霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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疾風迅雷の闘い 激闘 ナルトvsガイ

見た目、髪型、眉毛、骨格、性格、タイツ。

もう、全てが狙っているのかと勘違いしてしまうほど、ふざけた容姿をした男が……

 

「…………」

 

こちらをじーっと見上げてくる。

鋭い眼差しで。

見た目とは裏腹に、そこには一部の隙も見当たらなくて。

それにナルトは、

 

「…………」

 

警戒する。

一目見ただけでわかってしまった。

明らかに、今までの木の葉の忍とは格が違う。

最低でもテンゾウと同じか、下手をすればそれ以上に強い相手だと。

すると、ガイがこちらに視線を向けたまま、

 

「サイ、お前は今すぐ撤退しろ。ここはオレがなんとかする」

「隊長……」

 

九死に一生を得たサイが、その恩人の背中に目を向ける。

それに応えるように、ガイは右腕を伸ばし、親指を立てて、

 

「可愛いオレの愛弟子、リーのライバルであるネジのライバルのこの少年。この子のスピードに真っ向からついていける忍は、木の葉広しといえど、オレ以外には存在しないだろう。ここはオレの出番だ!」

 

と、自信に満ち溢れた口調で、そう言った。

その言葉に、サイもこくりと頷き、

 

「お願いします」

 

背を向け、その場から立ち去ろうとする。

だが、そうは問屋が卸さない。

ナルトはポーチから術式クナイを取り出し、

 

「逃すか!」

 

無防備な背中を狙い、一直線に投擲した。

普通の忍では、サイの実力では絶対に回避できないタイミングを狙って。

しかし、

 

「させん!」

 

ナルトの放ったクナイは、ガイの手によっていともたやすくはたき落とされた。

サイの気配がどんどん遠ざかっていく。

非常に不味い状況であった。

鬼鮫の言ったことが正しければ、サイは木の葉に情報を持って帰ろうとしている。

どんな情報かはわからないが、少なくとも霧にとって不利益になる可能性が高い。

すぐさま木から飛び降り、追撃をかけようとするナルトだったが……

 

「ナルトくん、だったかな? 悪いがキミに、サイのあとを追わせるわけにはいかない」

 

その行く手に、ガイが立ち塞がった。

ナルトは顔をしかめ、相手を睨みながら足を止める。

本来なら、敵が何人いようと大した問題にはならない。

だが、ガイの実力は完全に未知数。

迂闊に動くことはできない。

とはいえ、このままではサイを見失ってしまう。

どうするべきか……と思案していた、その時。

落ち着いた口調で、ガイが言った。

 

「待て。オレたちはキミと事を構えるつもりはない。そちらが黙って見逃してくれるのなら、こちらも何もせずにここから立ち去ろう」

 

などと、言ってきた。

なるほど、それは魅力的な提案だった。

それなら誰も傷つかず、誰も死ぬことはない。

みんなが笑って、明日を迎えることができる。

ガイの提案は素晴らしいものだった。

そして、反吐が出るほどの戯言だった。

ナルトは新たな術式クナイを取り出し、殺意を以って応える。

 

「二度も同じ手に騙されるほど、オレは馬鹿じゃねェ」

 

全身にチャクラを巡らす。

既に、サイの気配は感じられなくなった。

彼のことは、もう他の忍に任せるしかない。

今のナルトのやるべきことは……

 

「…………」

 

目の前にいる忍を、ガイを斃すことだけだ。

神経を集中させる。

目の前の敵を殺すためだけに。

そうしなければ、コイツには勝てない。

自分の中にある直感が、そう告げていた。

そして……

 

「……行くぞ」

 

溜め込んでいたチャクラを、一気に解放した。

瞬身の術を使い、爆発的な速度でガイに接近する。

その速度を維持したまま、術式クナイを突き出し、

 

「…………」

 

相手を刺し殺そうと……

しかし、ガイはその動きに反応する。

焦らず、的確にナルトの手を狙い、右足を振り上げ、

 

「木ノ葉昇風!」

 

鋭い蹴りを放ってきた。

手に持っていた術式クナイが、上に弾き飛ばされる。

しかし、ナルトの攻撃はまだ終わっていない。

刹那――閃光が走る。

弾き飛ばされた術式クナイに向かって、飛雷神で跳躍し、ガイの頭上へと舞い上がった。

そこから空中で術式クナイを掴み取り、

 

「もらった!」

 

真上から振り下ろす。

瞬間移動による連続攻撃。

常人には反応はおろか、見ることさえ叶わない神速の一撃。

それを……

 

「む?」

 

ガイは僅かに眉を動かすだけで回避した。

しかも、ただのバックステップで。

あっさりと斬撃を躱されたナルトは、

 

「なっ!?」

 

驚きの声を漏らす。

今の一撃で仕留めるとまではいかなくとも、確実に手傷ぐらいは負わせられる予定だったのだ。

いや、普通の忍なら、最初の瞬身の術だけで終わっていたはずなのだが……

すると、手の甲をこちらに向けたガイが、

 

「やるな! 少し焦ったぞ」

 

などと、言ってのけた。

少し焦った?

