提督をみつけたら   作:源治

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明けましておめでとうございます。(二月)
今年一発目は初心に返ってライトなラブコメをチョイス。
 


『三文小説家』と『駆逐艦:朝霜』

 

「世界は私を拒絶しているのだ」

 

 この世すべてを憎むかのような、重い声で男が呟いた。

 

 ここはアンティークな雰囲気あふれる小さな喫茶店『frost』。

 場所はオフィス街と住宅街の中間に建っており、おいしいコーヒーをいれてくれると評判の、小さくて威勢のいい艦娘のマスターが営んでいた。

 

 その喫茶店のカウンター席に項垂れながら座るのは、先ほど重い言葉を呟いた陰気な空気をまき散らす三十代程度の見た目の男。

 無精ひげを生やし、ぼさぼさに伸ばした天然パーマのウェーブの掛かったワカメ頭で、くたびれたシャツとズボンでサンダルを履いた姿は、とてもまともな成人男性には見えない。

 

「そりゃたいへんだねぇ。あっ提督、コーヒーのおかわりいるか?」

「……もらう」

 

 そしてカウンターを挟んでその向かいに居るのは、膝まで届くほどの長い灰色の髪を後ろでくくった、背の低い少女。

 男とは対照的に、生気があふれて自信のみなぎった表情で、生意気でやんちゃ盛りの元気いっぱいの雰囲気を全身から放っている。

 

 だが、バリスタの服を着こなして、空になった男のカップにコーヒーを入れる様子は、とても手慣れていて無駄の無い動きだ。

 

 彼女こそがこの店のオーナーで噂のマスターである、駆逐艦の艦娘『朝霜』だ。

 

「死んでいるのは誰だ? 生きているのは誰だ? 私は? 私はどうなのだ? 生と死は紙を表裏に割くことができないように同じ一つの構成体で、それがもしかしたら世界を構成している極めて重要なファクターでありうるかもしれないという、極めてライトなテーマであるのに。あの出版社は私から解き放たれる言葉の力を恐れるが故に、私の小説を読まずに破棄しているに違いない。でなければおかしいのだ、今年も落選するなんて……。私の言葉の力など大戦前の過去の文豪たちに比べればそう珍しいものでは無いというのに、彼らはなにを恐れて……」

 

「まぁ提督の書く文学小説? 内容がえぐいしくれーし、よくワカンネーかんな。残念だけど時代にあわねえ以上当然じゃね?」

 

 朝霜の飾らないストレートな言葉が突き刺さり、男はカウンターに突っ伏す。

 なるほど、確かに言葉は時に質量を凌駕した、恐るるに足る力を持つようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『三文小説家』と『駆逐艦:朝霜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この男と朝霜、一応は提督と艦娘という関係であり、役所にも登録済みである。

 だが、基本的には喫茶店に入り浸る客と、仲のいい喫茶店のマスターといった間柄だった。

 

 男が客としてこの喫茶店に訪れて出会った時は、さすがに固まってしまった朝霜だったが、すぐに何事も無かったかのように、

 

「おぅ~いらっしゃい提督」

 

 と、ごくごく自然に挨拶し、帰るときも

 

「また来てくれよな提督」

 

 と、さらりと見送った。

 喫茶店のマスターとしての矜持だったのか、それとも『朝霜』としてのカラッとした気性なのかは解らない。

 

 ただ、その雰囲気に居心地のよさを感じた男は、それ以来毎日この喫茶店に足を運んでいた。

 そして長時間居座ってはブツブツと陰気を放出したり、執筆作業をしたりしていた。

 というか一日の半分以上をこの喫茶店で過ごすこともある、ほぼ仕事場だ。

 

 ぶっちゃけ営業妨害スレスレである。

 でも朝霜的にはバッチ恋である。(not誤字)

 

「別に意図して暗い話を書いているわけでは無い、だが、確かに書き終えてみればその暗さは形となってそこにあった。確かにあれは私が生きてきて感じてきたすべての闇をすべて集めてたものより、なお暗い物だとさえいえる。闇が五臓六腑に染み渡るかのような暗さでありそれらは力となって審査員を……ブツブツ」

 

 この男、かれこれ十年以上小説を書いては有名な賞へ投稿しているのだが、佳作にすら引っかかったことが無く、当然世に出た本はまだ無い。

 あれ、そう考えると三文小説家かどうかすら怪しいのでは?

