霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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キバvs多由也 負け犬はテメーだ!

木の葉の里を出てから、約一日と半日ほど経っただろうか。

陽が傾き始めた森の中。

イルカ、キバ、赤丸、サクラ、ネジ。

四人と一匹は、里を出発した時とは違い、一列縦隊で森を駆けていた。

地を蹴り、木を踏み、先へ進む。

次々と仲間達とはぐれることになり、キバはイルカの背中を見ながら、少しだけ弱気な気分になっていた。

今回の任務はサスケを奪還すること。

敵は里を壊滅寸前まで追い詰めた、大蛇丸の部下達。

だというのに、キバは今回の任務を軽いものだと受け止めていた。

だから、軽い気持ちで同行したのだ。

しかし、フタを開けてみれば、とんでもない内容の任務であった。

命さえ懸ける必要があるほどに……

キバは、まだ今年下忍になったばかりの新米下忍。

今までこなしてきた任務など、精々がギャングや盗賊の撃退ぐらいだ。

こんな忍者同士の対決など、中忍試験ぐらいでしかやったことがなかった。

しかも、今回は審判すらいない。

闘う=殺すか、死ぬかだ。

正直、ビビっていた。

だが……

後ろに顔を向け、サクラを見る。

 

「…………」

 

自分とは違い、意外と普段通りの顔がそこにはあった。

少し呆気に取られながら、また前を見る。

女は母ちゃんといい、姉ちゃんといい、いざという時は男より覚悟が決まるのか?

などと疑問を掲げて、木の枝を蹴る。

音忍達と闘うのことに、恐怖を感じながら、前へ進む。

だけど……

逃げる気にはなれなかった。

退くつもりは毛頭なかった。

別にサクラの涙に感化された……などという、センチメンタルな理由ではない。

サスケが心配だから……でもない。

どちらかというと、シノに一番近い感覚だろう。

仲間を見捨てて逃げるなんて……できっかよ!

ただそれだけであった。

それだけの単純な理由。

しかし……それで十分だった。

覚悟を決めて闘う理由は、それだけで十分だった。

そう、キバが自分の心に鞭を打ち終わったところで……

 

「くぅ〜ん」

 

赤丸が鳴いた。

とうとうおいでなすったか……

くんくん。

キバも鼻をひくつかせ、すぐに状況を把握する。

そして、それを伝えた。

 

「イルカ先生……また近いぜ!」

 

サクラとネジにも緊張が走る。

イルカが顔だけで振り向き、

 

「また五分後ぐらいか?」

「ああ……どうすんだ?」

「…………」

 

イルカは上を見上げる。

キバもそれに合わせて、空を見た。

そろそろ夕日が沈む頃だろうか?

森の中なので、断言はできないが……

そして。

古今東西、奇襲をかけるなら夜だと相場で決まっている。

イルカもキバと同じ考えだったらしく、スピードを少緩めて、皆に作戦を話し始めた。

 

「ここから追跡パターンを切り替える。敵に気づかれないと思われる、この距離を維持し、日が沈んだ頃に……仕掛けるぞ」

 

プランを練るイルカに、後ろからサクラが、

 

「夜襲をかけるってことですか?」

「そうだ。敵は二人。こちらはオレに、ネジ、サクラ、キバ、赤丸と人数の上でも有利な上、嗅覚と白眼によるサポートもある。まともにやり合うより、奇襲を仕掛ける方が断然有効的だ」

 

というイルカの作戦に、ネジが一つの懸念を感じたらしく、意見を述べる。

 

「ですが、木の葉の里を出てから、かなり時間も経っている……タイムリミット的にも、そろそろマズイ。もし次の接触でサスケを奪えなかった時のことを考えれば、今すぐ事にあたるのも視野に入れた方がよいのでは?」

「確かに……この作戦は貴重な時間を無駄にしてしまう可能性も少なからずある。だが、あと数時間待つだけで、こちらの絶対有利な状況になるんだ。しかしそれには、キバと赤丸の嗅覚。そして、ネジ。お前の白眼によるサポートが必要不可欠だ。下手に分散して各個撃破に持ち込むより、できるならチームとして勝てる状況に持っていくのがベストだろう」

「……わかりました」

 