少し?

ナルトは手加減などしていない。

あわよくば、今の攻撃で勝負を決めるつもりでいたのだ。

飛雷神による奇襲を、そう易々と躱せるわけがない。

というか、普通は躱せない。

にもかかわらず、ガイは涼しい顔をしていて……

 

「…………」

 

ナルトは緊張を張り巡らせる。

先ほどの攻防で大体理解できた。

パワーも、戦闘経験も、技術も、体格も、その全てにおいて、相手の実力がこちらの実力を上回っている。

もう、とんでもないレベルの強さで……

並の上忍では勝負にすらならない強さで……

それでも、そんなガイを前にして、ナルトは思った。

勝てる、と。

強いし、苦戦もするだろうが、勝てない相手ではない。

だから、次の一手を打とうとして……

しかし、そこで。

 

「ふむ。流石にこのままでは厳しいか」

 

何気ない口調でガイが言った、途端。

空気がざわめく。

両腕を交差させて……

 

「八門遁甲・第一開門、第二休門……解!!」

 

その瞬間。

ガイの気配が変わった。

見た目に、それほど大きな変化は見当たらない。

少し血管が浮き出たぐらいで……

それでも、全身の細胞が警告を促してくる。

逃げろと……

ナルトは術式クナイを近くの木に向かって放った……次の瞬間。

 

「ダイナミック・エントリー!!」

 

凄まじく速い飛び蹴りが、正面から飛んできた。

しかし、それをナルトは飛雷神で躱す。

先ほど投げた術式クナイへ、身体を飛ばす。

瞬間移動で攻撃を回避したナルトは、チャクラを足に流し、木の幹に垂直で止まりながら、

 

「速ぇっ!」

 

僅かに焦りの表情を浮かべる。

だが、そんなナルトとは対照的に、ガイは朗らかな表情を浮かべて、

 

「今の蹴りを躱すか。やはりやるな!」

 

賞賛の言葉を投げかけてきた。

それにナルトは、苦虫を噛み潰したような顔をする。

いきなりガイのスピードが上がった。

いや、スピードだけじゃない。

身体能力そのものが一段階上昇している。

飛雷神の速度であれば、まだ余裕はあるが、瞬身の術ではもう追いつくことさえできない。

突然のパワーアップに、どのように対応すべきか考え、二の足を踏んでしまう。

が、そこで、

 

「ん?」

 

全身から、オレンジ色のチャクラが溢れ出し始めた。

九喇嘛のチャクラだ。

ナルトは己の内にいる相棒に向けて、

 

『九喇嘛?』

 

疑問の声を上げる。

すると九喇嘛が、

 

『わかってんだろ、ナルト。コイツは今まで戦ってきた木の葉のミソッカス共とはわけが違う。二人で殺るぞォ」

 

と、言ってきた。

しかし、ナルトの判断は萎えきらないもので、

 

『……いいのか』

『あ?』

『これは……戦争だ。人がいっぱい死ぬし、殺さなきゃならねぇ』

『そんなもんは当然のことだろ。テメーは一体何を迷ってやがんだ?』

 

それにナルトは、

 

『いや、前に九喇嘛が言ってたじゃねーか。尾獣を戦争の道具に利用する人間たちが嫌いだーって』

 

そうなのだ。

九喇嘛は人間が嫌いで、その理由は自分たち尾獣を人間たちの勝手な都合で戦争に利用し、あまつさえ終戦後はその憎しみを全てこちらに押しつけてくる。

そんな人間たちに九喇嘛は嫌気をさし、憎悪するようになったのだ。

だからナルトは、この戦争で九喇嘛の力を借りずに、自分の力だけで戦おうとしていたのだが……

九喇嘛が言う。

 

『……忘れたな』

『えええええ!? なんでだよ! なんでそんな大事な……』

 

が、九喇嘛がそれを遮り、

 

『ワシと貴様は一心同体だ。ワシ一人に戦えなどとほざくなら話は別だが、貴様が戦うのなら、ワシも戦う。苦楽を共に過ごすのがパートナーってもんだろーが! ええ? 違うか、ナルト』

『…………』

『つまらねー意地張ってる場合じゃねーだろ。行くぞォ!』

『……ああ。やるぞ、九喇嘛!』

 

