提督をみつけたら   作:源治

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2018冬イベント記念 劇場版的な長編回

イベント記念回ですが、イベントとの関係性はあまりないです。
また、三万文字越え(通常の3~4話分)です、ご注意ください。
 


『負け犬』と『駆逐艦:島風』

 

「……!!……!!」

「まてまて、もう少しで終わる」

 

 短い金髪の背の低い子供が、早く早くと俺の服を引っ張って急かしてくる。

 

 恐らく少女と思われるその子供は、オーバーオールを着ていて、胸には『風子』と書かれた名札をつけていた。

 名札には名前の他にも連絡先と住所が書かれていて、初めて見た時はそれがまるで迷子の子犬に付けられた首輪に見えたものだ。

 

 俺は橋の下に建てた自慢のダンボールハウスの、補修の出来を確認する。

 欲しかったブルーシートが、たまたま手に入ってラッキーだった。

 

 問題ないな、これですきま風なんかはもう大丈夫だろう。

 ……今年の冬はなかなか寒かった。

 

 待ちきれなくなったのか、風子はそのハウスの隅っこに立てかけてある、拾った自転車を俺の所まで持ってくる。

 

「わかったわかった、そろそろ行くか」

「……」

 

 俺は風子の頭をガシガシと乱暴に撫でたあと、パンクした自転車にまたがる。

 すると直ぐに後ろの荷台に風子が飛び乗ってきた。

 

「しかし、お前はそこが好きだな」

 

 肯定だと言わんばかりに、俺の背中をバシバシとたたく風子。

 

 どうも風子は声を出すのが嫌いらしく、身振り手振りで俺と意思疎通を図ろうとする。

 恐らく言葉を話すと寿命が縮むとか、魔術がどうこうとか思春期にありがちなあれだろう。

 

 そう、決めつけている……その方が色々と楽だからな。

 

 風子と俺はこの河川敷でたまたま知り合った関係で、それ以上でもそれ以下でも無い。

 はずなのだが、気がつけばいつの間にか風子は俺の周りをうろちょろするようになっていた。

 

 最初、面倒事に関わるのが嫌だった俺は、風子を邪険に扱い追い払っていたのだが、何度追い払っても、しつこく毎日俺のダンボールハウスにやってくるので諦めた。

 それからというもの、今ではたまに走り方を教えてやったり、一緒に食い物の山草や川魚を捕る毎日だ。

 

「この前雨が降っただろ、その時ホストみたいな男が俺のセカンドハウスで雨宿りしててな。邪魔だから拾った傘やるから出て行けって言ったら財布の中身全部置いていったんだ。俺そんな怖い顔してたかな……まぁ、今日は豪華に牛丼でも食おうか」

 

「……!!」

 

 今度は嬉しそうに俺の背中をバシバシとたたく風子。

 家でろくなもんを食ってないのか、風子はよく俺と一緒に飯を食う。

 ろくな家じゃ無いんだろう、ホームレスの俺に飯をたかるようじゃ。

 

 ……しかし誰が信じるだろうな。

 

 こんな俺だが、かつては世界最速の称号まで後一歩に迫った男だったなんて。

 

 ふと、前を走る誰かの背中が見えた。

 だが……あれは幻だ。

 

 あの日から俺は夢で、そして現実でもあの幻を見る。

 

 心底嫉妬して、ライバルで、尊敬もしてて、世界最速の称号を持つ奴。

 俺がその背中を追い続け、今でもこうして追い続けている男、その幻影を。

 

 その幻に迫るように風を切って走る……何て事はパンクした自転車で出来るはずも無く。

 空気の抜けたタイヤは一定間隔で衝撃を生産し、俺たちの尻にダメージを蓄積する。

 

 色々あって世界最速へと挑んだ頃の面影は今の俺には無く、パンクした自転車の後ろによく解らない無口な子供を乗せながらトロトロ走るのでも精一杯、いや、生きるだけでも精一杯の毎日だ。

 

 そんな諦めた日々を、今日が人生最後の日になるかもな、なんて思いながら生きていた。

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 バイクに乗って走るのが好きだった。

 ただ漠然と走るだけじゃ無い、何よりも速く走る事が。

 

 普通のやつとは違って、三歳から親父のバイクの後ろに乗ってた。

 レーサー以外の道にも進めただろうけど、四歳の時にはバイクに乗り始めてたよ。

 

 多分、それが自然な成り行きだったんだろう。

 

 そんな俺が世界最速を目指して、世界最高のサーキットを、世界最高のバイクで走りたい。

 そう思うようになるのに時間はかからなかった。

 

 そのために俺は子供でも乗れるバイクにまたがって毎日練習した。

 子供ながらこの情熱を持ち続けてる間は、何があっても走る事は止めないって誓ったよ。

 

 何に向けて練習するかって?決まってる。

 

 世界最高のバイクに乗って、世界最高のサーキットを走り、世界最速の称号を得る。

 それらすべてを満たす事が出来るのはただ一つ。

 

 KanmusuGP

 

 世界各国を転戦しながら全十八戦のレースを行い、ポイント制でチャンピオンを決定するロードレース。

 そして世界最高峰のレースであるKanmusuGPでチャンピオンになることは、それらすべてを叶える事が出来る。

 

 時に死者も出るが、それに挑む奴らは命の限り走る。

 

 大戦以降にそのGPに出る事が出来たライダーは七百人以上。

 誰もが皆勇敢で速さを誇り、究極の頂きに挑んだ。

 

 KanmusuGPの王者に輝いたのは、この五十年でわずか二十数名。

 複数回王座に就いたのはさらに少ない。

 

 そして六回以上栄冠を手にした者は僅か一人。

 

 絶対王者ユーリー・タラソフ

 

 彼はあと何度優勝し、王座に上がれるか?

 バイクレースを愛する者は、いや、世界が固唾をのんで見守っていた。

 

 誰もが魅了されてたんだ。

 何故ならユーリーの走りは速く、そして美しかった。

 

 

 俺が下位のレースでデビューした年だった。

 

 南領大陸のレースで、ユーリーがライバルだった選手をゴール直前で抜き返して勝った時は、思わず見てて手を限界まで握りしめたのを覚えてる。

 

 ユーリーが純粋に操縦技術でも最強だったと証明したレースでもあったからだ。

 

 ユーリーが逆転を決めたトップクラスの選手は、前年に『夕張重工のマシンじゃ勝てない……』と言い残し、夕張重工を辞めて別のチームに移った。

 実際に当時の夕張重工のチームはマシンも運営も厳しい状態だった。

 

 夕張重工は選手の確保のため、何とかしようとユーリーにオファーを打診。

 

 でもユーリーに移籍を持ちかけるなんて、不可能なのは明らかだ。

 夕張重工側もダメ元だったんだろう。

 

 だが当時、ユーリーの所属してたチームでは、レーサーがマシンよりも軽んじられていた。

 ユーリー自身、待遇はよかっただろうが窮屈に感じていたらしい。

 そのチームに居れば勝てるだろう、だがそれは会社の看板を背負った囚人だ。

 

「楽しむのが先、勝つのはその後でいい」

 

 有名なユーリーの言葉の一つだ。

 

 実際、当時ユーリーが所属してた『アカシ』のバイクはすごかった。

 それもあって、当時誰もがユーリーが勝てたのはマシンのおかげ、そう言ってたよ。

 

 ユーリーはそれを覆したかったのさ。

 

 だからなのか、ユーリーが夕張重工に移籍を発表した時は世界が驚いたもんだ。

 そしてチームのメカニック兼開発技術者の夕張もそれに応えた。

 

「ユーリーとなら芝刈り機でもレースに勝てる。でも、だからこそ、私は最高の芝刈り機を、ユーリーのために作って見せる」

 

 当時夕張重工で最高のエンジン開発技術を持つとされた夕張の言葉だ。

 

 そして、夕張重工のチームに移籍したその年。

 ユーリーは異なるメーカーのマシンで前年最終戦と、初戦を制した。

 

 マシンじゃ無く、自分の力で勝っているのだと、証明して見せたんだ。

 

 それは戦後のバイク界における、前人未踏の快挙だった。

 そしてそれは数あるユーリーの伝説の中でも、ひときわ輝く偉業でもある。

 

 熱狂する十二万七千人の大観衆。

 テレビの画面越しだったが、俺は悔しくてたまらなかったよ。

 

 何で俺はまだこんな所で走ってるんだってな……

 

 

 

□□□□□□

 

 

 

「お前、何でこんな所で走ってるんだよ……」

「!?」

 

「まぁどうでもいいが、走り方のフォームがめちゃくちゃだぞ。手を上げて走ってたら転ぶにきまってるだろ、後足運びもめちゃくちゃ……いや、大きなお世話だったな」

 

「……」

 

 それが俺たち二人の出会いだった。

 

 橋の下に建てたダンボールハウス、そこに住んでる俺以外は誰もいない河川敷。

 そんな河川敷で、ただ黙々と走り続け、転び、立ち上がり、走り、転ぶを繰り返す風子の姿を見かねて声をかけてしまった。

 

 そんな俺をみてどこか衝撃を受けたようにしている、薄汚れた格好の短い金色の髪の少女。

 まあ、ホームレスから声を掛けられれば脅えるよな、当時はそう思った。

 

 実際の所、風子が何者かなんて今でも俺は知らないし、どうでも良い。

 警察にしょっ引かれるような事になったとして、今の俺にどれほどの意味があるのか。

 

 だがそれ以来、何故か風子はしょっちゅう俺の所に来るようになった。

 

 

「なんだ今日も来たのか……」

「……」

「何で俺の服を掴むんだ、あっち行け」

「……」

「あっち行けって言ってるだろ、しっしっ!」

「……」

 

 

「なんだ、これ食いたいのか?野草の天ぷらだぞ……」

「……」(コクコク)

「腹壊しても知らないからな」

「……」(もぐもぐ)

「ホームレスに飯をたかるなんて、いい根性してるよ」

「……」(にこにこ)

 

 

「あー、ちがうちがう、そうじゃない。こうやるんだ」

「……?」

「こうやってこう、二回針を通すんだよ、そうすりゃ簡単にはとれない」

「……!!」

「ほら、やってみろ。しかしミミズなんてよく触れるなお前」

「……」

「しっかり釣れよ、じゃないと今日の晩飯は抜きだ」

「……!!」

 

 

「ああ、これビンだろ。探すのは缶だよ缶」

「……?」

「街は駄目だ、縄張りがあるからな。俺らはこの河川敷で探すんだよ」

「……」

「いいんだよ、無いなら無いで、別にな」

「……!!」

「わかったわかった、ほら、あっちに転がってるのもってこい」

「……!!」

 

 

「おいふうこ、それを……何でつねるんだよ?」

「……!!……!!」

「なんだ名札指さして?……かぜ?」

「……!!」(バシバシ)

「たたくなよ、かぜこ、でいいのか?」

「……!!……!!」

「何で逆につねるんだよ、どっちだよどっち」

「……!!」(バシバシ)

 

 

 まあ、思い返せばろくな事をしてやった記憶が無い。

 

 そんな日々が続いたある日、風子が昔のバイク雑誌を抱えてやってきた。

 一瞬俺の事がばれたのかとドキリとしたが、別にばれてどうにかなるような物じゃないし、どうこう思うような物でも無い。

 

 そう思って冷めた気持ちに一人で勝手になったが、どうも風子はとあるページを指さして必死に何かを訴えていた。

 

「……!!……!!」

「あー、わかったわかった、どれどれ……おまえ、これ。ウォースパイト様じゃねえか」

 

 風子が指を指すのはKanmusuGP最終決戦の地、ヨーロッパ北海の島に有るサーキットでのレースに勝利した選手の前に立つ美しい艦娘の写真だった。

 気品あふれる出で立ち、女王陛下の愛称で親しまれる大戦を駆け抜けたQueen Elizabeth級 2番艦の戦艦の艦娘、その名はウォースパイト。

 

