提督をみつけたら   作:源治

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お待たせしました。
時系列的には島風の話と同時期になります。
 


『僕』と『正規空母:Ark Royal』

 

 この世界は一度滅びかけたらしい。

 

 しんかいせいかんという、怪物が現れて世界をめちゃくちゃにしたんだ。

 だけどどこからか現れた艦娘と、その辺に居た提督と、あと沢山の人たちが力を合わせてしんかいせいかんをやっつけて平和を取り戻したんだって。

 

 その後、艦娘たちは妖精さん―――

 

「離して! 提督とお風呂に入るイベントがまだ終わってないの!!」

「ええい、いい加減諦めろ」

 

 えっと、大叔父さんの村でしばらく過ごした後、僕が街に帰る日が来た。

 

 帰る時、飛龍さんがついて来ると叫びながら暴れてたけど、夏休みまで我慢しなさいと師匠(航空戦艦:日向)に、一撃で黙らされてしまった。

 

 師匠は強かった。

 

 そんな訳で、僕はまた列車に乗って街まで帰ってきた。

 今は艦夢守市中央駅で迎えが来くるのを待ってるところだ。

 

 少し早く着いてしまったみたいだけど。

 

 待ち時間の間、駅の中央待合室で座って待っていると、綺麗な金髪のお姫様みたいな人と、黒いスーツのような服を着た蝶ネクタイの赤い髪のお姉さんが歩いて来るのが見えた。

 

 あれ、あの金髪の人って、うぉーすぱいと様に似てる気がする。

 僕はテレビで見たバイクのレースを思い出す。

 

 うぉーすぱいと様はバイクのレースの一番大きな大会で、トロフィーを渡す艦娘だったはずだ。

 

 この艦夢守市にもチームKUREというその大会に出場するチームがあって、たまにそのチームが持ってるレース場でも色んなレースの大会をやっている。

 友達がすごく好きなんだけど、実は僕も結構好きだ。

 

 僕の近くの大きなソファーに座るうぉーすぱいと様、でもなんだか浮かない顔だ。

 

 悲しいことでもあったのかな?

 

 隣の紅い髪のお姉さんも心配そうにうぉーすぱいと様を気遣ってるみたいだ。

 少し気になったけど、僕はあまりじろじろ見るのも失礼かと思って、見るのをやめようとした。

 

 ら、紅い髪のお姉さんが、僕の視線に気がついたのか、こっちを見る。

 そして、固まってしまった。

 

 あ、これあれかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕』と『正規空母:Ark Royal』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅い髪のお姉さんは、じっと僕の方を見てるんだけど、見てるだけで特に動こうとしない。

 僕の勘違いだったかな? と思っていると、紅い髪のお姉さんの様子がおかしいことに気がついたうぉーすぱいと様が、紅い髪の人を不思議そうに見る。

 

 そして、その視線の先にいる僕に気がつき、交互に見て「まぁ!」と声を上げて両手を合わせ、とても嬉しそうな表情を浮かべる。

 うぉーすぱいと様は僕の方を見て軽く微笑み、手招きした。

 

 じょうおうへいかに呼ばれたならば、はせさんじぬわけにはいくまい。

 

 僕は立ち上がって、うぉーすぱいと様の元に向かう。

 紅い髪のお姉さんは瞬きせずに僕の方を見続けている、ちょっと怖い。

 

「はじめまして、ボーイ。私はウォースパイト、よろしくね」

 

「ぞんじております、じょうおうへいか。お目にかかれて光栄です」

 

 僕は丁寧な言葉で挨拶をする。

 密かに練習していた挨拶が、まさか役に立つ日が来るとは。

 

「あら……これはこれは、ありがとうステキな紳士さん。実は夜行列車に乗る予定だったのだけど、少し早く駅に来てしまって。よければ話し相手になっていただけないかしら?」

 

「はい、僕でよろしければ」

 

 僕は視線で示されたうぉーすぱいと様の隣に座る。

 紅い髪のお姉さんは、僕の様子をじっと見ていた。

 

 もしかして執事さんというやつなのだろうか?

