九喇嘛と守鶴。
九尾と一尾。
狐と狸。
最強のチャクラを宿した二人が今、相対していた。
そんな奇跡的な場面。
何十年振りかの邂逅。
先ほどまで、『世界の全てがオレ様の物だ!! 』と言わんばかりのテンションで騒いでいた守鶴も、いきなりの友? との再開に……
『…………』
呆然とした面をさらしていて……
口をあんぐりと間抜けな面をしていて……
そこに九喇嘛が片手を上げ、
『よォ! クソ狸』
『はぁ? バカ狐!?』
何でテメーまで、出てくるんだ?
という、表情をする守鶴。
九喇嘛が本来、ナルトに送れるチャクラはごく僅かで、しかも精神に作用する精神エネルギーは殆んど練れないようになっていた。
ミナトがそういう八卦封印を施していたからだ。
だが、ナルトと和解し、九喇嘛のチャクラをよく使うようになってからは、封印も弱まっており、仮の姿として、コンビ変化に便乗して出るくらいの芸当は出来るようになっていた。
そんな反則技で登場した九喇嘛が、
『随分と世を楽しんでいるようじゃねーか、クソ狸。尾獣最弱のお前だが、礼節だけは昔から弁えていたはずが、今では『ひゃっはぁああ!』か…ククク…クハハハハ』
と、高笑いする。
それに守鶴は地面を揺らしながら、ドスドス地団駄を踏み鳴らし、
『お前ぇえええ! 久しぶりに外出たんだから、仕方ねーだろうが! 笑うんじゃねー!!』
『笑ってなどおらん。ククク…素晴らしいキャラ崩壊じゃねーか…クククっ……』
『笑いながら、しゃべってんじゃねーよ! バカ狐!!』
戦争中に、雑談をする二人。
だが、周囲の忍達には動揺が走っていた。
守鶴だけでも手におえない。
だというのに、今度は九喇嘛の登場。
そして、その九喇嘛の登場に真っ先に反応したのが……
「この! 化け狐!!」
「遂に尻尾を出しやがったな!!」
「仲間達の恨み! 今こそ晴らしてやる!!」
先ほどまでナルトの応援をしていた……
木の葉の忍達だった。
恨み、辛み。
憎しみ、嫌悪。
どす黒い感情を込め、一部の木の葉の忍達が愚行を犯す。
凶刃を振り上げ……
「「「死ねぇええー!! 化け狐!!」」」
起爆札付きのクナイを投げてきた。
それを九喇嘛は……
『…………』
見向きもせず、ひょいひょいと避ける。
仮にあたったとしても、あの程度ではかすり傷も負わないのだが、わざわざくらってやる理由などない。
そして、木の葉の忍達が投げたクナイは……
「ぐあぁああ!」
見事に後ろから迫って来ていた、別の木の葉の忍に命中し、爆発。
戦場に死体を増やした。
それを見た、クナイを投げてきた忍が、
「よくも、化け狐!!」
などと、訳のわからないことを九喇嘛に言っていて……
その一部始終を見ていた守鶴が、
『ギャハハハハハ!! おま、お前、こんな奴らを守るつもりか』
腹を抱えて笑う。
九喇嘛は笑い続ける守鶴に、当然といった顔で、
『フン、ワシが木の葉を守る訳がねーだろ』
『あ? じゃあ、何でテメー出てきやがった?』
『……ナルトのためだ』
『……は?』
そこで守鶴が首を傾げる。
コロコロと表情を変え、最後にギザギザの口を大きく開けて、
『は? お前、マジで言ってんのか?』
『……まーな』
『……はあァア? テメーが人間の味方をするのか!?』
『ワシの話を聞いておらんのか、テメーは! ナルトだけ限定だ! 他の人間など、ワシの知ったことではない』
『イヤイヤ……どういう心境の変化だ!?』
守鶴の質問に、九喇嘛は一度目を閉ざす。
遠い、遠い、過去を思い出すように。
九喇嘛達がまだ、人間の可能性を信じていた頃を思い出すように。
そして、
『コイツは……もしかしたら……じじいが最後に言っていた奴かも知れねーからな』
そう言った。
それに守鶴は頭に?マークを浮かべて、
『は? じじい? 分福のことか?』
『あ? 大福? ワシは九尾の狐だぞ。媚び売りてーなら、油揚げ一年分献上しやがれ!』
『食いもんの話じゃねえええええええ!!』
魂の叫び。
この戦争で、たぶん一番大きな叫び。
を、響き渡らせた後。
守鶴がハッとした顔で、思い当たったことを呟いた。
『……まさか、六道のじじい……か?』
六道仙人。
忍の祖と呼ばれる存在。
尾獣達が共通して、じじいと慣れ親しむ存在。
その六道仙人が最後に、
「守鶴・又旅・磯撫・孫悟空・穆王・犀犬・重明・牛鬼・九喇嘛。
お前達はいつも一緒だ。いずれ一つとなる時が来よう……
それぞれの名を持ち……今までとは違う形でな。そして私の中に居た時と違い、正しく導かれる。
本当の力とは何か……
……その時まで……」
そう言い残して……
守鶴の問いに、九喇嘛は漸くわかったか、と鼻を鳴らし、
『まだ背丈も小せーし、ワシにも断言はできんがな』
『…………ケッ! そんな確証もねー話で、オレ様に引っ込めって言うんじゃねーだろうな?』