「……!!……!!」

 

 嬉しそうに何度も女王陛下を指さす風子。

 

 そしてこの艦娘は、代々KanmusuGPを制した王者に、トロフィーを手渡す艦娘でもあった。

 俺も含め、レーサーなら誰もが一度は、彼女にそれを手渡されるのを夢に見ただろう。

 

 もっとも、彼女の前に立つにはユーリーを倒さなければならない。

 その栄誉を得るために、死にもの狂いでトレーニングしたものだ。

 

 ユーリーとは別の意味で俺の目標で有り、憧れでもあった彼女。

 憧れ……恋い焦がれたと言ってもおかしくないかもしれない。

 

『KanmusuGPのバイク乗りは、みんな女王陛下に恋をする』

 

 ふと、そんな有名な言葉もあったなと思い出した。

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 下位から上がってきた時、その舞台で走ると、色々な初めてを味わう。

 コース、ライバル、マシン、すべてが未知のものだ。

 

 軽量級から中量級にのりかえ、ついに重量級のバイクに乗り換えた日の事を覚えてる。

 

 ふかした瞬間に感じたエンジンの振動が、これから乗るのは時速320キロの速度で走る重量級のバイクだと教えてくれた。

 

 世界最速のバイクにまたがり、世界最高のライダーと戦う。

 ようやくその場に立てた、そう、実感した瞬間だった。

 

 

 その年に出場したルーキーは俺以外には四人だったかな。

 全員が下位のクラスで競い合ったライバル同士だった。

 

 もっとも、どいつもこいつも見てたのはユーリーただ一人。

 

 ユーリーは王者であるが故に、若手を退けるために真剣に対策を練る必要があっただろう。

 上がって来たばかりの連中にはユーリーの心理戦が通用しない。

 何故なら爪あとを残すためなら死をも恐れぬ、命がけで突っ込んでくる奴らばかりだからだ。

 

 KanmusuGPには毎年数十人のライダーが参戦し、大体毎年誰かが死ぬ。

 そんな物に覚悟して挑んでくる人間がまともなわけが無い。

 

 当時は連覇を続ける王者ユーリーを誰が追い落とすのか、そして誰がユーリーを倒して女王陛下の前に立つのか興味津々だった。

 

 取り立てて俺は注目されていた、理由は色々あるが……

 まあそう思われても仕方がない面もあった。

 

 初めてユーリーと走ったレースで、俺がアホの様に彼を追ったときのことだ。

 

 当時の俺は毎日が人生最後の一日、そう思って走っていた。

 だからなのか、予選でもかなりのタイムを出せたよ。

 0.09秒差でポールポジションはユーリーが取ったが、俺は二番手、悪くない。

 

 ユーリーのケツを眺める最前列でスタートだ。

 

 何週目かのコーナーで前をユーリーが走ってた時、当てる気満々で突っ込んだ。

 何故か別のチームから抗議を受けてたよ、俺がわざと接触しようとしたってな。

 

 でもユーリーは

 

「接触は技術の一つだ、それについてどうこう言うつもりは無い」

 

 そうクールに言った、相手にされてないようにも聞こえて当時は荒れたもんだ。

 おかげで、命知らずな走りに磨きがかかったよ。

 

 ついでに幸か不幸かタイムも縮んだな。

 

 

 

□□□□□□

 

 

 

 その後直ぐ、俺は風子に手を引かれてとある場所に来ていた。

 高い塀で囲われ、厳重な警備の建物だ。

 

 正面門には強そうな複数の兵士の姿。

 緑を基調とした赤いラインの入った制服、もしかしなくても憲兵である。

 

「お、おい風子。ここは……」

「……!!」

 

 風子は俺の手を引いて門をくぐる。

 門をくぐって直ぐの場所には、装甲車両が数多く駐められており、門番よりも遙かに屈強な完全武装の憲兵達が待機していた。

 

 憲兵、艦娘を守護するためならば、全人類が相手でも戦いを挑む兵士達の総称。

 暴走を避けるため、彼らは多くの決まりで自らを縛り、艦娘への過度の干渉を避け、ひたすら影からその役目を果たす。

 

 だが、悪意を以て艦娘に危険を及ぼそうとする存在の排除は、憲兵の宿命である。

 故にそれらの存在の排除は絶対だ。

 

 憲兵達が一斉にこちらをじろりと見た。

 まずい、そう思った瞬間。風子が一瞬立ち止まって子供が兵隊の真似をするような敬礼を軽くする、それを見て憲兵達は一斉に敬礼を返した。

 

「は?」

 

 混乱する俺をさらに引っ張って、中庭を進む風子。

 途中、幾つかある建物の一つ、その屋上から飛び降りて走っていった少女とすれ違う。

 どこにでも居そうな短く茶色い髪の少女だが、どこか不思議な雰囲気を持っていた。

 

 ……ん?屋上から飛び降りてたよな?

 

 俺は混乱を重ねながら風子に手を引かれ、やがて大きな建物の前に到着した。

 その建物の扉の横に掛けられた大きな板には『艦娘寮』と書かれている。 

 

 中に入ると大きなホール、そして奥に進み赤い絨毯が敷かれた廊下を進む。

 おいおい、どうなってるんだいったい……

 

 やがて俺たちは『貴賓室』と書かれた扉の前に到着した。

 風子が遠慮無くドンドンと扉をたたく。

 

 少し間をおいて扉が開くと、執事服を着た赤い髪の女が出てきた。

 

「君か……ん?この男は?」

 

 きつい目つきでじろりと睨まれる。

 かなり警戒の色を浮かべていたが、風子と俺のつないだ手を見て何か察したような表情になった。

 

「ああ、そういう事か。だが、ふむ……このまま奥様に会わせるわけには行かないな」

 

 きつい目をした赤毛の女は、俺を見て冷たく微笑んだ。

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 因果応報とでも言うのか、無茶をして危険な走りをしていると、何時か間違いが起こる。

 

 その年の七戦目あたりから俺は優勝が狙えると思い始めてたよ。

 実際ポイントはユーリーの後ろで、王座に手がかかる位置だった。

 

 八戦目、ユーリーに勝利してトップでゴールできれば王座の簒奪が現実味を帯びる、その戦い。

 

 序盤から激しいトップ争いがおきた、三周目の三コーナーを抜け先頭はユーリー。

 俺は当然攻める、前に出るが再びインからユーリーに抜かれた。

 

 誰でもだったが、俺にとっても当時のユーリーは最も速い男だった。

 何故あんなに速いのか見当も付かない程に。

 

 だが今思えばユーリーもぎりぎりの勝負を何度も俺に仕掛けていたように思う。

 思い返せばそう見える場面が幾つかあった。

 

 まあ当時はその事に気がつかなかったが。

 

 そんなわけで、速さで対抗できない俺は戦術を考えた。

 前に出て、抜かれたらカウンターアタックで抜き返し、ユーリーを前に出させない。

 

 悪く言うとユーリーの邪魔して、速く走らせないという戦術だ。

 そのためには前提として、なんとしても前に出てユーリーを抑える必要があった。

 

 だから俺は最終ラップで、勝負をかけるため高低差の激しいシケインに速度を落とさず飛び込んだ。

(※シケインとは、マシンの速度を落とす目的でつくられた鋭い角度のS字コーナーのこと。)

 

 シケインの手前、六速で時速300キロ出てたな。

 そして方向を変えようと、マシンを左に寝かせた時……

 

 タイヤがスライドしてひどいハイサイドが起きた。

 

 宙を飛びながら『ひどいクラッシュになるな……』とどこか冷静に思ったよ。

 

 地面に激突して転がってる時は三十人くらいに一斉に蹴られてる気分だった。

 手、くるぶし、肩、鎖骨、あちこちの骨を損傷。

 

 その後、骨折しながらでも何とかレースには出たが、どうしても勝つ事が出来ず、ポイント的にも精神的にも俺は追い詰められたよ。

 

 

 

 当然ユーリーは進撃を続け、その年も王座を守った。

 

 

 

□□□□□□

 

 

 強制的に叩き込まれた風呂で、野宿暮らしの垢を落とし浴場からを出ると、何処かから調達されてきた男もののワイシャツとズボンが置かれていた。(憲兵のか?)

 それを着て外に出ると、先ほどの赤毛の執事服の女が待っていて、俺を見るなり何も言わず歩き出す、こんな所に残されてたまるかと慌てて追いかける俺。

 

 先ほどの部屋に着くと、風子が上品な服装で長い金髪の……ウォースパイト様じゃないか。

 

 風子が女王陛下の膝に座り、茶菓子を食べていた。

 子供は怖いもの知らずだな……

 

 赤毛の執事服の女に急かされて、女王陛下の前の席に座る。

 女王陛下は俺を見てニコリと微笑まれた。

 

 

 オーラが!圧倒的な王のオーラがぁ!!

 

 

 王たる者の宿す風格の圧力に思わず膝を屈しかけたが、何とか過去のプライドにすがりついて必死に耐える。

 

「貴方もお風呂に入ってらっしゃい。大丈夫よ、それまで貴方のAdmiralは私がおもてなししておくわ」

 

 風子はチラリと俺の方を見る。

 

 女王陛下と、何かあればすぐに俺をどうにかできる位置に立った赤毛からの圧力に押されて、俺は軽く頷いた。

 

 風子はそれを見てコクリと頷き部屋を出て行く。

 

「さて、まずはご挨拶を。我が名は、Queen Elizabeth class Battleship Warspite、よろしく、頼むわね」

 

 知ってますよ……

 

 ほら、お前もはよ名乗らんかいと言わんばかりの赤毛執事の眼力に押されて俺は口を開くが。

 

「ど、どうも。俺は……その……」

 

 名乗るべきかどうか、ためらってしまう。

 何せ子供の頃より憧れ、そしてその前に立つことを何よりも望んだ相手が目の前に居るんだ。

 

 だと言うのに今の俺はホームレス、惨めったら無い。

 その様子を見て女王陛下はニコリと微笑んむ。

 

「ふふふ、知ってるわ。あの日、もし貴方が勝ってれば私が渡すはずだったから……」

 

 悲しそうに女王陛下が目を伏せる。

 その様子を見て、あの日のことが脳裏に浮かび頭が急速に冷えていくのを感じた。

 

「なぜ貴方がこんな所にとは聞かないわ。今はそれよりもあの子のAdmiralが見つかって嬉しく思ってるの」

 

 女王陛下が軽く微笑み、赤毛の執事に目配せをする。

 赤毛の執事は優雅な手つきで紅茶を入れて、俺の前に置いた。

 

「やっぱりアイツ、いや風子は艦娘なんですか……で、俺が提督だったと。しかし風子みたいな艦娘は、その……」

 

 何処からどう見ても風子はそのへんに居そうな、ただの無口な子供だ。

 そう口にするのを躊躇っていると、陛下が察したような笑みを浮かべる。

 

「あの子は艦娘変わりの最中なのよ、もっとも……もう三年以上、あのままなのだけど」

 

 短くて数週間、長くて一年と言われる艦娘変わり。

 

 それが三年……

 

「艦娘変わりの時に起こる症状は艦娘によって違うけれど、あの子はあんな感じ。この寮に住む仲間たちは気にしていないみたいだけど、あの子はそのせいでずっと孤独感を感じていたみたい。ずっと一人で、学校にも行かず毎日何処かに抜け出していたとか」

 

 女王陛下が優雅な動作で紅茶に口を付ける。

 

「私がここにきたのは一年ほど前。ほら、私とあの子、髪の色が同じでしょ?そのせいなのか私にはとても懐いてくれたの。私も……Admiralを亡くしていたから……私がここにきたのはせめてあの人が生まれた地を見てみたかっただけなのだけど、ふふふ、とても素敵な友達が出来たわ」

 

 友達、そうか、風子をそう呼んでくれる人が居てくれたのか。

 

 心の何処かで、風子が置かれてるであろう状況に何も出来ない自分に苛立っていたが、どうやらそれは俺の考え違いだったようだ……ん?

