提督をみつけたら   作:源治

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申し訳程度に大晦日要素があるので、本日投稿させていただきました、が。

なんかヒデェ話です。

ただ、ひどいだけにはならないようには頑張りました、が。
ご気分を害される可能性があります、ご注意ください。
 


『誠実な男』と『駆逐艦:長波』

 

 その日は、夕雲型駆逐艦の艦娘『長波』の人生で、最も幸せな日だった。

 

 艦娘にとって最も重要な存在、運命の瞬間。

 提督と出会えるという奇跡に巡り会えた日だったからだ。

 

 ……そしてその日が、()()()()()()()()()()最も幸せな日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誠実な男』と『駆逐艦:長波』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出会いは街をブラブラと歩いていたとき。

 

 ありふれているといえばありふれているし、珍しいといえば珍しい出会い。

 

 突然袖をつかみ、混乱しながらも必死で事情を説明する長波。

 そんな彼女を提督は驚きながらも優しい目で見ていた。

 

 その表情を……彼女は人生の最後まで忘れることはなかった。

 

 提督は外地出身でありまだ若く、こちらにきて就職して間もないこともあって艦娘についてよくわかっていない部分もあるようだった。

 しかし提督はわからない点などは質問し、少女にしかみえない長波の話をしっかり聞いてくれる。

 

 そんな提督を見て、長波は不器用だが誠実な人だと好感を持った。

 不安もあったが、この人とならきっとうまくやっていける。

 

 きっと────

 

 

 

 しばらくは叔父と姪のような関係が続いた。

 

 長波が提督の部屋に行き、ともに時間を過ごす。

 

 部屋が汚れていれば掃除し、洗濯物がたまっていれば洗濯をした。

 仕事が忙しいのか、あまりちゃんとしたものを食べていないようで、栄養のある食事もつくった。

 

 おいしそうに自分が作ったチャーハンを食べる提督。

 彼の姿を見ている時間が、長波はなによりも好きだった。

 

 明るく気風がよく、それでいて甲斐甲斐しく世話を焼く長波。

 そんな彼女に最初は姪や妹のように接していた提督も、すこしづつひかれていく。

 

 出会って二ヶ月目、提督は長波にアパートの部屋の合鍵を渡した。

 

 自分が帰ってくるまで部屋の外で待つことがあった、長波を思ってのことだった。

 だが長波は、自身を信頼し頼ってくれていることの表れでもある合鍵を見て、思わず涙をこぼした。

 

 そんな長波の様子に、なにかやってしまったのかとわたわたとする提督。

 長波は誤解を解こうと、涙を流しながら笑みを浮かべ、提督に抱き着いた。

 

 その日はアパートの近くにあるファミリーレストランで食事をした。

 思えば、二人にとってはじめての外食。

 

 もっといいところにすればよかったかなと、すこし申し訳なさそうな提督。

 長波はそんな提督の鼻先をピンとはじく。

 

「そんなことないよ………ありがとな」

 

 そう口にした長波は、幸せそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 だがそんな幸せだった日々は、突然終わりをつげる。

 

 それは長波と提督が出会ってちょうど三ヶ月経った日。

 長波はその日、提督適性者免許をサプライズでプレゼントしようとしていた。

 

 一応そういうものがあって、書類にサインが必要だということで提督に軽く説明したうえで取得したものだったのだが。

 それがお互いにとってどれだけ価値があるものなのかは、あらためて説明して驚かせようという意図だった。

 

 絶対損にはならないだろうし、きっと喜んでくれるだろう。

 まあもし抵抗感があるようなら……そのときは素直に謝ろう。

 

 仕事と手続きの関係で、ここ三日ほど会えなかった日が続いていたこともあり、長波は待ち遠しい気持ちでいっぱいだった。

 

 ああ、早く帰ってこないかな……。

 

 そんな気持ちで待っていた長波に、帰ってきた提督はすこし沈んだ声で言った。

 

 

 もう会えない。

 

 

