提督をみつけたら   作:源治

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姉、由良さんとかいう無敵の組み合わせ。
ここで切るのかと疑いたくなる強カード。
 


『弟』と『軽巡:由良』

 

 姉、という存在が居る。

 

 意地悪なお姉ちゃん、甘えんぼのお姉ちゃん、面倒見のいいおねえちゃん、優しいお姉ちゃん。

 そりゃもう世界には姉の数だけ姉の形がある、といっても過言ではないだろう。

 

 ちなみに姉を持つ友達に聞くとほとんどが

 

「正直そんなにいいもんじゃないぞ」

 

 と、どこか渋い顔で言う。

 なんというか、渋い顔としか表現できない。

 

 ちなみに僕にも姉が三人いるが、確かに、姉がうらやましいと言われれば似たような顔をしてしまうかもしれない。

 

 だが僕の場合少し意味合いが違う、なぜかというと三人とも僕の姉は少し変わってるのだ。

 

 

 というのも……

 

 

「そろそろお風呂に入ろうかしら、ねえ、背中流してくれる?」

「由良姉さん、さすがにもう一人で入ってください」

 

「よーっし、次は長距離だね、訓練あるのみ!」

「鬼怒姉さん、僕は行かないので引っ張るのやめて」

 

「ちょっとぉ、前髪のセット手伝ってよぉ~」

「阿武隈姉さん、いい加減一人でセットできるようになりなよ」

 

 

 ……笑えよ。

 そうさ、全員艦娘だよ。

 

 

 ちなみに三人がどんな艦娘か、軽く紹介しておくと。

 

 

 『由良』

 とても長い銀色の髪をした軽巡洋艦の艦娘。

 垂れ目でとても優しげな声、すらりとした体でとってもいい香がする。

 しっかりものでとっても優しい姉さんの中の姉さん。

 あと美人。

 

『鬼怒』

 はねた赤毛が特徴的な軽巡洋艦の艦娘。

 生命力に溢れてた瞳、いつも元気一杯でどこかおっちょこちょいで、でも実はけっこうかわいいものを集めるのが趣味。

 一緒に居てとっても楽しく元気をくれる姉さん。

 あと美人。

 

『阿武隈』

 セーラー戦士みたいな髪型で、オレンジ色をした綺麗な髪の軽巡洋艦の艦娘。

 自信が無さそうな垂れ目で、前髪をいっつもいじってるけど、やる時はやるんだから。

 一緒にいろんなことに挑戦する相棒みたいな姉さん。

 あと美人。

 

 

 わーい、三人ともとっても素敵な姉さんだー(棒)

 そして四人姉弟の末っ子長男が僕……だ。

 

 僕が生まれたときそれはもう両親は喜んだ、なんせ三人が艦娘だったのだ、確率でいえば九蓮宝燈の天和を三回連続で当てるレベルだ。

 ようやく産まれた普通の人間の僕を両親はたいそうかわいがってくれた。

 

 だが、三人の姉たちはその両親を遥かに上回る執着を僕に見せた。

 

 というのも、

 

 

「ねえ提督、そんなこと言わずに一緒に入ってね、ね」

 由良姉さん。

 

「早く走りに行こうよ! 提督!」

 鬼怒姉さん。

 

「提督早く前髪なおしてよぉ~」

 阿武隈姉さん。

 

 

 ……笑えよ。

 そうさ、僕は三姉妹の適性全部を持って生まれてしまったのだ。

 

 

 まぁそんなわけで、なんというか。

 僕がこの三人の姉とどういう気持ちで育ってきたか。それを全て説明するのは正直難しい、現在進行形でも色々とあるし。

 

 だが両親の気持ちはガッツリ決まってたりする、いわく

 

母「あんたが三人の誰かと結婚してくれれば結婚式は楽だし、嫁姑の関係も気楽だし最高さね」

父「別に在学中に孫作ってもええんやで? むしろ作るべきだと思わんかね?」

 

 それでいいのか父よ母よ。

(父母は天空のに出てくる空賊の頭とグラサンの大佐に似ている)

 

 いや、いいんだろうけどさ。

『そういう存在』として生まれてくる艦娘には近親交配の概念も無いし、戸籍だって人間ではなく艦娘としての戸籍を与えられるので法律的にも問題はない。

 

