霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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予言の子

妙木山。

蝦蟇たちの暮らす秘境の里で、ナルトは自来也とフカサクとともに、日夜修行の日々を送っていた。

 

修行開始から三日目。

昼時。

ナルトと自来也は二大仙ガマの一人、フカサクと夫婦のばあちゃん蛙……シマから、

 

「さあ、たんと食いんさい! 腕によりをかけて作ったけんね」

「「………………」」

 

色鮮やかな虫料理をご馳走されていた。

食べたくない。

だが、食べなければ殺される。

師弟の二人はなんとか、その虫おにぎりを腹におさめて、修行を再開するのであった。

 

「「おろろろろろ〜」」

 

吐きながら……

ナルトは顔を真っ青に、口を拭いながら、

 

「う……今まで目に体がついていかない事はあったけど、目の方が追いつかないってばよ……」

 

同じく、自来也も口元を拭いながら、

 

「何を甘えとる。ワシが対応できるスピードしか出せてない時点で、まだまだだのォ」

「余裕ぶっこいてる癖に、自来也先生だって吐いてるじゃねーか!」

「これは、お前…あれだ、あれだのォ……」

「あんなもんばっか食べてたら、修行が完成する前に腹壊しちまう……これからは外で食べるってばよ!」

「ワシがお前一人逃がす訳がなかろーが。お残しは、たとえお天道様が許しても、この仙道仙人・自来也様が許さん! 母親が出した料理は不味くても残さず食べろ!」

「……あれ、料理…なのか? 虫がそのまま皿に乗ってたんだけど……っていうか、オレの母ちゃんはうずまきクシナだ! オレってば、蛙の腹から産まれた覚えはねーぞ!」

「バカモノォ! 人は皆、母なる海の子。他人の母ちゃんは、みんなの母ちゃんだ! 御出産おめでとうございまーす!」

「何もめでたくねーってばよ! 修行始める前に、食料ぐらい用意しとけぇ!」

「ふん……何故師匠のワシがイチイチそんな事せにゃいかん。第一、自分の体調管理もできんワシが、人様の食事など用意できるわけがねーのォ」

「開き直りやがったぞ、このバカ師匠…うっぷ…もう、無理……」

「「………………」」

「「……おろろろろ」」

 

修行はあんまり進展していなかった。

 

 

一方、木の葉の里では……

 

火影室。

三代目火影とアンコの二人が顔を合わせているところであった。

アンコは一礼して、話を切り出す。

 

「火影様」

 

それを三代目火影は一瞥し、

 

「アンコか……」

「すみません……私は……」

「大蛇丸のことなら気にするでない……今のあやつに太刀打ちできる忍など、この木の葉にはおらんよ……」

「…………」

「このワシとしたところで、おそらくな……」

 

三代目火影の言葉を聞き、アンコはそっと顔を上げる。

そこには歴代火影、四代目火影の写真が飾られていた。

 

「もし、四代目が生きておられたなら……」

「そう言うてやるな……あやつは既に、この里を救うて死んだのじゃ……それも、もう十三年も前の話じゃ」

 

三代目は椅子から立ち上がり、扉に向かって歩き出す。

 

「もうあやつはおらぬ……ワシらの力で何とかせねばな……」

「……はい」

「ワシは少し風にあたってくる……」

 

場所は移り、忍者アカデミー。

今は屋外での授業中。

突然の三代目火影の登場に、イルカは驚きながらも姿勢を正し、

 

「いいところへ来られました。どうぞこちらへ」

「うむ」

 

三代目火影が生徒達の前に出る。

イルカは子供達を見ながら、三代目火影の紹介を始めた。

 

「この方が、あの三番目にある顔岩の御本人。三代目火影様だ! 三代目は特に歴代の中でも最強と言われ、プロフェッサーと呼ばれた天才だったんだぞ!」

「コレ! イルカ。過去形にするでない」

「あは、す、すみません……」

 

そんな風に三代目火影と話すイルカに、子供達は次々と疑惑の声を上げる。

 

「えー! 本当にじいちゃん強いのかなぁ?」

「そうは見えねーなぁ!」

「まったくだコレ!」

 

言いたい放題の子供達。

イルカは腰に手をあて、

 

