提督をみつけたら   作:源治

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幼馴染もがみんと、ひたすらいちゃいちゃするだけの話です。
 


『幼馴染』と『重巡:最上』

 

 重巡の艦娘である『最上(もがみ)』は飛んだ。

 自室で布団にくるまって眠っていた、彼にめがけて。

 

「おはよう提督!」

 

「ぎゃひん!」

 

 元気よく飛び込んだせいか、最上のおでこと彼のおでこがごっつんこ。

 寝起きに頭突きを食らった最上の提督である彼は、その衝撃と痛みで目を覚ます。

 

「ぐごぉおおおお……も、もがみぃいいいいいいいん!」

 

「あいたたた……ごめんごめん提督、ボク、ちょっと他の艦とよくブツかっちゃう癖があるんだけど、なんでだろう?」

 

 赤くなった彼のおでこをさすりながら、最上は自分のおでこもさすりつつ、ぺろりと舌を出す。

 

「うぐぐぐぐ……もがみんや、それ毎回いってるけど、おれ以外の物や誰かにぶつかったところ、この二十二年で一回も見たことないぞ」

 

「そうだっけ?」

 

 彼は己の腹の上に馬乗りになっている最上を見上げながら、あきらめ気味な口調で呟く。

 

 浅黒い肌に、少しだけハネがついたショートカットの黒髪。

 改めてじっくり見る、幼馴染みであり彼の艦娘でもある最上の姿。

 

 ごめんごめんといいながら舌を出して笑う、すっきりとした顔立ちの笑顔はとても柔らかく。

 中性的でありながらも、ちゃんと女性らしい愛嬌がにじみ出ていて、正直とてもかわいい。

 

 さらに視線を下に移す。

 

 胸の大きさは控えめで、成長の余地はたぶんもう無い。

 が、実際の所、絶壁というわけでも無い。

 

 なぜ知っているかというと、以前というかその昔。

 

 からかってブラジャーをつけてるのかと聞いたら、目の前で外して見せてくれたからだ。

 そしてそのブラのタグには、確かにBとあった。(※サイズに関しては諸説あります)

 

 余談だが、そのとき彼はブラや胸のサイズよりも、目の前で恥ずかしげも無くブラを外して見せてくれた最上の優しい笑顔に、なによりもドキドキしたとかなんとかかんとか。 

 

 さらにゆっくりと視線を下に移す。

 

 余分な贅肉の無い腰は綺麗にくびれており、その下に続く小ぶりなおしりから伸びたほっそりとした脚は、光を反射するほどに張りがある。

 つまり最上という艦娘はボーイッシュと分類される女性ではあるが、健康的な色気も確かに備えており、提督である彼はそんな最上に対して、ちゃんと魅力を感じていた。

 

「ああもう、わかったからどいてくれ」

 

「へへっ♪」

 

 だが彼にとって、最上は子供の頃から側にいた存在で、もはや空気のようにいることが当然ともなっており、改めて興奮を覚えるということはあまりない。

 とはいいつつも、最上がいなければひどく落ち着かなくなることも、自覚はしているのだが。

 

 ちなみに二人は、まだ自力では立ち上がれない頃に出会った、同い年の幼馴染みであり。

 さらに家も隣同士で、今までずっと同じ学校にも通ってきた。

 

 子供の頃は他の子供たちにからかわれたりもしたが、その時の彼にはすでに最上がそばにいることは当然という価値観が構築されており、最上もまた、提督さえそばにいればいいといった空気だった。

 そんな二人の無意識に繰り広げられるイチャイチャぶりに、いつしか逆に周りの方が気を遣っていたとかなんとか。

 

 まさにパーフェクト幼馴染み、ついでに艦娘と提督という間柄、倍ドンである。

 

「それより、今日は楽しみにしてたカムフェスでしょ? 準備しなくていいの?」

 

「あー、そうだった。準備しなきゃなぁ」

 

 彼はそう呟きながらも、布団の中でもぞもぞするだけで、一向に起き上がる気配がない。

 というか、最上が彼の上に乗っかっているせいで、起き上がりたくても起き上がれないのだが。

 

