意識高い男よ永遠なれ
アイアンロリコンマン:最終回
※今回の話は『無職男』と『駆逐艦:野分』とかなり関係がある内容になっています。
未読の方はご注意ください。
初めて提督をみつけた日のことを思い出す。
何か、必死に辛いことを我慢して耐えているような顔のひと。
まやにはわかった。
ああ、このひとは、きっと。
──笑わないひとなのだ。
一目で、すぐにわかってしまった。
どうにかしてやりたい、笑わせてやりたい。
そう思って、いてもたってもいられず、まやは自分にとって大切な今日のおやつである飴をあげることにした。
「あめたべるか?」
少し驚いた顔をした提督。
提督はまやの母親に確認を取った後、跪き、まやの手を包み込んで感謝を述べ
笑った。
どこか、作り物めいた笑顔だったが、確かに提督は笑ってくれた。
まやは、この笑顔を守ってあげたいと、そう幼いながらも心に決めたのだった。
「いや、あなたはわかっていない。お言葉ですが私はしがない平社員です。あなたがおっしゃっていたように、とてもお嬢さんを幸せにできるような立場でも収入でも、それこそ結婚式すらまともにしてあげられません。そもそもそれ以前に、自分で言うのも何ですが私はまっとうな人間じゃない。だというのにどうして──―」
「君のような素晴らしい人格者であるなら、そんなものは瑣末なことよ! それになーにを水臭い、儂のことはお義父さんと呼んでくれたまえ鉄雄くん!」
(※意識高い男のフルネームは前島 鉄雄)
あなたが駆逐艦の艦娘の父であったなら、神の名を呼ぶ尊さでそう呼ばせて頂く。
しかし残念ながら、あなたは私の神(駆逐艦の父)ではない。
補足すると今はメイド喫茶『Big Slope』*1を訪れ、鳥海と出会った日の翌々日。
先日、母からの電話で、なぜか私が結婚する事を知らされた。
だが私が結婚するというの情報を、なぜ私が知らなかったのか、これがわからない。
「それに心配はいらない。結婚式については予算も準備も、全て任せておきなさい。我が本多家*2の総力を挙げて盛大に執り行おうじゃないか!」
心配しかないんですが?
「ふふふ、気が早いとは思ったが、実は既にこの街で一番大きい式場を押さえてある!」
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思考が乱れた、ともかくだ。
「……ほ、本多さん。とにかく話が急すぎます。ここは一先ず冷静になって──―」
「君も男なら覚悟を決めたまえ。それに我が娘に何か不満でも?」
本多のご老体の後ろに立つ鳥海が、不安そうな表情を浮かべる。
え、なに、私何かしただろうか?
そもそもこの老人、以前と言っていることが天と地程も違うじゃないか。
何諦めてるんですか、老人は頭が固いのが取り柄でしょうに。
もっとがんばってくださいよ、あきらめんなよ。
しかし何を言っても無駄な気がして、言葉が出てこない。
こめかみに手を当てて、何かいい打開策がないか必死に考える。
「本多さん、ご存じないかも知れませんが、私には他に艦娘が──―」
「うむ、知っておる」
ここで私には将来を誓い合った女性が……と、言えれば楽だったのだが。
極めて残念な事に、未だ私と人生を共にしてもいいと言ってくれる天使は見つかっておらず、一先ず高雄や愛宕を引き合いに出そうとしたがどうやら知っていたようだ。
事前調査は完璧と言うことだろうか。
「だったら!」
「……性分なのだよ、困ったことに」
目を伏せ、重い空気を纏って話し始めるご老体。
「誰がそうしろというわけではない。中には儂にはそれがお似合いだというような親切な輩もいるがね。主に儂を嫌う連中だが。確かに儂は以前まで自分の中の正しさを押し通すだけの意固地な人間だった」
唐突に始まる懺悔。
あと、意固地なのは今もだと思いますよ。
「ああ、そう。今もかも知れないがね」
……顔に出ていたのだろうか?
私を見て、皺だらけの顔をゆがめるご老体。
それはいつか見た怒り狂った短気な老人のものではない。
人生の酸いも甘いもを噛み分けてきた、老練な男の顔だ。
これが本来の彼なのだろうか。
その肩書きに恥じぬ重厚なプレッシャーを前に、思わず唾を呑み込んでしまう。
「想いというのは中々届かないものだ、届かぬ故に人はすれ違い涙を流す」
その言葉には100%同意するが、同意できない。
「それに高雄様と愛宕様のことなら心配ない。実はもう話を通しておいた」
「はぁ……それはどういう?」
なんだろう、あの二人には私から手を引くよう交渉してくれたのだろうか?
確かに数だけ見ればあの二人より、鳥海一人を相手にするほうが楽な可能性があるが。
「お二人には事情を説明して、娘と一緒に結婚式をあげてはどうかと提案してね」
「は?」
「難しいかとも思ったんだが……快く承諾いただいた!」
私の承諾は?????
