霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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国士無双 ヒルゼンvs大蛇丸

木ノ葉の里で一番空の景色に近い場所。

里の全容を見渡せる物見やぐらの屋根の上。

硝煙と血の臭いで満ち溢れた、黒煙立ち込む木ノ葉の中心部。

 

そこには今、四方を囲む暗紫色の結界が張られていた。

音忍が作り出した『四紫炎陣』という結界忍術により、外界との接触を断ち切られた空間。

数十メートルで閉ざされた世界。

そして……

その閉鎖空間に、佇む影が二つ。

悲鳴や絶望が響き渡っている外の世界とは対照的に、

不気味なほど物静かに、

嵐の予感に粛々としながら、

猿と蛇。

二人の忍と忍が相対していた。

 

二人だけの戦場――

 

その片方の忍が、頭に乗せていた火影笠を脱ぎ捨てた。

そこで姿を現したのは、黒を基調とした鎧。火影の字を背負い、漆黒の忍装束に身を纏った好々爺然とした男。

三代目火影――猿飛ヒルゼン。

 

戦場に立つ、準備万端の相手を見て、

 

「死に際を予期してましたか……」

 

そう呟きながら、風影の服を脱ぎ捨て、

 

「ククク……またアナタと戦えるなんてね……」

 

愉しそうに、歓喜の声で姿を現したのは……

女のように艶やかな黒い長髪。紫の腰帯。蛇を連想させる獰悪な目を持つ男。

三忍の一人――大蛇丸。

 

木ノ葉崩しを計画し、実行に移した木ノ葉の抜け忍。

小国程度なら、一人でも落とせるほどの力を持った規格外の忍。

現火影の愛弟子にして、この戦争の主犯格。

 

ヒルゼンはそんなかつての弟子を、様々な想いで見据えながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「……お前が恨みで動くような男でないことはわかっている……お前には目的も動機も何もない。そうであろう?」

 

大蛇丸はそのヒルゼンの問いに、少し考えるような素振りを見せ、

 

「んー……そうですねぇ……目的なら、なんとなくありますよ。まぁ、あえて言うならば……動いているものは面白い……止まっているとつまらないでしょ? 回ってない風車なんて、見るに値せずってね……かと言って、止まってるのも、情緒があっていい時もある……」

 

そこで、さも面白そうに笑い、

 

「兎に角……今は“木ノ葉崩し”という風で、私が風車を回したい……」

 

などと、迷惑極まりないことをのたまった。

そんな大蛇丸の言葉に、ヒルゼンは、

 

「フン……相変わらずよのォ……」

 

そう言った。

吐き捨てるように……ではなく、優しさすら感じさせる口調で。

大蛇丸はヒルゼンの教え子の一人。しかも、一際手塩にかけた生徒の一人であった。

教え子というのは、どこまでいっても可愛いものである。

何故なら、今がどうであれ、かつての懐かしい想い出が変わることはないのだから。

輝かしい思い出が色褪せることはないのだから。

だが……

 

「…………」

 

ヒルゼンは覚悟を決める。決めていた。

過去がどうであれ、今の大蛇丸はテロリスト以外の何者でもない。

木ノ葉の敵。いや、風影の格好を装っていたということは……恐らく……

そこまで思考を巡らし、ヒルゼンは頭を振る。

今はそんなことを考えている場合ではないから。

大問題ではあるが、しかし、一番重要な問題はそこではない。

木ノ葉が戦場になっているということ。

それが一番、真っ先に対処しなくてはならない事柄であった。

そして、ヒルゼンは木ノ葉の里を守りし、火の意志を継ぐ忍。

“火影”である。

だからこそ……

覚悟を決めた。

かつての弟子を――己の手で殺す覚悟を。

 

『…………』

 

突如。強烈な殺気が二人から放たれる。

ヒルゼンと大蛇丸。両者が睨み合う……たったそれだけのことで……

ビシッ!

