新提督と共に、ついに軽空母の出番。
よし、ラブコメの時間だ。
僕は一乗寺明。
第五宇宙に君臨する運命神ズィーウンの下方使徒だ。
使命を果たすために、僕はこの惑星にやって来た。
現在僕が使用している外殻は、この惑星で文明を発展させている二足歩行種族の幾何学的平均値で構成されており、機能は下方使徒の超感覚に対応するように改造されている。
僕の隣で原形質補給を行っているのは『飛鷹』。
朱と白のコントラストが鮮やかな服装で、長い黒髪は原形質補給の邪魔にならないように、くるくる巻きにしてブローチで留められている。
実のところ飛鷹は現在この惑星に存在している最大数の知的生命体と、見た目こそ同じだが全く別の種族の知的生命体である。
僕は彼女の種族がこの星系の支配者の使徒ではないかと推察していた。
そのため飛鷹は僕に与えられた使命遂行にあたって、極めて重要性の高い調査対象でもある。
“僕ら”の最終目的は、この惑星系の支配者を運命神ズィーウンに従わせることだ。
最もその最終目的を達成するまでには多くの段階プロセスがあり、また現状問題を多く抱えていることから、目的達成には莫大な時間を要すると推測されている。
よって状況が変化しない場合は、恐らく僕の外殻耐久年数程度では数百段階あるプロセスの第一段階である、情報収集ですら完了しないと推測されていた。
現状の問題の一つとして、飛鷹は僕にこの世界について教えてくれる貴重な協力者で、『トモダチ』と分類されるレベルの協力関係を結んでもいるのだが、協力的過ぎるのが問題なのである。
そのどこかに僕に対する情報操作が入っている可能性を考えると、……理解が難しすぎる。
本来それら考察判断の役割を担う上方使徒の応援を仰ぎたいが、上方使徒とはこの星に降り立った時にはぐれて以来連絡が取れない。これが現状最大の問題だ。
そのため、僕は本来の役割ではない情報精査やすべての行動判断とそれら決定を、単体で行わざるを得ない状況に置かれていた。
よって現状、それら頭脳労働(土着種族表現)の能力が低い僕は、提供された情報が正しいものとして行動するしか方法がないのだ。
そもそもこの世界の概念は難解すぎる。
僕は現在、幼体の育成過程を調査しているが、凄まじいばかりの情報供給に少しばかり辟易している。
上方使徒と下方使徒の役割のどちらもこの生命は単体でこなすのである。
どちらの方向にも中途半端な能力しか持てないのはそのせいだろう。運命神ズィーウンにこの星を捧げる際には、しかるべき建白書を提示するつもりである。
「足柄御前、二杯目をいただきたい」
僕は現在拠点にしている『コーポ第五』と呼ばれる経年劣化著しい八ブロック(八つの住居区画)の容量を持つ木製の建築物の管理者である『足柄』と呼ばれる飛鷹と同じ種族の生命体に皿を突き出す。
拠点内には『食堂』と呼ばれる、共用のエネルギー物質の生産と補給を行う施設があり、現在僕らはそこで規定時刻毎に供給される、足柄御前が生産したエネルギー物質を補給していた。
「はいはい一乗寺君、大盛りにする? それとも少な目?」
イネと呼ばれる植物の種子を盛る足柄御前に、僕は答える。
「足柄御前、恐れながら申し上げますとエネルギーはまだ足りていません。大盛りで願いたき候」
「あはは、一乗寺くんはいつも沢山食べてくれるから作りがいがあるわ。ルーの量はどれくらいがいいかしら?」
足柄御前は容器のカバーを開いて、内部のどろどろとした内臓のような色のゲル状混合物を長い操作用の棒がついた半球状の金属容器ですくう。