 突然の言葉に驚いて声が出ない長波。

 最初に謝罪の言葉を伝え、提督は事情を話し始めた。

 

 聞けば酔って抱いてしまった女性が、妊娠したかもしれないとのこと。

 責任を取る必要がある、だから……もう会えない。

 

 詳しく聞けば、手を出したのは会社の同僚の女性らしい。

 

 その女性は仕事で大きなミスをしてしまい、上司にかなりきつく叱られていた。

 それを見かねた提督が、彼女をかばったらしい。

 

 上司との関係は悪くなったが、その女性からは感謝された。

 そして助けてもらったお礼ということで後日食事をしたが、どうにも飲みすぎてしまったらしく、気が付けばホテルで朝を迎えていた。

 

 最初は茫然と話を聞いていた長波だったが、ハッとなり提督に食いつく。

 

 そんなの事故だろ、金銭で解決できないのかと。

 だが提督はそんな不誠実なことはできないし、その女性も責任を取ってほしいと望んでいる。

 

 そしてその女性も外地出身であるからして、艦娘に対する理解が薄い。

 聞いてはみるが、恐らく彼女は理解してくれないし、耐えられないだろう。

 

 だから……もう会えない。

 

 その言葉を聞いて長波は膝から崩れ落ち、うつむく。

 長波の頬を伝って、ぽたりぽたりと水滴が落ち畳を濡らした。

 

 提督はいたたまれなくなったのか、部屋を出ていった。

 

 自身の部屋を出てどこに行くというのか。

 その女の許に行くというのか。

 

「……なんでその女なんだよ、あたしには不誠実なことをしてもいいっていうのかよ」

 

 長波はかすれた声で、そうつぶやいた。

 

 

 

 数日後、提督はアパートを引き払い出ていった。

 

 

 

 空っぽになった部屋で、長波はただ壁に背を預け日々を過ごした。

 引き払われた部屋をすぐに長波は借りた、わずかに残った提督の残滓を感じたくて。

 

 そうしてぼーっと、ただぼーっと日々を過ごし続けた。

 

 やがて部屋を出るときに提督が捨てていった家具、それと同じようなものを探し集め始めた。

 無意識に、そうすれば提督がまた帰ってきてくれるかもしれないと思って。

 

 料理もつくった。

 

 疲れて帰ってきた提督が、酔って帰ってきた提督が。

 間違えてうっかりこちらに帰ってきてくれるかもしれないと思って。

 

 そんな日々を過ごすなかで、提督に会いに行こう……そう考えたこともあった。

 

 艦娘と提督は夫婦になることが多いが、仕事上のパートナーに徹することもなくはない。

 コネでもなんでも使って、提督の役に立てる立場になればいい。

 

 恋人や伴侶じゃなくてもいい、むしろ上司と部下という関係は、提督と艦娘であるなら本来正しいともいえる。

 だから、せめて傍にいられるなら……耐えられると思った。

 

 しかし踏み出そうとした瞬間、提督の言葉がよぎる。

 

『もう会えない』

 

 願い、そして命令にもにたその言葉を思いだし、足が凍ったように動かなくなる。

 

 会いたい、でも会えない。

 会いに行こう……でも。

 

 同じ場所をぐるぐると回るような思考。

 そうしてひとり、提督の残滓が日に日に薄れていく部屋で彼女は過ごした。

 

 やがて提督と別れてから二年ほどたったある日。

 

 長波の中に確かにあった、提督と繋がっていたような感覚。

 

 それが薄くなっているのを感じた。

 気のせい……そう決めつけるには不吉な感覚。

 

 だが長波の足は、長年の思考のループにとらわれていたせいで、さび付いたように動かない。

 きっと自分の臆病さがみせる錯覚、そう決めつけ眠りにつく。

 

 しかし数日ほどたったその日、朝起きるとその絆のような感覚が完全に途切れていた。

 

「あ……」

 

 血の気が引く。

 なぜならその感覚は……提督がこの世を去ったことを告げるものでもあったから。

 

