いろんな意味で挑戦作。
キャラとかシュチュとか色々。
「あんのぉクッソツインテールがああああ!!」
マネキンやミシン、型紙、はさみに大きな鏡、そして大量の布。
どこからどう見ても服飾デザイナーの工房と思われる部屋、その中央でショートカットのスマートな美女が叫び声を上げていた。
どこぞの歌劇団の男役でもできそうなほどの、ぞっとする中性的な美貌の女性だが、肩で息をしながらブチ切れているせいで色々台無しである。
「アヤ、うるさいわよ」
そんなショートカットの女性を横目に、くつろいだ様子でソファーに座りながら、爪の手入れをする綺麗に癖の付けられたショートカットのグラマーな女性。
こちらもアヤと呼ばれた女性とは違うタイプではあるが、柔らかな美貌の美しい女性。
ノースリーブのタートルネックワンピースを着ていて、短い裾から伸びた長い足に、体のラインを浮き出させるような服も合わさって、健全な青少年にはとても目に毒だ。
特に隠す必要ないからさっさとぶっちゃけてしまうが、この女性は艦娘の『陸奥』である。
「むっちゃん!! セレクトショップのオーナーとして悔しくないの!? あんな小娘の店に客を取られて!! なによあの店の名前! ZUI5ってなに!? うちの店名のZUKAと微妙にかぶってるんだよオラァ!!」
きー! と叫びながら地団駄を踏む、アヤと呼ばれた女性。
特に気にすること無く淡々と爪の手入れをする陸奥。
ちなみにこのアヤと呼ばれた女性、提督では無い。
なのに陸奥のことを「むっちゃん」と呼んでる辺り大丈夫なのかと思われるかもしれないが、陸奥の普通の名前は 睦果(むつは)なので、特に問題は無いのだった。
艦娘のその辺の感覚は謎が多い。
「いいじゃない、余所は余所、うちはうちでアヤの作りたいものを、こだわったもの作っていけば」
整えられた爪を光にかざしながら、のんびりと色っぽい声でそう返す陸奥。
大人びた美貌と相まって、とても余裕が感じられ、俗にいう正に『イイ女』そのものである。
ここでざっくりこの二人の関係を説明しよう。(唐突)
セレクトショップとは、そのショップのテイストに合わせて色々なブランドの衣服やアクセサリーなどを仕入れ販売する店である。
故にその店のオーナーとなると店の経営は元より、各地で開催されるショーなどを訪れては販売会で買い付けをするバイヤーとしての仕事を行いながら、仕入れたものを自分の店で販売するという様々な能力が要求される。
かなりの激務だが、オーナーのセンスが店の商品に全面的に反映され、それによって売り上げが完全に左右されるので当然手は抜けない、故に責任重大である。
勿論店の規模によっては複数のバイヤーや販売員を抱えているので、仕事は分担されることもあるが、陸奥は一通り殆どの仕事をこなしていた。
(販売員だけはバイトを雇ってたりする)
で、先ほどから陸奥としゃべっているアヤと呼ばれる女性は、その陸奥の店の上の階に工房を構える一人親方的な服飾デザイナーである。
アヤの工房で出来上がった服は陸奥の店でのみ販売され、正にその関係は陸奥の店の専属ブランドともいえた。
また、お互いはお互いに出資しているので、ある意味共同経営者といった関係だった。
んでもって、そんな二人の店のライバルともいえるのが、デザイナーやモデル、バイヤーなどすべてをこなしながら、二人と同じようにセレクトショップ『ZUI5』を経営する艦娘の瑞鶴である。
店の場所もかなり近い。
だがぶっちゃけ、落ち着きの出てきたお金のあるそこそこ若いおしゃれを意識する女性向け(長い)の商品を取り扱う『ZUKA』と、学生~社会人になったばかり辺りの年齢までの層を意識した『ZUI5』では客層も、取り扱う商品もかなり違うので、果たしてライバルなのだろうか? と思えなくも無い。
が、アヤは瑞鶴が嫌いだった、なんとなく、水と油的な感じで。
なので時々こうやってライバル心むき出しで切れることがあり、それを陸奥がしょっちゅう受け流すというのがテンプレだった、のだが……
店に掛かってくる一本の電話。
爪の手入れ中だったので、出たくないなーと思った陸奥がアヤをちらりと見る。
