霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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捕獲任務 霧隠れの鉄槌

息を殺せ。

気取られるな。

自然と一体になれ。

 

霧隠れ外れにある森の中。

そこで、一人の忍が狩人となっていた。

霧隠れの中忍。

金髪碧眼の少年、うずまきナルト。

彼は今、重大な任務についていた。

その任務を遂行するため、ナルトは師匠である自来也から教わった、覗き見専用の透遁忍術で姿を隠し、ついにターゲットと距離、五メートルの所まで接近していた。

 

「…………」

「…………」

 

予め影分身しておいた、分身ナルトと無言で頷き合う。

そして、

息をひそめ、

にじり寄り、

――敵を穿つ。

 

「霧隠れ秘伝体術奥義! 二千年殺しィ〜!!」

 

神速ともいえるスピードからの、二段構えの攻撃。

に、ターゲットは……

 

「ぐぅおおおおおお!!」

 

断末魔の叫びを上げながら、空高く吹き飛んだ。

 

そして、

 

「待っちやがれぇー! クソ餓鬼ィ!!」

 

鬼のような表情で追いかけて来た。

最初に出会った頃の、再不斬を思い出す表情だ。

これこそが正真正銘、本物の鬼ごっこ。

だが、待てと言われて、待つバカはいない。

だからナルトは、

 

「だ〜れが待つか! お尻ペンペン!」

 

木を蹴り、器用に後ろを振り向きながら、挑発する。

しかし、油断はしない。

なぜなら、相手が相手だからだ。

ナルトは尻を叩きながら、そのターゲットを見る。

霧隠れのマークが入った帽子と髷のように結った髪、ポンチョのような服装が特徴的な顎髭男。

忍刀七人衆の一人。

鈍刀・兜割の使い手、通草野餌人。

兜割は槌と斧を鎖に繋いだ形状をした刀で、どんなガードも貫くを信条にした刀。

その業物を使いこなす餌人についた異名が――霧隠れの鉄槌。

普通の忍が聞けば、いくら何でもそんな大袈裟な、と思ったかも知れない。

だが、ナルトは違った。

――忍刀七人衆。

その名を聞いただけで、警戒せざるを得なかった。

自分のチームに、その異名を持つ忍が二人もいるのだから。

でも、しかし。

 

「…………」

 

それでも勝てる。

と、ナルトは思っていた。

少なくとも、速さで負けることはないと。

だが、

 

「オラァ!!」

 

バキバキ。

森林が破壊される音。

逃げるナルトに、餌人が後ろに張りつきながら、兜割を振り回す。

信じられない破壊力。

 

「何なんだってばよォ〜!」

 

ナルトは叫んだ。

理不尽な状況に。

それに餌人は、

 

「何なんだは、こっちのセリフだ! いきなり訳のわからんイタズラして来やがって! ぶち殺してやる!」

「人が、簡単に人を殺すとか言っちゃあ、ダメなんだぞ!」

「気配消してまで攻撃して来た奴が、何言ってやがる!」

 

まったくの正論である。

だからといって、止まる訳にもいかない。

逃げる。

壊す。

逃げる。

壊す。

を、何度も繰り返し、ナルトはもう一度振り向く。

すると、やはり変わることなく、髭男がいて。

その髭男が、少し残念そうな顔をしていて。

そして、残念そうな声音で言った。

 

「この程度なのか?」

 

ナルトは前を見ながら、木を蹴り、会話に応える。

 

「え? 何が?」

「テメーの実力はこの程度なのかって聞いてんだよ」

「…………」

「オレに気配を気取られず近づいて来たから、ちょっとは骨のある奴なのかと期待したんだが……」

 

殺気が溢れ出す。

 

「スピードはなかなかのものだが、それ以外は話にもならん。これで終わりなら……もう、潰れろ!」

 

そう言って、今までより、さらに速い速度で兜割を振り回してきた。

それに、ナルトは心の中で呻く。

まだ、もう少しだけ逃げたかったのだが、仕方がない。

呼吸を一つ入れ、体にチャクラを巡らす。

ほんの一秒にもみたない動作。

だというのに、後ろにいる髭男は、

 