屋根の床に亀裂が走る。

次第にそれはチャクラのうねりとなり、二人の間に適度な緊張が張り詰め、時の流れが凝固する。

常人では。

否。

恐らく殆んどの上忍ですら、この場にいるだけで戦意喪失するであろう。

そんな一触即発の場面。

で――

 

『…………』

 

次の瞬間。無言で先の手を取ったのは……

 

「…………!」

 

ヒルゼンの方であった。

凄まじい速度で印を結び、風林火山。多種多様な術を発動する。

 

「雷遁・四柱しばり!」

 

地中から四本の岩柱を隆起し、大蛇丸を囲み、

 

「ぐっ…速い! それに体が痺れ…うぁぁああ!」

 

柱が電撃を放ち、

 

「土遁・粘土落とし!」

 

大量の粘土を落とし、動きを押さえ、

 

「雷遁・十六柱しばり!」

 

さらに隙間を埋め、釜を作り、

 

「火遁・素焼きの術!」

 

炎で炙り、土を固める。

火が治まり、十六の柱が崩れ落ちる。中心には人形の像が立っていた。

焼成され、陶器の形をして現れた大蛇丸。

に、最後の仕上げ。

ヒルゼンは大きく息を吸い込み、

 

「風遁・真空波!!」

 

口から一筋のカマイタチを放つ。

ひゅん!

と、鋭い音を立て、風の刃が迫る。

固まったままの大蛇丸は避けることすらできず……

風の刃はあっさりと、大蛇丸を形取った像を粉々に打ち砕いた。

プロフェッサーの名に恥じない連繋術。

呆気なく戦闘終了。

だったら、よかったのだが……

そんな訳にはいかず……

 

「…………」

 

気配を感じ取り、ヒルゼンは後ろを振り向く。

すると、そこにはやはり、

 

「フフ……流石は猿飛先生。たった一人でここまでの性質変化を扱える忍は、アナタぐらいのものでしょう」

 

という言葉とは裏腹に、汚れ一つなく、無傷で地面の下から這い上がる一匹の蛇……大蛇丸がいた。

仕留めたはずの大蛇丸は、いつの間にやら、蛇の脱け殻へと姿を変えていて……

 

「私専用の変わり身でしてね……チャクラをそれなりに多く使うのですが、非常にバレにくく、今まで見破られたことが一度もないのですよ」

「フン、お前がこの程度で殺られるなら、ワシも苦労せんわ」

「フフ…では、そろそろ本番といきましょうか」

 

ここからが本番。ということは、今まで手を抜いていたということで……

そんなことを当然のように口にする大蛇丸。

しかし、

 

『…………』

 

その意見には、ヒルゼンも賛成であった。

ここからが、血みどろ、おぞましき“忍”の闘い。

二人は一瞬、相手の出方を伺うように目線を合わせた。無言の殺気という名の圧力。

それは信じられないほど圧倒的なもので……

普通の忍なら、その殺気だけで殺されてしまうほどの……

が、ここにいる忍は普通などではなかった。

 

『…………』

 

二人の忍が互いを見据えつつ、臨戦態勢を取る。

冷たい殺気が空間に充満し、床には無数の亀裂が走り……

直後。蛇がぬるりと動く。

今度は、大蛇丸が先に印を結び始めた。

手の指が霞むような速度で印を結んでいく。

ヒルゼンはその印を見て、目を見開き、

 

「ぬぅ……まさか!?」

 

呻くように言った後。

このままではマズい! と、瞬時に親指を噛んだ。

次の瞬間。

地面に片手をつけ、同時に術を発動する。

 

「口寄せ・穢土転生!!」

「口寄せ!! 出でよ! 猿猴王・猿魔!!」

 

ボン!!