 

 確かにうぉーすぱいと様であれば、執事さんやメイドさんがいても不思議ではなさそうだ。

 

「あらいけない、私ったらせっかくステキな紳士さんが話し相手になってくださるというのに、お茶も用意できないなんて。ごめんなさい、すぐに用意するから少し待っててくださいな」

 

 そういって、うぉーすぱいと様は立ち上がる。

 

「あ、奥様。でしたら私が……」

 

 うぉーすぱいと様が立ち上がって、それまで石像みたいだった執事さんがハッとなって動きだし、慌てたように口を開く。

 

「いいえアーク、私がお誘いしたのだから私が用意するわ。だからあなたはこちらの紳士さんが退屈されないようトークしてあげてくれるかしら?」

 

「は、え? 奥様?」

 

 そういって、うぉーすぱいと様は「オホホホホ」と、まるでお姫様のように口に手をあてて笑いながらどこかに去っていった。

 

 取り残される僕と、アークと呼ばれた執事さん。

 僕らはお互い見合わせ、もう一度うぉーすぱいと様が去っていた方を見る。

 

 そしてしばらくぽかんとしていたけど、いつまでも執事さんを立たせているのも悪いので座ってもらうことにする。

 

「えっと、おねえさん。その、よろしければどうぞ」

 

 僕は先ほどまでうぉーすぱいと様が座っていた場所に視線を向ける。

 

「え、あ、だが……そうだな……お言葉に甘えさせていただく」

 

 僕の隣に綺麗な動作で腰を下ろす執事さん。

 

 沈黙、執事さんは僕のことをじっと見ている。

 僕もどうしたらいいのかわからないので、執事さんを見つめる。

 

 何分かそんな状態が続いて、流石に困ったので、とにかく僕から話しかけてみることにした。

 

「はじめましておねえさん、僕の名前は―――といいます」

 

 まずは自己紹介、場合によってはクマさんにも使える挨拶の基本だ。

 

「あ、ああ、よろしく頼む。私の名はArk……」

 

 執事さんは、名前を名乗ろうとして急に口ごもる。

 そして二十秒ほどぐっとなにかを噛みしめるようにしてから、ようやく口を開く。

 

「いや、たいした名ではないから執事とでも呼んでくれ」

 

 執事さんはそういって辛そうに顔を背けてしまった。

 

「えっと、執事さんはうぉーすぱいと様と旅行の最中なのでしょうか?」

 

 僕くらいなら入りそうな大きさのスーツケース、この街には旅行できたのかもしれない。

 

「まあそのようなものかな、この街は奥様のAdmiralだった、旦那様の生まれ故郷なんだ」

 

「なるほど、あどみらるって確か提督のことですよね、えっと、その」

 

 僕は気になったことを聞こうとしたけど、聞いていいことなのかわからず口ごもってしまう。

 執事さんは、そんな僕を見て軽く微笑む。

 

「旦那様はすでにお亡くなりになられていてな、とてもお優しい方だったよ。奥様と並んで庭を眺めておられる姿はまるで絵画のようだった。ただ旦那様を亡くされてから奥様はずっと気落ちしておられて……見ていられなくてな。外に連れ出す名目で旦那様の故郷を見に行こうと私が提案したんだ」

 

 そう話しながら、懐かしそうに目を伏せる執事さん。

 

「ここに来てからは、奥様は新しい友人との出会いなどに恵まれて元気を取り戻されて。楽しげなご様子の毎日だった、旦那様はおられないがまた奥様との日々がこれからもずっと……」

 

 目を閉じてその様子を思い出すように楽しそうに喋っていた執事さんだったけど、急に言葉に詰まったようにだまってしまい、目をゆっくり開けて悲しそうな顔になる。

 そんな表情で少しの間黙っていた執事さんだったけど、ふっと僕の方を向いてじっとこちらを見つめてくる。

 

 どこかで似たようなことがあった気がする。

 ああそうだ、はじめて赤城さんと会った時と同じ感じだ。

 

「あ、あの」

 

「あ……その、すまない」

 

 じっと見られて恥ずかしくなってしまい、執事さんに声をかける。

 執事さんはも少し頬を染めてコホンと咳払いをした。

 

「よければ君のことを、聞かせてもらえないだろうか。その、よければなのだが」

 

「僕のことですか? そうですね……」 

 

 なにを話したらいいのかよく解らなかったけど、僕は大叔父さんの村でのことや、最近プラモデルを作るのが好きだということ。

 そして、最近何人かのおねえさんたちと知り合いになったということを話した。

 

「―――ま、待ち伏せされたり、抱きしめられたり、添い寝されたり、脇に抱えて走られたり、あまつさえお風呂に一緒に入らされそうになっただ……と? ま、待ってくれそれは一体どういうことだ?」

 

 執事さんが焦ったような表情で僕に顔を近づける、近い。

 心なしか鼻息が荒い執事さんがぐぐっと迫ってくる、僕がどう説明しようかと考えていたら、少し離れた柱の陰からじっとこちらを見つめている誰かの姿が見えた。

 

