提督をみつけたら   作:源治

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二航戦のやばい方
そしてこのシリーズではそれ+お姉ちゃん

※今回の話は『無職男』と『駆逐艦:野分』と少し関係がある内容になっています。
 未読の方はご注意ください。
 


『僕』と『正規空母:蒼龍』

 

 この世界は一度滅びかけたらしい。

 

 しんかいせいかんという、怪物が現れて世界をめちゃくちゃにしたんだ。

 だけどどこからか現れた艦娘と、その辺にいた提督と、あと沢山の人たちが力を合わせてしんかいせいかんをやっつけて平和を取り戻したんだって。

 

 その後、艦娘たちは妖精さん―――

 

「なんか焦げ臭い?」

 

「ほんとだ、なんだろ」

 

 校外学習で行った戦史時代博物館から帰る途中のバスの中。

 クラスメイトの誰かがそう言ったのが聞こえた。

 

 確かに後ろから焦げ臭い匂いがする。

 

 なんだかおかしいなと、みんなが後ろを見たそのとき。

 急にバスがぐらぐらと揺れて、世界がひっくり返った。

 

 

 

 気がつくと、僕は道路に寝転がっていた。

 

 周りには僕と同じように、仰向けに寝ているクラスメイトたち。

 その間をたくさんの大人たちが走り回っている。

 

 少し遠くには燃えるバスに水をかける沢山の消防車。

 そして沢山の救急車が、クラスのみんなを乗せて発進してゆく。

 

 僕はうまく体が動かせなかったのもあって、おとなしく寝ていることにした。

 きっと無理に動こうとしたら、迷惑になる。

 

 なんとなく空を見上げると、とっても深い青色だった。

 まるで、蒼ねえちゃんの髪の毛の色みたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕』と『正規空母:蒼龍』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はわわわわわわわ』

 

『あら、どこの子かしら?』

 

 お父さんとお母さんの記憶はほとんどないけど。

 蒼ねえちゃんと初めて会ったときのことは覚えてる。

 

 たぶん三歳くらいだったと思う。

 

 恐らく僕が覚えてる一番古い記憶のひとつ。

 いまより小さい蒼ねえちゃんに抱きしめられて、それを見てたおばあちゃんが微笑んでた。

 

『は、始めましておばあさま! 私は隣の家のもので、それから航……艦、蒼……です!』

 

『まぁ! じゃあもしかして……娘さんなのかしら?』

 

『はい、私は艦……で、えっと、実はこちらの……は、私の……みたいなんです』

 

『あらあら……でも見ての通りこの子は……だから大きくなるまで…………ね』

 

『あ……確かにそうですね……』

 

『ごめんなさい、でもよかったらそれまでは、この子のお姉ちゃんになってもらえるかしら?』

 

『い、いいんですか!? お、お任せくださいおばあさま!!』

 

 楽しそうに笑う二人の顔。

 それが、僕と蒼ねえちゃんの最初の出会い。

 

 たぶん。

 

 

 

 それから蒼ねえちゃんは、気がつけばいつも側にいてくれた。

 強くて優しくて、でも僕が言うのもなんだけど、ちょっと甘えたがり。

 

『蒼ねえちゃん、僕のお腹に顔をうずめてなにしてるの?』

 

『お姉ちゃんは弟くん成分を摂取しています……すーはーすーはー』

 

『なにそれ?』

 

『定期的に摂取しないとお姉ちゃんが死んじゃう成分です』

 

『えっ!? それって大変なことなんじゃ……』

 

『そのとおり。なので弟くんにはごめんなさいだけど、たまにこうさせてもらいます。すーはーすーはー』

 

『うん、それで蒼ねえちゃんが元気でいてくれるなら、幾らでも吸っていいよ』

 

『……ああ、だめ。どこまでお姉ちゃんを夢中にさせるのもう……すーはーすーはー……よしっ! お礼に弟くんにもお姉ちゃん成分を沢山吸わせてあげる!』(バリバリー)

 

『え、別に僕は吸わなくても平気だからいいよ……』

 