ネジもイルカの言葉に頷き、白眼を解く。

敵の位置は既にわかっているのだ。

チャクラの無駄使いを抑えるためだろう。

それを確認した後、イルカが細かい説明を話し始めた。

それを全て脳に叩き込んだ後、キバ達は頭の中で何度もシミュレーションを行う。

作戦の成功率を少しでも上げるために……

 

 

時間は移り……

数時間後。

陽が沈み、夜がやってきた。

狩りの時間だ。

イルカが最後の確認を取る。

 

「全員、手筈通りに頼むぞ!」

「「「了解!」」」

 

キバ達が全員、頷いた……直後。

イルカが手を振り下ろした。

 

「散!!」

 

キバと赤丸が真っ先に暗い森を駆け抜ける。

一番手は自分達であった。

既にキバと赤丸は兵糧丸を口にして、チャクラを増大化させている。

準備は万端。

あとは……

 

「チッ! ゲスチン野郎共は何やってやがる!」

「一丁前に奇襲作戦か? アン? コラぁ!」

 

確か、多由也と左近だったか?

頭に血ィ上らせてるコイツらから、サスケを奪うだけだ。

と……

キバは、擬人変化で自分の姿と同じ容姿に変化している、赤丸と手を重ね合わせ、

 

「牙通牙!!」

 

互いの体を弾くように、高速回転を始める。

風を切る旋回音が鳴り響く。

勢いをつけ、敵目掛けて突進した。

まず狙うのは、四人衆の中で一番面倒臭そうな……左近の方だ。

赤丸とのコンビネーション攻撃で、二方向から挟み撃ちにする。

が……

左近は表情一つ変えず、

 

「あたるわきゃねーだろうが!」

 

避ける。

木の方へと跳ぶ。

が……そんな左近を見て、キバはニヤリと口元を歪めた。

左近が止まった枝には……

罠が仕掛けられていたから……

数々の札が敷き詰められた場所へ、左近が自ら足を踏み入れた。

そこでイルカが印を結び、

 

「結界法陣!!」

 

時間差のトラップ忍術を発動する。

今は夜。

明かりも殆んどないため、ギリギリまで気づけなかったようだ。

左近が、札で囲まれた陣内に入った……途端。

罠が発動して………

 

「く、クソがーぁ!」

 

と吠えた……次の瞬間。

ドカーン!!

爆発した。

気絶した左近が丁度真下にあった、川へと続く崖に向かって落下していく。

これで残りは一人。

と、キバが油断したところで……

 

「え?」

 

信じられない光景が目に映った。

多由也を狙っていたネジとサクラが、

 

「遅すぎますよ……多由也」

 

突如現れた……

白髪で、胸元のはだけた装束を身に纏った忍に、

 

「ぐっ……」

「きゃっ!」

 

簡単に蹴り飛ばされ、木に激突。

最後に、

 

「キャイ~ン!」

 

赤丸が蹴り飛ばされ、丁度爆発で空いた穴へと……落下し始め……

底が殆んど見えない穴へと、落下し始め……

や、ヤバい!

すぐ助けに行かなければ!

キバが足を動かそうとした……その時。

それよりも先に、蹴りを受けていたはずのネジが躊躇なく崖へ飛び込み、

 

「キバ、受け取れ!」

 

赤丸をこちらに投げてきた。

それを両手で優しくキャッチして……

キバは叫んだ。

 

「ネジィ!!」

「ふ、心配するな。すぐに追いつく……お前達はサスケを何とかしろ!」

 

左近と一緒に、深い穴へと落下していくネジを……ただ見ていることしかできなかった……

だが、

事態はそれだけではなかった。

ネジよりも、ここに残ったキバ達の方が絶望的な状況かも知れない。

なぜなら……

 

「あ、アン……アンっ」

 

赤丸が必死な鳴き声で、状況を説明する。

が、それは説明されるまでもなかった。

突如現れた、音忍の仲間だと思われる忍から発せられる威圧感。

それは……

次郎坊、鬼童丸、多由也、左近。

この明らかに自分達より格上だと思われる四人の忍すら、可愛く思えるほど……

絶望的なものであった……

その規格外の忍に、味方であるはずの多由也までもが冷や汗を流して、

 

「君麻呂……どうしてお前が……お前の体はもう……」

「僕はもはや肉体で動いてはいない……精神の力だ」

「ったく、この死に損ないが……」

「この器は……大蛇丸様にとって必要な物。そう、カブト先生から聞かされたからね……これは僕が運ぶよ……多由也、キミは……」

「チッ! ゴミを片付けろってか……」

「ええ……よくできました」

 

