提督をみつけたら   作:源治

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豚まんを口に突っ込まれる感想のせい。
 


『無職男』と『駆逐艦:磯風』

 

 無職でございま~っす♪

 

 

 …………。

 

 

「だが肉まんが食べたい」

 

 

 季節はもうすっかり冬となり、寒い朝の室内に俺の寝起きの一声が響く。

 朝起きてからの一声がこれとか、わけわからん。

 

 いや、実は予想ならつく。

 今日、口に肉まん(豚まん)を詰め込まれる夢を見たからだろう。

 何故かわからないが無性に肉まんを食った後に烏龍茶も飲みたい気がする。

 

 職は未だ決まらないが、まぁなんとかなるだろう。

 そう何回も不知火にケツを蹴られるわけにもいくまい。

 

 そしてなにより、今の俺はかつてないほどの怒りの炎を湛えている。

 何故ならば、先日学生時代からなにかと縁があった、前島のアホに同情されたからだ。

 

 なにが「再就職先の世話しましょうか?」だ。

 

 その殺し屋みたいなツラを、やたらと光を反射するメガネと一緒に殴りかけたわ。

 

 今の俺ならどこまでも行ける気がする。

 人は怒りだけで動くことのできる生き物なのだろう。

 

 ベッドから起き上がって一服、意識をからにして思考を尖らせる。

 行くか、どうせ今日の予定はなにもないのだ。

 肉まんを食って、その後で河原でも眺めながら一服し、優雅な朝を満喫しよう。

 

 上手くいけば蒸しあがりの豚まんをゲットできるかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無職男』と『駆逐艦:磯風』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「肉まん、おれの、肉まん」

 

 

 とんびに、肉まん、とられた。

 

 

 またかよ、いや、待て待て。

 肉まんを買って、ウッキウッキしながらかぶりつこうとした所を狙われたのはわかるのだ。

 

 問題は走行中の自転車から取られたということだ。

 なんなんだあいつら、トンビの野生なめてたわ。

 

 人類はそろそろ真面目に、奴らとの戦争を決断すべきだろ。

 

 しかし、たっぷりとかけたカラシが辛かったのか、トンビは肉まんを吐き出してた。

 

 見たか、人類をなめるなよ鳥類め。

 後、それちゃんと拾って食えよ。

 

 謎の達成感を胸に、もう一回肉まんを買いに戻ろうと思って自転車をこぎだす。

 そして後ろからの衝撃、トンビにやられたと気がついたのは川に落ちてからだった。

 

 川沿いの細い道を走ってたら見事に落ちた、頭から。

 

 膝程度の深さだったため、溺れるなんてことはなかったが、この寒さの中で川に落ちるというのは控えめにいってなに一つ救いがない。

 

 ……ここ最近の俺の運のわるさは酷いものがある。

 

 なんなんだこの感情は。

 

 そういえば以前に似たような道を前島と並んで自転車で走ってたら、気がつけば隣に前島がいなかったことがあった。

 そして道を戻ると、何故か前島が川に落ちていた。

 あの時の前島のずれたメガネの向こうから、こちらを見る目がやたら面白かったので爆笑したもんだが……

 

 ああ、なるほど、あの時前島が抱いていたのは、こういう感情なのか。

 

 気持ちがきれた。

 今日はもう終わりだ。

 

 テンションがもうピクリともせん。

 

 

「なにをしてるんだ君は?」

 

 

 そんな絶望にくれる俺に声をかける誰か。

 

 見るとやたらとプライドの高そうな顔の、長い黒髪のちっこい少女が俺を見下ろしていた。

 上着は白いコートにマフラーを巻いてるが、下は冬だというのに短い黒のプリーツスカート。

 子供は元気だな。

 

 後どうでもいいけどパンツ見えてんぞ。

 

 いや、しょうがないけど。

 位置的に、俺、川に落ちてるし。

 

「あー、陽炎の縁者の者だな、確か味噌風」

 

「磯風(いそかぜ)だよ……で、もう一度聞くがなにをしてるんだね、君は」

 

