どれくらいそうしていただろうか。
ナルトが泣き止むのを待っていたクシナが、ゆっくりと背中から手を離す。
二人の間に、少しだけ距離が開き……
袖で目元を拭いながら、ナルトは顔を上げた。
「はは、まさか母ちゃんに会えるだなんて、思ってもみなかったってばよ! 父ちゃんが記憶を見せてくれた時、いくらでも気づけたはずなのに」
すると、クシナが僅かに驚いた表情で、
「ミナトが?」
それにナルトは笑って応える。
「ああ! 以前、父ちゃんに会った時に、幻術をかけられて、そんで色んなことを教えてくれたんだってばよ!」
「へぇー、流石ミナト。そんな方法を使ったのね」
したり顔でクシナが頷く。
それにナルトは笑みを浮かべて、
「あのさ、あのさ。オレってば、母ちゃんに会ったら話したいことがいっぱいあったんだってばよ」
と言って、これまでのことを一つ一つ、思い出を掘り返すように語り始めた。
木の葉での苦行の生活、里を抜けた後の出会い、任務で経験した数々の出来事。
ここに至るまで踏み締めてきた道のり、その全てを……
「嫌なことがいっぱいあった。里の大人たちは誰も助けてくれなくて……でも、諦めずに頑張ってたら霧で仲間ができて……」
最初はその表情も明るかった。
けれど……
「そしたら今度は、木の葉がオレや九喇嘛を狙ってきて……」
話が進むにつれ、ナルトの顔色はどんどん曇っていき……
「母ちゃんが望まないのはわかってる。けど、オレはもう木の葉を許すことができねェ」
苦渋の心胸を吐露する。
しかし、ナルトを見つめるクシナの顔は険しいものへと変わっていた。
甘えを許さない、鋭い眼差し。
そんなクシナに向かって、ナルトはすがるように呟いた。
「オレってば、どうしたらいい?」
もう自分ではどうすることもできない。
霧の仲間を死なせるわけにはいかない。
けれど、木の葉の忍は争いをやめない。
なら、相手を皆殺しにすればいいのか?
忍も、住民も、女、子ども、老人、木の葉の人間を全て皆殺しにすれば丸く治るのか?
そんなはずがない。
しかし、そうしなければ自分の仲間が死んでいく。
もう果てのない現実に、ナルトの心は悲鳴を上げていた。
一縷の望みを懸け、自身の母親を見上げる。
ありもしない希望にすがって。
そして、そんな子どもに返ってきた返答は……
「自分で考えなさい」
ひどく、冷淡なものだった。
「私はミナトと同じ、木ノ葉の忍。それは死んだ今でも変わらない。だからナルト、アナタの問いに応えてあげることはできない」
そうだ……
四代目のような忍になりたいと言っておきながら、ナルトが今まで選んできた選択は、どれもこれもミナトやクシナが絶対に望まないものであった。
だけど……
「そんなの、そんなの勝手すぎるってばよ! 自分で考えろなんて、どうしようもねぇーじゃねーかァ! もう大勢の仲間が死んじまった。霧も木の葉も。こうしてる今だって戦争は続いている。和解の道なんて残されちゃいねーし、木の葉は――っ!」
理屈と感情は別物だった。
抑えていたものが一気に溢れ出す。
が、そこで。
まくし立てるナルトの耳に、クシナの冷静な声が重く響いた。
「なら、アナタが木の葉を変えてやりなさい」
力強く放たれた言葉。
その言葉に、ナルトは一瞬気圧されるも……
「……無理だ。そんなことオレにはでき……」
ねェ、と言い切る前に、クシナが言った。
厳かな声音で、でもどこか誇らしげに、
「ミナトはやったってばね」
「!?」
「しかも当時は第三次忍界大戦中。ナルト、アナタより多くの仲間を守り、アナタより多くの敵を殺した。それでもなお、数多の人々に認められ――彼は火影になった」
「火影に……」
火影。
それはかつてのナルトの夢。
里一番の忍者になって、誰もが自分のことを認めるお伽話。
「聞きたい?」
