那珂ちゃんはかわいくてどんな時も笑顔を絶やさない、いい女
神通は大事な人のためならどんな努力も惜しまない、いい女
川内はそんな二人の姉なので当然いい女
証明完了
「うぇ、うぇっ!! ……きもちわりぃ、飲む量間違えたか?」
トイレで男がえずいている、年は若く二十台になって間もないといった所だろうか、若さに似合わないどこか落ち着いたところのある雰囲気だった。
が
トイレから出て部屋に戻ると、そこには部屋の真ん中で待ち構えてポーズを取りながらドヤ顔をする軽巡の艦娘『川内』の姿。
それを見て男はぎょっと後ろにのぞけりながら驚く。
その様子を見て川内は、肩ぐらいまで伸ばした髪の一部、左右細めに縛られた二本の黒髪の束をピコピコと揺らしながら、嬉しそうにピースサインをした。
■□■□■
「あほ、驚かすなよ川内。一体どっから入ってきた?」
「あははー、ごめんごめん。ベランダに隠れてたんだけど、いつ気が付くかなと思って。でも寒くなっちゃったから窓からひょいっとね」
そういってベランダに通じる窓を指差す川内、男は「鍵かけてたよな……」と、ぼやきながらコタツに入る。
その様子を見てすかさず川内もコタツに入り込む。
「そういや提督大丈夫? さっきトイレで吐いてたでしょ」
「あー、昨日例の映研のやつらと朝まで飲んでたからなぁ」
「またぁ? 最近しょっちゅうだね。山田さんだっけ、あの映画監督志望の人」
「まぁ、あいつの映画と艦娘にかける思いは俺も評価してんだけどなぁ、あの酒豪っぷりにつき合わされるのはたまらんわ。後さすがに日本酒と焼酎のちゃんぽんはどうかと思う」
「うぇ、なにそれ。美味しいの」
「少なくとも俺はもう飲みたくねえ」
そんな会話をしながら、だらだらとテレビを見ていた二人だったが、しばらくして川内のお腹の音が聞こえた。
「飯作るか」
そういって立ち上がり台所に向かう男。その後ろを、えへへ、と川内が恥ずかしそうに頭をかきながら追う。
「炊き込みご飯と味噌汁でいいか、川内、冷凍庫から鶏肉とってくれ。あときんぴらごぼう用のカット済み冷凍パックも」
「はーい、他には?」
「あー、後タマネギとしいたけ出して刻んでくれるか、俺は米とぐわ」
「任せておいて!」
川内は冷蔵庫からタマネギとしいたけを取り出し、慣れた手つきでザクザクと刻むと、ボールにカット済みのごぼうとにんじんと一緒にカットした食材をまとめて入れる。
「できたよ提督」
「こっちもだ」
ふたりは連携し慣れた手つきで研いだ米を炊飯釜に入れ、調味料と水を足し、カットした食材を混ぜ込んで、一番上に鳥のモモ肉を一枚入れる。
そして炊飯器にセットすると、最後に炊飯のボタンを押して部屋に戻った。
「出来上がるまでこれ見ようよ、借りてきたんだ」
水仕事で冷えた手をコタツに入れて温めていた男に、川内が借りてきたドラマのタイトルを見せる。
そこには【暁の水雷戦隊 輸送大作戦編】と表記されていた。
「いいけど、それ何時間あるんだ?」
「長編のドラマシリーズだから一時間無いくらいだよ、ちょうど終わる頃にはご飯も炊き上がるね!」
そう言って、再生機器に手早くメディアをセットし終えると、川内はぼすんと男の膝の上に陣取る。
男は後ろから見える川内の細いうなじ。そこから上る優しい香りや、見た目より肉付きのいい体から伝わるどこかやさしい温かさを感じ、まあこういうのも悪くないかなと心の中でつぶやいた。
やがて再生が始まり、簡単な他番組のCMが入った後に本編が始まる。
ドラマの内容は、過去の深海棲艦と艦娘の戦いを描いた戦争ドラマで、起死回生の輸送作戦を決行する為、船に乗り込んだ提督とそれを守る艦娘たちの様子が迫力ある映像で映し出されていた。
ワクワクしながら見ている川内とは対照的に、ボーっと見ている男が口を開く。
「やっぱ川内もこういう戦いがしたかったりするのか?」
ん? といったふうに首だけ男に向けて振り返る川内
「うーん、確かに昔はこういうのに憧れたり、戦いの無い世界に自分が居る意味とか悩んだりとか色々あったけど、今は特にそういうのはないかな。これは単純に面白いから見てるだけな感じ」
