"要塞空母デスピナ" スターティングオペレーション!   作:SAIFA

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何とか1週間経たない内に更新できました。
今回は前回の前書きに書きました通り、裕一君側の視点のお話となります。

そう言えば、今まで書いてきた12の話って、この作品の親作品にあたる
「要塞空母デスピナ出撃す。」で言えばまだ4話までの話なんですよね。
つまり、単純計算でまはまは様の作品1つあたり、私は3倍も話数を掛けている事に…orz
以前知り合いに読んで貰った時にも言われてはいたものの、確かにテンポ悪……。


4/23(月)、裕一君が航空機搭載ソナーの有無を確認する時に聞いていた「曳航式」を「吊下式」に修正。

9/3(火)、12.5話の内容を統合。それに伴い12.5話は削除。


第12話:邂逅【デスピナ視点】

――side 要塞空母【デスピナ】――

 

 

 

引き続き、30ノットで全力航行中。

 

今日一日潜水艦は一度も確認していないが、撤退中の艦娘達が今いるあたりは、俺にとって未知の海域である。出来る限り急ぎたい所ではあるのだが、向こうも動き続けている筈なため追いつくころにはとっくに日が沈んで…いるどころか夜が空けて何時間も経ってしまっているだろう。

 

ホエールを発艦させる前に、俺はコマンドを開いたまま現在の状況確認を行う。

 

デスピナ「CDC、6月って日没は何時ごろだっけ?」

CDC「このあたりの海域だと、大体18時30分くらいです」

砲雷長「…まずいです、夜になると潜水艦を発見するのが昼間よりも困難になります。大型艦のみの編成で水雷戦隊の護衛がいないのなら、居るのかすら分からない相手に一方的にやられるだけです」

 

久しぶり砲雷長妖精さん。

 

デスピナ「タイムリミットはギリギリ1時間半か……クゥ、航空隊って吊下式(つりさげるタイプ)のソナー持ってたりする?」

航空参謀「生憎っすね。目視か、戦闘機とホエールに搭載されてる暗視装置使って探すしか無いっす」

 

流石に何もかも都合良くは行かないか。まぁ暗視装置あるなら少しは楽…なのか?

すると、今度はCDCが話しかけてきた。

 

CDC「みなさん、聞いてください。攻撃衛星(ノートゥング)からの観測によると、艦娘達と思われる反応の速度が先に航空隊が接触した時よりも落ちています。それでも、お互いこの船速を維持したままと考えて、追いつくまで17時間以上かかってしまう計算です」

デスピナ「せめて止まってくれればなぁ……」

 

俺がそうボヤくと、副長がポンと手を叩いた。

 

副長「――! それです。停船してもらうよう、艦娘達に無線で呼びかけましょう!」

デスピナ「無線って、相手の周波数分かるのか?」

副長「"システムリンク"をつかいます。機能の特性上、相手が発している電波やレーダー波の周波数の割り出しをおこないますから、相手の正確な位置さえわかれば、システムリンク機能で艦娘が使っている無線周波数にダイレクトアクセスが可能です」

デスピナ「相変わらず便利な艤装ですこと……つまり、レーダーに引っ掛かれば連絡も取れるって事だな。CDC、艦娘達が最大探知距離に入るまではどのくらい掛かる?」

 

すると、CDC妖精含め一同が黙り込む。

俺が困惑していると、CDCが話し出した。しかも、()()()()()()()()俺にとっては驚きの情報つきで。

 

CDC「あの、申し上げにくいのですが、艦娘達は40km近くまで接近しないと、レーダーには反応しません」

デスピナ「え?」

副長「レーダー波はほぼ直進しますので、水平線の向こうの目標は基本的に探知できませんよ」

航空参謀「旦那、前世でマジモンの軍艦やってたのに忘れちゃったんすか……?」

デスピナ「でも、初めて戦闘した時とか、今日離島棲鬼を見つけた時には、ちゃんと500kmくらいの所に引っ掛かったぞ」

副長「詳しい事は後で説明しますが、デスピナ艤装のレーダーの最大探知距離に水上の目標が引っ掛かるのは、深海棲艦のeliteとflagshipクラスの通常艦と、鬼・姫クラスだけです」

デスピナ「何だそりゃ……」

 

先に言ってくれよそう言う大事な事は!

まぁレーダーについて殆ど見識が無かった俺が悪いんだけどさ。

 

航空参謀「べつにわざわざ直接無線で連絡しなくても、ホエールから発光信号だせば通じると思いまっせ? 信じてもらえなくても、たどりついたホエールから座標データうけとって、ソレの方角にその…"システムリンク"とやらのリクエスト送れば良いじゃないすか」

デスピナ「結局、やれるだけの事はやってみるしかないって事か。クゥ、ホエールの準備は…」

航空参謀「準備ができてないヒコーキを出そうなんてウチが言うわけないっすよ! いつでも出れまっせ!」

デスピナ「よし」

 

再びコマンド画面右上の"航空管制"ボタンをタッチ。戦闘隊から輸送隊まで、なんでもござれなメニューが展開される。

爆撃隊一覧の中に大型攻撃機は居なかったので、"攻撃隊一覧"の中にいるだろう。

 

初めて航空隊を発進させた時のように、既に編成されている"大型攻撃機ホエール"の編隊が、4機一個小隊だけ存在した。

 

メニュー上部にある【部隊表示切替】ボタンを一回タッチし、全4機の内3機の【出撃準備】ボタンを押す。

護衛には、第零戦闘中隊(ファイターゼロ)所属の機を、1小隊だけ出撃させる事にした。

 

飛行甲板を持ち上げると、航続距離を延ばすために増槽タンクを4つぶら下げたEJ24と、垂直尾翼の上部に水平尾翼が付いたずんぐりむっくりなシルエットの空中要塞(ホエール)が姿を現した。

 

 

 

――side out――

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

"大型攻撃機ホエール"3機を中核とした「艦娘隊捜索隊」がデスピナを発艦してから1時間弱、夕方6時ごろ。

夏に向けて少しずつ日が長くなるこの時期でも、日が傾いてくればオレンジ色と青色からなるグラデーションが西の空に演出される。

日が沈むのは、この時期この海域だと大体18時30分。ヤバい、あと30分しかない。

 