 いまでは冗談だったってわかるけど、当時は本気にしていた懐かしい思い出。

 まあ、いまでもしょっちゅう吸われちゃうんだけど。

 

 

 

 あと、恥ずかしくて友だちには言えないんだけど。

 蒼ねえちゃんはいまでも僕と一緒に、お風呂に入りたがる。

 

 この前も、

 

『ねえ蒼ねえちゃん……』

 

『ん? なにかな弟くんよ。百数えるまでは、湯船からでちゃダメだよ?』

 

『いやそうじゃなくて、あのさ、さすがにもう僕一人でお風呂くらいは入れるよ……』

 

『な、なにいってるの!? もし溺れちゃったらどうするの!!』

 

『だって、他の友だちに聞いても一人で入ってるって言うし。それに、さすがに二人ではいるにはもうこの湯船狭いよ……』

 

『余所は余所、うちはうちだから! それに湯船が狭いっていうならお姉ちゃんパワー(物理+財力)で大きくするわ!!』

 

『えええ……そういう問題じゃないような……』

 

『むむぅ、ただでさえ出張でしばらく会えないのに、そんなこと言うならお姉ちゃんにも考えがあります。ストライキです』

 

『すとらいき?』

 

『そうです、お姉ちゃんはこのお風呂から出ません、あと弟くんも出られません。交渉がまとまるまでは、ずっとこのままです!』

 

『それって、お風呂のお湯が冷めちゃうんじゃ……』

 

『そうです、ほかにもお風呂につかりすぎてシワシワになってしまうかもしれません。それがいやならお姉ちゃんの要求を受け入れるのをおすすめします』

 

『えーっと……拒否しますっていうのは駄目?』

 

『それはおすすめしません、そうなった場合、お姉ちゃんは弟くんを脅迫罪と権利侵害の罪で訴えます。理由はもちろんお分かりですね? 弟くんがお姉ちゃんとお風呂に入るのをやめるって言ったからです!』

 

『でも僕が訴えられてえっと、裁判になって刑務所に入ったら、どのみちお姉ちゃんとお風呂には入れなくなるんじゃ……』

 

『……っは!? う~……やだやだやだやだー!! 弟くんはお姉ちゃんと一生一緒にお風呂に入るの!!』

 

 結局蒼ねえちゃんが泣き始めちゃったので、そういうことになってしまった。

 僕はなんとなくそのとき、蒼ねえちゃんには逆らえないのでは? と、気がついてしまった。

 

 

 

 でも、そんなこともあるけれど、やっぱり蒼ねえちゃんは優しくて。

 いまも昔も、いつでも僕の側にいてくれた。

 

『弟くんは、その……お父さんやお母さんがいなくてさびしくない?』

 

『さびしくないよ、どうして?』

 

『……おばあさまから聞いたの。この前の授業参観のこと』

 

『えっと、確かに授業参観はあったけど、なにかあったかな?』

 

『うらやましそうに、父親と母親の両方がきてるクラスメイトのことを見てたって』

 

『うーん、うらやましいって言うより、ちょっとめずらしいなって思ってただけだよ』

 

『めずらしい?』

 

『うん、普通は片方だけなのに、両方来てるからめずらしいなって。それに僕にはおばあちゃんも蒼ねえちゃんもいてくれるから、ぜんぜんさびしくないよ?』

 

『そっか。お姉ちゃんもね、弟くんがいてくれるから……うんうん、他の誰にも埋められない寂しさを弟くんが埋めてくれるから、ちぃぃぃいっとも! 寂しくないよ!』

 

『あらあら、相変わらず仲良しさんねぇ。ほんと、蒼ちゃんが母親がわりになってくれるおかげで、助かるわ』

 

『はいおばあさま! 弟くんのお世話はお任せください』

 

 どうやら蒼ねえちゃんは僕の母親がわりらしい。

 不思議な話、どっちかというと姉がわりなきもするけど。

 

 でも母親か……。

 

『ねえおばあちゃん、そう言えば僕のお父さんとお母さんは、どこにいったの?』

 

『お、弟くん!? ……それはその、ね……』

 

