霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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写輪眼vs氷遁

木の葉の名門……うちは一族。

日向一族と並び、木の葉最強と呼ばれた一族。

しかし、その一族はある夜、たった一夜にして滅びを迎えた。

たった一人の男。

サスケの兄、うちはイタチの手によって……

その日から、うちはの家紋を背負う者はサスケだけとなった。

だからこそ……

 

「うちははまだかー!」

「早く次の試合を始めろ!」

「いつまで待たせるんだ!」

 

観客席が騒ぎ始める。

会場にいる殆んどの者が、サスケの試合を楽しみに来ていた。

遠路はるばる来たのだ。

待たされてはたまったものではない……

 

「チッ」

 

ゲンマはこの状況に舌打ちをし、

 

「ハク、降りて来い!」

 

もう一人の対戦者の名を呼ぶ。

それを聞いて、ハクはできる限りゆっくりと階段を下りる。

サスケではなく、ナルトが到着する時間を稼ぐために……

ステージに降り立ったハクに向かってゲンマは、

 

「これから五分だけ待つ。それまでにサスケが来なかった場合は……」

 

そこで言葉を区切る。

いや、それ以上の説明はもう必要なくなっていた。

なぜなら……

 

ふわっと、木の葉が一枚。

徐々にその枚数が増え、最後には……

ブワッ!

大量の木の葉が舞い……

その中心から二人の忍が現れた。

 

「いやー、遅れてすみません……」

 

木の葉一の技師、カカシ。

と、背を合わせて現れた人物にゲンマは尋ねる。

 

「名は?」

 

黒髪の少年は答えた。

 

「うちは……サスケ」

 

ザワ、ザワ、ザワ、ザワ。

サスケの登場に観客席から声が上がる。

 

「オイ! あれがうちはの末裔か!?」

「うちはの試合が始まるぞ!」

 

熱気に包まれる中、カカシはハクの方を一瞥してから、皆と同じ観客席の方へと上っていった。

階段を上りながら、カカシは周囲を見渡す。

それから、いの、ヒナタ、ネジ、キバ、シノ、テンテンと同じ場所で観戦していた上忍二人の姿を見つけて、声をかけた。

 

「よう、ガイと…再不斬」

「カカシ!」

「クク、カカシか」

 

軽く挨拶してから、カカシは会場をさっと見回す。

今、木の葉の里は砂と音。

二つの里と衝突まで秒読みの状態となっていた。

非常に危険な時期。

そして、もし敵が攻めて来るなら、数々の大名や著名人が訪れている、この中忍試験本選を狙ってくるだろうと誰もが考えていた。

だが……

 

「暗部がこの広い会場にたった八名……少な過ぎる……火影様はどういうおつもりだ」

 

カカシの疑問に、ガイと再不斬が同じように辺りを見回し、

 

「相手の出方がわからん以上、暗部は里の主要部にも分散し、配備せざるを得ないのだろう……」

「ククク……木の葉の里は大変だな……何やら色んな所と仲がよろしいみたいで」

 

再不斬が探るような目線で言ってきた。

そんな再不斬にカカシは半眼を向け、

 

「で、霧としてはどうなの? 再不斬……」

「あ?」

「何かあったら助けてくれたりするのかなーって……ほら、何か同盟の話もちらほら出てるじゃない」

「ククク、バカ言え。まだ同盟国予定だ。今オレ達がでしゃばってみろ。木の葉の鬱陶しい老害どもに隙を与えることになる。そんな里に力を貸せる訳ねーだろ……もし何かあれば、オレ達は即座に離脱する。まさしく自分達が蒔いた種だ。オレ様達の知ったことじゃねーよ」

「……ま、そりゃ、そうだな」

 

カカシは再不斬の答えに、期待も失望もなく、ただただ自然のものと捉えていた。

同盟など、ただの口約束。

同盟国予定などなおさらである。

 

などなど話している間に、会場は先ほどまでとは打って変わって静まり返っていた……

ゲンマが対戦者の二人を見て、告げる。

 

「第二回戦。始め!」

 

サスケとハクが同時に後方へ跳ぶ。

互いに牽制し合う。

しかし、止まっていては始まらない。

サスケがクナイを取り出し、

 

「行くぞ」

 

言ったと同時に駆け出してきた。

ハクの方も千本を取り出し、返す刃で応える。

ギィン!

