提督をみつけたら   作:源治

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夏だ、駆逐艦だ、気持ち劇場版文字数だ!(内容はいつもの)
多分タイトルは「無職モン 時津風のパラレル夏休み」とかそんな感じ。
 


『無職男』と『駆逐艦:時津風』

 

 無職だよ。

 ああ無職だよ。

 無職だよ。

 

 俺、心の一句。

 

 

 仕事を辞めて初めての夏になってしまった。

 これはもうアレだろうか、求職活動も夏休みに入るべきだろうか?

 

 とかなにかと理由をつけては、いやなことから逃げようとする行動が増えて最近叫びたくなる。

 

 基本的に自分の機嫌は自分で取れるのが大人だという持論があるが、ここのところ陽炎たちに励まして貰っていることが多すぎて、なんだか自分が大人なのか怪しくなってきた。

 

 話を戻すが、やらなきゃならないことに対する、できない言い訳を探すことが最近多い。

 見つけたらそれを理由にとことんやらない、だって自分は悪くないって理由ができるから。

 

 今の自分の行動が前に進んでいるような錯覚も味わえて一石二鳥だ、ハハハ。

 

 ……虚しい。

 

 そんなことを考えながらレトルトカレーが入った袋に、直接食パンをつけながら食べている夏の日の午前。無性に野菜の水分だけを使って作ったとかいう、萩風のカレーが恋しくなってくる。

 

 でも萩風ってなにも言わないけど、灰皿に積まれた煙草や、俺が煙草吸ってるの見るとスッゴイ悲しそうな顔するんだよなぁ。

 あいつらの前じゃ吸わないように気をつけてるんだが、臭いとか駄目なのだろうか。

 

 しかしながら20戦20敗の禁煙敗北記録を持つ俺に、禁煙は難しい。

 

 というか食後の一服してたら、それが最後の一本という事実に気づいてしまった。

 最近暑くて外に出るのもうんざりしてしまって、買い置きもない。

 

 ちくしょう、行くか。

 

 

 

 意を決して外に出てみたものの、やはり暑いものは暑い。

 外に出て数分で、体が水分という名の快楽を求めはじめる。

 

 ちょうどいいところに駄菓子屋があったので、ラムネを購入。

 ビー玉を押し込むと、炭酸の弾ける音と微妙に溢れる液体の感触。

 

 この噴きこぼれるのが嫌というやつもいるが、嫌なら缶を買えばと突っ込みたくなる。

 瓶の口当たりで得られる清涼感は、そのリスクを払っても味わいたくなるものだ。

 

 そういや陽炎姉妹の中にビー玉をもらって嬉しがりそうなやついたかな。

 取り出すのが面倒だが一応取り出しておこう。

 

 額の汗と口からこぼれたラムネをぬぐいながらそんなことを考えていると、カランと中のビー玉がビンとぶつかる音に反応したのか。

 駄菓子屋の前にあるベンチに座っている、麦わら帽子を被った子供がこちらを見る。

 

「あっ、おにいさんだー」

 

 

 

 

 

 

 

 

『無職男』と『駆逐艦:時津風』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽炎姉妹の中でビー玉を一番欲しがりそうなやつの一人がいた。

 

「奇遇だなワンコ」

 

「ワンコじゃないよぉ!? 時津風だってばー!」

 

 知ってる、でもワンコっぽいよな、コイツ。

 背とかめちゃくちゃ低いし、俺の半分も無いんじゃないのか?

 

 ブルーのホットパンツに白シャツ姿、出会った頃はいつも黒タイツをはいていた記憶があるが、流石に夏にはくには暑すぎるか。

 

「おにいさんはー、なにしてんのぉ?」

 

 可愛い声でのんびりとしたしゃべり方するやっちゃな。

 

 麦わら帽子を脱いで首の後ろに垂らし、大きな瞳で俺の方を嬉しそうに見てくる時津風。

 なんか一部灰色になっている垂れた犬耳っぽい横髪も相まって、ぶんぶんと振られる尻尾を幻視してしまいそうだ。

 

「夏休みだからタバコ買いに行くんだよ」

 

 自分で言っといてクソすぎる答えだなオイ。

 前世からやり直したくなってきたわ。

 

「ほうほう、ならこのあたしに任せてよ!」

 

 なにを理解したのか、ビシッとした敬礼をして、時津風が駄菓子屋の中に入って行く。

 

 あれ、この駄菓子屋タバコなんて売ってたっけかな?

 というか、時津風は俺の吸ってるタバコの銘柄を知っているのだろうか?

 

 飲み終えたラムネの瓶のキャップを外して、中のビー玉を取り出しながら待っていると、時津風がタバコ……に、見せかけた駄菓子を持ってきやがった。

 

「かってきたよ~!」

 

 嬉しそうに俺にタバコみたいな駄菓子を手渡す時津風。

 

「……ああ、ありがとな。ほれお駄賃、これでアイスでも買ってこい」

 

 なんていってやろうか悩んだが、おそらく善意100パーセントだから叱るのもあれだと思い、お駄賃を渡してやる。

 時津風は嬉しそうにタバコ代予定だった金を受け取ると、再び駄菓子屋に入っていった。

 

「あっま……」

 

 時津風が買ってきたタバコを模したチョコレートをくわえると、安っぽい甘みが口に広がる。

 とても長く味わってられる気がしなかったのでとっとと噛み砕く。

 

 なんで俺はいい年して駄菓子なんぞくわえてるのだろうか、これは確か大人に憧れる子供の為の駄菓子のはずなのに。

 いや、子供は子供という職業についてるだけ俺よりマシか、ははは。

 

 もったいないのでもう一本取りだしてくわえたものの、禁煙パイプより無意味なものをくわえているという事実と、己の立場の無さから来る現実を実感してしまい泣きたくなってくる。

 

「おまたせ~……ふぁい!」

 

 俺の中のアイデンティティが乱れそうになっていた時、時津風がアイスを持って戻ってくる。

 そして袋から連なった細い牛乳瓶みたいなアイスを取り出し、二つに分けて片方を俺に差し出してきた。

 

 ……なんというか、アレだな。

 

 ちんまいガキンチョだが、こうやって女の子とアイスを分け合うのってなんなんだろう、グッとくるものがあるな。

 あと、自然にこうやって食べ物を分かち合う気づかいのできるところが陽炎の妹だなぁって思う。

 

「ありがとな」

 

 素直に礼をいって受け取る。

 時津風はニヒッと笑うと、俺の隣に座って、アイス容器の吸い口をちぎって吸い始める。

 

 俺も同じように吸い口を引きちぎり、切り離した吸い口の方に残ったところを吸い出した。

 同じチョコレート味だが、こちらのアイスは清涼感のある冷たい甘さだ。

 

「あついなぁ」

「あついね! あついね!」

 

 座ってるベンチは影になってはいるが、それでも暑いものは暑い。

 俺と時津風はアイスをチューチュー吸いながら、ウザいくらい青い空に浮かぶ入道雲を眺める。

 

「でっけえなぁ」

「おっきい! おっきい!」

 

 どうでもいい俺のつぶやき一つにも嬉しそうに反応する時津風。

 なにがそんなに嬉しいんだろうな。

 

「おにいさんこれからどうするのー?」

 

 みみっちく空の容器をチューチュー吸うのにも飽き始めた頃、特になにもする気力がわかない俺に時津風が聞いてくる。

 

「そうだなぁ、夏休みだし虫取りでもするか。なんてな……」

 

「ほんと!? あたしも行く行くー!」

 

 自虐で言った言葉にめちゃくちゃ食いついてくる時津風。

 

 おおい、マジか。

 

 だが冗談だとこれっぽっちも疑っていない時津風は、駄菓子屋に入っていって虫取り網と虫かごを手に戻ってくる。もしかしてここって時津風の家なのか?