 そうだ、どうして気がつかなかった。

 個人差などによる時間の違いはあるが、提督と繋がれた絆のような感覚が消えるのは、そういうことだと習ったはずだったのに。

 

 靴も履かずに部屋を飛び出す長波。

 彼女が向かったのは、提督が勤めていた会社。

 

 ずっと、いつか会いに行こうと思いながらも、行けなかった場所。

 

 受付で必死に提督の名を伝え、教えて欲しいと詰め寄る。

 恥も外聞もかなぐり捨てて、提督の住所を教えて欲しいと。

 

 不審がった受付が、警備員を呼ぶ素振りをみせる。

 長波は慌てて艦娘証明書を提示し、それを見た受付は態度を改め、彼女を応接室に通した。

 

 長波は出されたお茶に手をつけることもなく、ただ震えながら待ち続ける。

 爪をかみ、必死に耐え、自分に言い聞かせる。

 

 落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。

 ここで暴れても叫んでもどうにもならない。

 

 だから落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!!

 

 気が狂いそうな焦りを必死に抑え待ち続けること10分ほど。

 部屋に入ってきた担当者は、鬼気迫る長波の様子を見て、挨拶もそこそこに事情を話し始めた。

 

 いわく、長波の提督である男は数日前に事故で亡くなった、と。

 

 死因は溺死だったらしく、家の浴槽で亡くなっていたらしい。

 原因としては飲酒や疲労状態で風呂に入ったため、ヒートショックが起き心肺停止状態になって溺死したのではとのこと。

 

 長波の頭は真っ白になる。

 

 わかっていたとはいえ、第三者から事実を聞かされ、認識してしまったから。

 かすれる声で、何度も、何度も担当者に確認するが、担当者も残念ですが……と根気よく変わらない事実を伝え続ける。

 

 長波はへたり込みそうになったが、続く担当者の言葉に意識を戻す。

 

 聞けば、提督は残業代の水増しなどを行っていたとのこと。

 またその件は厳重注意ですんだものの、もろもろの事情から自主退社する予定だったらしい。

 

 会社側も長時間労働をさせていたことは事実としてあったようで、ある程度退職金の増額なども行い、互いに話し合いをしていたという。

 

 会社側の言い分でしかないものの、担当者の言葉に嘘は感じられない。

 

 当然だ、男は“提督”だったのだから。

 そして相手はその艦娘なのだ。

 

 下手に隠し事をしたり、伝え忘れた事などがあったりしたら大問題になる。

 

 やがて必要な事項を話し終えた担当者は、多少落ち着いた長波を見てメモを渡す。

 それには艦夢守市にある葬儀場の名前と住所が書かれている。

 

 聞けば明日、その場所で提督の葬儀が行われるらしかった。

 

 

 

 

 

 翌日、長波は喪服に身を包み、葬儀場から少し離れた場所に立っていた。

 

 葬儀場の入り口には、喪章を身につけた女性が立っている。

 女性は目に涙をにじませながら、来訪者に頭を下げていた。

 

 何度も、何度も。

 

 訪れる人たちに、なにかをこらえるように何度も。

 

 その女性の顔を長波はじっと見続ける。

 あの女が、自分の提督が選んだ女。

 

 化粧で誤魔化してはいるが、歳は提督よりも10歳以上は上に見えた。

 あの女と比べて、自分のどこに劣っている部分があるのか?

 

 そう思うと黒い感情が湧き出そうになる、が。

 

 彼女もまた愛する人を失った。

 自分と同じく、愛する人を。

 

 姿はないが、まだ三つにも満たない幼い子供もいるはずだ。

 

 そんな相手に、自分はなにを考えた?