 艦夢守市 野外フェス『通称:カムフェス』

 

 それは、複数のステージが混在する広大な会場で、数日にわたって繰り広げられる巨大ロックフェスティバルであり、その野外フェスには、大小様々な音楽バンドが集結。

 時には那珂ちゃんが飛び込みで登場して、ゲリラライブをやるという都市伝説まで存在する。

(※那珂ちゃんのライブは規模が大きくなりすぎるため、基本はソロライブが前提となるっていうか、那珂ちゃんはアイドルでロックバンドじゃないから!)

 

「まあ、提督の準備なんて着替えるだけなんだから、すぐできるよ。それより丁度ふとんもあるし、今から寝ちゃだめ?」

 

 なにが丁度なのかという疑問はあるが、彼の答えも聞かずに、最上は布団の中に潜り込む。

 

「べつにいいけど、時間になったらちゃんと起きろよー」

 

「そうこなくっちゃ! 安心して、ちゃんと提督を起こしてあげるね!」

 

 物心ついて、提督と艦娘という関係を彼が自覚する以前から、最上は躊躇無く彼の布団に潜り込んでくる。

 最初は少し抵抗した彼だが、まだランドセルを背負っていた頃に艦娘変わりを終えた最上は、当時の彼より遙かに体が大きく、抵抗は無意味であった。

 

 今では最上よりも体の大きくなった彼ではあるが、子供の頃から染みついた記憶というものは中々抜けないものだ。

 とはいっても、本気でいやがれば、最上は絶対に言う事を聞いてくれるので、彼も本気でいやがっているわけではないのだが。

 

 そんなわけで、色々長々と説明したが、その結果どうなったかというと。

 寝過ごした二人は無事、野外フェス開始時刻から大幅に遅刻して、会場に到着したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『幼馴染』と『重巡:最上』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ねぇ提督、あれうーぴょんだよ」

 

 遅刻したため、お目当てのバンドを見損ねた彼と最上は、空いていたステージの一番後ろの方で、名前も知らないロックバンドの演奏を聴いて時間をつぶしていた。

 そんな中、演奏が終わったバンドと入れ替わって現れた、バンドのメンバーに見覚えがあった最上が声を上げる。

 

「え、マジかよ。結構な大物が出てきたな……あれ、でも出演の予定とか無かったよな? 飛び入りライブか?」

 

 一番空いているといっても、そこそこ人は入っており。彼は最上が後ろからの人波に押しつぶされないように、彼女の後ろから手を回して抱きしめながら、目をこらす。

 

 よく見ると、確かに遠くのステージに見えるのは、ロックグループ『ヘルズトリック』のボーカル、駆逐艦の艦娘でもある卯月こと『うーぴょん』だ。

 紅い髪に、特徴的な sanma Tシャツ、ぎらつく瞳であたりを見渡しながらギターを担ぐその姿は、間違いなく本人。

 

 そんな大物アーティスト、うーぴょんの登場に会場は騒然とする。

 

 

「うっ……ぅ"ぅ"う"う"う"ひ"ょ"お"お"ん"!!」

 

 

 が、観客の一人、おそらくうーぴょん親衛隊のメンバーと思わしき男が、のどが張り裂けんばかりの声量でうーぴょんの名前を呼ぶ。

 それに呼応するかのように、あちこちにいた、うーぴょん親衛隊と思われるメンバーたちが声を上げ始めた。

 

 いつしかその叫びは重なりはじめ、会場はうーぴょんコールで満ちてゆく。

 

 

「「「 うーぴょん!うーぴょん!うーぴょん! 」」」

 

 

 うーぴょんはそんな観客をうざそうな顔で見つめながら、スタッフに合図を送る。

 そしてステージ脇から現れたのは、馬鹿でかい城門のような、歪な形状の物体。

 

 上部に取り付けられているのは、戦艦主砲の砲口のような、巨大な十二個のスピーカーコーン。

 更にその下には上部のコーンよりも大きい、人が入れる程の十二個の巨大な四角形の大穴。

 