 

 ……話を戻すと落選の理由は暗いから、これに尽きるだろう。

 

 この男の書く話は人間の業の深さを浮かび上がらせるようなものだったり、他者から見ると不愉快極まる人間のエゴ、そして反吐が出るような悪意の塊など、それはもうこの世すべての闇を集めたかのような暗さであり、読後感が悪く、とにかく暗い気持ちにさせられてしまう。

 一部審査員には「いったいどんな人生を送ればこんなものが書けるのだ」と、思わず言葉をこぼしてしまうほどのおぞましさ。

 

 なので意を決して明るいテーマ(自己基準)で書いてみたこともあったが、描写の手法、単語の選び方、主人公がどういう場所を見ているのかなどの視点の選定等々の様々な理由のためか、どれも得体の知れない謎の暗さが付きまとう作品が出来上がってしまったのだった。

 

 当然今年応募した大きな賞も、悲しい結果に終わっていた。

 

「ま、書き続けるっきゃないね! それよりもさ、ほら、アレどうなった?」

 

 カウンター越しに身を乗り出し、鼻がぶつかるような近さまで顔を寄せる朝霜。

 

「……持ってきてある、言っておくがこれを手に入れるため私がどれだけ恥ずかしい思いをだな」

「ああもうそんなのいいからさ、ほら、はやくはやく」

 

 熱のこもった目の朝霜に急かされてしまい、やりきれないような表情で男がリュックから細長い箱を“二つ”取り出す。

 

 パッケージには『黒のシュバルツ46センチ砲ロッド!!』と、なんか意味がかぶってたり物騒な内容の文字が大きく書かれており、黒いゴスロリの衣装をまとったアダルティーで大柄な女性が、黒い筒状のステッキのような物を持ち、長い黒髪のポニーテールを揺らしながらポーズを決めた絵がプリントされていた。

 

「おー! たすかるよ! これであいつも喜ぶぜ!」

「山程ある商品サンプルの貰い物だからそれはいいのだが、何故同じものを二本なのだ?」

 

 慌てて取り繕うように理由を答える朝霜。

 

「そ、それはほら、に、二刀流!!」

「魔法のステッキ二刀流、そういうのもあるのか。成る程解からん。解らんが今度そのアイデア使ってみよう」

 

 実はこの男、本業は文学小説家(と名乗ってる)だが、副業は脚本家である。

 特に戦隊物や魔法少女物(実写、アニメ問わず)はいくつもヒット作を書いており、五年以上もシリーズを変えて愛されているタイトル等も手がけていた。

 

 先ほど朝霜に渡した『黒のシュバルツ46センチ砲ロッド!!』は、この男の最新作である『魔法少女マジカルキヨシー』という、艦娘が主役の実写ドラマで使われているアイテムである。

 

『魔法少女マジカルキヨシー』は、戦艦になるのを夢見る駆逐艦の艦娘『清霜』が、ある日現れた妖精さんと契約して、魔法の力で魔道戦艦ヤマトに変身し、悪の組織と戦うストーリーだ。

 

 そしてこの作品、社会現象になるレベルで受けた。

 大きなお友達から小さなお友達、さらには世界中の艦娘にもバカ受けである。

 

 例に漏れず朝霜の艦娘としての妹(遠縁の子供)である駆逐艦の清霜(テレビに出てる清霜役の俳優とは別人)も熱烈なファンで、放送が始まってからは毎日マジカルキヨシーごっこで遊ぶ日々。

 先日訪れた時などは「マジカルトカレフ徹甲弾! 魔法の46センチ砲で大本営だってやっつけちゃいます!」といいながら布団叩きを振り回して遊んでいる清霜の姿。

 朝霜はその様子を見てしまい、なんとか本物を買ってあげたいと思ってしまった。

 

 しかしこのおもちゃ大人気で、どこの店を回っても売り切れで手に入らない。

 困り果てた朝霜がどうしたものかと思いながら提督に相談したところ、こうしてあっさり手に入れてきてくれたのであった。

 

 素の状態が状態なのでわかりにくいが、実は朝霜さっきから胸がきゅんきゅんである。

 色々なきゅんきゅんが混在してるが、そのうちの一つは直ぐにでも帰って二つあるうちの一つの箱を開けて、確認したい(遊びたい)感じのきゅんきゅんである。

 

 朝霜の年齢?