 僕がなにかを見ていることに気がついた執事さんが、視線の先を見る。

 柱の陰から半分顔を覗かせてニコニコしている、金色の髪の人。

 

 こっちをじっと見ていたのはうぉーすぱいと様だった。

 

「……なにをなさっているのですか奥様」

「小さな紳士さんを手込めにしようとしているアークを見ていたわ」

 

 その言葉を聞いて、執事さんは僕の方を見てはっとなり、顔を真っ赤にしてちょっとだけ距離を取った。

 どうやら僕は手込めにされるところだったらしい。

 

「それよりスターゲイジー・パイが売ってないなんてどういうことかしら全く」

 

 スターゲイジー・パイってなんだろうか、凄い名前だけど。

 不満そうな感じでそういいながら、うぉーすぱいと様は僕の隣に座る。

 

 なんというか形てきに、うぉーすぱいと様と執事さんに挟まれてしまった。

 左右からサンドイッチみたいにぎゅーっとされて、抜け出そうと体を動かしてみたけど、中々抜け出せない。

 

「あっ……」

「んっ……」

 

 肌触りのいい生地の服がこすれる、一番強くあたってる場所は胸の部分だから柔らかくて痛くはないんだけど、どうも息苦しい。

 おまけに違う種類の薄い香水の香りでちょっとくらくらしそうになる。

 

「あの、えっと」

 

「あら? あらあらあら、これはいけないわね。アーク、こちらの紳士さんが窮屈な思いをしてらっしゃるわ、あなた椅子になってくれる?」

 

「は? 奥様それは一体どういう―――」

 

 うぉーすぱいと様はすっと立ち上がって、にっこりと微笑み僕を抱え上げる。

 執事さんがなにか言おうとしていたようだけど、それには耳を貸さずに僕を執事さんの膝の上に座らせた。

 

 突然のことに驚いたのか、慌てて僕がずり落ちないように後ろから抱きしめてくれる執事さん。

 うぉーすぱいと様は、なにやら悪い笑顔で「おほほほほ」と手に口を当てて笑っている。

 

 これ、一体どういう状況なのだろうか?

 

「ああ、その姿を見ていると思い出すわ。私のAdmiralは私より下の歳だったから、先に大きくなった私がよく彼をそうして膝に抱えて座ってもらったものよ」

 

 懐かしそうに目を細めるうぉーすぱいと様。

 僕からは表情は見えないけど、何故だか執事さんは更にぎゅっと僕を強く抱きしめる。

 

「ンッ……ハァぁ」

 

 執事さんの熱い息が頭に当る、湿度が高い。

 あとなにかで髪の毛を擦られている気がする、両手はふさがってるし、顔とかだろうか?

 

 僕は「猫に顔スリスリしたら嫌がられるからもっとスリスリする」といっていた友達のキメ顔を思い出す。

 

「あらあら、アークったらはしたな―――」

「ぶへら!?」

 

 うぉーすぱいと様の言葉を遮り、突然変な声を上げた執事さん。

 何事だろうと振り向くと、何故だか執事さんの顔にどこかから飛んできたらしい魚が張り付いていた。

 

 なんの魚だろうか、うぉーすぱいと様が「何故サーディンが……」と呟いてるので多分そういう名前の魚っぽいけど。

 

 僕は執事さんの膝から降りる、執事さんはゆっくりと顔に張り付いたサーディンを剥がして「生臭い……」とこぼす。

 執事さんはキッとした表情で辺りを見回してたけど、しばらくして誰もいないとわかると、げんなりした顔をした。

 

 そして「申し訳ありません奥様、紛失物として届け出たあと顔を洗ってきます」と、サーディンを摘まみながら駅員室の方に歩いて行った。

 

 僕とうぉーすぱいと様はしばらく唖然としていたけど、一先ず腰を下ろす。

 二人で座ったので、先ほどとは違いゆったりとした感じだ。

 

 なにを言えばいいのかわからず、ボッと駅を行き交う人たちを眺めていると、うぉーすぱいと様がそっと僕の手を握ってきた。

 

「あなたの目から見てアークはどうかしら?」

「え?」

 

 質問の意味がよく解らず、僕はうまく答えることができない。

 アークというのは執事さんのことだというのはわかるけど。

 

