霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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サクラvsサスケ 遠すぎる二人

シカマル、チョウジ、シノ、キバ、ネジ、イルカ、サクラ。

木の葉を出発した時には七人いた。

二小隊ほどの人数。

だが……

 

「待って! サスケくん!」

 

サクラは一人でサスケを追っていた。

仲間を見捨てて……ではない。

仲間を信じて。

自分の我が儘を聞いてくれた里の仲間を信じて。

サクラは今まで……正直に話せば……

サスケ以外の人間は、殆んど眼中になかった。

何をするにしても、サスケが一番。

もちろん、何やかんや言いながらも、いの、口うるさい両親、カカシ、サイ……

大切な人は、もちろんいる。

だけど、その中でも、一番大切な人物は……

迷うことなく、サスケだった。

サクラの心の中心には、いつも彼がいた。

だというのに、

 

「…………」

 

サスケは里を抜けようとしている。

ずっと声をかけているのに、振り返ることすらしてもらえず……

まぁ、それはいつものことなのだが……

それでも追いかける。

必死に、離されないように……

それもいつものことで……

すると……

周囲から、木々や草花が消える。

ついに……森を抜けた。

そして……

 

「…………」

 

サスケがようやく足を止めた。

一つの大きな石像の上で。

 

「…………」

 

サクラもそれに合わせて、足を止めた。

サスケと対になる石像の上で。

 

――終末の谷。

かつて、初代火影 千手柱間。

うちは一族創設者 うちはマダラ。

伝説にうたわれる二人が闘い。

その傷跡を遺すかのように出来た場所。

二つの巨大な石像が、止まることを知らない滝の流れる両岸で、向かい合い、佇む景色。

木ノ葉と音の国境。

それが――終末の谷。

 

その、マダラの石像に立つサスケに、サクラは言った。

 

「サスケくん!」

 

すると、はじめて気づいたかのように、柱間の石像に立つサクラの方へ、サスケが振り向き、

 

「サクラか……」

 

その目は、まるでこちらを見ていないような気がして、でもやっぱり嬉しくて、サクラは笑みを浮かべながら、

 

「な、何やってるの? サスケくん。音忍達はもういないんだし、里に帰りましょ」

「ククク……やっぱりな……」

「サスケ…くん?」

「……サクラ。里に帰るのはお前の方だ」

「え?」

「オレはこのまま音へ向かう。ここでお別れだ。もう、あとを追ってくるな」

 

などと、意味のわからないことを言い始めたサスケに、サクラは声音を大きくして、

 

「な、何言ってるの! ここまでみんなが……」

「オレは復讐者だ」

「それって……演習の時に言ってた……」

 

それは、まだ第七班が結成する前の話。

カカシ、サスケ、サクラ、サイ。

四人が自己紹介していた時のことだ。

サスケはこう言っていた。

“夢なんて言葉で終わらせる気はないが、野望ならある……ある男を…必ず…殺すことだ!”

と。

それを聞いた時のサクラは、

“サスケくん、カッコいい”

などと、いつも通り平常運転だったが……

 

「今、大蛇丸の力の一端を手にして、ようやく理解した。オレはたとえどんな事をしてでも、力を手にしなければならない……そういう立ち位置にいる存在だ。そいつが悪魔だろうが、何だろうが関係ない。力を手にし、オレの目的が達成できるなら、それでいい……」

 

そう、サスケが言った。

それはきっと、サクラがカッコいいと思っていた時と、まったく同じことを言っているのだろう。

だけど……

サクラは言い返す。

 

「ダメ! 音の里って、この前、木ノ葉の里を襲って来た所よ! そんな所にサスケくんを行かせられない! お願いだから戻ってきてよ! またみんなで一緒に……」

「何言ってやがる……オレ達は最初からバラバラだったじゃねーか……」

「そ、そんなことはな……」

「お前は能天気だからなぁ…サクラ。気づいてなかっただろうが、カカシの野郎は常にサイのことを監視していやがったぜ」

「サイを?」

「何故サイが、木ノ葉崩しの後、オレ達の前から姿を消したと思う?」

「そ、それは……」

 

サスケが何を言いたいのか、いまいち理解できないサクラは、返答に困り果てる。

そんなサクラに、サスケは淡々と言った。

 