『いいのよ蒼ちゃん。そうね、ちゃんと話しておかないとね』

 

 おばあちゃんは蒼ねえちゃんに抱きかかえられた僕の頭を優しく撫でる。

 そして少し寂しそうな表情で話し始めた。

 

『ぼんのお父さんとお母さんは、お空にいるの』

 

『おそら?』

 

『そう、飛行機に乗ってたんだけど、高く飛びすぎてもう帰ってこれない遠いところにいってしまったの』

 

『飛行機に乗って、もう帰ってこれない遠いところに……じゃあ僕もそこに行ってみたいな』

 

『だ、だめ!! 弟くんはずっとお姉ちゃんと一緒にいるの!!』

 

『ふふふ、おばあちゃんもいつか行くつもりだけど、でも、そこに行っちゃうともう帰ってこれないところだから。ぼんが行っちゃうとおばあちゃんもさびしいわ……だから、まだ行くのは我慢してくれるかしら?』

 

『うん、僕もおばあちゃんと会えなくなるのは嫌だから、その、蒼ねえちゃんとも』

 

『弟くん……ううう、お姉ちゃんはなにがあってもずっと一緒にいるからね……』

 

 ちょっと苦しいくらいに、蒼ねえちゃんが僕を抱きしめる。

 蒼ねえちゃんは自分のことよりも、僕のことを大切にしてくれてるんだなって、なんとなく感じた。

 

『そうだ、まだずっと先だと思うけれど、もしおばあちゃんが死んじゃったら、ちょっとでいいから遺骨を空にまいてくれないかしら?』

 

『いこつ?』

 

『そう、死んじゃったあとに身体を焼いて骨だけにするんだけど、その骨を細かく砕いて海にまいたりすることがあるの。だから、おばあちゃんもいつか、ぼんのお父さんやお母さんのところに行けますようにって。おまじないのために、骨をちょっとだけ空にまいて欲しいのよ。もちろんいまよりもずっと先の話、ぼんが大人になってからでいいから』

 

『…………おばあちゃんがそうして欲しいなら、僕、頑張るよ』

 

『ふふふー、そんな日は当分こないだろうけれど、もしもそのときはお姉ちゃんに任せなさい弟くんよ。いまはまだ秘密だけど、お姉ちゃん実は空のことに関しては色々と専門家で―――』

 

 

 そんな思い出の光景が、映画みたいに流れては切り替わっていく。

 あれ、これってもしかして、そうまとうってやつなのかな?

 

 

 

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「よかった……ぼん、本当に良かった」

 

 目を覚ますと病院のベッドの上で、側にはおばあちゃんがいてくれた。

 

 どうしてこんなところにいるのかわからない僕に、おばあちゃんはゆっくりとなにがあったか話してくれる。

 どうやら僕たちが乗っていたバスがえんじんとらぶるっていうのが原因で、事故を起こしてしまったらしい。

 

 とてもひどい事故だったみたいだけど、幸い僕の怪我はたいしたことなくて、クラスメイトや先生、運転手さんやバスガイドさんも全員無事だったらしい。

 

 よかった。

 

「心配かけてごめんね、おばあちゃん」

 

「いいの、いいの……ぼんが無事で本当に良かった……」

 

 怪我はたいしたことなかったんだけど、僕はあの後けっこう長い間。

 だいたい丸一日くらい眠っていたんだとか。

 

 そのあと、様子を見るためにやって来た看護婦さんに薬をもらって飲みつつ、これからのことを聞く。

 

 怪我は大したことはないんだけど、いちおう精密検査?