 

「……」

 

 気がつけば長波は、葬儀場とは真逆の方向に歩き出していた。

 恥じるように、自分の醜さから目を背けるように。

 

 せめて一目、提督をもう一度みたいという思いは当然あった。

 

 だが────

 

 

『もう会えない』

 

 

 呪いのように長波の頭に響く提督の言葉。

 

 それを守れ、それが残された自分にできる、唯一のことだと。

 女ではない、艦娘としての自分がそう言っているようで。

 

 後悔、未練、罪悪感、屈辱、羞恥。

 様々な感情がわき上がるが、それらを押し殺し、長波はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 長波は部屋に戻り、着替えもせず部屋の畳の上に倒れ込んだ。

 

 必死に抑えていた涙があふれ出す。

 

 同時に一つの考えが浮かぶ。

 

 なにが悪かったのか……と。

 

 恥も外聞もかなぐり捨てて、提督に捨てないでとすがりつけばよかったのだろうか。

 それともその女とやらと直接会って、圧力をかけ手を引かせればよかっただろうか。

 

 どうすればよかった。

 

 どうすれば提督は死なずにすんだ?

 

 どうすれば自分は────

 

 ぐるぐるとぐるぐると、結論の出ない考えが頭を駆け巡る。

 

 無駄だとわかっていても、何時間も何時間も考え続けてしまう。

 

 どうすればよかったのだろうか……と。

 

 

 ふと、別の疑問が浮かぶ。

 

 

 提督は……幸せだったのだろうか?

 

 自分と別れて、提督は幸せだったのだろうか?

 

 どれだけ考えても、どれだけ涙を流しても。

 その答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数ヶ月後。

 

 

 泣いて泣いて泣き続け、答えの出ないことを考え続けることに疲れ果てた長波は、外に出た。

 目的地はないが、ふと目についたファミリーレストランに吸い込まれるように入る。

 

 そこははじめて、そしてたった一度だけ、提督と一緒に外食をしたレストラン。

 

 見るからに疲れがにじんだ表情、そしてよれた喪服姿の長波。

 それを見てなにかを感じた店員は、店の奥の席に彼女を案内する。

 

 それは気づかいもあったが、なにか問題が起こらないようにとの配慮だった。

 

 席に座り、コーヒーを注文する長波。

 提督との思い出が蘇り、自然と涙が流れそうになる。

 

 意味もなく叫びたくなる衝動がわき、振り払うように軽く頭を振る。

 

 そしてふと気がつく。

 近くの席で食事をしている二人組の女性。

 

 その片方が、あの日式場で見た喪章を身につけていた女性だということに。

 つまり、提督の妻だった女性ということに。

 

 自分と違い、女は笑みを浮かべ、楽しそうに話していた。

 昼間だというのに酒を飲み、ケラケラと楽しそうに笑いながら。

 

 

 

 ……どうして?

 

 

 

 どうして笑える?

 

 何年たとうと自分はもう笑えないだろう。

 なのになぜお前は笑える?

 

 そんな疑問が湧く。

 

 やがて女は少し声を落として話だした。

 

 確かにその声はよほど近くでなければ聞こえない音量だ。

 だが幸か不幸か、人よりも耳がいい艦娘が、聞こうと意識すればはっきりと聞き取れる声の大きさでもあった。

 

 話題の切っ掛けは、最近金欠だ、楽して金を稼ぐ方法はないかという相手の女の愚痴から。

 

 提督の妻だった女は最初はぼかしていたが、ずいぶんと酒を飲んでいたせいもあったのだろう。

 やがてそれとなく自慢げに、自分がうまくやった体験を話し始めた。

 

 

 同じ会社に、若くて有望そうな男がいた。

 

 優しくされたので、自分に気があると思った女はとある計画を思いつく。

 男の罪悪感につけ込み、結婚して、さらに一生自分が優位な状態になる方法。

 

 自分はいい歳だ、おまけに仕事ができるとはいえない。

 外地出身の自分は、いつクビを切られて市の在留許可を取り消されるかわからない。

 

 だからこの男で妥協してやろうと。

 

 まずはちょっとした薬を混ぜた酒を飲ませて酔いつぶし、ホテルに連れ込む。

 そうして既成事実をつくり、妊娠したことにして結婚をせまる。

 

