翌日の朝。
ナルトは爽快な気分で、テントから目を覚ました。
外に出ると、
「くぁぁあ〜。う〜ん、朝だってばよぉ」
ちょうど朝日が昇るタイミングだった。
本当は小雪に同行して、雪の国までついて行きたかったのだが、ほぼ徹夜続きの作業でハクと長十郎がへとへとになってしまい……
第一班の面々は再不斬の提案により、一日だけ休息を取ることにしたのだ。
そして、今日。
十分な英気を養えたナルト達は、
「いざ、しゅっぱーつ!」
次の目的地へと、歩き出した。
完成したばかりのナルト大橋を渡り、雪の国へと足を踏み入れる。
どうやら雪の国の人達は、街道を整えながら橋を作っていたらしく、ナルト達の歩く道はかなり歩き易く整備されていた。
そんな道の先頭を、元気よく歩くナルトに、小走りで追いついたハクが声をかけてきた。
「ナルトくんは本当に元気ですね。橋作りの時も影分身を使っていましたし、本来なら一番体力を消耗しているはずなのですが……」
「ん? ああ、オレってば体力だけは自信あるからな」
と、笑顔で応えるナルトに、後ろを歩いていた長十郎が、
「そういえば…ナルトさん。木を斬り倒している時にも修行をしていましたよね? 横で見ていましたが、その…かなり筋もよくなっていましたし……」
「え? そうか、やっぱり! 自分でもそう思ってたんだ〜。まあ、ハクや長十郎に比べれば、まだまだあれだけど……」
長十郎の言う通り、ナルトは橋作りの時にも修行を行いながら、作業に取りかかっていた。
風の性質変化はハクから学び、武器の扱い方は長十郎から教わって。
しかし、ナルトの技術はまだまだ発展途上であった。
組手でも、飛雷神を使用しない純粋な近接戦闘なら長十郎に劣るし、忍術の扱いはハクに負ける。
とはいえ、ナルトも隠し玉を見せていなかったりするのだが……
などなど。
雑談を交わしながら、十分ほど歩いただろうか。
整備された道の上でも生え放題だった雑草が突如消え、ナルト達は開拓途中の開けた場所に辿り着いた。
そこにあったものを見て、ナルトは思わず、
「おお〜 村だってばよ!」
感嘆の声をこぼした。
そこには作りかけの、小さな村ができていた。
ハクの言い方を真似るなら、関と呼ぶのが正しいのだろうが……
と、感動するナルトの隣では、ハクと長十郎が同じように驚きに満ちた目で、
「これは……凄いですね。ここまでとは」
「もう…殆ど完成しています……」
昨日までは橋の建設に携わり、今度は関の建設に携わる。
任務だからと当たり前に参加していたが、ナルト達は自分達が思った以上に、貴重な経験を積ませてもらっているのかも知れない。
そう思わせる何かが、目の前の景色にはあった。
と、感動に浸っていたナルト達の後ろから、
「よし、早速作業に取りかかるぞ。任務の説明は必要はねーな」
淡々とした口調で再不斬が言った。
ナルト達はそれに頷く。
ここでの作業は、それぞれが村人達に協力し、自分にできることを率先して行う……と、予め決めていた。
それを確認してから、最後に再不斬が一言、
「散!」
合図とともに、ナルト達は各自の持ち場へと行動を開始するのであった。
そして……
場面は移り、村人に案内され、ナルトが連れてこられた場所は……
「ここを掘るのか?」
そこには直径1メートル程の縦長の穴が空けられていた。
今も何人かの男衆が顔を泥塗れにさせて、地面に穴を掘り続けている。
つまり、今回ナルトに与えられた仕事は……
「ナルトさんには、井戸掘りを手伝ってもらいたいのです。お願いできますでしょうか?」
であった。
井戸掘り。
目の前に空いた穴を見て、頷く。
橋作りとは違い、これならナルトにもイメージしやすい。
要は、水が出るまで穴を掘ればいい訳だ。
何度か穴を掘る自分をイメージして……
ナルトは自分をここまで案内してくれた、村人の青年に向かって、
「任せとけって。このうずまきナルト様が来たからには、井戸の一つや二つ、ちょちょいっと掘ってやるってばよ」
と、余裕の表情で応えた。
それに目の前の青年は、
「おお、さすが霧の忍者です。僕達も自力で掘ってはいるのですが、どうしても時間がかかってしまい……」
