雪の国境を少し越えた先にある、トロ場と呼ばれる穏やかな水が流れる渓流で。
今そこでは、ナルト、再不斬、ハク、長十郎、イタチ、鬼鮫。
六人の忍が水辺の上に立っていた。
睨み合い、牽制し合い、殺気を放ちながら。
全員が動きを止め、身体に力を溜めていた。
状況が動いた時、即座に動けるように。
そして。
穏やかな緊張感は、すぐに途切れる事となる。
鬼鮫が背中に背負っていた大刀を手に取り、
「では、少し遊ばせて頂きますよ」
臨戦態勢に入る。
こちらに一歩一歩近づいてくる。
だが、イタチの方は一歩も動こうとしない。
今の状況をその黒い眼差しで、ただただ静かに眺めるばかりで、
「…………」
自分に動く気はない…と、そう意思を示すように、直立不動の姿勢でイタチが言った。
「ここはお前の流儀に任せよう。だが、決してやり過ぎるな。霧の忍を殺してしまっては交渉の余地がなくなってしまう」
「ご心配には及びません。アナタもご存知のはず、私の特技は生け捕りですよ。まあ、たまに相手が弱すぎて失敗する事もありますがね」
生け捕りにする。
完全に上から目線の発言。
しかも、こちらはナルト、再不斬、ハク、長十郎の四人に対し、向こうは一人しか戦わない様子で。
明らかにこちらを見下していて。
そんな二人を前に、今回ばかりは空気を読み、今まで口を閉ざしていたナルトが、ついに我慢できず、
「いきなり出てきて……」
と、言いかけたところで、
「ナルト、少し静かにしてろ」
再不斬が遮った。
ナルトの発言を視線で止め、さらにナルト、ハク、長十郎の三人を自身の方へ引き寄せつつ、
「クク…鬼鮫ェ、随分となめ腐ってるとこわりーがよぉ、オレはテメーをぶった斬る前に一つ、聞いておかなきゃなんねー事がある」
「アナタが他人に質問をするとは珍しい。いいでしょう。今の私は、そしてこの鮫肌も久方振りのご馳走を前に気分がいい。答えられる質問なら、何でも答えて差し上げますよ」
そう鬼鮫が言った瞬間、再不斬は近くに寄ってきたナルト達に合図を送り、小声で囁いた。
「鬼鮫の方を殺る。フォーメーションCで行くぞ」
その言葉に、ナルト達は目を細める。
静かに、全身にチャクラを巡らし……
そして、再不斬が言った。
「テメェら、オレ達に交渉がどうとか言ってやがったが、一体何の話だ。何が目的でオレ達の前に現れやがった」
それに鬼鮫は、どこか人を小馬鹿にした笑みを浮かべて、
「あまり面白い質問ではありませんが、いいでしょう。それぐらい……」
が、そこまでだった。
最後まで聞く必要はないと、再不斬は会話を無理やり打ち切り、
「いや、わざわざテメーにそんな質問する必要はねーな」
「おや? 尋ねてきたのは……」
「クク…わりーわりィー。犯罪者の集団が律儀に答えてくれるとは思わなくてよォ……確か、組織名は……暁…だったか?」
「なっ!?」
鬼鮫が驚きの声を上げた。
その瞬間。
「影分身の術!!」
「ヒラメカレイ・解放!!」
長十郎が抜刀する横で、ナルトは影分身を二体出現させた。
一人は、その場で待機。
一人は、飛雷神で増援の要請。
フォーメーションCは、力が未知数の相手に、自分達だけで無理に対処するのではなく、仲間の増援を待つ作戦。
この班には、ナルトの飛雷神があった。
これで増援の連絡は済んだ。
後は時間を稼げばいいだけ。
しかし、ただ待っている訳にもいかない。
待ってやるつもりもない。
増援要請はしたが、ナルト達だけで敵を倒せるのなら、それが一番ベストなのだから。
だから……
ナルトはホルスターから術式クナイを取り出す。