「そ、その……鳥海さんはそれでよろしいのでしょうか?」
「はい! 姉さんたちと一緒に結婚式をあげられるなんて、私も嬉しいです!」
そのあと、持てる力を全て使ってなんとかできないものかと抵抗するも、歴戦の銀行員である鳥海の父親相手に交渉で挑むのは無謀だったらしく。
気がつけば次回の打ち合わせでは、結婚式の参加者リスト(暫定)を持ってくることが決まっていた。
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『まえしままえしま! 今日はなにして遊ぶ?』
『まえしまー! めしくいにいこうぜー!』
『まえしま、あんまりむりすんなよ!』
『まえしま、げんきないな、あめたべるか?』
『しょうがないなまえしまは、あんしんしろって』
『このまやさまがずっと一緒にいてやるからさ!』
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っは!?
あまりにも直視出来ない問題を前に、気付けばここ最近の幸せだった時間(ごく一部)の記憶で脳内を満たしてしまっていた。
ここのところ、こうして現実逃避する時間が増えてしまっている。
非常にまずい、解決策が何一つ思いつかないまま、時間だけが過ぎてく。
そう、解決策。
なぜなら私は、自らの性癖の都合で結婚したくない。
ゆえに、なぜか結婚するはめになったこの事態を乗り越えるための解決策が必要だ。
だが、それが全く思いつかない。
これまで数々の試練を乗り越えてきたつもりだった。
だが、今回のものはそれが霞むほどに困難だ。
というか本多のご老人による、好意と善意による搦め手の波状攻撃が強すぎる。
今や会社では、私と高雄と部長(愛宕)の結婚式の話題で持ちきりだし。
ほぼ毎日のように会社の送り迎えに現れる、メイド服姿の鳥海のこともあってか、内外に私が高雄型の提督だと周知されるようになってしまっていた。
この状況で「性癖の関係で彼女たちとは結婚できません」と言えるほど、私は社会的強者ではない。
しかし……高雄に愛宕に鳥海、そしていずれ艦娘変わりを終えるであろう摩耶。
重巡洋艦の艦娘である彼女たち。
別に私は彼女たちが嫌いなわけではない。
むしろ能力や性格的には好感さえ感じている。
だが、愛しているかと聞かれると、うなずけない。
なぜなら私はロリコン(児童性愛者)だからだ。
そして、私はその生き方を貫くため、一つの夢を持った。
夢、それは少女の姿のまま老いることのない、駆逐艦の艦娘と結ばれること。
だがその為にはまず、駆逐艦の提督適性者でなければならない。
そして私は恐らく、重巡洋艦である高雄型の提督だ。
ただでさえ少ない提督適性者の中で、さらに希少な艦型適性を持つ提督。
このうえ、更になにかしらの駆逐艦の適性を持ってる可能性は、ゼロに近い。
だが、それでも私は──―
「おい、このクソ暑い中でなにやってんだよ……」
「え、は? ……先輩?」
苦悩に満ちた現状をどうすべきか、誰にも見つからない公園のベンチで、考えを巡らせていたところ。
先輩が突然現れ、飲み物を差し出してくれた。
それと同時に、座る前は日陰だった場所が、陽のあたる位置になっていたことに気がつく。
さらに飲み物を差し出されて、自分がどれだけ汗を流していたかを自覚する。
夏場だというのに、随分と長時間日光に当たり続けていたらしい
どうりで思考がまとまらないわけだ……。
差し出された飲み物をありがたく受け取り、一気に飲み込む。
冷たいスポーツドリンクが、ゆだっていた身体に染み渡り、一息つくことができた。
私と同じく、色々な苦悩を抱えているらしき先輩と話をする。
どうやら、未だ職が決まらず苦労しているらしい。
ふと、こんな暑い夏の日、卒業旅行にでかけたあの頃を思い出す。
いっそのこと、もうなにもかもを投げ捨てて、先輩と二人でどこか遠いところに旅立つのもいいかもしれない。
もしかすると、またあの時のようなステキな出会いがあるかもしれない。
そんなことを考えていたその時。
「おーい谷風!! こっちだこっち!!」
ん? 谷風?
聞き覚えのある艦娘の名前を口にする先輩。
呼びかけた方を見ると、凄い勢いで走ってくる少女の姿。
あ、本物の谷風*3だ。(艦娘識別検定1級)
「おーまーたーせー……提督ぅうう!!」
嬉しくてしょうがないといわんばかりに、先輩に抱きつく少女。
無駄に魂レベルで確信してしまう、先輩は駆逐艦谷風の提督だと。
「ゲホゲホ……悪いが前島。そんなわけで、ツレが来たからもう行くわ。自分で言ってて情けないが、こっちは大体暇してるからな。その追加の参加者の話もあるし、都合ついたらまたいつでも連絡くれ」
「え?? は?? え?? あ?? え??」
(※魂レベルで確信したからといって、頭で理解出来たとは言っていない)
先輩が、駆逐艦の艦娘である『谷風』の提督?