 とかで、まだ入院の必要があるんだって。

 

 検査は明日の朝にするそうだから、今日はゆっくり休むように言って、看護婦さんは出て行った。

 

「お、弟くんが目を覚ました気配!!」

 

「あ、蒼ねえちゃん」

 

「おろうろくんよがっだよおおぉおおおおお!!」

 

 看護婦さんと入れ替わるように、蒼ねえちゃんが病室に入ってくる。

 そしてすぐに僕を見て、蒼ねえちゃんは僕の方に飛び込んできた。

 

 僕は泣きながら抱きついてきた蒼ねえちゃんを抱きしめる。

 

「心配かけてごめんね、蒼ねえちゃん」

 

「いいのぉおおおお、おとうとくんが無事だっただけで、それだけでほんとうによがだのおおお!!」

 

 泣いちゃった蒼ねえちゃんが落ち着くまで抱きしめてあげて、しばらく。

 さっき飲んだお薬の効果らしく、だんだん頭がぼわっとしてきた。

 

「あれ、ちょっと頭が熱くなってきた……」

 

「ああ、お薬のせいね。大丈夫だよ弟くん、ゆっくりおやすみ」

 

「わかった、おやすみ……」

 

 ずっと寝てたから眠いわけじゃなく、意識はなんとなくあるんだけど。

 僕は言われたとおり、目を閉じて大人しくしていることにした。

 

「……それで、例のぼんたちを助けてくれた方たちの容体はどうなのかしら?」

 

「軍の医療施設に運ばれて、特殊な緊急再生治療を行ってるそうですが……おそらく一人は助からないだろうって。それともう一人も重体で、意識がもどるかも怪しいそうです」

 

 頭がボーッとして身体も動かないけれど。

 なんとなくおばあちゃんと蒼ねえちゃんが、なにかを話しているのが聞こえる。

 

「そう……なにか出来る事があればいいのだけれども」

 

「あとあまりよくないことなんですが、どうもバスの運営会社がその二人が事故の原因じゃないかって方向で、訴える準備をしてるって噂もあります。あっ、当然そんなことをさせるわけなくてですね。うちの法律事務所の所長、竜崎っていう艦夢守市で一番の弁護士が、そのうちのお一人の義父に雇われたそうで、絶対そんなことをさせないと思います」

 

「よかったわ……ごめんなさい。この歳になっても怒ってしまうことってあるのね……ちょっとドキッとしちゃったわ」

 

「はわわ、大丈夫ですかおばあさま!? なんでしたらここで横になられて、あ、弟くんの入院手続きやら学校との連絡やらは全部私がやっておきますので、ほんと心配なさらず!」

 

「……本当にありがとう蒼ちゃん。あなたがいてくれなかったら、きっとここまでぼんを育てられなかった」

 

「え、そ、そう言っていただけるのは光栄ですけど……どうしたんですか突然?」

 

「ふふ……ご存じの通り私はおばあちゃんだから、残された時間はあまりないの。だから言えるうちに、きちんとお礼を伝えておかなくちゃって思って」

 

「なにを言うんですか!? おばあさまは、まだまだ長生きできます!」

 

 そうだよ、なに言ってるのおばあちゃん。

 おばあちゃんはお父さんやお母さんみたいに、どこかに行かないよね?

 

「あら、怒られちゃったわね。……でも、どうにもこの歳になると、死について考えることが多くなるの。できることなら眠ったまま逝きたいわね。ここ最近は毎朝目覚めると、今日もまだ生きてる、よかった、妖精さんの贈り物だって、そう思うことも多くなった」

 

「そんなことにはなりません。赤城さんもいらっしゃいますし、この病院にいるなら―――」

 

「そうそう赤鬼先生、彼女には根負けしたわ。あの精密検査を受けてください、この精密検査を受けてくださいって何度も言うものだから、入院が長くなっちゃってね。本当は、はやく退院したいのに」

 

「当然ですよ、おばあさまを心配してるんです、勿論わたしも」

 

「ふふ、私にはぼんの夏休みの宿題の方が心配ねぇ……。そうね、少し弱気になってたわ、ごめんなさい。確かにいつ死ぬかはわからないけど、いまこのときを大事にしなきゃ。それにまだ死ねないわね、ぼんが寂しがっちゃうから」

 

「そうですよ。でも意外です、おばあさまが病院嫌いだったなんて」

 

「病院が嫌いな訳じゃないのよ……若い蒼ちゃんにとって、一日はとても早く感じるかも知れないけど、いまの私にはとても長くて貴重なものなの。だから病院で過ごすのは勿体ないって思っちゃってね……」

