霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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霧と木ノ葉 結成 ドリームチーム

少し時は遡り。

木ノ葉の森。

再不斬、ナルト、ハク、長十郎の四人は、海を越え、山を越え……

休息時を除けば、ずっと走り通しの二日間を過ごしていた。

そろそろ三日目に突入するだろうか?

というところで……

四人の視界に、

轟音――

けたたましい旋回音が鳴り響く。

何やら白く大きな物体が、少し離れた位置で暴れ回っているのを肉眼で確認した。

途中で出会った、シノから聞いた情報によれば、先に向かったのは、イルカ、ネジ、サクラ、キバの四人。

そこから推測するに、恐らく今の術は犬塚一族のものだろう……

と、再不斬は結論づけた。

つまり……

 

「ようやく追いついたか……」

 

再不斬の言葉に、三人が頷く。

さて、ここからどうするか……

再不斬は自慢の聴力を発揮させ、ある程度の戦況は把握していた。

どうやら木ノ葉の忍は散々で戦闘を行っているらしい……

あんまり芳しくない状況に、

チィ、めんどくせーな。

再不斬は心の中で悪態を吐きながら、作戦を立て始める。

水のあるエリアは、ハクに行かせるべきだろう。

そして、ナルトはうちはのガキに用がある。

となると、残りの方面は長十郎だな……

本来なら、全員で事にあたりたかったのだが、仕方ない。

迷ってる時間すらもったいないと、再不斬は部下達に指示を出す。

まずはハク。

 

「ハク、お前は崖の下に行け」

「わかりました。再不斬さん」

 

次に長十郎。

 

「長十郎。お前は今ド派手に殺り合っている所だ」

「了解です」

 

最後にナルト。

 

「ナルト。テメーはオレと一緒に、このまま真っ直ぐ突っ切るぞ! 恐らくサスケもこの先だ」

「了解!」

 

三人の返事を聞き、最後に……

霧隠れの里を出る前にも言ったことだが、再不斬は念を押して、もう一度だけ注意事項を話す。

 

「全員わかってんだろーが、もう一度だけ言っとくぞ。今回の任務は正規の任務じゃねー……ナルトの我が儘と、オレ様の優しさと、ナルトの我が儘によるものだ」

 

それにハクが、

 

「……再不斬さん……我が儘と二回言いましたよ……」

 

が、無視して続ける。

 

「あくまでも、任務という名のボランティアだ。絶対にやり遂げる必要はねぇ。命の危険を少しでも感じたら、即撤退しろ!」

 

三人が頷いた。

 

「「「了解!」」」

 

 

そして……

場面は戻り、平原。

水遁を得意とする再不斬は、水辺での戦いでこそ真価を発揮するのだが……文句は言っていられない。

ナルトを見逃してしまった影響か、こちらをかなり警戒している君麻呂を前に……

再不斬は印を結び、

 

「忍法・霧隠れの術」

 

途端。

何もない平原に、濃い霧が発生する。

後ろで驚くイルカを放置しながら、再不斬は君麻呂の前から、己の姿を消した。

かぐや一族。

君麻呂。

彼は再不斬にとって、知らない相手ではなかった。

再不斬が水の国を出る直前の話だ。

ある一族が、あろうことか五大国の一つ、水の国、霧隠れの里に喧嘩を売ってきたことがあった。

それが……かぐや一族。

ちなみに、その戦の結果は言うまでもなく……

いくらかぐや一族が強くても、一族が里に喧嘩を売って勝てる訳がない。

しかも、メイが水影になった今でこそ温和になったが、元々霧は、残忍さでいえば、五大国でも一、二を争う隠れ里だ。

当然、かぐや一族は皆殺し。

故に……恐らく、この君麻呂は一族の中で、唯一の生き残りであろう……

だが……

忍が戦場で手を抜くなどありえない。

再不斬は音で君麻呂の位置を把握しながら、

 

「八ヵ所……」

 

殺気を放出する。

 

「咽頭・脊柱・肺・肝臓・頸静脈・鎖骨下動脈・腎臓・心臓……さて…どの急所がいい? クククク……」

 

自分の発する殺気で、君麻呂よりも先に、イルカの方が根をあげそうになっている。

それを察した再不斬は、

手っ取り早く終わらせるか……

と……

音もなく、君麻呂の後ろに現れ……

 

「……終わりだ」

 

一閃。

首斬り包丁をその名の通り、敵の首目掛けて振り下ろした。

が……

ガキンッ!