同時に、分身ナルトが長十郎の背中に手をあて……
次の瞬間。
「行くぜ! 長十郎」
ナルトが鬼鮫に向かって、クナイを投擲した。
それに合わせて、大槌を携えた長十郎が、分身ナルトと共に飛雷神で転移する。
一筋の閃光が、他の全てを置き去りにする。
一瞬にして、鬼鮫の懐に潜り込み……
「鬼鮫先輩、お覚悟を……」
突如、目の前に現れた長十郎を見て、ようやく事態を理解した鬼鮫が、
「速い…! まさかこれほどとは……」
慌てて行動に移ろうとする……
が、それはできない。
「な、足が氷漬けに!?」
「すみません。あんな隙を見逃す訳にはいきませんので」
ハクだった。
鬼鮫の足は、いつの間にかハクの氷牢の術で、その動きを止められていた。
再不斬の意図にナルトが気づいたのは、フォーメーションを指示された時だったが、ハクは最初から万全の準備を整え、この瞬間のためだけに備えていたのだ。
と――
氷牢の術で足を止められ、飛雷神での奇襲に印を結ぶ時間すら与えてもらえず、さらに、
「飛雷神・ヒラメカレイ!!」
ガード不可能な一撃をもろに受けた鬼鮫は……
「ぐはっ!!」
吐血を吐き、信じられない勢いで吹き飛んだ。
一度大きく水面を跳ね上げた後、イタチの後方まで着水する事なく吹き飛び、最後には受け身すら取れず、その身体を水の中へと沈めていった。
「…………」
ナルトは、その威力に唖然として……
その光景をただ呆然と眺めて……
横に戻ってきた長十郎を見る。
普段はおどおどしている長十郎だが、一度戦闘になると、敵に対しては徹底的に容赦しない。
それが彼の性格だった。
そして、ナルトもそれはよく知っていた。
だけど、今回は相手も会話を望んでいたし、何も殺さなくても……
そう抗議しようと、
「なあ、長十郎。いくら何でも……」
が、それは長十郎によって遮られた。
「ナルトさん、油断しないで下さい」
「え? それってどーいう……」
「元忍刀七人衆、霧隠れの怪人・干柿鬼鮫。あの人はこの程度で死ぬ男ではありません。すぐに出てきますよ」
と、長十郎が言った。
直後。
水面が泡立ち始める。
そこから、手が、頭が、足が出てきた。
鬼鮫は重傷を負いながらも生きていたのだ。
しかも……
「クク……不意を突いたとはいえ、この私をここまで一方的に追い詰めるとは……想像以上に歯ごたえのありそうな方達ですねェ…」
回復していた。
ヒラメカレイの直撃を受け、鬼鮫は腹に大きな穴を空けていたはずなのに、その傷は殆ど塞がれていたのだ。
そして、それは今もなお続いていて、みるみると創傷が治癒されていく。
これだけでも、十分驚きに値する光景なのだが、ナルトの目には、さらにありえないものが映されていた。
「な、なんだってばよ、あれ!?」
鬼鮫が手に持つ刀が動いていたのだ。
まるで生き物のように。
しかも、誰かの足を食べていて。
よく見てみれば、それは自分の足で……
「って! オレの分身が魚に食われてる〜」
ナルトが叫んだ直後、分身はボン! と、音を立て、消えてしまった。
分身が得た経験はオリジナルに還元される。
分身が消えた事により、情報が入ってきた。
ナルトは、それで理解した。
大刀・鮫肌の能力を。
どうやって致命傷の傷を治したのかを。
鬼鮫は、完治した腹をさすりながら、
「おや、説明するまでもなかったですかね。この鮫肌の能力を」
「オレのチャクラを……吸収しやがったのか」
「ご名答。私の鮫肌はチャクラを削り、喰らう! ですが、流石九尾の人柱力。こんなお子さんでもチャクラだけは一級品ですね……まあ、私もチャクラ量では負けていませんが…」