母艦デスピナから少しずつ角度を変えて、高度1,000mで艦娘達の撤退進路方向に飛び立った3機の"大型攻撃機ホエール"と、2機ずつ護衛について来ている"EJ24"6機は、発艦してから1時間弱で撤退中の艦娘達を発見。

一度彼女らの上空を通過しながら、艦娘達を発見したホエールの2番機は無線で通話しだした。

 

ホエール2《ホエール2より空母デスピナ及び"捜索隊"各機へ、例の艦娘達と思われる艦隊を発見した。だが事前の報告と数が合わない。12隻いるぞ》

デスピナ《確認できる限り、編成と被害状況を教えてくれ》

 

先に彼女らに接触した第3爆撃大隊(ミッドナイト・アタッカーズ)B中隊(チーム)第4戦闘大隊(ファイター4)隷下の第1小隊からの報告では、空母2隻と戦艦4隻の計6隻。しかし、ホエール2の真下でノロノロと航海を続ける艦娘達は12隻。

一応、空母系の艦娘と戦艦系の艦娘の数は合っており、周辺に似たような構成の艦隊――どころか移動する物体自体一つも無い。

 

ホエール2《空母2と戦艦4に、軽巡1と駆逐5。空母1隻大破・戦艦中破3、残りは…視認できる限りでは無傷だ》

副長《んしょ……その艦隊でまちがい無さそうですね。おそらく味方の水雷戦隊と合流したのでしょう》

デスピナ《副長、ヘッドセットのマイク部(そ ん な と こ ろ)に乗っかって落っこちるなよ? ……とりあえず、位置座標を送信してくれ》

ホエール2《了解。送信する》

 

ホエールに搭乗する航空妖精は、コクピット内のコンソールを操作し、母艦デスピナに向けて艦娘12隻から成る艦隊の中心座標を送信する。後はデスピナ艤装のコマンド画面の"海図"から、彼我の位置は分かるはずだ。

 

デスピナ《受信完了した。ホエール1と3は、ホエール2の所に向かえ》

ホエール1《ホエール1、了解》

ホエール3《こちらホエール3、今行くぞ》

 

ホエール2番機よりも北寄りの方角を捜索していた長機から通信が入る。南寄りの担当である3番機からも聞こえた。

 

これで、早くも捜索隊の最大の目的の一つは達成した。だが今度は、艦娘達への停船の呼びかけと哨戒任務飛行がある。

だんだん暗くなっていく中、彼女達の周囲を大回りしながら暗視装置のみで、デスピナのソナーと対潜兵装(アスロック)の射程内に入るまで対水上・対潜警戒を続けなければならない。

 

"大型攻撃機ホエール"は、その名の通り鯨の如き巨体を誇る大型攻撃機だ。

裕一が前世で遊んだゲームEDF4.1では、エアレイダーの支援要請のカテゴリに当機の武装による支援攻撃が存在していた。その中から確認できるだけでも、機関砲・105ミリ砲・120ミリ砲・150ミリ砲、更には巡航ミサイルを大小1種類ずつを多数と、まさに"空中要塞"と呼んでも差し支えが無いほどに強力な航空戦力である。

裕一が前世で遊んだゲーム中では特に設定されていないが、艦息デスピナの()()()()()()()である「デスピナとしての前世の世界」では、その強力な武装ゆえに機体は大型のものが必要となり、ジェット推進の大型輸送機をベースに造られたらしい。

鯨の尾びれに見えなくも無いT字型の尾翼と太めの胴体から、モデルは恐らく"C-17グローブマスターⅢ"である。

 

移動しながら目視で――水上艦は兎も角――潜水艦を索敵をするには、ジェット機にしては遅めだとしても動き続けている分見落としの不安は大きい。

せめて水上の艦娘や水中の敵潜水艦を少しでも見やすくするため、高度を一気に150mの低空まで落としはじめる。デスピナ所属の航空機の中ではかなり大型とは言え、艦娘が扱う艦載機と同じ縮尺である。あまり高い所を飛んでも艦娘からは何が飛んでいるのか分からないだろう。

 

出撃前には、低空でのホバリング性に目をつけた副長が"輸送ヘリ ヒドラ"を捜索に使う事を提案したが、艦娘達を発見した今から飛ばしても、残念ながら行き帰りの航続距離が足りない。せめてデスピナが十分に接近するまでは、攻撃機ホエール3機と護衛のEJ24戦闘機6機で警戒に当たる必要がある。

 

夜には、艦娘達の存在が敵に露呈しないようホエールも照明を漏らす事は出来ない。投光機で照らすなどもっての他だ。

 

あまり落下速度が大きくなりすぎないように注意しながら、機首を下げ、高度を落とす。

 

ホエール2《こちらホエール2、これより投光機を用いモールス信号にて艦娘達と接触を試みる》

 

ズラリと武装が並ぶホエールの機体左側に取り付けてある投光機が明滅する。

長短1種類ずつ発光の仕方を組み合わせ、"モールス符号"と呼ばれる文字列を艦娘達の脳裏に打ち込んだ。

 

『デスピナ航空隊より、撤退中の艦隊へ。信じろ。1-3-0より、味方艦接近中。停船し、回線開け』

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

――side 要塞空母【デスピナ】――

 

 

 

現在、夕方6時。ホエールが到着し、こちらの海図に艦娘達の位置情報が送信されてきた。レーダー画面にも、その座標の方向が方位計に示されている。

今頃、ホエール2が呼びかけを行って接触を図っている頃だろう。

 

とりあえず、コマンド画面の"システムリンク"をタッチして――

 