「副食の量も大盛りで願いたい。あふれるほどに」
「はいはい、しっかり食べなさい。ほら、カツも乗せてあげるわよ」
僕は表面張力の崩壊するぎりぎりまで混合物がたたえられた皿を受け取る。
「恐悦至極。それにしても相変わらずファジーなエネルギー補給方法とお見受けする。感動に値いたします」
この外殻を使用するようになってから、まず問題になったエネルギーの補給だが、コーポ第五に拠点を置いてからは足柄御前の協力により定期的にエネルギーの摂取が可能になった。
作戦完了の暁には足柄御前に、相応の恩賞を与えるよう申請するつもりだ。
そして僕は飛鷹の視線に気づいた。
「どうしたの? 飛鷹? なにか変かな?」
「その、相手によって時々変な口調になるのなんとかならない? 明くん」
「どうしてだい?」
「だって変じゃない? なんというかその独特というか古風な言葉遣いというか」
しかし現地で得た情報によると『艦娘』と呼ばれる種族には、独自の儀礼的価値観を以て接するのが基本とされている。
なぜか僕はそれらに準じる必要は無いと、飛鷹や足柄御前からは許可をもらっているのだが、それらを抜きにしても足柄御前に対しては、現地上級階級者への対応を以て当たるべきとの判断が下っていた。(理由は上記協力に対する支援活動評価)
ヒエラルキーの維持は最優先であるが、土着種族の価値観に順応するのも重要だ。
僕は飛鷹に答える。
「僕も迷ったんだけど、ズィーウンの使徒として土着種族の価値観に順応する方がいいって統括使徒からの判断が降りたんだ」
下方使徒の本来の行為ではないため、エネルギーの消耗が激しく、頻繁には行えないが。僕だけでは判断が不可能で、なおかつ緊急性の高い問題の場合、統括使徒に判断を仰ぐことができる。(年に一回程度)
上方使徒とははぐれてしまったが、幸い統括使徒の外殻は僕が保持していた。
僕の部屋の端にある『床の間』と呼ばれる場所に、過ごしやすい低温で湿度が一定な空間。こちらの用語ではレイゾウコと呼称し原形質保存に利用されるものを僕は設置し、統括使徒の外殻を維持していた。
僕はその扉を開け第七感覚器官を使用することにより、統括使徒に意見を伝えることができる。
ちなみに統括使徒の最新の指示は『潜伏及情報収集優先他要項空気読後独自判断許可』だった。
なお、例外とし飛鷹には通常の会話プロセスを使用している。
彼女からの強い要請と、それを行うにあたっての交渉の結果である。
「足柄さんはどう思います?」
「いいじゃない、変な方向にクソ真面目な感じが息子にそっくりで懐かしいわ」
楽しそうに笑うその様子に、僕から足柄御前への現状の言語選択は問題ないと判断する。
だが飛鷹にとって足柄御前の返答は納得いくものではなかったようで、深いため息をつく。
「わけ分かんないわ」
飛鷹と僕の関係が難しいものであるのは確かだ、だけど彼女にとってなにか問題があれば協力者として解決に力を貸すべきと現状は決めている。
なぜなら飛鷹は僕が最初に発見した、僕の説明に対して、感情的な忌避感を持たなかった土着種族だからだ。
僕はその日のことを思い出す。
ここにベースキャンプを開いてから、僕は積極的な広報活動を開始した。
だが人々は全く聞く耳を持たなかった。たまに立ち止まってくれる人も、僕がズィーウンの宣告について話し出すと、そそくさと離れていってしまう。
彼らは、なにか、本能的に聞いてはならないことを悟って、逃げ出すのだろうか?