だがアヤは一通り切れ言を吐き出し尽くして疲れたのか、腰に手を当てながら直接ラッパ飲みで水差しに口を付け、水をがぶがぶ飲んでいた。
そんな様子を見て陸奥はため息を一つ吐き、電話に出る。
と、相手は今噂の瑞鶴。
「はいもしもし……あら、瑞鶴。ええ、うん……は? え、ああ、うん……お、おめでとう。え、あ、うん。そうね、うん……ああ、ちゃんと役所には行きなさいね? ええ、それじゃ……おめでとう」
内容は提督が見つかったという報告の電話、別にわざわざ報告しなくてもいいようなものだが、なんか姉の翔鶴に電話がつながらないようだったので、喜びを伝えたくて知り合いの陸奥に電話を入れてきたようなのだった。
陸奥がゆっくりと受話器を置く。
「ふぅ……あんぉクッソツインテールがああああ!!」
わぁ、今度はむっちゃんが切れたぞぉ。
なんか自慢げな瑞鶴からの提督はっけーん! の報告を聞かされて、思わず切れちゃったみたいだったのである。
「……むっちゃん、うるさいわよ」
既に怒りを放出しきったアヤは、冷めた目でむっちゃんを見つめる。
「アヤ!! ブランドのTAKARAのオーナーとして悔しくないの!? あんな小娘に先に提督を見つけられて!! なによあの店の名前! ZUI5ってなに!? うちの店名のZUKAと微妙にかぶってるんだよオラァ!!」
取りあえずアヤは、オウムのように先ほど陸奥が口にした言葉を返す。
「いいじゃない、余所は余所、うちはうちでむっちゃんの提督を、こだわって探せば……つーか私は艦娘じゃないし別に悔しく……」
根本的な部分を冷静になって指摘しようとしたアヤに、陸奥がずびしと指をさしながら乙女的キャリアウーマンに対する禁止ワードを叫ぶ。
「アヤは仕事でも男でも先に行かれて悔しくないの!?」
陸奥の言ってはいけない言葉に、アヤの収まっていた怒りが一気に水蒸気爆発した。
「それを言ったら戦争でしょうがああああああああああ!!」
営業時間の終わった店に、二人のオンナの叫びが響き渡る。
取りあえずその怒りを発散するため、二人は夜の街にくり出すのだった。
■□■□■
「アヤは結婚するつもりはないの? いい人がいないのなら探してきてあげましょうか?」
「まだむっちゃんに心配される様な年じゃ無いわよ。てか私の心配するくらいなら自分の心配しなさいよ」
アヤがハイボールの入ったジョッキをあおり、ドンと机にたたきつける、カランと氷が鳴る音が響く。
テーブル席の上には、豚モツの土手煮込みや、唐揚げ、シーザーサラダなどが並べられ、向かいの席に座る陸奥の手にも同じくハイボールの入ったくグラスが握られていた。
ここはどこにでもある大衆居酒屋。
古民家を改築して作られた居酒屋の白塗りの土壁は煙草のヤニなのか、料理の油なのか黄色く変色しているが、大きな木の梁と合わさってどこか温かい雰囲気を醸し出していた。
「私たちはさ」
「うん?」
「なんのためにがんばってるんだろう」
ぽつりとアヤが弱音に近い声色でそうこぼす。
周りは仕事上がりのサラリーマンやOLが多く、上司に説教されていたり、同僚と日頃の鬱憤をぶちまけ合う喧噪が響いている。
「さてねぇ、艦娘は一応根っこに提督をみつけるってのがあるにはあるけど、それ言い出したら女は子供を産んで育てるってのがあるんだし。結局の所生まれ持った価値観に殉じるか、それとも生まれてから構築した価値観に殉じるか、それともその両方か……。でもどっちみち楽しく歩き続けるしか無いんじゃ無いかしら?」
「ちきしょー! 女は子供を産んで育てるってそれあたしの大っ嫌いなっくそじじいの言ってたことと同じじゃー! それが嫌であたしは実家を飛び出したんだぞー!!」
アヤがハイボールを一気飲みし、お代わりを大声で注文する。
それを見て陸奥がケラケラと笑った。
「はは、でもアヤは毎日楽しそうじゃない。あーでも無いこーでも無いって布や型紙とにらめっこしながら」
「それを言ったらむっちゃんだって、お客さんにあった服を楽しそうにコーデしたり、イイ物買い付けるためにあっちこっち飛び回っててたのしそうじゃん」
「まぁ、他にすることもしたいことも無いからねー」