『貴様……ワシの話を本当に聞いておらんようだな。誰が木の葉なんぞ守るか! ワシはお前にナルトに手を出すなと言いにきただけだ……まァ』
言葉を区切り、ギロリと睨みを利かせ……
『それが聞けねーってんなら……ワシも本格的に参戦させてもらうが』
突如。
凄まじい殺気が九喇嘛から噴出した。
その一瞬で、
たった一瞬の一睨みで、
「「「あ あ あ あ あ ああぁぁぁ……」」」
木の葉、砂、音。
九喇嘛の近くにいた殆んどの忍達が身動きを取れなくなる。
いつでも殺せる。
九喇嘛がその気になれば、木の葉どころか、全てが終わる。
そう思わせるほどの殺気。
そんな状況で、どこ吹く風といった態度で守鶴は話を続ける。
『ケッ! テメーのそういう態度が、オレ様は昔から気に入らねーんだよ!』
『ほう……なら久々に、一戦ワシと交えるか?』
『だから、そういう言い方がカチンと来るんだよ! 捕らぬ狸の皮算用ってな。そのナルトってガキが、じじいの言ってた奴か何て知らねーが、もし本当にそうなら……オレ様だって迂闊に手が出せねーだろうが!』
『………………』
『だから、オレ様がわざと見逃してやる! テメーに頼まれたからじゃねェ! オレ様の意思でだ! わかったかバカ狐!!』
『フン……頼んだ覚えはワシにもないが……やはり変わってねーな……お前も』
そう、話が終わった後。
一瞬の間。
狐と狸は、最後に目線で互いの名を呼び合い……
『解!!』
九喇嘛が変化の術を解いた。
大きな煙を巻き上げ、
ナルトとガマブン太が再び姿を現わす。
それに木の葉の忍達が、ほっと胸を撫で下ろす。
よかった、と心の底から……
だが……
「………………」
ナルトとガマブン太は九喇嘛を通じて、木の葉の忍達が取った行動を全て見ていた。
九喇嘛に……というより、自分達にクナイを投げつけてきた光景を。
一部始終。
見ていた。
と――
そこへ、片手に風雲姫を抱えた再不斬が、ガマブン太に跳び乗り、
「ナルトォ! お前、一回、攻撃避けただろ! こっちに飛んで来やがったぞ!」
鬼のような表情で叫んだ。
続けて、風雲姫が頭を抱えて、
「どうなってんのよ、これ〜!!」
人々の死。
悲鳴。
戦争。
大きな蛙。
などなど、一国のお姫様には少々刺激が強すぎる状況。
そんな風に取り乱す風雲姫を懐かしく想いながら、ナルトは振り向き、
「風雲姫の姉ちゃん、無事でよかったってばよ!」
「……お陰様でね。ま、無事って呼べる状況かわかんないけど……」
うんざりとした声音で応える風雲姫に、続けて、ハクと長十郎が駆け寄り、
「御無事でよかったです」
「よ、よかったぁ……危機一髪でしたね。姫様に何かあっては……」
風雲姫の無事に安堵の息を吐く。
そこで、頃合いを見たガマブン太が、
「よっしゃー! ほんじゃあ、さっさと逃げるけんの。それでええんじゃな、ナルト?」
「…………」
ナルトは無言で戦場を見渡す。
夥しい血が流れる。
流れ続けている戦場を。
戦況は五分五分ぐらいだろう。
だが、守鶴を止められる戦力は、どう見ても今現在の戦力では、ガマブン太以外見あたらない。
そのガマブン太に乗って逃げるということは、木の葉を見捨てるということだ。
ナルトは何やかんや言いながらも、木の葉を助けようとしていた。
自分の父親が命を懸けて守った里を。
だが……
(この世界が歪んでいるのだ……か……)
ナルトは最後に、我愛羅と同じような無表情で、木の葉の里を見渡し、
「わりー、オヤビン……オヤビンは、本当は木の葉を守らなきゃいけねーのに……」
「ア? どういうこっちゃ?」
「え? だって、木の葉の蛙じゃねーの?」
「何を言いちょるんなら? ワシらは妙木山のガマじゃぞ。今までは四代目や自来也が木の葉の忍じゃったから、木の葉の味方をしていただけじゃ。木の葉が筋通さん生き方するんなら、得物を向けることじゃてするわボケェ! ガキが難しいこと考えてんじゃねェわ、アホんだらァ!!」
「お、オッス!!」
ナルトの滑舌の良い返事を聞いた後。
ガマブン太は掌を返したかのように、期待に満ちた眼差しで、自分達を見上げる木の葉の忍達に背を向け、
「跳ぶぞ!! しっかり、つかまっとけーよのォ!!」
自分の頭上に乗っているナルト達に忠告を送り、大ジャンプをした。
木の葉の忍達は、四代目火影の羽織を翻し、戦場から去っていく忍を……
ナルト、ハク、長十郎、再不斬、風雲姫、ガマブン太の姿を……
ただただ見ていることしかできなかった……
そして――
抑止をなくした守鶴は、これより一時間ほど後に現れた自来也に止められるまで……
『ひゃっほおぉぅぅ!! 暴れ回るぜェ!!』
木の葉に破壊の限りを尽くすことになる。
里は地獄絵図を描くことになった。