そうだとするならば、僕たちは完全に存在を把握されているということになる。僕は不安になりながら、活動を継続した。
彼女が声をかけてきたのはそんな頃だった。
「ねえ、あなた、一乗寺明ってあなたよね?」
「そうだけど」
放課後、教室で教科書を片付けていた僕に彼女は声をかけてきた。
飛鷹の種族は本来、僕が選択した外殻の種族とは隔離された区画で教育を受けるらしいのだが、彼女は何故かこの区画に移ってきた変り種だ。
もっとも、このときは彼女たちの種族と、使用している外殻の種族が違う物という情報が無かったので、そのことに関しての情報はあとから得たのだが。
一部のクラスメイト以外、飛鷹に対しては遠巻きに接していて、それに習って僕も四月に転校してきてから一週間、おはようの挨拶しかしたことはなかったのだが。
「私はえーっと、そのね、その。出雲ま……じゃなかった。飛鷹よ」
「知ってるよ、飛鷹さん」
飛鷹がその時名乗ったのは、何故か彼女の個体としての種族名である判別名称だった。
別のクラスメイトが会話していた情報を取得していたため、僕はそのこと(飛鷹の固有名称のみを指し、艦娘に対しての種族情報などは未取得)を把握していた。
飛鷹は「あれ? もしかしてこれ、通じてないのかしら……やばい、どうしよう」と呟いた後、少し考え込んでから話しだした。
「あなた、よく分からない宗教を広めようとしているそうね」
僕は内心の混乱を押し隠して答えた。
「宗教、とは違うけど?」
「話聞かせてくれる。興味あるわ」
それから僕は何度も繰り返した説明を彼女に聞かせ始めた。
運命神ズィーウン。
その寛容な統治。もちろん幾つかの問題点はある。
だが、それまでに経験してきた幾つかの統治に較べれば、それは格段に素晴らしいものだった。
この宇宙の生命もきっと気に入るだろう。
僕はそんなことを一生懸命説明した。
「……一乗寺くんがとっても特殊な立場にいるというのは理解できたわ。ちなみにそのズィーウンというのは妖精さんとも深海凄艦とも大本営の残党とも全く関係がないのよね?」
彼女が使った幾つかの言葉はまるで耳馴染みのないものだった。
「ズィーウンは運命の神で、第五宇宙に遍く存在している。僕はその下方使徒だ」
彼女は頭を抱えると渋い顔で「違うみたい」と呟く。僕は尋ねた。
「どうして飛鷹さんは笑わないんだろう? ここの人は僕の話を聞くたびに笑った」
「え、どうして笑わなきゃいけないの?」
彼女はそう尋ね返した。
「それは……」
上方使徒ではない僕には、その理由があまり理解できていなかった。
「それは明くんの話がここの常識ではあり得ないから、私たちを不安にさせるの。だから私たちはそれを笑い飛ばしてなかったことにする。無意味だと行動で示して安心するの。でも、あなたにとってはズィーウンというものが存在しているのかもしれない。誰にだって自分だけの真実がある。私にもそういうものがあるの。だから私には笑う理由がない。それだけよ。そんなことより一乗寺くんって、もしかしてその、この地域というか世間の一般常識とかに疎かったり……する?」
あの時、飛鷹の言っていたことはよく分からなかった。今でもそうだ。
「正直、情報はまったく足りていないよ……」
「よかったら色々教えてあげましょう、か?」
でも彼女には独特の力強さと、懐の広さがある。それは確かだ。
その証拠に、その時結ばれた『トモダチ』と呼ばれる協力関係は、僕にとってなくてはならないものになっているのだから。
■□■□■
僕は飛鷹の様子がおかしなことに気づいていた。
いつもなら僕の習慣にもっと突っ込みを入れてくるはずなのだが(それは僕がこの文明に溶け込むために非常に有用である。この貢献についても彼女には感謝しなければならないだろう)、今日は別のことに気を取られているようだ。
僕は、憂鬱な表情でスプーンを動かし続ける飛鷹に尋ねた。
「飛鷹、なにか気になることがあるみたいだね」
「え?」飛鷹が我に返る。
本当に心がどこかに飛んでいたらしい。
「あ、明くん、なにか言った? ごめん、ぼうっとしてて」
「……なにか困ったことでもあるの? 僕でよければ相談に乗るよ」
飛鷹は関わりを拒むように首を振る。