デスピナ「――良いことを思いついた。クゥ、"輸送ヘリ ヒドラ"って、輸送用のコンテナ持ってる?」

航空参謀「おう! 沢山ありまっせ。何に使うんすか?」

デスピナ「艦娘達に停船してもらっても、俺達が追いつく頃は確実に明日の朝だ。夜の間、彼女らには主機を動かさずじっとしながら、居るのか分からない潜水艦に脅えて夜を明かさせる事になる。そこで、"ヒドラ"が使うコンテナを対潜水艦用の"(デコイ)"として使用する。出来れば何か適当なモノを詰め込んでから、彼女らから離れた所にそれを投下。コンテナの着水と、波で揺すられて中の物が立てる物音に、敵の潜水艦はおびき寄せられるって訳だ」

副長「なるほど! さすがはデスピナさん、もう一人前の艦息ですね!」

航空参謀「はっはぁー! 中々やりますね旦那ァ! わっかりやした、すぐに準備させてきまっす!」

 

さて、今度こそコマンドの"システムリンク"をタッチ。

すると、円形のレーダー/ソナーが大半を占めていたコマンド画面左半分が、長方形の海図に切り替わる。右半分は殆どが空白だが、"レーダー/ソナー表示切替"以外にもう一つ表示されているタッチボタンは、"艦娘捜索隊"のホエール2から送られてきた座標だ。

 

海図の中央には、俺を現しているのであろう細長い形の白い三角形が、左上の方向に向いている。てことは、この海図は上が北として表示されているって事だ。

海図の海を表す色は明るめの青色だが、俺を表す三角形の周囲には、円形の暗い青の円が広がっている。右下の尺度計を見る限り、暗い青の円の半径は40kmちょい。つまりこの円は、俺のレーダーの水上索敵範囲か。

 

ホエール2から送られてきた座標は、俺の広域レーダーの水上探知距離よりも遥かに外側である。

 

大体、1…2…3…4――15個分。

約600km、遠いよ。

 

まぁ、日没前に無線でコミュニケーションが取れるのは、不幸中の幸いって所かな。

 

デスピナ(あー、緊張してきた。いよいよ艦娘と初電話だよ…何せ前世では女子とまともに電話した事なんて一度もないから、変にキョドらないように注意しないと……)

 

そんな事を思いながら、俺は"システムリンク画面"右側の、艦娘達がいる座標のボタンをタッチし、小ウィンドウに現れた【艤装リンク】ボタンをタッチした。

 

デスピナ「あ、副長、デスピナの所属ってどこ?」

副長「」ズルッ

 

 ポチャンッ

 

副長がマイク部から落ちた。

 

 

 

とりあえず副長は釣竿で引き上げ、俺のデスピナ艤装の前世である"要塞空母デスピナ"の所属を教えてもらう。

何でそんな大事な事は覚えてないんだデスピナ君よ。※7~8割くらい裕一君

 

副長「もう一度言いますよ。『連合地球海軍』」

デスピナ「連合地球海軍…」

副長「『日本支部・太平洋方面郡所属』」

デスピナ「日本支部…太平洋方面群所属」

副長「の?」

デスピナ「要塞空母デスピナです」

副長「よし!」

 

副長はオカンか何かか。甘えている俺も俺だが……。

 

現在、艦娘達からの"システムリンク"の承諾待ちだ。

コマンド画面は、"システムリンク画面"に重なるようにもう一つ画面が現れている。

 

『-艤装システムリンク- リクエスト発信中……』

『 from"CVF-DESPINA" to"point A"』

 

「point A」と言うのは、ホエールから送られてきた座標…の筈なのだが、海図の上ではついさっきまで移動していたものだ。

座標が海流にのって流される、なんてのはありえないから、これは艦隊の位置座標と言うよりは、艦娘達の中の誰かの位置座標と言う事になる。

 

デスピナ「……」ソワソワ

副長「……」

砲雷長「…ふわぁ……

航空参謀「ん、ライちゃん眠い?」

砲雷長「…少し」

 

送信してから10秒程経過するまでの間は、「一体誰が出てくれるのか」とワクワクしていたのだが、もう30秒くらい待っている。

たかが30秒と思うかもしれないが、電話を掛けるとき、コールを延々と鳴らしっ放しにして相手が受話器を取るのをひたすら待っている時は、ほんの10秒程度の短時間でも長く感じるものだ。

 

それに今回は初対面、更に(多分)軍属で、おまけに艦娘の女の子を相手にしての通話である。

最初の10秒を引いた残りの20秒はずっと――

 

デスピナ(中々出ないな…やっぱりいきなり通話してくれって怪しすぎたか? そう言えば裕一としての前世では「電話は2コール鳴らして出なかったら切りなさい」って母さんに言われた事あるけど…やっぱ長々とコールするのはウザったいのだろうか? 出る相手が居なかったらこっちから切れば終わりだからそれはそれで気楽で良いんだけど……て艦娘は確実に向こうに居るんだから出て欲しいがいざ出られたら俺の心の準備があばばばばば……!)

 

――なんて事が頭の中でぐーるぐる。

 

だが、待った甲斐があったと言うべきか俺が電話する事に臆病すぎたと言うべきか、"リクエスト発信画面"が何回か切り替わった。

 

『接続中…』

 

副長「あ……」

 

『接続完了』

 

どうやら、相手の艦娘は俺の事を「無線で連絡を取っても良いくらいには信用出来る」と判断してくれたらしい。

 

デスピナ(なら俺も、せっかくの信用を裏切らぬよう、しっかりと誠意をもって接しなければ……あー緊張してきた)

 

『-通話中- -○○○○-』

 

デスピナ(来た!)

 

デスピナ「あー…あーあー。マイクテスマイクテス…」

 

なにしてんだ早く本題に入れよ俺!