そう言って、スコップを手渡してきた。
ナルトはそれを受け取り、
「よーし、やるってばよ!」
早速、作業に取りかかろうと……
前まで歩き、地面に作られた穴を覗き込んだ。
すると、ナルトがやって来たことに気づいた、一人の男がこちらに近づいて来て、
「お? 霧の忍者が手伝いに……って、まだ子どもじゃねーか! うん? その金髪、どっかで見たような……」
などと言ってきた。
ナルトはその言葉に少しむっとして、
「オレってば、確かに子どもだけど、忍者だ! 任務で井戸掘りの手伝いにやって来たの!」
「がははは、そんな拗ねるなよ坊主。人が生きていく上で、水源の確保は一番重要な仕事だからな。しっかり手伝ってもらうぜ」
「おう! よろしく頼むってばよ」
挨拶を終わらせたナルトは、もう一度穴を覗き込む。
そして、そこで掘削作業をしていた筋肉隆々の男に向かって、叫ぶように言った。
「おっちゃーん! 穴掘り代わるってばよ」
その声に、作業をしていた男が手を止めて、こちらを見上げる。
「話は聞いてたよ、手伝いに来てくれたんだな」
「ああ、おっちゃんもこんだけ掘ったんだから疲れただろ。後はオレに任せてくれ」
「そうか。そんじゃお言葉に甘えて、ちょっと休憩させてもらうとするか」
そう言って、男は地面から這い出てきた。
ナルトはその手を掴み、引っ張り上げる。
それから入れ代わる形で、自身の体を穴の中へと落としていった。
縦の長さは、ナルトの身長より少し深いぐらいだろうか。
足下の地面を少し蹴る。
滅茶苦茶硬かった。
が、こちらは鉄だし、問題ないだろう……とスコップを握り締め、
「さっくと終わらせてやる」
穴を掘っていく。
ざくざくと土を掘り返して……
いや、掘ろうとしたのだが……
「あれ?」
硬かった。
いや、硬いのは始めからわかっていたのだが、予想以上に硬かった。
スコップでも、数ミリ程度しか掘れないぐらいに……
「だったら……」
ナルトはチャクラを練り上げる。
そして、そのチャクラをスコップに流し込み、包み込むように纏わせた。
僅かだが風遁の性質も練り込むという、一流の忍でも難しいチャクラ操作を、難なくとこなして見せて……
「これなら、どうだ!」
ザクッ!
今度は掘れた。
小気味良い音とともに、さじ部が地面に入っていく。
それから、スコップが地面に突き刺さり、突き刺さり……
刺さってしまった。
「ぬ、抜けねェ〜」
力を入れて引っ張るが、ビクともしない。
今度は全身にチャクラを行き渡らせ、力を込めて、込めて、込めて……
あらん限りの力を振り絞り、スコップを引き抜いた。
作業を始めて、約一分。
ナルトの体は既に汗だくだった。
あれ?
穴を掘るのって、こんなに苦労したっけ?
こんな伝説の剣を引き抜くような作業だったっけ?
ナルトは引き抜いたスコップを見る。
無理に力を入れたせいか、さじ部が変な方向に曲げられていた。
どう見ても使い物にならない。
上を見上げると、村の男衆が心配そうにこちらを見ていた。
が、大見得切った手前、作業を代わってくれ……などとは口が裂けても言えないし……
「ど、どうしよう……」
ここまで作業を進めて(まったく進んでいないが)ようやくナルトは理解した。
井戸を掘るのは大変な仕事だと。
でも、重要な仕事だという事も理解していた。
だから……
地面に手を当てる。
やはり硬い、硬い……けど。
ナルトは顔を上に向け、
「おっちゃーん!」
「おう、どうした?」
「オレってば、穴を掘ればいいんだよな?」
「ああ、取り敢えず水が出てくるまでは、穴を掘るしかねえ」
つまりはそういう事だ。
穴を掘ればいい訳で、スコップなどに頼る必要はない。
自分は忍者だ。
忍なら、忍らしく事を進めればいい。
そうと決まれば、やる事は一つ。
ナルトは再度、顔を上に向け、叫んだ。
「おっちゃん達、オレってばちょっと試したいことがあるから、少しだけ下がっててくれ! 危ねーかも知んねーから」
「あ、ああ。無茶すんじゃねーぞ」
村の男衆が、ぞろぞろと後ろへ下がって行く。
それを確かめてから、ナルトは十字に印を結び、
「影分身の術!」
ボン!