「ううん、なんでもない」
僕はそれ以上追及できず、どうしたものかと思っていると、
「遅刻ですわあああああああ!!」
と、大きな音量の声がコーポ第五にこだました。
続いて建造物を揺らす振動が伝わってくる。
「熊野ったら、寝ぼけてるわね……」
飛鷹がつぶやいてしばらくしてから、僕らが所属する教育処置施設の規範装束(以後、制服と呼称)を身にまとった『熊野』と呼ばれる飛鷹と同じ種族の個体が、食堂を通り過ぎて玄関に向かい走って行った。
現時刻はちょうど十二時であり、通常であれば確かに教育処置施設への出頭基準時刻から大きく遅れている。
ただ現在の日付は、現地基準で休日と呼ばれる日に当たるため、幼体の教育処置施設へ出頭する必要は無いはずだ。
「飛鷹、今日は……」
「大丈夫よ明くん、今日は休日だから、間違っても学校に行く必要はないわよ」
熊野は『苦学生』と呼ばれる階級に分類されるらしく、僕と同様の理由で対価貨幣が少量で済むコーポ第五に拠点を構えている。
個体情報としては外殻の手入れを重要視するらしく、先日は『ゼンシンエステフルコース』と呼ばれる技術を使った手入れの為、コーポ第五で実験的に僕が栽培していた『糸瓜』という植物を譲って欲しいと頼まれた。
僕は必要な情報収集を完了し廃棄する予定だったので、こちらとしても廃棄のための労力削減のメリットから問題ないと判断し提供した。
彼女はそれ以来対価として、情報交換を定期的に申し出てくれている協力者となっている。
だが、彼女もまた飛鷹ほどでは無いが協力的過ぎで、その内容のどこに情報操作が入っているのかと考えると、……これもまた現状抱えている問題の一つだ。
追記すると飛鷹の拠点はコーポ第五ではなく、ここから徒歩十五分ほどの場所にある『神社』と呼ばれる、恐らくこの惑星系の支配者の布教基地を拠点にしている。
正直こちらの方が問題のレベルとしては大きい。
「そろそろ帰るわ……」
補給を終えた飛鷹が立ち上がる。
「わかったよ飛鷹。さようなら」
僕が短く返事と別れの挨拶を返すと、飛鷹は大きなため息を一つ吐いた。
「……駄目だこの子、休日に女の子が会いに来る理由を解ってない。飛鷹ちょっとこっちに来なさい」
その様子を見て、足柄御前はそう呟くと、飛鷹の首根っこをつかんで部屋の端まで連行し、なにかをしゃべり出した。
「……まだ打ち明けて……の? ……に気がついて貰えるなんて……いい加減……」
「でも足柄さん……ったら…」
「そんなんじゃ……とられ……一乗寺くん顔だけは最高に……」
「ええ!? でも彼……ですよ?」
「提督艦娘……抜きにしても……いいから……決めちゃいなさい……」
「でも……心の…備が……」
少量の空気の振動で、ノイズがひどかったのでうまく聞き取れなかったが、聴覚器官が断片的な情報をとらえる。
「じれったいわね」
聴覚器官の調整を開始しようかと検討していたら、足柄御前が振り返った。
「一乗寺くん、悪いんだけどお醤油切れちゃったから買ってきてくれる? ついでに飛鷹を家まで送っていってあげなさい、艦娘でも女の子なんだからちゃんと手をつないで送ってあげるのよ」
「ちょっ! 足柄さん!」
足柄御前から、かなり難易度の高い要請を受けた。
現状の状態がこの星系の支配者にどう認識されているのか不明だが、その拠点と思われる場所に赴くのはリスクが高い。
だが、場合によっては交渉のきっかけを掴める可能性もある。
実際に行動を起こすのは上方使徒と合流の後になるが、調査だけでも行う価値はあるかもしれない。
「承諾した足柄御前、期待に添えるよう行動する。じゃあ行こうか飛鷹」
足柄御前の要望と先導牽引、そして不測の事態に備えて飛鷹の手を僕の手と連結する。
するとなぜか飛鷹の体温上昇がはじまり、表皮から放熱が始まった。
■□■□■
飛鷹の拠点に向けて出発してしばらくたったが、飛鷹は黙ってうつむいたままだった為、特に情報交換は行われなかった。
可能性は低いが、星系の支配者と通信しているのかもしれない、僕は警戒のレベルを上げる。
「オーッス一乗寺くん! と、委員長」
そんな状況の中、僕たちが『商店街』と呼ばれる物資交換施設が建ち並ぶ通りを歩いていると、声をかけられる。