刃が止まる。

君麻呂が繋がったままの首をこちらに向け、

 

「無音殺人術の達人…か……聞いて呆れる。不意討ちで首一つはね上げることすらできないとは……」

「て、テメー!」

「さっきの瞬身小僧には見事に出し抜かれた……だが、今度は僕が攻撃に転じる番だ……」

 

骨でできた剣を、舞うように突きつけ……

 

「椿の舞!」

 

とんでもない速度で振るってきた。

再不斬は即座に後ろに跳び、

 

「チィっ!」

 

それでも避けられない斬撃を返す刃で応える。

最後にもう一度大きく跳躍して、後ろの方へ跳んだ。

クナイを構えたイルカが、再不斬の隣に来る。

 

「大丈夫ですか? 再不斬さん」

「なんとかな……だが、ありゃあ何だ?」

「彼の血継限界らしいです。骨を自在に操れるらしく……硬さも形も、まさしく変幻自在だとか……」

「なるほど……厄介だな」

 

首斬り包丁で首を斬り落とせなかったのは、首の骨を強化したからということらしい。

しかし、どうするか……

水が大量に存在する場所でなら、いくらでも殺りようはあるのだが……

現状では勝てる手段が見当たらない。

撤退も視野に入れるべきか?

と、思考を巡らしていた時……

 

「…………!」

 

再不斬の耳に、いくつもの足音が聞こえ始めた。

複数の忍が地面を駆ける音。

それを聞いて、

 

「クククク……」

 

再不斬は笑う。

それにイルカと君麻呂が、一瞬怪訝そうな顔を見せたが……すぐに状況を理解した。

なぜなら……

 

霧と木ノ葉。

総勢七人の忍が、戦の場に降り立つ。

 

シカマルが、ため息混じりの声音で、

「ったく……任務が始まった時より、めんどくせー状況だぜ……」

 

チョウジが、腹ごしらえを終えた腹で、

「や、やっと追いついたよ」

 

シノが、いつもと変わらない無表情で、

「ここからはオレ達も参戦しよう。なぜならはいらない。昨日の敵は今日の友という……友のために闘うのに理由などいらないからだ」

 

キバと赤丸が、空元気で、

「話がなげーよ、シノ……と言いてーところだが、今回ばかりはオレも同意だぜ! な、赤丸!」

「ワン!」

 

ネジが、余裕を感じさせる口調で、

「さっさとケリをつけるぞ」

 

五人と一匹がイルカの前に立つ。

生徒達の姿に、イルカは安堵の息を漏らし、

 

「お前達……そうか……みんな無事だったか……よかった……」

 

心の負担を一つ軽くした。

そして。

再不斬の横に着いた、二人の忍。

ハクと長十郎が、状況確認を行う。

君麻呂を警戒しながら、ハクが再不斬に訊いた。

 

「再不斬さん、ナルトくんはどちらに?」

「サスケを追わすために、先に行かせた」

「……なるほど」

 

それだけで、ハクは理解した様子で頷いた。

続けて、長十郎が再不斬に尋ねてきた。

 

「まだ決着がついていないということは、その…あの人、強いのでしょうか? い、いや、強いのは見た目だけでもわかるのですが……」

「……何気に痛いとこ突きやがるな、てめー」

「す、すみません……」

「骨を自在に操る血継限界の持ち主だ……油断すんじゃねーぞ」

 

血継限界という言葉に、ハクが反応する。

少し悲痛な声音で、

 

「彼も、血継限界の持ち主…ですか……」

 

ハクとナルト。

この二人は再不斬の目から見ても、忍の才能があると、迷いなく断言できた。

決して口には出さないが、はっきり言って、自分の部下はみんな天才だろう……と、再不斬は常日頃から思っていた。

だが同時に。

この二人は長十郎と違って、優しすぎる……いや、甘すぎる……とも思っていた。

ハクは口でこそ忍の言動を取るが、やはり人を殺すことに対し、躊躇を見せることが今だに多い。

まあ、本来ならそれが当たり前なのかも知れない。

それが人として、当然の感情なのかも知れない。

だが、この場でそれは命取りだ。

余計な感情だ。

だから――

ハクの迷いを断ち切るように、再不斬は言った。

 

「ハク、迷うな。奴は敵だ。しかも油断すればこちらが殺されるレベルのな……敵は斬る。それだけを考えろ」

「わかっています……」

「ならいい……ハク、お前は奴の能力を分析しながら闘え。何かわかったらすぐに伝えろ」

「わかりました」

 