「ほぉ……やる気になったか」

 

と、こちらの動きを読み取る。

楽しそうに、警戒の色を強くする。

それだけのやり取りで、理解した。

間違いなく強敵だと。

だが、もう止まる訳にはいかない。

ナルトはホルスターから、クナイを取り出す。

変わった形をしたクナイ。

マーキングの施された術式クナイ。

それを髭男の顔面目掛けて放つ。

それから、すぐさま。

 

「行くってばよ!」

 

印を結ぶ。

術を発動する。

 

「手裏剣影分身の術!!」

 

ナルトの投げたクナイが、次々と数を増やしていく。

一、二、三――その数、数十本。

圧倒的な物量。

餌人の視界を無数のクナイが覆う。

それを、

 

「オラァ!!」

 

餌人が兜割の一振りで、弾き飛ばした。

ボン! ボン!

何本かの分身クナイが、衝撃に耐えきれず消える。

そして、そのまま餌人がナルトに接近し、兜割を振り上げ、

 

「どらァ!」

 

振り落として来た。

それにナルトは防御の姿勢を取り、笑う。

 

「にししし」

 

しかし、餌人はそれを歯牙にもかけず、

 

「この鈍刀・兜割の前に、ガードなんて意味ねえんだよ!」

 

と、自信満々に豪語する。

が、ナルトはさらに余裕の笑みで、応えた。

 

「だーれが、そんな危ねーもん、ガードなんてするかよ……バ〜カ!」

「…………!」

 

そこで漸く、餌人の顔に焦りが現れる。

が、もう遅い。

遅すぎた。

今のナルトを相手に楽しむ余裕なんて、餌人には最初からなかったのだ。

見つけた瞬間、殺す。

というぐらいの勢いで、闘わなければいけなかった。

しかし、もう遅い。

 

一瞬。

一瞬でナルトの姿が消える。

そして、次の瞬間。

ナルトは、宙を舞っていた術式クナイの一本を掴み、

 

「動くなってばよ」

 

餌人の首筋に、クナイをあてた。

飛雷神の術。

最速の忍とうたわれた、あの四代目火影が得意としていた時空間忍術。

マーキングの術式の描かれた場所へ、人や物を閃光と共に、一瞬で飛ばす忍術。

その目にも止まらぬ早業に、人々は四代目火影のことを“黄色い閃光”と呼んでいたのだ。

そして、今はナルトが、その神速の技を受け継いでいた。

餌人は体を動かす訳にもいかず、目線だけをナルトに送り、言った。

 

「……テメー、手ぇ、抜いてやがったな」

 

それにナルトは、おどけた顔で返す。

 

「何のことだってばよ?」

「とぼけんじゃねーよ……これだけ速く動けんなら、オレから簡単に逃げられただろうが……」

「忍者は裏の裏を読め。騙されるお前が悪いんだってばよ」

「くっ……こんな餓鬼に足元をすくわれるとは……」

 

などと言っているが、もう後の祭り。

餌人の言う通り、ナルトは最初、あえてスピードを抑えて逃げていた。

最後の一手のため。

相手がこちらの力量を読み違えるように、仕向けるため。

そして、その結果、ナルトは餌人を追い詰めることに成功したのだ。

完全に作戦通り……

と、言いたかったところだが……

 

「やれやれ、やはりこうなっていましたか」

 

そのナルトの考えに、二つの気配が割り込む。

その一人目が、ナルトと餌人を見て、状況をすぐに理解し、

 

「氷遁・氷牢の術!」

 

すぐさま氷の柱を作り、餌人の足を凍らせ、完全に動きを封じる。

呻く餌人からクナイを外し、ナルトはその氷使いに声をかけた。

 

「ハク! 来てくれたのか」

「ええ、一向にナルトくんの帰って来る気配がありませんでしたので……」

「あはははは……」

 