「うん……」
気づけば、頷いていた。
そんなナルトに、クシナは懐かしむように微笑んでから、
「さーて、どこから話そうかしら。やっぱりミナトの教え子、あの子たちのことも……」
と、昔話を静かに語り始めた。
遡るはミナトが上忍時代の頃の話。
はたけカカシ、うちはオビト、のはらリン。
ミナトが受け持った三人の教え子のこと。
それを語るクシナの表情は本当に楽しそうで、だけど……
「でも、そんな平和な時間は長くは続かなかった」
その言葉を区切りに、先ほどのナルトと同じく、クシナは顔を曇らせ、
「ある日を境に、オビトは二度と帰ってはこなかった……」
ミナトが四代目に任命されるきっかけとなった戦い。
後に神無毘橋の戦いと命名された、第三次忍界大戦を飾る最後の戦場にして、最大の戦火。
「ミナトはたった一人で岩隠れの忍、一千余名による進行作戦を食い止め、戦争を終結へと導いた」
しかしその時、ミナトの教え子の一人であったオビトが敵の手にかかり、殉職する。
「第三次忍界大戦。この戦いで多くの忍が命を散らし、そして歴史に名を残す英雄を生んだ」
たった一人で戦況を覆し、各国に名を轟かせた――木ノ葉の黄色い閃光。
そして、死の間際に親友のオビトから左眼を受け継いだ――写輪眼のカカシ。
「…………」
クシナから聞かされた話は、ナルトの想像を絶するものであった。
特に、父親であるミナトが千を超える忍を相手取ったくだりでは、拳を握りしめ、話の展開に聞き入っていた。
けれど……
「…………」
昔なら……いや、ほんの数ヶ月前までなら、ただただ目を輝かして聞いていた英雄譚も、今のナルトにとっては他人事ではなくなっていた。
人の死は自分の身近にあるものだと、もう知ってしまったから。
人は簡単に死ぬ生き物だと、知ってしまったから。
決して、軽はずみにはできない英雄の軌跡。
それを聞かされたナルトは……
「やっぱ、父ちゃんは凄かったんだな」
改めて、そう思った。
そして思い知らされた。
ミナトを越える忍はいないと。
しかし……
「でも、オレと父ちゃんの時とじゃあ、状況が全然違うってばよ……」
ミナトは木ノ葉を守るために戦った。
ナルトは霧の仲間を守るために……
なら、ナルトも単純に敵を斃せばいいのか?
ミナトと同じように、敵を、木の葉の忍を千人斬り殺せば戦争は終結するのか?
いや、違う。
そんなことをしても里が平和になるなんて、ナルトには到底思えなかった。
だが、それならどうすればいいのか……
答えは見つからず、結局振り出しに戻る。
そんな風に頭を抱え出したナルトに向かって、
「ナルト」
優しい口調で、クシナが問いを投げかけてきた。
「アナタはあの時、何を想った?」
しかし、質問の意図がわからず、ナルトは首を傾げ、
「あの時?」
「ガイと戦ったあの時、アナタは何を願ったの?」
ガイ、その名を聞いて、すぐに先ほどの激闘を思い出す。
見た目はへんてこなのに、変な緑タイツを着ていて、そして木の葉の忍なのに……凄く強くて、かっこよかった忍のことを思い出す。
「そう言えば……」
あの時、最後にもの凄い力が溢れてきて……
無我夢中だったから、記憶が定かではないが、たしか……
「必死だったから、あんま覚えてねーけど……」
ただ……
ただ、想ったのだ。
「……守りたい。オレはただ、みんなの笑顔を」
自然と言葉が口から出てきた、瞬間。
ナルトの身体が薄く煌めき、オレンジ色に発光する。
全身にチャクラが行き渡り、腹部から肩にかけて、渦巻き状の模様が浮かび上がった。
「これって、あの時と同じ!?」
驚きながら自分の状態を確かめるナルトに、クシナが言う。
あっさりとした口調で、
「もう、答えは見つかったわね」
「あ……」
刹那――目に映らない何かが、ナルトの身体をまっすぐ射抜くように貫いた。