「ああくそ、なんでお前ら姉妹は頭に上りたがる!」
「えへへ~、いいじゃないのさ!」
は? お前ら姉妹?
駆逐艦『谷風』の姉妹艦?
それはつまり……陽炎型の駆逐艦たちは、先輩の頭に上りたがるということ……か?
■□■□■
あれから一晩、嫉妬と祝福と怨嗟と欲望をグツグツと脳内で煮詰めながら考えてみたのだが。
もしかして、これはチャンスなのではなかろうかと、ひとまず結論づけることにした。(※結婚の問題はひとまず考えないものとする)
私は確かに駆逐艦の艦娘と結ばれたい。
そんな夢を掲げている。
なぜそんな夢を掲げているかというと、それが私の性癖であり信仰だからだ。
そして信仰の果てに、私は幸せになりたい。
だがその一方で、私は少女たちの幸せも願っている。
つまり少女たちの幸せが私の幸せであるなら、それを間近でずっと見ていられた場合。
高確率で私もまた幸せであるということになるだろう。
よって駆逐艦の艦娘の『提督』と家族になれば。
それは駆逐艦と間接的に結ばれるということだ!(証明終了)
……ちょっと無理がある気がしなくもない。
だが、目の前にぶら下がった蜘蛛の糸。
難しいことは、それを掴んでから考えよう。
「……なにやってるんだ?」
「いえ、放さないようにと」
目の前で抱きしめ合っていちゃつく二人*4も幸せは掴んで放すなと、そう言ってますし。
ええ、このチャンスは、絶対手放さない……(漆黒の決意)
というのも、たまたま警察に呼び出されて訪れた警察署。
そこでまたしても私は、駆逐艦の少女と仲むつまじく触れあう先輩をみつけてしまったのだ。
そして谷風の次は、野分ですか……。
これでほぼ間違いなく、先輩が陽炎型駆逐艦の提督だということが判明した。
陽炎型駆逐艦の数は19隻。
ああ先輩、やはりあなたは私の家族になってもらわなければ。
ただ恐らく会話の内容的に、彼女たちはまだ、自分が艦娘だと先輩に伝えていない様子。
なにか理由があってのことだろうから、そこに触れるのはよしておこう。
むしろ伝えていない状況だからこそ、先輩を説得する理由が増える。
なぁに、善意ですよ、善意。(ニチャァ)
しかし……傍目から見ても、駆逐艦の少女である野分は、とても幸せそうである。
まったくもってうらやましい、ほんと、代わって欲しい。
やがて呼び出しの放送がかかり、野分さんは先輩から離れてどこかに去って行く。
さて、ここからが正念場だ。
大胆かつ慎重に物事を進め、先輩を身内に引き入れる。
その為には第一声は、なるべく爽やかで違和感のないような挨拶を―――
「うらやましいですね」(闇を煮詰めたかのような怨嗟に満ちた声)
「ッ!?」
しまった、つい本音が。
■□■□■
その後、お互いの用事を終えて警察署をあとにする。
幸い先輩は午後からの予定がなかったらしく、予約してあった行きつけの店で食事をすることにした。
以前一緒に行こうと思っていたのだが、あの時はトラブルが起きたため行けなかったのだが。
今日はこれからの二人の未来について、ジックリと話し合うため、是が非でもご一緒して貰わなければ。
などと、ロリコンとして当然の欲求にしたがって思考を巡らせていると、前方を走っていたバスから煙が上がっているのが見えた。
「……おい、あのバスなんか変じゃないか?」
「エンジントラブルでしょうか? 後ろのエンジン部分から煙が上がってますが……」
が、その瞬間。
バスは横転し、事故を起こす。
火花をあげ、道路を滑りながら停止するバス。
私たちは慌てて車を停めて、二次災害を防ぐための処置を行うために動く。
後続車の運転手に警察への連絡を頼み、先輩の元に戻ると、かなり深刻な表情でバスの中を見つめていた。
なんだろうかと、私もバスの中を覗いてみる。
そこには、児童と思われる子供たちの姿。
……不味い。
一刻も早く救助を行わないと、手遅れになる。
だが、素人が下手に行えば、何かあったときに責任が生じるかもしれない。
大きな事故が起これば、それだけ人や社会は、沢山の誰かに償わせようとする。
難しい状況だ、立ち回り次第では破滅しかねない。
いや、責任だけではない。
何よりもし自分が余計なことをしてしまったが故に、子供達の命が失われてしまったのなら……。
そんな最悪の未来が頭をよぎり、それどころではないというのに、どうしてか足がすくんでしまう。
昔なら、こんな事は考えなかったというのに。
いつのまに、私はこんなに弱くなってしまったのだろうか?