向こうも作戦を説明し終えたらしく、イルカが再不斬の隣に立つ。

そして……

突撃前に、イルカが再不斬に言った。

 

「実は、私達もナルトと……いえ、アナタ方と同じなんです……」

「あ? 何の話だ?」

「私達も……里の意向に背いて、仲間の救出に来ました……みんな、サスケを見捨てる訳にはいかないって……」

「……ほお、なかなか見所のあるガキ共じゃねーか」

「私もそう思います。まぁ、利口な生き方ではないのかも知れませんが……」

「ククク…そいつは困ったなァ。五大国のうち、二つの国が同時にバカやらかすなんて、そうそうある話じゃねェからなァ……」

「確かに困りました……これから私達は…どうなるんでしょうか……」

 

イルカの疑問。

それはきっと、この場のことだけでなく、これからの里の未来の話も含めてのことだろう。

ほんの少し話を聞いただけでも、部外者の再不斬にでさえ……

木ノ葉の里が不安定になり始めていると、手に取るように理解できた。

だが……

今大事なのはそんなことじゃない。

今やるべきことは一つであった。

だから、再不斬は大刀で空を斬り、

 

「フン。決まってんだろーが……それを今から試すんだよ! 全員、オレ様に続けェー!!」

 

その掛け声に、霧と木ノ葉の忍が一斉に応えた。

 

「「「オォー!!」」」

 

殆んど回復していないチョウジだけは無理をさせぬよう、後ろに残っていたが、他の忍達は……

 

再不斬が首斬り包丁で切り込み、

長十郎がヒラメカレイを振り回し、

ネジが白眼を用いた防御寄りの戦い方で、仲間の被害を防ぎ、

キバと赤丸がスピードとコンビネーション技で、君麻呂を翻弄しする。

この四人の前衛を主軸に……

中衛には、イルカとシノが、

後衛には、敵の能力を分析するために、ハクとシカマルが控えていた。

と――

即興のはずなのに、霧と木ノ葉はなかなかのチームワークを見せ……

 

「くっ……烏合の衆もここまで揃えば、脅威になりえるか……」

 

君麻呂を一方的に押し始めていた。

そして……

数分後。

霧と木ノ葉が、互いを庇い合いながら闘い、情報と時間を稼いだところで……

ハクとシカマルが、皆に突破口を提示する。

まずはハクが、君麻呂に有効的な攻撃方法を……

 

「皆さん、普通の攻撃では効果が薄いです。ここからは長十郎さんのように、一撃必殺レベルの攻撃。または、シノくんの寄壊蟲を用いた、体内からの攻撃などを主軸に攻めて下さい!」

 

それにシノが、

 

「待て。オレは寄壊蟲でそのような戦い方をした覚えはない……なぜなら、オレ自身、聞いただけで恐ろしいからだ……」

 

と、言っている側で、シカマルがハクに続く。

 

「つっても、まずはアイツの動きを止める必要がある……だが、正直オレの影真似じゃ、一人では殆んど止めらんねーはずだ。だから、イルカ先生とシノは奴の動きを止めることだけに集中してくれ! トドメは基本的に、ハクが言った通り長十郎さんに任せます……全員それでいいっスか?」

 

それにイルカ、シノ、長十郎が頷く。

 

「わかった。それでいこう!」

「いいだろう……」

「任せて下さい! ここは決めてみせます!」

 

そこで再不斬が水分身を二体出し、シカマルに言う。

 

「奈良のガキ、オレの水分身なら水牢の術で、ある程度奴の動きを止められるはずだ……作戦に組み込め」

「お! そいつは有難いっス。手数はあればあるだけ、戦略の幅が広がるからよ」

 

細かな作戦や段取りを決め……

ついに、再不斬達が君麻呂の首を獲りに動く。

まずは再不斬が、再度得意な状況を作るために、術を発動する。

 

「忍法・霧隠れの術」

 

途端、白い霧が周辺の視界を奪い始めた。

しかも、先ほどより濃い霧。

一メートル先すらも、目を凝らさなければ見えないほど……

忍といえども、ここまで悪条件の戦場では動きも鈍くなる。

だが、音だけで敵の動きを把握できる再不斬にとっては、視界の影響など関係ない。

淀みない動きで首斬り包丁を手に取り、駆ける。

君麻呂の死角に入り、刀を振り下ろしては離れ、また接近しては離れる。

何度も一方的な攻防を仕掛ける。

 

「ククク……どうした? 防戦一方じゃねーか。ちっとは楽しませてくれても、いいんだぜ?」

 

キィン!