「へー、川内でもそんな悩みがあったんだな」
思ったより真面目な返答に少し驚く男に川内が続ける。
「そりゃもう、私だって艦娘だからね。でも私はまだ提督に早くに出会えたから大分とマシな方だよ。提督に出会えなかったりして結構な年までこじらせちゃう艦娘もいるしねー。そうなると結構悲惨。もう仕事だけが生きがいみたいな感じ? 後はなんか結構思いつめちゃったりしたり色々」
「艦娘の権力者が多い理由の一端が、なんとなく分かってしまったな……」
そんな男の呟きには特に答えず、川内はテレビに向き直り鑑賞を再開する。
やがて絶体絶命のピンチをどう切り抜けるのか、というところで物語が終わる。
そして川内がメディアを取り出しケースにしまっていた所で、炊飯器から炊き上がりを知らせる音が響いた。
■□■□■
二人の出会いは珍しい場所といえるかもしれない。
粉雪のまい散る季節、大学受験の試験会場で試験官補助のアルバイトをしていた男は、当時受験生だった川内と出会った。
提督を見つけた川内はその場で、
「せ、川内、参上! 私の提督、ね、私のこと川内って呼んで私を貴方の艦娘にして!!」
と提督の手を握り締めながらやけに熱っぽく色っぽい仕草で、貴方のものになります宣言を大声でしたのである。
ちなみに試験開始の十分前。
一生でお目にかかることがあるかないかの生の『艦名の契り』を聞いて、それはもう会場全体がパニックになった。
黄色い声をあげる受験生、ハンカチを噛む受験生、覚えていた単語を半分くらい忘れた受験生の阿鼻叫喚が響き渡る。
試験官もあまりの事態にパニックになる中、川内の提督だけが冷静に
「試験に関係のないご質問は試験が終わってからお聞きしますので、まずは座って試験を受けてください」
と、ド冷静な対応をした。
あんまりに機械的な対応に会場は静まり返りった、それはあんまりではなかろうかと。
だがそれを指令と受け止めた川内は、もう初めての指令を受けちゃったうれしさで何度も首を縦に振り、キュンキュンな様子で試験に臨み、平均を遥かに超えた点数をたたき出した。
一つ目の試験が終わった直後、川内は直ぐに提督の元に走ると改めて貴方のものになります宣言を懲りずに大声で行った。
「ね、提督! 夜戦(意味深)なら任せておいて! うん、ね、夜戦! そう、夜戦しよ!」
桃色の声をあげる受験生、血涙を流す受験生、覚えていた方程式が恋の方程式に置き換わった受験生の阿鼻叫喚が響き渡る。
試験官もあまりの事態にパニックになる中、川内の提督だけが冷静に
「そうですか、それでは試験に受かったら後輩ですね」
と、的はずれな返答をした。
だがそれを聞いて、川内は次の科目満点をたたき出した。
無事入学を果たした川内の合格発表の時の笑顔は、地方新聞の頭を飾るほど満点の笑顔だった。
■□■□■
「あんときゃそりゃもう、えらいのになつかれちまったなと思ったもんだがなぁ」
「ふぇ?」
おいしそうにケーキをほおばる川内の姿を見ながら、提督がポツリとつぶやく。
川内は頭にはてなマークを一つ浮かべるも、にやりとして言う。
「ふふふー、こんなものを買ってあるとは。提督も中々気がきくねぇ」
食後、二人はコタツに向かい合わせで座りながら、男が冷蔵庫に買っておいてあったケーキを突っついていた。
ちなみに両方ともチョコレートクリームたっぷりのムースケーキ。
川内はおいしそうに食べていたが、男には甘すぎたのか「うぇ」っと顔をしかめてると、立ち上がって台所でコーヒーを淹れはじめた。
「でも提督、甘いもの苦手なのになんで冷蔵庫にケーキなんて有ったの?」
目ざとく見つけて冷蔵庫から引っ張り出したのは誰だよ、と苦笑しながら男は答える。
「お前の誕生日を祝おうと思って買っておいたんだよ」
「ふぇ? 私の誕生日って三ヶ月先……あー、そっかちょうど海外への短期留学の時期とかぶっちゃうんだっけ」
そう言って微妙な顔をしながら川内は頭をかく。
男はその様子を見てやれやれと行った風に、二人分のコーヒーを持って、一つを川内の前においた。
「ほら、誕生日プレゼント」
「え!? このコーヒー誕生日プレゼントなの!? ちょ、ちょっと提督いくらなんでもそれってないよ!」