 

 時津風は一旦網と虫かごを置くと、嬉しそうに首の後ろに垂らしていた麦わら帽子を外して俺に差し出してきた。

 

 あっ、コイツめっちゃいいやつだわ。

 

 日射病対策のために自分が被ってた帽子を俺に差し出すとか、普通に自分より相手のことをナチュラルに心配できないとできない行動だわ。

 ワンコっぽいとか関係なく多分コイツめっちゃいいやつだ。

 

 俺はそれを受け取ってかぶる、小さいしちょっときついが問題はない。

 これで白のタンクトップシャツでも着れば何処ぞの大将だな。

 

「似合うか?」

 

「すっごくかっこいいよ~!」

 

 麦わら帽子の似合う無職の俺、夏。

 

 やるせなさ無限大だが、まぁ、コイツにそういってもらえるなら救いはあるな。

 

 俺は時津風にちょっと待つようにいって駄菓子屋に入り、店の一角に積まれていた麦わら帽子を一つとって購入する。

 最初にラムネを買った時はよく見ていなかったが、店番をしていたのは浅黒い肌の南国系っぽい中年の女だ。

 

 おばちゃんというには妙に精悍な感じがする彼女は、ちらりと外で待つ時津風に視線をやったあと、片言で「アノカタ ヲ ヨロシクオネガイシマス」と、なんか間違ってる気配がする言葉をいいながら麦わら帽子を手渡してきた。

 

 ……母親か?

 

 相変わらず摩訶不思議な陽炎姉妹の家族構成、関わるまいと思っていたが流石にそろそろ真面目に聞いてやるべきだろうか。

 

「ほれ、やるよ」

 

 ひとまず保留にして、麦わら帽子を時津風にかぶせてやった。

 時津風はキョトンとした顔をしたが、しばらくしてなにが嬉しいのかキャッキャッと何度もその場で飛び跳ねる。

 

 喜びすぎだろ。

 

「嬉しい嬉しい、ありがとう! これ、大切にするね!!」

 

「お、おう」

 

 そこまで喜んでもらえるなら買ってやった甲斐があったってものだが、元を正せばもらったもののお返しである。が、まあそれを言うのは野暮か。

 

「あっ、そうだおにいさん、お礼にいいものあげる♪」

 

 そういって時津風は、肩からかけたちっちゃなカバンをごそごそと漁る。

 いいものってなんだろ、セミの抜け殻とかかな?

 

「はい! どうぞ!」

 

「ああ、ありがとよ」

 

 予想外なことに、時津風が取り出したのはタバコの箱くらいのサイズの金色の物体……てか金塊だコレ、当然金メッキの偽物だろうけど。

 

 やたらずっしりしてるが多分アレか、子供銀行的なアイテムだな、コレ。

 しかし最近のおもちゃはよくできてんな、重さまで再現してるとは。

 

 金塊の重さとか知らんけど。

 

「なんかやたらよくできてるけど、もらっていいのか、コレ?」

 

「大丈夫だよー! 昔お仕事のお駄賃を粉で払おうとした人たちから、たっくさんもらったんだー!」

 

 たこ焼き屋かな?

 粉って、せめて焼いたやつやれよ。

 

 まあ代わりにこのおもちゃをいっぱい貰ったっていうのなら、いいのかね。

 しかし、お駄賃ケチって金塊払う羽目になるとは、テキ屋のオヤジも下手打ったな。(笑)

 

「そうか、なら貰っとくわ。んじゃ裏山にでも行くか」

 

 ポケットに金塊(笑)を詰め込んで歩き出す。

 向かうのは、たまに初風と遊びに行く裏山だ。

 

 なんというか裏山ってなんか便利な言葉だよな、なにの裏にあるのか知ってるわけじゃないけど、とりあえず近場の山のことを言うのに使いやすい。

 あれ、今更だけどこのクソ暑い中、山に入って虫取りするの?

 

 湧いてきた後悔の大きさに、思わず歩くペースががくんと落ちる。

 

「はやくはやく!」

 

 ペースが落ちた俺の手を引きながら、元気に前を歩き始める時津風。

 

 子供は元気だな。

 あと、力強いな。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 そんなわけでやってきました、勝手知ったる裏の山。

 

 生い茂る広葉樹、なんとなくある山道、さらにうるさくなったセミの声。

 夏の山特有のむわっとした生命と緑と土の匂いが充満している。

 

 暑さは木々が日光を遮ってくれているおかげで……いや、それでも十分暑いな。

 

 しかしこれ誰の所有地なんだろうな、多分市有地だとは思うが、警察に聞かれたらなんていおうかな、とりあえず土下座か?

 

 鼻歌歌いながら俺の前の、草が生い茂る山道を気にせず歩く時津風。

 本当なら長靴がベストなんだが、急なことだったので二人ともスニーカーだ。

 

 ミスったな、今からでも取りに帰るか。

 

 そもそも冷静に考えて虫取りするなら昼より夜だし、長靴の他に虫除けやら軍手やらを揃えたいところだが……

 あそこまで楽しそうにしているところに、水をさすのもアレだよな。

 

「おい、ちょっと止まれ」

 

「んー? なになに? なにしたいの?」

 

 俺はよっこらセックスといいながら、ちっちゃいくて軽い時津風を持ち上げて、肩に乗せる。

 俗に言う肩車の体勢だ、これなら草木で足切ったり蛇や虫に噛まれる心配も減るだろう。

 

「おおお~!!」

 

「そこなら上の方もよく見えるだろ、昼でも晩飯食い損ねたカブトムシやクワガタもいるかもしれんからな。よく探せよ」

 

 時津風は嬉しそうに俺の頭に抱きつきながら、了解でーす! と元気よく答える。

 しかし、子供は体温が高いな、首筋の後ろが少しじっとりしてきたぞ。

 

 まぁ、子供は肌がスベスベだからあんまり気にならないが。

 羨ましい限りだ、俺なんか朝起きて顔に油が浮いている現実に、加齢を実感する毎日だというのに。

 

「おにいさん、あそこになにかいるよー」

 

「お、どこだどこだ?」

 

 時津風隊員がなにかを発見したらしい。

 見ると茂みがあるだけで、特になにかがあるようには見えないんだが。

 

 多分タヌキかなんかかな。

 

 試しに木の棒を拾って、茂みの方に投げる。

 木の棒がクルクル回りながら、茂みに飛び込む、その瞬間。

 

 

「……ッチ」

 

 

 何故か迷彩服を着たゴツい野生のおっさんが茂みの中から急に現れ、投げた木の棒をキャッチする。

 あ、やべ、タヌキよりデカイやつだこれ。

 

 そのおっさんの登場を合図に、次々と木の上やら土の中からなんか出てきた。

 最初に現れたおっさん含めて、合計三名様の迷彩服の集団だ。

 

「……リーダー、どうします?」

 

 その中の一人が、最初に現れたゴツいおっさんに問いかける。

 というか、なにこの人たち?

 

 もしかしてかくれんぼ? この暑い中? バカなの、死ぬの?

 いや、マジで熱中症で死んじゃうぞ、大丈夫かコイツら?