 

 ……しかし件の脚本家であるこの男は、理解不能といった表情の不満顔。

 

「あんな話のなにがおもしろいのやら……」

「いや、おもしれーだろ。この前の悪堕ち戦艦ムサシが味方になった話なんか、マジで震えたぜ」

 

 朝霜が言う、放送時間帯の最高視聴率を叩き出した回である『悪堕ち戦艦ムサシ、抜錨!』は、この喫茶店で考え事をしながら手癖で書き殴って、二時間で書き上げたものだった。

 にもかかわらず関係者一同は、渡された脚本を見て絶賛した。 

 あと特別報酬も貰えて、一話分の脚本だけでサラリーマンの平均月収三ヶ月分くらい貰った、時給換算するとやばいので考えたくなかった。

 

 男はちょっと泣いた。

 

 何故脚本として書いた場合だと普通におもしろくなるのかは、本人にもよくわかっていない。

 憂さ晴らしにとにかく下らないものを書いてやろうと思いながら書いたら、何故か普通に評価されてしまったからだ。

 地の文が少ない脚本だからこそ、男の暗さもスパイス程度になってるのかもしれない。

 

 それ以来仕事できた脚本は、男にとって下らないと思う基準で書くという方法で書いている。

 そんな器用なことができるならと思うが、なまじ書きたいものをしっかりと持っているだけにたちが悪い、男はとても頑固だった。

 

 頑固だけどへんに器用で凝り性でもあったので、基本的には脚本もちゃんとクライアントの意向は聞いて、必要なことはきちんと調べて書いてた。

 

 そんなわけか、なまじ技術も才能もあるせいで、ずるずるとあきらめられず自分の書きたいものを書きつつも、仕事として脚本を書き続けるサイクルが出来上がってしまっていた。

 

 それもまた男を苦しめている要因なのかもしれない。

 

 補足すると小説家としてのペンネームと、脚本家としてのペンネームは別にしているので、周りからは普通に脚本家としてしか認識されていない。

 

「そもそもマジカルキヨシーは深夜枠でひっそりやるはずだったのに。艦娘をメインにした作品を作らせたら右に出る者が居ないとかいう監督(山田監督)がしゃしゃり出てきて、全力で予算確保したせいでこんなことに……」

 

 

『山田監督伝説 マーケティング編』

・昼休みに出かけて、帰ってきたら企業とスポンサー契約を締結していた。

・一部に本物の艦娘を使えないかと提案、ジョークまで優秀だと笑われる。

・次の日、艦連基地に突撃して十二時間に及ぶ交渉の末、協力を取り付た。

・ついでに艦連関係の企業とスポンサー契約と全面協力も取り付けていた。

・局の責任者が泣いて感謝した、感謝の最中にもスポンサーと契約を締結。

 

 

「なぁ、なんで提督はマジカルキヨシーみたいな感じで、その文学小説をかかねーんだ?」

「その感じで書いたならばそれはもはや私の目指す物、書きたい物では無くなるのだ……」

 

 そう呟いて、男はまたブツブツと陰気を放出しだした。

 

 その様子をみて朝霜はやれやれ、といった風に一つため息を吐くと、なにも言わずにサイフォンを使用してコーヒーを作り始める。

 

 サイフォンを使用して作るコーヒーは作る手間も、器具の手入れにも手間が掛かるため、よほどこだわりが無いと喫茶店で作るのには、利益率や回転率の関係から向かないとされている。

(※場合によります)

 だが朝霜の店では豆と客の好みによって、ペーパードリップ式と使い分けるために専用の器具が設置されていた。

 