本当は三人で囲み、全員でターゲットを取り押さえる作戦だった。

しかし、もう作戦は滅茶苦茶で……

だから。

微妙に困り顔で、ナルトは笑う。

その困り顔で、ハクを見上げる。

ナルトと同じく、一週間ほど前に木の葉で行われた中忍試験で、見事中忍になり、装い新たに、中忍のベストを着ているハクを。

ちなみに、ナルトと長十郎も試験に合格し、水影から中忍ベストを貰っていたのだが、別に着用の義務もないので、結局押し入れの奥に仕まい込んでしまっていた。

しかし。

ナルトとは違い、長十郎にもハクと同じように、一つだけ見た目に大きな変化があった。

 

「え? まさか僕の出番はなしですか?」

 

そう言いながら、ハクより一歩遅れて到着した、水色髪のちょっと自信なさげな少年。

長十郎が、餌人の前に立つ。

背中に二つの柄がある、ちょっと変わった形状の大刀を携えて。

そして、それを見た餌人が目を剥き、

 

「テメー、その刀はヒラメカレイ!」

 

と叫んだ。

 

双刀・ヒラメカレイ。

忍刀七人衆の象徴である、七本刀の一振り。

以前まで長十郎が使っていた忍刀と同じく、チャクラを溜める能力を有し、それを解放することで、切れ味を増したり、形状変化まで行える刀。

 

そんな名刀を、長十郎は中忍合格祝いに、水影の照美メイから与えられていたのだ。

そのヒラメカレイを見て、餌人はナルト達を見回し、思い出したかのように言った。

 

「そうか……テメーらが最近ウワサの、霧隠れの鬼人・再不斬を隊長にした小隊か……

オレと同じ、忍刀七人衆に加わる予定のヒラメカレイの使い手、長十郎。

呪われた一族、雪一族の末裔にして、氷遁の使い手、ハク。

黄色い閃光の再来と広まり始めた、神速の瞬身使い、ナルト。

……なかなか豪勢なメンバーじゃねーか」

 

などなど、いきなり褒めちぎって来て。

それにナルトは目を輝かせて、

 

「マジで! マジで! オレ達、そんな風に呼ばれてるの? いや〜、そんなぁ〜、そこまで大したことはないんだけどなぁ〜。何だかてれるってばよ〜」

 

てへへ、と頬を緩ませる。

それにハクはため息を一つ入れ、

 

「ナルトくん……てれるところではないですよ。忍が目立っても、いいことなんてないのですから……」

「いやさ、でもさ、向こうが勝手にウワサしてるんだから、しょうがねーってばよ」

「全然仕方ないという顔ではないですよ……ナルトくん……」

 

と諦めにも似た声で言い、最後に拘束され、身動きの取れない餌人を見て……

ハクが言った。

 

「取りあえず……運びましょうか」

 

 

霧の里の中心。

そこに建つ一際大きな建物。

その一室、水影室が照美メイの仕事場であった。

とはいっても、特別な部屋ではない。

ある程度の広さではあるが、きらびやかな装飾がある訳でもなく、普通の木で作られた、普通の部屋であった。

そもそも水の国はそこまで裕福な国ではない。

食べ物や仕事に困るようなことはないが、五大国の中でいえば、風の国に次いで資金力は少ないといえるだろう。

何故なら、常々国が戦争を行っていたから。

他国との戦争だけではなく、常に内戦が勃発するような国だったから。

里のトップであった四代目水影のやぐらが、暁と呼ばれる組織に操られ、いいように利用されていたから。

その事をメイの腹心であった、青という名の男が、文字通り命を懸けて証明した。

霧隠れをメイに託して。

だから彼女は水影になったのだ。

腐った時代に終止符を打つために。

 

「次はこの書類ですね……」

 

机の上に乗せられている書類の山を、一枚一枚片付けていく。

地味な仕事で、時々必要あるのか? と悩むものも多いが、ここに上げられてくるということは、大なり小なり理由があるはずだ。

全部、目を通す必要がある案件なのだろう。

と――

メイがてきぱきと仕事をこなしていた時であった。

突如。

部屋の扉がバンッ! と開かれる。

 

「邪魔するぜ、メイ」

「お邪魔するってばよ、メイの姉ちゃん」

 