 

 あ、待て、偏見はよくない。

 

 多分これアレだ、なんとかゲームっていうなんかおもちゃの鉄砲で撃ちあったり、かくれんぼしたり、なにかその手の職種の人間になりきったりして遊ぶやつだ。

 

 不知火のジムの隣に同系列経営と思わしきその手の施設があったから、スポーツよりのゲームともいえるやつなんだろうけど、多分それの野外版だわこれ。

 

「いい潜伏場所だと思ったんだがな、こうも簡単に見つけられるようでは使えん。移動する」

 

「了解です。で、コイツらは?」

 

 なんかやばい目でこちらを見てくるおっさんたち。

 いやまぁ、リーダーの人は俺よりそこそこ年上みたいだけど、取り巻きの奴らは俺と似たような年だから、おっさんおっさん言うのもなんか違うか。

 

「そうだな、どうするか……」

 

 どうするって、ナニでもするのかよ。

 

 あれかな、もしかしてアレかな、人数が足りないから誘おうか迷ってるんだろうか?

 本人の目の前で相談とか、いい歳してシャイすぎるだろ。

 

 でもこっちは子供づれだしなぁ、というかこんな暑い中かくれんぼとかしたくないんだが。

 

 

「―――誰をどう、なにするんですかぁ~♪」

 

 

 どうお断りしようか悩んでいると、頭の上の時津風が妙に甘えた声を出した。

 

 

 瞬間

 

 

 パッと一瞬で数メートル後ずさる迷彩服集団。

 

 なんだなんだ、よく見たら顔からすごい汗かいてるなコイツら。

 いわんこっちゃない、脱水症状になっても知らんぞ、いってないけど。

 

 うーん、汗をかくほど必死に俺たちを誘おうとしてくれてるところ悪いんだが、こちらとしては初志貫徹で虫取りをしたいのが本音である。

 ここは大人でコミュニケーション能力(物理)のある俺がなんとかしてやるしかないか。

 

「俺たちは捕り物(虫取り)をしに来た」

 

「……捕り物だと?」

 

 流れる汗を拭おうともしない、鋭い目つきのリーダーの人。

 この人いい歳して……いや、何歳になってもなにかに狂えるほど打ち込める趣味があるのは幸せなことだって誰かがいってたな。

 

「ああ、あんたらも驚くようなデカイ獲物をな。どうだ? よかったら一緒にやらないか?」

 

「(銀行強盗に失敗し、あまつさえ提督らしい男を撃っちゃったせいでおそらく賞金もかかっている可能性がある、今この街で一番危険視されているであろう俺たちより)デカイ獲物だと? 貴様、何者だ?」

 

 何者、何者かと聞かれれば無職ですとしかいいようがないのだが、どうしよう、その、無職と一緒に虫取りとか噂されたら恥ずかしいしとかいわれるのやだなぁ……(男泣き)

 

 

「あたしのぉ、ご主人様だよ!」

 

 

 部下A  「ふぁッ!?」

 部下B  「ひぇッ!?」

 リーダー「なにッ!?」

 

 

 俺「……え?」

 

 

 なに言ってんだバカやめろ!

 変な誤解うんじゃうから!

 

「この時津風のね、ご主人様!!」

 

「……成る程、そういうことか」

 

 

「おい待てッ! 今、お前なに納得した!?」

 

 

 焦る俺を尻目に、会話を続けるリーダーと呼ばれた男と時津風。

 

「だが、俺たちはタダじゃ働かん。雇うなら出すものを出してもらわんとな……いくら出す?」

 

「え~? 命よりも高いものってー、あるのかなぁー?」

 

 取れるかどうかもわからない虫の命の価値を真面目に考えだすと、いろいろ難しい哲学とか宗教観の話になるからやめようね。

 

 と、いうか成る程、そういうノリか、なかなか本格的にキャラ作って楽しんでるなコイツら。

 そしてそれをすぐに察して会話するとか、時津風もなかなかやるな、子供は柔軟性があるわ。

 

「くッ……なめるなよ、俺たちはプロだ」

 

「あはは、そんなの見たらわかるよー」

 

 なに楽しそうに会話してんだよ。

 お前らずるいぞ、俺も交ぜろ。

 

「まあまて、確かに空手形を切るわけにはいかんな、いいだろう」

 

 俺は会話に無理やり交ざり、先程時津風がくれた(なんちゃって)金塊をポケットから取り出し、リーダーと呼ばれた男に放り投げる。

 

「これは……」

 

「成功したらもう一本やる、どうだ?」

 

 受け取った金塊(多分鉛)をじっくり見つめる男たち。

 

「本物、ですかね……」

 

「いや、この刻印商標は Prinz Material の……」

 

 金塊を手にブツブツと呟きながら相談している迷彩服集団。

 偽物に決まってんだろ、という言葉をグッと堪える、雰囲気大事。

 

 時津風が肩からかけたバックから、もう一本同じのを取り出して、ぷらぷら揺らす。

 

 あ、本当にいっぱいあったんだな。

 

「すまん、勝手に約束しちまった」

 

「えへへ、全然いいよ~♪」

 

 小声で時津風とそんなやりとりをする。

 

 最初は馬鹿みたいだと思っていたが、なんというかちょっとわかるわ。

 こんなふうに役になりきって、映画みたいな台詞のやりとりするのって、ちょっと楽しい。

 

「いいだろう、ただしこちらも予定がある。今日、一日だけだ」

 

「よし、契約成立だな」

 

 俺は片手を差し出す。

 リーダーと呼ばれた男は少し迷ったそぶりを見せた後、俺の手を握った。

 

 ふふん、なかなかそれっぽいじゃないの。

 

「さっきも言ったが今日一日限りだし慣れ合う気は無い、俺のことはブラックとでも呼べ」

 

「ブルーだ」

 

「グリーン」

 

 

 迷彩服三人組が、思い思いの色を名乗る。

 そして貴様も色を決めろといわんばかりの目で、俺を見つめてきた。

 

 じゃあ俺は……

 

「無色(無職)」

 

「は?」

 

 自虐ネタで自分にダメージ!

 

「……なんでもない、レッドでいいよ」

 

「あたしはぁ、時津風です!」

 

 ああ、はい、お前はそれでいいのね。

 そんな素で返されるとノリノリで色決めたおっさん四人がバカみたいじゃないか。

 

 ほら見ろ、グリーンとブルーの人とかちょっとバツが悪そうにしてるだろ。

 

「でもー、あなたたちは様をつけてね~」

 

「まあ雇い主には違いないからな、いいだろう」

 

 様をつけろよデコスケ要求をさらりと受け入れるリーダーブラック、意外と懐深いな。

 まあ子供の言うことだし。

 

「で、どうする。居場所のあてはあるのか?」

 

「あ? ああ、いそうな場所の見当はついてる、まぁそれでもこの手のことの常だが、見つかれば儲けもん程度で考えといてくれ」

 

 倒木の下とか、木の根元とか、木の蜜が出てるところとか。

 人が増えればその分見つけやすくもなるだろうが、焦って探してもろくなことないからな。

 

 のんびり行こう。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「なんで俺だけ見つからないんだよ!!」

 

「そんなこと知るか」

 

 時津風はノコギリクワガタ、ブラックはミヤマクワガタ、ブルーはオオクワガタ。

 虫取れない同盟の最後のメンバーであるグリーンに至っては土壇場でカブトムシを見つけるという大逆転劇。

 

 時津風の虫かごにはそれら黒いダイヤがいっぱいである。

 

 なんだよチクショウ、俺だけ坊主か?