「てかそもそもさ、なんで私たちは他の女が男を引き寄せるための服を必死こいて作ったり売ったりしてるのかって所の問題になってくるのよね……」
アヤの言葉を聞き流しながら、陸奥がハイボールのお代わりと枝豆を注文する。
持ってきた女性の店員は、大衆居酒屋でくだを巻く美女二人を見てどこか目を輝かせつつも、何故こんなところにこんな綺麗な女性二人がという複雑な表情をしていた。
「いいじゃない、命短し恋せよ乙女たちが着飾る服を仕立てコーデしてあげる。いい仕事だと思うわ、着飾るのが苦手な女たちの心強い味方よ、味方」
「そんな正義のヒロインには、イケメンの王子様が必要だと思いまーす!!」
んがー!! と雄叫びを上げるように立ち上がり、グラスを掲げるアヤ。
周りの客たちが、なんだなんだとチラチラアヤの方を見る。
「あら、あらあら、そういうこと言っちゃうー?」
そんなアヤを見ながら陸奥がニヤニヤして、そう返す。
その様子を見てきょとんとしたアヤだったが、直ぐに合点がいったかのようににやりと笑う。
そして二人は顔を合わせて、お互いのグラスをカチャンとぶつけた。
「じゃあいい男でも」
「探しに行っちゃおっか」
そうして二人は残ったハイボールを一気飲みしグラスを空にすると、いい男をみつけるため次の店へと向かうのであった。
■□■□■
ホスト、それは夜の住人、闇夜の時間を生きる者。
ホスト、その本質は飢えた狼、金と女性、そして名誉に飢える者。
ホスト、しかして彼らの仕事はきらめく世界で、夢を振りまく者。
『艦夢守市』その歓楽街にも彼らが住まう城があった。
ホストクラブ「YOKOSUKA」
今日も彼らは闇夜の時を駆け、飢えを満たし、そして夢を振りまくのだった……
「オライケメンどもー! この喪ジョーズに酒を注げー!」
「そうだそうだー! って、誰が喪ジョーズだー!」
そんな狼の城に既に出来上がってる二人が居た。
アヤとむっちゃんだった。
そんな二人をもてなすのは、ホストクラブYOKOSUKA屈指のホスト軍団。
でも最初は二人を上客だと思ってたホストたちだったが、なにやらいやな予感が止まらない。
具体的にいうと吹っ飛ばされたトラウマがフラッシュバックする感じで。
「か、可愛いお姫様たち、次はどのようなお酒をお持ちしましょうか?」
ナンバーワンホストが、アゲアゲおもてなしモードで接客する。
ちょっと嫌な汗が止まらない気がするけど、この程度でひるむようではナンバーワンでは無い!!
「コレ」
「これ」
アヤとむっちゃんが同時に指をさす、ドンペリだった。
「ボトルで注文するわ」
「あっ、ジョッキに注いできて」
羽振りのいい注文だというのに、ナンバーワンホストはすごく嫌な予感がした。
でも勇気を振り絞ってオーダーする、運ばれてくるジョッキに注がれたドンペリ。
「「ちょっといいとこみてみたいー♪」」
二人の美女に挟まれて、おだてられるナンバーワンホスト。
やはりか……そう思った。
ジョッキになみなみと注がれたドンペリ。
問題はアルコール度数ではなく、炭酸であるということ。
二酸化炭素の気泡がはじけるたびに、シャンパンの香りがナンバーワンホストの鼻を突く。
こんなもん一気とかしたら胃が爆発するで工藤!!
だが、しかし。
この程度でひるむようではナンバーワンホストは名乗れないのだ!!
「ウェーイ!! いっきまーす!!」
スタイリッシュにジョッキを持って立ち上がるナンバーワンホスト。
「さすが!」「われらが!」「なんばーわん!」
「「「ナンバーワンナンバーワン! ナンバーワン! ナンバーワンナンバーワン! ナンバーワン!」」」」
取り巻きのアゲアゲコールが始まり、ゴクゴクとドンペリを飲み出すナンバーワンホスト。
「「きゃーきゃー!!」」
そんな男前の様子に、アヤとむっちゃんのテンションも上がる。
炭酸を気迫で抑え込み、こぼすこと無くゴクゴクとジョッキに注がれたシャンパンを飲み干すナンバーワンホスト!!
(※急アルやマーライオンになる可能性があるので真似しないでください)
「っぷっはー!! ごっちそうさっまでーす!」
飲み干し終えて華麗なポーズを決めるナンバーワンホスト、さすがホストの元帥、その称号は伊達では無い!!