 かなり歪だが、その特徴的な配置は、バックロードホーン型のスピーカーのもの。

 

 アカシ製『一二式 音響発生装置』 

 

 その誕生の経緯は、艦連が巨大製造企業『アカシ』に、可能な限り遠距離まで音が届く、船舶用装備の大型ホーンスピーカーの開発を依頼したことから始まった。

(※余談だが、アカシの企業理念は『提督以外はなんでも創る』である)

 

 アカシの音響機器開発部門に所属する優秀な技術者が、無事開発と必要数の生産を終えた後。

 納品の為に倉庫に置かれていた十二個のそれを、たまたま歩いていた艦娘の明石が発見。

 

 もっと良いものにできるはずと、余った予算で更に改造と改良を加えて見た結果。

 なぜか一個に融合した、コンサート用のスピーカーが出来上がってしまった……

 

 けど、そのまま納品した。

 

 という謎の開発と完成の経緯を持つ、混沌の一品。

 ちなみにそのスペックは、通常の二百ワットスピーカーおよそ百個分。

 

 当然、納品された艦連からは、アカシに問い合わせの電話がいった。

 

『もしもし明石? なんで融合して、おまけにコンサート用になってるんですか? え、今は手が離せなくて電話に出られない? えっ、なんで?』(迫真)

 

 が、明石は居留守を使った。

 艦連と大淀は泣いていい。

 

(もっとも、この後明石は一年間給料無しになって、めちゃくちゃ怒られた)

 

 そんな狂気じみたスピーカーが、うーぴょんの真後ろに置かれる。

 スタッフは手早くコード類を接続し、音量とトーンの設定を確認。

 

 そして設置を終えたスタッフが、うーぴょんにゴーサインを出した。

 

 それを確認してうーぴょんは、調整のためなのか。

 軽く六弦のGのフレットを、人差し指でタップした――瞬間。

 

 

 

ギュギャ!!

 

 

 

 たったそれだけで、スピーカーから強烈な音波が発生した。

 その音の振動は真正面に立つ、うーぴょんに直撃。

 

 まるで、後ろから強い煽り風を受けたように、うーぴょんの紅い髪が激しく揺れて逆立った。

 

 だが、うーぴょんはその音量と衝撃に全く応えた様子も無く。

 むしろ悪くないという風な、ゆがんだ笑みを浮かべ――

 

 ギターをかき鳴らし始めた。

 

 

 

ジャカジャーン!!!!

ジャッジャジャッジャ♪

 

 

 

 開幕から最大全開で放出される、強烈な音の波が空間を切り裂く。

 その衝撃をうけて何人もの観客が、後ろにひっくり返る。

 

 うーぴょんはそんなことお構いなしに、Gのコードを押さえて、リフを弾き続ける。

 

 野外会場だというのに、まるで箱の中にいるような錯覚。

 それはもはや音では無く、熱と振動と音が合わさった爆発。

 

 最前列にいる観客たちの中には、泡を吹き始める者も出ている。

 

 だがうーぴょんに「ねてんじゃねえぴょん!」と、叫ばれ。

 すぐに冥土から戻り、必死に頭を振り始めた。

 

 そして前奏が終わり、うーぴょんの(ソング)が始まる。

 

 

 

さっき空母にいたずらしたぴょーん!

お次は戦艦にいたずらするぴょーん!

 

 

 

「「「 うーぴょん!うーぴょん!うーぴょん! 」」」

 

 観客たちの訓練された合いの手が、完璧なタイミングで挟まれる。

 その曲に聴き覚えがあったのか、彼と最上の近くにいた二人組が驚愕の叫びを上げる。

 

「この曲は……戦艦騙し!?」

 

「マジか!!一曲目からかよ!?」

 

 熱狂と音量、そしてやがて噂が広がり押し寄せる人波。

 小さな会場に収まらない、とてつもない熱量が発生する。

 

 爆発的な熱と音の波に揉まれながら、観客は拳を高く上げ、肩車をして脱いだシャツを振り、うーぴょんの名前を叫ぶ。

 

 そして曲の最高潮に達するサビを過ぎて、長い間奏が始まる。

 うーぴょんはマイクを足で引き寄せ、狂ったようにギターをかき鳴らしながらシャウトする。

 

 

 

ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷくぷー!!