煙とともに、分身が出現する……が、
「……狭いってばよ」
こんな窮屈な場所では、分身を一体出すだけで精一杯だった。
だけど、それで十分。
これで準備は整った。
と……
互いに頷き合ってから、二人のナルトが両手を重ね合わせ、チャクラの球体を作り上げていく。
チャクラの回転→威力→留めるを極めた四代目火影の遺した遺産忍術、螺旋丸がナルトの右手に掲げられた。
そして……
「今度こそ!」
その螺旋丸を、地面に叩き込んだ。
すると……
「思った通りだ!」
硬かった地面はみるみると削られ、土を撒き散らし、そこに小さな窪みを作った。
これならいける。
そう確信したナルトは、次々と螺旋丸を作り上げ、地面に叩きつけた。
削られた土は、村の男衆が協力して運んで行き……
滞っていた掘削作業が、ようやく流れ始めたのだ。
途中、ハクが運んできた昼食を取り、休憩を挟んだりしながらも……
ナルト達は結局その日の夕方まで、永遠と穴を掘り続けたのであった……
次の日の朝。
昨日と同じく、ナルトは井戸を掘り続けていた。
だが、螺旋丸のお陰で作業そのものは進んでいるものの、削れる範囲は依然と小さいため、作業スピードは思ったほど伸びてはいなかった。
それをもどかしく感じたナルトは……
「う〜〜ん」
腕を組み、頭を捻る。
人が生きる上で、水は必要不可欠。
一応、近くに川も流れているので、生死に関わる問題ではないだろうが、できることなら早く井戸を完成させて、みんなを安心させてやりたい。
だから、頭を捻り、思考を巡らし……
「あ、そうか」
一つの策を思いついた。
すぐさま作戦の協力者に呼びかける。
『九喇嘛、起きてるか?』
『……何だ?』
どうやら起きていたようだ。
ナルトは続けて、
『あのさ。いま井戸を掘ってんだけど、いつもよりでっかい螺旋丸を作りてーんだ。だからさ、九喇嘛も手伝ってくれってばよ』
『……螺旋丸を使って井戸を掘る…か。いいだろう、手を貸してやる』
了承の返事を受けてから、ナルトは一度、穴の外へと脱出し、
「よっしゃーっ! やるぞォ!」
「おう!」
予め出していた分身と共に、螺旋丸を作り上げていく。
九喇嘛がチャクラを放出してくれるおかげで、いつもより大きな螺旋丸が完成した。
その大きさは、いつもの何十倍もの大きさで……
「え?」
いやいやいや、何だこれ?
