと根拠に則った説明であった。

瞬身の術は、もの凄く速く移動する術。

そして、飛雷神の術はマーキングの術式を施してある場所 (今回で言えば、マーキングは本の折り目)に、自身や物を時空間忍術で飛ばす術。

速く移動するという共通点から、同じ術だと誤認され易いが、本来はまったく違う忍術。

それを自来也はナルトに説明したのだ。

 

「これで理解されるのは、何か微妙に複雑だのォ……さて、次は飛雷神をマスターするのに必要な物の説明に入る」

 

ナルトは腕を組み、うんうんと頷く。

取りあえず頷いておく……みたいな顔で。

自来也はそれを見て、やっぱり理解しとらんのォ……と思いながら、次の説明に移った。

一本目の指を立て、

 

「飛雷神の会得には三つの物が必要になる。一つ目が時空間忍術の知識」

「時空間忍術……たしか、父ちゃんに聞いたような……」

「ほう……まあ、これはすでにお前は持っとる。口寄せの術は時空間忍術の一つだからの。ちなみに、お前を川から妙木山に飛ばした術も、逆口寄せといって、時空間忍術の一つだ」

「そうか……それでいつの間にかこんな所に」

 

自来也は二本目の指を立て、

 

「二つ目が契約。お前もさっきブン太を口寄せする前に契約書へ名前を書いただろ。飛雷神にも術式がある」

「それって……!」

「その通り! ナルト、お前はすでにミナトから、それを託されておる」

 

ナルトはホルスターからマーキングのクナイを取り出す。

そこにはミナトが去り際に書き換えた、ナルト用の術式が刻まれていた。

 

自来也は三本目の指を立て、

 

「三つ目、それは……“あきらめねェ ど根性”

これは最初の鈴取り演習で試させてもらった。

結果は……合格!」

「へへへ……」

「ナルト、これは飛雷神に関係なく覚えておけ」

 

自来也はそこで一度言葉を区切り、今までの雰囲気とは打って変わった真剣な顔で語る。

 

「忍者とは忍び耐える者。そして、忍の才能で一番大切なのは、持ってる術の数なんかじゃねェ…

大切なのは あきらめねェ ど根性だ!」

 

自来也の忍道。

ナルトはその言葉に頷き、

 

「心配ねーってばよ、自来也先生! オレの名前は『うずまきナルト』だ!」

 

 

「この物語は素晴らしいです」

 

ミナトはそう言いながら、片手に本を掲げた。

そのまま続けて、

 

「エピソードが先生の数々の伝説になぞられてあって、何か自伝小説っぽくて……」

 

なーんて、嬉しいことを言ってきて。

しかし、

しかしだ!

自来也は半目で頬をかき、

 

「だがの……まったく売れんかった。次回作は、お得意のエロ要素でも入れてみるかのォ」

 

と、弱気な発言をする。

だがミナトは、本をパラパラとめくりながら、

 

「この本の主人公……最後まで諦めなかったところが、格好よかった……先生らしいですね。この主人公」

 

などと、さらにベタ褒めしてきて。

普通ならお世辞と捉えるだろう。

けれど、ミナトは違う。

彼はウソを吐くような男では断じてない。

だからこそ自来也は手で後頭部をかき、照れながら、

 

「そ…そうかのォ……」

 

と、応えた。

愛弟子に、ここまで言われたのなら、この本も書いてよかった。

と――

そう思った。

が、

まだミナトの話は途中であり、さらに自来也が思いもよらなかったことを言ってきたのだ。

 

「で、オレ……思ったんです」

「ん?」

 

そう気軽に尋ねる自来也に、ミナトは笑顔で告げる。

 

「今度、生まれてくる子供も、こんな主人公みたいな忍になってくれたら、いいなって!」

 

ミナトはテーブルの上に、本を置き、

 

「だから、この小説の主人公の名前……頂いてもいいですか?」

 

そう言った。

そんなミナトの言葉に。

自来也は目を見開き、嬉しいのやら、なんやらと、感情がごちゃ混ぜになり、あたふたする。

なぜなら、

 

「お、おい! そんなんでいいのか? ラーメン食いながら適当に決めた名前だぞ……」

 

そうだったのだ。

小説の主人公の名前。

本来なら、ある意味一番大切な箇所。

……だというのに、自来也は飯を食いながら、適当に決めてしまったのだ。

焦るのも無理はない。

――しかし。

リビングの奥から、その話を聞いていた。

長い赤髪が自慢の美しい女性。

ミナトの自慢の妻であるクシナが出て来て、

 

「『ナルト』素敵な名前です」

 

大きくなってきたお腹に手をあて、擦りながら、そう言ってくれた。

自来也はそれに、

 

「クシナ……」

 

そんな母の声に、一瞬呆然となる。

次第に、少しずつ実感がわいてきて……

今度は嬉しい感情を隠さずに、自来也は笑みを浮かべて、

 

「ハハ……ったく……ってことは、ワシが名付け親かの? ワシなんかで本当にいいのか?」

 

やはり照れながら確認する。

そんな自来也に、クシナと手を添え合わせながらミナトが、

 

「先生だからこそです! 本当の忍の才能を持つ立派な忍者で、あなたほどの忍はいませんからね」

 

二人の夫婦が告げた。

この子の名前は『ナルト』だと……

 

 

それにナルトは、こう応える。

 

「自来也先生からすれば、ラーメン食いながら適当に決めた名前かも知んねーけど、オレは父ちゃんや母ちゃん、そして自来也先生から貰ったこの名前を大切にしてる! まっすぐ 自分の言葉は曲げねェ それがオレの忍道だ!」

「……ナルト……そうか……そうだったのォ」

 

自来也は少しの間、目を閉じ、天を仰いだ。

暫くしてから、視線を再びナルトに戻し、

 

「では、これより本格的な飛雷神会得に向けた修行に入る。ワシの修行は厳しいから覚悟しとけよのォ、ナルト!」

「オッス! 絶対マスターしてやるってばよ!」

 

こうして、沢山のガマ達に見守られながら、ナルトと自来也による妙木山での修行が開始されることとなった。

 

 


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