白い煙を巻き上げ、姿を見せたのは……

まず視界に映ったのが、大蛇丸が口寄せした棺。

“初”と“二”

一文字ずつ記号の記された白い棺桶が二つ。

 

『禁術・穢土転生』

それは二代目火影が考案した、死者の魂をこの世に喚び寄せる禁術中の禁術。

他者の肉体を贄とし、一種の死者蘇生を可能とした、倫理すらねじ曲げた禁忌。

 

そして、此度、あの世から喚び寄せられた者は……

ガコンと渇いた音を立て、棺の蓋が開く。

“初”と記された棺から、姿を現したのは……

黒髪の長髪。赤を基調とした鎧に、全てを受け入れるような、おおらかで優しげな雰囲気を纏った男。

 

「ほぉ……お前か……年を取ったな。猿飛……」

 

初代火影 千手柱間。

 

次に、もう一つの“二”と記された棺から、姿を現したのは……

青を基調とした鎧を身に纏い。どこか柱間と似た雰囲気を持つ、白髪頭の男。

 

「久し振りよのォ……サル……」

 

二代目火影 千手扉間。

 

かつて、戦乱の世を生き、『里』というシステムを作り上げ、一時とはいえ、動乱の時代に終止符を打った忍。

ヒルゼンの師であり、慕う人物。

今や伝説とうたわれる二人であった。

 

その懐かしい二人の姿と声に、ヒルゼンは少し声音に涙を込め、

 

「……まさか、このような形で、お二人に再びお会いしようとは……残念です……」

 

と、少々弱気な発言をする。

 

そこに、そんなヒルゼンを叱咤する声が一つ。

 

「気をしっかり持て、猿飛。感傷的になる時間はとうの昔に過ぎ去った……あの時、奴を殺しておかなかったツケが回って来たな……」

 

そう厳かな声で発したのは、ヒルゼンが口寄せした存在。

虎柄の服が特徴的な、成人男性と同じほどの体格をした老猿。

猿猴王・猿魔。

 

ヒルゼン。大蛇丸。柱間。扉間。猿魔。

五人の役者が勢揃いした。

そのいずれもが、一騎当千の強者。

存在そのものが、これから繰り広げられる闘いの熾烈さを物語っていた。

 

扉間が後ろを振り向き、大蛇丸を見る。

 

「穢土転生か……禁術でワシらを呼んだのは、この若僧か……大した奴よ……」

 

それに続き、隣にいた柱間が、

 

「だとすると、猿飛よ……ワシらは貴様と闘わねばならぬということか……」

 

苦痛に顔を歪めて、絞り出すような声で言った。

だがそこで、そんなつまらない話はどうでもいいと言わんばかりの態度で、大蛇丸が懐からクナイと二枚の札を取り出し、貼り付け、

 

「年寄りの寄り合いはその辺にして、そろそろ始めませんか」

 

それを二人の頭に埋め込む。

完全な支配権を有するために。

物言わぬ殺戮人形と化すために。

 

「いつの世も……闘いか……」

 

柱間が言い終わったと同時に、

 

「…………」

「…………」

 

初代火影と二代目火影は人格を消され、大蛇丸の操り人形と化した。

大蛇丸が先ほどクナイに貼り付けた札は、穢土転生された者を操り、その者の人格を支配する権利を得るためのもの。

そうしなければ蘇った死者が反乱を起こし、自分を呼び寄せた術者を殺してしまう可能性があるからだ。

どんな人物であれ、死んだ後のこととはいえ、他人に利用されて、いい気分などする訳がない。

だから大蛇丸は、それを未然に防ぐ手筈を整えていたのだ。

それが先ほど、二人に埋め込まれた札である。

もはや二人の忍に、柱間と扉間の二人に、肉体はおろか、魂の自由さえ存在しない。

それは――あまりに非人道的な行いであった。

忍に綺麗事を述べる資格があるのかは兎も角、それでも最低限、人として踏み外してはならない道というものがある。

それを……土足で踏みにじる所業。

だというのに、大蛇丸の顔には良心の呵責が一欠片すら見られず……

ヒルゼンは目を細める。怒りを込めた瞳で大蛇丸を射抜き、

 

「死者を愚弄しおって! 時を弄ぶとろくなことにはならんぞ!」

「ククク……知っていますか? かつて師と呼んだ者を、傷つけるという達成感と喜び! その喜びを知ってもらおうと、この場を用意したのですから……精々楽しんで下さい」

 

そう、楽しそうに、本当に愉しそうに言った。

途端。

二つの殺戮人形がカタカタと動き出す。

完全に人格を支配された柱間と扉間が、一気に駆け出してきた。

一直線にこちらに向かって……

 

「…………」

 