 そうだったな確か、うん、いそかぜいそかぜ。

 

「トンビと生死をかけた戦いの結果だよ」

「トンビに負けたのか、君は……」

 

 改めて言葉にすると悲しすぎる、そうだよ、人類は負けたんだ。

 そしてどん底の気分に陥る、どうすんだよこの感情。

 

 人は怒りだけでは生きられないんだぞ。

 

「ああ、もうとにかく。幾らなんでもそのままだと風邪をひいてしまう。すぐ近くだからうちによって服を乾かして行くといい」

 

 まあ確かに、無職状態で風邪とかどう考えても即死コンボである、それはご遠慮願いたい。

 

「お言葉に甘えるか……」

「ふふふ、素直じゃないか」

 

 そう言って磯風はやたら強い力で、俺の手を掴み引っ張り上げてくれる。

 ああ、こういうパターンで手を掴むのでもいいのね、君ら。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「悪いな、そんなものしかなくて」

「いや、十分だよ。それにこれならサイズも気にしなくていいからな」

 

 風呂を借りて、出ると乾燥機に放り込まれた服の代わりに、男物の着物が置かれていた。

 浴衣はともかく、男の着物なんざ初めて着たわ、とりあえず帯は適当に締めたけど意外となんとかなるもんだな。

 

「しかし、古い家だなここ」

「まあ古物商だからな。まず形からということで祖父が古い建築物を真似て建てたらしい。頑丈ではあるのだが、中々手入れが大変なんだ」

 

 こたつに入りながら、こちらに首を思いっきり傾けながら、顔だけ向けて丁寧に説明してくれる磯風。

 ちょいツラそう、なんとか角ってやつか。

 

 しかしそうなると築数十年か、旧時代劇だっけ、その手の番組で見たことがあるような建物だ。

 別にないわけじゃないが、なんせ結構建てるのに金がいるからよほどの見栄の張った金持ちくらいしかチョイスしない建物である。

 

「だけどまぁ、悪くない趣味してるわこれ」

 

 なんというか、紙と布と木のぬくもり、草の香りと柔らかさみたいなのを感じられる。

 さらにこの部屋には無駄なものがなく、ただ木のタンスとコタツがあるだけだ。

 

 あれだ、わびさびってやつだな。

 

「さぁ、突っ立ってないで入るといい、部屋の中といえど少し寒いからな」

「ああ、そうだな」

 

 磯風が座る辺の隣に座る。

 この場所にしたのは単純に、座布団がここに敷かれていたからである。

 

「しかし今日は平日だろ、学校に行かんでもいいのか?」

「……単位はすべて取り終わっている、問題はないさ」

 

 ああ、そういえば内地は単位制も選べる学校があるんだっけか、忘れてたわ。

 

「それに、ここには私一人しか住んでいないから、店番をしなくてはいけないからな。基本的に平日はずっとここにいる」

「え? あ、ああ、そういうことか」

 

 そういうことなんだな、陽炎家族問題。

 迅速に話題を切り替えろ、俺。

 

「しかし古物商なんて儲かるのか? 見た所随分暇そうだが」

 

 ここに入るときに見た綺麗に掃除された店内、この室内もだが。

 だが綺麗と同時に人がいた気配が極端に少なく、お世辞でもお客が多いとは思えない。

 

「よそはどうか知らないが。そうだな、うちは年に二つ三つ売れれば十分食べていけるから問題ない」

「マジかよ、なにそれ羨ましい」

 

 超高等民族じゃん、俺もなろうかな。

 

 そんな俺のアホな思考が漏れてしまったのか、磯風はクスリと笑う。

 

「ただ、いろんな古物に関する知識と資格、親から受け継いだ色んな財産。それ以外にも沢山の目利きの経験が無いと、とてもできるものじゃ無いがな」

「やっぱ人生そう甘く無いか……」

 

 いや、甘く無いっていうか、働けよ俺。

 ふいに、どこか寂しげに磯風が言葉をこぼす。

 

「ほんと、感謝しているのさ。引き取ってくれた両親には……」

 