 そりゃないだろ!!

 

「つか、あんたら、なんでそんな見つけるの上手いんだよ! しかも最初幼虫とかみつけてくるし、虫のストーカーか!?」

 

「自然観察は生存の基本だ、それに現地での食料確保の技術くらい持っていて当然だろう。成虫より幼虫のほうが可食部が多い、そんなことも知らんのか?」

 

 サラッと答えるブラックのおっさん。

 生存の基本ってなんだよ、当然じゃねえよ。

 

 つか食うのかよ!

 虫、食うのかよ!

 

「なんでこんなものを集めるのかは知らんが……いや、それ以前に気になっていたんだが、貴様の狙っている獲物というのはもしかして……」

 

「ばっ!? バッカお前、バカにすんな!? 俺が狙ってるのはもっとこう、なんかすごいやつだ!!」

 

 なぜだか麦わら帽子をかぶり、虫取り網を持った俺を生温かい目で見る迷彩服ズ。

 あークソ、でもこれ多分このまま探し続けてもドツボにハマるパターンだわ。

 

「一先ず休憩だ休憩、そこの河原で一休みするぞ」

 

「まあ構わんが……」

 

 

 そんなわけで、先ほど見つけた小さな河原に移動する。

 

 山間を流れる小さな小川で、周り一面が緑に囲まれた、自然の清涼感満点な場所。

 キャンプするならここ以外ないだろうと思えるレベルの最高のロケーションだ。

 

 もっとも、来るのが大変すぎるけどな。

 

 到着すると迷彩服ズは石と枯れ木を集めて焚き火をおこし、どこかから持ってきたポットに汲んできた水を入れ、インスタントコーヒーを作りはじめた。

 

 なにこの人たち、手馴れすぎだろ。

 

「おいおい、コイツら……」

 

 と、時津風に同意を求めようとしたら、見当たらない。

 しまった、子供から目を離してしまうとは俺としたことが……と、思ったら時津風はいつの間にやら川に入っていたらしく、水から上がると何匹ものでかい魚を手でつかんで戻ってきた。

 

 あれ、もしかして私のサバイバル能力低すぎ?(両手を口に当てるポーズ)

 

 ブルーの人が時津風から魚を受け取ると、ささっとナイフで捌いてワタを取り出し、どこかから持ってきた枝の皮を綺麗に剥がして突き刺していく。

 おいちょっと待て、俺もなんかやらせてくれ、ザリガニとかとってくるから。

 

 あ、その前にやることが。

 

 俺は時津風に向かって手招きする。

 すぐに走ってくる時津風、目の前までくると褒めてもらうのを期待するワンコのような顔でニコニコしながら俺を見上げてきた。

 

 うぐ、心が痛むが仕方ない。

 俺は心を鬼にして時津風の頭に軽くゲンコツを落とす。

 

「ふぇっ?」

 

「ばか、勝手にいなくなるから心配したぞ。それに川に一人で入るなんて危ないだろ。はしゃぐ気持ちはわかるが、今日は俺のそばを離れるんじゃない、わかったか?」

 

 時津風はなにが起きたかわからない様子で、頭を押さえながらポカンとしている。

 ヤバイな、怒り過ぎたかな、泣かないかな。

 

「えへ、えへへへへ、了解でーす!!」

 

 なんでかわからんが、超嬉しそうに返事をする時津風。

 まあわかってくれたならいいんだが、なにわろとんねんと思った次第。

 

 その後、魚が焼けるまで川で遊んで時間を潰すことに。

 

 迷彩服ズはなんでこんなことを……みたいなツラだったけど、俺に石投げ水切りで負けたのが悔しかったのかムキになって挑んできたり、川の中で手押し相撲してぼろ負けしてびしょ濡れになったりと、結局エンジョイしまくってる。

 

「おいブルー! そこ代われ!!」

 

「えええ、いいですけど……」

 

 つかブラック弱いな。

 

 いや、弱いというか運がない感じか。

 なぜかここぞというところで木が流れてきたり、太陽の光が反射して視界が遮られたり。

 

 運がない、マジで。

 

 ちなみに今は手押し相撲の最下位決定戦を、時津風とグリーンの人とで眺めてる。

 怒った手前仕方ないが、あれから時津風は俺の肩の上から離れようとしない。

 

 手押し相撲の時もずっと肩の上に乗ってた。

 冷静に考えるとその状態でよく勝てたよな。

 

 しかしなにしてんだろうなぁ、俺。

 

 タバコ買いに外に出たら、なぜか山の中で。虫取りしたり河原で遊んだり。

 こう、青春というか少年時代な大冒険してるんだ。

 

 自分の面倒だけでも一杯一杯なのに、時津風の面倒も見てるし。

 しかもよくわからんゴツいおっさんたちと一緒に。

 

 クソ青い空とでかい入道雲を見上げながらそんなことを思う。

 

「いい天気! いい天気!」

 

「本当にな」

 

 俺が空を見上げれば、必然的に頭にしがみついている時津風も空を見上げることになる。

 

 何気なしにそうやって空を見上げていると、バシャンという水音が聞こえた。

 見るとブラックが敗北し、川の中に倒れ込んでいる。

 

 なにかわめいている内容的に、何故かカワセミが突っ込んできたらしい。

 ほんと、運がない男だな。

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「なんか夏っぽい話でもないのか、怪談とか」

 

 全員で濡れた服を乾かす為に火にあたりながら、魚食ったり、煙草型チョコレートかじったり(押しつけた)、コーヒー飲んでたんだが。

 元がシャイな迷彩服ズと向かい合って座っていても特に喋ることもなく、微妙に無言タイムとあいなってしまった。

 

「なんだいきなり、慣れ合う気は無いと―――」

 

「いや、いまさらだろ。つーかあんたが一番びしょ濡れになったせいで乾かすのに時間かかってるんだからな?」

 

 うぐっと痛いところをつかれたみたいな表情を浮かべるブラック。

 ブルーとグリーンの人も微妙に気まずそうだ。

 

「……この仕事をしていると、確かにその手のおとぎ話やら噂話なんかは耳に入ってくる」

 

 お、観念したのかなんか語り始めた。

 しかもなかなか面白そうな滑り出しだ。

 

 コーヒーを飲みながら炎を見つめる様子。

 そして思わせぶりなしゃべり方なんかも芸がこまかくて悪くない。

 

「そうだな、怪談かどうかはわからんが。戦場のおとぎ話の類、だが存在している可能性が極めて高いといわれる三組の奴らの話でもするか……」

 

 戦場のおとぎ話ねぇ、キャラ作り凝ってるな。

 ちょっと現実感がないけど、まぁいいか。

 

「一つ目は妙高四姉妹といわれる伝説の傭兵チーム。だがこれは実在していたのはほぼ間違いないらしい。俺の親父はやり合ったことがあるとかなんとかいってたな、まぁ眉唾だが。その手の界隈じゃ一番ポピュラーな話だ、あまりにも強すぎて、相手に妙高姉妹がいることを伝える連絡は撤退命令と同義だったって逸話もあるくらいだ。特に『羽黒』って末の妹は敵の目玉をえぐって食べるって噂でな、ついたあだ名が『闇染め』だよ。まぁ、ある日パッタリと姿を消したらしいから、おとぎ話みたいに扱われるがな」

 

 へー、そんなのがいるのか。

 つか、目玉を食べるってやばいな、怖すぎだろ。

 

 ん? 妙高ってどっかで聞いたことがあるような。

 ……思い出せん、まぁいいか。

 

 でも女で傭兵とか、行き遅れたりしないのだろうか?

