霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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うちは最強幻術 別天神

サスケ奪還を無事に終え、木の葉の里に帰還したカカシ達。

隊のメンバーは疲れ果て、みんな体はボロボロではあったがその顔はどこか満足気であった。

共に戦った仲間は全員無事であり、サスケの奪還にも成功したのだから。

だがしかし、そんな彼らを待っていた最初の第一声は……

 

「任務達成ご苦労であった。うちはサスケの身柄はこちらで預かろう。なに、手荒には扱わんさ……大事な木の葉の忍だからな」

 

ダンゾウだった。

状況を確認する。

いまカカシの周りにはダンゾウの指揮の元、無数の人の輪ができていた。

ダンゾウの手駒である根の暗部が数十人。

それだけなら少なくとも疑問には思わなかったのだが、事態はさらに深刻であった。

つい先日までダンゾウのことを毛嫌いしていたはずの中忍や上忍までもが、ちらほらとその輪の中に混じっていて……

そしてその騒ぎに油を注いでいたのは……

 

「カカシさん達が帰って来たぞ!」

「化け狐からサスケを取り戻してくれたんだ!」

「さすが白い牙の息子だ!」

 

木の葉の住民達であった。

煩わしい歓声が里中に響き渡る。

そんな光景に、異常な雰囲気に、サクラが怯えた様子で、

 

「な、なんなのよ……これ……」

 

そう呟いた。

続けて、シカマル、キバ、ネジの三人が、

 

「ったく、どうなってんだ?」

「おいおい、何でオレらが囲まれてんだ!」

「皆、狂気に我を忘れているな……」

 

あまりにも常軌を逸していた。

本当にここは木の葉の里なのか?

と、おもわず疑問を浮かべるほどに……

たった一週間で木の葉の里は変わり果てていた。

様変わりして……いや違う。

カカシはこれと似た光景に見覚えがあった。

十年以上も昔の話だ。

自分の父親、はたけサクモが受け持ったある任務の話。

彼はその任務で“任務の遂行”か“仲間の命”この二つを天秤にかけられ、選択を迫られることになる。

そして……

サクモは悩まず、仲間の命を選んだ。

ルールより、仲間の方が大切だと。

その結果、仲間の命は救われた……が、当然任務は失敗。

火の国は著しい損害を被ることになる。

そして、そんな選択を選んだサクモに待っていたのは……里全体からの誹謗・中傷の嵐であった。

『なぜ最後まで任務を遂行しなかった!』

『忍ならルールを守れ!』

『お前のせいで里は被害を被ったんだ!』

嵐が止むことはなかった。

挙句の果てには自分が助けた仲間にも裏切られ……

恩を仇で返されたサクモは心身を病み、最後は自らの手で自殺した。

と――

カカシは困惑気味に周囲を見渡す。

今回、誹謗・中傷の対象になっている人物はカカシでもなければ、イルカでもない。

憎悪を向けられていた者は……

 

「あの化け狐め!」

「三代目もアイツに殺されたんだ!」

「何も知らぬ里の子供まで誘拐しようとは……なんとバチ当たりな奴じゃ」

 

醜悪な悪意を向けられていたのは……ナルトだった。

辺り見回してみると、あちらこちらに金髪の少年、ナルトの顔が描かれた手配書までもが貼られていて……

カカシは身近に貼られていた一枚の手配書を破り捨てるように手に取り、

 

「これは……一体どういうことでしょう?」

 

目の前に立つ、包帯だらけの男。

ダンゾウに詰め寄り、問い詰める。

すると、

 

「どうもこうもない。見ての通りだ」

 

抑揚のない声音で、ダンゾウが応えた。

それにカカシは怒りを隠さず、

 

「見ての通り? なぜナルトの手配書が出回っているのでしょう。彼は今回……」

 

が、反論はそこで遮られた。

ダンゾウが厳かな態度で言い放つ。

 

「そうだ。奴は大蛇丸と結託し、あろうことか自分の利益のために、木の葉の忍…うちはサスケを誘拐しようと企てていた」

「なっ!? 何をおっしゃって……」

「カカシ、何を寝ぼけておるのだ。音と霧の企みを阻止するため、ワシがお前にサスケ奪還を命じたであろう」

 

