霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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ネジvs右近 日向は木ノ葉にて最強

森から切り離された崖の最下層。

川のせせらぎが静かに流れる場所で……

ネジは、二人の忍と対峙していた。

いや……既に一人と言うべきか……

首の後ろに、もう一つの頭を持つ忍。

“右近”という名の忍が、

 

「テメーら、よくも左近を!」

 

全身を黒い痣で埋め尽くしながら、

 

「バラバラに解体してやる!」

 

殺気を放ってくる。

本物の忍が放つ、本物の殺気。

少なくとも、下忍に向けるような圧力ではなかった。

ピリピリとした空気が辺りを漂う……

右近の鋭い視線がネジに突き刺さる。

そして、それを……

ネジは顔色一つ変えることなく、特異な瞳で冷静に観察していた。

白眼。

チャクラの流れを見通す眼。

ネジはその木ノ葉随一の瞳術を用いて、右近の能力を解析していた。

だからこそ……

 

「なるほど……そういうカラクリか……」

 

相手の術を看破していた。

今、目の前にいる音忍が、普通の忍でないことは、最初に接触した時からわかっていた。

一つの体に、二つの身体が入っていたから。

そしてその疑問は……完全な理解へと変わっていた。

ネジは小さく頷き、

 

「それがお前の……いや、お前達の能力という訳か……」

 

それに右近が憎々しげに答える。

 

「チッ! ウワサに聞いたことはあったが、それが白眼か……覗き見が趣味とは……まあいい……」

 

体を融合させ、後ろで寝ている左近を指差し、

 

「コイツがオレの弟、左近。で、オレが右近だ」

「随分と変わった術だな……どうりで殺られたはずのお前がそこまで動ける訳だ」

「あんなカス共に、オレ様達が殺られるかよ! 下手打った左近は後でシバくとするさ……お前をバラバラにした後で……な!」

 

途端。

右近が急接近して来た。

足にチャクラを巡らせ、加速。

左近の時より僅かに動きが遅い。

普段は弟の方がメインなのだろう。

まあ……

右だろうが、左だろうが。

ネジの眼から見れば、大した違いはないのだが……

と――

ゆったりとした動作で、日向家特有の構えを取り、

 

「柔拳!」

 

ネジは余裕の対応で、突進してきた右近の鳩尾に、的確なカウンターを決めた。

右近の体が宙を舞い、呆気なく吹き飛ぶ。

地面を一転二転と転がり……

 

「て、テメーっ!」

 

歯ぎしりを利かせながら、よろよろと右近が立ち上がる。

そんな相手を、ネジは油断なく見据えて、

 

「日向は木ノ葉でもっとも強い体術流派。悪いが、その程度の体術ではオレの相手にはならない」

「カスの分際で、調子こきやがって!」

「なら、何度でも試せばいい。その度にお前は地べたを這うことになるだろうがな」

「ほざいてんじゃねー!!」

 

言うや否や。

ズズズズズズ

右近の体が明滅し、全身が赤茶色に染まり始めた。

手、足、顔、体。

その全てが異形のものへと……

そして……

変貌を遂げたのは、見た目だけの話ではなかった。

右近から発せられる威圧感までもが、もはや人間のものとは一線を画していて……

その変化を、一部始終白眼で見ていたネジは、

 

「いきなりチャクラが増大した……だと!? チッ……先ほどまでとはまるで別人だな……」

 

正確に状況を把握していた。

だからこそ……

 

「随分とピーコラ言ってくれたよなァ! あァ! バラバラにする前に、その口と体で悲鳴をたっぷりと聞かせてもらおうか……いい音奏でろよ!!」

 

見た目も表情も、鬼のような形相で迫って来た、右近を――

 

「回天!!」

 

弾き飛ばした。

またも右近が地面を転がる。

だが、まだ決定打は入っていない。

口から吐血を吐きながらも、右近が立ち上がる。

殺意の込もった目で、こちらを睨んでくる。

が……

そんな相手を見下ろしながら、ネジは言った。

 

「悪いがこの眼は、体内のチャクラの流れを全て読み取ることができる。お前が今までのような打撃系の技ではなく、チャクラの通り道。つまり経絡系を利用した、特殊な術を繰り出そうとしていたことも、全てお見通しだ」

 

右近は先ほどの攻撃。

バラバラにするなどと言っておきながら、物理攻撃ではなく、チャクラを用いた特殊な技を掛けようとしてきていたのだ。

白眼の前には、まるで意味を成さない強襲であったが……

 

「ぐっ……」

「それから、もう一つ。悪いがお前の期待には応えられない……」

 

ネジはすかさず、よろめいている右近の懐に飛び込み、

 

