火の国、木の葉隠れの里。
中忍試験本選日。
今、「あ・ん」とデカデカと書かれた木の葉の玄関には、文字通り大名行列ができていた。
各国の大名をはじめとした著名人が、ぞくぞくと木の葉の里に集まってくる。
なぜなら、明日を夢見る忍の卵達、各隠れ里の下忍達の闘いを観戦するためだ。
しかも、今年は例年より人が多く集まっている。
名門うちは、砂の人柱力、雪の国を救った英雄。
いずれ名を上げるであろう下忍達の試合を一目見ようと、人々がわらわらと集まっていた……
中忍試験本選会場。
期待と興奮で埋め尽くされた円上の空間には、何百、何千という観客が犇めいていて。
そんなステージの中心には、本選まで勝ち進んだ強者達が闘いのフィールドに降り立っていた。
長十郎が周囲をキョロキョロしながら、
(な、ナルトさんが、まだ来ていません……このままでは水影様に与えられた任務が……)
サイが独り静かに目を伏せ、
(……これで、第七班とお別れか)
ハクが心配そうにゲートを見ながら、
(ナルトくんと、僕の対戦相手のサスケくんまで来ていませんね……)
我愛羅が腕を組み、粛々としながら、
(…………)
シカマルが雲を見上げ、
(ったくー、めんどくせー)
テマリが手に汗を握り、
(もうすぐ……始まるのか)
チョウジが手で腹を擦り、
(お腹空いたなぁー)
カンクロウが他とは別のことに頭を抱えて、
(胃がキリキリするじゃん)
サクラが拳を握り締め、
(初戦の相手はリーさんか……)
リーが目を、身体全体を燃やして、
(ガイ先生見ていて下さい! ですが、初戦の相手がサクラさんだなんて……僕はどうすれば! これも青春というやつですか!)
霧、木の葉、砂。
事情はそれぞれ別々だが、落ち着きのない下忍達に、審判の不知火ゲンマが活を入れる。
「こら! オロオロしてんじゃねー! しっかり客に顔向けしとけ」
わー、わー、と色めき立つ観客席。
「この本選。お前らが主役だ!」
特等席。
見通しの良い、高所な物見やぐら。
三代目火影は一部の付き人しかいない場所で、試合開始の時間を待っていた。
そこに二人の付き人を連れ現れた、五大国でも一際名高い人物が姿を見せる。
風の国、砂隠れの長――風影。
「おお……これはこれは風影殿!」
空いていた席に座る風影。
三代目火影は、自身の隣に座った人物へと目をやり、
「遠路はるばる、お疲れじゃろう」
「いえ、今回はこちらで良かった……まだお若いとはいえ、火影様にはちとキツイ道のりでしょう。早く五代目をお決めになった方が良いのでは……」
「はははは、まぁ、そう年寄り扱いせんでくれ。まだ五年はやろうと思っておるのに……では」
風影の皮肉を笑い飛ばし、三代目火影は席から立ち上がった。
会場を見渡せる位置へ進み……
朗々とした声で宣言する。
「えー、皆様…この度は、木の葉隠れ中忍選抜試験にお集まり頂き、誠にありがとうございます! これより予選を通過した12名の本選試合を始めたいと思います。どうぞ最後まで、御覧下さい!」
わー! キャー わー! キャー わー!