「前島、車こっちに回してこい。ジャッキと手持ちの工具でこじ開けられないようなら、最悪、俺が車をぶつけてでもブチ破る」
そんな弱気になった私の心に響く、先輩の言葉。
「……いいんですか先輩、万が一があれば破滅しますよ?」
心にともる光、その興奮を抑えるように、先輩に問いかける。
「そうだな、だがこの状況でなにもしないわけにもいかん。俺も人生棒に振りたいわけじゃないが、そこは譲れないところなんでな」
「そうですか」
譲れない。
まるでこの人の生き様を体現するかのような言葉だ。
「それに人生の破滅は既に経験済みだ。二度目が来たからってどうってことないとは言わんが……まぁ、慣れてる。お前に迷惑……は、かけちまうが、責任は全部俺がとるから安心しろ」
先輩は、あの頃と変わらない。
社会、正義、法律、道徳といった大多数の誰かの価値観ではなく。
いつだって己の中の信念を軸に、成すべき事をなす。
信念は、恐怖や愛と同じく受け入れるしかないものだ。
この世の仕組みを理解し、受け入れるように。
信念は人生の航路を決定付ける。
「……馬鹿言わないでください、当然私も一緒ですよ。ここで死力を尽くし、少女らの命を背負えないようなら児童性愛者の名折れです」
なら私も、自身の信念に従おう。
いつの間にか弱り切っていたはずの心は、かつての頑強さを取り戻していた。
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「先輩! その子らで最後ですか!?」
「ゲボフォゲホッ……いや、あと一人残ってるッ! 足が引っかかってて引っ張り出せん!」
救助を開始してしばらく。
近くにいた人たちや、駆けつけた救急隊の力もあって、状況は悪くない。
これなら犠牲を出さずにすむかもしれない。
そう思っていた矢先、最後の最後で困難が立ちふさがる。
既にバスは炎に包まれており、このタイミングで飛び込むのは自殺行為。
「わかりました、ジャッキを使いましょう」
「よし、もってこい!」
だが、ここで迷っている時間は無い。
ジャッキを持って、先輩と共に炎の中に飛び込む。
バスの中は炎と煙で充満している。
口が開けないため、先輩が指さす。
みると、その先には先輩のシャツで口元を押さえた少年がうずくまっていた。
幸いまだ炎は少年に届いていないが、時間の問題だ。
ジャッキを隙間に差し込み、バスの座席の隙間を空ける。
が、中々引きずり出せない。
もう炎はすぐそこまできていて、このままでは少年が危ない。
そして、先輩も。
私は炎と二人の間に身体を移動させる。
先輩は一瞬私を見て、軽く頷いた。
文字通り背中が焼ける。
ひどい痛みだが、ここでどくわけにもいかない。
「ぐぅらぁ!!」
先輩が力ずくで少年を引っ張り出し、そのまま抱えて外に向かう。
私は酸欠と痛みで飛びそうな意識をなんとか持たせながら、それに続いた。
昔を思い出す。
先輩の背中を追いかけ。
そして隣に並び、何度も一緒に駆け抜けた日々を。
そんな記憶が、脳裏を駆け抜けてゆく。
バスから飛び出し、私は崩れ落ちる。
どうやらここまでのようだ。
薄れゆく意識の中。
誰かに担ぎ上げられるのがわかった。
何となく先輩なんだろうなと、妙な確信があった。
「はやく救急車に乗せろ!! 最優先だ!!」
「聞こえるか!? あんたらが助けた児童たちはみんな無事だぞ!!」
「バイタル低下!! 意識もありません!!」
「エピネフリンは1mg注射! 除細動器急げ!」
「頼む! この人たちを死なせないでくれ!!」
「わかってる!! わかってるが……こっちの人はもう……」
……ああ。
子供たちはみんな無事のようですね。
よかっ―――
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私はロリコンだ。
このような性癖になってしまったのには理由がある。
私は大人の姿をした女性に恐怖に近い感情を持ってしまう。
それはつまり、大人の女性を愛することができない人間だということ。
私はロリコンだ。
そうでなければならない。
なぜならそうでなければ、自分を愛さない人間と結ばれる誰かが生まれてしまうから。
だから私は、駆逐艦の艦娘と結ばれたい。
そうであれば、誰も不幸にせずにすむ。
私はロリコンだ。
自らが夢と定めたそれが、歪んでいるというのは自覚している。
だが、そのようなありようになってしまったことをいまは受け入れている。
あの日、自分がそういう性癖になったことは運命なのだと。
きっと私が将来愛する誰かを、愛することができるようになるようにと。
そう教えてくれた彼女のおかげで。
私はロリコンだ。
今日、私は私の愛する存在を救うために死力を尽くした。
それは私がそういう存在でなければ、救えなかった命だ。
そして、私の命で私の愛する者を救えたというのなら。
これ以上幸せなことはないだろう。
私はロリコンで……よかった。
私は誰かと結ばれるために歪んだのではなく。
誰かを救う為に、こうなったのだと。
いや、私は歪んだのではない。
これこそが正しい形だったと、証明出来たのだから。
ああ、満足だ―――
……ほんの僅かに残っていた意識が、沈む。
深い深い暗闇に落ちてゆくかのようなこの感覚。
何度か経験したことがある。
恐らく、私はもうすぐ死ぬ。
それは冷たく、暗い海の底に沈んでゆくようで。
やはり何度経験しても慣れない。
だが、これでいい。
これで愛してもらえない存在と、一緒になる艦娘を解放することができる。
だから、これでいいのだろう。
『……しま!! ……まえ……!!』
はて、誰だろう?