 

デスピナ「こちら、要塞空母デスピナ。撤退中の艦隊へ、応答願います」

《こちら日本国国防海軍、横須賀鎮守府所属機動艦隊旗艦、空母"翔鶴"。聞こえています。初めまして》

 

俺は、この世界に転生して初めて聞く事になった艦娘の透き通るような声色と、その声の主に相対する際の心構えが全く出来ていない状態でのコンタクトとなり、早速――

 

デスピナ「え――あ、はい、えー…」

 

このザマである。

しかしあまりキョドりまくってもいられないので、実際の時間にして1秒で復帰する。

 

デスピナ「突然すみません。こちらこそ、初めまして。私は、連合地球海軍日本支部、太平洋方面郡所属、デスピナ級要塞空母一番艦、デスピナと申します。現在、訳あってどこの鎮守府にも所属しておりません。急なお願いを聞いて頂き、ありがとうございます」

 

言えたぁー…しっかし、「空母系の艦娘も居る」と事前に聞かされてはいたが、まさかこの世界初の艦娘とのトーク相手が、嫁艦である――と俺が勝手に思い込んでいる――あの翔鶴さんだとは思いもしなかった。

 

画面には『-通話中- -SHOKAKU-』とちゃんと表示されている。

 

デスピナ(ビビッたぜ)

 

臆病者(チキン)か。

…て安堵しながら一人ツッコんでる場合じゃねぇ!

 

デスピナ(早く俺の目的と要望を伝えないと! しかし次は…どう言ったものか……)

 

最初の挨拶と自己紹介に成功したからと言って安心してはいけない。いや事前に「()()()言って伝えるのか」を決めておかなかったのがそもそもの原因なんだけどさ……。

 

翔鶴《あのっ…あなたは昼間、墳式の戦闘機と爆撃機を派遣して頂いた方でお間違いはないでしょうか?》

 

俺の心のテンパり具合が相手に伝わらなかったのかは定かではないが、通話相手の艦娘――空母娘"翔鶴さん"の方から話すきっかけを頂いた。

 

デスピナ(あー…そういや昼間、そんな事もしたな)

 

もう1~2ヶ月くらい前の事のような気がするが、時系列で言えば今日の昼間なのだ。

 

デスピナ(戦闘機に"EJ24"を12機と"ファイター"を百…何十機かと、爆撃機"ミッドナイト"を3じゅ――いや、3つの中隊に分けた内の2中隊だけ向かわせた筈だから――24機を、向かわせたんだったな)

 

デスピナ「ええ、一応。南鳥島から、敵の航空機が発進して行くのが見えたので、味方が接近していると思って念のため出撃させましたが……もしかして、ご迷惑でしたか?」

 

念のため訊いておく。

 

翔鶴《いえ、そんな――! とんでもありません!》

 

お邪魔でないのなら良かった。

 

翔鶴《むしろ、非常に助かりました。おかげで一人も撃沈されず、無事に撤退を続けております。その節は、本当にありがとうございました》

 

俺は、転生してから幾日にも及ぶ航海から来る精神的疲労が吹き飛ぶくらいに気分が高揚していた。

"ありがとう"って、本当に良い言葉だn

 

《うんっ! 私も、大事な艦載機を全滅させずに済んだし、いろいろと助かったわ!》

 

デスピナ(おおう、誰だ?)

 

翔鶴さんと良く似た声、"大事な艦載機"との発言から、もう一人の「翔鶴型空母艦娘」を思い浮かべる。

 

瑞鶴《あっ私、正規空母"瑞鶴"です。よろしく!》

 

デスピナ(だろうね、何となく居るんじゃないかとは思ってたよ)

 

裕一として前世で遊んでいた艦これでは、建造で手に入れるまでに軽く1年は費やしてしまった覚えがある。

しっかし、この時点でもう俺の押しキャラの二人とお話出来た上に感謝されてしまうとは、転生して以来中々幸先良いのではないだろうか。

 

と、また誰か別のお方が話し始めたようで……

 

金剛《Hey! 私は金剛型戦艦一番艦の"金剛"デース! エスコート、サンキューベリィマーッチ!》

比叡《えぇと、二番艦の"比叡"ですー。ホント、助かりました。どうもありがとうございます!》

榛名《三番艦、"榛名"です。あなたが、あの戦闘機達の母艦なのですね。見事な飛行、感激しました!》

霧島《四番艦の"霧島"です。正直かなり危なかったの。わざわざ哨戒機まで飛ばして頂いて…何から何までありがとうございます》

 

デスピナ(ちょ……マジかい!?)

 

ホエールからの報告にあった「戦艦四隻」って、金剛姉妹の事だったのか…。

霧島さんの言っている"哨戒機"とは、翔鶴さんたち撤退中の艦娘達を捜すために出撃させた攻撃機ホエールの事だろう。

 

デスピナ「!――そ、そうですか…「いやそれ哨戒機じゃなくて攻撃機っす!」」

 

ちょっと航空参謀(クゥちゃん)? 今俺大事なお話してる所だから静かにしてね、ね?

副長、お宅の航空参謀、少しの間黙らせて頂けませんかね。

 

デスピナ「それは、「やってることは対潜哨戒なんだから良いでしょ!」…どういたしまして」

 

副長よ、おまえもか!

便乗するなこの野郎(こんにゃろ)

 

一通り、撤退していた艦娘達本人である翔鶴姉妹と金剛姉妹からなる機動艦隊の声は聞けた。()()()()()()()()皆平気そうだが、先刻ホエールからの報告では確か……。

 

デスピナ「あ、でも、(うち)の航空隊からは、空母1隻が大破と戦艦3隻が中破していると報告を受けたのですが、皆さん航行に問題は無さそうですか?」

 

俺が心配なのはそこである。

南鳥島に巣食う離島棲鬼を見つけたあの時、少しでも航空隊を出撃させるのを渋っていたら、翔鶴さんたちの誰かが轟沈していたかも知れないのだ。

誰も沈んではいないとの事で良かったが、まだ油断は出来ない。さっき砲雷長が言っていたように、潜水艦が出没しないとも限らないのだ。

 

翔鶴《実は複数名、機関を損傷して速度を落としてしまって……。すみません、少し失礼します――》

 

デスピナ(やはりか……)

 

デスピナ航空隊の発進をもう少し早く決断しておけばと、今更ながら軽く後悔する。

 

翔鶴《――"神通"さん、夜の間も、移動を続けたほうが良いでしょうか?

 

神通さんもおるんかい!?