 タイミングを見て妊娠が嘘だとばれないよう、子供は流産したことにする。

 

 あとは簡単だ、諸々の罪悪感につけ込み一生搾り取ってやればいい。

 男の働き次第では、本当に子供だって作ってやってもいいだろう。

 

 だが誤算だったのは、男が思った以上に真面目だったこと。

 そしてそのことに罪悪感を覚えていたらしいことだった。

 

 男は無理して買った家のローンを払うために、すこしでも家に金を入れるために働き続けた。

 毎日残業で帰ってくるのは夜遅く、帰ってくれば酒を飲んですぐに寝る日々。

 

 そんな男に腹が立った女は、ストレス発散のためにブランド品を買いあさり、夜の街で遊びだす。

 とうぜん使われた金は、まともな会社員の稼ぎではまかないきれない額だ。

 

 そうして気がつけばローンの返済どころか借金を抱えていた。

 

 男は借金の事実を知っても、自分がなんとかするからと怒らなかった。

 自分が悪いと、自分のせいだからと。

 

 女はそれを聞き、なにを当たり前のことを言ってるんだと、かなり腹が立ったらしい。

 

 だから……新しい計画をたてた。

 

 それは男に保険金をかけて、家の中で()()にあってもらうことにした。

 

 そう難しい話ではない。

 強い酒とちょっとした薬があれば、風呂の中で眠ってしまう事故が起きることがある。

 

 そうして事故が起き、自分は不幸な未亡人となった。

 

 だが特定の保険に入っていたため、住宅ローン契約者が死亡した場合に支払われる保険金によって、住宅ローンの残債が完済され返済は免除された。

 

 それとは別に入っていた分の保険金も手に入る。

 また不動産を所有していれば、市の在留許可も問題ない。

 

 そうして不幸な未亡人の自分は、不動産と当分困らないだけの金銭を手に入れましたとさ。

 

 女はそんな内容を自慢げに、酷く楽しそうに話し。

 

「まあ、誠実さだけが取り柄のハズレ男でも使いようってこと」

 

 最後にそう締めくくった。

 

 

 

 気がつけば長波は、その女の顔面をぐちゃぐちゃにしていた。

 

 

 

 殺しはしなかった。

 手加減したからだ。

 

 だがそれは────

 

 少しでも長く、その女の悲鳴を長く聞くためだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦娘が法を犯した場合どうなるのか。

 

 状況次第ではあるが、基本的にはその国の法と艦連法に従って裁かれる。

 そして理由があったとはいえ、長波がしたことは紛れもない犯罪行為だ。

 

 あの後、長波は抵抗することなく、駆けつけた警察官に大人しく拘束された。

 

 

 

 数日後、艦連から派遣された弁護士が長波と面会する。

 

 提督を防衛するために行われる、正当提督防衛。

 それにあたる場合は、よほどのことが無い限り艦娘の武力行使は認められる。

 

 だがその反面、艦娘自身が意味も無く誰かに暴力をふるった場合。

 

 とくに今回のように、()()()()()()()民間人に対して艦娘という存在が暴力をふるった場合の罪は重くなる。

 艦娘は普通の人間よりもはるかに強い力を持つ性質上、凶器を使用した犯罪として扱われるからだ。

 

 また、事件を担当する可能性がある検事や判事は、酷く公平な判決を下すことで有名だ。

 そのため起訴や実刑は免れない……が、示談が成立すれば刑期は軽くなるだろう。

 

 といった弁護士の話を、長波は心ここにあらずという様子で聞いていた。

 

 様子がおかしい長波を見て弁護士は少し困った様子だったが、根気強く話を続け

 

「どうでもいい……アンタの好きにしてくれ」

 

 という言葉を引き出すことに成功し

 

「わかった、()()()させてもらうよ」

 

 と、楽しそうに言い残して、()()()である女が入院する病院に向かった。

 

 

 

 結果からいうと、交渉は相場の5倍の慰謝料を支払い示談となった。

 