「えーっとね、ほら。アークってああ見えてとても料理が上手なのよ、アークの作るサンドイッチは最高で、勿論お茶を入れるもの上手だし。それに家のことや私の身の回りのこともやってくれてたから家事はお手の物。それにね、とっても強いの、どんな悪い人が来てもアークがいればやっつけてくれるわ! ……あ、でもああ見えて可愛いところもあって、えっと、秘密なんだけどよく庭の隅っこで猫と喋ってたりするの、あのすました顔でにゃーにゃーってね、ふふふ、可愛いでしょ? ああ、それと―――」

 

 凄い勢いで執事さんのことをしゃべりはじめたうぉーすぱいと様。

 なんだか色々聞いてはいけないこともいってる気がするけど、いいのだろうか。

 

 でもうぉーすぱいと様が、執事さんのことをとてもとても好きだということはなんとなくわかる、そうじゃなきゃこんなにスラスラと誰かのいいところを話すなんてできないだろうし。

 

 でも、それよりも少し気になることが。

 

「―――そんな訳で、すっごく優良物件だと思うんだけど、どうかしら?」

 

「ええと、あの、執事さんが凄いということはよくわかったのですが、どうしてうぉーすぱいと様はそんなに焦ってるんですか?」

 

 そう、大好きな人のことを話しているはずなのに、その様子が何故か必死そうに見えたんだ。

 僕の言葉を聞いて、うぉーすぱいと様の表情が固まる。

 

 そしてしばらくなにかいおうと口をぱくぱくさせていたんだけど、やがて「ふぅ」と、息を静かに吐いて、先ほどよりも凄くゆっくりとした口調で話し始めた。

 

「……アークはね、ずっと私の側にいてくれたの。あの人との楽しい日々も、そしてあの人……私のAdmiralが亡くなって落ち込んでいた時も、ずっとずっと私を支え続けてくれたわ。私はアークに沢山のことをして貰った、私は……もう、長くないから、もう十分幸せだったから、アークにも幸せになって欲しいの。それが私がアークにしてあげられる最後のことになると思うから」

 

 とっても悲しそうなその様子。

 

 僕は昔おばあちゃんが話してくれた、おばあちゃんのお母さんとお別れした話を思い出す。

 老いない艦娘がその命を終える日の話を。

 

「……除籍日ですか?」

 

 僕の言葉を聞いてうぉーすぱいと様は軽く頷く。

 

「気がついてるかも知れないけれど、アークも艦娘なのよ。えっと、艦娘にとってのAdmiral……いえ、提督がどんなものかわかるかしら?」

 

 僕は頷く、そして僕のひいおばあちゃんも艦娘だったということを話す。

 その話を聞いて、うぉーすぱいと様は優しく微笑んだ。

 

「そう、それはよかったわ。アークはね、Ark Royalという名前の正規空母の艦娘なの。よかったらあの子のことをその名前で呼んであげてくれないかしら。大丈夫、絶対怒らないから。戸惑うのも無理はないんだけど、その、わかるでしょ。アークにとっての提督が誰なのか……」

 

 僕は再び頷く、その意味や責任はまだよく解らないけど。

 その事実だけは何度も受け止めてきたから。

 

「ありがとう、小さな提督さん。ほんと、人生ってわからないものね。まさか最後にアークが提督をみつけるところに立ち会えるなんて……」

 

 うぉーすぱいと様は軽く目を閉じ、一呼吸置いてゆっくりと目を開く。

 そしてポケットから一通の手紙のようなものを取りだし、僕に差し出した。

 

「これを、鐘の前でアークに渡してもらえるかしら」

 

 僕はそれを思わず受け取ってしまう、鐘ってなんだろう。

 それよりおかしい、いちいち僕に渡さなくても直接渡せばいいのに。

 

 それを聞こうとしたんだけど、うぉーすぱいと様の人差し指に口を押さえられてしまう。

 

「お願い……できる?」

 

 切なそうなうぉーすぱいと様の表情。

 僕はそのただならない感じに圧されて頷いてしまう。

 

「ありがとう、小さな提督さん」

 

 うぉーすぱいと様はゆっくりと僕の口から指を離した。

 丁度その時、執事さんが戻ってくる。

 

「まったく、どうしてあんなものが……奥様、まだ少し時間はありますが、そろそろホームの方に―――」

 

「あぁ!! 大変、この駅ビルの屋上にあるという、海底に沈んでいた大昔の鐘を引き上げて吊ってあるというメインスポットを見るのを忘れていたわ!! ああ、でもなんということでしょう、脚の悪い私がそこに向かっていては列車の時間に間に合わないわ、なんということでしょう!!」

 

 突然、お芝居のような言葉をうぉーすぱいと様が叫びはじめる。

 執事さんと僕はあっけにとられてしまう。

 

「だから私は一足先にホームに向かわせてもらうわ。そしてアークと小さな紳士さんには駅のホームからでも聞こえるように鐘を鳴らして貰わないといけない気がするわ!!」

 

「は、え? 奥様、しかしそれでは時間が……」

 

 うぉーすぱいと様は、一瞬で移動して戸惑う執事さんの両手を握りしめる。

 速い。

 

 本当に脚が悪いのだろうか?