その様子にご満悦のアヤとむっちゃん。
そんな二人の様子を見てナンバーワンホストは確かな手応えと、上客ゲッツの確信を得る。
が
「そういや金剛ちゃんこの前、新聞に出てなかったッスか? 市長と話してる写真格好よかったッスよ」
「HEY、提督ぅー!? 私の活躍見てくれたの? もっと頑張るから目を離しちゃNo! なんだからネ!」
「ショウさん!! 比叡、恋も仕事も…気合! 入れてッ! いきますッ!! ハァーイッ!!」
「提督。今日も、榛名と一緒に夜を迎えていただいて、本っ当にありがとうございます! 榛名、感激です! ふふっ♪ ……提督」
「はぁ、すー…今夜はお日柄もよく、ショウさん今日も指名を受けていただいて本当にありがとうございます。これからも私たち…え? ん、長い?」
「じゃあおれもがんばっちゃうっすよ」(シャキーン)
「「「「ああもぅ!! ショウさんステキ!! あっ、この店で一番高いお酒をry」」」」
「こちらのお嬢さん型(not誤字)にいいいい!! ロマネコンry」
近くのカーテンに区切られた個室から聞こえてくる声。
そのなんだか濃厚なラブラブ空気が喪ジョーズにまとわりつく。
明らかに提督を、そして自分の王子様をみつけてラブラブ幸せいっぱいの艦娘、そして女たちの台詞だった。
そして流れ弾的な試練がナンバーワンホストに襲いかかる!!
(ショウの奴今日だけでロマネコンティー四本だとぉ!? いや、大丈夫だ今月はまだ始まったばかり、幾らでもチャンスはある!! あれ、だけどそれはショウも同じこと? いや……あれ俺まずくね?)
ナンバーワンホストは必死に自分の今月の売り上げを、頭の中で計算して結構まずいような感じを叩き出す!!
たらりと汗が流れる、ナンバーワンホスト。
ちらりと二人の上客予定を見ると、びっくりするくらい真顔だった。
なんで真顔かよく解らないかったけど、ナンバーワンホストはなんとかこの二人から絞りとれないか必死に頭を回転させた。
「ウィスキー、ボトルで注文するわ」
「氷抜きの水割りで、作れるだけ作ってきて」
ところで、羽振りのいい注文が炸裂する。
運ばれてくる茶色い液体の入ったダースのグラス。
いい酒だと思う、多分。
だが問題はダースで並べられているということ。
立ち上る濃厚なアルコール臭、ボトルを早く消費するためにボーイが気を利かせて、ちょい濃いめで作った気配がした。
「いい男が飲むところ見てると元気出るなー」
「沢山飲むところ、見たいなみたいなー」
真顔だが、ほろ酔いの美女の左右からステレオぼいすぅが耳に響く。
「「ちょっといいとこみてみたいー♪」」
そしてナンバーワンホストの脳に直撃した。
しかし水で割ってるとはいえ、ウィスキーのアルコール度数は四十度をこえる。
つまりこんな量一気したら肝臓が爆発するで工藤!!
「うっ、うっ、ウェーイ!! いっきまーす!!」
でもヤケクソになったナンバーワンが叫んで一つ目のグラスを手に取る。
だっていろんな意味で上客だし、色んな意味で追い詰められてるし、やるっきゃ無いよね。
つまりはここで引かないからこそのナンバーワンなのだ!!
(※急アルやゾンビが口から出すレベルのヤツが起きる可能性があるので真似しないでください)
「いいオトコーいいオトコー! でもホントはどうでもいいオトコ!?」
「いいオトコーいいオトコー! でもホントは実際いいオトコ!?」
「いいオトコーいいオトコー! ホントにイケメンいいオトコ!!」
「「「なぜなら彼こそナンバーワン! なぜなら我らのナンバーワン! それナンバーワンナンバーワン! ナンバーワン!」」」
空気読んでせめてもと思い、取り巻きがヤケクソでコールを開始した。
がんばれナンバーワンホスト。
(なんやかんやで今月もナンバーワンだった模様)
■□■□■
バー『佐世保の薔薇』
なんかすんごい大昔からあるコングロマリットなグループの総帥が、隠れてこっそりマスターをやっている店。シックな雰囲気で、控えめの音量のジャズが流れる感じの隠れ家的なバーである。
そんなバーのカウンターに、二人の喪ジョーズ。
無事ナンバーワンホストをノックアウトし終えた二人は、店を変えて飲み直していた。
二人は先ほどのホストクラブとは違い、落ち着いた雰囲気でちびちびと綺麗な色のカクテルを飲んでいる。
黙っていれば二人ともすんごい美女なので、男どもがほうっておかなそうだが、幸か不幸か店内には彼女たちと、綺麗なオールバックの髪型で、短めの口髭が魅力的な巨漢の美中年であるマスターのみ。