 つまり社会的にも倫理的にもオッケーなんだろうけどさ。

 

「鬼怒、阿武隈、私は提督とお風呂に入ってくるからどこかに行ってなさい」

「由良姉さん、阿武隈、鬼怒は提督と訓練があるから二人は後だね!!」

「由良姉さん、鬼怒姉さん、私の前髪より大事な用事なんてな、無いと思うけど」

 

『……』

 

 無言でにらみ合う三人、正直この三人が喧嘩を始めたら普通の人間ではどうしようもない、下手したら家が壊れかねない。

 普段はとても仲のいい三人だが、偶にこうやって僕を取り合って対立することがある。

 

 ちなみに今日も学校でこんなことがあって。

 

 エスカレーター式である僕の学校には、それはもう沢山の生徒が居るんだけど、そんな学校でも艦娘の生徒というのは多くない。

 そんな学校で艦娘の姉を三人も持つということがどういうことかわかるだろうか、いや、持つだけならいいのだ、持つだけなら。

 

 だが三人の提督適性者となってしまった僕の日常は……

 

「ねえ提督、今日のは自信作、お茶、煎れますね。ね♪」

「由良姉さん、お弁当持ってきてくれるのはいいんだけど膝に座るのやめて」

 

「おぅ~い! ていとくぅ~! なに食べよっか!」

「鬼怒姉さん、後ろから絡みつくのやめて」

 

「わかったわ! あたしの力が必要なのね!」

「阿武隈姉さん、一人で食べられるから、食べれるからアーンしようとするのやめて」

 

 ……笑えよ。

 そうさ、昼休み、別クラスや下の学年だというのにお構い無しにやってくる姉たちを囲んでランチの日々だ。

 

 艦娘がどういうものか割と理解のあるこの学校で、彼女らの行為をとがめられるものは少ない。

 

 そんな僕を見て友達は血の涙を流しながらうらやましいと言うけど、修羅場というのは色々大変だ、特に家族だと誰かを選んでさよならって訳には行かない、縁は一生続くのだから。

 

 

 でもなんだかんだでみんなで姉弟仲良く過ごしてたんだ、あの時までは……

 

 

 

 

 

 

 

 

『弟』と『軽巡:由良』

 

 

 

 

 

 

 

 

 家族でキャンプに出かけた時のことだ。

 

 別に三人の誰かが悪いわけでもなく、三人の仲裁中に僕がへまをして怪我をしてしまったことがあった。

 

 普段は絶対うろたえない由良姉さんは大泣きし、前向きで元気いっぱいの鬼怒姉さんは青い顔で震え、阿武隈姉さんにいたっては「やっぱあたしじゃムリ……」と言いながら思いつめたような顔をしていた。

 

 僕はなんとか三人を落ち着かせ、両親を呼んで色々とがんばったが、さすがに限界だったのかばたりと倒れて救急車を呼ぶ羽目になった。

 

 それからだ。

 

 三人の仲はなんというかどこか、よくわからないけど覚悟を共有する仲とでもいおうか、謎の決意を決めてしまったような感じになり。とりあえず三人は絶対僕の前では喧嘩をしなくなった。

 

 そして僕と四人でいるとどうしても取り合いになることがおきそうになる、だから三人はなるべく僕には近づかなくなった。

 正直その期間は僕もびっくりするくらいショックを受けて、姉さんたちと一緒に居られないのがこんなに寂しいものなのかと、衝撃的だった。

 

 一緒に居たいのに居れない、話したいのに話せない。

 そんなちぐはぐな、どこかかみ合わない僕らを見て両親は

 

母「女が簡単にあきらめるんじゃないよ!」

父「さn……二年間待ってやる!」

 

 と言いながら一つの解決策を提示した。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「ふふふ、二人きりなんてほんと久しぶり」

 

 夜、そう言ってベットに並んで座っていた僕にパジャマ姿の由良姉さんがしなだれかかってくる。

 どこか興奮したように紅潮する由良姉さん。こんなに密着すると首筋や髪からすごくいいにおいが強く感じられて理性が保てなくなってしまいそうだ。

 

「なんでこんなことに……」

 

 両親はちぐはぐな関係を続ける僕らを見かねて、家の離れに僕の部屋を建ててしまった。

 一応母屋と廊下で繋がってはいるけれども、風呂、トイレ、台所完備の完全にこの部屋だけで生活ができるレベルの部屋だ、てか家だ。

 