 

「あいつ、やたら飯を俺にたかってきてたんですが、この寮で食事は……」

 

「当然きちんと出されてるわ、ふふ、あの子は貴方と食事をしたり、貴方の側に居られる事が嬉しかったんでしょうね」

 

 おいおい、俺はあいつのために二人分の食料をせっせと確保していたと言うのに。

 ……まぁ、あいつも手伝ってはいたが。

 

「でも一ヶ月ほど前からまたあの子が抜け出すようになって、心配してたの。それで聞いてみたらあの子、ほら、あの写真立て、あそこに写ってる私のAdmiral……あの人を何度も指さすものだから、それであの子がAdmiral……提督をみつけたんだって、わかったの」

 

「俺があいつとあったのも一ヶ月ほど前です」

 

 女王陛下は少し寂しそうに笑う。

 

「肩の荷が下りた、そういうわけではないけれどホッとしてるわ……私は近々除籍日を迎えることになっているから」

 

「それは……」

 

 『除籍日』老いない艦娘がその生命を終える日。

 寿命が尽きる艦娘は、ある日唐突にその日がわかるという。

 

「なので数日中にあの人が眠る祖国に戻ろうと思ってたの。だからそれまでにあの子のAdmiralに会っておきたくて。ふふふ、でもまさか貴方があの子のAdmiralだったなんてね……」

 

 全く因果なものだ、まさか風子の友達が、俺と因果の深いこの人だったなんて。

 

「その事を風子には……」

 

「言ってないわ、ここを出ることは言っているけれど、除籍日の事を受け止めるにはあの子はまだ幼いから」

 

 近しい人の死、それを受け止めるのは例え大人であろうと辛いものだ。

 風子がそれを受け止められるような年齢になったら、教えてあげて。

 

 口には出さなかったが、そう言いたげな様子で女王陛下は俺に微笑む。

 

 俺は何も言えず紅茶に口をつける。

 優雅な味わいだが、なぜか少し苦く感じた。

 

「俺に、風子の提督がつとまるでしょうか?」

「ええもちろん、何よりも提督で有る事が重要なのだから」

 

 俺の弱音に、女王陛下は間を置く事無く断言した。

 

「ですが、過去はともかく今の俺は日々を生きるだけで精一杯のホームレスです。そんな俺が風子に出来る事なんて……」

 

「ふふふ、それは心配いらないわ。でも、そうね。参考になるかはわからないけど、よければ私のAdmiralの事を話してあげる。いいえ、是非聞いてくださる?」

 

 自虐と真実が入り交じった俺の言葉を聞いて、女王陛下はまるで子供に絵本を読み聞かせるような風に話しだした。

 自分がどのように生まれてどのようにして自分の提督と出会ったか、そしてどう感じて、どのように日々を過ごしたか。

 

 艦娘としての価値観や考え方は、少し俺には難しい部分もあったが、風子以外の人間と久しく話していなかった俺には新鮮で、少し楽しくもある。

 そして話をして感じたのは、この女性が聡明で優しく、またユーモアにもあふれた魅力的な人だと言う事。

 

 もっとも、美化された思い出というか、憧れの想いで見てしまってるところは否定出来ないが。

 だがそれを差し引いても、やはり元ライダーの俺には眩しい人だ。

 

 少し失礼だとは思ったが、興味がわいた俺は少し意地の悪い質問をしてみる。

 いや、むしろ無礼にあたるだろう、だがそれでも聞いてみたい事でもあった。

 

「失礼かと思うのですが、心残りは無いのですか?」

 

 その言葉を聞いて、赤毛の執事の眉がぴくりと動く。

 だが女王陛下は赤毛の執事をたしなめるように、すっと手を上げ口を開く。

 

「勿論沢山あるわ、あの子の行く末を見守れない事や、家族や友達の事。あとは彼女、Ark Royalの提督がまだ見つかってない事なんかも」

 

 クスリと口に手を当てて笑みを浮かべる女王陛下。

 赤毛の執事、Ark Royalと呼ばれた女が少し気まずそうに軽く咳払いを一つした。

 

「でもそれらは、冷たい言い方かもしれないけれど私が居なくてもいい問題なの。私は私の物語を生きたわ、そして物語には終わりが必要。貴方も貴方の物語があるはず、それをあの子と紡いでいって欲しい、そう願ってるわ」

 

 俺の物語か、そんな物はとうに終わってると思っていたが。

 この人にそう言われるとそうでも無いのかもなと、少し思ってしまう。

 

 俺の、物語、か……

 

 だが風子という艦娘になりきれない艦娘と、元レーサーのホームレスの物語なんて誰が読みたがると言うのか。

 そんな事を思い、ふと気になる疑問がわいた。

 

「あれ、そう言えば風子は一体何て名前の艦娘なんで?」

「ああ、それはね……」

 

 女王陛下が口を開きかけた時、部屋の扉が開き、風子が飛び込んできた。

 

「こら!ちゃんと髪の毛拭きなさい!!」

「……!!……!!」

 

 続いて水色の髪の少女がそう叫びながら、バスタオルを持って入ってくる。

 

 逃げる風子、追う水色の髪の少女。

 俺の周りをぐるぐると回る。

 

 女王陛下は困った様子の俺をチラリと見て、人差し指を口に当て……

 

 秘密です。

 

 と、言わんばかりにウィンクをした。

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 翌年、異変が起きた。

 俺は病人のように顔色が悪くなり、自分で見ても一目で精神的に参ってるとわかった。

 

 話も出来ず、サインをねだるファンに脅えるほどに……

 タフさが求められるレーサーにあるまじき事だ。

 

 何せ常日頃から接触なんて日常茶飯事の、時速320キロのレースに挑まなきゃならない。

 と言ってもレーサーの大半の者は半シーズンで消え、十年以上走り続けられる者は僅かだ。

 安全性などあってないようなもので、危険は常にあるからな。

 

 結果として多くの者が去って行く、俺もそうなる寸前だった。

 

 休養し、時間を掛けて問題を解決すれば良かったのかもしれない。

 だが当時の俺には出来なかった、よく解らない恐怖に襲われて、ユーリーと戦わないといけないって強迫観念にとりつかれていたんだと思う。

 

 そんな俺をみて、あの人は俺を殴って胸ぐらを掴みこう言った。

 

「知っての通りバイクのレースが熱狂を生むのはな、他のライダーと戦うスポーツだからだ。常に死と隣りあわせで生を謳歌してるライダーを見るとアホどもは生きる喜びが湧くんだろう。だがレース以外の時は自分と戦え。競争相手に、ましてやユーリーなんぞに気を取られているようでは極限の走りは出来ん。いいか、何にびびってるかは知らんが恐怖心は乗り越えるしか無い、だから戦え、戦い続けろ、死んでからでも出来る事は、死んでからしろ!!」

 

 無茶苦茶だった、でも当時の俺にはそれが本当に効いたよ。

 そして今更思った、ああ、この人とならユーリーに勝てるなって。

 

 ユーリーは確かにすごい、世界タイトルを数多く獲得し、バイク界にも貢献した。

 だから尊敬されて当然だ、おまけに彼が誕生した街では聖人みたいにあがめられてる。

 

 でもこの人にすれば神じゃ無いんだ、なら俺にとってもそのはずだ。

 だから、だからこそそれに挑む為にマシンと肉体を極限まで鍛え上げ、命を削り挑み続るんだ。

 

 俺の肉体と技術を磨き、最高のメカニック達が研究し、そしてこの人が居れば……

 

 勝てる、そう、思ったよ。

 だから勝って俺と、そしてこの人の夢を叶えようって。

 

 仲間と自分の夢、何故走るのか、どうして戦うのか。

 パズルのピースみたいにばらばらだった色んな物がはまった気がした。

 

 その時かな、ようやく俺は本物のレーサーになれた気がしたよ。

 

 

 

□□□□□□

 

 

 

 それから二日後の夕方。

 俺のダンボールハウスにとんでもない客が来た。

 

「貴方は……」

「あの子は、ここに来てない?」

 

 まさかの女王陛下が、ダンボールハウスのある橋の下にお越しになった。

 どうしてここが……まぁ、多分風子が教えていたのだろう。

 

「いえ、今日は見てませんね」

 

 内心どきどきしながら、俺はそう伝える。

 

「そう……実は私の除籍日の事がばれてしまって……ちょっと喧嘩をしてしまったのよ。貴方も艦娘なら提督のために一人でがんばりなさいって、私なんて事を……」

 

「奥様違います、私が安易にその話題を口にしてしまったためです」

 

 かなり後悔している風な表情の女王陛下。

 赤毛の執事もかなり辛そうな表情だ。

 

「あの、みつけたら直ぐ艦娘寮に連れて行きますんで」

「いえ、私たちはもうこの街を発たねばならないの。明日の十五時に、海護市から出発する船に乗るためには今から出て夜行列車に乗らないといけないから」

 

 海護市、遠い。

 ここから数百キロ以上離れた場所だ、確かに列車でそこまで行くには今から出ないといけないだろう。

 

「心残りはあっても、悔いは残さないようにと思ってたんだけど……いえ、何でもないわ」

 

 様々な意味でこれから旅立つ女王陛下は、手のひらを見つめながら後悔を振り払うようにそう呟く。

 

「どうかあの子の事、よろしくお願いするわね」

 

 女王陛下と、赤毛の執事までが俺に向かって頭を下げる。

 俺は慌てて口を開く。

 

「あっ、頭を上げてください……俺もアイツの提督なら、その、面倒はちゃんと見ますから」

 

 なにが面倒をみるだ、こんな俺が誰の面倒を見れるというのか。

 それでも言わずにはいられなかった、そんな俺の言葉を聞いて女王陛下は微笑む。

 

 そして去って行った。

 

 やりきれない気持ち、俺はダンボールハウスに戻り寝転がる。

 何もやる気が起きなかった。

 

「クソッ!」

 

 思わずそんな言葉が口を突く。

 そうさ、今の俺に何が出来るって言うんだ……

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 永遠の王者は居ない。

 

 

 

 最速を目指し、現れては消えるライダー達。

 何十年以上にわたり速度狂のライダー達は同じ夢を見てきた。

 

 KanmusuGPでチャンピオンになること。

 

 その年の俺は極まっていた。

 それに今年は俺がなる、そう確信できる程に。

 

 そして恐らくこの年を逃せばユーリーには勝てない。

 そう思える程に研ぎ澄まされてもいた。

 

 

 その頃の俺はバイクには魂が宿っていると感じてた。

 だから人間みたいにバイクによく話しかけてたよ。

 

 我ながらアホみたいだけど「よう、今日の調子はどうだ?」ってな風に。

 

 実際の所、乗ってるバイクは恋人も同然だった。

 バイクの発明者は思わなかっただろうな、俺たちがこんなにも夢中になるとは。

 

 男は女が好きだが、それ以上に男はバイクを愛してる、間違いない。

 

 チームあってのライダーだが、いったんレースが始まればバイクと二人っきりだ。

 コースの上ではバイクと一体になって楽しむ。

 

「楽しむのが先、勝つのはその後でいい」

 

 あのユーリーの言葉が、ようやく理解できたと思えたよ。

 成すべき事、成したい事、そして、走ると言う事。

 そのときの俺はその全部がかみ合ってた。

 

 その証拠に、開幕から俺はすべてのレースで自己ベストタイムを出し続けた。

 