あ、ホエールからの報告にあった「軽巡1隻」か。て事は、駆逐艦5隻も同じ場所にいるんだな。

 

神通《本当は――したい所――が、今の――では――そうですね。あまり無理して――ても、今出せる――船速では万一潜水艦――撃に遭った時対処――るか分かりま――。――まではまだまだ―――ますから、私た――かばい続け――も難しい――…

翔鶴《そうですか……

 

デスピナ(ふむ……)

 

無線機から離れているからか、神通さんが何言っているのかよく聞こえなかった。

ただ、聞こえた部分を並べ、途切れた部分を適当に埋めて考えた所、どうやら夜通しの移動は向こうにとってリスキーなようだ。

 

デスピナ「あの、もし夜通しの航海が難しいようでしたら、そのまま明日の夜明けまで機関を止めて、停船し続けることは出来ますでしょうか? 私の艤装には、高性能な音探(ソナー)と長射程の対潜兵装を多数備えておりますので、ある程度距離を縮めれば、当艦の兵装による援護が可能です。現在、最大船速30ノット。対潜水艦用の(デコイ)を、そちらの周辺20km圏に飛ばしつつ航行しています。皆さんに留まって頂ければ、明日の午前5時過ぎには、そちらに合流出来る筈です。実は私、訳あって横須賀を目指しているんです。ご迷惑で無ければ、同行させて頂けませんでしょうか?」

 

とりあえず、こちらの要望は言うだけ言ってみた。

出来ればもう少し、相手が相槌を打ったり反芻したりする時間を作った方が良いとは思うのだが、生憎俺はそこまで気の利いた会話術は持ち合わせていない。

 

神通《…相手――は何と?

翔鶴《…私達と合流して――

 

翔鶴さんは、俺が合流して一緒に日本――とりあえず横須賀に行きたいと言う旨を、俺に代わって神通さんに伝えてくれているようだ。

 

神通《――改めて――上・対潜――を厳――よ!

 

デスピナ(大丈夫だろうか……?)

 

聞いている限りでは、特に意見が食い違っている所はなさそうだったが、果たして……。

 

翔鶴《あの、デスピナさん》

デスピナ「はい、なんでしょうか?」

 

良かった、ちゃんと声出た。

あまり人と喋らないと、喉に()()が引っ掛かって一回「ヴッヴンッ」とかやらないと声の出し始めが小さくって小さくって……。

 

翔鶴《艦隊旗艦として、あなたのご希望を受諾いたします》

デスピナ「本当ですか!?」

 

やったぜ!(定型文)

良かった、意外とあっさり要望が通ってくれた。

 

翔鶴《鎮守府に連絡を取りたいと思いますので、一度無線を遮断していただいてもよろしいでしょうか?》

デスピナ「了解しました。では、また何かあり次第発信しますね。交信終了」

 

 プツンッ――

 

そう言って、俺は画面を閉じ、一旦"システムリンク"を切った。

 

副長「やりましたね、交渉成立です!」

デスピナ「ああ。だが、喜ぶにはまだ早い。急ぐぞ」

副長「これ以上スピードは出ませんけどね」

デスピナ「気分の問題だよ。……クゥ、輸送ヘリ隊の準備を頼む」

航空参謀「アイサー! あ、そいつらの事は――」

デスピナ「ポーターズか?」

航空参謀「…よくご存知で。んじゃ、準備してきまっす!」

 

そんでもって、

 

デスピナ「砲雷長(ライ)ちゃん、ミサイルの予備弾薬ってまだある?」

砲雷長「結構ありますよ」

デスピナ「ミサイルの信管、なにかの弾みで作動しないようにしてから、何発か"ヒドラ"のコンテナに積み込んじゃって。物音たてたるのに使いたいから、固定はしなくて良いよ」

砲雷長「了解」

 

(デコイ)の準備は滞りなく進みそうだな。

 

北西に向かっている俺の左手斜め前方には、真っ赤な太陽が水平線の向こうにお帰りになっていた。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

俺の後悔……じゃなかった航海はまだまだ続く。

ただいま時刻は20時30分。真っ暗である。

 

貨物を搭載した"輸送ヘリ ヒドラ"の作戦行動半径(≠最大往復可能距離)である500kmを切ったため、コマンド画面のメニューから毎度の如く(実際毎度だけど)"航空管制"メニューを開き、その中の"輸送隊一覧"を呼び出す。

 

デスピナ「クゥ、貨物の準備は良いか?」

航空参謀「言われたとおり、砲雷科妖精(鉄砲屋)に渡されたブツはちゃーんとテキトーにころがして詰めこみやした。全機いつでも出れまっせ」

 

ここまでくれば、後は何回もやった通りだ。

"輸送隊一覧"のメニューの中から、全部で12機搭載されている輸送ヘリの、まずは半数を出撃させる。

 

飛行甲板を持ち上げると、既にコンテナが付いた状態の"ヒドラ"達が、妖精達に台車で運ばれてきた。

6機すべてのローターが回転を始める。

ヘリコプターやオートジャイロの類は、当然カタパルトは使用しない。

なので直接発進を宣言する。

 

ヒドラ1《こちらポーターズ。積み込みよし、出撃準備完了》

デスピナ「了解、"ポーターズ"発艦せよ」

ヒドラ1《了解。ポーターズ、出撃!》

 

宣言すると、サイドバイサイド型のメインローターに、何故か不必要なはずのテールローターが付いた特徴的な外見の大型輸送ヘリ"ヒドラ"の編隊が、夜の海に出撃した。

 

デスピナ「可能な限り低空飛行し、敵に補足されぬよう注意せよ」

ヒドラ1《了解》

 

一応、ホエールが対潜哨戒を続けている筈だが、燃料が切れるギリギリまで飛ばれた場合には、もう艤装の中の燃料の予備が心もとなくなってしまうため、早めに(デコイ)を飛ばしておいたほうが良いだろう。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

日付が変わり、6月18日の午前1時30分。北西で停船している艦娘達との距離はそろそろ210kmくらい。

今の今までずっと対潜哨戒飛行を実施していた大型攻撃機ホエール達から通信が入った。

 