つまり鬼鮫は、分身ナルトのチャクラを吸収し、その膨大なチャクラを使って、医療忍術の真似事を行い、自身の傷を治したのだ。
敵のチャクラを吸収して、自身の怪我を治せるなど、反則技にもほどがある。
そんなことを平然とやってのけた鬼鮫が、
「しかし、今の一連の流れはお見事でしたね。とても同じ霧の忍とは思えない。村での会話は、全てこのための仕込みだった訳ですか。まんまと嵌められましたよ、再不斬……クク、本当にアナタは昔から顔に似合わず狡い真似ばかりしますねェ…」
感心した声音で、愉しそうにそう言った。
それに再不斬は、さも当然といった顔で、
「フン…テメェらが四代目水影を拉致ってった事ぐらい、最初からわかってんだよォ」
「やれやれ、全てお見通しという訳ですか。まさか組織名までバレていたとは……青の奴ですね。死ぬ寸前、メイに情報を残していた…といったところでしょうか?」
「さあな。教えてやる義理はねェ」
「つれないですね……いいでしょう。無理やり口を割らせて……」
が、そこでイタチが割り込み、言った。
「交代だ。鬼鮫」
それに鬼鮫は心外といった表情を浮かべ、
「イタチさん……ここは私に譲ってくれたとばかり思っていたのですが…」
「……増援を呼ばれた」
「増援? いつの話です。ここへ移動する最中もそれは警戒し、私もアナタも目を光らせていたはずですが…」
「再不斬が"暁"の名を口にした後だ。ナルトくんが影分身を二体出したのは、お前も見ていただろ」
「そういえば、一人足りませんね。ですが、此処からどれだけ急いだとしても、霧の里まで十五分はかかる。往復で三十分。まだまだ遊ぶ時間は、たっぷりと残されていますよ」
「いや、もう殆ど時間は残されていない。飛雷神で呼ばれた以上、移動時間は関係ない」
「…………」
鬼鮫は未練がましくも、値踏みするような視線でナルト達を見回し、
「せっかく疼いてきたところだったのですが……仕方ないですね。再不斬や長十郎の小僧とは、この機会に是非とも削り合っておきたかったのですが……一番のお楽しみまで、むざむざと失う訳にはいきませんからねェ」
と言って、大刀・鮫肌を背中に戻した。
戦闘中にもかかわらず、武器を収め、無防備な格好を見せる。
背を向け、仲間の方へ歩いて行く。
今しかない。
鬼鮫を倒すなら、今をおいて他にない。
ない……はずなのに、ナルト達は動けなかった。
イタチがこちらを見ていたから。
その双眸に朱い瞳を宿らせて。
「あの眼…カカシ先生やサスケと同じ、写輪眼!? 何でアイツが使えるんだ!」
ナルトの疑問に答えたのは、再不斬だった。
「奴の名前はうちはイタチ。オレ様のビンゴブックにも、その名は刻んである。鬼鮫と同じSランクの重罪人だ。そーだろ、一族殺しのイタチ」
後半の会話はナルトに対してではなく、イタチに向かって言ったものだった。
だが、イタチは再不斬の放った言葉に、眉一つ動かさず、
「よくしゃべるな、お前も。霧の忍はおしゃべりという決まりでもあるのか」
「さてな、テメーが無愛想なだけだろ。今から互いに殺し合うんだァ、精々楽しくやろーぜ」
と言いながら、再不斬は印を結び、
「お前達、写輪眼の対策はわかってるな。オレが霧隠れを張る。まずは奴の視界を……」
だが、そこまでだった。
再不斬が言葉を発したのは……
己の意識を保つ事ができたのは……
「殺し合う…か。悪いが期待には応えられない。お前達とオレとでは、器が違いすぎる」
淡々と述べるイタチの前で、
「…………」
再不斬は無言で崩れ落ち……倒れた。
いや、再不斬だけではない。