鉄と骨が音を鳴らす。

君麻呂は不利な状況にもかかわらず、柔軟な動きで再不斬の攻撃に対応してきた。

 

「この程度で僕に勝ったつもりか、霧隠れの鬼人」

「クク……まだまだ余裕そうじゃねーか……心臓は止まりかけてるくせによォ」

「…………」

 

君麻呂は答えない。

だが、再不斬にはわかっていた。

音で聞いたから。

既に、君麻呂の体は殆んど機能していないことを。

むしろ、何故ここまで動けるのか不思議なくらいで……

ギィン!!

君麻呂がここぞとばかりに攻めてくる。

再不斬はそれを、無理をしない程度に受け止め、受け流す。

すると、そこで。

 

「…………」

 

君麻呂が剣を退いた。

突然の行動に警戒しながら、再不斬が、

 

「どういうつもりだテメー? 何かの作せ……なっ!?」

 

言いかけたところで、慌てて首斬り包丁を盾のように構え、後ろへ跳んだ。

そんな再不斬を君麻呂が追撃する

体の至る所から骨を突き出し、コマのような回転を加えた動きで、

 

「唐松の舞!!」

 

攻防一体の舞を繰り出した。

彼の血継限界があるからこそ、成せる技。

だが……どんな忍だろうと、攻撃に出る時は僅かに隙が生じるというもの。

そこをイルカ、シカマル、シノが突く。

しかも濃い霧の中とはいえ、白眼と忍犬によるサポートありきの連携術。

タイミングは普段以上に、ドンピシャだ。

 

「結界法陣!!」

「影真似の術!!」

「寄壊蟲!!」

 

それぞれが君麻呂の動きを縛る。

さらに、身を潜めていた水分身の再不斬が、

 

「水牢の術!!」

 

君麻呂を水の牢獄へと閉じ込めた。

普通の相手なら、間違いなくこれで詰みだ。

しかし、まだ油断はできない。

相手の実力は未だ未知数。

この三重にも、四重にも掛けたスペシャル牢獄でさえ、時間をかけさえすれば自力で脱出できるだろう。

が……

そんな時間は与えない。

霧が晴れ始める中、再不斬は叫んだ。

 

「長十郎! 決めやがれェ!!」

 

と、言う前から、

 

「はい!」

 

長十郎は駆け出していた。

忍刀七人衆の象徴であるヒラメカレイを蒼く輝かせながら。

これで決まりだ。

誰もがそう思った。

長十郎が君麻呂の首をはねるのに、数秒もかからない。

いくら君麻呂でも、数秒ではこの牢獄からは脱出できないだろう……と……

が――

そんな常識をあっさりと覆すのが……

 

「ウォオオオォオオオ!!」

 

結界の札を弾き飛ばし、

影を喰い千切り、

蟲達では到底抑えきれない、禍々しいチャクラの奔流。

最後には水の牢獄すらも、チャクラに触れただけで気化し始め……

ありえない現象。

異常な光景。

君麻呂が隠し持っていた実力は、再不斬達の予想を遥かに上回っていた。

 

「くっ……再不斬さん、すみません。使わせて頂きます!」

 

血継限界には血継限界。

ハクが水牢の水だけでなく、水分身の水分をも用いた、氷遁を発動する。

 

「氷遁・氷牢の術!!」

 

氷で出来た六角柱が、君麻呂を閉じ込めた。

だが……

全員がそれを見て、同じことを思った。

この程度で止まる相手ではない……

直後。

氷が割れる。

君麻呂の手が、足が、全身が這い出てきた。

あれだけの術をくらっておきながら……

その体は無傷で……

そんな化け物が口を開く。

 

「大した連携術だ。まさか、霧と木ノ葉がここまで見事に力を合わせてくるとは……正直予想外だった……だが、その快進撃もここまでだ。全員……確実に死んでもらう」

 

そう言った君麻呂の体は、全身が褐色に染まり、あるゆる場所から常に体中の骨が突き出ていた。

刀よりもよく切れる一振り。

鎧よりも身を守る絶対硬度。

攻防一体の血継限界。

今まで闘ってきた全ての敵が、可愛く見えるほど……

最強の忍が――そこに立っていた。

 