それをぼーっとした顔で……

呆然と眺めるヒルゼンに、猿魔が怒声を発した。

 

「しっかりしやがれ! 猿飛! 奴らはお前の知ってる初代でも、二代目でもねーぞ!!」

「!? わかっておるわい!」

 

弾かれたように意識を覚醒させる。

頭では敵だとわかっていても、数十年振りに再開した二人の姿に、柱間と扉間の姿に、動揺を感じずにはいられなかった。

が――

ヒルゼンはチャクラを全身に行き渡らせ、頭のスイッチを切り換える。

穢土転生まで発動された今、躊躇いを感じたままでは一秒後に自分が死ぬことになる。

意味のない死を遂げる訳にはいかない。

ヒルゼンは三人の敵を見据えながら、頭の中で自分達が勝つ方法を探り、思考し、展開していく。

そして答えに辿り着いた。

 

「ならば……」

 

あとは……それを実行するだけだ。

ヒルゼンはすかさず印を結び、

 

「手裏剣影分身!!」

 

屋根の瓦を風のチャクラで浮かせ、手裏剣の要領で数枚を前方へ飛ばした。放つ直前に、起爆札を貼り付けて……

くるくると回りながら、瓦が数を増やしていく。

その数。数十枚。

視界を埋め尽くすほどの物量。

それらが柱間と扉間の位置に到達した。瞬間。

 

「ぬん!」

 

ドカーン!!

ヒルゼンは印を切り、瓦に貼り付けていた起爆札を爆発させた。爆音とともに連鎖爆発が起こる。

柱間の片腕が吹き飛んだ。

術を発動するのには両腕が必要となる。

つまり……

これで暫くの間、柱間は印を結ぶことすらできないはずだ。

畳みかけるなら……今が好機。

ヒルゼンは凄まじい速度で印を結び、体を反らし、大きく息を吸い込んで、

 

「火遁・火龍炎弾!!」

 

龍の如く敵に襲いかかる炎を放出。非常に威力の高い火遁忍術。

赤い龍が迸る。

それを無感動に、死人の目で眺めていた扉間が、印を結び、カウンター忍術で迎え撃ってきた。

 

「水遁・水陣壁!!」

 

扉間の口から、多量の水が吹き出す。

それが、ジュウゥゥッ! と音を立て、ヒルゼンの火遁を跡形もなく打ち消した。

が――

ただ打ち消すためだけに、水遁が使用された訳ではない。

扉間は続けて、その周囲に満ちた水を利用した、高等忍術を発動した。

 

「水遁・爆水衝波!!」

 

床を浸す水を津波へと変換し、その激流がヒルゼンを飲み込もうと荒々しく迫ってきて……

それは、まさしく自然の高波であった。

十メートル近くある自然災害。

水のない場所では、本来、正しく印を結んだとしても、発動すらしないレベルの水遁忍術。

それを容易く使いこなす扉間。

 

これが、

古今無双。火影というレベルの闘い。

 

ヒルゼンはその津波を見た途端、水には土だと印を結び、

 

「土遁・土流壁!!」

 

口から土を吐き、強固な壁を作り出す。

洪水が突如出現した、土の城壁で塞き止められる。

ザブーン!

扉間の規格外な水遁忍術を、土遁で作り上げた小さな崖の防壁で、ヒルゼンは何とか防ぎ切った。

しかし、息をつく暇などない。

敵は扉間一人ではない。

術の対処に気を取られていたヒルゼンに、猿魔が注意を促してくる。

 

「猿飛、初代が術を発動しようとしておるぜ!」

 

ヒルゼンはその言葉で柱間を見る。

すると、そこには先ほど吹き飛んだはずの片腕を復活させて、両手で印を結ぶ柱間の姿があった……

穢土転生は術者を殺しても止められない上に、口寄せされた者は体に傷をつけられてもすぐに元に戻り、また動き出す。

さらに、チャクラ切れすら起こさない。

そんな反則的な性能を持っていたのだ。

まったく……やっかいな術じゃわい……

ヒルゼンは何とも言えない感想を抱くが……

 

「…………」

 

