霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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木ノ葉崩し終結 軋み始めた歯車

《―――――――》

 

最後に人外の言葉を発した後、死神が消え去る。

どさり、どさりと、二つの影が沈む。

猿と蛇。

ヒルゼンと大蛇丸。

二人の身体から、魂が抜かれ、両者が地面に倒れ込んだ。

 

「…………」

「…………」

 

もう、二人が起き上がることは二度とない。

もう、二人とも生きてはいない。

死神に全ての魂を喰われたから。

全てをあの世に持っていかれたから。

だが、満足そうな笑みを浮かべながら、この世を去ったヒルゼンを見て、

 

「最期まで見届けさせてもらった……忍の道を極めた……まさにお前らしい最期だったぜ……」

 

口寄せの時間切れに逆らい、何とかとどまっていた猿魔が、最後の力を振り絞り、ヒルゼンに噛みついていた蛇どもを引きちぎり……

ボン!

元いた場所へと、戻って行った。

 

続いて、四紫炎陣の結界を解き、

 

「大蛇丸様!!」

 

音の四人衆が大蛇丸の亡骸に駆け寄る。

だが、

 

「…………」

 

そこから返事の声はなく……

大蛇丸はぴくりとも動かない。

四人はどうするかと言い合いになるが、今はまだ戦争中。

悠長な長話はできず、即決で結論を出し、大蛇丸の亡骸を運んで、アジトへ帰ることとなった。

 

ヒルゼンと大蛇丸、そして風影の死。

これらの報はすぐに広まり、木の葉、砂、音の里による戦争は一気に集束を始める。

 

時間にして、約数時間ほどの戦争であった。

しかし、その犠牲はあまりにも大きなものだった。

 

――今回の戦争に参加した隠れ里。

 

砂隠れ

約五千人のうち、三千人の忍が木の葉に返り討ちにされ、死亡。

元々、砂隠れは近年、軍備縮小を命じられていたため、この数字は甚大な被害であった。

さらには、大蛇丸による風影の暗殺。

次の長も決まっていない状況で、砂隠れは先行きが不安となる未来へ歩むことを強いられることとなる。

 

音隠れ

約三千人の忍が投入されていたが、その八割がこの戦争で命を落とすこととなった。

大蛇丸が立ち上げた里であるため、彼が亡くなった今、里が滅びの運命を迎えるのは、もはや時間の問題であろう。

 

木の葉隠れ

約一万と二千人の忍が参戦し、三千人の忍が命を落とした。

忍同士の闘いでは、五大国最強の意地を見せ、終始、砂と音から優位を保っていたが……

如何せん、今回は相手が悪すぎた。

砂の守鶴を止めるすべがなく、自来也が登場するまでの一時間。

一方的に虐殺を繰り広げられたのが痛かった。

さらに、木の葉の里の地形も大きく変わってしまい……

守鶴と大蛇による進行で、里の約七割が瓦礫の山と化していた……

幸いにも忍達の対応が早かったため、会場にいた者達を除けば、一般人にはそれほど被害はでなかったが、九尾事件の時よりも周囲の被害は甚大で、里の人々に大きな傷痕を残すこととなる。

そして。

一番大きかった死が……三代目火影。

猿飛ヒルゼンの殉職であった。

 

戦争から、二日後。

雲がかかり、雨が降り注ぐ天候の中。

 

里を守るために闘い、戦死したヒルゼンをはじめとした木の葉の忍達――三千人の葬式が行われていた。

 

「ぐすっ……じじぃ……」

「……火影様」

「う う う うああああぁ……」

「…………」

 

木の葉全体に、悲しい雨が降り注いでいた……

晴れることのない、曇り空が広がっていた……

 

 

そんな日の夜。

木の葉のとある場所で、上役達による緊急の会議が開かれることとなる。

参加したメンバーは……

火の国の大名。

木の葉の相談役、ホムラとコハル。

暗部養成所“根”のリーダー、ダンゾウ。

木の葉一の軍師、奈良シカク。

この五人であった。

本当は自来也も呼ばれていたのだが、当の本人が嫌がり、姿を現していなかった……

 