誰かが大声で私を呼んでいる。
泣きながら、大きな声で。
確認しようとしたが、やはり意識が落ちるのを止められない。
まるで、これは夢だとわかっていても、起きられないような、そんな感覚。
どれだけ意識を覚醒させようとしても、どうにもうまくいかない、感覚。
どうか泣かないでくださいと、伝えたい。
私は私の信じる道を、最期まで貫けたのだから。
私の役目はもう終わりました。
だからこのまま眠らせてください。
『……しま!! ……まえしま!!』
困ったな。
どんどん意識はなくなるのに。
だれかのこえだけは、しっかりときこえる。
どうやら、その声の少女は、わたしにしんでほしくないらしい。
わたしは、あなたをかなしませたくないのに。
このままねむってしまったら、あなたはかなしんでしまう。
困ったな、こまったな。
『まや、いいこにするから!!』
いいこにするのか、すでにいいこなのに。
これいじょういいこになってしまったらどうなるのか。
しかし、しょうじょをかなしませてしまうのは、とてもいけないことだ。
なんとかならないかと、からだにきいてみる。
からださん、からださん、なんとかなりませんか?
『しんじゃやだ! しんじゃやだあああ!』
……なんとかなりませんか?
じゃ、ねえんだよ。
お前がなんとかしろ。
お前は、あのこの提督だろうが。
それ以前に。
ガキを悲しませて、涙を流させて。
なーにがロリコンだ。
これからはオッサン好きの看板でも掲げろ馬鹿たれ。
……あれ、せんぱい?
しんがいですね、わたしは、わたしは?
ああ、そうか……わたしは―――
『おねがいていとく!! めをさましてぇえええ!!』
私は―――ロリコン「だッ!!」
「「「「!!!???」」」」
足りない肉体部分を精神で動かし、立ち上がる。
その勢いで、なにかの液体が辺りに飛びちった。
どうやら艦連軍の人体用高速修復液に浸されていたようだ。
周りをぐるりと見渡す。
医療関係者だけでなく、母さん、高雄、愛宕、鳥海。
そして……まや。
皆、泣きはらしていたのか、眼を赤くしている。
ああ、随分と心配をかけてしまったようだ。
さすがに申訳ないという感情が湧くが、それよりまずは……。
「おはようございます、まやさん」
「…―― ま、まえしま?」
「はいまやさん。すみません、少々寝坊が過ぎました」
「……まえしまぁああん!! うぇ、ほ、ほんとにまえしま?」
「はい、まえしまですよまやさん。どうか泣かないでください、大丈夫、ここにいますよ」
涙を流しながら、両手を私の方に伸ばすまや。
優しく彼女を抱き上げ、抱きしめる。
「死なないで! ていどぐぅうう! まや、おいてかないでぇええ!!」
「はい、提督ですよ。私はあなたの提督です、どこにもいったりはしません、一人になんてさせません……大丈夫です。あなたがそう願ってくれるなら、必ず……生きて……みせ……ます……か……ら……」
そう、何があろうと、あなたがいてくれるなら、私は生きられる。
どこにも行ったりしません、あなたの側にずっと一緒に―――
「ば、バイタルが安定してます」
「……信じられん」
■□■□■
まさか愛が奇跡を起こす瞬間にまた立ち会えるとは。
一週間後、死の淵から舞い戻ったあと、また意識を失い。
再び目を覚ました私に向けて、軍医はそう口にした。
奇跡、それは科学では証明出来ない現象を指す言葉。
どうやら私は、文字通り現代医学的に見てあり得ない状態から、息を吹き返したらしい。
しかしながら、我々のような人種からすれば、当然のことなのだが。
少女の願いを叶えるためであれば、ときに命すらかけるし。
必要であれば死のひとつやふたつ、超越してしかるべきだろう。
そして目を覚ましてから更に数日後。
状態が落ち着き、軍の医療施設内の集中治療室から、一般病院の病室に移った私を訪れたのは、うさんくさい笑顔の弁護士だった。
「やーやーやー! はじめましてかな? 僕は舞鶴法律事務所の竜崎、よろしくね! さてさて、早速だが君と火野さんは現在、バスの運営会社に訴えを起こされそうなのはご存じかな? 僕はその辺その他諸々、君達の控訴関係の法律的弁護を頼まれてね。ああ、あらかじめ言っておくと依頼者は君のお父上(義理)さ。ついでに弁護費用その他諸々の経費は前金含めはずんでもらってるから、なにも気にしなくていいよ!」
背中に圧力をかけない特殊なベッドから、起き上がることができない私を気にすることなく。
彼は時は金なりといわんばかりな速さで挨拶を終え、ついでに現状説明を開始する。
そしてどうやら、私が意識を失っている間に色々と面倒なことになっていたようだ。
先輩が未だ意識不明の状態で、悲しみにくれる陽炎型の艦娘たちのことが気がかりすぎて、割とどうでもいい情報ではあるが。