「うるせー、貧乏学生に高いもんねだってんじゃねえ」
「普通ここはあれでしょあれ、こう帰ったら僕と結婚してくれって感じで指輪とか渡すシーンじゃん?」
身振り手振りの一人二役でロマンチックなシーンを再現する川内、無駄にいい演技だった。
「はいはい、わかったわかった、遺言にかいといてやるよ」
「それ生きてるうちに渡すアイテムなんじゃないのぉ!?」
「お前俺への誕生日プレゼント今年も忍者グッズのつもりだろ、せめてそれ卒業してからだな」
それを聞いて川内は図星を突かれたかのような、とても驚いた顔をした。
■□■□■
「ねー、提督ー」
ケーキを食べ終え、食器の後片付けをしていた川内が男に声をかける。
「なんだー」
男はコタツにひじをついてテレビを見ながら返事をした。
「……あのさ、やっぱ留学についてっていい?」
「……駄目だって言っただろ、一人身の男の所に通うだけでも親御さん随分妥協してくれてるんだろうが。三ヶ月くらいなんだから我慢しろ」
「でも、でもさぁ……」
「どうせ今日も喧嘩して飛び出してきたんだろ、来る分にはかまわないからせめて学校卒業するまでは言う事聞いてやれよ」
「うーーー、なによ提督のケチ! もぅ!」
男の諭すような正論に川内は珍しくプンスカした様子で洗面所に駆け込む。
「ねーーーーーーーーー! 提督! 私の歯ブラシどこーーー!」
も、数秒と経たずに何時もの川内に戻ってしまった。
「窓の所においてある、日光で殺菌しといたぞー」
そんな川内に苦笑しつつも、男はのんびりとした口調で返事をした。
しばらく男がテレビを見ていると、シャコシャコという音が後ろで聞こえてくる。
いつの間にか川内が男の後ろに立って、歯を磨きながらじっと男の姿を見ていた。
男は背中に川内の視線を感じながら、ただ黙ってそうしている彼女になにも言わず、したいようにさせていた。
短い時間だが、長く感じられるその間、やがて川内がポツリと言葉をこぼす。
「……ほんとに帰ってくるよね?」
「……帰って来なかったら新しい提督見つけろ」
その言葉を聞いて川内は普段なら絶対見せない、まるで心臓を鷲掴みにされたかのような表情を浮かべる。
川内が歯ブラシをかみ締める音と、握り締める音がギシリと部屋に響いた。
ほんの少しの沈黙の後、川内は搾り出すように言葉をつむぐ。
「なにそれ、つまんない、二度と言わないで」
そんな川内がこぼした慣れない凄み言葉を聞いて、少しおかしく感じてしまった男がクスリと笑いながら「すまんすまん」と謝罪を述べる。
男には先ほどとは違う、少しだけ温かい沈黙が部屋を包んだように感じられた。
「……ん? あーーーーーーーーーーーー!! 那珂が出てる!!」
しんみりした空気を吹き飛ばすかのような叫びを上げて、川内がテレビにかじりつく。
テレビでは丁度彼女の姉妹艦(実姉妹ではない)である軽巡の艦娘『那珂』が歌番組で歌っていた。
「提督! これ、これ録画どうするの!?」
「そんな便利な機能は無い」(無慈悲)
「えええええええええ!!」
テレビでは今日も那珂ちゃんが百億万ドルの笑顔を振りまいていた。
■□■□■
草木も眠る、うしみつアワー
夜戦バカの血が騒いだのか、突然ベッドから起き上がる川内。
「提督!! 起きて起きて!!」
つよく揺さぶられて、一緒に寝ていた男がだるそうに身を起こした。
「……おい、何時だと思ってんだ」
「提督!! 私この近くにあるラーメン屋に行きたいの思い出した!!」
「二時過ぎてんじゃねえか、開いてるわけ無いだろ……」
男はだるそうに時計を確認するも、川内は荷物の中から取り出したチラシを男の顔に押し付ける。
「大丈夫!! ラーメン屋大湊! ここは五時までやってるみたいだから!! ココ! わかる!?」
「ぁーーー」
パジャマから外着に着替え、男は川内に引きずられるようにして外に出る。
自転車を引っ張り出して、川内を後ろに乗せると眠たい目をこすりながら男はラーメン屋に向かってこぎ出した。
外はすっかり冬の気温で、二人の口から白い息が昇る。