 なんて場違いな思いが湧く。

 

「二つ目は猟犬部隊と呼ばれる奴ら、コイツらは名前の通り群れで行動し、すごい速度で戦場をかけて獲物を狩るらしい。戦場で少女の笑い声を聞いたり、赤い目をした少女の姿を見たらすぐに逃げろって爺さんがよくいってたが、後からコイツらのことだってわかったよ。十年かそれ以上前に西で一番大きいカルテルがコイツらを雇ったって噂だったが、そのすぐあとにそこは壊滅した。憲兵軍の暗部特殊部隊、戦前から存在する暗殺者集団、ワーウルフの生き残りなんて噂もあるが……これが怖いのは俺のじいさんの代、百年以上前から語られてるってことだ。そいつらが百年以上生きてるのか、それとも代替わりしてるのかは知らんが、これは今でも目撃情報がある。仕事の内容は話せんが、実際俺も若い頃にもしかしたらってのに出会った。あの時のことは今でも悪夢に見る」

 

 お、ちょっと怪談ぽい。

 

 でもなんというかいまいち怖さが伝わってこないな、武勇伝みたいになってるし、さっきの羽黒とかいうヤツのほうが怖いな。

 せめて友達の友達から聞いた話とかそういうのにしとけよ。

 

 なんて考えていたら、時津風がギュッと俺の頭を抱きしめてきた。

 おっと、子供には結構怖い話なのかな?

 

「だが、それよりも今の状況で恐ろしいのが最後のヤツだ。今までのは戦場に近寄らなければまず出会うことはない。だがコイツだけは戦場に関わらずに、ある場所に現れる……」

 

「今の状況?」

 

 ブラックは軽く頷く。

 おうおう、なんか雰囲気出てきたな。

 

「そいつはインビジブルって呼ばれてる。主にジャングルやこういう森の中で襲ってくるナニカだ。単独らしいということ以外、正体は一切不明。深海棲艦の亡霊や実験施設から逃げ出した兵士、大本営の残党、果ては宇宙人なんて眉唾なのもあるが。事実としてコイツは三つの中で一番被害者が多い。なんでわかると思う? 文字通り生きた証拠があるからさ。コイツに目をつけられると死ぬより恐ろしい目にあうと有名だ」

 

 ゴクリと、ブルーとグリーンの人が唾を飲み込んだ音が聞こえた。

 

「死ぬより恐ろしい?」

 

「ああ、インビジブルに襲われると逆さ吊りにされて、身体中を粘膜性の緑の液体で染められるらしくてな。そのあと助け出されても、ジウン、ジウンってブツブツ呟くだけの廃人にされちまうらしいのさ」

 

 マジかよ、似たようなのでなんか遠くで揺れてるなにかを見続けてたら廃人になったとかいう、地方に伝わる怪談を聞いたことがあるような気がするけど。

 物理的に襲ってくるとか、ヤバイな。

 

「うちのじいさんがやりあったこともあるらしいんだが、十倍の数とでもやり合えるような精鋭部隊が一夜で壊滅したらしい。じいさんは頼りになる仲間と戦い続け、罠を駆使したりして戦ったが。やがて仲間とはぐれ、最後は泥をかぶって逃げ延びたとかいってた。結局姿が見えないそいつに襲われて部隊は壊滅、そのあと救出された仲間も全員逆さ吊りにされてて精神病院送りになったんだとさ。被害甚大なのに正体不明で、誰も姿を見たヤツがいない、そんな経緯からつけられた名前がインビジブル(目に見えない)というわけだ」

 

 色々と思うことはあるが、なんというかブラックの一家、運が悪すぎないか?

 いやでも、全員生き延びてるっていうのなら悪運は強いのだろうか。

 

 ちなみに、ブルーとグリーンはビビっていたようだが、俺にはイマイチピンとこなかった。

 まぁ、暇つぶしくらいにはなったけどさ。

 

 あと怖かったのか、時津風はずっと無言だった。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 ブラックのおっさんの服が乾いた後、再び虫取りを再開する。

 気になるのはなぜだか時津風がおとなしいこと、よほどさっきの話が怖かったのだろうか?

 

 時津風は今は俺から降りて少し先を歩いている。

 表情も少し暗いな、うーむ。

 

 そういえばこの手の怪談は、対策として念仏とか三回まわってワンとかいえば助かるとかの救済措置があるはずだよな。

 

「なあブラック、さっきの話なんだが。そのインキンブルとかいうの、なんか襲われないようにする対策とか、襲われたら助かる方法とかないのか?」

 

「なんだ? 信じていなそうだった割に、随分と気にしているじゃないか。それよりさっきの煙草みたいな菓子はもうないのか?」

 

 俺の隣を歩いていたブラックが、こちらを見ずに辺りを見回しながら返事をする。

 つか、気に入ったのかあの駄菓子……

 

「もうねえよ、いいから教えろ」

 

 ふんと鼻で笑ってから、ブラックは話し始める。

 

「対策、になるかは知らんが。インビジブルは戦士や兵士しか襲わないらしい。じいさんも現地の女ゲリラと行動していたらしいが、その女は最後まで襲われなかったとかいってたな」

 

「なるほどな、それならなんとかなりそうだ。つかそういうことならこの中で真っ先に襲われるのはあんたらだな、服装的に」

 

 ブラックはニヤリと口をゆがめる。

 お、珍しい表情。

 

「抜かせ、返り討ちにしてやるさ」

 

「そりゃ心強いこって」

 

 なんて会話をしていると、前を歩いていた時津風がピタリと止まる。

 つられて足を止めるおっさんカラーズ、いや、俺はおっさんじゃない。

 

 ……確かにもういい歳だけどさ。

 

「なにかいる」

 

 ぽつりと時津風が呟いた、瞬間。

 

「つッ!? 右だブルー!」

 

 ブラックのおっさんが大声で叫ぶ。

 その声に反応したブルーが、ためらわず右に飛んだ。

 

 その直後、ガラスのような物が砕ける音がして土が舞い上がる。

 見るとさっきまでブルーが立っていた場所が少しえぐれていた。

 

「な、なんどぁぁあ!?」

 

「攻撃だ! だが弾頭が見えなかった、恐らく透明な素材を使ったなにかだ……」

 

 いつの間にやら、木を背負うように身をかがめているブラックたち。

 てか君たち反応いいな!!

 

「って、だ、弾頭!?」

 

「小口径だとは思うが、当然食らえばタダじゃすまん! いや、それにしても発砲音がしないのはおかしい!!」

 

 なんでそんなもんが飛んでくるんだよ!

 いや、そんなことはどうでもいい、それより時津風は無事か!?

 

 慌てて時津風がいた方を確認すると、時津風は唸るようにしてどこかの木の上を見ている。

 釣られて俺と迷彩服ズもその視線の先に目をやる。

 

「な、なんだあれは……」

 

 グリーンが震える声をこぼす、木の上の一部、景色が妙に歪んでいる場所がある。

 サイズは大人一人分ほど、よく見るとなんというかそこだけ目のピントが合わない時みたいに、妙に歪んでいる。

 

 か、怪奇現象!?

 

「ミラージュコート……光学迷彩かッ!」

 

 ブラックのおっさんが絞り出すようにつぶやく。

 

 は? え? コウガクメイサイ?

 なにそれ、美味しいの?