次の瞬間。

膨大なチャクラが、ナルトを包み込むように溢れ出した。

目に見えるほど鮮烈なチャクラの奔流が、土を削り、枝葉を折り、周囲の風を吹き飛ばす。

それを見たガイが、

 

「九尾のチャクラか?」

 

と、問いかけてきたが、ナルトは何も応えない。

今から殺す相手と話し合うことなんて何もない。

だというのに、ガイは笑みすら浮かべた表情で、

 

「ならば、こちらもそれ相応の覚悟で応えねばならんな」

 

そう言って、再び腕を交差させる。

直後、

 

「第四傷門……解!!」

 

とてつもないチャクラが、爆発するように噴出した。

ガイの身体は赤く染まり、全身からはナルトにまったく引けを取らないほど、膨大かつ甚大なチャクラを放出していて……

それは信じられない光景だった。

ナルトのチャクラは、九喇嘛のもの。

人間のものではない人智を超えた最強のチャクラを持つ、尾獣の力。

だが、目の前にいるガイは、明らかに己の肉体からチャクラを放出していて……

 

「な、なんなんだ、コイツ……」

 

得体の知れない相手に、ナルトは言葉を失う。

すると、ナルトの疑問に答えるように、九喇嘛が話しかけてきた。

 

『あれは八門遁甲と呼ばれる技だ』

『はちもんとんこう?』

『忍には奥義と呼ばれるものがいくつか存在するが、あれもその内の一つだ。武を極めし者が辿り着く極地の果て』

『なんか聞くだけで、すげー強そうなんだけど』

 

ごくりと唾を飲み込む。

そんなナルトに、九喇嘛が続けて、

 

『チャクラの流れる経絡系上には、頭から心臓にかけて八つの門が存在する。開門、休門、生門、傷門、杜門、景門、驚門、死門……これらの門を無理やりこじ開けて、身体のリミッターを外し、自身の中に眠る潜在能力を引き出す技。それが八門遁甲だ』

『へぇー』

『…………』

 

九喇嘛が怖い目でこちらを睨んでくる。

それにナルトは、

 

『な、なんだよ……九喇嘛』

 

と、ちょっとビビリながら言うが、それに九喇嘛は少し怒った声音で、

 

『てめー、途中からワシの話を聞いてなかっただろう。誰のために説明してやってると思ってやがる』

『うっ……いや、だって難しい単語ばっか出てくるし、それに……』

 

それに、ガイがこちらを見ているのだ。

話をしている余裕はない。

それが九喇嘛にも伝わり……

 

『ケッ、まあいい。油断するんじゃねーぞ』

『了解! そんじゃ、行くぜ。九喇嘛!』

 

次の瞬間。

オレンジの閃光――

地を爆ぜ、加速する。

 

「ォォラァァア!」

 

目にも止まらぬスピードで、鋭い斬撃を薙ぎ払った。

しかし、

 

「ぐっ……」

 

その動きに、ガイがついてくる。

徐々に笑みが消え、その顔に真剣味を帯びさせるが、それでもどこか余裕の残した雰囲気で、ナルトの動きについてくる。

 

「こっちだ!」

「まだまだァ!」

 

二つの影がぶつかり合う。

一人は身体に九喇嘛のチャクラを纏い、飛雷神による瞬間移動を用いて、森を縦横無尽に飛び回るナルト。

動くたびに閃光が迸り、刹那の時間で攻撃と回避を同時に繰り返す。

が――

対する相手は、特に変わったことは何もしていない。

ただ殴る、蹴る、走る、跳ぶといった、基本動作を反復するだけ。

忍術はおろか、忍具すら使ってこない。

にもかかわらず、ガイは稲妻のような応酬の数々に、事もなげについてくる。

それにナルトは、

 

「…………」

 

ヤバいと思った。

本気でヤバいと思った。

それは自分自身もそうだが、何よりガイが戦場に出れば、霧の里への被害がとんでもないことになるから。

こんなに強い忍がいるなら、いま向こうで暴れ回っている千を超える木の葉の忍、全員いらねーじゃねーか……と、そう思ってしまうぐらい、ガイは強かった。

だから……

 

『九喇嘛ァ! もっとチャクラを回してくれ!』

 

内なる相棒に呼びかける。

途端。

地面が。

木々が。

森そのものが地響きを鳴らし、揺ら揺らと揺れ動く。

際限などないと言わんばかりに、淀みないチャクラの奔流が渦を巻き、空間をも埋め尽くしていく。

力が全身に行き渡るのを感じながら、

 

「うォオオオオオ!!」

 

雄叫びを上げ、突進した。

目にも映らぬ閃光が、縦横自在に舞い踊る。

だが、

 

「おぅりゃああああ!!」

 