横にいたハクと長十郎も、
「…………」
「…………」
何の抵抗もできず、ただ意識を失う。
一瞬だった。
本当に、一瞬の出来事だった。
何が起きたのか、まるで理解できなかった。
ナルトは思考が追いつかず、
「再不斬! ハク! 長十郎! みんな、どーしちまったんだ!」
叫んでも、揺すっても、再不斬達は目覚めない。
身体は微動だにもせず、指一本動かす気配もない。
慌てて前を見る。
今この場にいるのは、ナルト達を除けば、イタチと鬼鮫の二人だけ。
何かをするなら、この二人以外にはいない。
だけど、イタチ達とナルト達の間には十分な距離があった。
何らかの術が使われても、対処できるだけの間合いがあった。
忍術ではない。
印を結ぶ動作すら見ていない。
「なら、幻術か?」
だけど、それもありえない。
幻術にも、印を結ぶ必要がある。
だから、再不斬達も幻術でやられた訳ではない。
しかも三人同時にだ。
余程の実力差でもない限り、ありえない。
そのはずなのに……
ナルトはイタチの眼を見て、察してしまった。
コイツがやったのだと。
そして、次は自分だと。
「残るはキミだけだ」
イタチが、そう言った。
次はお前だと。
なのに、動けない。
頭が動く前に、身体が理解してしまった。
目の前の忍には、今のナルトではどう足掻いても勝てない…と。
わざわざ九喇嘛が警告してきた相手だ。
ただの忍である訳がなかったのだ。
「ナルトくん、キミはどうやら写輪眼との戦いに慣れているようだ。だが……」
イタチの朱い瞳が煌めく。
三つ巴の模様が、まるで手裏剣のような形に変わり、
「この万華鏡写輪眼の前では、キミが培ってきた経験など、まるで意味をなさない」
「な、何だってばよ。その、万華鏡写輪眼って! そんな模様が変わったぐらいで……」
ナルトの声にイタチは何も応えず、ただ一度、瞳を閉じ、瞼を開き……呟いた。
「月読」
気づいた時には……
そこは木の葉の里だった。
「え?」
口から出たのは、そんな一言。
「どうなってんだ? 何で木の葉の里に」
幻術か?
でも、目の前にある風景は、どう見ても本物にしか見えなくて。
ナルトの記憶にある、木の葉の里そのもので。
そもそも幻術だというのなら、いつ術を掛けられた?
と――
そんな風にナルトが思考を巡らしていた時。
突如、空から声が堕ちてきた。
イタチの声だ。
「ここはオレの作った幻術世界。この世界では時間、場所、質量、空間……その全てがオレの支配下にある」
「これが、幻術…なのか?」
「今から七十二時間、キミにはこれまでの人生を追体験してもらう。戦争が終結するまでの間、ナルトくんには眠っていてもらう必要があるのでな……悪いが容赦はしない」
などと、訳のわからない事を言ってきて、
「ふざけんな! こんな幻術すぐに……」
解いてやる……と、解の印を結んだところで、
「痛ぇっ」
頭に小さな衝撃が飛んできた。
思わず後ろを振り向く。
するとそこには、自分より少し年下の子どもが、石を投げるモーションに入っていて……
「くたばれ、化け狐!」
罵倒の言葉とともに、それを投げつけてきた。
ナルトは反射的にその石を躱し、子どもを軽く睨んで、
「何しやがん……だ…」
途中で言葉を止めた。
何故なら、自分の周りにいたのは、その子一人ではなかったから。
数え切れないほどの木の葉の住民が、ナルトの周囲を囲んでいて、その一人一人が侮蔑の眼差しでナルトを蔑み、
「アイツ、まだ生きてんのかよ」
「三代目様も早く処分すればいいのに」
「狐が人間に混じって生活してんじゃねーよ」
何だ……これ?