と歓声が上がる中、風影が三代目火影に尋ねた。
「12名なら……2人足りないようですが」
「…………」
無言を貫く三代目火影。
その問いに答える者は誰もいなかった……
試験官のゲンマがルールの説明を話す直前。
ハクが手を挙げ、
「あの……すみません」
「何だ?」
「今だに来ていない人はどうなるのですか?」
「自分の試合までに到着しない場合、不戦敗とする!」
「……(ナルトくん、早く来て下さい)」
ハクの質問に答えた後、ゲンマは咥え千本をカチッと鳴らし、
「いいか、てめーら。この本選、地形は違うがルールは予選と同じで、一切なしってのがルールだ。どちらか一方が死ぬか、負けを認めるまで闘ってもらう……ただし、オレが決着がついたと判断したら、そこで試合をとめる……反論は許さない。わかったな!」
出場者を見回し、
「それじゃあ、一回戦。長十郎、サイ。その二人だけ残して、他は会場外の控室まで下がれ!」
本選が始まろうとする中、観客席にはお馴染みの顔ぶれが続々と集まりだしていた。
「ヒナタ〜 こっちこっち〜」
会場に来たばかりのヒナタを、いのが両手を振り回しながら案内する。
「い、いのちゃん」
「まったく……私を倒してサクラが出場するなんてねぇー。まぁ一応、応援だけはしてあげるけどー」
「いのちゃんのチームは、シカマルくんとチョウジくんも残っているよね?」
「え? あー、もちろん二人の応援もするわよ! で、ヒナタは誰の応援に来たの?」
「え!?」
いのの問いに、ヒナタが答えあぐねていた時。
後ろから、ネジが声をかけてきた。
「ヒナタ様……お隣よろしいでしょうか?」
ヒナタは驚いた表情で振り向き、
「ね、ネジ兄さん!?」
「そろそろ始まりますね」
「は、はい! え……と、ネジ兄さんは誰の応援を?」
「オレはリーと……ヒナタ様と同じくナルトの試合を見に来ました」
「な、ナルトくんの!?」
「アイツはオレに勝ったのだから、優勝してもらわなければ困りますからね」
「は、はい……わ、私もナルトくんなら優勝できると……」
ヒナタがオドオドしながらも言葉を出す。
それを見たネジは、自分とナルトの試合を思い出しながら、
「どうやら、オレの目は今まで曇っていたようですね……」
「え?」
「ヒナタ様やナルトの方が、本当に大切な物をまっすぐに見えていた……今なら、オレもそう思えます……」
「ネジ兄さん……」
そんな風に、和気あいあいと話す二人を見て。
いのは決して口には出せない恐ろしいことを心の中で呟いた。
(ちょっとー!? ネジって、こんなキャラだったっけ? 本当にシスコンになってるじゃない!)
それから、さらに続々と……
「ひゃっほー! 何とかギリギリ間に合ったぜ!」
「ワン!」
「当たり前だ。今日、遅刻するなどありえないことだ」
「本選に残ったのが、リーだけだなんて……」
キバ、赤丸、シノ、テンテンも席に座り始めた。
場面は戻り……
下のステージには、長十郎、サイ、ゲンマの三人だけが残されていた。
先ほどまで騒がしかった会場が、いつの間にやら静まり返っている。
深々とした空気。
会場の熱も温まったところで……
ついに本選の火蓋が切って落とされる。
ゲンマが相対する二人を見て、告げた。
「では、第一回戦。始め!」
開始の合図。
と同時に、サイが巻物を開き、筆を取り、
「忍法・超獣偽画」
描かれた動物達が実体化し、敵に襲いかかる。
かなり特殊な術で、サイ以外に扱える者はそういないのでは? と思えるほど珍しい忍術。
そんな術を目の前にして、
「なるほど、やはり再不斬先生とハクさんの情報通りですね……」
水色髪をした、普段は自信なさげな表情をしている長十郎が冷静な顔で対処する。
自慢の忍刀を背中から抜き、
――一閃。
巻物から飛び出して来た黒い影達を次々と両断する。
その獣達は瞬く間に形をなくし、黒い墨汁がこぼれるかのように地面へと崩れ去っていった。
だが、そこで終わりではない。
長十郎はすぐさま刀を放り投げ、印を結ぶ。
「水遁・水乱波!」
口から多量の水を吹き出し、サイを押し流す。
「……く……しまった」
サイの体がびしょ濡れになる。
水遁系の基本忍術。
水のない場所でも、大抵の忍が使える術。
しかし、どんな術も使いよう……
なぜなら、長十郎はこの基本忍術だけで相手を無力化したのだから……
「これは……やられましたね」
サイが両手を上に上げ、降参する。
彼の術は絵を描くことにより、発動する術。
水に濡れてしまえば、それまでであった。
ゲンマもそれを確認して、手を掲げた。
「勝者 長十郎!」
パチ パチ パチ パチ パチ
勝者宣言に会場全体が拍手を送る。
それを受けた長十郎は照れくさそうに、上の控室へと上って行った。
その後ろ姿を見ながらゲンマは、
(ったく……試合開始から1分も経ってねーぞ。こりゃあ、最短記録だな……)
長十郎の手際の良さを褒めるのであった……