「コ、コラー! お前達、火影の名を継ぐということは、この里で一番強いってことなんだぞ!」

「ほほほ、頼もしい限りじゃわい」

 

キセルを吹かし、子供達の声に笑いながら三代目火影は、

 

「では、一つだけ大切な話をしようか……」

 

里の子供達を見回して、語り始めた。

 

「皆、人生はただ一度じゃ! 無理な道を選ぶこともない。好きに生き、好きに死んでも構わん……ただし……」

 

木の葉が舞う……

 

「大切な人を守ることだけは、どんな道を生きるとも忘れてはならん!」

 

力強く、そう言った。

その言葉に子供の一人が手を挙げ、

 

「大切な人って?」

「心から認めて、信じて、愛している者のことじゃ……キミには、そんな人がいるかの?」

 

三代目の言葉に子供達が、自分の大切な人を思い浮かべる。

 

「う、うん……お父ちゃんと、お母ちゃんと、お兄ちゃんも……」

「オレは友達かなぁ!」

「へへ……ボクも」

 

そして、

 

「じゃあ、火影様もそんな人がいんのー?」

 

そんな子供の質問に、三代目火影は迷わず答えた。

 

「ああ、もちろんおるとも……」

 

それに子供達は無邪気に質問を重ねる。

 

「へー! だれ、誰?」

 

――風が吹く。

笑顔で影は語る。

 

「そこにおるワシの孫、木ノ葉丸と……この里……全ての者達じゃ!」

 

(かつてお前が、そうだったようにのぉ……ミナト……)

 

 

妙木山。

修行開始から十日目。

食べる時と、寝る時以外は殆んど修行の時間に使っていたナルトが……

ついに……

 

「よっしゃー! いい感じになってきたってばよ!」

 

拳を握り締め、修行の成果を実感するナルト。

飛雷神会得まで、もう一歩というところまで成長を遂げていた。

そんな少年にフカサクは次の試練を与える。

 

「ナルトちゃん、どうやらコツを掴めてきたようじゃな」

「おう! 自分の思った場所へ行けるようになって来たってばよ!」

「なら、そろそろ次のステップに移るかいな!」

「次のステップ?」

 

首を捻る少年に、フカサクは今のナルトに足りない物を説明する。

 

「あとで自来也ちゃんも教えてくれるじゃろうがの、ナルトちゃんの飛雷神は、まだまだミナトちゃんと違って、戦闘では役に立たんのじゃ」

「ど、どういう意味だってばよ? だって……」

「今からそれを説明するから、よお聞きんさい」

 

ナルトは無言で、こくりと頷く。

 

「…………」

 

フカサクは厳かな声音で話し始めた。

 

「まず、飛雷神には明確な弱点があるんじゃ」

「弱点?」

「それはの、マーキングがない場所には飛べんということじゃ」

「ん?」

「つまり、飛雷神のことをよく知っとる相手からすれば、ナルトちゃんが飛ぼうとしておる場所がバレバレということじゃ」

「…………え?」

「さらに、ナルトちゃんはマーキングのクナイを一本しか持っとらん。ミナトちゃんと同じ戦術は使えんということじゃ」

「…………え――!! ここまで修行しておいて、それはないってばよ、じいちゃん仙人!」

 

両手で頭を抱え出すナルト。

そんなナルトに、フカサクは声音を柔らかくして、

 

「ま、安心せい、ナルトちゃん。飛雷神はそもそも火影クラスの術じゃ……初見で大概の敵は倒せるけんの。それに、来るとわかっとっても、瞬間移動に対応できる忍なんぞ、ほんの一握りじゃわい」

「いや〜ぁ……でも……」

「わかっとる……確かに強い敵との戦闘では、今はまだ使い物にならん」

「今はまだ?」

「そうじゃ……ナルトちゃんの使える術は飛雷神だけか?」

「ち、違うってばよ……」

「なら、次は飛雷神を戦闘で使えるように修行せねばいけん! ここからは体術・忍術・戦術を織り交ぜての修行になる……ここまで来て、臆することもなかろうが、一応聞いておく……どうする?」

 

試すような視線。

ナルトはパンッと手を叩き、

 