後ろに乗った川内のハイテンションとは正反対の底いテンション
「ラーメン!」
「ねみーよ」
「ラーメン!」
「だりーよ」
十五分ほど自転車で走っていると、深夜だというのにやたら明るい『大湊』と書かれた看板が見えてきた。
男が店の前の駐輪場に自転車を止めると、川内が「ッホ!」っと見事なバク中を決めながら飛び降り着地する。
男はそれを見て苦笑を漏らし「ほら行くぞ」と川内をほうって店に入る。
慌てて川内が男の後を追う。
店内はそこそこ賑わっており、二人はテーブルに座って注文をとりに来た店員にスタンダードなラーメン二つを注文した。
注文してから数分と待たずラーメンが運ばれてくる。
「ヘイッ! ラーメン二つお待ちッス!」
元気な掛け声と共に目の前に出される熱々のラーメン。
深夜だろうとラーメン屋の熱気は衰えることはないと感じられる。
二人は出された割り箸を割ってラーメンを食べ始めた。
「うーーーーーん! おいしい! 美味しいね提督!」
「まぁ、うまいけどさぁ……。寝起きでラーメンはつらいというか、できれば昼に食いたいっていうか……」
「そぉ?」
対極のテンションでラーメンを食べ終えた二人は店を出る。
ラーメン屋のオヤッさんは終始笑顔だった川内を気に入ったのか、餃子のサービス券を付けてくれた。
「おいしかったね、提督!」
「 味 は な 」
男は後ろに川内を乗せ、行きと同じように今度は家に向かって自転車をこぎ出す。
「ねえ提督、また来ようね」
「まぁ昼ならな」
「えへへ、約束だよ」
「へいへい」
約束、約束、とうれしそうに声をあげながら、後ろではしゃいでいる川内。
二人の温かさに嫉妬してか、空からはらはらと粉雪が降り始めていた。
三ヵ月後
「えっ? なにそれどういうこと?」
海外に旅立った自分の提督を見送って三ヶ月たったある日、提督成分の不足で毎日もやもやしていた川内の元に、連絡が入る。
相手は川内と提督が通っている大学の映研の部長で、知らせを聞いた川内は映研の部室を訪れていた。
偶然にもその日は川内の誕生日だった。
「……あいつ、もし自分が死んだら君に渡してくれってこれを」
部長の言葉の意味まったく理解できず、震える手で受け取った手紙を恐る恐る開封する川内。
手紙には海外で病気の治療を受けること、黙っていてすまないという謝罪、川内の幸せを願う言葉がつづられており、テレビの後ろに貼り付けた封筒に誕生日プレゼントを入れておいたという言葉で締めくくられていた。
「あいつずっと闘病してて、それを隠すために俺だけにはそのことを言ってたんだ。あいつ最後まで君と居るための時間を延ばそうとがんばったみたいなんだけど、その、昨日向こうで亡くなったって連絡があったんだ……あいつ、あいつはさ……」
川内は部長の言葉を最後まで聞かずに飛び出した、そして提督の部屋に向かって走る、走る、走る。
「うそだ! うそだ! うそだぁあああッ!」
川内は誰にはばかることなく叫びながら走り続ける。普段の軽快な身のこなしとは程遠い、がむしゃらな走り、何度も転びその度に起き上がる。
まるで動くことをやめてしまったらなにか恐ろしいものに自分が覆われてしまいそうで、その恐怖から逃れるように、助けを求めるように川内は走り続ける、自分の提督が待っているかもしれない彼の家へと。
きっとこれは全部嘘で、自分を驚かせるために提督が仕込んだ悪趣味なサプライズイベントかなにかだ、きっとそうだ、だから確かめなきゃ、提督はきっと今頃家でニヤニヤしながら自分が来るのを待ってるんだ。
こんな悪趣味なことをして、一発ひっぱたいてやらなきゃ気がすまない、でも一発ひっぱたいたらチャンスをあげよう、自分が欲しいものをプレゼントしてくれたなら許してあげよう。
そんな想像を膨らませながら走り続け、やがて提督のアパートに到着する。
階段を駆け上がり、提督の部屋のドアを渡されて、ずっと大事に持っていた合鍵を使い開ける。
「提督お帰り! 馬鹿! 悪趣味だよ!!」
そう悲鳴に近い叫びを上げながら部屋に入るも、そこに人の気配は、自分の提督の気配は……無かった。