霧と木の葉。
両里の忍同士が血を血で穢す惨劇を繰り広げ……
数え切れない人の死を見せつけられ……
自分の無力さに絶望し、希望を投げ捨て、一人の忍として覚悟を決めてから、ずっと暗く冷え切っていた胸の奥が……何かに貫かれ、激しく震える。
閉ざされていた心の深淵に、辺りを照らす一筋の陽光が降り注ぐ。
“戦争なんて大義名分を掲げながら、自分たちがどうしてその場にいるのかすら理解していない者ばかり……当たり前のように、意味もなく人が死ぬ。それが戦争だ”
メイやイタチの話を聞かされて……
“覚えておくといい。戦争では殺さなかった敵の数だけ味方が死ぬ”
戦場で、次々と死んで逝く仲間たちの亡骸を見せつけられ……
自分の仲間を、霧の里を守るには。
敵を、木の葉の忍を殺すしかない。
そう思ってしまった。
そう思い込んでしまった。
だけど……
“ナルト……ワシは忍の世に蔓延った憎しみをどうにかしたいと思っとる…のだが、どうしたらいいのか、ワシにも、まだ分からん”
だけど、違う。
たしかに、次々と意味もなく、当たり前のように人が死ぬのが戦争で、誰かを救うには誰かを殺さなければならない。
それが忍の戦いで、それが忍の戦場だ。
それは確かに正しい。
けれど、それだけが正解じゃなかった。
それだけが、唯一の答えじゃなかった。
何が正しいのかなんて誰にもわからなくて、それでも自分の大切なもののために必死に足掻いて、足掻き続けるしかない。
それはみんな同じことだったのだ。
霧も、木の葉も。
忍も、そうでない者も。
自分の歩き方は、自分で決めるしかない。
どうすればいいかなんて、誰にもわからないのだから。
何が正解かなんて、誰も知らないのだから。
メイも、イタチも、あの自来也でさえ……
「そうか……」
こんなにも簡単なことだったのか……
こんな当たり前のことにすら、自分は気づいていなかったのか。
小さな呟きとともに、ナルトは瞳を閉ざす。
自分の心といま一度向き合ってみる。
自分の本当にやりたかったことを考えてみる。
「…………」
最初に思い浮かんだのは、父親であるミナトの後ろ姿。
自分の原点にして、回帰点。
別に復讐がしたかったわけじゃない。
英雄になりたかったわけでもない。
ナルトはただ、ミナトのようなかっこいい忍者になりたかったのだ。
みんなを守れるような、そんな立派な忍者に。
それが……
「どうして……」
そんな当たり前のことが……
「母ちゃんには、わかったんだってばよ」
ずっと悩んでいて、いくら探しても見つからなかった答えに……いま辿り着いた。
否、それは初めから自分の中に存在していた。
メイやイタチ、自来也とも違う、ナルト自身の答え。
誰かに言われたからではない、胸の奥から湧き上がる自分の本当の気持ち。
それを今度こそ見失わないように。
その大切な想いを、今度こそ取りこぼしてしまわないように、しっかりと掴み取り……
「…………」
上を見上げる。
はやる気持ちを落ち着かせ、動転する心意に瞳を揺らしながら、道を照らしてくれた太陽を見上げる。
すると、そんなナルトにクシナから返ってきた返答は……
「そりゃー、母親だからだってばね」
あまりにも単純なものだった。
深く考えるまでもなく、当然といった表情のまま、平然と放たれた一言。
その何気ない一言に、ナルトは、
「ははっ、あははははっ……」
もう、笑うしかなかった。
笑みが溢れて、なんでかわからないけど、それが凄く嬉しくて、どんどん力が溢れてきて……
やりたいことがわかった。
いや、成りたい自分を思い出した。
具体的にどうすればいいのかは、まだわからないけど……
でも、今なら何かを変えられそうな気がする。
と――
そう思った、その時。
『ようやくマシなツラになりやがったな、ナルト』