再不斬とナルトだった。

後ろから、ハクと長十郎もついてきている。

ここ最近、色々な意味でメイが気にかけている霧隠れ第一班のメンバー。

その隊長である再不斬が、何やらぐるぐる巻きに巻かれた物体を肩に担いで、ずんずんと部屋に進入してきた。

メイは慌てて、お見合い写真集と書かれた書類を机の引き出しにしまい……

キリっとした表情で、

 

「どうしたのですか? 皆さん」

 

彼らを迎い入れた。

すると。

 

「届けもんだ!」

 

メイの目の前に、ドサリと何かが転がる。

再不斬が怪しげな物体を床に放り投げる。

その、急に床に落とされ、

 

「うごっ」

 

小さく呻いた髭男を見て、

 

「…………」

 

メイは言葉をなくした。

が、

 

「え?」

 

と、一言だけ呟いた。

それに再不斬が、

 

「オレ達にコイツの捕獲任務が出てただろーが。だからこうして捕まえて来てやったんだ……何、不思議そうな面してやがる?」

 

我が物顔で、そう話す。

後ろにいたナルト、ハク、長十郎の三人が、

自分達が捕まえたんだ!

という言葉を、ギリギリで飲み込んだ表情をしていたが……

何かあったのだろうか?

まぁ、それはさておき……

 

「いや……あのですね……」

 

メイが言いたいことは、そんなことではなかった。

班長である再不斬に尋ねる。

 

「えーと、確かに、鈍刀・兜割の使い手、通草野餌人の捕縛命令は出そうとしていましたし、実際、アナタ達にそのことを昨日話しました。が、まだ正式な任務としては言い渡してはいませんでしたよね……」

「…………」

「いえ。捕まえてきて下さったのは、もちろん有難いことですし、助かるのですが……よく捕まえられましたね? 居場所すら知らされていなかったはずですのに……」

「…………」

 

再不斬が無言で振り向く。

ナルト達の方を見る。

そして、今さらながらのことを訊いた。

 

「……お前達、どうやってこの髭を捕まえた?」

 

その問いに、ハクが一歩前に出て答える。

 

「すみません、再不斬さん。チームワークを高め合うため、僕と、ナルトくんと、長十郎さんの三人で修行をしていたのですが、そこで偶然、昨日見せて頂いた写真に写っていた……この人を見つけて……今見逃せば、捕まえる機会も見失ってしまうのではと考え……」

「……修行ついでに捕まえてきた訳か?」

「はい……」

 

申し訳なさそうに話すハク。

それに再不斬とメイは、憐れみを込めた目線で、ぐるぐる巻きにされた餌人を見た。

忍刀七人衆。

それは何も、特殊な刀を使いこなす忍、という意味だけで与えられる異名ではない。

水影を除いた、霧隠れ最強の七人。

一騎当千の忍に与えられる名だ。

そのはずなのだが……

 

「う〜、むぅ〜」

 

ついこの間まで下忍だった三人に、修行ついでと捕らえられ、何やらよくわからない言葉を発している霧隠れの鉄槌を見て、

 

「はぁ……」

 

メイは頭を抱えた。

が、仲間にできれば貴重な戦力だ。

だから、メイは言う。

 

「再不斬、取りあえず口だけ拘束を外して下さい」

「ああ」

 

再不斬が餌人の拘束を緩める。

すると、息を吸い、吐くと同時に、餌人が吠えた。

 

「テメーら、オレにこんなことして、タダで済むと思って……!?」

 

と、言いかけたところで。

メイの目から見ても、見事としか言い様のない瞬身の術で、ナルトが餌人の背後を取り。

寅の印を結んで……

しゃがみ込み……

 

「くらえ! 千年殺し!」

「ぐおっ……」

 

餌人が芋虫のように、のたうち回る。

だが、ナルトは攻撃の手を緩めない。

 

「千年殺しィ!」

「ぎゃあああああ!」

「千年殺し!」

「ちょっ……ま、待て……」

「千年殺しィ!!」

「ゆ、許してくれぇええ」

 