「わからねーなら教えてやるよ。それはな……サイの奴が、大蛇丸と繋がっていたからだ」

「な、何てこと言うのよ! いくらサスケくんでも言っていいことと悪いことが……」

「だったら今すぐ里に戻って、カカシにでも尋ねてみるんだな……ククク……お前の言う仲間ってもんがどんなものか、すぐに理解できるぜ」

「……っ」

 

サクラは唇を噛み締める。

と同時に、サスケが踵を返し、無言で歩き出そうとする。

その背中に、サクラは叫んだ。

 

「待って!」

「…………」

「サイのことはわからない……けど、今回サスケくんを助けようと集まってくれたみんなは違う。みんなのお陰で、私はこうしてサスケに会えたの……だから帰りましょ。サスケくんの一族のことは……私だって少しは耳にしたことがある…けど…でも、復讐だけが全てじゃないでしょ? それにサスケくんだったら、どこにいたって強く……」

 

が、サクラの言葉を遮り、サスケが言った。

 

「で? オレは木ノ葉にいて、お前達と一緒にいて、それで強くなれたのか?」

「え? あ、当たり前じゃない。サスケくんは私達ルーキーの中でも……」

「違う! オレが目指しているのは、オレの求めているものは、その程度の強さじゃない。アイツを殺すには……オレの目的は、遥か高みにしか存在しない……」

 

完全な拒絶。

このままではサスケを止められない。

そう思い、サクラはさらに叫んだ。

 

「サスケくんは以前、私に孤独の辛さを教えてくれたよね? サスケくんがいなくなったら私は悲しい! それにサスケくんだって、また一人ぼっちになっちゃうんだよ? 本当にそれでいいの!」

 

その、サクラの悲痛な叫びに……背を向けていたサスケが振り向き、一言。

 

「サクラ……やっぱりお前……うざいよ」

 

それも懐かしいセリフだった。

悲しいのに、何故かサクラは笑い、

 

「はは……また言われちゃったね……私、いつもサスケくんに嫌われてばかりだね……」

 

寂しく微笑み……

サクラは……

全身にチャクラを巡らせる。

クナイを取り出し、サスケに向ける。

それを僅かに驚いた表情で見た後、サスケが尋ねてきた。

 

「……どういうつもりだ?」

 

どうもこうもない。

口で説得できないなら、力づくでやるしかない。

正直、サスケに勝てるとは思わない。

だが、サクラはクナイを退かず、

 

「言ったでしょ、サスケくん。今、私がサスケくんと出会えたのは…みんなのお陰なの。私一人じゃ……悔しいけど…泣くことしかできなかった。だけど、そんな私に、シカマルもチョウジも、シノ、キバ、ネジさん、イルカ先生……みんなが何も聞かないで、ただ当たり前のように力を貸してくれたの……信じられる? そんなこと」

「…………」

「だから、こんな弱虫の私の背中を押してくれた……仲間の想いだけは…絶対に裏切れない。それを否定するのは、たとえサスケくんでも……私が許さない」

「……お前の許可など必要ない。オレはオレの道を行く。それを邪魔するってんなら……仕方ねぇーよな……サクラ……」

 

サスケが身を低く構える。

戦闘体勢に入る。

そんなサスケを見て、サクラはやっぱり悲しくなった。

サスケの覚悟を知って。

自分を仲間と思っていないサスケの目を見て。

そして、次の瞬間。

 

「さよならだ……」

 

いつの間にかサクラの背後へ回り込んでいたサスケが、手刀を振り下ろして……

が……

サクラは、それになんとかくらいつく。

クナイを投げ、回し蹴りを放つ。

 

「ハァ!」

「チッ……!」

 

サスケは舌打ち一つ残し、後ろへ跳んだ。

そして、少しだけ感心した目線をこちらに向け、

 

「意外だな……まさかお前が、本気でオレに攻撃を仕掛けてくるとは……」

「私だってこんなことしたくない! お願い、サスケくん! 里に戻ってきてよ」

「フン。お前の色恋沙汰に付き合うつもりなんかねーんだよ、サクラ。オレと殺り合う覚悟がねェなら、今すぐ里に帰れ。これが最後の忠告だ。これ以上オレに付きまとうってんなら……」

 

冷たい目がサクラを見下ろす。

 

「容赦しないぜ」

 

直後。

サスケが加速する。

サクラに近づき、もはや対応し切れない速度で、腹に蹴りを放ってきた。

なんとかガードしようとしたサクラだが、間に合う訳もなく……

 

「ぐはっ……!」

 

バシャッ!