「……人はなにかを恐れるとき、そのなにかが自分とは関わりの無いものにしておくために遠ざける。その行為と向き合うために取り入れた要素が万人に受け入れられないなら、直接的な表現を避け湾曲的な表現に変えることによってその忌避性を抑える必要がある、だがそれでは私の表現したいことをぼけさせてしまうのなら、いっそ環境を変えることによって逆に性質の変化を誘発し……ブツブツ」

 

 男の陰気が成熟して発酵し始めたとき、店の入り口のドアが開いてベルが鳴り、ちゃらい雰囲気を出した茶髪でスーツ姿の男が入ってくる。

 

「あっ、先生こちらにいらしたんですね! いやー、探しましたよ」

 

 朝霜が少し眉をひそめ、入ってきた茶髪の男に背を向ける。

 茶髪の男は朝霜の様子を気にもとめずに、男の隣に座った。

 

「……なにか用か、次の締め切りはまだ先だろう」

「やだなぁ、用が無きゃこんな所まで来ませんよ、今日は新しい仕事を持ってきました!」

 

 茶髪の男は時々仕事を依頼してくる、クライアントの一人だ。

 正直男にとってはありがたい存在でもあるが、基本的な気質が合わず、業界人特有の失礼な押しの強さもあって、正直付き合うのが億劫な相手でもあった。

 

 そんな男の気持ちなど知らぬといわんばかりに、クライアントの男はクリップにとめられた資料を鞄から取り出す。

 

「艦娘のOLが主人公の恋愛ドラマの脚本を、書いてほしいって仕事がありまして。先生に是非書いてほしいんですよ。例の山田監督、他の人の書いた脚本持って行ったら、気に入らないってへそ曲げちゃって……」

「これ以上仕事は増やさない、そう言ったはずだ」

 

「えー、でも先生スケジュールには空きあるでしょ? 執筆速度すごく速いですし、もっと仕事を増やしても大丈夫だと思いますよ」

「小説を書く時間が必要なのだ。だから仕事はこれ以上増やさない」

 

 その言葉を聞いてクライアントの男が、頭にクエッションマークを浮かべたような顔になる。

 

「え、先生の小説って以前見せていただいた、あの醜悪なギャグみたいなやつですか? アレって罰ゲーム用かなんかのやつでしょ、趣味で楽しむならいいですけど、あんなのいくら書いたってお金になりませんよぉ」

「……私がなにを書こうと勝手だろう」

 

 クライアントの男がケラケラと「冗談きついですよー」と笑う。

 

「いやいや、あんなドス暗いのじゃなくて、先生が今まで書かれてきた脚本の、あの感じのやつこそ世間が求めてるものなんですよ。ねえマスターからもなんとか言ってやってくださいよ、マスターも艦娘なら見てみたいですよね? 艦娘のOLが主人公の、恋愛ドラマ」

 

 朝霜は拭いてたグラスを置きながら、クライアントの男をにらみつける。

 グラスを置いた音は、やたら重く響いて聞こえた。

 

「……くさいね」

「え?」

 

 ぞっとするような冷たい目をした朝霜の視線を受けて、たじろぐクライアントの男。

 

「あんたが付けてる香水、コーヒーの香りを駄目にしちまう。悪いけど出てってくれるかい?」

「いや、いくらなんでもそれは失礼じゃ……っひ!?」

 

 さらに冷たさの増す凍るような視線、その視線が自分の喉に向いてるのに気がつくクライアントの男。

 朝霜が浮かべた愛想笑いでわずかに開いた口から覗く鋭い歯、本能的に首を咬みちぎられる恐怖を感じたクライアントの男は「か、考えておいてくださいね」と言い残して慌てて店を出て行った。

 

「ごめんな提督、他のお客さんの迷惑になるんで、追い出させてもらったよ」

「……ああ」

 

 男の返事を聞いて、他の客なんて居ない店内を見渡し、朝霜は再びコップを磨き始めた。

 サイフォンのフラスコの中の水が沸騰するコポコポという音と、朝霜がコップを磨く音しかしない、静かな時間が流れる。

 