淡々と会話を終わらせて。

君麻呂と呼ばれた人物が、サスケの入った棺桶を担ぎ、離れていく。

サクラが悲痛な声音で叫んだ。

 

「サスケくん!」

 

ここで見逃してしまえば……

もう奪還は不可能となるだろう。

しかし、サスケを追うには……

目の前の女を……

 

「っチィ! ウチまでヤバい状況になったじゃねーか。クソ共が!」

 

懐から、武器だと思われる笛を取り出し、戦闘態勢に入っている……

多由也を何とかしなければならない。

と……

イルカとサクラがキバの所へやって来て、

 

「すまなかった……オレの作戦ミスだ。まさか音に、援軍を出す余力が残っていたなんて……」

「先生。今はそんなことより、コイツを早く倒して、サスケくんを追いかけなきゃ」

「ああ、その通りだ。気合い入れていくぞ!

サクラ、キバ」

「はい!」

 

と、やる気十分の二人。

そんな二人に、キバは赤丸から聞いた情報を伝える。

 

「イルカ先生、サクラ。赤丸が臭いで敵の強さを判別できるってのは知ってるよな?」

 

二人が頷く。

キバは続けて、

 

「あの君麻呂とかって名前で呼ばれてた奴……かなりヤバいらしい……今までの四人とは桁違いだとさ……」

 

唾を飲み込む音が二つ聞こえた。

が、最後にキバは訊く。

 

「で、まだサスケは追うつもりなのか?」

 

タイムリミットも残り少ない。

火の国の国境を越えれば、任務は失敗。

次郎坊と鬼童丸も追ってこないが、仲間達も戻ってこない。

そして、仮にサスケに追いついたとしても、あの君麻呂と闘うはめになり……

つまり……

頭の悪い自分でもわかる。

この任務は、既にほぼ達成不可能なものなのだと……

だというのに……

キバの問いに、サクラとイルカは間髪入れずに、応えた。

 

「当たり前でしょ! サスケくんは絶対、助けるんだから」

「確かに厳しい状況だ。だが、可愛い生徒を見殺しにはできない」

 

と……

まったく……オレよりこの二人……バカじゃないのか?

そう真剣に思いながら、キバは赤丸を地面に降ろした。

そして、サクラとイルカの前に立つ。

 

「んじゃ……先に行け」

 

シノと似たようなセリフを吐く。

驚いた顔をする二人を背に、キバは言った。

 

「シカマル、チョウジ、シノ、ネジ……アイツらがオレ達に託してくれたもんを無駄にするわけにゃーいかねーだろ! オレ達は全員覚悟決めて、この任務に参加したんだ。そーだろ!」

 

それにイルカは少し戸惑いながら、

 

「それは……そうだが……」

 

心配そうに言う。

が、覚悟を決めた忍に、それは侮辱だ。

だから、キバと赤丸は吼えた。

イルカとサクラの背中を押すために。

自分達を鼓舞するために。

 

「オレと赤丸の鼻を頼りにできなくなるんだぞ! チンタラしてっと、サスケを完全に見失っちまうぞ! これでもすげー新術を身につけてきたんだ。オレと赤丸の心配ならいらねーよ!」

「ワン、ワン!!」

 

その叫びに……

キバと赤丸の覚悟に……

イルカとサクラは無言で頷き合い、

 

「任せたぞ……キバ!」

「……絶対、追いついてきなさいよ!」

 

先へ進む。

すると。

それに反応するかのように、多由也の体中が赤く明滅し、黒い痣のようなものが浮かび上がって、

 

「逃がす訳ねーだろうが、カス共!」

 

笛を構える。

が……

それはこちらのセリフだ。

多由也が動き始めるよりも、一歩素早く、キバと赤丸が印を結ぶ。

獣人分身からのコンビネーション技。

 

「四脚の術!」

 

チャクラを全身に巡らせる。

四足歩行となることで赤丸だけでなく、キバ自身が獣のような敏捷さを身につけて。

一時的に身体能力を向上させて、

 

「牙通牙!!」

 

阿吽の呼吸で、体術を放った。

それを察知した多由也が、

 

「チッ」

 