 ……これは、踏み込む、所なのだろうか、教えろ、前島。

 

 

『行くべきでしょう、少女のためにできることは全てやるべきです』

 

 

 うるさいわ。

 

「あーーーー、なんだ。なんか困ってることとかないか?」

 

 今はこれが精一杯だよチキショウ。(モンキー泥棒感)

 

「ふふふ、なんだ、藪から棒に」

「礼だよ礼。あのままだと風邪ひいて極めて惨めなことになってたからな」

 

 磯風は俺の明け透けなご機嫌伺いを聞いて少し笑ってから、軽く考え込む。

 

「そうだな……そういえば最近雨漏りしていてね。一箇所だけだからどうしたものかと思ってたんだが。少し見てもらえるか?」

 

「雨漏りぃ?」

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 屋根裏部屋に上がり、確認して見たところ、確かに雨がしみているような跡が一箇所。

 おそらく瓦が一枚割れたか、ヒビがいってるなこりゃ。

 

 下に戻り、乾いた服に着替える。

 さすがに着物で屋根に上がるような特殊な訓練はしてないからな。

 

 脚立を借りて二階の窓から屋根に出て、もう一段上の屋根に脚立をハシゴ形状に変えて登る。

 陸屋根とかだと屋上に行くための、ハシゴが付いてたりするから楽なんだが。

 構造的に外気の影響モロに受けるから、暑かったり寒かったりでかなわん。

 

 たまに不知火のジムでボルダリングをやるようになった成果か、前より体が軽い気がするわ。

 

 

 サンキューヌッイ。

 

 

 無事一段上の屋根に登り確認すると、やはり瓦にヒビが入っていた。

 が、そう大きなものでも無い。

 セメントボンドで固めりゃ問題ないだろう。

 

 心配そうに二階の窓から、こちらを見ている磯風の所に戻る。

 

「セメントボンドあるか?」

「セメントボンド? なんだそれは?」

 

 まあ、あるわけないですよな。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 そんなわけで買いに行くことにした。

 目指すは少し離れた商店街にある工務用品店。

 

「家で待っててもよかったんだぞ?」

「まあいいじゃないか、どうせ暇なんだ」

 

 自転車を漕ぐ俺、荷台に座って俺の腰に手を回す磯風。

 なんなんだ、女の子を後ろに乗せて自転車で走るってお前、なんかの青春映画かよ。

 

「店番はどうした、店番は……」

「なに、誰か来たら耳をすませば店のベルが聞こえるさ」

 

 おいバカやめろ、あとんなわけあるかい。

 

 途中軽い坂道を越えて、長い坂を下り降りた、びびったわけじゃないが怖かったので強ブレーキをかけながら安全運転で。

 

 無事目的地の商店街にある工務用品店に到着する。

 

 だがお目当てのものが、馬鹿でかい業務用のセメントボンドしかなかった。

 まあ普通そうだけどさ。

 

 仕方ないので一番小さい(2キロ)のを買う。

 どんなに頑張っても瓦一枚の補修に2キロとか絶対使わんけどな。

 

 磯風が料金を払おうとしたが、ここで払わせたら礼にならんからと断る。

 プライドがあるのだよ。

 

 くそぅ、でも2キロもいらねえ……

 

 帰り道の寒空の下、重量が増えた自転車を、白い息を吐きながら漕ぐ。

 なにが楽しいのか、磯風は歌なんぞ歌ってる。

 

 いい声だし、うまいな。

 コン○リートロードはどうかと思うが。

 

「グォ、坂道かよ……」

「降りようか?」

 

 うるせえ、大人をなめるな。

 俺は無言でペダルを踏み込む。

 

 んがががが、来るときは楽だったが、意外ときついなこの坂道。

 ゼエゼエと荒い息を吐きながら、汗だくになって自転車を漕ぐ俺。

 

 残り三割というところで、ふとペダルが軽くなる、遅れてさらに軽く。

 後ろを見ると磯風が黙ってグイグイ後ろから自転車を押していた。

 

