霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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シノvs鬼童丸 切り札とは

シカマル、チョウジの二人とわかれ、先に行った音忍達を追いかけるイルカ小隊。

その小隊の二列目。

キバと赤丸の後ろ姿を見ながら、シノは今回の任務について考えていた。

この任務の達成条件は至ってシンプル。

誘拐されたサスケの奪還。

付け加えれば、火の国の国境を越える前に奪還できるのが、ベストである。

既にシノ達が里を出てから、一日は経過していた。

三日もあれば、国境は越えられるだろう。

つまり、サスケ奪還のチャンスはそう多くはない。

できれば、次の接触でサスケを奪還したいものだ……

などと、考えていた時……

キバと赤丸の背中に緊張が走る。

そして、キバが左隣にいるイルカに言った。

 

「イルカ先生……敵の臭いだ……」

「どれくらい離れている?」

「近いぜ……このまま全力で追えば、五分もしないうちに追いつける」

「…………」

 

イルカが思案顔になる。

そこへ、一番後ろにいたネジが疑問を呟いた。

 

「しかし妙だな……さっきからトラップの一つも見当たらない……どういうことだ?」

 

それにはシノも同意見であった。

追う側と追われる側。

この二つを比べると、基本的に追われる側が有利というのが、忍の常識であった。

いくつか理由はあげられるが、その中でも大きな理由が二つある。

一つは、

逃げる側は、逃走ルートや移動速度を自分達の自由に決められるところだ。

どんな逃げ方をしようが、文句を言う奴はいない。

もう一つは、

万が一敵に追われ、戦闘になったとしても、先手を撃ちやすいというところだ。

罠を仕掛けるもよし。

得意なフィールドで迎え撃つもよし。

自分達に有利な状況で闘える……言い換えれば、不利な部分では闘う必要がないのだ。

だが……

シノの隣にいた、サクラが言う。

 

「確かに……ネジさんの言う通りおかしいわよね……私達を待ち伏せできるのに、それをしないなんて……」

 

シノやネジと同じ考えを呟く。

それにイルカも首を捻り、

 

「……わからん……だが、罠などが仕掛けられてこないのは、こちらにとって好都合だ。このまま一気に接触するぞ!」

 

部下達に指示を出す。

シノ、キバ、サクラ、ネジも頷き、

 

「「「了解!」」」

 

一つ返事で、作戦が決まった。

 

 

それから、キバの推測通り、五分後。

シノ達はターゲットと接触していた。

最初はイルカが変化の術を使い、次郎坊に化けて接触したのだが……

 

「今度はオレにやらせろよ!」

 

あっさりバレてしまった。

蜘蛛のような男が、サスケの入った棺桶を後ろに放り投げ、シノ達の前に立ちはだかる。

 

「チィ! あのデブ! 何やってやがる!」

 

そう言いながら、赤髪の女が棺桶を受け取り、

 

「鬼童丸! チンタラ遊んでねーで、さっさとカス共をぶっ殺して追いつけよ!」

 

と、可愛い顔に似合わない暴言を吐きながら、音忍のリーダーと共に先へ進もうとする。

それを見たシノは、

 

「そうそうお前達の企み通りにはさせられない」

 

追いかけようとした。

が……

突如、

 

「忍法・蜘蛛縛り!!」

 

シノの動きに気づいた、鬼童丸と呼ばれた男が、術を繰り出してきた。

変わった術で、術名通り、蜘蛛の糸を口から吐き出し、そのチャクラで作られた糸で敵を拘束する技のようだ。

その技を死角から受けてしまい……

 

「くっ……」

 

シノは体を木に打ちつける。

不覚にも動きを止められてしまった。

何とか抜け出そうともがいてみるが……

 

「……なるほど……なかなか厄介な術のようだ」

 

抜け出せない。

まあ、それは最初からわかっていたことだが……

この術は、最初の接触で一度見ている。

最初は不覚をとってしまった。

いや、こうして捕まってしまった以上……二度目か……

だが、

 