 

「大丈夫!! アークと小さな紳士さんが手を繋いで走ればきっと間に合うわ、だって私信じてるから!! どんな困難なことも、アークならきっと成し遂げてくれると信じてるから!!」

 

「は、はぁ」

 

 なんだか少し照れているような執事さん。

 ちょろい。

 

 うぉーすぱいと様は、優雅に胸に左手を当てて高らかに右手を掲げる。

 そして、階段の方を指さした。

 

「さぁ、戸惑っている時間はないわ、祝福の鐘の音を聞かせてちょうだい!!」

 

「は、はい!」

 

 執事さんはびくっとなって、慌てて僕を脇に抱えて走り出す。

 ふむ、なんだか覚えのある状況だ。

 

 僕は抱えられながら、遠ざかってゆくうぉーすぱいと様を見る。

 うぉーすぱいと様は安心したように微笑みながら、でもどこか寂しそうな顔で軽く手を振っていた。

 

 その表情をみて、僕は何故だか悲しくなってしまった。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 僕を抱えてすごい勢いで駅の大階段を駆け上がる執事さん。

 周りの人の視線がすごい、だというのに執事さんは息一つ切れていない。

 

「あの、執事さん。列車が何時出発かはわからないんですが、大丈夫なんですか?」

 

「問題ない、いざとなったら奥の手もある。それに奥様の願いは一つでも多く叶えて差し上げたいんだ!」

 

 必死な様子の執事さん。

 それを見て僕は執事さんも、うぉーすぱいと様のことが大好きなんだなってわかった。

 

「……うぉーすぱいと様に聞きました、除籍日のことを」

 

「そうか」

 

 短く返事をする執事さん。

 とても悲しそうだ。

 

「執事さんはその、その後は……」

 

「その後? ああ、元に戻るだけだ、執事になる前の私に戻って。奥様と旦那様の思い出を抱いて余生を過ごすだろうな」

 

「でも、さみしくはないんですか?」

 

「さみしい、か……さみしくなんてないさ、 私には思い出があるからな……さみしくなんて、ない。それより舌をかむ、あまり喋らないでくれ」

 

 僕にだってわかる、その言葉は強がりだって。

 大事な人がいなくなるってことが、さみしくないわけないんだから。

 

 そして駅ビルの屋上に到着する。

 屋上は広い展望台スペースにもなっていて、その一角にうぉーすぱいと様がいっていた有名な鐘が吊ってあった。

 

 あれ、手紙みたいなのを渡す時にうぉーすぱいと様がいっていた鐘って、これのことかな?

 

「これか、じゃあさっさと鳴らして―――」

 

「あの、待ってください。うぉーすぱいと様が鐘の前で執事さんにこれを渡して欲しいと」

 

 僕はうぉーすぱいと様に預けられた、手紙のようなものを執事さんに渡す。

 執事さんは不思議そうにそれを受け取ると、それを読み始めた。

 

 やがて手紙を読み終えたのか、執事さんは静かに泣き始めた。

 

「あ、あの、なにが書いてあったんですか」

 

 子供のように泣き始めてしまった執事さん。

 さっきまでの、とても凜々しくて格好良かった人とは思えないほどだ。

 

「うッ、グス、わ、私に。ひ、暇を与えると……グス、国には一緒に帰らなくても、いいって……そ、そして、こ、これからは、あ、あなたの側にいるようにって、それが最後のお願いだって。あ、あと、ありがとうって……」

 

 どうやら執事さんは、うぉーすぱいと様の執事じゃなくなって、僕の執事になるようにって、うぉーすぱいと様にお願いされてしまったらしい。

 

 汽笛が聞こえる、おそらくうぉーすぱいと様が乗る夜行列車の出発場所の方からだと思う。

 

「行かなくてもいいんですか、列車が出ちゃいますよ?」

 

 執事さんは動かない、ぐっと手紙を握りしめて下を向いている。

 

「後悔しませんか? うぉーすぱいと様の側を離れて」

 

「……わからない、でもおそらく後悔はしない、どうすることもできないことに後悔なんてできないんだ。だからせめて奥様の願いを……でも、今奥様の側を……わ、わたしは、どうしたら……」

 

 僕には執事さんのことはわからないけれど、でもとても苦しんでいるのはわかる。

 

 多分艦娘としての気持ちと、執事さんとしての気持ちと、そしてなによりうぉーすぱいと様の願いを叶えたいという本人の気持ちがごっちゃごちゃになってしまってるように思えた。

 

 僕は思い出す、うぉーすぱいと様の安心したようで、でも、とても寂しそうだったあの表情を。

 

 うぉーすぱいと様が執事さんを想って願ったことは、執事さんにとっては正しくても、うぉーすぱいと様にとっては正しいことだったんだろうか?