 

「むー、艦娘といえど私も若輩者には違いありませんから。むむむ、人生経験を持ち出されてしまうとかないません」

 

 頭がぼわっとしてるので、話の内容はよくわからないけど。

 おばあちゃんと蒼ねえちゃんは、なんだか楽しそうに喋っている。

 

「ふふ、伊達に歳は食ってないから、その分色んなものを見てきたわ。戦争も経験したし、親しい人や大切な人との出会いも、別れも沢山経験した。

もちろんいいことも沢山あったわ。新婚旅行で南の島に行ったとき、ホテルで三代目の那珂ちゃんをすごく近くで見たことがあったの。生の歌も聴けてね、とてもステキなひとときだった。

そうそう、五歳の時には、マザー鳳翔の結婚式にも参列したわ。世界中から集まった人たちのパレードが本当にすごくて、いままだ生きてあの光景を見たことがある人は何人いるかしら?」

 

(※マザー鳳翔:戦史時代最初期に建造された軽空母鳳翔の艦娘。歴史上最も長く生きた艦娘であり、艦連や鳳翔街の設立に関わった)

 

「思い返すと本当に沢山のものを見てきたけれど、まだまだ見たいものがあるわね……。せめてぼんの卒業式には必ず出たいわ」

 

「はいはい! それは私も出たいです!」

 

「ふふふ、そうね、一緒に出ましょう」

 

 なんだろう、卒業式はまだ先のことのはずなんだけど。

 なぜかそこにはおばあちゃんや蒼ねえちゃんだけじゃなくて、赤城さんや加賀さん、翔鶴さんに瑞鶴さん、飛龍さんやアークロイヤルさん、他にも沢山の誰かがいる風景が浮かんだ。

 

 不思議。

 

「老い先短いからこそなのか、いまの私には一つ一つの出来事がなによりも大事なの。蒼ちゃんみたいに若い人にはわからないことかもしれないけど……」

 

「わかります、弟くん……いえ、提督との一つ一つの出来事は、私にとっても、なにより大切なものですから」

 

「あらあら、そう言われちゃったら、今度はこっちがかなわないわねぇ……ふふふ」

 

 あれ……もしかして、蒼ねえちゃんは艦娘なのかな?

 って、そんな考えがふわっと浮かんだ。

 

 

 

『あねーたん?』

 

『はーい、蒼おねえちゃんですよー』

 

『あおねーたん』

 

『あーもう、可愛すぎる……さすが私の提督、かぁわいい♪』

 

『てーとく?』

 

『コホン……そうですよ提督、私は航空母艦、蒼龍です。空母機動部隊を編制するなら、私もぜひ入れてね! ……なーんて、ね』

 

『そうりゅう?』

 

『…………っは!? いけないいけない、危うくミッドウェーに突入するところだったわ……でも、嬉しいなぁ。提督に名前を呼んでもらえるのがこんなに嬉しいなんて……嬉しいなぁ』

 

 

 

 ああ、確かに昔、そう言って嬉しそうに笑ってた蒼ねえちゃんの思い出が蘇る。

 

 そうか、それは、それなら……そういうことなんだなって。

 不思議と当然のように、僕は受け入れることができた。

 

 赤城さん、瑞鶴さん、加賀さん、翔鶴さん、飛龍さんにアークロイヤルさん。

 僕を提督と呼んで、僕の艦娘だと言ってくれた彼女たち。

 

 気がつけば当然のようにその場に、そうであるようにいてくれて。

 それでいて、いまできる自分の役割を自然に果たすように生きるお姉さんたち。

 

 きっと蒼ねえちゃんもそうなんだとしたら、なんだか不思議と落ち着けた。

 だってそれは、ずっと蒼ねえちゃんと一緒にいられるということでもあるから。

 

 

「失礼します!! 提督!! 大丈夫!?」

 

「ちょっと瑞鶴、ここは病室よ、もうちょっと静かに……」

 

「これだから五航戦は……」

 

「にゃにい!?」

 

「はいはい二人とも、提督はお休み中のようですから喧嘩しないように。あとこの病院で私の提督の眠りを妨げておいて、無事でいようだなんて甘い考えを持っているなら捨ててくださいね?」

 

「「ッヒ!?」」

 

「ほんと、静かにしてくれ……」

 

 なんだろう。

 

 たぶん赤城さんと木曾さん、それに瑞鶴さんに翔鶴さんと加賀さんかな?