 話は少し難航したが、女は長波側の弁護士が提示する条件を呑むしかなかった。

 本来この手の話は女側にも弁護士を用意するはずなのだが、()()()弁護士が見つからなかったからだ。

 

 命に別状はないといっても、酷く顔に傷を負った女は病院のベッドに横たわりながら、書類にサインをする。

 だが突然()()()()()()()()()()()を受けた苛立ちははれないようで、弁護士に愚痴を吐く。

 

 弁護士はそんな女の言葉を、真面目な表情で大人しく聞いていた。

 やがて女の愚痴が収まったタイミングで、弁護士は口を開く。

 

「条件を呑んでサインしてくれたお礼に、君の未来をおしえてあげるよ」

 

 先ほどまで真面目な様子だった弁護士の、どこか崩れた口調。

 そして酷く憐れなものを嘲笑するような表情で話し始めた弁護士の様子に、女は思わず息をのむ。

 

 女の様子に笑みを深めた弁護士はゆっくりと話し始める。

 

 

「君はこれから本当の地獄を見るだろうね。

まぁ、艦娘から提督を奪うということの重大さを知らなかったようだから、しょうがないけど。

 

ん? そうだよ、君を殴ったのは艦娘で、君の亡くなった旦那さんはその提督だったんだ。

まあ本人は知らなかったみたいだけど、法的な手続きもキチンと行われてるね。

 

ところで艦娘ってかなり耳がいいんだ。

嵐や荒波のなかでも、ある程度仲間の声を無線を通さずに聞き取れるくらいにはね。

 

おやおや、顔色が悪いね。

なにか殴られる心当たりがあったのかな?

 

まあいいか、話を続けよう。

 

まず、程なくして君は市の在留許可を取り消されるだろう。

どうしてなんて聞かないでくれよ? そういうものなんだから。

 

そして君は途方に暮れて外地に出るだろう。

さあ、そこから君の新しい人生は始まるわけだ!! 

 

……とは、いかない。

 

どうして? わからないのかい?

君がやったことは“艦娘から提督を奪う”という行為だからだよ。

 

そして、仮に君がなんらかの事件性が認められるような行為を伴って、提督を艦娘から引き離したと立証された場合。

君は世界で最も力を持った法、艦連憲章違反の罪で裁かれることになるだろう。

 

まあ立証されなければ、だけれどもね。

 

ただ、今回の件は千鬼衆が間違いなく動くよ、ふふふ。

 

彼らがもつ尋問の手段に、嘘発見器というものがある。

これは旧時代の不確かなものじゃない、アカシが妖精由来の技術の粋を集めて作った、間違いなく“嘘”を判別する装置だ。

 

わかるかな?

 

君がやった行為、全てが丸裸にされる。

無知な君でも知ってるよね?

 

千鬼衆という存在は艦連憲章を、いや……艦娘から提督を奪うという行為を絶対に許さない。

 

彼らはその為にありとあらゆる泥をかぶり、その身がタールのような血にまみれようと、吐き気を催す臭いに包まれようと、ただただ恐怖の象徴となることを望む。

戦争が終わってから100年以上ずっと、二度とそんな馬鹿なことをする人間が出ないように、考えつく限り最も恐ろしい手段で報復する装置となることを選んだ鬼たちだ。

 

艦娘から提督を奪う存在に一切の情けもかけず、ただ殺し尽くす装置になることを、自らの意志で望んだ鬼たちだ。

 

ほんと、知らなかったとはいえ、よくもまあそんな相手に喧嘩を売れたものだね。

 

ん、弁護? お断りだよ。

だって僕は君ほど命知らずじゃないからね!!

 

アハハハハハハハッ!!