などと訳のわからないことを言い始めて。

それにカカシは憤りを押し殺しながら、

 

「ダンゾウ様、あなたは……」

 

と、言いかけたところで……

 

「!?」

 

口を閉じた。

閉じざるを得なかった。

何故なら、顔に巻かれた包帯の隙間から朱い瞳が見えたから。

ダンゾウの写輪眼。

だが、自分の写輪眼とは違う形をしていた。

勾玉模様ではなく、手裏剣の形に似た……

次の瞬間。

 

「別天神」

 

ダンゾウが小さく呟いた。

(あれは万華鏡写輪眼!? 何をするつもりだダンゾウの奴!?)

カカシは咄嗟に身構え、額当てに手をあてる。

何が起きても対応できるように。

だが……

(どういうことだ)

何も起きなかった。

ダンゾウは一切の攻撃をしてこなかった。

ほんの一瞬、写輪眼を見せただけ。

(掛けられた気配はなかったが、まさか幻術か?)

と、警戒したのだが、その様子もないようで……

念のため近くにいたイルカやサクラにも目を向けてみるが、

 

「みんな慌てるな。一度落ち着け」

「何これ……何でナルトの手配書なんかが出回ってるのよ!」

 

ダンゾウが写輪眼を出したことにすら気づいていなかった。

パニックを起こしてはいるが、どう見ても幻術をかけられた心配はない。

カカシはほっと一息入れた後、ダンゾウに視線を戻し、

 

「ダンゾウ様、任務はこれにて完了しました。サスケのことをよろしくお願いします」

 

サスケの身柄をダンゾウに明け渡した。

根の暗部が速やかに行動に移り、サスケを受け取る。

だがそこで、

 

「カカシさん!?」

 

イルカが詰め寄ってきた。

 

「何をしてるのですか!?」

「ん〜? 何のことでしょうか?」

「『何のことでしょうか?』ではありません! どうしてサスケをダンゾウなんかに渡し…て……」

 

イルカの言葉がそこで止まる。

何故なら……

 

「イルカ先生。ダンゾウ様は既に五代目火影への就任が決まっておられるお方です。あなたが五代目にどのような感情を抱こうとそれは個人の勝手ですが、少なくともこのような場で公私混同を弁えない発言は……控えておいた方がご自身のためかと」

 

カカシが殺気を飛ばしていたからだ。

思わず後退りするイルカ。

しかし次は彼に代わって、サクラが前に出てくる。

 

「カカシ先生、どうしてサスケくんを!?」

「どうしても何も、サスケの写輪眼は貴重だからだ。九尾を捕らえるにしても、最悪殺すにしても、写輪眼がなければお話にならないでしょ」

「……は? ちょ、え? カカシ先生……何を……言っているの?」

 

まるで意味がわからないといった表情で狼狽えるサクラ。

いや、サスケ奪還任務に参加したカカシ以外のメンバー全員が同じ顔をしていた。

それを見て、カカシはしまったと心の中で呟く。

九尾の件はまだ子ども達には話していなかった。

意味がわからないのは当然である。

だが、それは子ども達だけのはず。

だというのに、事情を理解しているはずのイルカまでもが呆けた顔をしていて、次第にその表情は怒りで燃え上がり、

 

「カカシさん! あなた自分が何をおっしゃっているのか、本当にわかって言っているんですか!!」

「あのね、そんな怒鳴らなくてもいいでしょ。オレだってナルトのことはあなたと同じぐらい気にかけています。ですが現在の木の葉の状況を考えれば、これ以外に打つ手がないのもまた事実」

 

うずまきナルト。

恩師である四代目とクシナの忘れ形見であり、九尾をその身に宿した少年。

カカシとて、ナルトには幸せな人生を歩んでもらいたかった。

だが、そんなのは夢物語だ。

ナルトが里を抜けたことにより木の葉は尾獣という最大戦力を失い、各隠れ里の尾獣バランスは完全に崩壊していた。

そして先日起こった木の葉崩しにより、里は壊滅的なダメージを受けていた。

里の忍は減り、街並みは瓦礫の山と化し、中忍試験を見学しに来ていた大名や著名人からも死人が出ていた。

さらに付け加えると、肝心のナルトが霧の忍でありながら、四代目の羽織を身に纏い、黄色い閃光の技を披露するという本人にその気があったかは別にして、明らかな木の葉への挑発行為まで堂々と行われ……

