雑誌を読みながら、タカダ・リホ隊員は呟いた。
「クラス替えしたとき、たいして仲良くなかった人が『また一緒のクラスだね』って馴れ馴れしくしてくるの、何なんだろうなぁ…」
腕を組んで考え出した彼女の耳に、いつものサイレンが聞こえてきた。モニターを見ると、火球を放つ怪獣が画面に写し出されている。
「都内に、ゼットンが出現しました」
「おいゼットン、お前カオリちゃんとフェス行ったんだって?」
ケンがうまい棒をかじりながら、ゼットンに聞いた。隣でしゃがんでいたタケシが、唾を飛ばして驚く。
「あぁ!? フェスぅ!?」
「うわ、きったね!!」
ブーチンはそれを避けながら、ゼットンの肩をバシバシと叩いた。
「つーかゼットンのくせに彼女とか、ホント何様だよ!!」
しかし、彼は顔面の真ん中を光らせるだけである。その態度にブチ切れたタケシは、ギプスがはめられていない方の手でゼットンの角をつかむとブンブンと振り回した。
「ゼットンてめー! チューとかしてねーだろうな!! ABCのどこまで行ったんだよ!! なぁ!!!」
「タ、タケちゃん、おちつけ。まだ昼間だぞ、そんな話やめろって」
ケンがようやくタケシを押さえつけ、ゼットンの角から手が離れる。彼は自分の角を軽く押さえながら、きちんとあるかどうか確認した。
「バーカ!! バカバーカ!! ブァーッカ!!」
タケシが力の限りけなしていると、駄菓子屋の前の曲がり角からナオキとカオリが歩いてきた。
「お前ら、大声で何話してんだ」
「お、ナオキ!」
ケンとブーチンが軽く手を上げて挨拶すると、ゼットンが振り向いて立ち上がった。カオリが笑顔でその隣に歩いていく。
「ゼットン君、こんにちは」
彼は頷きながら顔面を光らせると、駄菓子屋へ歩いていった。すると、タケシが彼に悔しそうな声を投げつけるようにかける。
「おいゼットン、カオリちゃんのジュース買うんならオレのも買ってこい!!」
「あ、じゃあ、おれのもおれのも!」
ついでに、ブーチンがそれに乗ってふざけて手をあげた。ゼットンはそれを聞きながら、入り口の天井に当たらないように少しかがんで店に入っていった。
「しっかしあれだよな、ここんとこ赤王高校の奴らも大人しくなったっつーか…ようやく安心できるってもんだぜ」
ケンが大きく伸びをしながら立ち上がるが、ナオキがその言葉に首を振った。
「いや、いずれまた来るだろうな。今は、嵐の前の静けさって奴かもしれないぜ」
「そ、そっか…」
伸ばしていた腕を力なく下ろすと、ケンは表情をくもらせた。タケシとブーチンも、目を伏せる。しかし、カオリはまっすぐ前を向いていた。
「大丈夫よ、きっと」
「カオリちゃん…」
「いざとなったら、ゼットン君もいるんだし」
彼女の言葉に、タケシはいらだったような舌打ちをした。
「オレらはゼットンの『おまけ』かよ」
「そ、そんなつもりじゃ…」
カオリは否定しようとするが、ブーチンがそれをさえぎった。
「あいつなんかいなくたって、こーんな大怪我をしてたってな! 赤王の奴らぐらい、ちょちょいのちょいだっつーの!!」
「そうそ、カオリちゃんは俺らの本当の力を知らねーんだよ」
タケシはブーチンの肩に腕をのせ、自分のリーゼントを整えるように触った。
「きっとそれを見れば、ゼットンよりオレたちに惚れちまうかもな…」
「それ、あり得るかもな!!」
アハハハハハハハハと高笑いするブーチンだったが、目の前の曲がり角から現れた影に、声をさらに裏返して悲鳴に近い声で叫んだ。
「ど、どうした?」
ナオキが振り返ると、見覚えのある怪獣が立っていた。
「お前は…!!」
ゼットンが店から出てくると、そこにはナオキとカオリしかいなかった。
「あ、ゼットン君…」
「…おう、遅かったな」