クナイと千本が鍔迫り合う。

そこで、

 

「さすがにやりますね……ナルトくんのライバルを名乗るだけはあります」

「アホ言え……あの時とは違う。今はオレの方が強い」

「……どうでしょうね」

 

ハクは空いた片手で印を結ぶ。

 

「それがカカシの言ってた、お前特有の闘い方ってやつか」

 

などとサスケが写輪眼を出し、観察している間に術が発動する。

 

「秘術・千殺水翔」

 

突如。

何もない場所から、水の刃が出現する。

刃がサスケに狙いを定めたところで……

的に照準を合わせたところで……

その的がハクの前から……姿を消した。

 

「な、なに?」

「案外トロいんだな……」

 

サスケがいつの間にやら、ハクの後ろへ回り込んでいて、

 

「ハッ!」

 

蹴りを放ってきた。

かなりのスピードで加速をつけたサスケの攻撃に、

 

「ぐっ」

 

ハクは防御をするだけでも、ギリギリであった。

地面を蹴り、何とか距離を取る。

相手には写輪眼もあり、今の攻防で単純なスピードもサスケの方が上ときている。

近接戦闘では勝ち目がないと踏んだハクは、すかさず印を結び、

 

「氷遁・ツバメ吹雪の術!」

 

氷でできた燕が飛翔する。

まるで本物の燕のように、予測のつかない動きで飛び回る氷の燕。

それを見たサスケは余裕の笑みで印を結び、

 

「火遁・豪火球の術!」

 

口から火の玉を吹き出し、氷の燕を一瞬にして溶かしてしまった。

 

「どうしたよ? 波の国で会った時の方がよっぽど強力な術を使っていたような気がするが……水がない所ではこんなもんか?」

「…………」

 

勝ち誇るサスケ。

だが、自分の弱点はハクとて百も承知であった。

当然それを補う戦術も用意してある。

ポーチから水と書かれた巻物を取り出し、

 

「確かに……僕の氷遁は水のない所では、キミの写輪眼ほどには役に立ちません……ですが」

 

巻物を解き、それを足で踏む。

 

「水さえあれば……話は別です」

 

次の瞬間。

突如、激流が発生する。

それは巻物から口寄せされた大量の水であった。

 

「水の口寄せか!?」

 

こちらの狙いに気づいたサスケが駆けるが、一足遅く……

冷気が空気を冷やす。

ハクは既に印を結び終えていた。

 

「秘術・魔鏡氷晶!!」

 

――鏡の世界

ハクにだけ許された秘術。

鏡の反射を利用した高速移動を行う移動術。

 

「チッ! まんまと術中にハマった訳か……」

 

ドーム状の鏡に写し出されたハクを見て、サスケは自分の失態に舌打ちする。

だが、

 

「では、そろそろ行きます」

「……ふん」

 

高速移動を行うハク。

常人の目には見えないほどのスピード。

それを……

 

「やっぱりトロいな……」

 

サスケは避ける。

初見にもかかわらず、完全に見切り、避ける。

写輪眼。

うちはの血継限界。

その洞察力はハクの予想を上回っていた。

 

「そんな!?」

「で……どうする?」

 

サスケの問いに、

 

(彼の運動機能、反射神経、状況判断能力……その全てが僕の予想を超えているようですね……)

 

ハクは術を解いた。

この術はチャクラを多量に使用する。

大した効果もないのに使っていては、チャクラの無駄使いに終わってしまう。

自滅する訳にはいかない。

二人を囲んでいた氷の鏡が残骸を残し、崩れ去る……

 