「どうするも、こうするもねーよ、じいちゃん仙人! まっすぐ、自分の言葉は曲げねぇ! オレは絶対に飛雷神をマスターするってばよ!」

「よお言うた! なら、さっそく始めるで。覚悟しんさい、ナルトちゃん!」

「オッス!!」

 

ここからナルトは使える全ての技を織り交ぜ、その上さらに必要な戦術と技を新たに身につけるという。

とてつもなくハードな、今までの何倍もの苦労に、苦労を重ねて……

本格的な飛雷神の使い方を体で覚えるという、ゴールの見えない修行を始めるのであった。

 

月日は流れ……

 

修行開始から二十五日目。

まだ、ミナトほど完璧ではないが、それでも十分戦闘で使えると、自来也やフカサクからお墨付きをもらうほどまで、ナルトは修業を完成させていた。

中忍試験まで残り日数も僅か。

それは、自来也との修業の終わりも意味しており……

だからこそ、

ナルトは自来也に聞いておきたかったことを、直接本人に尋ねることにした。

 

「なぁ、自来也先生はどうしてオレの修行に付き合ってくれるんだ? オレってば、木の葉の忍じゃねーのに……」

「……修行中も話したが、お前は面白いぐらいミナトに似ておる……それに……」

「それに?」

 

そこで自来也は、すっとナルトに一冊の本を差し出す。

表紙に「ド根性忍伝」と書かれた本を……

 

「これってば……」

 

それはナルトという名前の主人公が、幾度の困難に苛まれながらも、最後まで諦めずに平和を掴み取ろうとする物語。

その作者である自来也がナルトに目を合わせる。

 

「ナルト……ワシは忍の世に蔓延った憎しみをどうにかしたいと思っとる…のだが、どうしたらいいのか、ワシにも、まだ分からん……」

「…………」

「だがいつかは、人が本当の意味で理解し合える時代が来ると……ワシは信じとる!」

 

そう熱く語る自来也。

それは自来也の夢であった。

いや、もしかしたら、全忍の夢なのかも知れない。

そんな壮大な夢に、ナルトは、

 

「ん〜? 何か難しいけど……」

 

と、一度首を傾げる。

ナルトは決して、頭のいい方ではなかった。

だが、

悪い方でもなかった。

少なくとも、自来也の話をまったく理解できない……ということはない。

それだけの辛酸は舐めてきた。

それだけの世界は見てきた。

だからこそ、

 

「でも、何となく、わかるってばよ……」

 

そう、ナルトは言った。

少し悲しそうに、

でも、そうなったらいいなと夢を見て。

そして、

自来也はそんなナルトの目を覗き込みながら、

 

「ナルト……お前が九尾と分かり合えたようにの……」

 

と、言ってきた。

 

「な!?」

『……んだと!?』

 

突然の虚を衝いた発言に、ナルトと九喇嘛は驚いた顔をする。

そんな弟子の顔を見て、自来也は笑い飛ばし、

 

「ヌァハハハハ!! バレとらんと思っとったのか? 修行中、あんなに九尾のチャクラを纏っておいて……のォ……ナルト?」

「……う……」

 

自来也はポンとナルトの頭に手をおき、

 

「お前を見とると、こっちまで負けてはおれん。そう、思えてくるのォ……」

 

などと言い。

しかも、自来也は本気で言っている。

それもわかって、ナルトは嬉しく笑い、

 

「ならさ、ならさ、もしそんな時代が本当に来るんなら、オレもその時、自来也先生に力を貸すってばよ!」

 

そう応えた。

それに自来也は笑みを深め、

 

「ん? そうか……それは頼もしいのォ……」

「へへ……」

 

二人の師弟は一月という短い時間で、確かな信頼を築き上げていた……

 

そして、中忍試験本選。

本選日。

ナルトは……

 

「えー!? 今日が本選日〜!!」

 

妙木山にいた。

第一回戦開始まで残り……

いや、既に試験は始まっており……

遅刻である。

完全に遅刻である。

足をバタバタさせるナルトを、フカサクが嗜めるように言った。

 

「落ち着きんさい、ナルトちゃん! 今、幸いにも母ちゃんが木の葉の里に行っとる。母ちゃんなら、ナルトちゃんを逆口寄せできるけん、準備して待っときんさい!」

「……お、オッス!」

 

そこで後頭部に手をあて、何ともいえない表情で現れた自来也が、

 