だが、先輩なら時間はかかっても必ず目を覚ますだろう。
なぜなら、そういう人だからとしか言えないが。
「そうですか、よろしくお願いいたします竜崎先生。ただ失礼ながら、義理父は時折短気で勢いが強くなる人ですから、もし無理に依頼されたりといった経緯があって、気が乗らないようでしたら―――」
「ああ、それは気にしすぎさ。そもそも、バスの運転手とバスガイドと教師の三名、そして児童四十人を命がけで救助したなんていうヒーローの弁護なんていう事務所や僕個人の評判を最高に上げてくれる美味しい仕事、降りるわけがないじゃないですか~ははは!! まあそれと……最高の弁護士である僕だけでも充分なのに、世論行政司法権力者込み込みで全部味方だから、もう裁判するまでもなく勝ちは確定してるっていうのもあるけどね~」
聞く限り、バス会社は手の込んだ破滅が望みなのかと疑いたくなる状況のようだ。
いや、相手がただの一般人だと決めつけている可能性も充分あるのか。
だとしたら、ご愁傷様としか言えまい。
「そうですか。まあお互いに利益のある事なら、私としてはどちらでもいいんですが。くれぐれもやり過ぎないようにしてくださいね」
「おや、君はあのバス会社に弱みでも握られてるのかい? いまならセットで請け負ってもいいけど?」
「いえ、賠償金を払う前につぶれて貰ったら困りますので。じっくり絞れるレベルを見極めてお願いします」
「……あはっ! いいねえ君、任せてくれ。それじゃあ今日はこの辺で。次会うときは、いくらとれるかの報告になるよ~」
そう言い残し、早口の弁護士は部屋から出て行った。
私のことはいいが、恐らく先輩はいつ目を覚ますかわからない状況。
先輩には陽炎型の艦娘たちがついている以上問題ないだろうが、蓄えはいくらあっても困ることはないだろう。
なら多少なりとも、もらえるものは貰っておいた方が……恩を売れるでしょうし(義理の兄を心配する弟の綺麗な心の声)
といっても、こちらも未だ背中の筋肉は完全に回復しきっておらず、このあとも状況を見て、何度か手術を行う必要があるらしく。
元通りに歩けるようになるまでは、リハビリ期間を含めてどれだけかかるかわからないらしい。
次あの弁護士と会うときまでに、せめて身体くらいは自分で起こせるようになっておきたいものだ。
などと考えていると、コンコンと遠慮がちなノックの音。
そして静かに扉を開けて入ってきたのは、まやさまと高雄愛宕鳥海の四人。
真っ先に病室に飛び込んできたまやさまは、恐る恐るといったように私の手に触れた。
「まえしまぁ……ほんとに、ほんとにもうだいじょうぶなのか?」
彼女はベッドから起き上がることができない私を、心配そうに見つめている。
銀行強盗の際に入院してお見舞いに来てくれたときは、私の胸に飛び込んできてくれたのだが。
さすがに怪我のこともあってか、遠慮している様子。
いいんですよまやさま、あなたが抱きしめてくれるなら、どんな傷みでも耐えられる。
と、言いたいところだが、それは彼女が望まないので我慢しよう。
「はいまやさん、大丈夫ですよ。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「ごめんなまえしま、わたし、えらそうに言って、まえしまをまもってあげられなくて、ごめんな……」
「そんなことはありませんよまやさん。深い深い場所に沈んでいく夢の中で、私は確かにあなたの声を聞きました」
「……まやでいいぜ、まえしまは提督だからな」
「はは、わかりました。ありがとうございます……摩耶。私を守ってくれて」
「……うん。えへへ、いいかおだぜていとく!」
作り物めいているであろう、私の笑顔。
それをいい顔と言ってくれるまやさま。
これだけで、私は生きててよかったと思えてしまうのだ。
それからしばらく。
まやさまは疲れていたのか、鳥海の膝を枕にすやすやと寝息を立てて眠りについた。
高雄と愛宕と鳥海は、穏やかな様子でそんなまやさまをみつめている。
……ある意味、今なら丁度いいかもしれない。
「ひとつ話しておかなければならないことがあります」
「はい、なんでしょうか?」
死の淵から帰ってきたからというわけではないが。
まだしばらく生きていく以上、はっきり言っておかなければ。
「……申し訳ありませんが、あなたたちと結婚はできません」
「え、それはそうですよ。こんな大けがですから、何よりも先にお身体の回復を―――」
「ちがうんです」
言葉を遮り、高雄と愛宕、そして鳥海の目を見る。
私を提督としてしまった、ある意味不幸な艦娘たち。
彼女たちを愛することはできないが、せめて誠実ではありたい。