「オレの写輪眼にはお前の動きが完全に読める。同じ血継限界でも差が出たようだな……なら」

 

鏡の世界から脱出したサスケは、すぐさま何度もバク転を繰り返し、会場の塀を駆け登る。

 

「氷の鏡は崩れ去った……次は、オレの術を披露してやろう」

 

丑 卯 申

 

バチッ

電撃音を発しながら、サスケの左手にチャクラが集約されていく。

 

その光景を上から見ていた面々。

三代目火影と風影が驚きの顔を浮かべる。

 

「あれは……カカシの……」

(ふふ、上出来よ、サスケくん……でも)

 

ガイはサスケの術を見て、すぐにあたりをつけていた。

横にいたカカシの方を向き、

 

「ま、まさか……アレは……」

 

驚愕の表情で尋ねるガイ。

それにカカシはいつも通りの顔で、しかし何処か自慢気に、

 

「ま、オレがサスケの修行についたのは……アイツがオレと似たタイプだったからだ……」

「そうか……体術を鍛えて来たのは最初の動きで察していたが、この肉体活性のためだったか……」

「そ!」

 

その二人の会話に下忍達も耳を傾ける。

いのがガイに疑問を呈した。

 

「何なの、あの術? チャクラがハッキリ目で見えるなんて……」

「ただの突きだ……」

 

問いに答えたガイに、続けてテンテンが訊いた。

 

「ガイ先生、ただの突きって?」

「暗殺用のとっておきの技でな……その極意は突きのスピードと肉体大活性にある。膨大なチャクラの突き手を一点集中させ、さらにはその突きのスピードが相まって、チッ、チッ、チッと、千もの鳥の地鳴きにも似た独特の攻撃音を奏でる……木の葉一の技師……コピー忍者カカシの唯一のオリジナル技……名を……」

 

「千鳥!!」

 

サスケが印を結び始めた頃、ハクも同じく迎え撃つ準備をしていた。

 

(この体で、どこまでやれるかわかりませんが……)

 

「氷遁・狼牙雪崩の術!!」

 

印を結び終えるのはサスケの方が早かった。

だが、術の発動はハクの方が先であった。

ハクのチャクラに呼応して、周囲の水分が凍り、突然雪崩を起こすかのように、氷でできた狼の群がサスケに襲いかかる。

 

それを見たカカシは半眼で再不斬に訊いた。

 

「で、再不斬……止めなくていいのか?」

「あ?」

「あの術の威力はお前も知ってると思うけどね……ハクくんが心配じゃないのか?」

「クククク……」

「ん?」

 

自分の助言を笑い飛ばす再不斬に、眉を寄せるカカシ。

そんな相手に再不斬は余裕の色で応える。

 

「相変わらず、芸のねぇ奴だ……カカシ」

「……なんだと」

「ハクはオレ様の班の中で、一番頭がキレる。写輪眼は三度目、あの自称暗殺技もこれで二度目だ。ハクからすれば、あくびが出る光景だろうよ……それに、テメーは一つ大事なことを忘れてるぜ」

「忘れている? 何をだ?」

「お前の技は既に一度、オレの部下に破られたはずだぞ……カカシ」

「…………」

「これで二度目だ。以前にも言っただろ……忍の奥義ってのは、そう何度も見せるもんじゃねーんだよ」

 

そう会話を終わらせた再不斬とカカシは、再び視線を闘っている部下達の方へと戻したのであった。

 

狼の群が殺到する。

だが、サスケはそれに構わず、直線的な猛スピードでハクに向かって駆け出していた。

己の術で壁を削り、土を削りながら……

 

「さすがうちは一族……写輪眼継承者」

 

言いながら、ハクは素早く狼に指示を出し、サスケに噛みつかせようとする。

が、その狼の頭を踏み越え、サスケは一瞬で間合いを詰めて来た。

 