 

 

 

 凄まじい速さで発せられる、言葉の弾丸。

 まるで機関銃のような高速シャウトが観客を貫く。

 

「でた! うーぴょんさんの一秒間十回連続ぷっぷくぷーだ!」

 

「早すぎて最後以外は『ぷっ』にしか聞こえないぷっぷくぷーだ!!」

 

 そのパフォーマンスにも覚えがあったのか。

 彼と最上の近くにいた二人組が、再び驚愕の叫びを上げる。

 

「……うわぁ、すげえなこれ」

 

「寝坊してよかったでしょ?」

 

 反省のない最上の言葉に、彼は「ばか」と囁き、顎をゴツンと彼女の頭に落とす。

 ゴツンとされた最上は「いてっ」と声を上げ、後ろを振り返る。

 

 そして甘えながら「衝突禁止!」と、いって笑った。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 会場のあちこちで行われていた、熱狂的な演奏が終わった夜。

 

 酒を飲んで踊るもの、持ち込んだギターをかき鳴らして歌うもの。

 静かに余韻に浸るもの、明日に備えて早々に眠りにつくもの。

 

 そんな観客たちが集まる、テントが沢山張られた広場。

 その中の一つ、小さなテントの中に、彼と最上はいた。

 

「今日は遅刻しちゃったけど、結構当たり引けてよかったね、提督」

 

「まぁ、残り物には福があるってやつかもな。やっぱカムフェスはなにが出てくるかわからんから油断できん……よし、できたぞー」

 

 彼は角型のコッヘル(※携帯用の小型鍋みたいなもの)を、ストーブから放してタオルの上に置く。

 ふたを開けると、もわっとした湯気にのって、醤油と鶏ガラスープの香りが立ち上った。

 

 中身はありふれた袋麺から作ったラーメン。

 しかし侮るなかれ、野外で味わうと十倍くらいおいしい。

 

 彼と最上は、四角いコッヘルに入った一つのラーメンを、二人で、一つの箸を使って食べる。

 

「提督、ネギがついてるよ。ん、いいよ」

 

「お、わるいな」

 

 そんなこんなで貧相で豪華な夕食を終えた後。

 

 鍋を片付けた彼は、ごろりと寝転がった。

 最上も懐中電灯を消して、彼の横に寝転がる。

 

 彼は最上の腕を枕にし、テントの窓から空を見上げた。

 

「あー、学生最後の夏もこれで終わりかぁ……」

 

「そうだね」

 

「軽くいうけど、もがみんさん、起承転結の結が終わっちゃうんだぞ? なんかこう、ないのですかね」

 

「学生最後の夏っていっても特にないかな、秋はちょっと寂しくなっちゃうけど」

 

「そんなもんですかね」

 

「そんなもんなんですだよ、ふふ」

 

 最上は、さっと腕を彼の頭の下から引き抜く。

 そして今度は最上が彼の腕を枕にして、甘えるように彼の胸に顔を埋めた。

 

「なぁもがみん」

 

「うん?」

 

「提督適性者免許、どうしよっかぁ」

 

「あー、そーだねー」

 

 提督適性者免許、適合した艦娘の提督と証明する免許証。

 

 取得することで、官民問わず、様々な優遇措置を受けることができる反面。

 その艦娘に対して、提督として責任を持つという意味合いを含むものでもある。

 

 もっとも、なにか法的な責任が発生する訳でも無く。

 ただ、私はこの艦娘の提督だと、そう、証明するだけのものでもある。

 

 重く捉える提督や艦娘もいれば。

 貰えるなら貰っておこうという提督や、取りあえずとって貰おうという艦娘もいる。

 