その閃光に、緑の激走が猛追する。

一足で大木を薙ぎ倒し、宙を跳ね翻り、音速の速さを以って、光を捉える。

 

「「ハァァアァアアアア!!」」

 

ナルトとガイ。

閃耀と烈風が激しく火花を散らし、幾度も幾度も衝突を繰り返す。

音をも置き去りにする超々速戦闘。

二人の忍以外、何人たりとも立ち入ることすら許されない、熾烈な激闘を勃発させる。

 

「木ノ葉大旋風!!」

 

強烈な後ろ回し蹴りが、ナルトの身体に襲いかかる。

それにナルトはすぐに反応して、一歩後ろに下がり、巻き起こる激風を躱した。

さらに、飛雷神で後方へ跳躍し、右にそびえ立つ樹木に飛び移り、跳び乗る。

枝を掴み、その上に乗り、さらに上へ跳び乗り、下を見る。

すると、ガイがこちらを見上げ、

 

「この状態のオレにここまでついてくるとは…… ここまで熱い闘いは、カカシとの八番勝負。激辛カレーライス熱血大盛り早食い選手権以来だ」

 

なんてことを言ってきた。

カカシという名前に、ナルトは一瞬、不快な顔を浮かべるが、すぐに雑念を振り払う。

いま重要なのはそこではない。

いま重要なのは……

ガイの言った言葉。

 

“この状態のオレにここまでついてくるとは”

 

これではまるで、今の実力が全力ではないと言っているようなものだ。

しかし……

 

「…………」

 

しかし、それはただのハッタリではないと、ナルトは思った。

何十回と拳を合わせたナルトだからこそわかる。

ガイは、まだまだ余力を残している、と。

こちらは持てる力を全て出し尽くしているというのに、相手は手の内をさらけ出していない、と。

そして何より……

殺気が感じられなかった。

ナルトはガイを殺すつもりでいるのに対し、ガイはそれをわかった上で、ナルトに殺意を向けてこなかった。

本気のナルトに対し、遊びを残しているのだ。

これだけでも、どちらの実力が上なのかは明白で……

 

「…………」

 

だけど、それでも引くわけにはいかない。

ガイを戦場に出せば、味方の被害がとんでもないことになるから。

ここで確実に仕留めておかなければ、誰かが死ぬから。

だから……

ナルトは思考を巡らす。

頭の中で作戦を組み立てていく。

スピードだけなら、二人は拮抗している。

なら、そこで勝負を決めるしかない。

初撃を防がれてもいいように、二段構えの策をシミュレーションして……

 

「こうなったら、螺旋閃光超輪舞吼参式をやるしかねェ」

 

言うや否や、十字に印を結び、術を発動する。

 

「影分身の術!」

 

ボン! と音を立て、ガイの周囲を囲むように、六人のナルトが現れた。

すると、それを見たガイが懐に手を入れ、

 

「双襲牙!!」

 

初めて武器を手にした。

形状は同じ長さの棒を鎖で連結させて、自由自在に振り回すことのできる変わった形をしたヌンチャク。

ただでさえ強かったガイが、武器を構えたことで、その威圧感をさらに引き上げるが……

既にナルトは、次の攻撃に転じていた。

分身たちが術式クナイを取り出し、

 

「「「おらァー!」」」

 

四方八方から投擲する。

合計六本の術式クナイが、上下左右からガイに差し迫る。

が、ガイは顔色一つ変えずに、

 

「アチャー!」

 

ヌンチャクを振り回し、全てのクナイを下から上に向かって、弾くように打ち据えた。

ナルトが飛雷神の術を発動するタイミングを見つけられないほど、素早く、的確に。

死角から飛んできたクナイも含めて、全てを一瞥もなく弾き飛ばした。

とんでもない離れ業を目の当たりに、しかし、ナルトが驚くことはなかった。

これぐらいのことはガイなら対応できると、もうわかっていたから。

だから、ナルトは間髪入れずに指示を出す。

 

「みんな、次で決めるぞ!」

「「「おう!」」」

 

瞬間。

分身たちの姿が――消えた。

ある者は、辺り一面にマーキングの印を施し。

ある者は、敵に捕捉されないよう瞬間移動で飛び回り。

ある者は、他の分身たちが動き易くなるように敵の注意を引きつけ。

ガイを中心に、六つの光芒が煌めき瞬く。

飛雷神の術。

神速を誇る電光石火。

どれだけガイが速く動こうとも、六人の閃光を前に隙一つ見せないことなどあろうはずがない。

ナルトはポーチからクナイを取り出し、風遁のチャクラを込める。

一瞬のチャンスを逃がさないために……

が、そこで。

 

「…………」

 