見ると『屋台』と呼ばれる施設(※交換物資名称は『ヤキソバ』と呼ばれるエネルギー補給原型物質)で交換員をしている土着種族が居た。
「やあ、原くん。労働活動は順調かい?」
「いまいちだな、あんまり売れねえ」
彼の種族内識別名称は『原』、僕の使用してる外殻と同じ種族の知的生命体だ。
また彼は幼体の教育処置施設内の活動における『ダチコウ』と呼ばれる協力関係を結んでいる一人でもある。
(土着種族基準における協力関係の種類に関しては多種多様である、別項目レポート11567参照)
補足すると熊野が『苦学生』という階級であるなら、彼は『不良』と呼ばれる階級にカテゴリされているらしい。
「そうなると貨幣が得られず困ったことになるんじゃないのかな、なにか手伝えることはあるかい?」
「へへっ、そうなんだよなぁ。バイクのタイヤ交換に必要な分がたまるのは何時になるやらって……おっと、わりい。大丈夫さ一乗寺くん、自分の面倒は自分で見れるよ」
「自己のリソースで対応できるなら問題なさそうだね。わかったよ、もし対応の限界点を超えそうなら要請してくれるかな」
「あんがとな。ああそうだ一乗寺くん。すげーニュースがあるんだ、明日学校で聞かせてやるよ」
「ん? 有益な情報ならすぐにでも提供して欲しいな」
「いや、別にレーサーと一緒に走ったって自慢話だから何時でもいいんだよ」
原と情報交換を行っていると、飛鷹が連結部分の接続強度を上げながら声を発した。
「ちょっと原。ていと……明くんをあまり変な道に引きずり込まないでよ」
振り返ると飛鷹の視線が、なにかしらの圧力を持ち(未知のエネルギー移動現象だろうか、調査対象リスト57827に追加)原に向けて放射されていた。
「そう睨むなよ委員長。つーか、心配しなくても一乗寺くんはトラックで引っ張ったって自分の道を歩き続けるっしょ」
「……まあそうなんだけど」
二人はどうやら僕の外殻の性能に関して話し合っているようだった。
僕は僕の限られた処理能力をもちいて思考する。
彼ら、彼女らの会話の意味を。
なにを意図して話し合っているのかを。
僕は少し悩んだ後、彼らとの協力関係レベルで開示できる範囲の情報を提供する。
「トラックの状態にもよるけど、この外殻の通常性能では難しいかも知れないね」
だが僕の提示した情報に満足がいかなかったのか、二人は同時に難しい表情を浮かべた。
残念ながらリミッター解除状態の外殻性能情報は、第一種情報のため提示が禁じられている、先ほど出した情報で納得してもらうしかない。
「まぁそれよりも今はデート中なんだろ? 俺なんかに構ってないで楽しんでこいよ」
「デートじゃないわよ……」
原は視線を僕と飛鷹の連結された手に向け、ため息を吐く。
「世間一般の常識から見ればデート以外のなにもんでもねえよ」
それは新情報だ、ところでデートとはなんなのだろうか?
情報の提供を求む。
■□■□■
商店街を抜けてようやく飛鷹の拠点へと続く入り口となる『鳥居』と呼ばれる文明建造物の前に到着した。
『鳥居』を抜け拠点へ続く勾配のきつい進路を昇るために整備された石階段を昇っていると、今までずっと黙っていた飛鷹が立ち止まって口を開く。
「……あのね明くん、実は伝えなきゃならないことがあるの」
繋いでいた手の連結強度が強まる、僕は言葉の内容とその行動に身構える。
もしここに誘導されたのが、ズィーウンの使徒である僕を籠絡、もしくは排除するためだった場合、位置的にも戦力的にも不利は免れない。
「あっ、別にそんなたいしたことじゃ無くて……いいえ、私にとってはたいしたことなんだけど」
僕は連結された部分から、彼女の体温が急激に上がるのを感じ取った。
現状とれる行動が限られすぎているため、そのまま待機を継続する。
「あのね、あの、私たちにとって提督と呼ばれる人が居るのは知ってるよ……ね?」
「把握しているよ、飛鷹の種族にとって必要な、特殊な識別信号を持つ人間(土着種族名)の雄個体のことでしょ?」
提督。
飛鷹の種族である『艦娘』について調べていた時に目にした言葉。
それは雌個体しか存在しない彼女たちの種族にとって、繁殖のために必要な雄個体(例外的な雌個体も存在する模様)として選ばれる人間だったはずだ。