 だが逆にユーリーはその年不調だった、と言ってもポイントはトップだったが。

 

 いや、不調じゃ無い、恐らく俺がユーリーに迫ってたんだ。

 つまりユーリーの速さに俺が並びつつあったって事だろう。

 

 ユーリーは絶対王者故に追い詰められる事になれていなかったのかもしれない。

 

 最終戦の一戦手前、意外な展開が待っていた。

 ユーリーの転倒によるリタイアだ。

 

 極めてミスの少ない者が王者になる、故にユーリーは王者だった。

 それは一つの真実。

 

 だが勝負は水物でもある、それを証明した戦いに思えた。

 結果、俺はユーリーに十五ポイントリードを取りトップに立った。

 

 

 そしてついに迎えた、最終戦にして決勝当日。

 

 トップでゴールしなくても優勝の可能性がある、圧倒的有利な順位。

 長年の夢だったチャンピオンの称号が目の前にある最後の戦い。

 

 追い詰められた絶対王者ユーリーと、その王座の簒奪を目前にした俺。

 

 そんな俺たちに熱い視線を注ぐのは二十万を超える観客、テレビ越しに見守る世界中の人々、そして憧れの艦娘であるウォースパイト様。

 これ以上無いほどの熱い状況だ、正に人生最大の大舞台。

 

 そんな状況だというのに、あの日俺が感じたあの気分、正直嫌な感覚だった。

 うまく言えないが『今から重大な事が起きる』そう言う感覚だ。

 

 よく解らない感覚を抱えながら、俺はスタートを切った。

 

 そして驚愕する事になる。

 

 その日のユーリーの走りは凄まじいの一言だった。

 まるで彗星のようで、圧倒的な走り、速すぎて光の帯に見えたよ。

 

 嫌な感覚を押さえ込み、俺は必死に食らいつく。

 確かにユーリーは神じゃ無い、だがそれでもユーリーは倒すべき夢だ。

 

 今日が最後だ、今日が人生最後の走りだと言い聞かせながら、俺は湧き出る闘志を爆発させ限界までスロットルを開いた。

 

 バイクがそれに応え加速、ユーリーに食らいつく。

 

 だがやはり、嫌な感覚が消えない、なぜ?

 レースは危険か?だとしたら原因は何だ?

 

 一つ目はマシンのトラブル。

 二つ目は走行環境的な要因。

 

 そして三つ目、最も一般的なのが人為的ミス。

 

 例えばタイヤはレース前に八十度まで高められ、レーサーが百度まであげる。

 そうするとタイヤにノリのような粘りが出て、地面に吸い付く。

 結果グリップが増し、加速やコーナーリングの性能が増す。

 

 故にタイヤが温まるのを待たずに急なコーナリングをした場合、転倒する可能性がある。

 

 冷えたタイヤでの転倒は恐ろしい、突然起きるからな。

 レンチで急に頭を殴られるようなものだ。

 

 当然レーサーはその事を熟知している、それ以外にも様々なミスの可能性をつぶす。

 過去の事故を調べ、原因を究明し、それらを起こさないように日々研鑽を欠かさない。

 

 またレーサーとして成功するには、強い自己保存本能と、自信が必須だ。

 そもそもがレーサーというのは希有な種類の人間なのだ。

 

 戦闘機のパイロットのような反射神経と冷静さを持つ。

 厳しい鍛錬と試練に日々耐え、勝負の一瞬にすべてを懸ける。

 

 だがいかにライダーが優秀でコースや装備が進歩しても、

 

 やはり、事故は……避けられない。

 

 一人で転倒する時はせいぜい手の甲を骨折する程度で、滅多に重傷は負わない。

 だが集団走行時だと転倒者は他のライダーにひかれる恐れがある。

 

 そして……

 

 場所が悪すぎた、突っ込みすぎて無茶した周回遅れの複数人の集団が転倒。

 しかもトップスピードで走る場所でだ。

 

 もう無茶苦茶だった、俺も含め誰もがぶっ飛んだ。

 

 俺に勝つためには一位でゴールする必要があった故に、誰よりも飛ばしてたユーリー。

 彼は転倒したライダーのバイクに乗り上げ、ひときわ高く遠くに吹っ飛んだ。

 いつものユーリーなら避けられたかもしれないのに、いや、分からないか……

 

 だがよりにもよってユーリーが吹っ飛んだ先は、消火用の車のガソリンタンクだった。

 

 爆発が起きた。

 騒然としたよ、俺は何とか起き上がってユーリーが吹っ飛んだ方向を見た。

 

 ごうごうと紅い炎が立ち上ってた。 

 よりにもよって一番消火性能が高い車が使えない状況で起きた、最も恐ろしい爆発事故。

 

 

 俺は以前襲われたよく解らない恐怖が何だったのか、少し分かった気がした。

 自分が死ぬのは耐えられる。

 

 

 だが、その打倒が夢と同義になっていたユーリーが死ぬのは?

 

 

 重大事故の発生を知らせる赤い警告旗が上がった。

 

 この数年に死んだレーサーは四人。

 そして今日また一人のレーサーが死んだ。

 

 珍しい事じゃない。

 KanmusuGPには毎年数十人のライダーが参戦し、大体毎年誰かが死ぬ。

 

 偶々、今日死んだのが世界王者だったってだけの事だ。

 

 そして王者は永遠の王者になり。

 俺は二度と王者になる事も勝つ事も出来なくなったとさ。

 

 そうさ、そうなんだよ。

 

 俺の物語はそこで終わったんだ。

 

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 気がつくと朝になっていた。

 俺は眠っていたらしい。

 

 

 結局あの試合は無効試合となり。

 俺はポイントトップで優勝。

 

 だが辞退した。

 

 優勝はユーリーだ、俺のその言葉に異を唱える奴はいなかった。

 別にセンチな気分から出た言葉でも、受けようと思って出た言葉でも無い。

 

 ただ本当の事を言っただけだ。

 

 結局その年の王座は空席、そして俺は違約金代わりに貯金やバイク、持っていた何もかもを押しつけるようにチームに渡し、レーサーをやめて姿を消した。

 

 もうずいぶん昔のように思う。

 

 

 ふと思い立って、ある場所に向かう。

 

 目的の場所、俺のセカンドハウスであり、川が増水した時の避難先でもある、公園の洞窟をもした遊具の中。

 そこで風子が膝を抱えてうずくまっていた。

 

「おい、何してんるんだ、こんな所で」

「……」

 

 俺の声に反応して、風子が顔をあげる。

 ずいぶん泣いたらしい、顔がぐちゃぐちゃだ。

 

「おまえ、喧嘩したんだってな。悲しそうな顔してたぞ、あの人も赤毛の執事も。気持ちはわかるけど良いのか?このままあの人と別れてしまっても」

「……」

 

 風子は何かが許せなかったんだろう、何かが、自分の中の感情がなんなのかわからず、翻弄されて。おまけに風子はそれを言葉に出すことも出来ない。

 

 思い出す、美しい金色の髪のあの人、茶目っ気たっぷりにウィンクした表情や、最後にあった時の悲しそうな表情。

 俺と出会うまで、いや、出会った後もずっと風子の心の拠り所になってくれた優しい女性。

 恐らく実の子供のように優しく、時に厳しく接してくれていたんだろう。

 

 だからこそ、感情があふれたんだろう、だからこそ……

 

「あの人、お前と同じ色だって自分の髪を嬉しそうに、触りながら言ってたよ。あとお前をあちこち探し回ったのか俺の所まで来て、お前の事を頼むって、最後に頭まで下げてな……」

 

 そんな人と、喧嘩別れのまま最後を迎えて……

 

「もう、二度と会えないんだぞ、それで良いのか?」

「ぅっ……」

 

 風子が必死に首を横に振る、そりゃそうだ、良いわけが無い。

 会いたいに決まってる、会って最後にお別れを言いたいに決まってる。

 

 だが俺に何が出来る?

 

 風子がネグレクトを受けてるかもしれないと思っていた時だって、俺は何もしなかったし出来なかった。

 また、結果的に何事も無くてよかったねってのを期待するのか?

 

 そもそもなんで俺はこんなことを言ってるんだ?

 こんな事を言って、風子から何を引き出そうとしてるんだ?

 

 

「……会いたいか?」

 

 

 何を聞いてるんだ俺は、俺は、俺は?

 誰のため何のため、何故、どうして。

 

 何故俺はユーリーが死んで走る事をやめたんだ?

 引き留める仲間やあの人の手を振り払って、逃げた先に何があった?

 

 俺はどうしたかったんだ、なんで逃げたんだ?

 

 

「……ぁ”あ”い……だ、ぎ!!」

 

 

 必死に言葉を絞り出す風子、ぐちゃぐちゃの顔から涙がこぼれ落ちる。

 

 何なんだ俺は、あの日から逃げて眠って、逃げて眠って、逃げて眠って。

 今日が人生最後の日になれば良いなと思いながら日々を繰り返し。

 

 その繰り返しの中で体も心も疲弊していき、こんな事しても意味は無い、間違っていると思いつつも誤魔化して。そしてまたそれを繰り返し、毎日を無意味に惰性に生きて。

 

 俺は何を、どうして、何を、何かを?

 自分の感情が分からない、風子と違っていい大人だというのに自分が何をしたくて、何をしなきゃいけなくて、何よりもそれらを決定する自分の感情が分からない。

 

 ぐしゃぐしゃに涙を流す風子から目をそらし、地面を見て、空を仰いだ。

 雲一つ無い空にはすでに朝日が昇り、今日という日がとっくに始まっている事を告げている。

 

 ふと、俺たちが居る遊具の中に、そんな混沌とした自分の中の感情とは無縁の

 

 優しい風が、吹き抜けた。

 

 

「わかった、任せろ」

 

 

 思わずそんな言葉が沸き出る。

 自分で言っておいて、思わず鼻で笑ってしまった。

 

 何が任せろだ、今の俺に何が、だが……

 

 

『俺もアイツの提督なら、その、面倒はちゃんと見ますから』

 

 

 でも約束してしまったんだ、よりにもよってあの女王陛下と。

 レーサーが女王陛下との約束を破れるかよ。

 

 

 だから少なくとも、今の俺には()()がある。

 

 

 俺は風子の手を掴み、歩き出す。

 そして道路の真ん中に立って、ちょうど走って来た車を止めた。

 

「アホッ!!死にてえのか!!」

「先輩、やめてくださいよ……」

 

 煙草をくわえた男が窓を開けて声を上げ、運転席の眼鏡の男がたしなめる。

 

「すまない、連れて行ってほしい場所がある」

「あぁ!?何いってんだてめ……えっ?あ、あんた、島、プロレーサーの島か!?」

 

 煙草をくわえた男が驚愕の表情を浮かべる。

 

「島?誰ですかそれ……それより私はそちらの少女の方が気になるのですが。もしかして誘拐……」

「アホか!!ユーリーに勝利しかけた……いや、事実上勝利した世界で唯一ただ一人の男だぞ!?お前親に何ならってんだよ!!って、それより島さん乗ってください、どこへでもお連れしますよ!!」

 

「いや先輩、リベッチオさんの店で朝食を食べる予定が……」

「うるせぇ!!そもそも朝からイタ飯とか気が乗らなかったんだよ!!そんな事より島さんを後ろに乗せて走る方が重要だ!!」

 

 はは、意外と有名人だな俺も。

 捨てたはずの過去の栄光、だがそれが役に立つなら今はありがたい。

 

「マジか。今、後ろに島が乗ってるよ……」

「いや、まぁ、いいんですが、少女がこまってるなら……」

 

 やたら興奮する煙草をくわえた男と、ブツブツと何か呟きながら運転する眼鏡の男。

 風子の手を握りしめながら、後部座席に乗り込む。

 