再不斬ですら、そう思わされていたのだ。

他の忍の絶望はそれ以上だろう。

だというのに……

こんな絶体絶命の状況で……

諦めない声が届く。

 

ネジが言った。

 

「十二時の方向だ。急げ!」

 

チョウジが言った。

 

「わ、わかってるよ。部分倍化の術!!」

 

チョウジの右手が巨大化する。

その手に、キバと赤丸が乗り、

 

「ヒャッホオォオオ!! 行くぜ赤丸!!」

「ワン!!」

 

残ったチャクラの、殆んどを回した右腕を引き絞り……

チョウジが一人と一匹を投げた。

 

「とおりゃーああ!!」

 

空中でバランスを整えながら、キバと赤丸が同時に印を結ぶ。

犬塚流・コンビ変化。

ボン!!

白い煙が発生し、そこから出現したのは……

 

「双頭狼!!」

 

キバ達の切り札。

コンビ変化による、犬人一体の姿。

二つ首を持つ、巨大な白い犬。

その動きを逸早く察知した再不斬は、立ち止まっている忍達に向かって、叫んだ。

 

「全員、ここから離れろ!!」

 

霧と木ノ葉の忍達が慌てて散々に避難する。

 

まだ少しではあるが、周囲に霧がかかっていた。

本来なら正確な攻撃は再不斬以外にはできない。

だが、臭いで敵を分別するキバと赤丸に、視界の影響など関係なかった。

さらに今は君麻呂自身、術による拘束から抜け出したばかり。

その上、ネジの白眼によるサポートも受けた。

ここまでお膳立てされて、外す訳にはいかない。

風を切り、霧を突き破る、旋回音が響き渡る。

双頭狼が、ただただ真っ直ぐ、敵を撃つ。

 

「牙狼牙!!」

 

君麻呂は自身に迫る敵を、正面から見据えていた。

拘束から抜き出したばかりのため、回避する余裕はなかったのだろう。

だが、回避できないなら迎え撃つまで……

君麻呂が冷然たる動作で……

身体の中心にある“背骨”を引きづり出し、

 

「最後の舞を見せてやろう……」

 

太く、最高硬度に、強化。

 

「鉄線花の舞・花!!」

 

それは剣ではなく、槍であった。

全てを貫く、最強の矛。

君麻呂の切り札。

それを双頭狼に突きつけ――穿つ。

 

「ハァアアアアァア!!」

「…………………ッ!!」

 

轟音。

凄まじい音を立て、両者が激突。

一歩も退かない対決。

が――

切り札を切っている時ほど……

隙だらけなものはない……

 

長十郎が、静かに刀を――抜刀。

蒼い光が灯る。

風が止まり、空気が停止する。

ピリピリとした殺気を肌で感じながら、再不斬は前方を見ていた。

長十郎が何かを発している。

否、発しているのは刀の方であった。

 

霧隠れには、隠し刀が七本存在する。

そのどれもが、普通の刀とは一線を画し、特殊な能力を備えたモノ。

チャクラを喰らう刀。

如何なる防壁をも粉砕する刀。

雷を放出する刀。

などなど、その特性は様々であるが……

本来の刀としての役割。

斬る――

肉を断ち、骨を断ち、命を絶つ。

その一点において……

長十郎の持つヒラメカレイは……最上を名乗っていた。

 

時間にして、恐らく一秒あったかどうか。

たったそれだけの時間だというのに、再不斬はその一秒を、とても長く知覚していた。

正直、心を奪われていた。

それほどまで、その刀の発する輝きは強烈なものであったから……

と――

長十郎が刀を振るう。

一閃の閃きを――

 

「ヒラメカレイ・解放!!」

 

蒼い輝きを刃に纏わせ――放つ。

それは文字通り、閃きであった。

刹那。

一瞬でヒラメカレイの形状が変化し、刃が伸びたと視認した――瞬間。

 

いや、視認した時には……

既に……

君麻呂の首が――宙をはね上がっていた。

 

蒼い輝きが役目を終え、収束する。

全員が口を閉ざしていた。

沈黙を破ったのは……

ボン!

キバが双頭狼を解く。

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

再び静まり返る平原。

そんな中。

黙々と、平然と、普段通りの所作で。

ヒラメカレイの形状を元の形に戻した長十郎が……宣した。

 

「自信の力=斬った数。だから斬らなきゃ……とにかく」

 

霧と木ノ葉。

自分達の勝利を――

 

 


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