 

 執事さんがうぉーすぱいと様を想ってその願いを叶えようとすることは、うぉーすぱいと様にとって正しいことでも、執事さんにとって正しいことなのだろうか?

 

 わからない。

 誰にとってなにが正しいのかなんていうのは、きっと誰にもわからない。

 

 ―――でも、きっと今この瞬間に、僕ができる僕にとっての正しいことはあるはずだ。

 

 ちょっとだけ考えて、僕は執事さんの手を握る。

 僕と執事さんは身長差があるから、僕が見上げるような感じだ。

 

 執事さんはゆっくりと僕の方を見た、縋るような目だ。

 

 

「―――アークロイヤル」

 

 

 僕は彼女の名前を呼ぶ。

 自分の名前が呼ばれたと気がついて、彼女は驚いたような表情を浮かべる。

 

「僕はアークロイヤルの提督ですか?」

 

「あ、ああ、いや、はい。貴方が、貴方が私のAdmiral……だ」

 

 僕は頷く、僕が彼女の提督であるということを認めるように。

 

「これでアークロイヤルは僕の艦娘、でもアークロイヤルはうぉーすぱいと様の執事だ。なら執事としてやるべきことがあるんじゃないの?」

 

「それは……だけど私はもう……」

 

「うぉーすぱいと様はいってたよ、アークロイヤルのおかげで自分は十分幸せだったって、だからアークロイヤルには幸せになって欲しいって」

 

 だからアークロイヤルさんにとっての幸せを考えてあげるのが、今の僕の正解だ。

 だってじょうおうへいかにお願いされてしまったんだから。

 

「でもそれならアークロイヤルは責任を持って、最後までうぉーすぱいと様が幸せであり続けられるようにしてあげるべきだ、これは僕のわがままなんだろうけど。でも、だからこそ、これは僕の命令。アークロイヤル、君は最後の最後までうぉーすぱいと様を幸せな気持ちで送ってあげて。その為にはアークロイヤルは絶対うぉーすぱいと様の側にいなきゃ駄目だ」

 

 アークロイヤルさんがはっとした顔になる。

 僕は続ける。

 

「もう一度言うよ、これは提督としての僕の命令。しっかり頑張るんだ、うぉーすぱいと様の執事としての仕事を、最後まで頑張るんだ」

 

 アークロイヤルさんは涙をボロボロと流す。

 そして僕の手を握りながら、ゆっくりとひざまずいた。

 

「―――拝命した my Admiral、必ずやその命を遂行してみせます」

 

 とても格好いい騎士が王様に忠誠を誓うようなポーズ。

 

 それを見てると、なんだかとても大それたことをしてる気がしてきた。

 ……はずかしい。

 

「じゃあ急いで、でも間に合うかな」

 

 僕はゆっくりと手を離して、夜行列車の出発する方のホームを見る。

 出発が近い事を知らせる、合図の汽笛が鳴っている。

 

 アークロイヤルさんは目元を拭いながらゆっくりと立ち上がった。

 そしてキリッとした表情で叫ぶ。

 

「問題ありません my Admiral、私は Your Ship Ark Royal であり、空を駆ける騎士たちの母艦なれば!!」

 

 アークロイヤルさんはとっても格好いい歩き方で、ゆっくりと鐘のすぐ前にあった屋上のフェンスまで歩き、フェンスを背負って片手を胸に当て僕の目を見つめる。

 

「ありがとう我が提督、私は必ず役目を果たしてまた帰って参ります。必ず、再び貴方の元に参ります! そしてその時は改めて私の忠誠を捧げさせていただき、最低でも三男三女を授かってみせます!!」

 

「……うん、うん?」

 

 三男三女ってなんだろう?