 向かう先はあそこ、あの場所だ。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 個人所有サーキット場『KURE』

 

 個人所有サーキットとは名ばかりで、複数のスポンサー(某コングロマリット等)からの莫大な援助を受け、広大なサーキットのみならず、巨大なモーター関連のショップやバイク、車の修理や開発を行う研究施設。さらには教習所や養成所、果てはそこに住む人間達の施設まで兼ね備えた一つの王国だ。

 

 国内、いや世界でも有数の走り屋たちが集う速度狂い達のメッカでもある。

 

 そして……あの人がいる場所。

 

「今度会ったらサインください、今度で良いですよ、急いでるんでしょ?」

「何か困った事があったら何時でも言ってください、お嬢さん」

 

 俺はそう言って笑う二人の男に礼を言って別れを告げ、サーキット場の正面広場を進む。

 たまり場にしているレーサーや、走り屋、バイク乗りたちが口々に俺の名を呼ぶのが聞こえた。

 

 そして広場中央、簡素な椅子とテーブル。

 広場にあるバイクや車が見渡せるあの人の特等席。

 

「虎瀬オーナー、ここで一番速いバイクを貸してください」

 

 突然現れた俺の前に、この王国の王でもある虎瀬オーナーが杖をつきながら立ち上がる。

 冷たい風貌で黒髪の長髪を後ろに束ねた壮年の美丈夫。

 

 過去のモータースポーツ界において闘争の化身と呼ばれたレーサーだったが、事故で片足を失いレースに出ることを断念するも、こうして王国を作り上げチームのオーナーとして再びモータースポーツ界に挑んだ、いや、挑み続ける人。

 

 その姿と、あまりに苛烈な気性故に、王と言うより魔王と呼ばれる事の多い人。

 

 この人の、失った足の代わりになって俺が世界王者になる……

 そう思った事も有ったっけかな。

 

「なんだ、ひったくりでもする気か?」

 

 そんな俺に、あの日以来ハンドルを握れなくなり、絶望して何もかも、すべてを捨てて逃げ出した俺に……冷たく、苛烈で、でもだからこそ格好いいあの時と変わらない様子で、吐き捨てるように問う虎瀬オーナー。

 

「バイクを物盗りの道具に使うような酔狂な性格はしてませんよ」

 

「ふん、俺のバイクを正面からよこせと言うようなアホは、今も昔も貴様ぐらいだ」

 

 誰よりも苛烈で強烈な虎瀬オーナー。

 そんな虎瀬オーナーに当時唯一食らいついたのが俺だった、何もかもが懐かしい。

 

「虎瀬オーナー……」

「貴様は今までなにをしていた?」

 

 俺の言葉を遮り問いかけてきた虎瀬オーナーに、俺はただ、一つの真実を淡々と語る。

 

「毎日野宿してました、魚取ったり、山菜採ったり、時にはゴミをあさったりなんかも。あと空き缶って結構良い金になるって知りましたよ」

 

「……なんだそれは、まるで野良犬、いや、正に負け犬だな」

 

 虎瀬オーナーが冷淡な微笑を浮かべる。

 だが直ぐに冷たい目で俺を見て、続けて問うた。

 

「必要としているのはわかる、だがな負け犬。それで何に使う?何のために走る?」

 

「自分がやるべき事をやりに……いえ、そんな格好いいものじゃないですね。あれです、昔惚れてた女の旅立ちを見送りに行きたくて。あとはまぁ、ついでにコイツも連れて行ってやろうかなと」

 

 後ろで、俺の服の裾を握っていた風子が見えるように立ち位置をずらす。

 虎瀬オーナーはちらりと風子を見て、再び俺をにらみつける。

 

 まるで俺のすべてを暴き出すような、鋭すぎる目つき。

 永遠にも思えた時間が流れ、ようやく虎瀬オーナーが俺から視線を外し、目を閉じて呆れたような様子で口を開く。

 

()か……陳腐な理由だが、負け犬が走る理由としては上等すぎるな」

 

 そう吐き捨てた虎瀬オーナーの顔は何故か……満足そうだった。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

「列車では間に合わん、ヘリも無理だ、艦連軍の基地から近すぎるし、そもそもそんな物すぐには用意できん。確かにバイクで高速に乗り、車を避けつつ平均時速230で走り続けられれば間に合う可能性がある」

 

 俺たちは地図を広げて、海護市の港がある目的地までの距離を計算し、十五時までに到達可能かをはじき出す。

 

「ふん、勝負勘は鈍ってないようだな。俺を頼ったのは正解だ、喜べ、その条件を満たせるバイクが一台有る」

 

 そう言って虎瀬オーナーの部下が一台の深青のバイクを持ってくる。

 

 驚く程スマートな流線型のマシン、だがその内部にはレギュレーションぎりぎりまでチューンされたすさまじい爆発力を生む鋼鉄の心臓が備わっているのを俺は知っている。

 

 何故ならそれは俺と黄金の時代を駆け抜けた、恋人と呼んだバイクだったから。

 

 そのフルオーダーメイドのバイクに名前は無い、虎瀬オーナーの意向だ。

 バイクはただその性能こそがすべて、速さのみがその存在証明。

 

「何時でもレースに出られるよう整備してあった一台だ。無論ナンバープレートやヘッドライト、テールランプ、ミラー何て上等な物は付いてない。こいつで走れば間違いなく免許を、そして貴様にとって命と同じ価値を持つライセンスも取り上げだ。それでも走るか?……ククッ、愚問だったな」

 

 俺の目をまっすぐ見て、質問を取り消す虎瀬オーナー。

 虎瀬オーナーは何人かの走り屋を集めて、地図を指さす。

 

「速度を上げて高速に乗る前に、この一般道の直線を封鎖する必要がある。時間もそうだが、タイヤウォーマーが使えん以上、タイヤを加熱するのはここしか無い。お前達、合図をしたら信号を操作してすべて赤に変えろ」 

 

 信号機を操作する鍵を虎瀬オーナーの部下が走り屋達に手渡す。

 何でそんな物を持ってるかなんて聞かない、聞く必要も今は無い。

 

 鍵を受け取った走り屋達がうなずく。

 俺のわがままのために危険を冒す男達に俺は何も出来ない。

 申し訳なさそうな表情の俺を見た男達が笑う。

 

「島さんの走りが特等席で見られる、そのためなら安いもんだぜ」

 

 そう言って、男達は持ち場に向かって走って行った。

 

「十三分待て、公道用のタイヤに交換して、後ろにちびが乗れるようにしてやる。あとガソリンだ、スタンドで給油してる暇なんて無いぞ、そのちびに背負わせろ。無くなったら継ぎ足せ、それも用意させる」

 

 慌ただしく虎瀬オーナーの部下達や走りや達が動き出す。

 

 見覚えのある、かつてチームの仲間だったスタッフが、当時俺が身につけていたレーシングスーツを持ってきた。

 バイクと同じ色の深青のラインの入った、黒を基調にしたヘルメットとスーツ。

 

 こんな物まで、まだ残してくれていたのか……

 目頭が熱くなるのを押さえ込む、俺に涙を流す資格は無い。

 

 そんなみんなの思いを踏みにじって、俺はこれから身勝手な俺の理由で走るのだから。

 

「虎瀬オーナー、この子の分も……」

「そいつは艦娘だろう、ならヘルメットもスーツも不要だ。喜べ、転けたら死ぬのは貴様だけだ」

 

 そう言って虎瀬オーナーは不敵に笑う。

 ああ、そう言えばそうだったな……

 

「分かってると思うがレースコースと高速道を一緒にするなよ。それ用にブレーキングも調整してやる。走りながら感覚を掴め、高速に乗るまでにだ。あと……忠告しとくが、このバイクは当時よりスペックが上だ。運転する奴の腕は知らんがな」

 

「それは……心強い」

 

 俺の自虐の混ざった言葉を聞いて、虎瀬オーナーが険しい顔をする。

 

「お膳立てはしてやる、後は好きにしろ。だがバイクは必ず返しに来い。もしちゃんと返しに来れたら……今度こそあのとき振るはずだったチェッカーを振ってやる」

 

 虎瀬オーナーは俺の顔をその大きな両手で挟み込み、力強く、あの日のようにそう言ってくれる。

 風子が俺の手を強く握りしめるのを感じた。

 

 十六歳の頃を思い出す。

 

 ただ走ってるだけで何の結果も残せなかったあの頃。

 初めてのレースの世界は子供の俺には大きすぎた。

 

 すごいプレッシャーを感じて、何度もクラッシュ、そして何度も吐いたな。

 

「……はい、必ず」

 

 だけど、幸い今の俺は子供じゃ無い、だからきっと出来るはずだ。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 高速に乗るための一般道の直線、その開始地点で俺は待っていた。

 

 久しぶりに会って乗った恋人は相変わらずの力強さで、押さえ込むのも一苦労。

 レースから離れていた俺には、ここまで運転してくるだけでも精一杯だ。

 

 周りには数多くのライダー達。

 

 彼らは俺たちを守るために一緒に走る、まぁ野次馬も多いだろうが。

 艦夢守市の警察は優秀だ、事態を重く見れば憲兵だってやってくる可能性がある。

 

 俺たちが走り続けるために、このライダー達はそれらを引きつける役目を負っている。

 損な役目だ、救えない、だと言うのに全員志願者というから信じられない。

 

 レースの時、周りのライダーはすべて敵だったから、この状況は違和感がひどい。

 

 ……だが、嫌な気分じゃ無い

 

 準備が完了したのか、ビルの上にいる人員が赤色の信号弾を打ち上げる。

 一斉に目で見える先までの信号が赤に変わりはじめた。

 

 もう後には引けない。

 

 ライダー達が一斉にアクセルを吹かし、すさまじいエンジンの爆音が辺りに響く。

 遅れてバイクの群れが発する熱が辺りを包み込んだ。

 

 その音を聞いて、後ろの風子が俺の腰をぎゅっと握りしめる。

 

 安心しろ、こいつらは俺とお前を守る仲間達だ。

 そして絶対、絶対に俺がお前をあの人の元に送り届けてやる。

 

 果せる根拠の無い誓いだ、平均時速230キロ、一般道で出し続ける速度としては狂気の沙汰。

 レースを離れてずいぶんたつ、技術、体力、自信、夢、そしてユーリー。

 

 あの頃にあったものは殆ど無い。

 

 でも、だけど。

 

 背中に感じる重み、あの頃には無かったもの。

 それが今の俺にはある。

 

 負け犬のレーサーと、艦娘になりきれない子供。

 

 半端者が二人。

 

 だけど俺たちは二人なら一人前だ。

 何故ならお前がいるから俺はこうやってもう一度ハンドルを握れる。

 

「先に言っとく。お前のおかげでもう一回走りたくなった、闘志がわいたって言うのかな……俺をここに戻してくれたのはお前だ」

 

 後ろを振り返ると、風子が不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 

「なんでもない、独り言だ……もう一度言うぞ風子、絶対俺から手を放すなよ?」

 

「……!!」

 

 小さな手で俺の腰にしがみつきながら、力強く返事の意味を込めて俺の背中に何度も頭突きをする風子。俺はそれが何故かおかしくて「痛いよ」と言いながら笑う。

 そして今度はバイクに向かって話しかけた。

 

「よう、今日の調子はどうだ?」

 

 吹かした音で、彼女が『過去現在未来どの瞬間よりも最高よ!』と答えたように聞こえた。

 なんだそりゃ、はは、俺もいよいよおかしくなってきたな。

 

 だが俺はそれが楽しくて、また笑みを浮かべる。

 

 レース前には感じた事の無い、ひどく落ち着いた気分だった。

 深呼吸、晴れ渡った青空を見上げる。

 