「三度目は……ない」

 

シノは誰にも聞こえない音量で呟きながら、体中から虫を這わせる。

虫達が体に空いた小さな穴から、次々と這い出てきた。

寄壊蟲。

油女一族の秘伝忍術。

油女一族は、体の体内に虫を飼っている。

一匹や二匹ではない。

数え切れないほど、大量に。

その虫達に、普段は自身のチャクラを喰わせて、術者の体内を住処として提供しているのだ。

だが、一度戦闘となれば……

 

「ムシャムシャムシャ」

 

寄壊蟲が鬼童丸のチャクラで作られたシノを拘束していた糸を喰らい、喰い千切る。

その大量の虫達が蠢く光景を、シノは平然とした顔で流し、周囲を見渡す。

状況を把握する。

 

「サスケはまたも見逃してしまったか……」

 

ターゲットの姿は、既に遠くへ行ってしまっていた。

ならば、次にやるべきことは一つだ。

だが、その前に……

 

「くっ……は、放しなさいよ!」

「放せと言われて、放すバカはいないぜよ! まずは一匹目!」

 

敵に捕まり、トドメを刺されそうになっているサクラを助けなければ……

鬼童丸が、何やら先ほどまでの粘着性のある白い糸とは違い、

 

「忍法・蜘蛛粘金!!」

 

茶色い硬質する糸を口から吐き出した。

さらに、それで小さな鎌を作りあげ、

 

「一人目の脱落者ぜよ!」

 

サクラに投げた。

と――

そこでシノが動く。

鎌の軌道を寄壊蟲で反らし、サクラの前に立つ。

サクラがこちらを見上げて、

 

「シノ!」

「そのままじっとしていろ」

 

シノは淡々と言い、虫達にサクラを拘束していた糸を喰わせる。

後ろから、ヒィッ! などと、小さな悲鳴が聞こえるが、気にしない。

……気にしない。

黙々と作業を続けながら、シノは周りを観察する。

すると。

シノと同じように捕まっていたネジが……

恐らく柔拳を使ったのだろう。

自力で脱出し、イルカとキバと赤丸の二人と一匹を助けていた。

それを見て、シノは薄く笑う。

心強い味方がいたものだと。

で、最後に上を見上げると、

 

「なるほど……ザコキャラばかりかと思っていたが、なかなか楽しませてくれそうな奴が、二人もいるぜよ」

 

手から伸ばしたチャクラ糸で、蜘蛛のように木にぶら下がりながら、鬼童丸がシノとネジを観察していた。

注意深く。

楽しそうに。

そこで、拘束から逃れたサクラが起き上がる。

 

「あ、ありがとう……」

「問題ない」

 

さらに、イルカ、ネジ、キバ、赤丸も一ヵ所に集まる。

どうするか作戦を立てるために。

が、敵を前に長々と雑談する暇はない。

ネジが一歩前に出て、言った。

 

「行け……オレがやる」

 

なるほど……

確かに、ネジなら勝つだろう。

だが……

シノはさらに一歩前に出て、言った。

 

「それはダメだ……ネジ、お前とキバはサスケを追跡するために必要不可欠だ……」

 

そのシノの意見に、ネジが反論する。

 

「だが、このまま全員で闘えば、サスケは国境を越えるぞ……そうなってしまえば、実質任務は続行不可能となる。誰かがコイツを止めなければ」

「ああ、それにはオレも同意見だ」

「なら……」

「だからこそ……その役はオレがやろう。なぜなら、奴と同じ蟲使いのオレが、この中では一番適任だからだ……」

 

そこでキバが、こちらに話しかけてきた。

 

「赤丸が言うにはコイツ……さっきのデブよりかなり強いらしいぜ。一人でやれんのか?」

 

それにシノは、迷いなく頷き、

 

「問題ない。十分もあれば追いつく」

 

その返事を受け、キバは、

 

「そうかよ……」

 