「なっ!?」

 

驚愕の声を上げる右近の前で、

腰を沈ませ、

両の掌を、前後に構え……

 

「オレが奏でる調べは……勝利の唄だけだ。

――柔拳法・八卦六十四掌!!」

 

彼の領域が展開される。

一歩一歩、着々と勝利の道を踏み締め……

 

「八卦二掌!」

「四掌!」

「八掌!」

「十六掌!」

「三十二掌!」

「六十四掌!!」

 

ネジの奥義が炸裂。

まともに受けた右近が吹き飛び、今度こそ完全に倒れ伏した。

チャクラの流れを止められたことにより、体に出ていた奇妙な痣も、みるみると治まっていく。

右近は起き上がることすらできず、呻いた。

 

「ぐッ! オレが……こんな奴に……負けるはずが……」

「……オレには負けられない理由がある。お前達とは違ってな……」

「負けられない理由…だと? そんなもんが何になる……」

 

右近が血を吐きながら、そう言った。

自分がかつて、ナルトに思ったことと……同じセリフを……

それにネジは、少し笑い、

 

「以前……ある友が、ひん曲がっていたオレを、思い切りぶん殴って……こう言ってくれた……」

「…………?」

「自分の父親に、命を懸けてまで大切なものを託されたオレが、いつまでも不幸そうな面してんじゃねェ……と…な」

「ぐっ……」

「だからオレは、お前達に負ける訳にはいかない。助けを呼ぶ仲間達がいる限り……オレの父親やアイツの父親のような本当の強さを持つ忍になるために……こんなところで負ける訳にはいかないんだよ……」

 

そう告げるネジを、霞んだ目で見上げながら……右近が最後に口を開ける。

 

「へっ……とんだ甘ちゃんだな……さっさとくたばれ…と言いてーが、オレを倒した後に他の奴に負けるのを見るのは……シャクだから…よ…まぁ、精々足掻い…て……」

 

そこまで言って……

右近は気絶した。

 

「…………」

 

当分は起き上がれないだろう。

ネジは上を見上げる。

崖の上を……

まだ皆、あそこにいるだろうか?

なら、早く援護に向かわなければ……

と、思いながらも……ネジは言った。

 

「オレの白眼の最大視界は360°だ。そこにいるのはわかっている……隠れてないで、いい加減出てきたらどうだ?」

 

で――

その声に応え、姿を現したのは……

少女のような見た目をした、霧の忍。

 

「お久し振りですね……途中から見ていましたが、お見事でした」

 

ハクであった。

中忍試験で、ヒナタ様を倒した怨敵。

言い過ぎか……

とはいえ、ここは木の葉の領地。

霧の忍が無闇に滞在していい場所ではない。

だから、ネジはハクに訊いた。

 

「ハク……だったか? なぜこんな所にいる?」

 

それにハクが一つ頷き、

 

「あ〜、薄々そんな予感はしていたのですが、やっぱり知らされていなかったのですね……」

「何の話だ?」

「そうですね。どうやら切羽詰まった状況のようですし、簡潔に要点だけ言います。僕達は木ノ葉小隊の援軍に来ました。サスケくんが拉致された…と、自来也様から援助要請が来まして……」

「なに? 自来也様!?」

 

ネジは目を見開く。

自来也といえば、木の葉どころか、忍界でも名高い…伝説の三忍の一人だ。

今まで他人に興味を持たなかったネジですら、その名に聞き覚えがあるほどに……

だが……

 

「何故……自来也様が?」

 

自来也は所属こそ木の葉ではあるが、今は行方知れずのはず。

木ノ葉の忍ですらそうなのだ……だというのに、霧と接点などあるはずが……

が、そこでハクが当たり前のように言った。

 

「実は……自来也様は…その、ナルトくんの師匠でして……」

「…………」

 

言葉を失うネジ。

しかしネジ達は、ナルトと我愛羅の闘いを見ていた。

とんでもない成長を遂げたナルトを……

その秘密の一端がこれか……と納得する。

それに、明確には言っていなかったが、ネジの推測が正しければ、恐らくナルトの父親は――四代目火影のはずだ。

なら、わからない話でもない。

ネジはそう結論づけ、ハクの言葉を信用することにした。

 

「それは助かる……では既に?」

「ええ。各戦場に僕以外の仲間も向かっています」

「……ナルトも来ているのか?」

「ええ、もちろん。ナルトくんはサスケくんの所へ向かっているはずです」

「……ふ……なら問題ないな。オレ達もすぐに向かうとしよう」

「はい」

 

ネジとハクは、すぐさま崖を駆け登り、その場をあとにした。

 

 


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