「ぜえぜえ、おい、余計なこと……」

「この磯風をなめるな!!」

 

 おうおう、余計な気を使いやがってじゃりんこが。

 くそぅ、だが今はその好意がありがたい。

 

 やがて坂を登りきり、磯風が再び荷台に飛び乗った。

 荷台に足を乗せて直立して、俺の肩をつかむ。

 

 立ち乗りってやつだな。

 

 坂道を下り始めると火照った体に当たる風が気持ちよくて、つい加速加速加速。

 あと何故か無駄に楽しくてノーブレーキ。

 

 やべえ、テンション上がって来たわこれ。

 

 

「コン○リートローッド!」

「進もう!!」

 

 

 二人で謎の叫びを上げながら駆け下りる。

 速度が上がるにつれアドレナリンドがブリブリ噴出してきた。

 今ならなんだってできる気がする!!

 

 

「はーっはっはっは! 今ならトンビにだって勝てそうだ!」

「大丈夫、今度は……私が護ってあげる」

 

 

 耳元でささやいてくる磯風、やかましいわじゃりん子が。

 でもなんかちょっと楽しいなおい。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「よし、まあこんなもんでいいだろう」

 

 屋根の修理を無事に終えて、磯風の元に戻る。

 

「ありがとう、助かったよ。しかし器用なものだな、屋根の修理ができるなんて」

「まぁ内地に来る前は、食える仕事で食って来たらな」

 

 貧乏学生時代のなんでも屋バイト生活の日々を思い出す、ちなみに会社はブラックだった。

 でもいろんな仕事せにゃならんおかげで、資格無駄に増えた。

 今思えば感謝すべきだったか。

 

 辞めるとき社長に二発ラリアットぶち込んだけど、一発にすればよかったな。

 

「ふふふ、いやいや。素敵なものだよ。待っててくれ、風呂でも沸かそう、汗をかいただろう」

「おーありがたい。頼むわ」

 

 鼻歌を歌いながら下に降りていく磯風。

 脚立と道具を片付けて、下に降りようとするが、ふと壁にかかった一枚の写真が目に入る。

 

 優しそうな老夫婦、その二人に挟まれ二人と手を繋ぎながら、どこか照れたような顔をしている磯風が写っていた。

 

 なんだ、少なくともここでは幸せだったみたいだな。

 写真一枚でわかることでもないだろうが、なんとなく、そう感じた。

 

 

 下に降りると、磯風がどこかに電話をかけていた。

 

 

「うん、至急頼むよ。一番高いのを。え? うちは弁当屋じゃない? そうか、ならいいんだ。いやいや、別になにも怪しくは無いさ。うん、私が料理が苦手なのは知っているだろう? 別に食べられなくはないだろうけどそんなものを『あの人』に食べさせるわけにはいかないじゃないか。うん? 誰かって? 私たちがよく知っていて、私が家にあげるのを躊躇しない男っていったらそんなの……ああ、すぐ用意して来る? うん、悪いよ、それによく考えたら君の所の料理は高いじゃないか、え? もちろんタダでいい? そこまで言うんだったらしょうがないかな、うん、ならいいよ、うちに持って来ても。……ふふふ、じゃあよろしく」

 

 

 ………………。

 

 

 多分聞いてはいけないことを聞いてしまった気もしなくもない、ので、俺はそのままそっと風呂に向かった、風呂はすでに用意ができていた。

 

 おそらく俺が作業を始める前から準備してくれていたのだろう、いい手際だ。

 

 と、思って体を洗おうとしたが、ちょうど石鹸が切れていた。

 

 うーむ、別に構わんといえば構わんのだが、磯風の感じ的に後で石鹸が切れていたと知り、不手際と感じて落ち込んでしまうようなビジョンが浮かんだ。

 

 ここは今ないから持って来てくれと言うべきだろう。

 しょうがない。

 

「おーい磯風!! 石鹸切れてるから持って来てくれ!!」

 

『……ああ、いいだろう…この磯風に任せろ提督!!』

 

 しばらく間を置いて、やたら気合の入った返事が返って来る。

 