憎々しげにイルカとサクラから距離を取り、攻撃を避ける。

それから、邪魔してきたキバを睨み、

 

「駄犬が!」

「おいおい、赤丸は血統書付きの名犬だぜ?」

「そっちの犬っころじゃねーよ! テメーに言ったんだよ! クソが!」

「あんだと? 上等じゃねーか。女だからって手ぇ抜いてやる気はさらさらねーからな……オレと闘うはめになったテメーの運の悪さを、あの世で後悔しやがれ!」

「負け犬丸出しの顔しやがって! 大体、あんなメスブタと先公二人を先に行かせて何になる?」

「あ? どーいう意味だ?」

「どうやらテメーは、鼻だけは大したものを持った感知タイプの忍だろ。ならわかってるはずだ。あんなザコ共が何人束になろうが、君麻呂には勝てない。いや、それ以前にここまで来るのに、一体何人犠牲にしてきた。そんなにサスケって野郎が大切か? 他の仲間の命よりも? 大した仲間想いだな、オイ!」

 

という挑発に、

 

「へっ……」

 

キバは笑う。

 

「確かに、あの君麻呂って奴はヤバい。けどな、そんなことは追ったアイツらだってわかってんだ。それでも行くっつーなら、行かせるしかねーだろ」

「はっ、自殺願望者か! そんなに死にてーんなら、ウチがまとめて殺してやるよ」

「へっ、そりゃー無理ってもんだろ?」

「なに?」

「オレ達より弱いテメーが、どうやってオレと赤丸を殺るってんだ?」

「こ、このゲス野郎が!」

 

その直後。

ズズズズ……

多由也の体の色が、さらに変化し始める。

体全体が赤く明滅し……姿を現したのは……

 

「カス共相手に使うつもりはなかったが、チンタラしてっと、ウチが君麻呂に殺されるからな」

 

頭に大きな角が二本……いや三本。

肌の色も褐色に染まった……

異形の者へと変貌した多由也であった。

キバは何度目かわからない予想外の事態に、唾を呑み込み、後退りする。

 

「オイオイ……んだよ……そりゃ」

 

横に来た赤丸が、変化の術を解き、

 

「アン……クゥ〜ン」

 

これは見かけ倒しじゃない。

チャクラの量が何十倍にも、それどころかチャクラの質すら変わっている……と。

キバに忠告してきた。

だが、それは言われるまでもなかった。

それほどまでに……

多由也から発せられる圧力は、殺気は……異次元なものであった。

そして、それに付け足すように、多由也が口を開く。

 

「ウチらは皆、特別な呪印を大蛇丸様から授かっている」

「呪印?」

 

聞き慣れない言葉に、首を傾げるキバ。

多由也は笛を横に持ち、口に添える。

 

「第一段階は体中に黒い呪印が浮かび上がるだけだが、この状態2は違う。体が変貌するほどの力が呪印から与えられる……時間は限られているがな……つまり……遊びの時間は終わりだ」

 

ピ〜ロピロピ〜♪

笛の音が鳴り響く。

 

「ウチの笛の音を聴いて生き残った者はいない。死の旋律を奏でてやる……三途の川で、仲良く犬かきでも練習するんだな……負け犬!」

 

ピ〜ロピロピロロロ〜♪

森に死のメロディーが木霊する。

 

「魔笛・夢幻音鎖!!」

 

多由也の十八番。

不気味な笛の音がキバの耳に届く。

すると、次の瞬間。

 

「なっ!?」

 

キバはワイヤーのような物に、手と足を吊るされていた。

景色もいつの間にやら、森から一転して、何もない砂漠のような場所へと様変わりしていて……

それを見て、キバは納得する。

こんなことできるのは……

 

「なるほどねぇ……幻術使いか……」

 

と言ってる間に、ズルズルと腕が溶け始めて……

そんなホラーな世界で。

怪奇現象が起こる世界で。

キバは叫んだ。

悲鳴ではなく……

歓喜の声で……

 

「ヒャッホオッ! ラッキー! 幻術使いなら、確実に勝てるぞ……赤丸!」

 

相棒の名を呼ぶ。

そうすると、一人しかいないはずの……

自分しかいないはずの世界に、

 

「ワン!」

 

赤丸の元気な鳴き声が入ってきた。

そして、現実世界で側にいた赤丸とチャクラを流し合い、唇を少し噛んで……

 

「解!!」

 

幻術を解いた。

さらに、幻術にかかったままのフリをしながら、小声で言う。

 

「今だ、赤丸」

「ワン」

 

赤丸が今だに笛を吹いている多由也へと接近し、空中に跳んでからの三回転捻りで……

パシャッ!