 五人が病室に入ってきたみたい。

 

 お見舞いに来てくれたのかも。

 

「あ、おばあさまでしょうか。私はその、お孫さんの艦娘の翔鶴です」

 

「は、始めまして私は瑞鶴です!」

 

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は艦娘、加賀と申します」

 

「あらあら、これはご丁寧に。みなさんのことは孫からよく聞いています。類い稀な縁の巡り合わせではありますが、これも運命。どうか孫のことをよろしくお願いいたします」

 

 おばあちゃんがそう言うと、挨拶した三人が慌てて頭を下げたあと、ホッとした様子の空気が伝わってきた。

 よかった、おばあちゃんは艦娘、特に正規空母の艦娘さんが好きだから。

 

 僕が紹介できなかったのは、ちょっと残念だけど。

 

「ところで、提督のベッドの下にいるのはどちら様かしら?」

 

 と、赤城さんがそう言った瞬間、ピリッとした空気になる。

 

 僕だけじゃなく、部屋のみんなが驚いた気配。

 しばらくして、ベッドの下からもぞもぞと誰かがはい出てくる音が聞こえた。

 

「……あなたもしかして艦娘の大鳳?」

 

「…………だったらなに?」

 

「あらあら、これは可愛らしい艦娘さんねぇ。もしかしてぼんのガールフレンドさんかしら?」

 

「そのとおり……の、予定

 

「「「「「え?」」」」」 

 

 赤城さんと加賀さんと、蒼ねえちゃんと翔鶴さん瑞鶴さんの声が重なって聞こえた。

 僕も思わず心の中で「え?」って言ってしまった。

 

 どうやら大鳳さんは僕のガールフレンドらしい。

 

「そっ、そんなの提督の最初の艦娘にしてお姉ちゃんであるこの蒼龍が認めないわ!!」

 

「最初なだけ、一番は私」(プイッ)

 

「こ、この泥棒猫!! ていうか……あれ、大鳳ってこんな性格だったっけ?」

 

「艦娘変わりの最中じゃないかしら? あの時期は性格や身体が不安定になりがちですから。私にも覚えがあるわ」

 

「あー、確かに翔鶴ねえって艦娘変わりの時期、スケバンみたいなかっこや言動してたって誰かから聞いたことがあるような……」

 

「ちょ、瑞鶴それはいわないで!!」

 

「私も少し覚えがありますが……赤城さんはどうでした?」

 

「わ、私はこれと言ってありませんでしたよ……」

 

「あ? 嘘つけ院長。あんた艦娘変わりのあたりはバリバリのゴスだっただろうが。黒いレースをこれでもかってあしらった衣装着てドギツイメイクしてたし、あと棺桶の中で寝たりしてたのしっかり覚えてるぞ」

 

(※ゴス=独特の衣装や思想をさすサブカルチャーの一種、の、はず)

 

「…………木曾婦長の<ダークネス†堕天使>に比べればかわいいものですよ。たしか黄金郷の瞳って書いて、エルドラードアウゲンって読むんでしたっけ?」

 

(※<ダークネス†堕天使>=いにしえの時代より一万年周期で産まれでる、伝説の闇の末裔。<ダークネス†堕天使>はその身に暗黒を宿しながらも、闇の波動に呑まれないように抗いつつ、前世で離ればなれとなった己の半身(提督)を探し、封印されし片目(黄金郷瞳(エルドラードアウゲン))を輝かせながら夜の街を駆け抜ける!! あと、赤城と木曾は幼馴染)

 

「OKだ院長、俺たちは艦娘変わりの時なにもなかった。……そう言うことにしようじゃないか」(震え声)