 様々な気候の土地を転戦し、世界中の空の下で戦った。

 だと言うのに、こんな青い空は初めて見る気がする。

 

「ああ、今日はいい天気だなぁ」

 

 思わずそんな言葉がこぼれた。

 

 視界全体に広がる青空が身体中に染み渡り、心は穏やかなのに腹の底が熱くなる。

 ひたすら綺麗な空だった、きっと俺は死に際にこの空を思い出すだろう、そう思える程に。

 

 周り数台のバイクの暖気が終わったのか、エンジン音が変わったのがわかった。

 名残惜しさを感じながら、視線を前に戻す。

 

 直線道路を走っていたすべての車が消え、準備が整う。

 打ち上げられる青の信号弾、正面の信号が青に変わった。

 

 

 さあ行くか、今日は人生最後の日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負け犬(しま)』と『駆逐艦:島風(かぜ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 停止状態からのレースマシンの加速力は、文字通りかっ飛ぶようなものだ。

 

 接地面積の小さいレースマシンだが、エンジンパワーは途方もなく大きい。

 ライダーとクルーの仕事は、いかにマシンの最大のパワーを引き出すか。

 

 高価なプロトタイプマシン、レース専用の特別仕様。

 エンジン出力は220馬力、重量約160キロ。

 

 搭載された最小限の機器が最大のパフォーマンスを生む。

 

 条件が整えば、例えば直線の長いコースならこのマシンの限界速度は時速340キロに到達する。

 四輪最大のモータースポーツでも最高時速320キロだと言うのに。

 

 俺たちの乗ったバイクは十秒たたないうちに190キロまで加速。

 その速度を維持したまま、艦夢守市の中央道路を駆ける。

 

 引きはがされそうな風圧を、ただひたすら気合いと筋力で押さえ込む。

 加速のGに肋骨がきしむ、まだ190キロだというのになまった俺の体は早くも悲鳴を上げた。

 

 だがこんな俺でも、かつてはユーリーに迫った男だ。

 まだまだこれからだろ、そう体に言い聞かせる。

 

 俺たちを追う他のライダー、だが初動の時点で既に差が付いている。

 だと言うのに彼らは食らいついてくる、さすがKUREのライダーどもだ。

 

 信号を一つ越えるたびに、役割を終えた奴らの歓声が聞こえた気がした。

 

 はは、まるでサーキットを走ってるみたいだな。

 

 だが異変に気がついた警察車両がちらほら現れ始める、クソッ、やはり早い。

 後ろに居たライダー達が、別の道に散ってゆく。

 

 警察車両は一瞬悩んだ末、捕まえやすそうな少数のライダー達を追う。

 ついてる、こっちを追う判断を下せる奴が乗ってたら危なかった。

 

 高速に乗り、250キロまで出せれば四輪車両じゃ絶対に追いつけない。

 何とか高速まで乗れれば……

 

 そう、一瞬気が緩んだ瞬間。

 

 

 目の前に信号無視をした一台の乗用車。

 

 

 一瞬で俺はかなり多くの観察と考察と判断を下した。

 まず、避ける事が可能かどうか、避けたあと走り続けられるか、ブレーキは間に合うか、タイヤの温度は大丈夫か。

 

 様々な選択肢と判断を積み重ねながら、頭の中で別の計算をする。

 

 バイクは単純な乗り物に見えるが、実際は四輪自動車に比べかなり複雑な動きを求められる。

 あれは動力学的に航空機に似ている、バイクの動きをそう分析する奴も居るほどだ。

 

 実際レース用のマシンは飛んでるようなもので、バイクがコーナーに侵入し60度に傾く時

 タイヤには二つの重力が働く。

 

 航空機でも同じ事が起き翼をもぎ取ろうとする。

 

 時速230キロでコーナーを曲がる時、地面に吸い込まれそうな感じになる。

 本来はバイクに重力が働き倒れるが、スピードが速ければそれだけ遠心力が働く。

 二つの力の釣り合いがとれるわけだ。

 

 だから車体を傾けても転ばない。

 

 コーナーでは外側に引っ張られる。

 だから倒れないように内側に傾ける。

 

 自転車でも同じだ。

 バイクはずっと速いけどな。

 

 そういったことを考えながら。

 

 

 

 俺は中央分離帯ブロックに乗り上げ、ジャンプした。

 

 

 

 我ながらバカな判断だ。

 

 乗り上げても事故が起こらないよう斜面がつけられ、等間隔に配置された低めの中央分離帯ブロック。とっさにそれを使いジャンプする判断を下すなんてな。

 

 だがシーズンオフの間、レーサーは何をしてると思う?

 

 答えは趣味と筋力増強を兼ね、モトクロス場へいってるのさ。

 

 バイクで宙を舞うモトクロスは心身の訓練に欠かせなかった。

 そして何より楽しい。

 

 自分がバイクに乗るのが好きなんだと、実感できた。

 

 てな訳で今俺は乗用車の上を飛んでる。

 全く復帰早々ひどいスタントを要求してくるな!!

 

 

「!?」

 

 

 着地の瞬間、風子が驚いたのか俺の腰をひときわ強く掴む。

 おお悪い悪い、大丈夫か?

 

 しかしなんだな、なんだか色々思い出してきたな。

 忘れていた色んな感覚が蘇る。

 

 後ろを走っていたライダー達が歓声を上げるのが聞こえた。

 

 まったく、俺はGPレーサーだってのにな。

 まぁ、タイヤも温まってきた事だ、そろそろギアを上げるか。

 

 

 そして俺たちの乗ったバイクはさらに加速する。

 

 散ってゆくライダー達。

 

 最後までついてきたのは、まだ免許を取ったばかりの年齢の子供のようだった。

 まるで十六歳の頃の俺のような、懐かしい目をしている。

 

 そして彼もまた、俺たちのために警察車両を引きつけるために散ってゆく。

 

 すまない、すまない、すまない。

 

 感情を押し殺し、俺たちは走り続ける。

 

 

 やがて無事直線道路を抜け、高速入り口ゲートを抜け、海護市に向かう直線の高速道路に出た。

 もう俺たちを守ってくれるライダーは居ない。

 だと言うのに、まだここから何時間もかけて走り続けなければならない。

 

 風子の体力が心配……いや、それよりも俺の方が心配だな。

 

「……」

 

 風子が心配そうに俺を見る。

 不安か?俺もだよ……

 

 だが走り続けるしか無い、大丈夫だ。

 

 まだ今日は……終わってないからな。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 それから俺たちは給油を挟み、走り続けた。

 風子はよくしがみついてる、平均時速220は出てたというのにだ。

 

 艦娘変わり前といえど、艦娘はだてじゃないという訳か。

 まったく、こっちはもうあちこちガタガタだってのに。

 

 だが、俺にも元プロレーサーという意地がある。

 まだまだ、いや、もう少しでいい、耐えてくれよ俺の体。

 

 途中何度も警察車両に追われたが、すべてを振り切る。

 

 本当にこのバイクは当時よりスペックが上だ、虎瀬オーナーやメカニック達はどんな思いでこのバイクを改良し続けたのだろうか。

 

 ……だめだ、考えるな。

 

 今は走り続けろ、すべての清算は風子を、送り届けてからだ。

 

 

 そうして自分の感情と身体を削りながら走り続ける。

 ひどい負荷がかかってると自覚していたが、だからなんだと言うんだ。

 

 どうせこれが最後だ、最後なんだ。

 

 何度も言い聞かせる、身体に、バイクに、そして心に。

 そうやって走り続け、やがて目的地まで残り百キロを切った時だった。

 

 後ろからものすごいスピードで迫って来たバイクが、俺たちを追い抜き、六メートル程前にピタリとつける。

 一瞬警察の高速バイクかとも思ったが、だとしてもこのバイクに追いつけるはずが無い。

 

 そして……警察のバイクはあんな色をしていない。

 

 緑色のバイクに乗った真っ白なレーシングスーツのライダー、見覚えがある。

 

 緑のバイクは『芝刈り機』の愛称で呼ばれるバイク。

 夕張重工最高のバイクエンジンを積んだ傑作機。

 

 機体名『YBR-GP』

 

 そして緑のラインの入った雪のような真っ白いスーツ。

 そんな色のスーツを着るような奴はただ一人。

 

 

 絶対王者ユーリー・タラソフ

 

 

「ユーリー!!」

 

 思わず俺は叫ぶ。

 

 俺を抜いて前に出たユーリー。

 わかってる、あれは幻だ、俺がずっと追いかけてる奴の幻影だ。

 

 わかってる。

 

 ユーリーはちらりとこちらを振り返り、笑ったような気がした。

 無意識に俺はアクセルを全開にする。

 

 加速し続ける俺たちのバイクは、時速は250キロを超えた。

 

 さらに加速、スピードメーターが260、270、280と上がってゆく。

 だと言うのにユーリーは俺たちのちょうど六メートル前を、ピタリと走り続ける。

 

 クソッ、あっちも加速してるんだ。

 

 既に幻影だというのは頭から抜け落ちていた。

 

 

 290………300………

 

 

 この速度になるともはや普通の車やバイクでは到底たどり着けない領域。

 だと言うのに差はまだ縮まらない。

 

 当然だ、奴が駆るバイクは夕張重工が心血を注いで作り上げた傑作機。

 

 だが、それはこちらも同じ。

 

 

 310…………320………

 

 

 すさまじい風圧と振動が俺を襲う、もはやこの速度では風景が認識出来ない。

 希にすれ違う車やバイクが、流星のように後ろへと飛び去ってゆく。

 

 飛びそうになる意識を、朽ち果てたプライドにすがり、必死につなぎ止め。

 悲鳴を上げ続ける身体を、絞りかすのような意志の力で動かす。

 

 そんな極限の状況の中、レーサーとして忘れていた最後の感覚が覚醒した。

 

 血が沸騰しているこの感じ。

 なのに、頭と視界は驚くほど冴え渡ってるこの感覚。

 

 俺の目はもはやユーリーしか見えていなかった。

 

 それ以外はすべてただの光だ。

 いや、今やユーリーすら白い光に包まれている。

 

 

 330…………340………

 

 

 限界速度に到達、だと言うのに感覚的にはまだ加速してるように感じる。

 世界から音が消えた、もう頼りになる感覚は振動と狭い視界だけだ。

 

 加速するにしたがって、ユーリーの白い光に緑が合わさったような色が混ざり始める。

 

 ある国ではライダーの事を『ケンタウロス』と呼ぶ。

 

 神話の中の半馬半人の生物だ。

 ライダーも同じでマシンと一体化する。

 

 恐らくユーリーは本当にバイクと融合を始めたのだろう。

 光の帯を残しながら、さらに加速するユーリー。

 

 

 だが奴に出来て俺に出来ない道理は無い。

 

 

 俺は、俺は、今度こそユーリーに勝つ。

 そして俺の物語を終わらせる、完結させる。

 

 そうだ、あの日から、夢見てた、ただそれだけを。

 ユーリーに勝つ、ただ、それだけを、夢に……

 

 

 歯を食いしばる、身体中が燃えるように熱い。

 いや、きっと俺も光に包まれ燃えてるのだろう。

 

 

 ユーリーのように。

 

 

 そしてそこに到達するとは想定されてない数字。

 

 

 

 ………360

 

 

 

 速度 計の針がそこ を指し ていた 。

 

 

 

ユ ーリーと の差が

 

 

つい に縮まって ゆく。

……ああ、よ うやくか

 

 

待た せたな、ユー リー

 

 

あ のな

こ こまで来 るの

 

 

大変だっ たんだ ぜ

 

やっと、おいつ いたよ

はは、疲れ たな

 

 

目の前の エメラルドグ リーンの光

 

 

伸ばす

綺 麗だな

 