恐る恐るテレビの後ろを確認すると、確かに封筒が貼り付けられていて【誕生日おめでとう】と短い言葉がつづられたカードと一緒に、銀色に輝く指輪が入っていた。
『はいはい、わかったわかった、遺言にかいといてやるよ』
昨日のことのように、提督が言っていた言葉が思い浮かぶ。
「なによそれ、ふざけないでよ……なんなのこれ、全然面白くないし、全然うれしくない」
あふれ出た涙が零れ落ち、カードの文字がにじむ。
限界だった、川内は指輪を強く握り締めて絶叫する。
「勝手に死んで勝手に渡してんじゃないわよ! こんなの、こんなの貰っても……提督がいなきゃ……意味、ないじゃない!! ばかあああ!! うわあああ、うわあああああああ!!」
恋愛の終わりは死に別れか生き別れしかないと言った人が居る、だがもし提督と艦娘との関係を恋愛と例えるならば、それは前者の終わりしかありえないのだ。
己の半身ともいえる提督をなくした艦娘の泣き声が、いつまでも部屋に悲しくこだました。
「はい、OKです! これで全てのカットの撮影終了になります!」
「よっしゃー! おわったー!」
川内はクランクアップの宣言を聞くと、先ほどまでの絶叫と涙が嘘だったかのように明るい笑顔を振りまきながら、部屋に居たスタッフに挨拶をしてまわった。
そして最後に監督と【提督役の提督】の元に駆け寄る。
「提督お疲れさま!」
「おう、お疲れ」
駆け寄ってきた川内の頭をワシャワシャと乱暴になでる提督、川内は乱暴なその手つきに嫌がるそぶりも見せず、むしろ嬉そうにされるがままだ。
その様子を見ていた監督が胸焼けしたような表情を浮かべる。
「はいはい、仲がいいのは結構だがね。いちゃつくのはできれば人目の無い所でやってくれませんかねぇ……」
「なによ山田さん、せっかくこんなひどい映画に出てあげてるのにー」
「ひ、ひどいとはひどい! この山田の映画としての監督デビュー作にして魂を削って描いた生涯の傑作。艦娘と提督の出会いと別れを描いたノンフィクション風映画のどこに文句があるというのだ!」
「はははー、私の提督が死ぬなんて脚本持ってきたときはほんと、ほんと……魂を削ってやろうと思っちゃったけどね……」
急に暗い顔になり低い声になった川内に、監督と部屋に居たスタッフたちは「っひ!」と声をあげちびりそうになった。
そんな川内を落ち着かせるように、ぽんぽんと頭をなでる提督。
「まぁまぁ、お前も役者になったんだから忍者以外の役も回してくれる山田に感謝しろって」
「ぶーぶー、それでもこのシナリオはどうかと思うー!」
「そうは言うがな、お前が素人の俺が提督役じゃなきゃ嫌だって駄々こねたからでもあるだろ。俺のシーンが少ないこのシナリオじゃなきゃ絶対無理だ、マジ無理だ」
「あはは、それもそうなんだけどさ」
そう言ってばつが悪そうに頭を搔く川内、そんな川内をやれやれといった風に見ながら、提督の男は川内の左手を掴む。
およ? っとする川内をみてクスリと笑いながら、先ほどスタッフから渡された小道具を川内の指にはめた。
「ほらやるよ、誕生日おめでとう」
「へ?」
信じられないものを見るように薬指にはめられた銀色のリングを見つめる川内、ふと回りを見るといつの間にかカメラが回っていた。
スタッフ一同も皆とんでもなくいい笑顔をしていた。
「えっと、て、提督?」
慣れないことをしてか、それとも別のなにかか、心なしか顔を赤くして目を逸らす提督の姿。
「よう親友、これで独身生活ともおさらばだな! おめでとうチキショウ!」
数秒後、山田監督のその言葉の意味を理解した川内は、うれしさを爆発させ提督の胸に飛び込んだ。
なお、この時の映像は特典として同封され、映画の興行収入も含め戦後史上歴代トップテンに入る売り上げを記録した。
これこそが後年、艦娘を題材に扱えば右に出るものはいないといわれるようになる、艦娘映画界の巨匠、山田監督のデビュー作である。
※本話は『肩幅の未来』作者:やまむらはじめ
という傑作短編漫画の影響をモロに受けています。
が、内容は『All You Need Is Kill』の原作とハリウッド版レベルの違いが……ファンの方すみません。(でもハリウッド版も結構好き)