 どうやら陽炎姉妹の間では俺のことを提督と呼ぶのが流行っているらしい。

 

 別にいいけどな、ちきしょう。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 腰にタオル巻いた俺に石鹸を渡し、磯風は赤い顔してコタツの部屋に帰って行った。

 

 ははは、純情ガールめ。

 

 ピカピカに体を洗い終え、風呂から上がると、前と同じく用意されていた着物に着替える。

 ホカホカしながらコタツの部屋に行くと磯風の姿がなかった。

 

 しょうがないのでよっこらせっくすと言いながら、座ってコタツに足を突っ込む。

 しばらくして、磯風が飲み物を盆に載せて部屋に入って来た。

 

「よかったらどうだい、りんごジュースだ。この前の野球の時に提督にもらって美味しかったからね。自分でも買って来たんだ」

「お、悪いな」

 

 俺の前にリンゴジュースの入ったグラスを置くと、磯風はなにをトチ狂ったのか、俺の膝の上に乗って座った。

 止める間もなく、そのままコタツに足を突っ込む、お香の香りがわずかに髪から漂って来た、線香かなにかの匂いだろうか。

 

 なんて考えてると、磯風はさらに俺の胸に背中を預け、体重をかけて来る。

 ガキンチョかと思ったらちゃんとつくところには肉がついてるんだな、後体温が地味に高い気がする、着物の布が薄くて柔らかいからよくわかるわ。

 

「おい、重い、離れぬか」

「ふふふ、いいじゃないか。あたたかくするのに越したことはないだろ?」

 

 まあそうだが、いや、親父が恋しいのかもしれんな、しょうがあるまい。

 俺は諦めてリンゴジュースを飲む。

 

 テレビもなにもない部屋、することといったらコタツに座りながら、のんびりと窓の外に広がる庭を眺める位しかない。

 ……なるほど、この位置に座るとちょうど真正面に庭が見れるのな。

 

「いい庭じゃないか、この庭見てるとお前を引き取ってくれた両親はいい人たちだったんだってわかるわ」

「……そうだね、とてもいい人たちだったよ」

 

 すっと、磯風は先ほど押し込んで来るような体重の預け方ではなく、力を抜くように俺に体重を預けて来る。

 

「今から話すのは独り言だから、提督はなにも言わなくていい」

「……」

 

「私の生まれは外地でね、ただ、そのなんだ、両親は私のこの赤い目を見て私を育てることを諦めたらしい。特に記憶があるわけじゃないがなにか迷惑をかけてしまったという思いはずっとあった。だがその時の私にはどうしようもなくて、私は内地のとある施設に送られてそこで育った」

 

 赤い目か、なんだっけか、時々遺伝子の悪戯でそういう目やおかしな髪の色の人間が生まれるとは聞いたことがあるが。

 まああれか、色々と疑っちまうだろうな両親は、色々。

 

「で、ある程度育って子供の居ない夫婦の養子としてここに引き取られた。ここに来てからは結構楽しい日々だったよ、大事にしてくれたし、陽炎たちも居たからな」

 

 もしかして俺の思い違いで陽炎たちって、血ではなく絆で繋がった家族とかいうやつか?

 

 おう、だとしたらそれを束ねる陽炎すげえな、ちょっと尊敬するわ。

 

「生みの親のことはまぁ、正直もういいんだ、それよりも育ててくれた両親のために時間を使いたかったからね。あまり長くは一緒に居られなかったけど、色々お返しはできたと思うよ」

 

 偉いもんだな、立派だわ磯風。

 俺はなにも言わず、優しく磯風の頭をなでてやった。

 

 しばらく庭を見ながらそうする。

 

「一つだけ心残りがあったな、そういえば」

「ん、なんだそれ?」

 

 ググッと、前に体を向けながら首を傾けて俺の顔を覗き込んで来る磯風。

 お前それ、首痛くないのか。

 

「孫の顔を、見せられなかったことだ」

「あー、それは残念だが。将来墓前で未来の旦那と一緒に見せてやっても、いいんじゃないかね」

 