「私は……あなたたちを好ましくは思っていますが、どうしても精神上の問題で、あなたたちを女性として愛することが難しい。ですので結婚は……しません」
そう、はっきりと告げる。
彼女たちは少し驚いた様子だったが、やがて各々が薄い笑みを浮かべ口を開く。
「……それが、提督のお望みでしたら……従うのが私たちにとっての幸せですわ」
「ちょっと残念だけど、提督がそう言うならしょうがないわ~」
「私も同じ気持ちです提督。その、父には私から伝えておきますので、なにも気になさらないでください」
驚かれる、罵倒される、説明を求められる、泣かれる。
色々と覚悟していたが、笑顔で受け入れてもらえるのは予想外だった。
「いいんですか?」
「はい。ですがお側にいることは……お許しいただきたく思います」
「高雄……あなたたちを愛せない存在である私と一緒いれば、不幸になってしまうかもしれませんよ?」
「一緒にいられないくらいなら、不幸でも一緒にいられるほうがいいわ!」
「愛宕……そうですか」
「お邪魔にならないよう、仕えさせていただきますね」
「鳥海……苦労をかけます」
……人生とはままならないものだ。
「まえしま~むにゃむにゃ、いっしょ……」
「摩耶……」
自分の幸せよりも、愛する者の幸せを願える彼女たち。
私には本当に、もったいない艦娘たちだ。
彼女たちのような艦娘たちには、幸せになって欲しい。
そう願わずにはいられないほどに。
だがその一方で、どこかその有様が自分と重なる。
愛してもらえない相手を、それでもと愛し続けるその有様が。
もしかすると私と同じように、彼女たちもまた。
その在り方を貫くことに誇りを持っているのだろうか。
都合のいい、私の独りよがりな妄想かもしれない。
だが、そうであるならいいなと。
そう思わずにはいられなかった。
── いつか遠くない未来 ──
審判の日、きたる。
今日は、高雄、愛宕、摩耶、鳥海との結婚式。
結局私は、彼女たちとの結婚式をあげることとなってしまった。
一度は引き下がった鳥海の父親による「カッー! なんか最近身体の調子よくないわー! これもう長くないかもしれんわー! ならせめて死ぬ前に娘の結婚式みたいわー!」ムーブの丁寧なゴリ押しに屈してしまったせいだ。
義理の父親が強キャラ過ぎる。
もっとも、最終的には私自身思うところがあって、自身の意志で結婚式を挙げることに決めたのだが。
その理由のひとつは、先日まやさまが無事艦娘変りを終えて、摩耶になったからだ。
といっても彼女は、まだ人間の法律的には結婚出来る年齢ではない。
(※ただし艦娘の法律的にできないとは言っていない)
だが、他の三人を待たせるのは嫌だと本人が主張し。摩耶の両親がなぜか非常に乗り気だったこともあって、せめて形だけでもということで決行と相成った。
いつかこの日が来るとは思っていた、そして来てしまった。
そして来てしまったものは仕方がない。
……ずっと一緒に、側にいると。
そう、あの日約束したのだから。
覚悟を決めよう。
……決めようと頑張ってはみたが。
私は花婿の控え室で、項垂れずにはいられなかった。
もう少し、せめてもう少し摩耶がまやさまであってくれたらと思わずにはいられない。
ほんともう、ほんと、あと少し、ほんのちょっとだけ、五十年くらいでよかったのに。
「よう幸せもん、調子はどうだ!」
そんな私の心境をぶちこわすように、突如として来襲する先輩。
式に陽炎型の駆逐艦を引き連れてきてくれたのは非常に嬉しいんですが。
ついでに金剛連合会の最高責任者やら、艦夢守市艦連軍の最高責任者やら、艦夢守市の最高責任者(市長)やらを引き連れてくるのはどうしてなのか。
「……って、もうすぐ結婚するってヤツのツラじゃねえな。なに悩んでんだ、マリッジブルーか?」
「自覚はありますが、ならどんな表情をすればいいんですか……」
「俺を見ろ、これがもうすぐ結婚するやつのツラだ」
「へ?」
「しかも19人とな。ならせめておれの19分の1くらいはいい顔しろよ……ああ、そういやおまえは4人とだっけか、ならえーっと……」
「待ってください、え、え、え? 結婚なさるんですか?」
「まあな。初風のやつが、今年で学校卒業しちまうから、もうそのての言い訳で逃げられねえんだわ。つまり、近いうちに俺もおまえと同じく人生の墓場だよ。しかし立派な式場だなおい、俺もこれくらい借りたいけど、いくらかかるんだろな。陽炎は姉妹で出すって言ってるけど、俺にも意地があるから、せめて結婚式の金くらい……。ははは、あ、だめだ、なんか俺もちょっとおまえと同じ顔したくなってきた……」
なんでだよ(素)
逃げる必要なんて1ナノメートルもありはしないでしょうが。
資金だって駆逐艦19隻と結婚出来るなら、銀行強盗してでも用意するのが自然の摂理ですよね?