 

「馬鹿な、戦史前失伝技術(ロストテクノロジー)だと!? いやそれでも完成していなかったはず……まさか本当に宇宙人だとでもいうのか? ック、ククク……成る程、これがインビジブルの正体か……」

 

 よく解らないことをいいながら、なにかを納得している様子のブラック。

 え、てかコイツがさっきいってたインキンブルとかなんとかってヤツなの?

 

「貴様のいっていたでかい獲物はコイツか、まさかインビジブルだったとは。これはもう一本もらっても割に合わんな」

 

「いや、流石にこれは狙ってなかったよ!」

 

 オオヒラクワガタで十分だったよ!

 しかし問答無用で攻撃してくるとかヤバイな、なんかすごくヤバイ気がする。

 

「……あたしが相手をするから、おにいさんたちは逃げて」

 

 がるる~と、威嚇声を上げながら怯えるオッサンズの前に進み出る時津風。

 

「なっ、おいなにやってんだ!」

 

「大丈夫だよ、あたしはねー、とっても強いから。うんうん、戦うことしかできないから。こんなのよゆーで……」

 

 どこか冷めた目で俺の方を振り返りながら、そんなことをいう時津風。

 おいおい、こんな時まで迷彩服ズのノリにつきあってんじゃねえ。

 

 うだうだいってても仕方ないので、俺はブラックにアイコンタクトを送る。

 

 頷くブラック、俺は持っていた虫取り網をインキンブルが居るっぽい場所に投げつけた。

 そしてなにか喋ってた時津風を抱えて、急いで走り出す。

 

 ブラックたちも懐からなにかを取りだしてソイツに投げつけ、俺たちに追従して走り出した。

 なんかやたら凄い光やらデカイ音やら煙っぽいものが出てるものを投げてた気がするけど。

 

 花火かなんかか?

 

「は、離してよぉ! 行かせてよおにいさん、アレは簡単に逃げられるような相手じゃ―――」

 

「うるせー!!」

 

 こちとら子供といえど一人抱えて走ってるんだ、問答してる余裕なんてない。

 つかなんなんだよ俺は、なんでこの歳になって山の中をマジ走りしてんだ。

 

「聞いてよおにいさーん……あのね、えっとね、あたしちっちゃいころからあちこち転々としてて。おにいさんにいえないことだっていっぱいして……アレは凄く危ないヤツ、なんとなくわかるんだ。無理な作戦は凄く嫌、でもおにいさんのためなら戦えるから。それにあたしは先に行くの得意だから、こういうの慣れてるから、だから―――」

 

「ああそうかい! 羨ましいな戦えるって! なんせこの世は敵だらけだ! 家、学校、職場、街角! 相手だってことかかねえ! 身内に他人、クラスメイトに教師にアホな上司に部下に取引先! 便意に劣等感にニコチン禁断症状、タバコは値上がりするし、あと自分! むかつくヤツばっかりだ!!」

 

 今の自分の現状と、時津風のなんとなく悲惨そうな過去の気配も相まって、腹の底から怒りが込み上げてくる。

 黙って走ればいいのに言葉が止まらない。

 

「ああ羨ましいね! 最近逃げてばっかりだからな俺は! 知ってるか!? 俺がいま何社落ちてるか? この前ちょうど六十社超えたよ! 応募動機をいってくださいだぁ? そんなもんおまえんとこが求人出してたからにきまってんだろ! バッカみたいだろ、ほんとバカみたいだ!」

 

 ああもう、俺はなに叫んでんだよ、ほんと。

 なんで時津風に当たり散らしてんだ、俺ってホント駄目なやつだ。

 

「わかるか!? これまではどうだったか知らんが、これからも嫌ってほどお前は戦うことになる! だから今わざわざ戦う必要なんかねえ。どうしても戦いたいってなら、ブラックやブルーやグリーンも一緒に戦ってやるよ、俺たちゃ仲間だからな! あとなんか高い金も払ってるんだからな、大人だから仕事してるんだよ! もちろん俺も一緒だ、レッドだからな! つかお前あそこはピンクっていっとけよ! 俺らノリノリで色決めてたのが馬鹿みたいじゃねえか! 俺たちゃ五人戦隊なんだぞ! この先戦う時は俺たちみんな一緒なんだ! だけど今は逃げるんだよぉおおお!」

 

「「「……」」」

 

「おにいさん……」

 

 無茶苦茶なこといってるわ、俺。

 

 脳に酸素がいってない証拠だ。

 心臓もめっちゃバクバクいっとるわ。

 

 死ぬんじゃないのかこれ?

 

「……おいレッド、ヤツはまだ追ってくる。このままじゃ共倒れだ。ひとまず貴様らは先に行け、ここは俺たちが食い止める」

 

「は、はぁ? お前それ死亡フラ―――」

 

 不吉なことをブラックが言った瞬間、鋭く風を切る音が聞こえなにかが近くの木に突き刺さる。

 木の幹を貫通して刺さっていたのは、俺がさっきインキンブルに投げた虫取り網だ。

 

 キャーッ!!

 

「いいから聞け、お互い足手まといがいては逃げきれん、当然俺たちもやられる気は無い。これは貴様らが逃げるための時間稼ぎじゃない、二手に分かれないかという提案だ。そのついでに前金分くらいの足止めをしてやる、だから先に行け」

 

「なぁ!?」

 

 おいおい、なんかかっこいいな。

 だが確かにこのままじゃあ、やばそうなのも確かだ。

 

 それにコイツらならワンチャンある可能性、趣味の力は侮れんからな。

 少なくとも子供を危険にさらすよりは百倍マシか。

 

「ああわかったよ! 勝手にいっちまえこの迷彩服カラーズ! だけどまだ契約は途中だからな! 今度会ったら虫取りの続きと、あとキャンプもだ、星とか眺めながらえっと、そういえば俺キャンプでカレー作ってみたかったんだ、前金払ったんだからな! 絶対残りの代金分も付き合ってもらうからな、絶対だぞ!」

 

「やっぱり虫取りだったんだな……まぁいい、任せておけ。カレーは傭兵の必須料理だ」

 

 ニヒルな笑みを浮かべるブラック、あとグリーンとブルーも。

 やつらは立ち止まって反転する。

 

「行くぞブルー、グリーン! トライデントフォーメションだ! ヤツにエターナルフォースブルクラッシュを仕掛ける、スーツ強度を最大まで上げろ! 間違っても倒そうと思うなよ、あくまで時間稼ぎだ!」

 

「「了解!!」」

 

 ああクソ、楽しそうだなちくしょう、あとその技名長すぎだろ。

 てかやっぱり時間稼ぎじゃねえか。

 

 

 格好つけすぎなんだよ馬鹿野郎。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 ひたすら走り続け、気がつけば森を抜けてどこかの原っぱに出ていた。

 見渡す限りヒマワリが咲いている、野生してるのかこれ?

 

 もう走ることもできず、ヘトヘトになりながらもヒマワリの海の中を進む。

 

 あっ、ダメだ。

 もう限界。

 

 ガクガクプルプルが止まらない足がついに限界を迎えた。

 俺はその場にヘタリ込む、兎にも角にも時津風が無事で―――

 

 あれ?