彼は辺りを見回し、他の三人を探した。だが、やはりどこにもいない。
「あいつらなら、レッドキングとタイマン張りに行った」
「!」
三本のラムネがゼットンの手からこぼれおち、地面でしゅわしゅわと炭酸が弾ける音がする。
「あん時やられたケリを、付けるらしいぜ」
「…」
「変に手ぇ出すなって言ったんだけどな…ゼットンより上になるとかほざいて、全く話を聞かなかった」
ナオキの言葉に、ゼットンはうなだれた。この前の怪我もまだしっかりと治っていないのに、対等に戦えるはずがない。
「私も、止めたんだけど…」
カオリは彼の顔を見ることができず、地面に落ちたラムネをじっと見つめた。ゼットンは自販機のそばに置いておいた自分のカバンを持つと、その場から去ろうとする。だが、彼の肩をナオキがつかんだ。
「あいつらの場所、分からねーだろ」
小さくナオキの方を向くと、彼は持っていたカバンを自分の肩に担いだ。
「連れてってやるよ。タイマン張る場所っていったら、あそこしかねぇ」
「おっし、今度はオレの出番だな…覚悟しやがれ!」
タケシとレッドキングはお互いににらみ合うと、大きく三歩ほど離れた。遠いところから、ケンとブーチンがしゃがんで応援している。
「いけー、タケちゃん!」
「やっちまえ!」
タケシは二人に向かってニヤリと笑うと、拳を構えて風を切るように振り下ろした。鈍い音が、その場に響き渡る。
「つんめってぇ!!」
と同時に川から水が飛んできて、ブーチンの足がびしょぬれになってしまった。
「だからちいせぇ石にしろって言っただろ!! 飛ばねぇよ、そんなでけぇのじゃ! やる気あんのか!?」
タケシは足下にある大きな石を指差して、レッドキングに怒った。
「っていうか、もうそれ岩じゃねえか」
ケンが冷静にツッコむと、ぬれた制服を絞っていたブーチンもタケシと同じように怒り始めた。
「せめてもっと遠くに投げろよ、遠くによ!!」
レッドキングは頭をかいて、ペコペコと謝る。
「ケン、お前ちょっと石選んでやれ」
「え、何でだよ」
「お前がタイマン張る前に水切りなんかしたから、あいつが変に興味持っちまったんだろうが!! 責任取れ!!」
「わ、分かったよ…ほら、こっち来い」
ケンがタケシの勢いに押されながら川の方に歩いていくと、その後をレッドキングが鳴きながら付いていった。
「…やっぱ、ここだったか」
土手から河原を見下ろしながら、ナオキが呆れたように笑った。
「何よ、楽しそうにしてるじゃない。心配して損した」
カオリが口を尖らせて、ため息をついた。だが、安心したようにも見える。ゼットンは土手から彼らを見つめながら、顔を光らせた。
「ゼットン、水切りってやったことあるか?」
ナオキが土手を降りながら聞くと、彼はゆっくりと首を振った。
「そっか。じゃ、教えてやるよ」
坂を降りていく相手を見ると、ゼットンも彼に続こうとした。しかし、何かを思い出したようにカオリの方を向く。
「どうしたの?」
ゼットンは何も言わず、彼女に手を差し出した。
「え…」
思わずドキッとしたカオリは、なかなか彼の手をつかむことができない。ゼットンは手を取らない彼女に首をかしげ、土手の坂道とカオリを交互に見つめる。ようやく何を伝えたいのか理解したカオリは、いつもの笑顔を向けた。
「そっか、ここ滑りやすいもんね。ありがとう」
フフ、と嬉しそうに彼の手を取ると、気を付けながら二人で坂道を下っていく。
河原までたどり着いたとき、タケシの泣き叫ぶような声が二人の耳に聞こえてきた。
「てめ何イチャコラしてんだゼットォォォ―――――――――――――――――――――ンッ!!」
その後、夕方になると河原で水切りをしている数人の高校生と、一体のどくろ怪獣が目撃されたという。