ホエール1《こちらホエール1、EJ24(護衛機)含め、全機そろそろ燃料がマズイ。これより帰還する》

デスピナ「デスピナ、了解。帰投せよ」

 

"ポーターズ"に持たせた(デコイ)はとっくに投下し、投下地点の座標も受け取った。

あとは、引き続き適当にその上あたりにヒドラを陣取らせ、敵の潜水艦によって(デコイ)が破壊され次第、艦娘達に通達する仕組みだ。

不安なのは、ヘリは回転翼で直接自重を持ち上げて飛行する都合上燃料消費が激しい事だから、あまり長く滞空させる事も出来ない事か。

 

デスピナ(念のため、翔鶴さん達にホエールの帰投伝えておこう)

 

コマンド画面→システムリンクから、先には座標が書いてあったボタンをタッチし、現れた小ウィンドウから【無線通信】をタッチ。

既にリンクは終えているので【艤装リンク】の必要は無し。

 

『発信中…』

 

『-通話中- -SHOKAKU-』

 

今度はすぐに出てくれた。

 

翔鶴《こちら翔鶴、何でしょうか?

 

敵の潜水艦対策に少しでも音をたてないためだろう、翔鶴さんは小声で話していた。

 

デスピナ「こちらデスピナ、たった今、哨戒飛行に出していた大型機とその護衛機を帰投させました」

翔鶴《了解しました。…あの、時々、遠くに何かが、羽音を立てながらゆっくり飛んでいるのが見えるのですが……

デスピナ「対潜用の(デコイ)を投下しに向かわせた、(うち)の輸送ヘリです。もし、どこからか魚雷が着弾した時の音や、何かが爆発する音が聞こえましたら、方角を教えてください。万一、艦隊の誰かが敵の襲撃を受けたときにも、念のため教えてください」

翔鶴《……分かりました

 

何か歯切れが悪……あ、そうか。

 

デスピナ「そちらの画面は消しておきますが、無線機の回線は通じておりますので、いつでも連絡なさってください」

翔鶴《了解しました

 

数時間前の副長からの説明によると、システムリンクで通じている相手には、俺が使うコマンド画面と同じように、明るい緑色に発光するホログラム画面が浮かんでいるのだとか。

流石に探照灯ほどの光量は無いとは言え、夜の海で明かりを灯そうものなら、たちまち敵が寄っ来てしまう恐れがある。

今回システムリンクを使った本来の目的である「無線周波数の割り出し」は終えたので、もう一々システムリンク画面を使わずとも、無線機で直接やりとりは出来るのだ。

 

現在、彼我の距離は約200km強。

30ノット(=55.56km/h)で航行し続けて、あと3時間半くらいか。

 

デスピナ(よし、もう少しの辛抱だ。やっとあの翔鶴さんに、いや夢にまで見た二次元の女の子に会える……!)

 

「この世界では彼女とか出来るだろうか」とか、「日本に着いたら何しよう」とか、取らぬ狸の皮算用と言うべきなのか自分の頭では分からない事を思い浮かべながら、気持ちだけ増速した。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

時刻は午前3時。艦娘達との距離は120km弱。

そろそろ、俺の艤装に搭載されているソナーと対潜兵装(アスロック)の射程距離だ。

いや、まだ遠いか…?

 

仕方ないので、既に即席の対潜(デコイ)を落とし、少しの間の対潜哨戒を終え、一度帰投したヒドラ達にはもう一度出撃してもらい、暗視装置にて潜水艦の位置を探らせ、もし敵の潜水艦や水上艦を発見した場合には座標を送ってもらう事にしよう。

 

てな訳で、現在翔鶴さんにモーニングコール中。

 

デスピナ「こちらデスピナ。これより、本艦の艤装による対潜警戒を開始します。そろそろ距離は100kmになりますので、そちらにはほぼ定刻どおりに着けると思います」

翔鶴《え、そんなに離れた距離からですか?

 

日の出まではまだ時間があるため、翔鶴さんは相変わらず小声のままだ。

 

デスピナ「まぁ、伊達に要塞やっていませんので…それより、本当に長い間お待たせしてしまって申し訳ありません。今のところ、敵の襲撃はありませんか?」

 

俺は回答になっていない返事を誤魔化すため、一先ずの謝罪と、現状の確認を行う。

 

翔鶴《はい。今のところ敵の気配は無く、被害もありません。こちらこそ、いろいろと手を打って頂いて、ありがとうございます

 

俺の我が侭を聞き入れて長々と待ってくれている上に、それでも尚感謝の気持ちを(あらわ)にしてくれるとは、翔鶴さんは現実でも女神だわー。改めて実感した。

 

デスピナ(翔鶴さんは女神。異論は認めん)

 

デスピナ「何も無いのでしたら、良かったです。もう少しだけ、お待ちください。交信終了――ふぅ……」

副長「お疲れ様です。本当に、長かったですね…」

デスピナ「全くだよ。なんか、ハワイの近くから太平洋を渡ってきた時の方が、時間が早く流れた気がするのは気のせいかな……」

副長「気のせいのはずですが、わたしも同じ気分ですよ……」

 

全く深海棲艦の野郎、南鳥島に離島棲鬼なんか置くからこんなに時間掛かってるんだぞこん畜生。

 

さて、この後は何事も無ければ向こうと合流するまで若干暇になる。

 

デスピナ「副長、昨日言ってた事だけどさ、俺のレーダーに水平線の向こうのflagshipやら姫級やらが引っ掛かるのって何でなんだ?」

副長「それはですね、デスピナ艤装に搭載されている、レーダーの仕様によるものです」

 

折角なので、先日聞きそびれた事を改めて聞いてみる。

 

 

 

まずは副長。

 

副長「深海棲艦は、ある一定以上の力をもった個体のみ、独自の"オーラ"を放出するようになります」

デスピナ「オーラ?」

副長「虚像、といえばよいでしょうか。わたしたちがeliteやflagship、そして鬼や姫と呼んでいる深海棲艦の個体は、自身の体積よりもはるかに巨大な"オーラ"を放出します。その"オーラ"を感知した周囲の深海棲艦が数隻集まることで艦隊を編制し、統制を維持しているものと考えられています」