 

 ついさっきまで脇に抱えていたはずの時津風の感触がない。

 慌てて立ち上がって辺りを見渡すも、背の高いヒマワリに視界を遮られて見つけられない。

 

 ヤバイ、ヤバイぞおい。

 

「と、時津風ー!! 時津風ー!! どこだ時津風ー!! こっちに来い時津風―!!」

 

 滝みたいに流れる汗をぬぐいながら叫ぶ。

 ああ、クソ、陽炎になんていやいいんだ。

 

 こうなれば来た道を引き返すしかないと決断した瞬間。

 ヒマワリ畑をかき分けて、なにかが猛スピードで向かってくる気配。

 

 身構える、クソ、ブラックたちはやられちまったのか?

 

 ブリブリと嫌な汗が噴き出す、が。

 せめて時津風だけでも見つけないと、死ぬに死ねんと覚悟を決める。

 

「あークソ、くるなら来いヤァぁあああ!!」

 

 バッと飛び出す小さな影。

 

「うわぁぁぁん! ていとくぅー!!」

 

 影の正体は時津風だった。

 てか、お前かーい!! そして提督呼びかーい!!

 

「ごめんねてーとくぅ、てーとくがくれた帽子なくしちゃたあああ、うわぁあああん!!」

 

 そのまま俺は時津風に飛びかかられて地面に押し倒される。

 あ、もう駄目、俺もう動けない、今日はもうホント無理。

 

 そんな俺の状況なんぞ知らんといわんばかりに、動けない俺に馬乗りになって、胸にしがみつきながらぎゃあぎゃあと泣き叫ぶ時津風。

 

「ああもう、そんなもんいくらでも買ってやるから、ほんと、お前が無事でよかったよ」

 

「でも、でもぉ!」

 

 泣き止まない時津風、つか麦わら帽子俺も落としたし、おあいこだわ。

 

「まぁ、無くしたもんは仕方ないよ。俺の帽子もどっかいったしな。夏にでもくれてやったと思っとけ、な? あともう怖くないからな、あのインキンブルとかいうヤツは兵隊さんじゃないと襲ってこないらしいし、それに森の中にしか現れないっていってただろう? もう大丈夫だ、だから泣き止め、そしたらいいもんやるよ」

 

「グス、グス……じゃあ、あたしも……」

 

 時津風はカバンに手を伸ばし、例の金塊を取り出そうとする。

 

「ああ、いいっていいって。お前ら陽炎姉妹には散々いろんなもんもらってんだ、俺がもらい過ぎなくらいにな。だからいいんだよ」

 

 ぐしゃぐしゃと時津風の頭を撫でながら、ポケットのビー玉を確認する。

 が、無かった。

 

 落としたらしい、ファッキンあのインキンブル!!

 

 しかし、冷静に考えるとアレってプラズマとか蜃気楼とかポルノガイジン現象とかそういやつなんじゃないのか?

 ブラックや時津風のノリがあんまりにもいいもんだから、俺も思わず本気になっちゃったけど、アレって子供の頃によくある、飛んでるビニール袋が幽霊やらなんやらに見えちゃう、感受性豊かな時代の産物じゃないのだろうか?

 

 やっぱ俺って馬鹿みたいだな。

 

「う、うん、グス……泣き止むね、グス」

 

 必死に泣き止もうと目頭を押さえる時津風。

 俺は馬鹿だけど、こいつはえらいな、くそう。

 

 俺はなにかやれるものがないか、ポケットをまさぐる。

 が、悲しいかなせいぜい貰い物のライターくらいしかない。

 

 子供のポケットでも、もう少しましなものが入っているだろうに。

 

 しょうがないので時津風を肩車し、震える脚で立ち上がる。

 ああもう、これしかないか、絶対いいたくなかったんだが……

 

「ほれみろ時津風、いい景色だろ? 物より思い出ってな。今日は散々だったが、このヒマワリ畑の風景だけはまぁ悪くないだろ? クソ暑い気温も、うざいくらい青い青空も、馬鹿でかい入道雲も、うるさい蝉の声も、このヒマワリのおかげでぜーんぶ夏の思い出アクセントに早変わりだ!!」(疲労限界ハイテンション状態)

 

 ハハハ、なに言ってんだよ俺は、物より思い出ってなんだよ。

 そもそも、今日の恐怖体験のインパクトが強すぎなんだよ。

 

 やっぱ俺馬鹿だー!!

 

 

「―――すごい」

 

 

 ポツリと、言葉をこぼす時津風。

 そして風が吹き、ひまわり畑が波打つ。

 

「すごいすごい! ひまわりの海みたい! こんなの見るのも、こんなに楽しいのも生まれて初めて、初めて!! この景色すごく好き! てーとくに肩車してもらって見える景色は全部好き! 好き!」

 

 嘘だろマジかよ信じられねえ。

 時津風が喜んでくれたぞ。

 

 ……というか、お前も潤いのない人生だったんだな。

 

 まぁ、これから色々経験していけばいいさ。

 時間はたっぷりある、夏はまだまだ終わらんからな。

 

「あー、なら今度、陽炎たち誘って海やら花火大会やら縁日やらでも行くか?」

 

「ほ、ほんと!? わーい、楽しみ!! 絶対だよ? 約束だよ? 絶対泳ぎに行こうねー♪ ねー! ねー!!」

 

 これまた随分と嬉しそうだな。

 

 そこまで期待されちゃあ叶えないわけにはいかないか。

 そうだな、せめて俺が内地にいられる間は、コイツらに楽しい思い出を作ってやりたい。

 

 それが、陽炎たちにできるほんとうに数少ないことだろうしな。

 

「―――しかしあっついなぁ。もう汗でべちゃべちゃだわ」

 

「うん! とってもあついね! あついね!」

 

 汗をかいた男の上だというのに、時津風はちっとも気にすることなく足や腕に力を込めて俺を握ってくる。

 

 子供は元気だな、ほんと。

 

 あっ……今更だが朝から煙草吸ってない。

 なけなしの体力だけでなくニコチンも切れた。

 

「もう駄目……」

 

 全ての力を出し尽くして、俺は今度こそ地面に仰向けになって倒れ込む。

 肩車の体勢のままだったので、時津風も一緒に。

 

「て、ていとくぅ!?」

 

 時津風の柔らかな腹を枕にひまわり畑で寝そべりながら、夏空を見上げる。

 ひまわりは元気にお天道様に向かって咲き、風に揺られて楽しそうだ。

 

 ひまわりに囲まれた、青ペンキをぶちまけたような空が視界に染み渡る。

 

 青いなぁ、土臭いなぁ、あっついなぁ、植物臭いなぁ。

 蝉が遠くで鳴くのが聞こえる、嫌んなるくらい夏だわ。

 

 こんなに夏を心と体で感じたのって何時ぶりだ?