そして、こんな豪勢なメンバーを集めて行われる会議の議題とは……

大名が口を開く。

 

「うむ……此度は災難であったなぁ……木の葉の里は火の国の要。里がこうなってしまっては、火の国も全力で支援するえ……まずは予算を組まねばの……」

 

と、呑気な口調で話す。

が、

そこに、ダンゾウが強い口調で割り込んだ。

 

「それより先にやる事がある。新たな火影を誰にするかだ!」

 

それを聞いて、シカクは、やはりこう来たか……と心の中で呟いた。

ダンゾウは自身が火影になるチャンスを、ずっと窺っていた。

今この時ほど、絶好の機会はないだろう。

しかし、大名は笑顔で頷き、

 

「おおう……! そうであったな! 実は余は既に次の火影を決めておるのじゃ」

 

と、予想外の回答をする。

ダンゾウが怪訝そうに、

 

「既に決めている?」

 

と、尋ねる。

すると、大名がうむと頷き、

 

「自来也じゃ! 余はあやつが好きじゃからのぅ」

 

そう言った。

シカクはその大名の言葉に、すかさず賛成の意見を述べる。

 

「私も同意見です! 木の葉には今、強いリーダーが必要不可欠! それに自来也様は三代目の弟子の一人であり、四代目の師でもある。火影として、これ以上……」

 

と、言い切ろうとしたところで、相談役のホムラとコハルが、

 

「では、なぜここに自来也はおらん?」

「こんな大事な局面で顔も出さん者に、火影が務まるのか?」

 

予め決めていたかのような、息ぴったりの返しをしてきた。

さらに続けてダンゾウが、

 

「そもそも、その三代目のやり方が、木の葉の里をここまでの事態に追い込んだのだ! 九尾という里の最大戦力をみすみす霧などに明け渡し、同盟などという上辺だけの言葉に惑わされ、挙げ句の果てに、その同盟国に裏切られ、里に甚大な被害を与えた!

そして、四代目火影と、その遺産である九尾と、それに連なる自来也も同じだ! 何もかもが甘いのだ!」

 

ガタッ!

椅子から立ち上がり、ダンゾウが言い放つ。

 

「今こそ求められる火影とは!?

三代目や四代目のような口先だけの火影ではない! 何も行動に移さない自来也などという若造でもない!

この最悪の事態に終止符を打ち、忍の世に変革を成し、掟という名の規律を徹底させる……希代の火影!! このワシだ!!」

「…………」

「…………」

 

場が静まり返る。

誰もが口を開かない。

それは、ダンゾウに任せてもいいのでは? という雰囲気であった。

このままではダメだ!

このままダンゾウを火影の座に座らせてしまえば、木の葉内部に亀裂が走る恐れがある。

そう察していたシカクが、話の流れを変えようと……

反対意見を唱えようとした……

その時。

ふと、嫌な気配を感じて、前を見る。

前を向いて、見てしまった。

ダンゾウの瞳を。

包帯に隠されたまま、朱く煌めく、その眼を。

次の瞬間、急に頭がクラクラし始めて。

それは幻術にかかった時の症状で……

事態に気づいたシカクは、幻術返しの印を結ぼうとするが……時既に遅く……

 

大名の鶴の一声。

 

「うむ、決めた。ダンゾウ、お前を――五代目火影に任命する!!」

 

その言葉が決め手となり、次の木の葉の火影は、志村ダンゾウに決定された。

 

 

大名の火影任命宣言の後。

ダンゾウ、ホムラ、コハル。

かつて、ヒルゼンと同じ班で任務をこなしたことのある三人が、ひっそりと密談を行っていた。

暗く狭い部屋。

一つの灯りのみで、闇の中、言葉を交わす。

淡々とした声で、ダンゾウが言った。

 

「これでワシの火影就任は、もう決まりだ」

 

続いて、ホムラとコハルが、

 

「先ほど砂からも連絡が届いた。木の葉に降伏を宣言し、こちらもそれを受諾した」

「これで漸く木の葉も安泰という訳じゃな……」

 

そう言った。

だが、ダンゾウはその意見に首を振る。

 

「それは違う……次の指導者すら決められない砂隠れなど、既に取るに足らん問題だ。今問題なのは、むしろ砂以外の隠れ里だ」

 

厳かな声で話すダンゾウに、ホムラが尋ねる。

 

「……どういうことだ?」

「今や木の葉には人柱力がおらず、その上、里は甚大な打撃を受けている状態。こんなチャンスをいつまでも、雲や岩が黙っている訳がない……」

「では、ダンゾウ。お前はどうするつもりだ?」

「知れたこと……人柱力、つまり九尾を取り返せばいいだけの話だ」

「お前……まさか!?」

 

まさか、霧に攻めいるつもりか?