床に体を何度も打ちつけ、霧隠れの鉄槌が泣き叫ぶ。

ナルトは側にいた再不斬を見上げ、

 

「どうするってばよ。再不斬の兄貴」

 

それに再不斬は、残忍な笑みを浮かべる。

ニタニタと、オモチャを見下ろし。

餌人を見下ろし、ナルトに続く。

 

「クククク……謝って済めば、忍の世界に追い忍部隊はいらねーんだよ」

「まったくだってばよ! せっかく仲間してやろうって、ここまで連れてきてやったのに……」

「ああ、全くその通りだ。仁義を通さねー奴は、忍だろうと、何だろうと、醜いもんだ」

 

酷い。

酷すぎる。

というか、それはナルトと再不斬が言っていいセリフなのか?

メイ、ハク、長十郎の三人は同じことを同時に思ったが……

思ったのだが……

狙いが自分に移るのは嫌なので……

 

「………………」

 

何も言わないことにした。

触らぬ神に祟りなし。

 

それから、暫くして。

ナルトと再不斬の努力により、少しだけ性格が改善した餌人が……

 

「わ、わかった……と、取りあえず話しを聞いてやる……いや、聞かせて下さい」

 

頭を下げてきた。

これで漸く話を進められる。

メイは咳払いを一つ入れ、本題に入った。

 

「では、餌人。アナタはどうして霧の里付近を徘徊していたのですか?」

「……オレ以外の忍刀七人衆が……里に戻っているとウワサで聞いて……」

 

忍刀七人衆。

彼らは、水影がメイに代わるまでの間、その全員がクーデターなどを起こし、里を抜けていた。

しかし、メイをはじめとした、霧隠れ全体の努力の甲斐あって、餌人を含んだ七人衆のうち、既に五人が霧の里に戻ってきていた。

 

「なるほど。一度は私の誘いを蹴っておきながら、仲間外れは困ると、こうして帰って来た訳ですね?」

「…………」

 

メイの問いに、餌人は押し黙る。

餌人は一度、メイの出した破格の条件での帰還命令を無視していたのだ。

それはこの場で殺されても、文句すら言えないほどの愚行であった。

 

「…………」

「…………」

 

数秒ほど、緊迫した空気が流れる。

が――

次の瞬間、メイは慈愛に満ちた目で微笑み、

 

「再不斬、拘束を全て外して上げて下さい」

「!?」

 

突然の宣言に、餌人が目を見開く。

それに再不斬は苦笑して、

 

「いいのかよ、メイ? またクーデターを起こすかも知れねーぜ?」

「アナタが言うとシャレに聞こえませんよ、それ……」

「ククク……まあ、外せと言われれば、外してやるがな」

 

と言い、

 

「ほらよ」

 

縄を解き、拘束を外した。

戸惑いを隠せない顔で、餌人がメイに尋ねる。

 

「ど、どういうことだ……オレを殺さねーのか?」

「殺す? 何故?」

「いや……そりゃ……」

「今、霧の里は過去のものを水に流し、清算し、全員が一丸となって里を立て直している真っ最中。人手はいくらあっても、足りないくらいです。だというのに、貴重な戦力を自ら潰してどうするのですか?」

「…………」

「もし、アナタが罪悪感を感じているのでしたら、里のために一つでも多く、何かを成し遂げて下さい」

 

全面的な許しに、餌人は深々と言った。

 

「……ありがとう…ございます」

 

それにメイはニッコリと笑い、

 

「ええ、お帰りなさい、餌人。取りあえず、詳しい話は明日にして、今日は休息を取りなさい」

「了解」

 

そう言い終わってから、餌人は暗部に連れて行かれ、水影室を出ていった。

 

 

部屋に、メイと一班のメンバーだけが取り残される。

そして……

今のやり取りを見ていた長十郎が、憧れと尊敬の眼差しで、

 

「やはり水影様は素晴らしいお方です。一生ついていきます!!」

 

両手を組み、メイを崇め立てていた。

ナルトとハクも、それに同意するように頷く。

再不斬もしかめ面をしてはいたが、満更でもない様子だった。

 

しかし。

これで話は終わり……ではなかった。

 

七人衆の一人。

鈍刀・兜割の使い手、通草野餌人。

霧隠れの鉄槌を仲間に引き戻すという大任を完了し、第一班が水影室を退室しようとした時。

 

「ん?」

 

ナルトは自分の身に起きている異変に気づく。

正確には身ではなく、ナルトのポーチが、

バタバタ!