 磯風は、くるりと体を俺のほうに向け座りなおす。

 そしてなぜか顔を真っ赤にしながら、こちらを見つめてきた。

 

「な、ならどうだい、ここは一つ夫役として子作りに協力してくれないか? なに、別に責任を取れなんて言わない。す、好きに手を出してくれていいんだぞ?」

 

 凄いことを言いながら、やたらと熱っぽい視線でこちらを見て来る磯風。

 え、なに、俺こういうときどんなことをすればいいのか、わからないの。

 

 

『笑って残りの人生捧げればいいと思うよ』(血涙)

 

 

 うるさいわ前島、呼んでねーよ。

 あとキャラ崩れてんぞ。

 

 

「アホか、犬猫じゃあるまいしそんなぽいぽい作れるかい」

 

「にゃ、にゃーん」

 

 

 アホがいた、俺の膝に座っとった。

 恥ずかしそうにしながら、猫のようにこちらに体をすり寄せて来る磯風。

 

「恥ずかしいならやるなよ!?」

 

 だが、せっかくだし猫みたいに扱ってやろうと、磯風の頭をわしゃわしゃと撫でたり、ほっぺた引っ張ったりしながら戯れてたら、

 

 誰かが部屋に入って来る気配。

 

 

「いやー、参った参った。なんか上がやたらピリピリしててさー、もしかしたら戦争に……」

 

 

 黒スーツに黒シャツに黒ネクタイ、ヤクザみたいな服を着た陽炎が入って来る。

 そして俺たちを見て固まった。

 

「な、な、な、な、な……なにやってんの磯風ーーーーーーー!!!!!」

 

 うるせえ。

 

 つか、なんだ、やっぱこうやって気楽に来れるような関係なのか、君たち。

 

 なぜか死ぬほどテンパった様子で、早口にまくし立てて来る陽炎。

 

「あ、あ、あ、あんたもしかして、それ、は、挿入(はい)ってるの?」

「あ? 見りゃワカンだろ、(コタツに)入ってるよ」

 

 磯風に代わって答えてやった。

 一方の磯風はなにも言わず、やたらニヤニヤしてる。

 

 

「ぎゃあああああああああああ!!」

 

 

 ツインテールをグワングワンと振り回しながら、頭を抱えてシェイクする陽炎。

 うお、なんだそれ、面白いな。

 

 

「んだよ、そんなに叫ぶならお前も入ればいいだろうが」

 

「え……?」

 

 

 すっと、磯風が俺の膝の片側に移動する、いや、そこまで移動するなら降りろよ。

 磯風はちょいちょいと陽炎に手招きをして、俺の空いた片方の膝を指す。

 

 

「ゴクリ」

 

 

 なんか陽炎は真っ赤な顔をしながら、すすすすす、っとやって来て、止める間もなくちょこんと座った。

 

 重いんだが。

 

「ふ、ふふふ、ふふふふ」

「どうだい、いいものだろ?」

 

 いいものじゃねえ、降りろ、重いだろが。

 

「うん、悪くない、むしろ最高かも」

 

 お前もかブルータス。

 つーかなにバカなこと言ってんだ陽炎、さっきの俺の尊敬返せよ。

 

「あのなぁ、お前らどうでもいいからはよおり……」

 

 

「持って来たで!! ってええええええ!!!!」

 

 

 俺の抗議を遮るように今度は、着物姿の黒潮が重箱抱えて部屋に入って来る。

 

「なんで重箱をもってんだよ……」

 

 って初めて言ったわ人生で。

 それとなんだ、その旅館の女将さんみたいな格好。

 

 あとお前もうるさい。

 

「黒潮も」

「どう?」

 

 そう言って左右に分かれて俺の正面に、空間を開ける陽炎と磯風。

 

「ゴクリ……」

 

 

 ゴクリ、じゃ、ないがぁ。

 

 

 重箱を置いてジリジリとやって来る黒潮。

 

「おい、ま……」

 

 言い終わるよりも早く、黒潮が俺に向かってダイブして来た。

 着物着ながら、ようやるわぃ……

 

