霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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ついに激突! ナルトvsカカシ

殺す。

そう決めた相手との邂逅は、意外にも心穏やかなものだった。

決意には一片の揺らぎもない。

しかし、不思議なぐらい波風を立てない自身の心に、形容しがたい違和感を抱きながら、ナルトは普段通りの声音で質問を投げつけた。

 

「テンゾウって忍から、アンタがこの戦争を引き起こしたダンゾウの右腕だって聞いた……ウソじゃねぇよな?」

「……ふ、テンゾウめ。見誤ったか」

 

忍が敵国に情報を漏らすなど言語道断。

だが、テンゾウはナルトにカカシのことを話した。

負けることを想像していなかったから。

話しても問題ないと高を括っていたから。

そして、それを否定しないということは……

 

「……間違いじゃねーんだな」

 

わかっていたことだが、やはりこの男は……

カカシは霧の、ナルトの敵に回ったのだ。

心に罅が入る。

間違いだと思いたかった。

ウソだと信じたかった。

でも、今のカカシを見て悟った。

コイツこそが、自分たちの仇敵だと。

目蓋を閉じ、ゆっくりと開く。

光片のない瞳。

一切の感情を排した、忍という名の道具になりきる。

すると、こちらの変化に気づいたカカシが薄笑みを浮かべて、

 

「オレを殺すか。少し前まで“先生”と慕っていた、このオレを……」

 

試すような軽口に、しかしナルトは毅然と応えた。

 

「『忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる……けどな! 仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ!!』……オレがアンタのことを“先生”と呼んでいたのは、木の葉の里にいながら、オレにはできなかった生き方をアンタが貫いていたからだ。今のテメーは先生なんかじゃねぇ。ただのクズ野郎だァ!」

 

チャクラがうねりをあげる。

ナルトは十字に印を結び、一体の分身を出現させた。

と、同時に。

面の奥から朱い瞳を覗かせたカカシが、目も霞む速さで印を結び、その手に雷光を携える。

二人が駆け出したのは、またも同時だった。

あの時と同じ。

向き合う相手も、ぶつけ合う術も……

違うのは……

 

「雷切!!」「螺旋丸!!」

 

「「っーーー!!!!」」

 

相手を殺しても構わない、その意思が二人の心にあったことだ。

直後、互いの身体が弾け飛ぶ。

衝突により巻き起こった爆風が二人を吹き飛ばし、されど地べたを舐める無様は晒さない。

ホルスターからクナイを引き抜く。

思考よりも早く身体を動かし、相手より一歩でも速く次の攻撃へ。

火花が散る。

淡々と急所を狙うナルトの斬撃に、返す刃で応じるカカシ。

絶え間なく続く甲高い音は、敵を仕留め損った回数。

そして、相手を必ず殺すという決意のあらわれ。

千日手のような斬り合いの応酬。

どれだけ鍔迫り合っただろうか。

このまま正面からぶつかったのでは埒があかない。

そう判断したナルトは大振りの一撃とともに、自身の身体を後方へ跳ばし、距離を取った。

数の暴力で一気に押し切る。

シンプルだが、もっとも効果的かつ確実な手段を選択し、再び指を十字に交差させた……その時。

カカシが言った。

 

「焦るな、まだオレの話は終わっていない」

 

などと言ってきた。

その言葉にぴたりと動きを止める。

もう、話し合いでは終わらない。

にもかかわらず動きを止めたのは、相手がカカシだからだろうか。

これが最期の会話となる。

悔いは、残したくなかった。

一拍後、カカシが告げたのは突拍子もない提案だった。

 

「オレと手を組む気はないか?」

 

あり得ない問いかけに対し、ナルトは、

 

「ふざけんな! 誰がテメーなんかと!」

 

怒りをあらわにする。

いつでも動けるように、十字に印を結んだまま、

 

「そもそもなんで戦争なんか始めやがった! ついこの間までみんな上手くいってたじゃねーか!」

 

そうだ、それが最大の疑問だった。

ダンゾウなどという顔も知らない相手はともかく、カカシはナルトから見ても文句のつけようがない立派な忍だった。

少なくとも他国の忍だからという理由で、無闇に誰かを傷つけるような人間ではなかった。

なのに、なぜ戦争なんかに加担しているのか。

至極当然の疑問に、カカシが応えた。

淡々とした口調で、

 

「革命のためだ」

「革命?」

「まずは霧・雲・砂・岩……現存する各隠れ里を更地に変える」

「ふざけてんのか、オレがそんなこと……」

 

させるわけねぇだろ、とナルトが言い切る前に、カカシが言った。

 

「話は最後まで聞け」

 

が、それを無視して、

 

「霧はオレの里だ。それを潰させる真似なんてぜってぇーさせねぇ」

 

しかし、カカシが言う。

やはり冷淡とした態度のまま、

 

「それはどうかな?」

 

と、そして……

 

「お前たちが団結できたのは、木の葉という確然たる敵が現れたからだ。人も国も簡単に変わりはしない。戦争が終わればまた元通りだ」

 