と、シノからイルカに視線を移して、

 

「じゃ、先に行こうぜ。イルカ先生」

「な、何を言ってるんだ。せめて二人がかりでやるべきだ。数の上ではこちらが有利なんだ! わざわざ敵に合わせて……」

 

が、そのイルカの言葉を、キバが遮る。

 

「問題ねーよ、イルカ先生。コイツは強い。それに常に冷静沈着だ。自分にできないことは決してやらない。そのシノがやれるって言ってんだ……正直オレは、本気のコイツと闘うはめになる敵さんの方に同情するねぇ……」

 

などと言ってきて、それを聞いたシノはグラサンの奥に隠した目を、僅かに緩めた。

伊達にオレとチームを組んできてはいないな……と。

それから気を引き締め直し、もう一度言った。

 

「コイツはオレがやる……お前達は先に行け」

 

その言葉に、今度は全員が頷き、

 

「いいだろう……お前に譲ろう」

「後から追いつけよ!」

「任せたわよ! シノ!」

 

と、口々に言い、サスケを追い始めた。

だが、そうは問屋が卸さない。

今まで様子を見ていた鬼童丸が、口に手をあて、

 

「ふん……逃がさねーぜよ!」

 

イルカ達目掛けて、先端のみ硬質化させた、殺傷能力を高めた糸を放つ。

が……

シノはそれを冷静に観察しながら、両手から寄壊蟲を多量放出。

虫達に糸を切断させ、追撃を止めた。

そして。

イルカ達の向かった進路を塞ぎ、

 

「オレは言ったことは必ずやり遂げる。もし、アイツらを追いたいのであれば、オレを倒してからにするのが賢明だ……」

 

シノが鬼童丸の前に立つ。

鬼童丸は笑みを浮かべて、糸を引っ込めた。

 

「お前、なかなかやるぜよ」

「お褒め預り光栄だ……」

「クク……他の奴らを逃がしたのは計算外だが……まあいい。お前を除けば、楽しめそうな奴は、あと一人ぐらいしかいなさそうだからな」

「……アイツらを甘く見ていると手痛いしっぺ返しをくらうことになるぞ……」

「くはははは、そいつは楽しみぜよ。なら、テメーを三分で遊び殺して、他の奴らでも遊ばせてもらうとするぜよ……」

「……悪いが、こちらには時間の余裕がない。三分は長すぎる……」

 

体中から、虫達を蠢かせ、

 

「二分で終わらせるとしよう」

 

シノの周囲に数千の寄壊蟲が飛び回り、視界を黒く染め上げる。

それを見た鬼童丸が、口から硬質化する糸を吐き出し、それを用いて剣を形取る。

 

「お前が遠距離タイプなのはもう攻略済みぜよ。遠距離タイプの忍は極端に近距離戦闘に弱い」

 

と言いながら、茶色い剣を掲げ、

 

「ゲームってのは攻略法がわかっちまったら、途端に面白くなくなるぜよ。弱点丸出しのザコキャラは……消えろ!」

 

突進して来た。

それにシノは、やはり狼狽えることなく、拳を握り、木の上で体を回転させ、

 

「それは愚策だ……」

 

鬼童丸にカウンターを決めた。

殴る時に、“雌の寄壊蟲”を張りつかせるのも忘れずに……

 

「ぐっ……」

 

鬼童丸がシノから距離を取り、着地する。

殴られた頬を軽く拭い、

 

「どういうことだ……お前、接近戦も得意なのか?」

「いいや……苦手だ」

「なら、なぜ……」

「何も疑問に思うことはない。お前は近接戦闘が苦手なオレに、近接戦闘でも勝てない……ただそれだけの話だ」

「て、テメー!」

「オレの仲間は近接タイプが多い。そんな中で修行をしていれば、嫌でも慣れるというものだ……それに」

 

シノは鬼童丸が手に持つ剣を見て、

 