だが、今は柱間の術に対応しなければと頭を引き締めつつ、水の引き始めた地面に降り立った。

そして、ヒルゼンが前に出た――次の瞬間。

柱間が、彼にのみ許された術を披露してきた。

 

「木遁秘術・樹界降誕!!」

 

突如。芽が生え、木が育ち、小さな森がうねりとなって、ヒルゼンに襲いかかる。

 

土と水。

二つの性質変化を同時に扱い、発動する性質変化。

木ノ葉を築き上げたとされる伝説の血継限界。

木遁。

乱世を治めたとされる幻の術。

忍の神。最強の忍とうたわれ続ける初代火影。

千手柱間の血継限界。

 

しかし。

しかし、いかに最強とはいえ、所詮、木は木。

燃やせない訳がない。

ヒルゼンは冷静に沸き上がる木々を見据えながら、得意な火遁の印を結び、迫り来る森に向かって火を放つ。

 

「火遁・火龍炎弾!!」

 

ボォオオオオッッ!!

龍となった炎が森を燃やす。

全てを焼き払おうと轟く火龍。

だが、

 

「…………」

 

柱間は一歩足りとも引かなかった。

確かに、木は燃やせる。

しかし、その燃やす速度より、新たな大木が生え変わる速度の方が圧倒的に速かった。

不得手なはずの火遁を、小細工なしで真っ向から跳ね返してくる。出鱈目なことこの上ない。

が――

ここで退けば、ヒルゼンの体は木遁で縛り上げられることになるだろう。そうなれば敗北は必至。

ヒルゼンの敗北は、木ノ葉の終わりを意味する。

たとえ相手が忍の神だろうと、逃げる訳にはいかない。

ヒルゼンは口から炎を吐き続けながら、さらに複雑な印を結んでいく。

老体の身体に鞭を打ち、最上位の火遁を放った。

 

「火遁・豪火滅却!!」

 

炎が豪炎となり、森を焼き尽くす。

ゴオオオオオッ!!

凄まじい熱気と轟音を立てて……

そこで、漸く森の侵食が止まる。

結界に覆われているため、被害が外に出ることはないが、もし外で闘っていれば今の攻防だけで、木ノ葉の一部がなくなっていたであろう。

そんな常識外れの闘い。

地図を書き換える必要さえ出てくる闘い。

と――

それを後ろの方で、値踏みするような視線で観戦していた大蛇丸が、

 

「流石は歴代火影と言ったところですかね……

正直、猿飛先生がここまで頑張るとは思ってもみませんでした。ククク……この場を用意した身としては嬉しい限りですよ……」

 

手をパチパチと鳴らし、感心したような声音で言った。

それに、ヒルゼンの横にいた猿魔が心配そうな声音で、

 

「猿飛。お前、チャクラの方は大丈夫か?」

「…………」

 

その猿魔の問いに、ヒルゼンは押し黙る。

チャクラに余力があるか?

そう聞かれた場合の答えは……ノーだ。

火影とはいえ、よる年波には勝てない。年を取れば取るほど、生命エネルギーの源たるチャクラは枯渇していく。

だが――しかし。

弱音を吐く訳にはいかない。

弱音を吐いてはならない。

何故なら……

 

「猿魔……少し時間を稼いでくれ……あの術を使う……」

「あの術? ………!? 猿飛!」

 

一瞬、首を捻った猿魔だが、すぐにヒルゼンの考えを悟り……

しかし、その術はあまりにもリスクが高く……

 

「猿飛、てめー……」

 

死ぬつもりか?

という言葉は言わなかった。聞く必要がないからだ。

ヒルゼンは迷いのない声音で、

 

「穢土転生された者を封印するには、それしかあるまい。そして奴は、大蛇丸はワシらが止めねば、木ノ葉の里は滅びる!」

「…………」

「ワシが止めねばならん……すまんのぅ……」

「……謝んじゃねーよ! お前がそこまで覚悟を決めたんなら……最期まで付き合うさ……」

「すまぬ」

 

その言葉を最後に、二人は決意を固めた。

 

一生に一度しか許されない。

 

最大の禁術を使う覚悟を……

 


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