いや、これは昔見たことある光景だ。
ナルトの日常で、当たり前の景色だ。
だけど……
「違う! これは幻術だ! 惑わされちゃダメだってばよ!」
チャクラを練り上げる。
幻術を解こうと……だが、
「三代目様に頼るまでもない。お前なんか、オレ達がやっつけてやる!」
「くらえ!」
「くたばれ、化け物ォ!」
罵詈雑言の嵐が吹き荒れる。
逆にナルトの集中が乱され、解術どころの騒ぎではない。
が、その嵐が長く続く事はなかった。
いや……
より正確に言えば、さらなる天災によって、跡形もなく消し飛ばされたのだ。
『貴様らァ、誰の許しを得て、ここへ踏み入った!』
天を衝く怒声が響き渡る。
オレンジの体毛に、九本の尻尾をたなびかせて現れた、大きな狐。
九喇嘛だった。
その巨体を見つけて、ナルトが声をかけようとした……その時。
『グォォォオオ!!』
超高密度なチャクラの球体が、九喇嘛の頭上に集約され始めた。
それは黒く、どこか螺旋丸に似た術で、でも明らかに次元の違うものだった。
そして。
九喇嘛はその球体を、一度口の中に放り込み……
瞬間。
轟音。
放たれた高密度なチャクラの球体は、人や建物、街並みから情景まで、目の前に立ちはだかる全ての存在を否定し、蹴散らし、殲滅した。
瞬く間もなく、何の躊躇いもなく、一瞬にして。
しかし、それでも破壊は治まらず、何十、何百、何万と屍の山を築き上げ、最後には爆風が里全体を包み込み……
気づいた時には――木の葉の里は灰燼と化していた。
「…………」
想像絶する光景だった。
残っているのは、ナルトとイタチ、そして術を放った九喇嘛の三人だけで……
ただの一振りが天災を呼び。
ただの咆哮が世界を滅ぼす。
人智を超えた力。
これがナルトの相棒にして、最強の尾獣と呼ばれ、畏れられる九喇嘛の真の実力であった。
そんな九喇嘛が、一仕事終えたという顔で、のしのしとこちらに歩いてきて。
言葉を失っていたナルトは、ようやく我に返り、
「遅ぇーぞ、九喇嘛。もう少しで幻術に掛かっちまうとこだったじゃねーか」
『あ? ワシはすぐに此処へ来たぞ。時間の感覚が曖昧なのは、てめーが幻術に掛かってるからだ。いい加減気づけ』
「アハハ……やっぱそうなのか?」
『脳天気に写輪眼と目なんか合わせやがって……』
「ご、ごめんってばよ……」
『ケッ……だから、てめーはアホなんだよ、ナルト』
「オレってば謝っただろ! いつまで引きずってんだ、それ。身体はでけーくせに、心は小せーのな」
ん?
身体が……デカイ?
よく見れば、九喇嘛が檻から出ているような……
でも、ここは幻術世界だし、そんな事もあるのかな?