「いや、うん、まぁそうっちゃそうなんだけどね……。えっとね、提督っていうのは私たちにとって替えの効かない大事な人を指すの。私たちはその人を探すのがなにより大切なことで、えーっと、うんとね、えっと……」
飛鷹にしては珍しく要領を得ない。
僕は限られた情報の中で答えを模索する。
飛鷹の様子を見るに、僕が持っている提督と呼ばれる存在の情報は不足していると判断。
追加の情報内容から提督は飛鷹にとって、僕にとっての上方使徒の役割を担う存在と推測。
結論として上方使徒とはぐれてしまっている僕にとって、提督がいないという飛鷹の現状の深刻さは十分理解できるものだった。
「成る程、つまりその提督を探すための協力を僕に求めてるってことかな? 飛鷹とはトモダチ関係にあるから構わないよ。その提督なる存在の判別方法を教えてくれるかな」
「だからその、あのね。う~~~~~~!!」
飛鷹は顔を赤くし、うつむきながらうなった後、なにか決心をしたような顔で僕を見つめ、
「つまり! 明くんが私の提督なの!!」
そう、叫び、宣言した。
情報開示の為に、かなりのエネルギーを消費したのか、肩で息をしながら僕を見つめる飛鷹。
提督、僕が、飛鷹にとっての上方使徒。
それは、僕と飛鷹の個体としての問題ということで、完結できる事柄なのだろうか?
これは、使命の遂行にあたり問題となるうるのだろうか?
現状、この惑星の支配者が僕やズィーウンを、どう認識しているのかは不明だ。
だが僕が飛鷹にとってその提督だというのなら、現在の協力関係を解消し別の関係を構築して情報収集を継続するべきだろうか?
それとも今後の交渉如何では、僕は彼女にとっての下方使徒となるべきなのだろうか?
……駄目だ、そもそも提督なるものの情報が足りなさすぎる。
そして、これは僕に判断できる範囲を超えている。
統括使徒にも、上方使徒にも連絡が取れない現状。
僕は選択肢が無いことに気づき、飛鷹に正直にそのことを告白する。
「正直なところ、飛鷹にとって提督と呼ばれる存在がどういったものなのか、僕にはよく解らない。それに僕はズィーウンの使徒だから……」
「まって、お願い。これだけは知って欲しい、信じて欲しい。明くんがどんな人でどんな神様に仕えていようと、私にとってあなたは替えの効かないただ一人の大事な人だってことを。私はあなたに飛鷹という艦娘である私の提督になって欲しいの」
僕の説明を遮り断言する飛鷹。
その姿はあの日、放課後の教室で僕に向かって断言したあの時と同じ様子だった。
飛鷹の言葉から、飛鷹が僕と『提督と艦娘』という関係の締結を要請していると推測。
僕は現在の権限で下せる判断を検討し、答えと用意できる選択肢を提示することにした。
「それが飛鷹にとって大事なのはわかったよ。でも僕には提督というものがどういうものなのか正確な情報を持っていないし、『飛鷹の提督』となった場合どういった契約が発生するのかもしらない。だから僕は飛鷹の提督にはなれない」
「そっか……」
僕の言葉を聞いて、飛鷹から力が抜けていくのが感じられた。
一先ず戦闘は回避できたということだろうか、ならば交渉の余地はあると判断し、提案をする。
「そこで提案があるんだ」
「……なに?」
飛鷹は、力なく僕を見つめる。
「もしよければ僕と交際、カレカノの関係になってくれないかな?」
「……っえ? は? え?」
僕は『提督と艦娘』という最上級と思われる協力関係がどういうものなのか理解するために、それよりも低く、現状よりレベルの高い長期間の協力関係を構築することが必要だと判断。
これは以前、土着種族の風習でそれら関係強化を図る方法や、協力関係状態の範囲や強度的な種類を原に相談したとき、
『あ? そりゃ一乗寺くん。カレカノになるのが早いっしょ。つきあうっつーか、交際関係? そういうやつ』
と、原が教えてくれたものだ。
僕の提案が飛鷹には理解が難しかったのか、彼女は僕の言葉を聞いて驚いた表情を浮かべた。
僕はさらに説明を続ける。