こちらを見ている村人達も、色々な意味で引いているが、
「でか過ぎだろ!?」
ナルトも同じぐらい焦っていた。
いつもより一回りだけ大きい螺旋丸をイメージしていたのに、こんなもの地面にぶつけたら……
『く、九喇嘛?』
『あ? 今度は何だ』
『いや、ちーとサービスし過ぎじゃねーか、これ?』
『てめーがでっかい螺旋丸を作りてーって言ったんだろーが』
『物には限度ってもんがあんだろ、このアホ狐! これじゃ井戸じゃなくて、池になっちまうじゃねーか!』
『誰がアホ狐だと! てめェーにだけは言われる筋合いねェーぞ! ……ケッ、外にいる連中も水が出りゃ文句ねーだろ』
『んなわけ……ん? 言われてみれば、それもそう…なのか?』
『……やはり、てめーの方がアホじゃねーか、ナルト』
一瞬、九喇嘛の言い分に流されかけたナルトだが、なんとかイメージ通りの大きさまで、チャクラの球体を圧縮させて……
その手に、
「名付けて、大玉螺旋丸!!」
を、完成させた。
そして。
「これで一気に掘り進めてやる」
言うや否や。
ナルトは井戸を掘っていた穴に飛び込み、片手を突き出し、叩き込んだ。
すると、次の瞬間。
轟音。
けたたましい音が響き渡り、凄まじい勢いで地面が削られていく。
瞬く間に何メートルと掘り進み、そしてついに……
「あ〜〜!? 水が出たぁ!?」
掘り続けてきた穴から、泥の混じった水が勢いよく湧き出してきた。
上の方からも、村人達の歓喜の声が聞こえてくる。
やっと井戸の完成が見えてきたのだ。
しかし、まだ作業は終わっていない。
何故なら、この水はまだ暮らしに使える代物ではなかったからだ。
むしろ大変なのはここからだった。
削った土を穴から取り出し、また掘っては、泥を取り出し……
その作業を、何度も何度も繰り返す。
井戸の周囲を、水が溢れないように補強して。
基礎を固め、ブロックを六角形に整えて。
いくつもの作業を積み重ねて。
そして、最後にポンプを設置し、レバーを動かすと……
透明な水が出てきた。
ナルトが作業を開始して、約五日後。
ついに……
「か、完成した…ってばよ……」
井戸が完成したのであった。
疲れた……
さすがに螺旋丸を連発し過ぎた。
だけど……
「完成したぞー!」
「オオー! すげー、水が出てる」
「きゃあ〜」
「これで炊事、洗濯が楽になるわ」
村人達が一斉に歓喜の声を上げる。
その様子を見て、ナルトはようやく実感が湧いて来た。
自分は任務をやり遂げたのだと。
と――
人々の笑顔とともに、達成感に包まれていたナルトの後ろから……
「あ、あの……」
声が聞こえた。
後ろを振り向く。
すると、そこにいたのは、まだ七、八歳ぐらいだろうか?
小さな女の子だった。
その子が、ナルトの方を見ていて……
それから少し遠慮がちに、
「わ、私、ナルトさんのファンなんです。サイン下さい」
色紙を突き出してきた。
それにナルトは、
「へ?」
一瞬、間抜けな顔をする。
そんなナルトの周りに、さらに五人の子ども達が駆け寄ってきて、
「オレもくれよ!」
「僕も欲しい」
「私も!」
「オレも映画見たぞ!」
「兄ちゃん! これにもサイン描いて!」
色紙やら、本やら、ハンカチやらを満面の笑みで突き出してきた。
よく子ども達の顔を見てみると、中には霧の里の子どもまで混じっていて……
ナルトはさっと周囲を確認する。
井戸を掘るのに夢中で気がつかなかったが、今この村には雪の国の人々だけでなく、霧の住民まで滞在していた。
つまり、それだけの人が、この村の建設に携わっていたのだ。
それもそうだ。
だって、そうでなければ、たった五日程度で……
正門が建ち、柵が作られ、井戸に水が貯まり、街道は整備され……
こんな事、できる訳がなかった。
ナルト達だけの働きで、村がこんなに立派になる訳がなかったのだ。
そんな当たり前の事実を、今更ながらに気づいて……
もう一度、子ども達に視線を戻す。
すると。
子ども達の手は、みんな泥だらけだった。
一度洗い流したようだが、確かにその手には土埃がついていた。
みんな、大人達の仕事を手伝っていたのだ。
だから、ナルトは……色紙を一枚手に取り、
「よーし、このうずまきナルト様が、みんなにサインを描いてやるってばよ!」
集まってきた子ども達、一人一人にサインを描いていった。
全員にサインを贈り終えた後。
子ども達が帰って行くのを見計らって、
「随分な人気だったじゃねぇーか、ナルト」
再不斬がやって来た。
後ろにはハクと長十郎の姿も見える。
だけど、ナルトは知っていた。
再不斬、ハク、長十郎の三人も、ナルトと同じように、子ども達にサインをしていたことを。
かつて霧隠れの鬼人と恐れられた、あの再不斬が、渋々ながらもサインを描いていた光景をナルトはこっそりと見ていた。
だから、それをからかってやろうと……
しかし、
『気ィつけろ、ナルト。何かヤバいのが来るぞ』
心の中で九喇嘛が警告した……
次の瞬間。
「随分と手間を取らせてくれましたね……ようやくチャクラを嗅ぎつけましたよ」
「…………」
その二人は現れた。
音も無く、気配も感じさせず、突如としてその二人は姿を現した。
血をイメージさせる赤い浮雲。
漆黒の衣を身に纏った、二人一組。
一人は身の丈ほどの大刀を背負った、鮫みたいな顔立ちの男。
もう一人は、黒髪に、傷の入った木の葉の額当てをした男。
見ただけでわかる。
一目見ただけでわかってしまった。
自分より、強い。
いや、片方だけなら、倒せそうな気もするが……
それでも、自分より強い。
どうする?