少し気になるけど……
「今はそんな事、考えてる場合じゃねェ」
ナルトは気持ちを切り替え、イタチに視線を向ける。
すると、
「なん…だと……」
これまで感情の一切を表に出さなかったイタチが、目を見開き、驚愕の表情を露わにして、
「ナルトくん……これは一体……」
と、訊いてきた。
それにナルトは、
「九喇嘛だ。オレが人柱力なのは知ってんだろ」
「九喇嘛? ……まさか九尾の力を完全に制御できるのか!?」
「制御じゃねェ! コイツはオレの相棒だ!」
「相棒…だと…いや、しかし……」
イタチは信じられないといった眼差しで、ナルトと、その横にいる九喇嘛を見上げた。
そんなイタチに向かって、九喇嘛は強烈な殺気を放ち、
『さて、うちはのガキ。覚悟はできてるだろーなァ』
「……何の覚悟だ」
『ワシのダチに手ェ出したんだ……よもや生きて出られるとは思うまい』
「フッ…九尾というのは見た目だけでなく、態度までデカイらしい……だが、流石のオレもこの状況…想定外と認めざるを得ないな……」
軽口を叩くイタチに、九喇嘛は掌底を振り上げ、
『死ねェ!』
攻撃を受ける直前。
イタチは何故か口元を緩め、
「サスケの借りを返すつもりだったのだがな。どうやらオレの力は必要ないようだ」
僅かに微笑を浮かべて……
この世界から、姿を消した。
場面は戻る。
気づいた時には、ナルトの意識は元いた渓流へと、帰ってきていた。
目の前では、鬼鮫がイタチに向かって、
「イタチさん? どうかされましたか」
「……すまない、鬼鮫」
「アナタが謝罪するとは何事です? ……まさか、あの眼を!?」
「ああ。大口を叩いておきながら、月読を破られた」
などと会話を繰り広げているが、ナルトはそれどころではなかった。
早く、溺れかけている再不斬達を救出しなくては。
だけど、どうやって。
ナルトは幻術が大の苦手である。
自身に掛けられた場合は、九喇嘛が解いてくれるので問題ないが、他人の解術の仕方などわかる訳もなく……
「やべェ……どつけば起きるのか?」
と、悩んでいた時、九喇嘛がある提案をしてきた。
『ナルト、少しワシと代われ』
『ん?』
『ワシに任せろ。ガキ共の幻術を解いてやる』
『おお! さすが九喇嘛。だけど、代わるってどうやるんだ?』
『以前、カエルを通じてやっただろ。イメージはそれと同じだ』
『う〜ん、よくわかんねーけど、やってみるってばよ』
途端。
意識が入れ代わる。
ナルトの身体に、九喇嘛の精神が入り込み、
『さっさと起きやがれ』
再不斬、ハク、長十郎の背中を叩き、イタチに掛けられていた幻術を解術した。
それから、意識を再びナルトに戻して、
『これで戦況は立て直した。いや…少々贈り物もしておいたからな。ここからが反撃のチャンスだと思え』
『贈り物?』
首を傾げるナルトの横で、再不斬達が目を開ける。
再不斬は少々身体をフラつかせながら、
「助かったぜ、ナルト。チッ、催眠眼の能力がここまでカカシと違うとは……迂闊だったぜ」
続けて、ハクが、
「助かりました、ナルトくん。ですが、このチャクラは……」
さらに長十郎が、
「すみません、ナルトさん。あ…あと、この朱いチャクラは…一体…何でしょう?」
三人全員が無事に、目を覚ました。
三人全員が九喇嘛のチャクラを、その身に纏った状態で……
「って! どーなってんだってばよ!?」
ナルトの疑問に、九喇嘛が応える。
『さっき言っただろ。ワシがガキ共に与えた』
『九喇嘛が? いつ? どこで?』
『幻術を解いた時だ。背中に触れた時、ついでにワシのチャクラも渡しておいた。まあ、いつもお前に貸してある量と比べりゃ、精々十分の一程度だがな』
『そんな事までできたのか……』
『いつかお前にもコツを教えてやる……今は』
『ああ、わかってる』
そうだ、今は目の前の二人をどうにかしないと。
と――
ナルト達が臨戦態勢に入ろうと。
身体を沈め始めた……その時。
凛とした声が、その場に響き渡った。
「そこまでです!」
声のした方を振り向くと、そこには五代目水影・照美メイの姿があった。
さらに、メイ直属の暗殺部隊。
再不斬、長十郎、鬼鮫を除く、四人の忍刀七人衆が、イタチ達の周囲を囲み、逃げ道を塞ぐ。
それを確認してから、メイが言った。
「皆さん、よく持ちこたえてくれました。再不斬班は後ろへ退いて下さい。ここからは私達が請け負います」