「飛鷹にとって重要なことなら、きっと僕にとっても重要なことの可能性が高いはずなんだ。だから僕はそれを知りたいし、もし問題ない(と統括使徒の判断が下った)なら提督になってもいい。その前段階としてカレカノの交際関係になって、まず提督というものがどういうものなのか、理解できるように協力してほしい。もう一度提案する。飛鷹、僕とカレカノの関係になって欲しい」
飛鷹は顔を赤くしている、おそらく高速情報処理による放熱と思われる。
「現状対価として用意できる物は、僕の外殻耐久期限が切れるまでの使命遂行外の時間(労力)ぐらいしかないんだけど。必要なら必要な分だけ提供を検討する用意があるよ」
内容の確認と僕への刺激を避けるためなのか、飛鷹は上目遣いになりながら恐る恐る、追加の確認事項を僕に問う。
「……えーっと、それってもし私が望めば。死ぬまで一緒に、そばに居てくれるってこと?」
「うん? うん、駄目かな?」
僕は死が外殻耐久期限が切れるまでの時間とするなら、その認識で正しいと判断する。
この提案は飛鷹にとってかなり難しいものだったのか、彼女はぐるぐると表情を変えた後、とても大きなため息を吐いて「こんな告白ってあり?」とぼそりと呟いた。
「もちろんそれらに必要な社会的証明には同意するし。その他必要な行動があるなら使命に支障のない範囲で行わせてもらうよ」
「……あーもう! わかった、わかったわ。ほんっと、明くんときたら……でも、うん、いいわよ。明くんの神様がなんであれ、私はあなたに一生付き合ってあげるわ」
そして彼女は僕との連結を解除、そして右手を僕に差し出す。
恐らく取引の締結を確認するための『握手』と呼ばれる行動を求められているのだろう。
取引の内容に関して問題が無かったので、僕は彼女の手を握る。
「よかった、協力に感謝するよ。これからもよろしく飛鷹」
「ええ、任せといて明くん……よろしくね提督」
飛鷹との取引の結果、そういうこととなった。
恐らく彼女にとっても満足のゆく内容だったのだろう、情報分析の得意では無い僕から見ても、そう返事をする彼女の笑顔は正常な反射行動に思えたから。
■□■□■
飛鷹を送り届けた後、布教基地を目視で少し調査してみたが目立った情報は得られなかった。
機会があれば『ご神体』なる、惑星系の支配者の一角と思われる存在の外殻が見られるようなのだが、それは『祭り』と呼ばれる一定の期間のみらしい。
なんのエネルギーも観測できなかったため、恐らくあの外殻は現状停止状態なのだろう。
それらの状況も合わせ、行動を起こす必要が感じられ無かったため、僕は判断を保留した。
僕は足柄御前より要請があった醤油を手に入れ、拠点(メゾン第五)に帰投する。
そして醤油を足柄御前に提供したところ、指摘を受けた。
「……一乗寺くん、これソースよ」
足柄御前の指摘に僕は愕然とした、色彩での判別では醤油で間違いなかったはずなのだが、やはりこの惑星の情報量は膨大である。
現状の予測通りこの外殻の耐久年数だけでは、恐らく必要な情報を集めることすら難しいだろう。
上方使徒との連携がとれない現状、そう判断せざるをえない。
でも幸い、上方使徒に代わる部分を補う協力者(カノ)が僕(カレ)には居てくれた。
少なくとも最初は『恋を知りたいから付き合おう』みたいなポンコツ天才少年と飛鷹とのハートフルラブコメにチャレンジするつもりで書いていた、はず、なんですが、あるぇ?
三万文字を超える長編の投稿に関しては、分割した方が読みやすいですか?
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何文字になろうとも一話にまとめて欲しい
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そこまで長くなるなら、二分割にして
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一万文字ずつくらいで、三分割にして
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実は七千文字くらいがいいので、四分割
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正直五千文字がベスト、五分割がいいな