犬のマーキング。

ダイナミックマーキングを多由也目掛けて放出。

あり得ない不意討ちをくらった多由也が目を押さえ、のた打ち回る。

 

「ぐあっ! 犬の小便だとォ!! このゲスチン野郎共がぁ!!」

 

何やら喚いているが、大チャンスだ。

本当は奥の手だったのだが、コイツら相手に手の内を隠す余裕などない。

恐らく今を逃せば、もう自分に勝機は訪れないだろう。

故に迷う余地なし。

キバは赤丸と共に、己の最強の技を繰り出す。

 

「ここで決めるぞ! 赤丸!」

「ワン!」

「犬塚流・人獣コンビ変化!!」

 

ボン!!

大きな白い煙と共に姿を現したのは……

 

「双頭狼!!」

 

二つ首を持つ、巨大な犬に変化したキバと赤丸の犬人一体の姿であった。

何とか目を開け、それを見た多由也が、

 

「くっ……くそがァ!」

 

呻くが、もう手遅れだ。

慌てて距離を取り、木々に身を隠そうとしているが、それも無意味。

赤丸のマーキングがついた時点で、嗅覚を頼りに敵を追い詰めることが戦術となるキバと赤丸からは、絶対に逃げられない。

何より、今からキバ達が繰り出す術は正真正銘とっておき。

破壊力、スピード、その両方が今までの術とは比べ物にならない奥義であった。

その術の名を――

 

「牙狼牙!!」

 

けたたましい旋回音が鳴り響く。

風を切り、空を切り裂く。

双頭狼となったキバと赤丸が、多由也に迫る。

牙狼牙。

それは超回転を行い、敵を撃つといういたってシンプルな技。

しかし、その回転速度はあまりにも速すぎて、キバ達の視界すらゼロにするほど強烈なものであった。

敵を追うには、臭いをつけるというのが第一条件。

だが、それさえ完了すれば、あとは術を繰り出すだけ。

かすりさえすれば、それだけで……

グシャ――っ!

終わった……

 

「へっ……オレらをなめてるからだ!」

「ワン!」

 

キバと赤丸が術を解く。

大量のチャクラを消耗し、かなり疲労困憊だが、動けないほどではない。

多由也の前まで歩く。

いや……多由也だった物の前で立ち止まった。

そこには、体がバラバラになった肉塊が無残にも転がっていた……

それを見て、

 

「ハァ〜」

「くぅ〜ん……」

 

九死に一生を得た、キバと赤丸はその場にへたり込む。

ヤバかった。

マジでヤバかった。

特に最後の状態2とかいう訳のわからんやつが出た時は……

 

「……はぁ……あ、あれ?」

 

そこで気づく。

自身の体が震えていることに。

武者震いや勝利の感動。

だったらよかったのだが……

そんなものではなく……

 

「アイツが幻術タイプでよかったぜ……いや、紅先生がオレ達の先生だったことを喜ぶべきなのか?」

 

ここ数ヶ月だが、キバ、赤丸、シノ、ヒナタ。

第八班のメンバーは、担当上忍の紅から、嫌というほど幻術対策の修行を受けていた。

まさかこのような形で役に立つとは、キバも想像だにしてなかったが……

多由也と自分達の相性がよくて、助かった。

正直、幻術を使われるより、笛で殴りかかられていた方がヤバかったかも知れない。

などなどと……

ため息を吐いていた時……

 

「あぅ? ワン!」

 

赤丸が鳴いた。

それでキバも気づく。

臭いがこちらにやってくるのに……

 

「なっ! これって……四人……いや、五人か? しかも一人はこちらに真っ直ぐ来てやがる……なぜアイツらがここに?」

 

理由はわからない。

が、明らかに何らかの意図がある動きで……

もし敵だったら……

と、一瞬恐ろしいことを考えたが……

 

「まあ、そりゃねーな」

 

なぜなら、その臭いのうち、一人は……

 

「ったく、いいとこ取られる訳にはいかねーな」

 

キバが密かにライバル認定している忍のものだったからだ……

 


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