その 光に手を

 

 

 

 

 

 

 

ゆー りーに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

て を… …

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それであの子がAdmiral……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『提督をみつけたんだって、わかったの』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すべてが光に包まれそうになった瞬間

 

 

 そう……言った誰かに

 

 

 汚い顔でぐちゃぐちゃに涙を流しながら

 

 

 会いたいと叫んだ奴が居たという事を思い出した。

 

 

 そいつは今でも俺の腰に、必死にしがみつき続けている。

 急速に夢から覚めるような感覚。

 

 背中に感じる感触が教えてくれる。

 そうだった、俺たちは今、二人で走ってたんだったなと。

 

 いつの間にか俺は、一人で走っていると思い込んでいたようだ。

 

 先をゆくユーリーの幻影、それに向かって声を上げる。

 

 

「すまんユーリー!!俺たちのフィニッシュラインはそっちじゃないんだ!!」

 

 

 高速の降り口を示す『海護市』の看板、速度を落とし降り口に向け左折する。

 最後に一瞬見えたユーリーの幻影が、ふっと笑って消えた。

 

 すまんなユーリー。

 

 勝負はまた()()()にしよう。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 高速を降り、港を目指す。

 既にガソリンは殆ど無く、港にたどり着けるか怪しい。

 

 いや、それよりもいよいよ本当に俺の身体の動きが怪しくなってきた。

 少しでも気を抜けば意識が飛びそうで、身体ももう殆ど動かせない。

 

 どうした、昔は一日中でも乗り続けられたと言うのに。ブランクがここまで酷いとはな。

 幸い周りに警察車両は無く、農地に囲まれた平坦な道路なのでそこまでキツくは無い。

 だが、だからこそここでも距離を稼ぎたいというのに、俺の手は思うように動いてくれない。

 

 ふと、先ほどのユーリーの幻とのレースを思い出す。

 

 むしろあれが無ければまだ高速道を走り続けていた可能性が高く、下手をすれば意識を失っていたかもしれない。

 そう考えれば、あのユーリーの幻は俺たちを引っ張ってくれていたのか。

 

 ……まさかな。

 

 そう自嘲した瞬間、砂が散らばった道路の上を走ってしまい、バランスを崩して車体を倒してしまう。

 完全に集中力が切れていたのか、普段なら絶対しないミスだ。

 

「っ!?」

 

 バイクがスリップし、俺と風子が道路に投げ出される。

 そんな状況でも、風子は俺を離さなかった。

 

 はは、根性あるな。

 

 俺たちは何度かバウンドしながら、道路の上を十メートル程滑り、止まった。

 幸いスーツのおかげで俺は大きな怪我はなさそうだ、風子は当然無傷。

 

 あまり速度が出てなかったからか、バイクは俺たちよりさらに十メートル程先に転がってる。

 

 直ぐに出発しようと、必死に体を起こそうとする。

 が、なぜか俺の体はぴくりとも動いてくれない。

 

 ……おい待てよ、まさかこんなところでか?

 

 風子が心配そうに、俺をのぞき込む。

 すまん風子、すぐ、直ぐ起き上がるから。

 

 そう口に出したつもりだったが、声すら出てくれない。

 そんな俺にしびれを切らしたのか、視界から風子が消えた。

 

 ああ、そうだ、そうだな。

 俺を置いてあの人の所に向かえ、大丈夫、もう、そう遠くないはずだから。

 

 

 あの人に、お前の大切なあの人に、会って……

 

 

 目を閉じる、脳裏に浮かぶのは出発前に見たあの青空。

 ああ……つまりそういう事か、ここが俺の終着点か。

 

 やっぱり、俺はたどり着けずに死ぬのか。

 あー、悔しいな……

 

 

 …………?

 

 

 だが意識が落ちかけた瞬間、何かを引きずる音が聞こえる。

 視界が揺れる、なんだ、この音は。

 

 もしかして、俺を引きずる音か?

 

 何とか首を動かすと、風子が必死に俺を引きずっていた。

 

 おいおい、いくら艦娘だからってそんな小さな体で、大人の男を引きずるのは大変だろうが。

 

 それでも、風子は必死に俺を引きずり、バイクの所まで運ぶ。

 そして俺を置くと、風子はバイクのエンジンを掴んで起こそうとする。

 

「ぉおお゛お゛」

 

 エンジンの焼ける、チリチリという音、いや、焼けてるのは風子の手か?

 ばか、さっきまで走ってたバイクのエンジンだぞ、触ったら火傷するに決まってるだろ。

 

 それでも風子は何とかバイクを立てようと必死にがんばっている。

 

 おいおい、やめろよ、あの人に会いたいのはわかるけどさ、そんなに必死に……

 

 

『先に言っとく。お前のおかげでもう一回走りたくなった、闘志がわいたって言うのかな……俺をここに戻してくれたのはお前だ』

 

 

 ……いや違う、風子は俺のために必死になってくれてるんだ。

 

 何故かそう感じた。

 はは、なんだなんだ、これは提督だからそう思うのか?

 

 だけどそれは問題じゃ無い。

 

 そうだな、そうだ、俺たちでゴールしよう。

 体が動く、どうやら転けた事による一時的なものだったらしい。

 

 俺はゆっくりと立ち上がり、バイクを起こす。

 

 風子が心配そうに俺を見上げる、大丈夫、まだ走れるよ。

 口には出さず、ヘルメットのバイザー越しにそう目で伝える。

 

 我ながら緩慢な動きでバイクにまたがると、風子は嬉しそうにバイクを這い上り、後ろに座った。

 

「……しかし、お前はそこが好きだな」

「……!!」

 

 俺の言葉を肯定するように背中をたたく風子。

 ついこの間と同じやりとり、だがもうずいぶん昔の事のようにも感じる。

 

 さあ行くか、俺はセルスイッチを押し込む。

 この動きだけは十六歳の頃から変わらんな、漠然とそう思った。

 

 すこし遅れてエンジンが再び動き出す。

 

 バイクが『もぅ、今度こそちゃんと最後まで走ってよね』と、ぶつくさ言いながら、渋々エンジンをかけてくれた様な気がした。

 

 わかってる、今度はちゃんと最後まで走るから。

 

 

 そうして俺たちは再び走り出した。

 農業地帯を通り過ぎ、山道に入り坂を上ると、やがて港を見下ろす場所に出る。

 

 恐らくそれと思われる豪華客船の姿が見える、汽笛を鳴らし出港を告げていた。

 

「……!!……!!」

 

 嬉しそうに、そして早く早くと言わんばかりに、俺の背中に頭突きをする風子。

 

「飛ばすぞ!しっかり掴まってろ!!」

 

 最後の力を振り絞り、俺はアクセルを開けた。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 近くの船着き場、そこにたどり着いた時には既に船は数百メートル先だった。

 

「うそだろ……」

 

 あまりのショックに脱いだヘルメットが手から滑り落ちて地面に落ちる。

 ユーリーに負けた時でもこんなに悔しくはなかった。

 

 ようやく、ようやくこれたって言うのに、ようやくゴール出来たというのに。

 そうだよ、勝てなきゃ悔しいに決まってるんだ……

 

 くそくそくそ!!

 

 だが、風子はバイクから飛び降りると、俺を見てこれ以上無いような笑みを浮かべる。

 そして、桟橋から海へと飛びおりた。

 

「おっ、おい!?」

 

 海上に着水する瞬間、風子の体を光が包み込む。

 

 短かった金色の髪は一気に長く伸び、身長も少しだけ伸びた気がした。

 さらに身につけていたオーバーオールがきえ、水兵の服装、セーラー服へと変わる。

 

 そして、現れる艤装と呼ばれる装備。

 

 水面に立つその姿は、過去世界を救ったとされる者。

 かつて海を支配していた深海棲艦に戦いを挑んだ物。

 最後の最後まで、人の為に戦い抜いた人類の救世主。

 

 

 艦娘と呼ばれる存在。

 

 

 艦娘変わりは、徐々にゆっくり起きると聞くが……

 まぁ三年も我慢してたんだ、こういうこともあるんだろう。

 

 唖然とする俺を見て、風子は少し涙を流しながら、高らかに声を上げる。

 

 

「ありがとう提督!!戻ったら私の名前、教えてあげるね!!」

 

 

 初めてちゃんと聞く彼女の声は、まるで青空に響く美しいカモメの鳴き声のようだった。

 そして風子は、船へと向けて猛スピードで水上を走り出す。

 

 

「……バレバレだよ」

 

 

 知ってるよ、知ってたよ。

 だってガキの頃から自分のバイクには、お前のステッカー貼ってたからな……

 

 幸運を司る艦娘に縋りたくなる事もあるし、女王陛下に恋もするが、何よりもこの国のレーサーにとって魅力的な艦娘はお前だったのさ。

 

 最速で戦場を駆け抜けた艦娘、御利益をあやかるならこれ以上は無い。

 俺以外のプロのレーサーでも当時は……いや、今でもか。

 お前のステッカーをヘルメットやバイクに貼ってる奴がいた。

 

 最速を夢見るレーサーたちが愛してやまない艦娘……その名は

 

 

 

「島風型1番艦、駆逐艦……島風」

 

 

 

 船に向かいすごいスピードで駆けてゆく風子……いや、島風。

 

 

「やっぱ、はええな」

 

 

 思わずそんな感想がこぼれる。

 

 船の後ろのデッキから涙を流し、必死に手を振る女王陛下が見えた気がした。

 そして島風も手を振り返す。

 

 約束、果せたかなぁ……

 

 後ろからサイレンの音が山程聞こえてきた。

 ようやくご到着か。

 

「ようやく追い詰めたわ。もう逃がしはしないわよ!」

「やだ……マジ、センパイっ落ち着いて!?」

 

 真っ先に到着したパトカーから降りてきた、艦娘と思われる水色の髪と緑の髪の二人の警官。

 彼女達に抵抗はしないと示すように、両手を上げながら俺は言う。

 まるであの日やり損ねた、勝者のインタビューに答えるような気分だった。

 

「お騒がせしてすみませんでした。俺はどうしてもらってもいいんですが……このバイク借り物なんですよ。悪いんですがこれだけは丁重に運んでもらっていいですかね?」

 

 俺の言葉を聞いて二人の警官は『はぁ?』と聞こえてきそうな表情を浮かべた。

 

 確かにこんな大それた事をしておいて、言う事じゃない。

 インタビューの答えに失敗した気分だ。

 あの日勝ってたら俺は何と答えたのだろう、いや、今はそれどころじゃ無い。

 

 俺は何かもっと良い言葉は無いものかと考えを巡らせ、答えを探し空を仰ぐ。

 視界に飛び込んできた空は出発前と変わらず青い。

 

 が、特に良さそうな答えは浮かばない、参ったな。

 ふと、汽笛の鳴る音が聞こえて海の方に目をやる。

 

 

 そこでは、俺を提督と呼ぶ艦娘と、俺が憧れた艦娘が海の上で抱きしめ合っていた。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 一発免停を遙かに超える速度でかっ飛ばした俺は、無事免許もライセンスも没収され、オマケに艦夢守市警察署の留置所にぶち込まれた。

 だがどこかのオーナーが保釈金と罰金を払った上に、弁護士の手配までしてくれたらしく、なんとか刑務所には行かずにすんだようだった。

 

 もう一生頭が上がらないな……

 

 そんなわけで税金の無駄である俺を何時までもいれておく留置所は無いと、あっさり追い出されたわけだが、何故か表の駐車場には虎瀬オーナーのバイクと、それに乗った島風の姿。

 

「てーとく、おっそーいー!」

「待たせたな、島風」

 

 出迎えの島風の言葉に思わずため息と笑みがこぼれた。

 島風も笑みを浮かべる。

 

 しかし、このバイクはどういう事だろうか、確かにKUREのバイクだと伝えたはずだが。

 まさかレッカー代の節約のため、自分で押して持って行けと言う事なのか?