先ほど上に弾き飛ばされた、六本の術式クナイが森の空から落ちてきた。

それを見たガイは、ヌンチャクを力強く握り締め。

掛け声とともに……

一閃――

 

「セーーイ!!」

 

キンッ! という、細く短い金属と金属がぶつかり合った甲高い音が響き渡り……

次の瞬間。

弾かれた六本のクナイが、それぞれの方向へ真っ直ぐに飛んでいき……

 

「「「ぐわっ!」」」

 

ナルトの分身たちが、六体同時にその場から姿を消した。

その光景に、ナルトは、

 

「……は?」

 

思わず、素の声を漏らしてしまう。

戦闘中にもかかわらず、呆けた顔して、

 

「ウソ……だろ……」

 

いま起きた出来事を理解する。

だけど、それはあり得ないことだった。

ガイはたった一度クナイを弾くだけで、自身の周りを瞬間移動で飛び回っていたナルトの分身たちを全て、しかも同時に倒したのだ。

飛雷神の修行をナルトにつけてくれたのは、あの伝説の三忍の一人、自来也だ。

だからこそわかる。

こんな芸当、あの自来也にだってできやしない。

だというのに、そんな神業を披露したガイは得意げな顔一つせず、

 

「どうした? 来ないのなら、次はこちらから行かせてもらうぞ!」

 

などと言いながら、腕をクロスさせる。

そして、

 

「第五杜門……開!!」

 

リミッターをもう一段階外した。

ガイが突っ込んでくる。

それにナルトは、

 

「くっ……」

 

反撃しようと身構えた、瞬間。

 

「がはっ!」

 

横から殴り飛ばされていた。

まったく反応できなかった。

痛みとともに、身体が宙を舞う。

凄い勢いで吹き飛んでいく。

このまま木や地面にぶつかれば、間違いなく戦闘不能になって……

 

「……ニャロー」

 

そこでナルトは、なんとか飛雷神で跳躍し、地面を転がり、激突を免れる。

だけど、息を整えている時間はない。

すぐに次の攻撃がくる。

ナルトが起き上がった瞬間、ガイが凄まじいスピードで突貫を仕掛けてきた。

 

「うぉりゃああああ!!」

 

しかし、ナルトはそれに対応できない。

目だけなら、なんとか追いかけることもできる。

だけど、手が、足が、反射神経がガイの動きについていけない。

飛雷神で回避しても、その回避した先にガイがいて、逃げることすら叶わない。

だが、ナルトには頼れる相棒がいた。

 

『チッ! 人間の動きをやめてやがるな』

 

ナルトの意思とは関係なく、九喇嘛のチャクラが尻尾の形を象り、ガイの連撃を弾き返す。

するとガイが、

 

「青春! フルパワー!!」

 

正面から殴りかかってきた。

しかしそれは、ナルトにとっても逆転のチャンスでもあった。

 

『九喇嘛!』

『任せろ!』

 

阿吽の呼吸。

たった一言で意思の疎通を行う。

両手に九喇嘛のチャクラを集中させて、

 

「こい!」

 

ガイの拳を正面から受け止める。

いや、受け止めようとしたのだが、足の踏ん張りが利かず、ナルトの身体は軽々と後ろへ吹き飛んだ。

けれど、ナルトは口元を緩める。

今の一瞬で、ガイの拳にマーキングの術式を施したから。

後は……

 

「…………」

 

後は攻撃の手段さえ用意できれば、それで今度こそ勝負を決められる。

だけど、このとんでもない化け物は、印を結ぶ暇さえ与えてくれず……

が、九喇嘛が言った。

 

『右手を上に向けろ! ワシが用意してやる』

 

ナルトは迷わず頷き、自身の掌を上に向ける。

直後。

チャクラが一点に集約し、螺旋を描き始めた。

チャクラの回転→威力→留めるを極めた四代目火影が残した遺産忍術、螺旋丸が完成する。

そして……

 

『オラァアアーー!!』

 

九喇嘛が尾を薙ぎ払い、ガイを数歩先まで弾き飛ばした。

二人の間に距離が開く。

弾かれた衝撃で、ガイが僅かに体勢を崩している。

ここしかない、千載一遇の好機。

その瞬間。

一筋の閃光が閃く。

ナルトが一瞬にしてガイの懐に潜り込み、

 

「終わりだ」

 

右手に掲げた螺旋丸を叩き込もうとして……

そして、次の瞬間。

 

「木ノ葉壊岩升!!」

 

反撃の一撃をもろに受けた。

何が起きたのか、わからなかった。

気づいたら自分の身体が吹き飛んでいて。

凄く熱くて。

そして、その後に激痛が身体に襲いかかってきて……

 

「がはっ!」

 