 

そう言えば艦これの深海棲艦って、確かに赤かったり黄色かったりする禍々しいオーラ的なものが描かれてはいたが…。

 

デスピナ「へぇ。で、それとレーダーに何の関係があるんだ?」

副長「デスピナ艤装の広域レーダーは、他の艦娘の艤装に搭載されている電探とは微妙に仕様が異なっているんです。艦娘の電探は、実際に存在するレーダーとほぼ同じように、深海棲艦の本体や艤装そのものを探知して索敵しますが、デスピナのレーダーの場合、まず遥か遠くにたちのぼる深海棲艦の"オーラ"を探知する機能もあって、地球の丸みを考慮しつつエレメンタルシステムで距離を算出、位置を予測しているんです」

デスピナ「……なるほどな」

 

なにその高度な観測技術と計算処理能力。

 

しかし、あの揺らめく炎のような"オーラ"とやらを探知するなら、その仕様上どうしても発生してしまうであろう問題が懸念される。

 

デスピナ「……密集してる敵は探知出来るのか? 見えない敵集団を気配だけで探るような物なんだろ? こっちから見て横にぴったりくっついてたり、前後に並んで向かって来てる敵には、反応が重なっちゃって実際の数よりも少なくなったりしないのか?」

副長「おなじeliteやflagship同士の個体の場合には、それもありえます。ですが、eliteとflagship、鬼と姫など、種類が異なるクラスの個体では"オーラ"の種類がちがいまので、すぐ近くにとなりあっていてもちゃんと識別が可能です。前後にならんでいる場合でも、ほんのすこしでもズレていれば大体は探知可能です」

 

ならついでに、こんな質問をしてみる。

 

デスピナ「そう言えば初日の戦闘で、一度に沢山撃ったミサイルは全部、eliteとflagshipがレーダー上では()()()()いる筈の敵にも命中したみたいだけど、本当に狙った敵に当たったのか?」

副長「はい、あたりました。デスピナ艤装に搭載されている巡航ミサイルは、すべて複数の誘導方式を自動で切り替えるようにつくられています。たとえば、初日に使用したライオニックですが、撃ちはじめは艤装のレーダーによる目標指定と慣性誘導によって飛んでいきますが、ミサイルの誘導装置(シーカー)が探知範囲内に目標をとらえしだい、すぐアクティブ誘導に切り替わって攻撃します。そして、一瞬でも艤装のレーダーにとらえた目標はエレメンタルシステムの計算によって位置が予測され続けますから、それをミサイルのシーカーに記憶させて発射すれば、命中させることが可能です」

デスピナ「おぉー……」

 

もう何でもアリじゃねぇか俺の艤装。高性能にも程があるぞホント。

是非とも有効に使わせて頂きますけども、一体誰がこんな凄い性能の艤装を設定…じゃなくて設計したんだろうか。

 

デスピナ「水平線の向こうの敵がelite以上しか探知出来ないんなら、"オーラ"が無い深海棲艦と味方の艦娘はどうするんだ?」

副長「"オーラ"が出てない敵なら並の艦娘でもじゅうぶんに対処できますから、本艦が気にする必要はありません。見えてる敵だけ殲滅すればよいのです。味方とは無線機つかって連絡すればいいですしね」

デスピナ「水平線よりも()()()()にいる場合は?」

副長「それはもちろん、ふつうに探知可能です」

デスピナ「それは良かった」

 

 

さて、次は毎度お馴染みのコイツだ。

 

航空参謀「旦那はもう把握してるとぁ思いますが、デスピナ航空隊の編制は36機で1大隊を編制して、それぞれにコールサインが割り振られてるっす。カロンで構成する第1・第2爆撃大隊が『ボマー』、ウチが指揮するミッドナイト隊が『アタッカー』、アルテミス隊が『サプレッサー』、戦闘大隊が『ファイター』で、輸送チームが『ポーターズ』っすね」

 

ここら辺は、先日の離島棲鬼攻略の際にクゥちゃん本人から聞いた通りだ

 

航空参謀「んで、それを12機ずつ3つに分けると3個中隊が出来上がって、それぞれAチームBチームCチームと、ウチらは呼んでるっす。作戦中は、大きくても大抵は中隊程度しか出番はありやせんし、こんな風な呼び方が定着しちゃったんすよね」

デスピナ「つまり、大隊内での36番機は、Cチームで言う所の12番機って事か」

航空参謀「そっすね。紛らわしくてすんません」

デスピナ「気にするな。俺は好きだぞ、そう言う…"ファイター1(ワン)A5(ファイブ)"みたいな感じの呼び方。直感的で分かり易い」

 

裕一として前世で遊んでいたEDF4.1でも、NPC隊員達は"○○1-5(ワンファイブ)"て感じに自分の所属する隊の事呼んでるのをゲーム中で何度も耳にしたし、割と違和感は無い。

 

航空参謀「ははっ、そう言ってもらえると、()()()()()()()()()()()としてうれしいっすねぇ。でも、リーダーとしては兎も角、()()()()()()()()()()()()としちゃあ中隊内の呼称なんか気にしないで、大隊の総力挙げて全力出撃する方が何かとアイツらも喜ぶから、それはそれで良いんすけどね」

デスピナ「燃料消費はバカにならないが……その気持ちは分かるぜ」

 

戦術爆撃機カロンの大編隊とかマジ胸熱じゃないか。初めてブルートフォース作戦をプレイした時、空軍の爆撃機がヘクトルの集団に絨毯爆撃を食らわせた時の感動と言ったら、何事にも代え難いモノがあったものだ。

転生してしまった今となっては確かめようも無いが、俺と同じくEDF4シリーズをプレイした隊員の皆なら、俺と航空参謀の気持ちはきっと分かってくれる筈だ。

 

航空参謀「旦那が話のわかる空母でよかったっす。次はアルテミス隊のことも頼みまっせ。アイツら拗ねてんのなんのって……」

デスピナ「善処する。と言っても、もうホントに燃料が少ない。せめて横須賀に着くまでは我慢してくれよ」

航空参謀「アイアイサー」

 