 やりきれん気持ちを抱えながら、ジャりんこに絡まれるのを我慢する俺。

 だがさすがに三人は重い。

 

 おまけに犬猫みたいにじゃれついてきて暑苦しい。

 

 

「んがー!! いい加減に退けー!!」

 

 

 さすがに我慢ならず、立ち上がる。

 それでも離れずにしがみついてる三人、おいやめろ、腰にくるだろ。

 

 さすがにそろそろタバコが吸いたくなったが、濡れてダメになったんだった。

 

 あーちくしょう、なんかしらんがタバコは食欲のようなものだ。

 

 って言葉を思いついた。

 意味は多分あれだ。

 

 俺朝からリンゴジュースしか飲んでない。

 なのに現在進行形で重労働しすぎだってことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ - 陽炎会議録NO.2 -

 

 

 薄暗い部屋、円卓を囲む二十人近い少女らしい者たちがいた。

 

 らしいというのは、何故か全員顔を隠すための尖った白い被り物をかぶっていて、その顔がよくわからないからだ。

 そして被り物の額部分にはそれぞれ番号が振ってある。

 

「はい、というわけで『陽炎型提督適性者出現☆』という未曾有の事態に当たり必死で考えた、前回決まった決まりをおさらいしまーす」

 

 その中で『1』と額に書かれた数字の被り物をかぶった少女がホワイトボードに、すらすらスラーともじを書き込む。

 

①抜け駆け禁止、ただし偶然の出会いはOK

②ひとまず艦娘ということは伏せる、理由は今日

③提督適性者免許はまだ取らせない、理由は後日

④提督の情報は必ず共有、なにかあれば直ぐに対応、理由は当然だから

⑤二人だけの状況で名前を呼んでもらえるまで、提督を提督と呼ばない。理由はわかれ

 

 

「①は当然ながら私たち姉妹全員に言い寄られたら絶対提督がてんぱってとんでもないことになるから、それはいいわよね?」

 

 同意を示すメンバーたち、当然である。

 もしせっかく見つけた自分たちの提督になにかあれば一大事だ、おまけにもし恐れられでもして逃げられてしまえば目も当てられない。

 

「じゃあ今日はこの②の項目について話します、これについてはずばり、子ども扱いしてもらえるから!!」

 

 ドドーンと擬音が響きそうなポーズを決めながら『1』の少女が宣言する。

 しかし、メンバーのほとんどは理由がわからず首をかしげている。

 

「理由を説明します、NO2、貴方が経験した、ずばりの結論を言ってください」

 

 っすと、NO2と呼ばれた少女が立ち上がる。

 

「子ども扱いしてもらえるということはつまり、ある程度のスキンシップをしても多めに見てもらえます、ええ、抱きついたりしても平気です」

 

 ざわつく室内、なるほど、と、同意する声も聞こえてくる。

 

「おまけに、頭をなでてもらえる、食事をおごってもらえるなどのメリットもあります。もし私たちの正体がわかればこれらの行為を受けられなくなる可能性があります。つまり今しかできない、そういうものだと思ってください」

 

 頭をなでてもらえる、だ……と……?

 

 室内のざわつきが更に大きくなる。

 ざわ……ざわ……

 

「むしろ、私たちの正体や年齢がわかればそれらの対応を取ってもらえず、ふつーーーーーに、年相応として扱われてしまう可能性が極めて高いです、それでもいいと思う?」

 

 メンバー全員が頭の中で色々妄想した。

 

 そして、ほぼ同時に②に関して全員、同意の意味をこめて

 

「「「異議なし」」」

 

 薄暗い室内にその声はとてもよく響いた。

 

 

 

 - 陽炎会議録NO.3 - に続く。

 

 

 




磯風を自転車の後ろにのせて
坂道を駆け上がりたいだけの人生だった。


※感想を書いてくださった人たちは書き込んだ感想が容赦なく本作に組み込まれいるというか、吸収されてるのをそろそろ自覚すべき。
もらったものはオレノモノー!!(ありがとうございます)
 

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