 子供の時から共にいる、最上という艦娘。

 

 彼女に対して、今まで幼馴染みとしてしか接してこなかった彼だが、そばにいることが当たり前という関係が長すぎたせいか、その先というか、そもそもそれ以上先があるかもわからず。

 彼と最上にとってそれは、昔から一緒にいたが故に、どう扱って良いのか迷うといったものであった。

 

 故にその責任の意味を理解できるようになるまではと、彼はずっと保留にし続けていた。

 

「昔いったけどさ、ボクの考えはそのときからずっと変わってないよ。提督が大人になって、その判断ができるようになるまでは今のままでいいし。そしてその判断ができるようになったとしても、提督適性者免許を取るのも取らないのも提督に決めて欲しい……今更いうのも恥ずかしいけど、ボクは提督のそばにいられるのが一番うれしい……けど、もし提督がなにかを望むなら、そう望む形に関係を変える努力はしてみる……よ」

 

 そう言い終えると、最上は彼をぎゅっと抱きしめる。

 遠くからは、未だにどこかで演奏してるステージから聞こえてくる音楽と歌。

 

 そんなBGMを聞き、最上の温かさを感じながら。

 彼はなにもいわず、窓から見える満天の星を見上げ続けていた。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 翌日。

 

 朝、最上が脱いだ靴の中に、いつの間にかムカデが潜り込んでいたらしく。

 そのまま履いてしまい派手に大暴れした結果、テントを壊してしまった以外は特に何事も無く。

 

 彼と最上は今、その日のお目当てである、バンドのライブが行われる中規模の会場にいた。

 

 が、昨日のうーぴょんのライブがあまりに強烈すぎたせいで、いまいちノリきれない彼。

 そんな理由から、後ろの席でダラダラと眺めていると、急に雨が降り出した。

 

 丁度そのバンドの演奏が終わって、次のバンドの登場まで時間があったこともあり、テントに戻る観客たちが多い中、テントを壊してしまった二人は途方に暮れる。

 

「もがみんや、もがみんや」

 

「い、いわないで提督……」

 

 おそらく通り雨なのだろうが、それ故に雨の勢いは強い。

 野外フェスの雨は、火照った体を冷ます恵みの雨だが、まぁ、それでも時と場合によるものだ。

 

「あ~あ……せっかくのカムフェスが台無しだよ、もぉ……。しょうがないか、えいっ!」

 

 そう最上が口にした瞬間、彼女の体が一瞬光ったかと思うと、ポンチョタイプの茶色い雨合羽姿に変身した。

 ただ雨合羽をかぶっただけに見えるが、この茶色い雨具、れっきとした艦娘の戦装束である。

 

 その性能は折り紙付きで、耐水は当然ながら、防寒防雪海水腐食対策に機銃程度では貫けない防弾性能に、自動修復機能etc.etc....

 

 まぁ、つまりなにがいいたいかというと。

 

「も、もがみんや、それは戦装束という立派な艤装の一種じゃないのかね」

 

「な、なんのことかなぁ……?」

 

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 ※艦連からのお知らせ

 

  艦娘は皆、艤装以外もある程度自由に物を格納できる、秘密の格納空間を持っています。

  そのため、普段は秘密のポケット空間(艤装格納庫)にしまってある艤装同様、しまってある私物も一瞬で取り出すことが可能です。

 

  ただしこれら含めて使える様(法律的)になるためには、色んな講習や試験を受けた後に発行される免許が必要です。

  持ってないのに使うと、大淀さんが怒っちゃうぞ、ぷんぷん。

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 ちなみに最上は艤装使用に必要なその免許を、めんどくさがって取っていなかったりする。

 

 そのことを知っている彼は、じっとりとした目で最上を見るも。

 すぐにまぁいいかと、最上の後ろから雨合羽の中に、すっぽりと潜り込んだ。

 

 二人羽織状態になっても余裕のある、大きな雨合羽の中。

 最上と彼は、ぼけっと誰も演奏していないステージを眺める。

 