 そして、この部屋に三姉妹が入る上で一つの決まりを作ったのだ。

 

『三姉妹がこの部屋に入れるのは、学校を卒業する前の二年間だけ。あと息子は用事が無ければ母屋に入っちゃ駄目』

 

 僕と阿武隈姉さんは一つ(三月生まれと四月生まれの同学年)しか違わないけど、鬼怒姉さんとは二つ、由良姉さんは四つ違う。

 

・由良姉さん  二年後に卒業

・鬼怒姉さん  四年後に卒業

・阿武隈姉さん 六年後に卒業

 

 つまり、今現在僕の部屋に入っていいのは由良姉さんだけということになる。

 ちなみに由良姉さんは僕の世話をするため、この部屋で寝泊りし、毎日通う気満々である。

 どう考えても通い妻です、本当にありがとうございませんでした。

 

 

 ……いや、解決策にすらなってないし、おまけに力業じゃないか!

 あとなに、なんで僕母屋に入っちゃ駄目なのさ!? 

 

 

 そう叫んだ僕に返答した父と母の姿を思い出す。

 

母「泣き言なんて聞きたくないね! なんとかしな!」(ドヤ顔)

父「素晴らしい! 最高のショーだとは思わんかね?」(ドヤ顔)

 

 反論は意味を成さなかった。

 

 姉さんたちに相談しても、僕抜きで行われた両親たちとの話し合いで、どこか三人とも吹っ切れてしまった感じになっていて話にならない。

 

 つまり一番納得できないのは、僕の意見は完全にお構い無しというところだ。

 いや、別にこの状況が嫌というわけじゃもちろん無い、正直由良姉さんは大好きだ。

 

 でもこう、なんというか長年姉として見れなかった僕としては、こう踏ん切りが付かないわけで。

 

「私とそういうことするのは嫌?」

 

「というか僕の年齢を考えて欲しいと申しますか……」

 

「提督の年齢ならそういうの興味津々だって聞いたけど」

 

「いやでも、なんというか僕も色々と思うところがありまして……」

 

 僕の部屋には入れない、そう聞いてとても寂しそうな顔をする鬼怒姉さんと阿武隈姉さんが脳裏に浮かんだ。

 

「二人のことが気になる?」

 

「ぇぇ……」

 

 なぜ解ったし。

 

 顔に出てたのか、クスクスと笑いながら由良姉さんは僕から一度はなれ、そして後ろから包むように僕を抱きしめた。

 残念ながら成長途中の僕はまだ由良姉さんと身長差があり、由良姉さんにすっぽり包まれるような感じになってしまう。

 吐息が耳に当たるほどの近い距離、僕の肩に頭を乗せながらささやくように由良姉さんが言った。

 

「大丈夫、あの二人も何年かたてば同じように提督と二人っきりでこんな風になるんだから。でも今だけは、今だけは私だけの提督ね、ね」

 

 そんな甘い言葉に脳がとろけそうになる。

 

「でも駄目なんだ由良姉さん、僕にはそんな資格があるとは思えないんだ」

 

 とてもとても素敵な僕の姉さんたち、艦娘とか関係なく姉としても女性としても素敵な、姉さんたち。

 だからこそ、姉さんたちを悲しませてしまうような、そんな僕なんかじゃなくもっといい人と結ばれて欲しい。

 そんなことを思ってしまう。

 

 クスリ、と、由良姉さんが微笑んだのがわかった。

 

「相応しいかどうか、もっといい人が居るどうか、普通の女の人ならそういうのも考えちゃうかもしれないわね」

 

 そう言いながら由良姉さんは、ぎゅっとぼくを抱きしめる力を強くする。

 

「でも私たち艦娘に限っていえばね、もう他の人なんてありえないの。私たちの、ううん、私の心はもう一生提督のものなんだって、比喩でもなんでもなく他にはもう居ないんだって、わかってほしいな」

 

 どこか悲哀めいた、由良姉さんのその言葉を聞いて、僕は湧き出した色んな感情で溺れそうになる。

 