吐血を吐く。

骨が折れたのか、内臓がグチャグチャにされたのか。

わけのわからない痛みがナルトを襲う。

 

『ナルトォ!!』

 

九喇嘛の切羽詰まった声が耳に届いた。

だけど、身体が動かない。

言うことをきいてくれない。

各戦場に散らばっていた分身たちが、次々と消えていくのがわかる。

けれど、手足が麻痺して一歩も動けない。

意識が穴に落ちていく感覚がしてきて……

それでも……

 

「オレは……負けるわけにゃー、いかねーんだ」

 

ナルトは立ち上がった。

血を吐きながら、体中から訴えてくる激痛を無理やり無視して、前を見据える。

それにガイが、少しだけ驚いた表情をして、

 

「今のをくらって、まだ立ち上がってくるか……」

 

と呟いてから、厳かな声音で、

 

「ナルトくん。ここらでやめにしないか? 先ほども言ったが、こちらに戦闘の意思はない。キミがオレの仲間を追わないと約束してくれるのなら、オレもこの場を引こう」

 

などと言ってきた。

その言葉にナルトは怒りを覚える。

歯を噛みしめ、叫ぶように言った。

 

「戦闘の意思はない? ふざけたこと言ってんじゃねーぞ! なら、なんでテメーはこの場にいやがるんだ!」

 

霧は、木の葉と平和条約を結ぼうとしていた。

にもかかわらず、木の葉はそれを破り、戦争まで仕掛けてきたのだ。

目の前で子どもが殺された。

何人もの霧の忍が戦場で殺された。

全部、木の葉の忍がやったことだ。

ここまでのことをしておいて、戦闘の意思はない?

ふざけるな!

と、ナルトが叫ぼうとしたその時、ガイが言った。

 

「わからん」

 

それにナルトは、

 

「なっ……」

 

言葉を詰まらせた。

だが、ガイは続けて、

 

「戦争が始まる直前。ダンゾウ様が皆に何か言っていたのだが……話が長くてな。途中から全部聞き逃してしまった」

「は?」

 

思わず口を開け、聞き返してしまった。

するとガイが、自分の胸を親指でさし、

 

「だからオレは“自分ルール”を設けた」

「じ、自分……ルール?」

「そうだ! 今は戦時下。敵も味方も関係なく、人が大勢死んでいく。それは忍の世界では仕方のないことなのかも知れない。だが、だからといって、戦場でそんな弱音を吐き、仲間を見捨てるわけにはいかん。だからオレは決めたのだ! オレの前では絶対に仲間を死なせはしない! それがオレの決めた自分ルールだ!!」

 

そんなことをガイは自信満々に言ってのけた。

その言葉を聞いて、ナルトは……

 

「…………」

 

どこかホッとした。

なんでかわからないけど、嬉しくて、涙が出そうになって。

隠していた感情が、少しだけ蓋を開ける。

 

「よかった……」

 

気づいたら、気持ちが口から漏れていた。

ナルトはガイと視線を合わせて、

 

「木の葉にもまだ、アンタみたいな忍がちゃんといてくれたんだな……」

 

そう言った。

心からそう思ったから。

だけど……

チャクラがうねりを上げる。

九喇嘛がチャクラを流し続けていてくれたおかげで、身体の傷もかなり癒えた。

ナルトは十字に印を結び、

 

「敵だけど、アンタは心から尊敬できる立派な忍者だったってばよ。ゲキまゆタイツ」

 

そう告げた、直後。

ナルトの瞳から、再び感情の色が消える。

決意を秘めた忍の目に戻り、煙とともに、二人の分身が出現した。

それを見たガイは、真摯な眼差しをナルトに向け、瞳の奥を覗き込む。

 

「…………」

 

そこから、全てを汲み取った精悍な顔立ちをして、

 

「……謝罪しよう。どうやら覚悟が足りていなかったのは、オレの方だったようだ」

 

言った、瞬間。

凄まじい殺意が噴き出した。

身が凍るほど、力強い気迫と敵愾心。

足が地面に縫い付けられる錯覚。

恐ろしさのあまり身体が竦み、指一本動かせなくほどの純粋なまでの恐怖。

化け物。

今のガイを見れば、誰もがそう言うだろう。

こんな化け物を相手に、一人で立ち向かうことなどできるはずもない。

だけど……

ナルトは一人ではなかった。

腹に手をあて、友に声をかける。

 

『九喇嘛、あれをやる。力を貸してくれ』

 

しかし、九喇嘛は渋い顔で、

 

『待て、ナルト。ここは一度引け』

 

などと言ってきた。

それにナルトは、

 

『何言ってんだ! アイツはオレたちが倒さねーと」

 

と言うが、九喇嘛は相変わらず気乗りのしない表情で、

 