 

 なるほど、木曾さんは<ダークネス†堕天使>

 そして黄金郷瞳(エルドラードアウゲン)……なるほど。

 

「それよりも大鳳さん! なんで弟くんのベッドの下なんかにいたの!?」

 

「……私が近くにいれば怪我なんてさせなかった。だからこれからはずっと離れず側にいる。起きてるときも寝てるときも、もう絶対離れない」

 

「ぐっ、それは確かに一理ある……な、ならこれからはこの蒼龍がずっと近くにいるわ!!」

 

「あら、弁護士の仕事は大変でしょ蒼龍さん。それよりも比較的自由のきくこの私が―――」

 

「百万石海運重役の加賀さんがなに言ってるんですが、ここは私が―――」

 

「Pentagon海運重役の翔鶴ねえもいっしょでしょ。それより提督さんの側にはこの私が!」

 

「モデル業にショップ経営にデザイナー、そんな多忙な瑞鶴さんに務まるとは思えませんが……ですが安心してください。提督にはおばあさま共々ずっとこの病院にいてもらえれば、私が常に側にいられますから」

 

「いや院長、あんたがある意味一番激務だろうが。自宅に帰ったのもう何ヶ月前だよ……」

 

「“おばさん”たちは自分のことで手一杯、つまり私が一番」

 

「「「「「あ゛?」」」」」

 

「あらあらあら、ふふふ、ぼんは女の子にもてるはねぇ。まるでおじいさんにそっくり、ふふふ」

 

 おばあちゃんがとても嬉しそうに微笑んでいるのが、なんとなくわかった。

 

「ほんと、こんなに沢山の艦娘様に慕われて……ぼんは幸せ者ね。おばあちゃんも安心だわ」

 

 うん、僕にはなぜか沢山の艦娘さんがいてくれるし。

 なによりおばあちゃんがいてくれるから。

 

 間違いなく幸せ者だ。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 そしてその次の日の朝。

 僕は検査の結果、無事退院できることになった。

 

 なので、その報告のためにおばあちゃんの病室に向かう。

 

 病室に入るとおばあちゃんはまだ眠っていた。

 早起きのおばあちゃんにしては珍しい気がする。

 

 起こすのも悪いので、部屋の椅子に座っておばあちゃんが起きるのを待つことにした。

 

 おばあちゃんが起きたらおはようって言って、それから……そうだ、戦史博物館で会ったグラーフさんの話をしてみよう。

 グラーフさんがくれたコンパスのことも、おばあちゃんならなにか知ってるかもしれない。

 

 僕は他にも沢山話したいことがあったので、なにから話そうか色々考える。

 

 ふと、病室の窓から見える景色が目に入る。

 この部屋は一番景色がいいって、赤城さんが言ってた。

 

 その窓から見える、街の景色は確かにとても綺麗だ。

 

 ここは『艦夢守市(かんむすし)』

 

 大きな港があり、その港と街の周りをぐるっと山に囲まれている、そんな立地の場所。

 都会とまではいかないけれど、それなりに騒がしくてそれなりに穏やかな大きさの街。

 

 

 そしてこの街には一つの噂がある。

 それは提督適性者が集まるという噂だ。

 

 

 この街には沢山の人間と、居るかもしれない提督適性者たちと、その噂を聞いてやってきた割と多くの艦娘たちが平和に暮らしている。

 

 

 つまり、ここが僕とおばあちゃんの住んでいるところだ。

 

 

 

 

 

 でも、そのあといつまで待っても。

 おばあちゃんは目を覚まさなかった。

 

 

 




 
 次回の僕の話が、おそらく『僕』編の最終回。
 最後を飾る空母はもちろんあの娘。
 
※現状とても更新ペースが遅いですが、ある程度区切りがつくところまでは書きあげるつもりですので、次も投稿されたときに気が向かれましたら、覗いていっていただけますと幸いです。
 また、諸々の事情で感想のお返しできなかったり、お返しできたとしてもいつの事だよってなってるのですが、全てありがたく読ませていただいております。本当にありがとうございます。
 
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