突如、目の前に九喇嘛が現れた。
大きな巨体がこちらを見下ろしていて……
「九喇嘛!」
相棒の名を呼ぶ。
ちゃんと檻から出られたみたいで、ナルトはそのことに安堵の気持ちを表すが、しかし……
『…………』
ナルトを一瞥した後、九喇嘛は目を細めて、
『…………』
細めた目で、クシナの方を見下ろしていた。
気づけば、クシナの表情からも完全に笑みが消え去っており……
『…………』
「…………」
鋭い視線が交差する。
冷たい風が二人の間を通り抜ける。
まるで今から殺し合いでも始めるかのような雰囲気で。
それにナルトは慌てて、
「ちょ、ちょっと待つってばよォ! 母ちゃん、九喇嘛は実はそんな悪い奴じゃなくて、むしろ結構いい奴で! 九喇嘛もせっかく檻から出られたんだから……あの……」
必死に説得しようとするも、二人に無視されたあげく、怖い目で睨まれて……
「はい、すみません……」
黙らされた。
数十秒後。
ナルトを黙殺し、ずっと睨み合っていた二人がついに重い口を開いた。
クシナが緊迫した声音で、
「……どうやら私のナルトが世話になったみたいね」
という挨拶に、
『なに、ナルトはワシの相棒だ。貴様が礼を述べる必要はねーぞ、クシナ』
九喇嘛が挑発するような素振りをみせる。
「…………」
いやいやいや。
なんで、そこでわざわざ煽るんだってばよ!?
母ちゃん、スゲェー怒ってんじゃねーか!
などなど……
ナルトが声にならない悲鳴を上げる中、二人から放たれる重圧はさらに過激さを増し……
「…………」
『…………』
クシナの赤い髪がゆらゆらと揺れ動く。
九喇嘛はそんな相手を、不敵な態度で見下ろして……
途端、
「あははははははははは!」
『クハハハハハハハハハ!』
高笑いが木霊する。
こわい。
こわすぎる。
間に挟まれたナルトにはどうすることもできず、ただ嵐が過ぎ去るのを待つばかりで……
しかし、その直後。
張り詰めた空気が徐々に和らいでいき、
「……ナルトもよくしてもらってるみたいだから、アンタに文句は言わないでおいてやるってばね」
『ならワシも、貴様に対する恨み言は言わねーでおいてやる』
と言うや否や、二人から放たれる敵意が消えた。
それにナルトはほっと息を吐く。
一分にも満たない時間だったが、まるで生きた心地がしなかった。
でも、二人が矛を収めてくれて。
二人が争わずに済んで、本当によかった。
そう心から安堵して、胸を撫でおろす。
そんなナルトの心情を知ってか知らずか、クシナがこちらに顔を戻し、
「ナルト」
真剣みを帯びた表情で、
「そろそろ、アナタは向こうへ戻らなくちゃね」
と、言った。
それにナルトは、
「え?」
思考を停止する。
が、すぐに慌てふためき、
「ま、待ってくれっ! オレはまだ、母ちゃんと話したいことが山ほどあるんだ!」
思い出すのはミナトとの邂逅。
あの時も満足に話をすることもできず、ミナトは光の粒となって、ナルトの前から消えてしまった。
それなのに……
「私たちは……忍よ」
「――っ!」
わかる……わかってる。
今は戦争中で、一分一秒が惜しい。
里の命運が、仲間の命が天秤にかかっている。
次々と人が死ぬのが戦争で、敵はこちらの事情など待ってはくれない。
だけど、
「オレには、オレには今しかないんだっ! いま伝えなきゃ、もう二度と会うことだってできなくなるんだ!」
まだ言いたいことや話したいことが沢山ある。
なんだっていい、どんなつまらない話でもいい。
12年。
今日この日を、12年待ったんだ。
産まれてきてから、ずっと夢に見ていた。
家族と過ごす日々を。
だから、少しでも長く一緒にいたくて……
「母ちゃん。オレは――ッ」
必死になって言葉を紡ごうとする。