 僕はわかってなかったし、覚悟だってなかった、姉さんたちがどんな思いで僕と接していたかなんてわかったつもりで居ても何一つわかってなかったと思い知らされる。

 そんな言葉にできない姉さんたちの想いを考えると、自然に涙が溢れてとまらなくなった。

 

「あっ、ごめんね。泣かせちゃったかな」

 

 そういって僕を振り向かせ胸の中に包むようにして抱きしめる由良姉さん。

 

「私たちのこと、ゆっくりでいいから見てくれるとうれしいな」

 

 涙が止まらずなにも言えない僕は、由良姉さんに抱きしめられるまま眠りに付いた。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 歌が聞こえる、これは……由良姉さんの声だ……

 

 遠い昔の記憶。

 

 僕が覚えている一番古い記憶。

 

 その時僕は泣いていて、それをあやすように由良姉さんが歌ってくれている。

 

 

 

よろしくね、提督

 

初めて会ったときの貴方の顔は忘れられないわ

 

出撃の時は何時もその顔を思い出すの

 

遠征は成功よ、でも補給はマメにさせてよね

 

最近こき使いすぎじゃないかしら?

 

たまには休ませて欲しいわ

 

 

泣かないで提督

 

泣かないで提督

 

泣かないで私の大切な人

 

 

しょうがないから許してあげる

 

だから戻ってきたら、甘いものを一緒に食べましょう♪

 

 

 

 古い、とても古い歌。

 

 世界で初めて艦娘が作ったといわれている歌。

 

 泣き虫な提督へ

 

 曲名どおり、自分たちの為に泣いてくれた、泣き虫な提督の為に、艦娘が一生懸命考えて歌ったといわれている歌。

 

 戦争が終わり、悲しみに満ちた二番を歌う必要はもう無いからと、二番は消してしまった歌。

 

 それを由良姉さんが歌ってくれている。

 

 きっと僕に泣き止んで欲しいから……。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 夜中にふと目がさめた、泣き声が聞こえた。

 自分の泣き声かと思ったけど、違う、聞こえる声は由良姉さんだ。

 

「……ごめんね、ごめんね」

 

 なぜ由良姉さんが謝りながら泣いているのか、僕にはわからない。

 

 僕はとっても無力だ。

 

 でも、なぜかその瞬間ぼくは決めたんだ。

 もう絶対由良姉さんを悲しませないって、決めた。

 

 そして由良姉さんの今後の人生が、より富んだものであるように。

 より幸せなものになるようにしてみせる。

 

 僕を抱きしめてくれていた由良姉さんを抱きしめ返す。

 由良姉さんがびくっとなったのがわかった。

 

 なにも言わずただ由良姉さんを抱きしめていると、やがて由良姉さんも泣きやんで僕をまた抱きしめてくれた。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 朝起きると、まだ隣で由良姉さんがすやすやと寝息を立てていた。

 僕は体を起こし、そっと朝日を反射する由良姉さんの髪をなでる。

 銀色のさらさらとした長い髪が指に絡み付いて気持ちいい。

 

 んんっ、と、くすぐったそうにする由良姉さん。

 僕は手を離してポツリと昨日の決意を言葉にする。

 

「必ず由良に相応しい提督になってみせるよ」

 

 ははは、呼び捨てにしちゃったよ……

 

 顔が熱くなってしまったのがわかる。

 自分で言って恥ずかしくなった、とてもじゃないが起きてる由良姉さんには聞かせられない言葉だ。

 

 なんて思ってたら、パッチリと目を見開いて由良姉さんがこちらを見ていた。

 

 マズゥィ。

 

 由良姉さんは、それはもう、たまらなくうれしそうな笑みを浮かべる。

 そしてがばっと体を起こして僕の腰あたりに抱きついた。

 

 なにも言わず、今までで一番強い力で僕を抱きしめる由良姉さん。

 僕は寝起きの由良姉さんの温かさを感じながら、

 

 

 ああ、もう後には引けないな、引くつもりも無いけど……

 

 

 そんなことをぼけっと考えた。

 由良姉さんの頭をよしよしと撫で撫でしながら、いつまでも二人でそうしていたら、

 

「朝だよ! 今日も一日、頑張ろうね!」

 

「朝なんですけど! 朝なんですけど!」

 

 と、鬼怒姉さんと阿武隈姉さんが叫びながら部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。

 

 




ラブ配分山盛り回。
 

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