 中々止まない雨。

 ステージの上では、スタッフが忙しそうに走り回っている。

 

 そんな忙しさとは対照的に、暇をもてあました彼は、後ろから最上を抱きしめ、首筋の後ろをクンクンとかぐ。

 

 濡れてしっとりとした最上の黒髪から滴る、温かい水滴。

 お互いが発する熱と合わさり、雨合羽の中に満ちる水蒸気。

 

 そんな水分が合わさって大粒の水滴となり。

 ゆっくりと最上のうなじを伝ってゆく。

 

 喉が渇いていた彼は、それをペロリと舐めとった。

 

「ちょ、提督、恥ずかしいって……ったくもぉ……」

 

「すまんすまん、自分のにおいかぐと落ち着くから、その感じでつい、な」

 

「いやぁまぁ、別にいいんだけどさ……もう、提督はさみしがりやの甘えん坊さんだね……ふふっ」

 

「なんでそうなる」

 

「ちょっ、動かないでよ! ふふっ♪」

 

 抗議の気持ちを表現するためか、彼はもぞもぞと雨合羽の中で動き回る。

 その動きがとてもくすぐったかったのか、最上は恥ずかしそうに身をよじった。

 

ゴゴゴゴゴ……

 

ゴゴゴゴゴ……

 

 そんな夏なのに、青い春な空気を発し続ける二人……に、忍び寄る不穏な振動。

 

「おい、なんか揺れてないか?」

 

「ほんとだ、なんだろ?」

 

ゴゴゴゴゴ……

 

ゴゴゴゴゴ……

 

 何事かと二人が振動の発生源と思われる、前方のステージを見る。

 二人が今いる会場は、半円形のステージとすり鉢状の客席を備えたもので、客席からはステージを見下ろすような形だ。

 

 

ゴゴゴゴゴ……

 

 

 するとステージの中央がぱっくりと開き、なぜか下からせり上がってくるリフトに乗って、うーぴょんが登場した。

 

 ついでにその足下には、うーぴょんの代名詞でもある『一二式 音響発生装置』が当然のように鎮座している。

 

「「きょ、今日も出るの!?」」

 

 思わずハモってしまう二人。

 

 ステージはその構造上、会場の一番低い位置にあるのだが、うーぴょんは『一二式 音響発生装置』の上に立っている為、丁度二人と同じ視線の高さである。 

 そんな二人というか、がらがらの客席をにらみつける、ロックグループ『ヘルズトリック』のボーカル兼ギタリストのうーぴょん。

 

 

雨なんかに負けるぅぅぅううう!!

うーぴょんじゃぁ、ないぴょん!!

 

 

 曇り空を貫き、空間を切り裂き、大地をふるわす、うーぴょんのシャウト。

 そしてうーぴょんは担いでいたギターを空に投げる。

 

 派手に見えながらも、コードが絡まらずに器用に投げられたギター。

 やがて重力に引かれて、数秒後に落ちてきたギターをキャッチ、と同時。

 

 うーぴょんはピック無しで弦を弾く!!

 

 

 

ジャカジャーン!!!!

ジャッジャジャッジャ♪

 

 

 

 調整なし、予告なしでいきなり始まる演奏。

 その音の衝撃に、雨すら重力に逆らって方向を変える。

 

 

「うっ……ぅ"ぅ"う"う"ひ"ょ"お"お"お"ん"!!」

 

 

 そしてどこかから突然現れた、うーぴょん親衛隊のメンバーと思わしき男が、のどが張り裂けんばかりの声量でうーぴょんの名前を呼ぶ。

 それに呼応するかのように、あちこちから集まってきた、うーぴょん親衛隊と思われるメンバーたちも声を上げ始めた。

 

「「「 うーぴょん!うーぴょん!うーぴょん! 」」」

 

 いつしかその叫びは重なりはじめ、会場はうーぴょんコールで満ちてゆく。

 彼は最上の雨合羽の中から飛び出し、彼女の手をつかんで走り出す。

 

「ほら最上! 今日は前の方でしっかり聴こうぜ!」

 