 

 僕の肯定と疑問の返事を聞いて、アークロイヤルさんはさっきまで泣いていたとは思えない、格好いい笑みを浮かべる。

 

 そして背負っていた屋上のフェンスを乗り越え屋上から飛び降りた。

 僕は驚いたけど、直ぐにアークロイヤルさんの体が光り、大きな弓が現れる。

 

 そしてその弓を凄い速さで二回引いて、矢を発射した。

 

 二つの矢は、すぐに大きな鳥くらいの大きさの飛行機に変わる。

 上下に二つの翼を持った複葉機と呼ばれる飛行機だ、前に瑞鶴さんが教えてくれた。

 

「Swordfish!」

 

 アークロイヤルさんの命令に反応したのか。

 そーどふぃっしゅと呼ばれた飛行機はくるりと宙返りして、夜行列車のホームに方向を向けアークロイヤルさんの少し上を通過する。

 

 瞬間アークロイヤルさんの持っていた弓が消える。

 そしてアークロイヤルさんは二機の飛行機の脚を掴み、グライダーのように滑空しながら、駅のホームに向かって飛んでいった。

 

「かっこいい……」

 

 聞いたことがある、艦娘の艤装は凄く重いから海の上じゃないと使えない。

 でも、空中で一瞬だけなら展開できなくもないって。

 

 厳密には艤装と兵装は別物で、兵装を支えるための艤装らしいんだけど。

 空中でならその艤装が必要ないから、兵装だけを取りだして使うことができる艦娘もいるって。(※艤装と兵装が一体化しているものは同時展開の必要あり)

 

 でも、それはめちゃくちゃ難しいらしい。

 

 よほど特殊な訓練を長い時間積まないとできないって、おばあちゃんがいってた気がする。

 おまけに取り出すだけでも難しいのに、使えるようになるのは更に長い訓練と才能が必要だって。

 

 おばあちゃんのお母さんもやろうとして、ついぞできなかったらしい。

 

「あっ」

 

 僕はしばらくその姿に見とれてたけど、ハッとなって鐘を見る。

 そうだ、うぉーすぱいと様の願いを叶えなければ。

 

 僕は紐を引いて、鐘を鳴らす。

 

 うぉーすぱいと様と、アークロイヤルさんの幸せを願って。

 何度も紐を引く。

 

 

 ―――ゴーンゴーンゴーン

 

 

 彼女たちの旅路に、幸あれ。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 アークロイヤルさんは、うぉーすぱいと様の元に戻れただろうか?

 きっと戻れただろうなって思う、なんとなくだけど。

 

 僕は大階段を降りはじめる。

 

 ふと後ろで、誰かが鐘を鳴らすのが聞こえた。

 振り向くと、どこかで見たことがあるような女の子が紐を引っ張っている。

 

 少し気になったけど、多分お姉ちゃんが待ってるだろうから、僕は急いで階段を降りる。

 

 駅の中央口前の広場に着くと、お姉ちゃんが退屈そうに車の前で待っていた。

 僕はお姉ちゃんの名前を呼ぶ。

 

「蒼ねえちゃん!」

 

 僕の声を聞いて、ぱっと顔をあげる蒼ねえちゃん。

 

 前に会った時は蒼い髪を左右で縛ってツインテールにした髪型だったけど、今日はヘアピンで前髪を留めてるくらいで、服装も黒くて長いスカートに白いセーター。

 そのせいかとても大人っぽく見える。

 

「もう、遅いぞ弟よ」

 

 腰に手を当てながらぷんすかと聞こえてきそうな感じで、僕を叱る蒼ねえちゃん。

 でも表情はどこか嬉しそうだ。

 

 蒼ねえちゃんは僕の前まで歩いてくると「悪い子はこうだー!」っていいながら、僕を抱き上げてぎゅーっと抱きしめてくれる。

 懐かしい香りに包まれる、僕も負けずと抱き返した。

 

 しばらくそうやって抱き合った後、蒼ねえちゃんは僕を解放してくれた。

 

「ごめんね、ちょっと屋上の鐘を見に行ってたんだ」

「鐘? ああ、あれか。どうせなら私と一緒に見に行けばよかったのに……まあいいか。乗って乗って」

 

 僕は蒼ねえちゃんの車の助手席に座る。

 

「そういえば蒼ねえちゃん、舞鶴法律事務所だっけ、仕事どう?」 

 

「あー、相変わらず大変よ。所長の竜崎さんがチョーいやなヤツで、仕事はチョーできるくせに、イヤーな笑みで色々無茶振りしてくるのがチョー大変」

 

 大人は大変らしい。

 

「それよりさ、あっちでのこと聞かせてよ。大叔父さんに会ったんでしょ?」

 

「うん、すごかったよ。えっとね、熊さんで神様なお姉さんが師匠になったり」

 