という言葉は出さなかった。

憶測で話してよい話ではない。

だが、ダンゾウは話を続ける。

 

「木の葉崩しの際に、人柱力が九尾の力を使いこなしていたと報告が出ている。これは由々しき事態だ。霧の戦力が増大したことを意味している。しかし、逆に九尾を取り戻せば、霧の戦力は半減し、木の葉の力は増大する……」

「そ、それは確かに……」

「霧の姫は、なかなかしたたからしく、九尾が霧のものだとあちらこちらで触れ回っている。既に木の葉の中でも、九尾は霧のものだと勘違いしだすバカどももいるくらいだ……これ以上この問題を先延ばしにすれば、九尾奪還は不可能となるだろう……」

 

そこまでダンゾウが言い切ったところで、ずっと口を閉ざしていたコハルが、

 

「ダンゾウ……霧と争うつもりか? いや、争うのは別に構わん。じゃが、戦力の低下した今の木の葉で九尾の奪還は可能なのか?」

 

と、至極当然の疑問を口にする。

ホムラもコハルも、当然、九尾は取り戻すべきだと考えていた。

三代目はその意見に首を縦に振らなかったが、九尾は貴重な兵器。

しかも里の最終兵器だ。

霧が我が物顔で使っていいものではない……

と。

しかし、取り戻せるのか?

霧に反撃されないのか?

という二人の疑問に、ダンゾウはため息を吐く。

 

「先ほども言ったであろう……むしろこれ以上決断を先延ばしにすれば、完全に奪えなくなるのだ。しかし、今なら三代目の言っていた甘い戯言……木の葉との同盟の話を霧が信じている可能性がある。その隙を突く!」

「できるのか?」

「そのための写輪眼だ……こちらは先手を打てる上に、何人死のうとも、最終的に九尾を奪取できればそれで勝ちなのだ……ワシがいればどうとでもなる……」

 

ダンゾウは自身の体を隠した包帯をなでる。

写輪眼の埋め込まれた場所を……

それに、ホムラとコハルも頷いた。

 

「ならばいい……お前の好きにやれ」

「元々、九尾を奪っていったのは奴らの方じゃからな……」

 

二人の返答にダンゾウは無言で応える。

胸に誰にも話していない野望を秘めながら。

自身が人柱力となり、九尾の力をコントロールし、忍の世に変革を成すという野望を……

心の奥底に隠しながら……

ダンゾウはヒルゼンと決裂してから、里を導くにはどうすればいいのか、ずっと考えていた。

そして答えに辿り着いた。

やはり、己が九尾の人柱力になるしかないと。

が――

九尾を奪還するにあたって、大なり小なり霧との激突は避けられない。

が、自分が死んでしまえば、この世を平和へ導く救世主たり得ん存在がいなくなってしまう。

それでは木の葉は救われない。

それでは忍の世は救われない。

尾獣を操る存在は自分以外ありえない。

となれば……

大を救うためには、小の犠牲が必要不可欠。

囮となる手駒が必要だ。

まずはそこから始めなくては……

この日より、ダンゾウは着々と準備を進めていった。

木の葉と霧。

二つの忍五大国を巻き込んだ。

九尾奪還計画の準備を――

 

ヒルゼンが亡き今、ダンゾウを止められる者は、木の葉のどこにもいなかった……

 

 

同時刻。

時を同じくして。

木の葉の森を越えた、さらにその先にある。

――大蛇丸のアジト。

今そこには、五人の忍が集結していた。

大蛇丸の亡骸を中心に……

その大蛇丸の腹心、トレードマークの丸い眼鏡をした男。

薬師カブトが、

 