「いや〜すまんのォ……」

「いや〜すまんのォ……じゃ、ねーてっばよ! もし試験受けられなくなったら、どーしてくれんだよ! 自来也先生!」

「も、もしそうなったら、三代目にワシが自ら頼みに行くから……のォ……」

「……それで本当に大丈夫なのか〜?」

「も、もちろん! ワシ、ウソツカナイ」

「…………」

 

この人怪しいです、という顔で自来也を見るナルト。

だが、慌てても事態は変わらないと考え直し、フカサクの言う通り、準備を始めることにした。

ごそごそ。

ナルトはポーチから一つの巻物を取り出す。

それは霧の里を出る前に、水影から託された物であった。

その巻物を広げて、

 

「口寄せの術!」

 

ボン!

白い煙の中に影が浮き出る。

煙と共に中から出て来た物に……

一枚の羽織に……

自来也とフカサクの二人は目を見開き、ある人物の名を思い出し、口にした。

 

「ナルト! これは……」

「ミナトちゃんの……」

 

四代目火影の羽織。

水影がナルトサイズに仕立て直した物であった。

いつでも巻物で口寄せできるように。

肌身離さず、持ち歩けるように。

と――

四代目火影の象徴。

――バサッ

それを羽織るナルトの後ろ姿に、自来也とフカサクは幻を見た。

 

「……ミナト……」

「……ミナトちゃん……」

「じゃあ、行ってくるってばよ!」

 

ボン!

ナルトの姿が妙木山から消えた。

二人はまるで亡霊に会ったかのような、狐につままれたような気分で、その光景を見送った。

と――

静寂の後。

フカサクは自来也の肩に乗り、しんみりとした声音で、

 

「自来也ちゃん……懐かしい背中を見んかったか?」

「ええ……ワシも頭と同じ者を見た気がします……」

 

確かに見えた。

四代目火影。

ミナトの背中を……

懐かしい思い出が目に浮かぶ。

まるで昨日のことのように……

それは大切な想いであった……

そこで自来也の決意が固まった。

自来也は肩に乗るフカサクに顔を向け、

 

「頭…実は一つ、折り入ってお願いがあります」

「ん? なんじゃ?」

 

返事を聞いて、自来也はすかさず印を結ぶ。

ずずず……と口からゲロ寅を蔵出し、判を押す。

それを見たフカサクは、口をあんぐりとさせてから、自来也に質問を投げかけた。

 

「どういうつもりじゃ、自来也ちゃん……トラちゃんは九尾の封印の鍵を……」

 

ゲロ寅。

この蛙には、ミナトが最後の力を振り絞って封印した、九喇嘛の鍵が託されていた。

 

「そのこと何ですが、頭。どうやらナルトは完全に九尾と和解しておるようなのです」

「なんじゃと? そんなバカな話ありゃせん! 確かにナルトちゃんが九尾の力をコントロールし…とる…のは…………ホンマかいな?」

「ええ……本人に確認もしましたが、どうやら間違いないようで……そもそも、そうでなければ色々と説明がつかないことも多かった……」

 

自来也の言葉に思案顔になるフカサク。

そして、自分も同じ考えに辿り着き……

 

「ホンマかいな……それじゃ……まさかナルトちゃんが……」

「ええ……条件も揃っております……」

「あの子が予言の子かいの……」

 

予言の子。

救世主。

自来也がかつて、ミナトをそうだと信じていた。

大ガマ仙人が予言した存在。

世にそれまでにない、安定をもたらすか

破滅をもたらすか

そのどちらかの変革者。

それは自来也の弟子で、そして自来也の選択次第でどちらかに転がる。

そう予言された子。

 

「頭、ワシは木の葉の忍です。ナルトと気軽に会うのは、これからの世の中次第で難しくもなります」

「じゃから、ワシに鍵を託すと?」

「お願いできませんでしょうか……」

「……わかった……自来也ちゃんが信じたなら、ワシも信じるしかないけんの!」

「ありがとうございます」

 

こうしてミナトから自来也、自来也からフカサクへと、八卦封印の鍵が渡されるのであった。

 

この自来也とフカサクの選択が、後に忍の世界を大きく変える選択となるのだが。

 

それは暫く先の話である……

 

 


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