と、勝手に動いていて……

すぐにナルトがポーチを開けて中を見ると、巻物が一人でに動いていた。

ナルトは訝しみながら、それを手に取る。

すると、次の瞬間。

ボンっ!!

白い煙が溢れ出した。

突然の事態に、再不斬達は少し警戒し、メイがナルトに言う。

 

「ナルト!? 何ですか、これは?」

「わかんねーってばよ! この巻物は自来也先生が何かあった時に、すぐ連絡を取り合えるようにって、渡してきたやつだけど……」

 

という説明を聞いて、メイはおおよその事態を理解した。

自来也に渡された物だと聞いて、再不斬達も警戒の色を解く。

そんなナルト達の前に現れたのは……

 

「ふい〜、やっと出られた……」

 

掌サイズより少し大きい、赤色のカエル。

いつもゴーグルを首に掛けた、連絡蝦蟇。

コウスケであった。

いきなりのご登場に、ナルトは首を傾げる。

 

「どうしたんだ? コウスケ」

「おお、ナルト! 自来也から、お前宛に連絡を預かって来たんだ……」

 

と言いながら、コウスケがナルトに巻物を手渡す。

そして、

 

「何やら、水影様と相談して決めろって言ってた。じゃ、確かに伝えたからな!」

 

そう言い、ボン! と、煙を巻き上げ消えた。

 

「え?」

 

手元に残った巻物を見て、頭に?マークを浮かべるナルトだが……

 

「…………」

 

周囲から来る、早く読め! という雰囲気に気づき、慌てて巻物を開いた。

すると、そこには……

 

「どういうことだってばよ……これ?」

 

ナルトの予想していなかった内容が記されていた。

メイは呆けるナルトに、

 

「ナルト。巻物を私にも見せて下さい」

「…………」

 

無言で、巻物を手渡すナルト。

それを受け取り、メイは中身に目を通した。

そして、そこには。

 

「…………!?」

 

メイですら、衝撃の受ける内容が記されていた。

どうするべきか、悩むように眉を寄せる。

情報を読み取り、状況を整理する。

と――

それを黙って見ていた再不斬が、ついに痺れを切らした声で、

 

「おい、メイ! 何が書かれてたんだ?」

 

と、訊いてきた。

メイは一旦巻物から目を離し、要点だけを再不斬達に話す。

巻物に記されていた情報は、大きく分けて二つ。

 

一つ目は。

三代目火影、ヒルゼンの殉職。

 

二つ目は。

そのヒルゼンと相討った、大蛇丸の部下によるサスケの誘拐。

そして、それを奪還するための援助要請だった。

 

ヒルゼンのことは、ある程度メイは既に悟っていた。

ここ数ヶ月だが、密に連絡を取り合っていたヒルゼンの連絡が急に途絶えたからだ。

彼が優れた人物であることは、届いていた文面を見るだけでも理解できるほどであった。

それほどまでに、メイはヒルゼンのことを評価していた。

だからこそ……

そのヒルゼンの戦死が、木の葉との同盟にどこまで影響を及ぼすのか。

メイが最近頭を悩ませている、大きな問題の一つであった。

 

そして、もう一つの内容はサスケの奪還。

同盟国であるはずの砂ではなく、霧に要請してきたということは、もはや木の葉と砂の同盟は形だけということなのだろう。

その上、自里の忍すら満足に動かせないとは。

それほどまでに木の葉が此度の戦で、甚大な被害を受けたのか。

火影を失い、里に綻びが出始めたのか。

それとも、その両方か。

 

そして、この要請を受けるメリットが、霧にあるのか……

 

メイは思考を巡らし――ナルト達を見た。

 


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