「速い!」

 

予想以上の動きに、ハクは自分の近くにいた狼をサスケと自分との間に入れる。

横からの奇襲攻撃で時間を稼ぎ、一度間合いをあけようとするが……

 

「ウオオオオオオォ!!」

 

チッ! チッ! チッ!と、独特の効果音を奏でたサスケの術は、そのまま狼を突き破り、速度を維持した状態でハクに奥義を放つ。

 

「くらえー! 千鳥!!」

「ぐふっ!」

 

サスケが敵の胸を貫いた。

口から吐血するハク。

どう見ても致命傷であった……

地面が真っ赤に染まり……

会場が静まり返る。

 

「……オレの勝ちだ……」

 

宣言するサスケ。

が――

突如、横から聞こえないはずの声がサスケの耳に届き……

 

「いいえ。キミの負けですよ…サスケくん」

「!」

 

壊れた鏡の一部から、本体のハクが姿を現す。

さらに、サスケが千鳥で貫いていたハクの体が氷へと変わり……

 

「ぐっ……あぅあああ!」

 

パキパキと音を立て、サスケの腕を凍らせた。

が、これで終わりではない。

ハクは追い討ちをかけるように印を結び、

 

「氷遁・氷牢の術」

 

続けてサスケの両足を凍らし、悲鳴を上げる敵の後ろから、千本を首へあてる。

抵抗を許さない。

確実に勝負をここで決めた。

サスケは何とか目線だけを動かし、

 

「いつ……入れ代わっていやがった……写輪眼でも見切れないなんて……」

「それは氷遁影分身。よくできているでしょ? 本体と入れ代わったのは鏡を解いた時です」

「……あの時か……だが、何故だ! 写輪眼で見抜けないなんて」

 

写輪眼。

それはチャクラを見る眼。

どんな術も、その眼の前では無に帰ると言われるほどの瞳術。

しかし、それは写輪眼の能力を全て引き出せていればの話。

 

「以前、キミの先生も言っていましたが、キミ達は写輪眼を使いこなせていない」

「なんだと!?」

「覚えていますか? キミ達が初めて再不斬さんと闘った時のことを……」

「…………」

「キミの先生は写輪眼を使っていた……にもかかわらず、再不斬さんの水分身を見抜けなかった……」

「!?」

「この先は説明するまでもありませんね。恨まないで下さい……僕も、ナルトくんと長十郎さん以外の下忍に負ける訳にはいきませんので……」

「……く…そ」

 

と漏らすサスケに、ゲンマは咥え千本をカチッと鳴らし、

 

「……終了だな。これ以上の試合はオレが止める。よって、勝者……ハク!」

 

まさかの木の葉の名門、うちはの敗北。

けれど……

 

オー!! オー!! オー!!

 

血継限界vs血継限界

 

「凄い試合だったぞ!」

「二人とも頑張った!」

「鳥肌が立った。すげー闘いだった!」

 

この試合は観客の全てを魅了するものであった。

拍手が勝者と敗者。

両方に贈られた。

ハクはその中を照れくさそうに、手を軽く振りながら歩いて行く。

 

ちなみに、この試合を上から観戦していた担当上忍達は、サスケが医療班に運ばれるのを確認しながら……

 

「いやー、わりーなカカシ! ククク、あっさり勝っちまってよぉー。ま、教え子も教師は選べないってことだな……ククク」

 

口布の上から見てもわかるほど、口元をニヤリとさせる再不斬。

それに続いて、カカシを挟む形で反対側にいたガイがライバルの肩に手を置き、

 

「青春とは時に甘酸っぱいものだよ…カカシ……ま、来年またチャレンジすればいいさ」

 

などと、カカシを煽りまくっていた。

この状況に、木の葉一の技師は、

 

「……何でお前ら、そんなに仲いいの?」

 

げんなりした表情で呟くのであった……


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