けど、言いたいことが山ほどあるのに、伝えなきゃいけないことがあるのに、それを上手く口にすることができない。
頭が混乱して、ぐちゃぐちゃになって、何を言えばいいのかわからなくなる。
すると、そんな切羽詰まった表情をみせるナルトに、
「私は信じてる」
クシナが拳を突き出す。
優しく微笑んだまま、その瞳はまっすぐにこちらを見ていて。
「…………」
「…………」
親子の視線が交わる。
突き出された拳が、ナルトの胸に強く押し当てられ……
クシナが言った。
確信に満ちた、淑やかな声音で、
「ミナトを越える忍は、アナタをおいて他にいない。私は、そう信じてる」
瞬間――時が止まった。
目を見開き、目の前にいるクシナの顔を呆けた瞳で眺める。
そして……
「…………」
目蓋をきつくと閉じ、ゆっくりと開いた。
ほんの数秒の動作。
十秒もかからない時間。
けれど……
「ん!」
ナルトの瞳からは迷いの色が消え、何者にも屈しない決意の炎が、その眼光に宿っていた。
それを察したクシナが、
「ん!」
満足そうに頷き、後ろを振り返る。
後ろを見て、にやにやとこちらを見下ろしている九喇嘛を見上げて、
「九喇嘛、か。まさか九尾に心があったなんてね……自分の子どもに教えてもらうまで気づかないなんて、私もまだまだだってばね」
なんてことを呟いた。
それに九喇嘛はそっぽを向き、
『ケッ……そこもお互い様だ』
不満げな顔をしながらも、そう返事を返した。
そんな九喇嘛を見て、クシナは少し笑ってから、すぐさま真摯な眼差しを向ける。
そして、短い言葉を伝えた。
「息子のこと、頼んだわ」
すると、今度は九喇嘛が目を見開く。
大きく目を見開き、まるで幻でも見たかのような、驚愕の表情をあらわにして、
『……まったく、夫婦揃って同じことを』
小さく、何かを囁きながら、
『ああ、それはワシの役目だ』
と、返事を返した。
それにクシナは頷き、またこちらに視線を戻す。
ナルトの方を見て、
「まだもう暫くは大丈夫。本来使う予定だったチャクラが余っているから、私がすぐに消えることはないわ」
というクシナの台詞に、ナルトは身を乗り出し、
「本当か!?」
「ええ。だから、ちゃんと無事に帰ってきなさい」
「大丈夫だってばよ! ちゃんとすぐに戻ってくるから、だから……」
だから、母ちゃんも待っててくれ。
そう言おうとしたところで、クシナが先に口を挟んだ。
反論を許さない、厳かな声音で、
「いい!? ちゃんと無事に、怪我なくよ。ほんとーにわかってるんでしょうねェ?」
「お、おう……」
予想だにしなかった迫力に、ナルトはたじたじになりながら後退する。
そんなナルトに、クシナがぐんぐん詰め寄ってきて、
「絶対に一人で無茶しないこと! 困ったことがあったら必ず仲間を頼りなさい」
「う、うん。そこは大丈夫だってばよ」
「……それから」
一息入れてから、クシナが言った。
「忍者とは耐え忍ぶ者。ミナトや自来也先生は、生前よくそうおっしゃってたわ……だけど、忘れないで。アナタは忍である前に、一人の人間であることを」
「…………」
「辛かったり、苦しいことがあったら、迷わず周りに助けてもらいなさい。我慢して、一人で心を押し殺しちゃダメよ。心の上に刃を乗せるから忍……覚えておきなさい」
それにナルトは頷く。
首を縦に振り、自信に満ちた力の込もった瞳で、
「心配ねーってばよ。まっすぐ自分の言葉は曲げねェ。それがオレの忍道だ! ぜってぇー、ここに戻ってくる。約束だ!」
そう言い切った。
すると、ずっと険しい顔をしていたクシナが、打って変わって満面の笑みを浮かべる。
最後に握り拳を作って、
「上出来だってばね!」
激励の言葉をナルトに送った。
そんな母から受け取った想いを胸に、
「じゃあ、いってきます!」
ナルトは現実へと意識を戻すのであった……