隣にいるハクと長十郎も、警戒をするだけで、自分から下手に動こうとはしない。
そもそも敵なのかどうかすら、ナルトにはわからない。
でも、もし敵なら……
一瞬の判断ミスが命取りになる。
目の前にいる二人は、そういうレベルの忍だ。
みんなを連れて、飛雷神で飛ぶべきか?
しかし、ナルトが動く前に……
「……こいつは驚いた。まさかこんな所で、テメェの面を拝めるとはなぁ……鬼鮫」
最大限の警戒をあらわにしながら、再不斬が言った。
完全に敵意剥き出しの口調で。
それに相手は、親しげに、かつ残忍な笑みを浮かべて、
「これはこれは。お久し振りですね、再不斬。ですが、そちらの方には面識のない方もいらっしゃるようですし、取り敢えず自己紹介から始めましょうか」
そう言いながら、こちらを見回し、名乗りを上げた。
「干柿鬼鮫。以後、お見知りおきを」
干柿…鬼鮫?
どこかで聞いたことあるような?
そんなナルトの疑問に答えるように、再不斬が言う。
「メイの帰還命令を無視したテメーが、今更のこのこ現れるとは、いい度胸じゃねーか。今ウチの里じゃ、テメーが四代目水影の失踪に手を貸した…などというウワサも流れてるぜ」
四代目水影の失踪に手を貸した?
こいつが?
でも、確か、失踪じゃなく、拉致されたって……
「………さて、何の事でしょう」
「フン、まあいい。ここだけの話、奴が消えてくれたお陰で、オレ達は助かったみてーなもんだからな」
「おやおや、相変わらず小賢しい性格をしていますねェ」
などと、雑談しながら、
「…………」
「…………」
徐々に殺気を放ち始める二人。
再不斬と鬼鮫が自身の刀に手をかける。
その雰囲気に煽られて、ナルト、ハク、長十郎も戦闘態勢に入ろうと……
しかし。
「待て、鬼鮫」
それは鬼鮫と共にいる、もう一人の男によって遮られた。
充満していた殺意が消え失せる。
鬼鮫が、その声の主に顔を向け、
「何でしょうか、イタチさん」
「オレ達は彼らと戦いに来たのではない。目的を違えるな」
「しかし、イタチさん。私も同郷だからこそ言えるのですが、霧は基本、敵との交渉には応じませんよ。もっとも力の差でも見せつけてやれば…話は別かも知れませんがねェ…」
「…………」
イタチは少しの間、考える素振りをみせた後、ナルトの顔を一瞥し、抑揚のない口調で言った。
「場所を移そう。あなた方も、ここでの争いは望んでいないはずだ」
確かにその通りだ。
今ここで戦闘を行えば、せっかく苦労して作り上げた村が破壊され、さらには住民達にも被害が及んでしまう。
この場で戦うことは、ナルト達の望むところではない。
しかし、ここまで会話を広げた以上、目の前の二人をみすみす見逃す訳にもいかない。
つまるところ……
「…………」
ナルト達は、イタチの提案を受けざるを得ないのであった。