「……朝霜」

「ん、どうしたんだい?」

 

 ひどく打ちのめされたような表情を浮かべ、男が朝霜に聞く。

 

「私の小説は、未来永劫誰にも評価されないのだろうか……」

 

 磨いていたグラスを棚にしまい、手を拭き終えると朝霜は目をつむった。

 そして片方の手を胸に当て、片方の手を空に掲げながらゆっくりと語り出す。

 

 

 

 世界のあらゆる物は私には価値が無いのです。

 

 価値が無い物は無いということと同じなのです。

 すなわちこの世界のあらゆる物は無いのです。

 無いというのは存在しないということなのです。

 

 つまりはなにも無い無窮の世界がここなのです。

 この世界では私すら無価値な物でありました。

 

 なにも無いはずの世界でそれは有りました。

 恐らくそれは別の世界だと思われました。

 私はそっと別の世界を抱きしめてました。

 

 世界はここにありました。

 世界はここにおりました。

 

 

 

 今回落選した賞に男が応募した作品、その中の一節を暗唱し終えた朝霜がゆっくりと目を開く。

 

「提督の書く話、内容がえぐいしくれーし、よくワカンネーけどさ、あたいは好きだぜ」

 

 投稿する前に朝霜に見せたのは、ほんの一日。

 にもかかわらず穴が開きそうなほど、何度も朝霜はその話を読み返していた。

 

「普通に生きてれば目にしないし、目にしちまっても関わりたくないもの。それを目にすると不安で不安でしょうがなくなるもの。多分提督の書く話はそういうもんを煮詰めた物語なんだ、普通の人にはそれが怖いのさ」

 

 朝霜には難しいことはあまり解らない、だが『朝霜』としての気性の関係かなのか、感受性に関わる感覚は強い。

 

「でもどんなに恐ろしくても向き合わなきゃいけないもんがある、そしてその恐ろしいもんに備えなきゃいけない。提督が書く話はそれを教えてくれる物語でもあると思うぜ」

 

 理屈では無く、その強い感覚でとらえた感想が男の胸を打つ。

 

「あたいだって艦娘だ、普通の人らと同じだなんて言いやしないさ、だからあたいの感想なんてあてにはなんないかもしれない。でも、あたいら艦娘は艦娘で普通の人らとは違う物語を生きてる。ただの恋物語なんかじゃ無い、提督をみつけるまで悩んであがいて、得体の知れない感情と戦いながら生きる物語さ。そして提督をみつけてからだって、最後までどうなるかはわかんねえ。まぁ、これは誰でも一緒か」

 

 朝霜は抽出の終わったコーヒーを湛えたフラスコを取り外し、温めておいたカップにゆっくりと中身を注ぐ。

 

「提督の書いたやつを読むと、その時の気持ちを思いだして怖くなるけど懐かしい気もするし、忘れちゃいけない気持ちを蘇らせてくれる気もする。提督と出会う前だったら違ってたかもしんないけど……でも、だからこそ、あたいは提督の書いた物語が好きさ」

 

 朝霜ができあがったコーヒーを、項垂れた男の鼻先から少しだけはなれたあたりに置く。

 カチャリという音が静かになり、包み込むような優しく香ばしい香りが立ち上った。

 

「それに今は理解されなくても、時代が変われば評価されるかもよ? それまではうちの店で書きたい物を書き続ければいいじゃん」

 

 屈託の無い笑顔で微笑みながら、そう締めくくる朝霜。

 

「ホットケーキでも食うかい?」

「……もらう」

 

 支えてくれる存在のありがたさを感じて、男はちょっとだけ泣いた。

 

 




あさしーがいい女過ぎてイメージ違うかもだけど、これはこれで。

この話は逆脚屋さんにいただいた感想を参考にさせていただきました。
でも感想では早霜って書いてくれてたのに、それを朝霜と見間違えてた。
途中でというか早い段階で気がつきつつも、まぁいいやと思って書きました。
ふふん、まあこれはこれで、あ、誰か一緒に謝ってくれる人大募集。
 

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