水柱とともに、水中へと叩きつけられた。

とんでもない力だった。

サスケの発するチャクラも、以前とどこか違っていて、禍々しく、まるで大蛇丸のような……

と――

ぼんやり感じながら、サクラの体は水中を漂っていた。

腹に手をあててみると、すごく痛くて……

泣きそうになる。

いや、水の中だからわからないが、既に泣いているのかも……

ただの一撃で、サクラの体と心は悲鳴を上げていた。

それでも……

水の中を泳ぎ、水面を目指した。

 

「ゲホっ……ハァ、ハァ……」

 

息を整えながら、サスケを見上げる。

サクラはまだ諦めていなかった。

すると……

 

「…………」

 

サスケが石像から飛び降り、水面の上に立つ。

サクラの反対側に立ち、こちらを呆れるように見下ろし、訊いてきた。

 

「まだやるのか? お前には無理だ、サクラ。もう一度言う。これが最後だ。里に帰れ」

「ハァ、ハァ。くっ……サスケくんの頼みなら、何でも聞いてあげたい……だけど、そのお願いだけは……聞けない」

「……いいだろう」

 

言うや否や、サスケが印を結び出す。

サクラは痛む体に鞭を打ち、なんとかそれに対応しようと……

だが、

 

チチチチチチチチチ――ッ!!

 

千の鳥が鳴り響く。

サスケの発動した術を、サクラは過去に二度見ている。

一度目は、カカシとナルトが激突した時。

二度目は、サスケがハクと対戦した時。

木ノ葉一の銘刀。

コピー忍者のカカシにして、唯一のオリジナル技。

術の名を……雷切。

または……千の鳥の鳴き声にちなんで、こう呼ばれる……

 

「千鳥!!」

 

サスケの左手に、雷の性質を持ったチャクラが目に見えるほどに集約されていく。

それを見て、サクラはようやく悟った。

自分の覚悟が、まだ足りなかったことに。

千鳥。

こんな術を使わなくても、サスケはサクラに勝てただろう。

それぐらいのことは、サクラにだって、本当はわかっていた。

だというのに、この術を発動してきたということは……

 

「サスケくん……私を…殺すつもりなんだ」

 

もう……それがわかって、涙が止まらない。

次々と溢れてくる。

死ぬ。

間違いなく……自分は死ぬだろう。

それがわかるのに、サクラは逃げる気にはなれなかった。

サスケを見捨てることはできない。

絶対に……

でも、サスケを止めることもできない。

これも……絶対……

八方塞がりの状況で……

せめて最後は、好きな人の顔を見て死のう……とサクラは前を見る。

そんなサクラに、

チチチチチチッ!

サスケが千鳥を構え、

 

「サクラ。お前は何もかもが甘い。言ったはずだ、帰れと。今まで班でやってきたよしみだ……もう一度だけ言う。帰……」

 

サクラはサスケの言おうとした言葉を、遮るように、首を振り……

 

「帰らない……サスケくんを連れ戻すまで……だって、私は……サスケくんのことが……」

「…………なら、その甘っちょろい繋がりを断ち、オレは先へ進む」

 

サスケが駆ける。

ああ……これで終わりか……

みんな……ごめん……

腕がだらりと下がる。

涙が落ちる。

身も心も折れかけ、放心した眼差しで……

と――

サクラが諦めかけた……その時。

ひゅん!

一本の変わった形をしたクナイが飛んで来て、

 

「サクラちゃーん! 諦めんじゃねェ!!」

 

声が届いた。

すると、次の瞬間。

その声の主……ナルトがサクラの背中に触れ、

 

「オレが来たからには、もう大丈夫だ!」

 

後方から一歩遅れてきた、もう一人のナルトと一瞬で――入れ換わる。

 

「飛雷神・互瞬回しの術!!」

 

瞬間。

サクラの体は千鳥の射程外へと移動して……

何でナルトが?

いつの間に自分は移動したの?

などと、疑問を浮かべる間もなく……

理解が追いつかないサクラの目の前で……

 

「ナルトォオ!!」

「サスケェエ!!」

 

サスケとナルト。

二人の忍が、互いの奥義を繰り出し、激突。

 

「千鳥!!」「螺旋丸!!」

 

――終末の谷。

まるで、止まることを知らない滝の流れる中。

サスケとナルト。

二人の激闘が幕を開けた……

 

 


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