 

「オーナーから伝言だよ、今度こそちゃんとフィニッシュラインを踏め、だからバイクは自分で返しに来いってさ!」

 

「本気か……」

 

 だがそう言われたら……やるしか無いよな。

 しかし免許が取り上げられてしまった俺にはこのバイクは重い。

 

「ほらがんばってー!」

 

 バイクに乗ったまま、島風が急かしてくる。

 せめて降りろよ……

 

「と言うか、お前よくしゃべるな。前とは大違いだ」

「えへへ、なんだか提督と話せるのが嬉しくって!!」

 

 やれやれ、そう言われてしまうとどうにも強く言えないな。

 俺はどうやら自分の艦娘には甘いようで、黙ってバイクを押し始める事にした。

 

 日射しが照りつける、熱いったら無い。

 そして何より人目がすごい。

 

 周りの人間には、パンクかガス欠のせいで、ヒーコラ言いながら汗を流し、子供を乗せたバイクを押す間抜けな男に見える事だろう。

 

 だが、先ほどすれ違った少年は「チームKUREのバイクだ……」と呟きながら驚いた目でこちらを凝視していた。

 まああの位の年の男の子は車やバイクに……いや、大人になっても男は皆マシンに夢中だな。

 

「ねー提督?」

「なんだ?」

 

「私レーサーになりたい!」

「おまえ簡単に言うけどなぁ……」

 

 艦娘がレーサーになるのは難しい。

 

 普通の純粋な身体能力を競うスポーツと違い、機体の性能に依存する部分もある競技なのでなれないわけじゃ無かったはずだが、選手期間は十年だとか、転倒の度合いによって特殊なポイント増減があったりとか、他にも色々規定があった気がする。

 

 あとそもそもが艦娘と言えど、トップクラスのレーサーと戦うには難しい。

 

 確かにある一定のラインまでなら、頑丈で尚且つ身体能力がある艦娘は有利だ。

 だがレーサーというのはそれだけじゃないし、極限まで磨かれた人の神経や感覚というのは艤装を展開していない艦娘よりは上というのが未だ一般論である。

 

 故にモータースポーツの、しかもトップクラスの世界で戦えるようなのは、艦娘でも極めて希だ。

 

「でもオーナーは良いって言ってくれたよ?走って見せたらそう言ってくれたの。あ、コーチは提督に任せるって」

 

 信じられん。

 

 だが虎瀬オーナーが認めたと言う事は素質は有ると言う事だろうか。

 そしてさりげなく就職先が決まってしまった。

 

 ……いや、虎瀬オーナーの指示ならまぁ、従わないわけにはいかないよな。

 

「でもおまえ、勝負の世界は厳しいぞ?毎日が戦いだ、クソみたいなトレーニングもある、艦娘がその辺どうなのかは知らんが確か専用のトレーニングがあったはずだし、いざレースに挑むのにだって大事な事が山程……」

 

「もー!分かってるよそんなの!!でも私はまず走りたい!走って楽しみたいの!!」

 

 その言葉を聞いて俺は何も言えなくなった。

 ああまったく、その通りだな。

 

 ははは、成る程、こいつは確かにレーサー向きだ。

 さすが虎瀬オーナーだ、見る目がある。

 

「なら虎瀬オーナーに色々お願いしないとなぁ」

「うん!がんばる!」

 

 おうがんばれがんばれ、しかしあれだ。

 俺はさっきから一緒にバイクを押してくれる謎の金属生命体が気になっていた。

 

 一番でかいのと中くらいのが押すのを手伝ってくれて、小さいのは俺によじ登ってる、なつかれてるのだろうか?

 

「……こいつら、艤装だろ?格納しなくても良いのかよ」

「大丈夫だと思うよ?海上じゃないと砲撃も出来ないし、それに個別で入ってる燃料が切れたら勝手に格納されるから」

 

「へー、この前艤装展開したのが何日前だ、結構立つけど燃料って結構持つんだな……」

「持つわけ無いじゃーん、燃料補給してるんだよ」

 

「ん、お前がか?よくそんな金あったな?」

「うんうん、オーナーが入れてくれてるみたい。この前こっそりとガソリン入れてるの見た!!」

 

「は?」

 

 昨今の燃料不足による燃料の高騰、決して安いものでは無い。

 その燃料を?虎瀬オーナーが?意味も無く?

 

 そもそもこいつらは重油とかじゃ無くて、ガソリンで動くのか?

 

「連装砲ちゃんの事見て、何時消えるんだ?って聞いてきたから燃料が切れたら勝手に消えるよ?って教えてあげたら毎日燃料あげてるみたい!!」

「あ、うん、そうか……お礼言っとけよ」

 

「うん!!」

 

 そうか、ふーん、あの虎瀬オーナーが。

 

 

 

 ……意外すぎる。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 汗だくになりながらバイクを押し、ようやく『KURE』に到着した。

 

 KUREの走り屋たちが俺たちを出迎え、祝福の言葉を掛けてくる。

 チャンピオンにはなれなかったが、どうやら俺はレーサーの女神のために駆け抜けたケンタウロスというよく解らん扱いらしい、なんだそりゃ。 

 

 そんな俺を見て「貴様にはこれで十分だ」と、お子様ランチの旗みたいなチェッカーフラッグを振る虎瀬オーナー。

 

 それが連装砲ちゃんの件もあってやたらおかしく、ついつい笑ってしまった俺。

 その俺の笑顔を見て、虎瀬オーナーが憲兵でもぶち殺しそうな顔をしたので慌てて話題を出す。

 

「そ、そう言えば風子……いや島風をバイクに乗せてやったそうですね」

「ふん、まあな……どこぞの負け犬より筋が良い。化けるかもしれん」

 

 そう言って愉快そうに椅子に腰掛ける虎瀬オーナー。

 俺も虎瀬オーナーの前にある椅子に座る。

 すぐさま俺の膝の上に島風と連装砲ちゃんが乗ってきた。

 

 文句の一つでもいってやろうと思ったが、連装砲ちゃんが俺になついている様子を見て今まで見た事の無いような驚愕の表情の虎瀬オーナーを見てしまい、したいようにさせる事にする。

 

「しかしそこまでですか、どうせならユーリーを超えるようなレーサーになってほしいですね」

「スピードなら誰にも負けません。速きこと、島風の如し、です!私には誰も追いつけないよ!」

「いやお前、それ海上での話だろうが……」

「おなじおなじ!それより提督、さっき言いかけてたレースに挑むのに大事な事って何?」

「ん?そりゃお前色々あるけど……」

 

 そんな俺たちを見て虎瀬オーナーが呟く。

 

「ユーリー、ユーリーか……今日辺りまた来るかもしれんな」

「え?」

 

 虎瀬オーナーにもあの幻影が見えていたのだろうか?

 それとも本物の幽霊が?

 そんな事が頭をよぎった瞬間、正面ゲートから女のでかい声が聞こえてきた。

 

「今日こそあの人を出すんだ!!もしくは居場所を教えるんだ!!」

 

 ずかずかとこちらに向かってくる、毛皮の帽子と空色の上着を身に纏った少女。

 年頃の少女にしては背が高く感じる。

 

 その少女がこちらまで来て、俺を見た途端に固まった。

 

「あっ……」

「お嬢ちゃん、ここがどこだか……」

 

 たしなめようとした俺の言葉を遮り、少女が声を上げる。

 

「Здравствуйте! 嚮導駆逐艦、Ташкент! はじめまして同志Адмирал! はるばる来てみたよ!」

「は?」

 

 なんだって?た、タッシ?タッシなんだって?

 北の言語みたいだがよく解らない。

 

「ユーリーの娘だそうだ。そして艦娘でもある。なんでも子供の頃にレース場で貴様を見て、貴様が自分の提督だと分かったらしい」

 

 心底めんどくさそうに説明してくれる虎瀬オーナー。

 

「え?は?うえ?」

 

 と言うかユーリーの娘で艦娘?

 それよりも俺がこの少女の提督?

 

 ……なにそれ?

 

「あたし、パーパに師事してレーサーを目指してたんだ!!パーパが言ってたよ!!俺に勝てるとしたらシマだけだって!!だからパーパの代わりに……うんうん、君がいいんだ、君だからこそいいんだ!!私と一緒に夕張重工に来て!!大丈夫、夕張マーマも賛成してるよ!!一緒に世界を取ろう!!」

 

 え、夕張マーマ?

 夕張って夕張重工の夕張?

 

「お゛ぅっ!?ちょ何言ってるの!!提督は渡さないんだから!!それに世界最速のGP王者には提督と一緒にこの島風がなるの!!」

 

「うん?何を言ってるのさ、世界最速の駆逐艦はずっと昔から私、Ташкентだよ!!」

 

「海上の話で、おまけに瞬間最高速度だけでしょ!!燃費と航続距離は圧倒的にあたしの方が上なの!!最速で走り続けられるのはこの島風なんだから!!」

 

 言い争いを始める島風とえっとタシュケント。

 正直急展開すぎてついて行けない……

 

 助けを求めようと虎瀬オーナーを見ると、連装砲ちゃんを連れて給油場へと向かおうとしていた。

 慌てて虎瀬オーナーに追いすがる。

 

「と、虎瀬オーナー!!どこに行くんですか!?」

「ええいうるさい!貴様がまいた種だろうが!!自分で何とかしろ!!」

 

 虎瀬オーナーは珍しくちょっと焦ったような感じで、連装砲ちゃんを引き連れ去って行った。

 焦ると言うより、このチャンスを逃すまいといった様子で。

 

 ドンだけ連装砲ちゃんが好きなんですか……

 

 恐る恐る振り返ると二人の艦娘の戦いは、言い争いからとっくみあいへと変貌していた。

 タシュケント、艦娘といえどユーリーの娘には違いないのか、負けず嫌いそうだ。

 

 ふと、俺はたった一度、ユーリーと一緒に飲みながら話した内容を思い出す。

 俺が初めてGPクラスのレースに参加した年に、バーで偶々出くわした時の事だ。

 

 

『島、宿敵の存在を呪わず感謝しろ。賢者は敵から多くを学ぶ』

 

 

 意外と多い自身の失敗談なんかと一緒に、そんな事を語る姿はどこか嬉しそうだった。

 まぁ今にして思えば、だけどな。

 

 

『だからこれからも俺を脅かし続けてくれ。頼んだぞ』

 

 

 あの時は何を偉そうにと憤ったものだが……

 

 そうだな、ああそうだ。

 

 ユーリー、あんたの娘と島風は良いライバルになりそうだ。

 俺と……あんたみたいにな。

 

「あーもう、なにやってんだお前ら。やり合うなら走りで戦え!」

 

「駆けっこで勝負すればいいの?負けないんだから!」

「このТашкентとレースをお望みかい。いいよ!」

 

 俺の言葉を聞いて、最速の名を背負った二人の艦娘が望むところだと笑う。

 

 はは、そうだ。

 レースに挑むのに何よりも大事なのはそれ。

 

 情熱……そしてそれを生む愛だ。

 

 短い言葉だ、だが結局の所俺たちを駆り立てるのはそれしかない。

 

 だから命を懸けられる。

 毎日が人生最高の一日、そう思って走れるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『負け犬』と『駆逐艦:島風』

 

 おわり

 




イベントお疲れ様でした。

※新設定 場所と状況次第だが、敬称付きであれば一般人が本人前で艦娘名呼んでもセーフ。


2020年03月10日 追記
パテヌス様からとてもステキな風子(島風)のイラストをいただきました。

うれしい……うれしい……

詳細はこちら
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=234013&uid=34287
 

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