根拠のない暴論。

そのはずなのに、カカシはまるで未来でも知っているかのごとく語る。

それにナルトは、

 

「んなわけねーだろ! 霧の、いや水の国のみんなは……」

「ならお前は、今まで自分を迫害してきた木の葉の連中がある日、突然謝罪してきたとして、それを素直に受け入れられるか?」

「……それは」

「口先だけとは思わないか?」

「…………」

「それとも自国の忍や仲間だけが特別か? 霧は木の葉とは違うとなぜ言い切れる?」

「…………」

 

思わず押し黙るナルトに、カカシが続ける。

 

「その疑念は正しい。木の葉も霧も根っこは変わらない。人とはいつまで経っても進歩しない愚かな生き物だ。そして、それに拍車をかけているのが今の忍界制度」

 

息を呑む。

カカシの言っていることは無茶苦茶だ。

革命だのなんだの、子どもじみた戯言ばかりで……

頭の悪いナルトが聞いても、実現不可能だとわかる空言ばかりで……

けれど、そこには明確な信念があった。

この忍世界を変えてやろうという、強い信念が。

何がカカシを戦争へと駆り立てたのか。

そこでいったい何を見たか。

カカシが得た答えを聞いてみたい。

そう考えたナルトは印を解き、話に耳を傾ける姿勢を取った。

 

「忍だけの国を創り上げる。それがオレの掲げる革命だ」

「忍だけの国を創る?」

「そうだ」

 

迷いなく肯定するカカシに、ナルトは否定の言葉を返す。

 

「そんなの無茶苦茶だ! 忍だけでやっていくなんて……できるわけねーだろ! 依頼を出す住民もいねーじゃねーか」

 

忍の隠れ里とは、何も忍だけで構成された組織ではない。

作物を育てる農家の人や、それを調理する料理人。

武具を整える鍛冶士に、街の汚れを毎朝清掃する従業員。

様々な人間が支え合い、そして忍たちはそんな人々から依頼を受けることで生活を成り立たせている。

誰も一人では生きていけない。

忍だけでは、里は里たり得ない。

しかし、カカシは語る。

淀みない声で、

 

「言っただろ、革命を起こすと。オレが掲げる革命は里単位の小さなものじゃない。世界を変える革命だ」

「世界を変える?」

「まず現在の里を滅ぼし、忍世界の根幹を崩す。そして木の葉と霧だけではない、全ての隠れ里から忍を集めた忍大国を創り上げる」

「な!?」

「世界中の忍を一つの国に集める、そうすれば大名や住民はオレたちに依頼を出す他はない。なぜなら自国には頼れる忍が誰一人いないのだからな」

 

なるほど。

それなら大言壮語であるという最大の不安要素を除けば、話の筋は通るのかもしれない。

だが、なぜ戦争を引き起こしてまで、罪もない人々を巻き込んでまでそのような強行に出たのか。

謎は、すぐに氷解した。

 

「大名や住民たちが忍を我がもの顔で使役する時代は終わる。人柱力や血継限界を持つ者が蔑まれるようなこともなくなれば、国が忍を戦争の道具に利用することも二度と起こらない。忍だけの国を創り、世界のルールを破壊する。それがオレの掲げる革命だ」

 

つまりカカシは……

世界の理を。

忍が戦争の道具に利用されるこの状況を。

その全てを変えようとしているのだ。

忍たちのために。

この戦乱の世に、終止符を打つために。

それを理解したナルトは、

 

「…………」

 

素直にすごいと思った。

自分が霧の里を守るのに四苦八苦している間、カカシはどうすれば世界中の忍を救えるかを考えていたのだ。

だけど……

 

「ナルト、今のオレと九尾の力を得たお前。オレたちが手を取り合えば、この無稽荒唐とも思える革命は、実現可能な仕様模様と成り代わる。オレとともに来い」

 

だけど……

その手を握るわけにはいかなかった。

死ぬから。

カカシの提案に乗るということは、大半の忍が死ぬことになるから。

ハクも、再不斬も、長十郎も……

ナルトの仲間が大勢死ぬことになるから。

もしかしたらカカシの成そうとしていることは将来、数多くの人々を救うことになるのかもしれない。

でも、それはナルトの目指す道のりじゃなかった。

だから……

 

「やっぱ、アンタはすげぇな。忍だけの国を創る。オレにはそんなこと、思いもつかなかったってばよ」

 

悲しげな表情でそう語るナルトに、何かを察したのか、

 

「……交渉は決裂か」

「ああ」

「……残念だ」

 

「オレもだ」とは、口にしなかった。

話し合いは終わった。

ナルトの意志とカカシの革命、どちらが正しいのかなんてわからない。

でも、どちらしか選べず、どちらも譲れない。

だったら、相手をへし折ってでも自分の在り方を貫くしかない。

残された道は、一つだった。

 

「オレの提案を断った以上、貴様を生かしておく理由はない。ナルト、お前の未来は――死だ」

「オレは死なねェ。くたばんのはテメェ一人だ」

 

此処に、世界の命運を懸けた戦いが始まった。

 

 

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