『さっき説明が途中で終わったがな。八門遁甲にはリスクが存在する』

『リスク?』

『そうだ。一時的に驚異的な力を発揮できるかわりに、発動後、使用者は殆ど身動きが取れなくなる。マーキングの術式はもうつけたんだ。奴が力尽きるのを待て』

 

確かに。

それなら確実に勝てるかも知れない。

だが、ナルトは首を横に振る。

 

『それじゃー、ダメなんだ』

『何故だ? この方法が……』

 

が、ナルトはそれを遮り、

 

『オレたちが飛雷神で遠くに逃げた後、アイツがオレの仲間に襲いかからねぇ保証がどこにあるんだ』

『むぅ……』

 

九喇嘛が口を閉ざす。

ガイは言っていた。

こちらに戦闘の意思はないと。

その言葉が嘘だったとは、本当はナルトも思っていない。

だけど、今は戦争中だ。

敵の言葉を信じるわけにはいかない。

たった一度、敵の話を鵜呑みにしただけで、仲間が殺される。

それが……戦争なのだ。

だから……ナルトは言った。

 

『頼む、九喇嘛。オレ一人じゃ、悔しいけどアイツには勝てねぇ。だからお前も力を貸してくれ』

 

すると、しぶしぶながらも九喇嘛が頷き、

 

『もしヤバいと思ったら、テメーの意識を奪ってでも逃げるからな』

 

と、言った。

その返事に、ナルトは笑みを浮かべて、

 

『ああ、サンキューだってばよ。九喇嘛』

『ケッ……やるからには勝つぞ、ナルト』

『おう!』

 

注意を戦場に戻す。

途端。

二人の分身が、ナルトの右手の掌にチャクラを凝縮し始めた。

次第にチャクラが螺旋を描き、蒼い球体ができあがる。

形態変化を極めた超高等忍術、螺旋丸。

だが、ナルトたちはそこに、さらに風の性質変化を加えていく。

すると、螺旋丸の形状が僅かに形を変え、小さな四枚の刃を回し始めた。

風遁・螺旋丸。

ここまでは、ハクたちにも見せていた。

だが、この術にはまだ先があった。

みんなを驚かせるため、九喇嘛と二人っきりで密かに練習していたとっておきが……

 

『…………』

 

チャクラで象られた九喇嘛の腕が、ナルトの掌に重ね合わさる。

今のナルトでは到底不可能な緻密なチャクラコントロールを九喇嘛が補い、少しずつしかし目に見える形で、光り輝く球体がその姿を変えていく。

高音――

耳を劈く甲高い音が、振動とともに周囲へと響き渡る。

ナルトの右手には、絶えず螺旋を描き続ける巨大な手裏剣が掲げられていた。

風を斬り裂く疾風が、竜巻を巻き起こす。

と――

同時に。

木ノ葉の碧き猛獣が、その真価を発揮する。

 

「戦場において一突きの拳とは、あらゆる忍術・幻術を打ち破る不撓不屈の矛であり、如何な危機的状況からも仲間を守り抜く堅忍不抜の盾でもある」

 

鍛え抜かれた肉体が、人間の常識を覆す。

研がれ続けてきた獣の牙が、原理を砕く。

震える大地が力を以って、開かずの門をこじ開ける。

 

「なればこそ次の一撃、オレの全力を以って応えよう――八門遁甲・第七驚門。解!!」

 

その瞬間。

碧い蒸気が噴出した。

異次元のオーラが大気を震撼させ、塵芥を押し退ける。

体中の血管が沸騰し、髪は天に逆立ち、全身からは碧い蒸気のようなオーラを放出させて……

 

「…………」

 

ガイの瞳がこちらの姿を捉えた。

ナルトも同じく相手を見据える。

互いの瞳が交差する。

両者の間に……

それ以上の言の葉は……いらなかった。

 

「…………」

「…………」

 

次の瞬間。

地を駆け、雄叫びを上げ、同時に空を跳んだ。

 

「うォォオオオオ!!」

「ヌゥオオオオオ!!」

 

霧と木の葉。

二つの里が惨禍と殺戮を撒き散らす戦場。

そのすぐ近くにある森の上空で。

二人の忍が雌雄を決する。

 

ナルトが疾風渦巻く暴風の嵐を――

 

ガイが燃え滾る青春の炎を胸に――

 

瞬間。

激突。

 

「風遁・螺旋手裏剣!!」「昼虎!!」

 

「「ォォオオオオオオオオーー!!」」

 