 それを聞いて蒼ねえちゃんは、目を丸くする。

 

「え、なにそれ、どういうこと?」

 

 血は繋がってないけれど昔から近所に住んでて、よく僕の面倒を見てくれていた家族同然の蒼ねえちゃん。

 最近はお仕事で外地に行ってたらしく、忙しくて会えなかったけど。

 

 おばあちゃんの次に大好きな蒼ねえちゃんに久しぶりに会えて僕は嬉しい。

 

「話せば長くなるんだけどね」

 

 僕はそう前置きして、あっちであったことを話し始めた。

 

 師匠のことや飛龍さんのこと、そして女王陛下とその執事さんの話を。

 あと、加賀さんや翔鶴さん、赤城さんに瑞鶴さんのことも。

 

 蒼ねえちゃんは「え、いやちょっとまって、それどういうこと?」と何度も聞き返してきて説明するのが大変だった。

 

 ふと、乗っていた車が街を見渡せる道に出る。

 

 

 ここは『艦夢守市(かんむすし)』

 

 

 大きな港があり、その港と街の周りをぐるっと山に囲まれている、そんな立地の場所。

 都会とまではいかないけれど、それなりに騒がしくてそれなりに穏やかな大きさの街。

 

 

 そしてこの街には一つの噂がある。

 それは提督適性者が集まるという噂だ。

 

 

 この街には沢山の人間と、居るかもしれない提督適性者たちと、その噂を聞いてやってきた割と多くの艦娘たちが平和に暮らしている。

 

 

 つまり、ここが僕の住んでいるところだ。

 

 

 あとえっと、今現在僕は“六人”の艦娘の提督適性者らしい。

 びっくりである。

 

 ちなみに数日後にチームKUREのバイクを生で見てしまった。

 なぜか持ち主らしいお兄さんは手で押して歩いてたけど。

 

 格好良かった。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 とあるお高い料亭の一室。

 

 

 一航戦の青い方と、五航戦の姉の方が正座していた。

 勿論みんな大好き、百万石と鶴(姉)である。

 

 首には『私たちは提督を二人占めしようとしました』と書かれたプラカードがつるされている。

 

「山桃甘露煮と合鴨の唐揚げと鮎の塩焼きです」

「ありがとう、そこに置いておいて」

 

 現在この店はフル稼働しており、腕のいい料理人が必死で料理を作り、若い仲居さんが運んでは下げ運んでは下げを繰り返している。

 

「まさか加賀さんがねぇ」

 

 もぐもぐと休みなく料理を口に運んで咀嚼する、赤い鬼の名字を持つ女性医師はいった。

 

「翔鶴ねえが抜け駆けするなんて」

 

 温かい料理をはふはふしながら食べていた、普段はツインテールの服飾意匠家がいった。

 因みにいまは髪をほどいて何故か決戦モードである。

 

 正座している百万石と鶴(姉)たちのおなかがキュルキュル鳴る。

 涙目の二人、お腹がとてもすいていた。

 

「あ、あの、赤城さん……」

「えっと、瑞鶴? あのね……」

 

 じろっと、決戦仕様の妹鶴と、赤城の山の視線が二人に刺さる。

 百万石と姉鶴は睨まれてなにもいえず、ぷるぷると震えて涙目になった。

 

 正規空母同士による、史上あまり例を見ない決戦の勝敗は今ここに決したのであった。

 

 

 でもなんだかんだで一応この後めちゃくちゃ仲直りした。

 色々と大変だったみたいだがその詳細は省く。

 

 そして、再び自分たちの提督とどう付き合ってゆくか。

 また、今後どうすべきかなどを色々と相談したりした。

 

 しかし彼女たちは知らない。

 

 今、彼女たちの提督の側にはその提督にとても信頼されている蒼き龍がいることを。

 そして自分たちがその蒼き龍の逆鱗にべたべたと触りまくってしまっていたことを。

 

 彼女たちはまだ、知らない。

 

 

 




アークロイヤルは執事なので元艦連の特殊部隊にいたことは確定的明らか。
執事なんだから当然だよね。

あと現時点の日付は2018/09/09 ですが、
私の心はまだ夏なので次は夏の話です。
 

三万文字を超える長編の投稿に関しては、分割した方が読みやすいですか?

  • 何文字になろうとも一話にまとめて欲しい
  • そこまで長くなるなら、二分割にして
  • 一万文字ずつくらいで、三分割にして
  • 実は七千文字くらいがいいので、四分割
  • 正直五千文字がベスト、五分割がいいな
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