「前に出るの!? そうこなくっちゃ!」

 

 雨と音の波をかき分けながら、提督と艦娘の二人が、うーぴょんに向かって進んでゆく。

 その背後には、うーぴょんの気配を嗅ぎつけた、大勢のうーぴょん親衛隊たちの姿。

 

 カムフェス二日目。

 古今東西北南、野外フェスは二日目からが本番である。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「終わってみればあっという間だったな。なんだかんだで楽しかったけど、疲れたわ」

 

「そうだね、でも提督と一緒なら毎日でもいいや」

 

「いや、毎日はさすがに無理だって」

 

「そぉ?」

 

 帰りの路面電車の中、それなりに混雑した車内。

 だるそうに手すりにぶら下がる彼と、その横で彼の腕を掴みながら、ニコニコと微笑む最上。

 

「んー、なぁ、もがみんや」

 

「なんだい提督」

 

「卒業したらさ、提督適性者免許とるために二人で役所にいくか。そしたらついでに一緒に住む場所も探そう、そういう優遇も受けられるはずだし」

 

「……え?」

 

「なんだ、嫌なのか?」

 

「いや、全然嬉しいというか、えっと、でもそれってえっと……」

 

 珍しく真っ赤になる最上、一方の彼は自然体の様子。

 

 あわあわとなっている最上を尻目に、彼は近くにいた金髪のホストのような男。

 そのホストらしき男が持っていた、ギターのハードケースを見る。

 

「なぁお兄さん、悪いけどそのギター五分くらい貸してくんない?」

 

 ホストらしきの男は「いいっすよ~」と、気軽に返事をして、狭い車内にあちこちぶつけながら、苦労してギターを取りだし、彼に渡してくれた。

 

 因みにホストの後ろには、ショートカットの美女がいて「ふ、二人っきりででかけたことを金剛お姉さまや妹たちに知られたら……ひぇぇぇ」とかなんとか、幸せそうな顔で泣いてたとか。

 

「よっこいしょっと」

 

 彼はちゃっちゃっと弦の調子を確認して一発入れる。

 続いて喉の調子を確認し、軽快なフォークミュージックを奏で始めた。

 

 ジャーン・ジャカジャカジャーン♪

 ジャーン・ジャカジャカジャーン♪

 

 のんびりとした前奏が終わり、彼は大声で歌い始める。

 

 

 ♪おまえがいつも見てるのは

  まだまだ半端なおれだけど

 

  スーツが似合うようになったなら

  おまえの目がハートになったなら

 

  そのときゃ籍でも入れようぜ

  そのときゃ籍でも入れようぜ

 

  二人の結婚式場が、神社教会公園かは

  そんときの稼ぎしだいだけどぉ~~♪

  

  ふふふ~んふ~ん

  おーういえぃ!!

 

 

「―――アハッ!!」 

 

 彼の歌を聴き終えて、うれしさ極まった最上は、涙を流しながら彼に飛びつく。

 しかし長い付き合いの彼は、なんとなく最上の行動が読めていたのか、飛びついてきた最上の顔を片手でキャッチして受け止めた。

 

「ぎゃふん!」

 

「衝突禁止!」

 

「それボクの台詞だよ!?」

 

「そうだっけ?」

 

 とぼける彼を見ながら半べそをかいていた最上だが、にやりと笑って彼の手を払いのける。

 そして今度は見事、彼の防御をくぐり抜け接近した。

 

「いっとくけど、ボクの目は提督と出会ったときから、ずーっとハートだよ!!」

 

 最上は飛びこむ、提督である彼めがけて。

 結果、彼の前歯と最上の前歯が衝突した。

 

 そんな二人を見て、なぜか車内に拍手が満ちる。

 

 路面電車は進むよどこかまで。

 終業時刻までは、いつまでも。

 




そう、もがみんは幼馴染だったのです。

※音楽、楽器、ライブ関係その他諸々の描写は、実はとてもふわっとした感じです。
 がんばってみましたが、なんとなくそれっぽく書くのが限界でした。
 

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