二つの最強奥義が衝突し、大規模な爆風を発生させる。

ナルトが繰り出した術は、風遁・螺旋手裏剣。

会得難易度は最上位のSランク。

螺旋丸を極限まで極めた完成形の一つで、膨大なチャクラを有するナルトを以ってしても、日に一度しか使用することのできない正真正銘の切り札にして隠し玉。

だが、その威力は絶大で、直撃さえすれば無数の刃が標的を襲い、どんな敵だろうと確実に息の根を止める必殺の奥義。

しかし……

 

「ぐっ、うぅぅぅ……」

 

苦悶の声を漏らす。

二極の烈風の対峙。

拮抗こそしているものの、押されているのはナルトの方であった。

ガイの放った必殺の一撃、昼虎。

それは忍術ではなく、己の肉体のみを武器にした体術。

ただし、それはあまりにも速すぎる正拳突きで、そこから放たれる空圧は歪な虎の形を成し、圧縮された空気の砲弾は全てを飲み込む咆哮と化す。

 

「くっ……ゔぅぅっ」

 

そして、その咆哮は今まさにナルトを一飲みにしようとしていて……

威力、速度、範囲。

全てにおいて、ガイの放った奥義はナルトの切り札を上回っていた。

辛うじて命を保っている状態。

だけど、それも長くは続かない。

獣がうなり声を上げる。

さらにその威力を増し……

ゼロ秒後に自分の死が見えた。

けれど……

 

“必ず、生きて帰ってきて下さい”

 

頭に約束の言葉が過ぎる。

ハクとメイと交わした約束。

そうだ。

こんなところで死ぬわけにはいかない。

こんなところで負けるわけにはいかない。

もう二度と誰かを死なせるわけにはいかない。

里を、仲間を、友を、意志を、夢を。

 

オレが――

 

ナルトが想った、瞬間。

 

『…………!』

 

音が聴こえた。

何かが開く音。

いや、完全には開いていない。

けれど、封印の施された扉が、ぎしりと軋みを立てて……

刹那。

ナルトの身体が薄いオレンジ色に発光し、腹部に渦巻き状の模様が浮かび上がる。

そして、その直後。

過去に類を見ないほど、膨大な九喇嘛のチャクラが全身に流れ込んできた。

五影をも上回るほどの途轍もないチャクラ。

人智を超えた力。

まるで、自分が九喇嘛と一体化するような感覚。

力がどんどん溢れ出てきて……

 

「「ハァアアァアアアアアア!!」」

 

互いの力が再び拮抗する。

いや、僅かに、ほんの僅かにだが、ナルトがガイを押し返し始めた。

しかし、ガイは一歩も退かなかった。

 

「心よ滾れ! 肉体よ弾けろ! 魂よ湧け! 碧き青春の炎よ、今こそ燃え上がれ!!」

 

ナルトと九喇嘛の二人を相手に、まったく引けを取らず、むしろさらに一歩踏み込んできて……

 

「「ウォオオォオオオオオーー!!!!」」

 

局所的な台風が巻き起こる。

二つの爆風のぶつかり合いが、地形を変え、森そのものを飲み込み始めた。

それでも嵐は収まらない。

大地をえぐり、大気を押し退け、暴風を拡散させる。

どちらも一歩も譲らなかった。

どちらも諦めの言葉を口にしなかった。

だけど、終わりは唐突に訪れる。

 

「……!?」

 

ナルトの掲げた螺旋丸が、キーンっと高音を立て、徐々にその回転を緩め始めた。

風遁・螺旋手裏剣。

このナルトの切り札は、まだ未完成の術だったのだ。

九喇嘛の力を借りてなお、十全の力を発揮するまでには至っていなかった。

それを悟った九喇嘛が、

 

『ぐっ、ナルトォ! これ以上は無理だ! 今すぐ飛雷神で飛べ!』

 

切羽詰まった口調で、そう言った。

そして、それはナルトも同じ意見だった。

悔しいが、ここから押し返すことはもうできそうにない。

けれど……

 

「吼えよ! 昼虎ァァ!!」

 

獣が咆哮を上げる。

ガイの拳がさらなる唸りを上げ、ナルトに襲いかかってきた。

一瞬でも気を抜けば、その瞬間に命が終わる。

飛雷神を使う余裕がない。

 

「ぐっ……」

 

ヤバい。

今度こそ、マジでヤバい!

このままでは本当に……

だが、そこで。

荒れ狂う激流が発生する。

 

「水遁・大鮫弾の術!!」

 

それは巨大な鮫であった。

その大きな鮫が突如、吼え叫ぶ虎の側面から喰らいつくようにして襲いかかり、一瞬。

一瞬だけ、ガイの放った昼虎の方向をナルトから逸らした。

 

すると、その僅かな隙を狙ったかのようなタイミングで……

 

ボン!

 

突然、白い煙が立ち昇り……

 

戦場からナルトの姿を消したのであった……

 

 


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