なんだろ、幸せじゃないオーラ出すのやめてもらえます?
などと理解出来ない疑問が脳裏に渦巻き、無性に腹立たしいやら、悔しいやら、情けない気持ちになる。
まあ信仰の都合上、致し方ないことなのだが。
「そうだ、いいこと教えてやるよ」
「はい?」
「おまえいいやつだよ、よーく覚えとけ」
項垂れてしまった私を心配してか、先輩がらしくない言葉をかける。
「いいひとというのは、ときに悪い意味を持ってしまうこともありますが」
「俺が言ってんのは良い意味だ、幸せになってもいいんだぞってことだからな。お前も知ってると思うが、艦娘ってのは悪くないぞ。自分が一人じゃないんだって、そう思える瞬間は特にな」
「それは……確かにそうですけど」
高雄、愛宕、鳥海、摩耶。
あれからもずっと側にいてくれた艦娘たち。
彼女たちとの日々は悪いこともあったが、いいこともあったように思う。
少なくとも、私は孤独ではなかった。
「そういうこった。まあこれからもよろしく頼むわ、同じ提督のよしみでな」
「全く同じではない部分もありますが……まぁ、よろしくお願いします火野提督」
「ああ、よろしくな前島提督」
茶化し合うようなやりとり、お互い自然と笑みがこぼれる。
……思えば先輩とは、随分と長い付き合いになってしまった。
そしてその付き合いは、恐らくこれからも続くだろう。
漠然としたものではあるが、そんな確信があった。
「提督やっぱりここだった~!」
「駄目じゃないですか一人になっちゃ!」
「悪い悪い。ああこら、ひっつくな」
「あっ、前島さん、この度はおめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
そんなことを思っていると、雪風、時津風と呼ばれる、陽炎型の中でも特に私好みな駆逐艦が控え室に飛び込んできた。
明るい笑顔とは裏腹に、よほど不安だったのか。
先輩の衣服をグッと掴んで離さず、おまけに時津風さんのほうは、先輩の背中に抱きついている有様。
前世でなにすればその立場になれるのか、是非教えて頂きたい。
今世が無理でも来世、来世でワンチャンあるなら、何でもしますから。
「おっ、そろそろ時間だ。おら気持ち切り替えろ新郎様、悩みなんて置いてけ。たいして価値のあるもんでもねえし、必要になったら取りに戻ればいいんだよんなもん。どうしてもって話なら、新しいのを作ってもいいしな」
「そうそう、それよりキレイなお嫁さんが待ってますよ」
「あ、え、ええと、まあ」
そう言って笑いかけてくださる雪風さん。
いや、いまこの瞬間あなたより美しい存在は私にはないんですがそれは。
「こいつ、照れてやがる」
「幸せになってくださいね」
そう言って、どこか儚げで、とても優しい表情を浮かべる雪風さん。
どこかで似た表情を見たことを思いだす。
それはあの夏の日に出会った、潜水艦の艦娘の笑顔。
「はい……そうですね、ええ、なってみせますよ」
幸運艦の彼女に、そう言われてしまったなら。
そうなるべく全力を尽くすのも、また自然の摂理。
ある意味地獄への道行きではあるが。
先輩と駆逐艦の少女たちが共にいてくれるのであれば、心強い。
結局私は未だ正しくロリコンのままである。
つまり彼女たちと結婚したところで、幸せにできるかも、幸せになれるかもわからない。
だが……大丈夫だろう。
私が、皆が幸せになれる方法を探す時間はまだある。
そして、たとえ見つからなかったとしても。
私には共にそれを探してくれる“私の”艦娘たちがいるのだから。
まずは難しくとも、信じることからはじめよう。
もしかしたらそれがきっかけで、いずれ愛が生まれるかもしれない。
愛というものは目には見えない。
ただの言葉、形のない幻想、そう語る人も多い。
だが、あるはずのないものを信じるからこそ、人は前に進み続けられる。
そして私は生きている以上、まだ前に進む必要がある。
だから例え難しくとも、その先に絶望が待っていようとも。
いまはただ信じて、進み続けてみよう。
幸せは……きっとその先にあると願いながら。
『意識高い
と
『重巡:高雄:愛宕:摩耶:鳥海』
おわり
「そういや披露宴の飯作ってくれる、おまえの一押しのイタ飯屋の……なんだっけ。ああ、リベッチオとかいうちっこい店主。俺見て雷落ちたみたいに固まってたけど、アレなんだったんだろな?」
「…………」
もしかして私が幸せになるためには、やはり高雄たちより先に、先輩と家族になるのが最短の正解ルートなのでは?
フォーエヴァー前島、お幸せに。
リベチーはほら、昔の知り合いと似た無職見て驚いたとか、そんな感じだと思うからさ。