 

 

デスピナ「Zzz……――ハッ」

航空参謀「お、お目覚めっすか旦那」

副長「デスピナさん、大丈夫ですか?」

デスピナ「あぁ。けどちょっと眠いかも知れん」

 

転生してからぶっ続けで航海と戦闘の繰り返しだもんなぁ、誰だって疲れるよこんなハードスケジュール。

 

時間を確認したら、もう3時半回るくらいだ。

 

副長「探照灯、いったん消しましょうか。CDC、レーダーしっかり見といて。あと、もし予定航路からズレちゃいそうだったら教えて」

CDC「了解です」

副長「デスピナさん、万一敵襲があったときと進行方向がへんな方向に向きそうになったときには容赦なくたたきおこしますから、ほんの短時間くらいなら仮眠を取っても大丈夫ですよ。一応わたしたち妖精だけでも、デスピナ艤装の操作は出来ますので」

デスピナ「世話をかけるね。でも、出来るだけ起きているようにはするつもりだよ。第一、翔鶴さん達に何かあったときには少しでも早く行動できる方が良いし、そのために輸送ヘリ部隊(ポーターズ)も出撃させなきゃだからな」

 

そう、今の俺は"向かう先で停船している筈の翔鶴さん達と合流する"と言う最も大事な約束があるのだ。

そしてその後には横須賀まで……いかん、この先の事想像するだけでもう眠たくなってきた。

 

デスピナ(そんな時には…)

 

俺は全画面表示されている海図とは別ウインドウで、レーダー/ソナーによる索敵結果が表示されているコマンド画面から"航空管制"を選択し、"輸送隊一覧"の中にいる輸送ヘリヒドラの項目をタッチする。

 

デスピナ(明るい画面を見つめて手先を動かせば、大抵眠気は吹っ飛ぶ! ……たぶん)

 

ソースは前世で夜更かしをしていた俺。電気を消した部屋で煌々と光るスマホ画面を見つめてネットサーフィンしていたら、いつのまにか午前3時回っていたとかざらにあったし。

 

尚、只今の時刻も午前3時半ごろ。転生して艦息になった身とは言え、何日もホログラム画面を見ながら徹夜とは、とんだダメ人間になったものだ。

 

デスピナ(どこかの鎮守府に着任できたら、少しは余裕のある生活サイクルを後れますように――)

 

そんな事を思いながら俺は居眠りしてしまい、輸送ヘリ隊を待たせたため航空参謀に叩き起こされるのであった。

 

 

 

現在、午前5時。

朝日が昇り始めてから30分ほど経ち、真っ暗だった海面は、再び青い色に染まる。いや元から海は青いっつーの。

 

結局、俺がテキトーに用意した即席の対潜デコイは一個も破壊されず、俺も翔鶴さん達も敵に遭遇する事は無かった。

役に立たなかったのはそれはそれでアレだが、後悔先に立たずと言うし、とりあえずは無事を喜ぶ。

 

そんでついに、翔鶴さん達と合流する予定時刻だ。

俺はポカポカした朝日を右斜め後ろから背中に受け……あ、艤装が邪魔で全然暖かく無ぇ。

 

俺の右肩には副長と砲雷長が、左肩には航空参謀が乗っかり、正面に広がる北西の水平線を見つめる。

よく見てみると、人影がぽつりぽつりと見え始めた。

 

航空参謀「お、アレじゃないすか!?」

副長「…あ、そうですね! あの艦娘(ひと)たちです!」

砲雷長「やっと合流…ふぁーっ…」

 

最近ライちゃんおねむになってばかりね。

 

副長「デスピナさん、あの人たち手振ってますよ! おーい!!」ブンブン

航空参謀「よっしゃー! 任務完了まであと少しっすね!」

デスピナ「そうだな。だが喜ぶにはまだ早い。彼女らを横須賀にエスコートするまでやらねば」

 

もう20時間以上機関回しっ放しだが、本当に主機の耐久性は大丈夫だろうか……?

 

少しずつ大きくなる艦娘達の影は、距離の割にも小さく見えた。

 

 

 

現在時刻、午前5時23分。

――やっと、やっとこの時が来た。

 

デスピナ「長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません」

 

挨拶はしっかりと行う。

 

デスピナ「改めまして、私は、デスピナ級要塞航空母艦――」

 

今俺の目の前には翔鶴さんと、彼女に肩を貸している瑞鶴に、金剛さん達四姉妹、そして、半日はゆうに越えて翔鶴さん達を守り抜いた、神通さん達水雷戦隊の面々がいる。

 

 

 

デスピナ「――1番艦の、デスピナと申します」

 

 

 

――初対面の女性に対する挨拶としては、かなり妥当な方じゃないだろうか。

 

俺はそんな事を思いながら、5日間に及ぶ長い航海と、昨日の離島棲鬼発見から始まった人生上もっとも長い1日弱のイベント戦を、ようやく完遂したのだ。

 

 

 

 

 

デスピナ(さぁ、今度は横須賀に彼女達をエスコートする番だッ!!)

 

まだ終わって無ぇよ今度は俺自身が艦隊を護衛しなきゃだよ!

 

俺は頭の中で海図を開き、日本列島までの残りの距離を暗算した。




終わり頃にある割愛部分は、「12.5話」とでも銘打って短いものを投稿しようと思います。
これまでの話の中に何度かあった、副長や航空参謀の「詳しくは後で説明する」をやらせようと思います。
"少し長いので"と書いてはおりますが、今まで書いてきた話の文字数に比べたら本当に短いもので終わりそうです。

今話に統合し、12.5話は削除しました。(2019年9月3日)

今回…と言うかここ最新2,3話あたりは、引っ張りに引っ張った割には何だか駆け足で終わってしまった感じがあるかも知れませんが、
今までは「艦息デスピナと航空隊の戦闘シーケンス」の描写に重点を置いていたつもりですので、次回以降は出来るだけ分かり易くかつ、テンポの良い描写を心がけていきたいと思います。

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