「まさか大蛇丸様が殺られるなんてね……流石の僕もこれは予想外の出来事だ……」

 

本当に困ったような表情で、顔をしかめていた。

そして、それはカブトだけではなかった。

 

木の葉との戦争時、物見やぐらの上に四方から結界を張っていた四人の忍。

音の四人衆と呼ばれる、大蛇丸専属の護衛小隊。

 

巨漢で、橙色髪のモヒカン男。

食いしん坊 次郎坊。

 

腕が六本に、脚が二本、合わせて八本ある蜘蛛のような男。

ゲーム大好き 鬼童丸。

 

赤い長髪、常に笛を携えた小隊の紅一点。

毒舌が玉に瑕 多由也。

 

何故か後ろにも頭を持つ男、小隊のリーダー的存在。

四人の中で一番戦闘能力の高い忍 左近。

 

その四人のうちの一人、左近が荒々しい口調で、

 

「オイ! どーすんだよ!」

 

音の里のリーダー、大蛇丸。

彼の死体が目の前にある。

こんなのどうすればいいのか?

という問いに、カブトは眼鏡をくいっと上げ、冷静に答えた。

 

「落ち着くんだ、左近」

「あァ?」

「まだ一つだけ手がある……かなり分の悪い賭けになるのは、間違いないけどね……」

「手がある……だと?」

 

左近に続けて、多由也が毒舌を吐く。

 

「何言ってんだ、クソメガネ!」

「いや……眼鏡って……まあ、今はいいか……」

 

げんなりした声音でため息を吐いた後、カブトは真面目な表情をして、

 

「実は、一つだけこの状況を打開する策がある。大蛇丸様を生き返らせる方法がね……」

 

と、言った。

四人全員が、同時に目を見開く。

鬼童丸がカブトに詰め寄り、

 

「生き返らせるって、どういうことぜよ! 教会でゴールドでも払うのか?」

「おお、大蛇丸よ、死んでしまうとは情けない。

って、シャレになんない冗談はおいておいて、僕が言いたいのは、呪印。つまり、大蛇丸様の精神チャクラを利用した復活技術。いわゆる蘇生ってやつだ……」

「ザオリ……」

「うん、それだ。キミ達の身体にも、まだ呪印が残ってあるだろ? それは大蛇丸様の生命力が完全には途絶えていない証拠でもある」

 

四人が自分の呪印を見て、ハッとした顔を浮かべた。

カブトはさらに説明を続ける。

 

「もちろん、はじめに言った通り、分の悪い賭けだ。が、決して根拠がない話でもない。僕の長年のデータを元に……」

 

が、そこで多由也が遮る。

 

「そんな長ったらしい話は、どーでもいい。で、ウチらは何をやればいい?」

 

と、そこで、次郎坊が口を開く。

 

「多由也……カブトさんは大蛇丸様がいない今は、音のリーダーだ。そーういう……」

 

が、次郎坊の説教を多由也がまとも遮り、

 

「るっせーよ! デブ!」

「…………」

 

話がついたところで、カブトは会話を再開する。

 

「まぁ、まどろっこしいのは、僕もあまり好きじゃないからね……単刀直入に言えば、キミ達には今から木の葉に向かって、大蛇丸様の新しい器……うちはサスケくんを攫ってきて欲しい……」

「…………」

「もし大蛇丸様が復活したとしても、今の体のままでは、すぐに死んでしまう恐れがある。苦労して復活させても、それじゃあ割りに合わない……わかるね?」

 

左近が頷く。

 

「つまりオレ達は、そのサスケっていう奴をボッコボコにして、拉致ってくればいい訳だな」

「ああ、そうだ……簡単だろ?」

 

そう言って、カブトはニッコリと笑った。

 

 

木の葉と円滑に同盟を結ぼうとする、霧。

 

霧に奪われたナルト……九尾を取り戻さんと企む、木の葉のダンゾウ一派。

 

三代目火影と相討った大蛇丸の復活を目論む、音の残党。

 

三つの歯車が、狂い、軋んだ音を奏で始めていた……

 

 


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