「オレは以前、ある剣士に負けた。だから次は勝てるようにと修行をしている。なぜなら、二度も同じ相手に負けたくないからだ……悪いがお前程度では……経験値稼ぎにもならない」

「こ、コイツ……っ! ザコキャラの分際で!」

 

鬼童丸が挑発に耐えかねて、己の力を発動しようと構える。

何やら体に赤く明滅する、黒い痣が現れ始めた。

だが……

 

「…………」

 

シノはそれを、ただただ見下ろす。

構えすら取らない。

なぜなら――既に勝負は決まっていたからだ。

 

「な、何ぜよ! これ!?」

 

鬼童丸が自身の体を見る。

するとそこには、黒い痣よりも早く、何千という生物が、次々とその身に押し寄せていたのだ。

登場から今まで、ずっと余裕の表情を浮かべていた鬼童丸の目に絶望の光が過る。

シノはその光景を、グラサンの奥に隠した目で、黙々と冷たく見下ろし、

 

「何やら切り札らしき物を切ろうとしていたようだが、一足遅かったようだな……」

「な、どういうことぜよ……」

「そいつらは寄壊蟲といって、獲物を集団で襲い、チャクラを喰らう。特にお前には、先ほど接近して来た時に、雌の寄壊蟲をくっつけておいた

……雄の寄壊蟲は雌の存在する場所では特に敏感に働く。仮にオレが倒れようとも、お前を確実に倒す手筈は既に整えていたのだ……」

「ぐ、ぐそーっ! オレ様が! この程度で……こんなザコキャラに!」

「切り札とは最後まで取っておくものだ。すぐに見せるのはバカのやることだからだ。だが、それ以上に愚かなのは……」

 

シノが五千もの虫達に襲われている……鬼童丸に手をかざし、

 

「切り札を出し惜しみし、使わずして敗ける奴のことだ。

冥土の土産に教えておいてやろう……そういうお前のような奴を……ザコキャラと呼ぶのだ……」

「……オレに……ゲーム道を説くとは……大した強キャラ……ぜよ……」

 

最期にそう言い残し……

鬼童丸の姿が完全に蟲に飲み込まれる。

 

「秘術・蟲玉!!」

 

分散していた虫達が、鬼童丸の全てを飲み込む。

シノはそれを黙々と見下ろす。

最後の一瞬まで、気を抜かない。

ここで見逃せば、サスケを追っている途中で、逆に追われることにもなりかねない。

確実に息の根を止める。

そして……

鬼童丸の体内にあった全てのチャクラを喰らい尽くしてから……

シノは寄壊蟲を体に引っ込めた。

 

「ふう……」

 

一息入れ、木の枝に腰を据える。

傷は負っていない。

だが、チャクラを使い過ぎた。

そして……何より……

 

「チャクラを吸い過ぎたか……」

 

寄壊蟲。

油女一族の秘伝忍術。

といっても、忍の忍術だ。

当然弱点はあるし、無限に使えるわけでもない。

まず、虫達は生き物だ。

当然、お腹一杯になれば、動けなくもなる。

だが……

 

「たった一人のチャクラを喰らっただけで、蟲達が活動を止めることなど……今まではなかったことだ……」

 

つまり鬼童丸は……

それほどまでに強敵だった訳だ。

もし、彼が最初から本気で来ていれば……

 

「…………」

 

そこまで考えてから、シノは思考を止めた。

事実がどうであれ、生き残ったのはシノの方で、それが全てだ。

しかし、ここまで強敵となると、先に向かったイルカ達も無事では済まなくなる可能性もある。

体力を回復させたら、すぐに追わなければ……

と、取るべき行動を決めていた時……

 

「……!? この気配は!」

 

こちらに真っ直ぐ近づいてくる気配に、シノは気づいた。

だが、それは本来ここにはいないはずの者で……

 

「…………」

 

不審に思ったシノは、どうするべきか考えたが、やはり放っておく訳にもいかない。

重い腰を上げ、その気配がした方向へと……

先回りするのであった……

 


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