 

「てーとく、てーとく? てーとくってばー、ねー!! おーい、聞こえてないの~? ぅお~い!」

 

 俺のことを心配そうに、てーとくてーとくと呼び続ける時津風。

 その度に不規則に膨らむ、時津風の腹の感触だけが今この瞬間心地いい。

 

「すまん時津かぜぇ、もうちょっとこのままで頼む。もうちょっとしたら起きるから……もうちょっとだけ頼む」

 

「……うん、いいよ」

 

 時津風の呼吸が落ち着いたのか、腹の動きがゆったりとした上下のリズムに変わる。

 

「ていとくはぁ、今日頑張ったもんねー」

 

 時津風は俺の泥だらけになった、汗でべちゃべちゃの頭を撫でてくれる。

 あー、やっぱコイツいいやつだなぁ、ちっちゃいのに優しいなぁ……

 

 ほんと、今日は色々ありすぎた、ヘトヘトでボロボロで汗だくの泥だらけだ。

 現状の情けなさも相まって、感傷的になって泣いちゃいそうだ。

 

 今の俺を見てまともな大人は、ああはなりたくないって思うのか。

 そして子供が見れば、あんな大人になるのは嫌だって思うんだろうか。

 

 思うだろうなぁ、俺だって立場が違えばそう思うかもしれんからなぁ。

 

 でも、たまにならこんなことがあってもいいじゃん。

 

 綺麗なだけの生き方なんていやだし。

 ああそうだ、そんな生き方いやだ。

 

 タバコも吸わずに綺麗な一戸建てに住んで、なんかその手のおしゃれなイベントに行ったり、それを自慢し合ったり。

 ギャンブルなんてしなかったり、もうテレビなんて見てないよねとかいったり、ジム行って細マッチョ目指したり、大事なものは近くにあったねとかいい合ったり……

 

 そんな生き方いやだわって、今だけかもだがなんかそう思うわ。

 

 いい歳して無職で求職活動もせずに古くさい駄菓子屋でダラダラしたり、山で虫取りしてうさんくさい迷彩服のおっさんたちと遊んだり。

 幻覚を幽霊だと騒いでマジびびりしながら子供相手に怒鳴ったり、全力で走って、力尽きて地べたに寝転がって自分が情けなくなって泣いて、子供に慰められたり。

 

 そんな生き方も正直どうかとは思うが。

 それもわるくないよって、なんかそう思うわ。

 

 まぁ、それもこれも時津風がいてくれたからなんだろうけどさ。

 ほんと、もう陽炎姉妹には頭が上がらんなぁ。

 

 そもそもなんで俺はこんなことを考えているのか。

 今日の少年時代のような体験がそうさせたのだろうか。

 

 なんか恥ずかしくなってきたぞおい。

 

「そういや、ブラックのおっさんたち大丈夫かなぁ」

 

「大丈夫だとおもうよー、自分たちのことプロだっていってたしー」

 

 ああ、そういやいってたなそんなこと。

 プロならなんとかするだろう、なんせプロだしな。

 

 次いつ会えるかわからんが、会えたらまた誘ってやるか。

 なんだかんだであいつらも楽しそうだったし。

 

 楽しそうか、そりゃそうだよな。

 

 好きでやってるんだ、楽しくないわけないよな。

 俺もやりたいことはやらないし、やりたいことはやってみようかね。

 

 そう考えるとなんだか色々と気が楽になった。

 単純だわ、俺って。

 

 でもそうと決めれば、体も軽くなる。

 

 腹も減った気がするし、時津風送り届けるついでにラーメン屋にでもよっていくか。

 地べたに座った状態で体を起こす、歩くくらいならなんとかなりそうだな、帰ろう。

 

「帰るかぁ」

 

「うん、また来ようねー」

 

 ははは、この場所にもう一回来られる気が一ミリもしないけどな。

 

 

 

 ……ちょっと待て。

 

 

 

 今気がついたけど、マジでここどこだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ - 陽炎会議録NO.3 -

 

 

 薄暗い部屋、円卓を囲む二十人近い少女らしい者たちがいた。

 

 らしいというのは、何故か全員顔を隠すための尖った白い被り物をかぶっていて、その顔がよくわからないからだ。

 そして被り物の額部分にはそれぞれ番号が振ってある。

 

 

 あと因みに時間軸的には萩風の話より前のことである(伸びに伸びた)

 

 

「はい、というわけで『陽炎型提督適性者出現☆』という未曾有時の事態に当たり必死で考えた、最後の決まりの理由を話すわ」

 

 その中で『1』と額に書かれた数字の被り物をかぶった少女がホワイトボードに、すらすらスラーと文字を書き込む。

 

 ①抜け駆け禁止、ただし偶然の出会いはOK

 ②ひとまず艦娘ということは伏せる『済』

 ③提督適性者免許はまだ取らせない、理由は今日

 ④提督の情報は必ず共有、なにかあれば直ぐに対応、理由は当然だから

 ⑤二人だけの状況で名前を呼んでもらえるまで、提督を提督と呼ばない。理由はわかれ

 

 

「前回③を除く全てを話したと思うけど、今日は③について話すわ。それに付随する大事なこともあるからよく聞くように」

 

 神妙な顔で頷くメンバーたち。

 

「この③の項目だけど、そもそも②の為には当然なんだけど、それとは別の理由があるわ。提督が求職中だっていうのは知っての通りだと思うけど、これが関係するの」

 

 どこぞのグラサンの基地司令のポーズを決めながら『1』の少女が説明をはじめる。

 しかし、メンバーのほとんどは理由がわからず首をかしげている。

 

「正直どの企業も提督適性者免許を持った提督をほしがる。これはしょうが無いことよ、だって艦娘と関わりが強い人間=色んな所との繋がりが強くなるんだもの」

 

 すっと『9』と額に書かれた少女が立ち上がる。

 

「ちょっとまって、提督のことを考えたら私たちの私情や事情は抜きにして、すぐにでもとらせるべきなんじゃないのかしら?」

 

 ざわつく室内、確かに確かにと、同意する声も聞こえてくる。

 先日自分たちの提督が「またお祈りされたンゴ……」と項垂れていたという報告も上がっているのだ、提督のためにできることがあるならするべきだという意見が飛び交う。

 

 

「ほしがりすぎるのよ……それが提督に与える影響が読めない」

 

 

 その言葉に、ハッとなる室内全員のメンバー。

 確かに、二十近い艦娘の提督、それは過去例のない多さだ。

 

 例え艦夢守市といえど、それが周りにどういう影響を与えるのか未知数なのだ。

 それが自分たちのためになったとしても、それは提督にとって好ましいことなのか。

 

「艦連のバックアップもあるだろうけど根回しや調査は絶対必要よ。だから一先ずは保留にするの。このことは私たち以外には秘密とします、いいわね? 提督の求職活動への干渉も禁止よ、自分たちからコンタクトを取りたくても必ず私に相談して、過度に取り過ぎるとどこかに悟られる可能性があるわ―――コレは長女命令よ」

 

 『1』と額に書かれた少女は最後にそう付け加える。

 

 室内のざわつきが更に大きくなる。

 ざわ……ざわ……

 

「疑問は有るかもしれないけど今は慎重になる時よ、コレは何時の日か私たちが提督と“くんずほぐれつハッピーでイヤンなR18めくるめく"平穏な毎日を迎えるために必要なことなの、納得してちょうだい」

 

 格好よく決めたつもりの某長女だったが、“くんず~”部分の願望流出ワードをバッチリとキャッチしたメンバー全員。

 彼女らの頭の中で、来たるべき“くんずほぐれつハッピーでイヤンなR18めくるめく"平穏な毎日の妄想が展開される。

 

 そして、ほぼ同時に③に関して全員、同意の意味をこめてヨダレや鼻血を拭いながら

 

「「「私たちの提督のために!!」」」

 

 と、声を上げる。

 

 薄暗い室内にその声はとてもよく響いた。

 

 

 




時津風を肩車して夏休みを過ごしたいだけの人生だった。
後、ブラックたちはなんだかんだで逃げ切った模様(悪運強い)

インビジブル(落とし物……)
 

三万文字を超える長編の投稿に関しては、分割した方が読みやすいですか?

  • 何文字になろうとも一話にまとめて欲しい
  • そこまで長くなるなら、二分割にして
  • 一万文字ずつくらいで、三分割にして
  • 実は七千文字くらいがいいので、四分割
  • 正直五千文字がベスト、五分割がいいな

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