つまるところ、五大国最強とうたわれていた木の葉の里の信用は今や完全に地に堕ちていたのだ。

依頼の数が激減するほどに。

資金の調達ができないほどに。

このままでは里は復興どころか、衰退の道を辿る一方。

失った信用を取り戻すには戦果しかない。

"いかなる犠牲を払おうとも九尾を奪還する"

それ以外に木の葉の未来はなかった。

赤子でもわかる理論だ。

だというのに、目の前のイルカは敵意を剥き出しにして、

 

「見損ないましたよ、カカシさん!」

 

あろうことか、カカシに殴りかかってきた。

カカシはそれを半眼で、冷めたやる気のない目で見ていた。

構える必要すらない。

上忍のカカシとイルカとでは天地の差がある。

その気になれば瞬殺できるほどに。

だから、そのイルカの振り上げた拳がカカシに届くことはなかった。

 

「ふぅー、ギリギリ間に合ったぜ。影真似の術、成功」

 

カカシではなく、イルカの後ろにいたシカマルが動きを止めたから……

 

「シカマル放してくれ! オレは!」

「悪いがそれはできない相談だ。一旦落ち着いて下さいイルカ先生。ここで暴れたらオレたちは全員牢屋行きだ」

「ぐっ……」

「そうなった場合、一体誰が得をするのか……わざわざ言わなくてもわかりますよね。ここは耐えるべきです」

 

シカマルの言葉を聞き、イルカが拳を引く。

ネジやキバ達も言いたい文句を我慢している様子だった。

(やれやれ、これじゃあまるで悪役だな……)

と心の中でぼやいたところで……

包帯を締め直したダンゾウが、真剣な表情でカカシに話しかけてきた。

 

「カカシよ、お主にはこれからやってもらいたいことがある」

「はい。何でしょうか?」

「頼み事は二つだ。まず一つ、ワシが近々九尾奪還に向かう際、お前には木の葉の里の守りを頼みたい……ワシの右腕としてな」

「里の防衛……ですか。自分はてっきり九尾捕縛にあたるのかと予想していたのですが……」

 

右腕にというのは方便だろう。

お世辞にもダンゾウは人望ある忍とはいえない。

むしろ批判の多い人物だ。

だからこそ、コピー忍者と慕われるカカシを味方につけ、少しでも自分が動き易くする……

ダンゾウの策略は恐らくそんなところか。

カカシは静かに思考を巡らした。

そしてこの推察はほぼ正解といってよかった。

だが、次に彼から放たれた言葉はそのカカシすら予測できないものであった。

 

「そしてもう一つは、万が一の事態に備えた写輪眼の能力向上」

「な!?」

「ここまで言えばあとはわかるな。カカシよ、しばらくの間お前には里の守護以外の全ての任を解く。速やかに行動に移れ。これは五代目火影からの勅命であると心得よ」

「…………」

 

ダンゾウの言った写輪眼の能力向上。

すなわち万華鏡写輪眼。

たしかにカカシは万華鏡写輪眼を持っていた。

しかし、そのことを誰かに話したことは一度もない。

見せたこともないはず。

誰にもだ、上司にも、部下にもだ。

何故ならそれは自分の奥の手であり、切り札なのだから……

だというのにダンゾウにはバレていた。

(いつだ? いつ見られた!?)

やはり根の総本山は伊達ではないらしい。

カカシはなんとか動揺を隠しつつ、

 

「勅命、謹んでお受け致します」

 

その場を去っていった。

 

 

 

 













あけまして おめでとうございます。
お久し振りです。
最新話を投稿させて頂きました。
色々と忙しく、どれぐらいのペースで投稿できるかわかりませんが、完結まで投稿できたらいいなと思っています。

今年が皆様にとって、幸の多い年でありますように

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