因みにしゃべり方がちょっとオネエが入っているマスターがオカマなのか、同性愛者なのか、ノーマルなのか、客の間では割と頻繁に議論が交わされている。
でも今はそれよりも大事なことがある二人の喪ジョーズ、彼女らの話題は別のことだった。
「……アヤ、私たちってさ、そこそこ成功してる方じゃない。お互い一国一城の主でさ、別にでかい借金があるわけでもないし、名前も売れてるし。そうなるとやっぱ足りないものが見えてくるのよ」
「わかるわー、あたしもクソじじいと縁切って、実家飛び出して。死にものぐるいで働いてブランド立ち上げて。むっちゃんと組んでここまでのし上がってきたけど。あのクソツインテールに対抗するわけじゃ無いけど、最後のピースが足りない気がしちゃうわよね……」
違うようで似ている、似ているようで違う。
お互い求めるものが似通ってる気がする二人が、同時にグラスをあおる。
「大体さー、私たちって男の趣味絶対似てると思うんだよねー、うん、多分間違いないし」
「はははー、そうなったら私の提督がアヤの男になるかもねー」
「うへぇ……でもまぁむっちゃんなら。いや、でも、うー、私の王子様とむっちゃんと3Pってどうなのよそれ……」
「それでアヤはどんな王子様がいいの? 私も交ざるなら聞いておきたいわ」
そこそこ酔っ払い気味のアヤはむっちゃんの言葉を聞いて、音を立てて大げさに立ち上がり、天に指をさしながら声高らかに叫ぶ。
「そんなの心のチ○コが起つ男に決まってんでしょ!」
「おおおおお! それいいわね、とても大事だと思うのでありまーす!」
んでもって、そこそこ酔っ払い気味のむっちゃんが追従するように立ち上がり、アヤと同じポーズを取る。
「……ちょっと、あんまり下品なことを大声で言わないでよ」
グラスを磨いていたマスターが、迷惑そうに眉をひそめながら注意する。
「でもまぁ、若い子にしちゃあ男の選び方を心得てるわね……人が人に惚れるってそういうことだわ」
どこか懐かしいものを思い出すように、マスターがスコッチをストレートでグラスに注ぎ、それを自分で飲み始める。
「え、え? マスターが惚れた人って?」
「男なの? え、それとも女?」
そんなマスターの過去に興味津々のオンナ二人。
無理も無い、マスターの恋愛歴とか絶対面白そうである。
「そうね、私が惚れた人は……って、こんなの人に話すようなものじゃないわね」
「えっ!? そこで切っちゃうの?」
「ちょっとマスター、そこは全部話す所なんじゃ無いのぉ?」
いいところで切られて、抗議の声を上げる二人。
「うるさいわよ、でもまあ、アンタ風に言うならそれこそ心のチ○コが起つ人を好きになったことは……あったわね」
「ほうほう、その話詳しく」
「はよ、はよ」
「あーもーうるさい! 今日はもう閉店よ!! さっさといったいった!」
そんなマスターを無視してぶーぶー不満の声を上げ続けるうるさい喪ジョーズは、巨漢のマスターに首根っこを掴まれ、ぽいっと店の外に放り出されるのであった。
■□■□■
「いたたた、マスターなにも放り投げなくてもいいのに」
「うー、話もお酒も中途半端なところで放り出されちゃったわね」
二人は顔を見合わせ、ニヤニヤと笑い合う。
「よーし! つぎいってみよー!」
「おーーーーー!」
当てもなく次の店に歩き出す二人。
「しかしあれねぇ、運命の人ってのはやっぱ出会えるから運命の人なんであって、出会えなきゃ運命の人じゃ無いわねぇ……」
「まったく、艦娘も女も。因果なもんよねほんと……」
お互い肩を組み合って、支え合いながら歩く二人。
灯りの消えることの無い歓楽街、そんな地上の光の明るさに負けないような満月が、二人を見下ろしていた。
「まぁ、人生まだ長いんだし大丈夫よ。出会えなくても来世や前世に期待しましょ」
「ちっきしょー! 来世はともかく前世ってなんだー! 映画じゃねーんだぞー!」
夜の街に、女二人が肩を組みながら歩く。
運命の人を捜し求める女と艦娘、似ているようで違う、違うようで似ている。
そんな二人の夜はまだ始まったばかりである。
女性二人のこういう感じが結構好きだったりする。
んだけど、書いてる最中にラブコメじゃないと気がつく、うーん難しい。
あと、マ○みてはまだ読んでないので、ガールズラブも始まらないのであった。
※特に理由無くも思うところがあってタイトルコールは入れてないです。
単純に入れ忘れてたんだけど、多分無いのが自然なんだろうな、と。
そういう直感を大事にしていきたい、なんて格好よくいってみる。