 

……じゃあね」

 

 弁護士が病室の扉を開けると、そこには鬼の仮面をつけた憲兵……千鬼衆と呼ばれるモノたちの姿があった。

 

 彼らに「失礼」と、軽く挨拶をして弁護士は部屋を出ていく。

 入れ替わるように何人もの千鬼衆が部屋に入ってくる。

 

 真実を調べるために。

 そして提督を奪われた艦娘の無念を晴らすために。

 

 女はあわててナースコールを押すが、話が通っているのか反応はない。

 医者も弁護士も警察もここには来ない。

 

 彼女を助けられた誠実なだれかは、もうこの世界のどこにもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 数年後。

 

 艦夢守市にある、艦娘用の刑務所の正門前。

 そこには刑期を終え、出所した長波の姿があった。

 

 ふと長波が空を見上げれば、薄暗い曇り空。

 

 その日は大晦日という事もあって気温が低く、雪でも降りそうな気配。

 暫くボーッとそんな空を見上げていた長波だったが、やがてはははと力なく一笑したあと、歩き始めた。

 

「~~♪ ~~~~♪」

 

 その足取りはおぼつかなく、瞳にも生気が無い。

 おまけにボソボソと聞き取れないほど小さな声で歌いながら歩く姿は、まるで薬物中毒者のような様子だが、向かう方向に迷いはなかった。

 

 目的地までは数十キロも距離あったが、時間はいくらでもある。

 なんの使い道もない時間が、いまの長波にはいくらでもある。

 

 提督を奪った女のその後を、長波は知らない。

 

 艦連憲章に記される、報復の権利を長波が放棄したからだ。

 もっとも、だからといって女が無罪放免となったわけではない。

 

 女は報復とは別に、艦連憲章に照らし合わせて裁かれ。

 弁護士が語った『考えつく限り最も恐ろしい手段』ともいえる刑が執行された。

 

 だが……長波にはやはりどうでもいいことだった。

 

 長波が報復の権利を放棄したのは、自分が許せなかったからだ。

 弁護士を拒否し裁判に臨んだのも、少しでも重い刑罰を受けるべきだったからだ。

 

 提督を奪われ、死なせた、愚かな自分にはお似合いだ。

 

 ……いや、足りない。

 

 自分はもっともっと苦しむべきだと、ずっと刑務所の中で考え続けていた。

 

 どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば。

 檻の中で、ただそれだけを考え続けていた。

 

 やがて長波は目的地にたどりつく。

 

 あたりは真っ暗だったが長波の目には、よく目の前にあるものがよく見えていた。

 

 それは、彼女の提督が眠る墓……その墓石だった。

 寂れたとまでは言わずとも、一番安い場所にたてられた、一番安いであろう墓石。

 

 手入れをするものがいないのか、墓石は酷く汚れていた。

 

 備えものや線香のあとはなにひとつ無く。

 風雨にさらされ、だれも訪れることがなかったであろう墓石。

 

 それをみて、長波の目に光が少し戻る。

 

 あまりに受け入れがたいものだった現実を、ようやく理解したからだ。

 

 自分が()()()()()()()いう現実を。

 

「ごめんな、遅くなってさ……」

 

 墓所の入り口で汲んできた、いまにも凍りそうな冷たい水を墓石にかけながら謝罪をくちにする長波。

 何度も何度も謝りながら、手に持った布で必死に墓石を磨いた。

 

「わたし馬鹿だった」

 

 ずっと後悔し続けた、別れてからも、檻の中にいる間もずっと。

 

「どうしたらよかったのかな?」

 

 ずっと問い続けた、答えのない問いを、自分自身に。

 

「ごめんな、ごめんな提督」

 

 結局答えは出ず、ただ謝ることしかできない長波。  

 何度も何度もそう呟き、ひたすら墓石を磨き続けた。

 

 やがてあと1時間もすれば年が明ける時間になった頃。

 墓地にぱらぱらと雪が降り始めた。

 

 そして一粒の雪が、提督の墓石に落ちる。

 

「あ……あ、あ、あ……ッ!!」

 

 小さな小さな雪の粒。

 

 なんということはないその雪に粒を見て、長波は声にならない叫びをあげた。

 それはまるで、大切なものが汚されてたような恐怖が混じった叫び。

 

「さわるなぁ!!」

 

 長波はそう大声を上げ、鬼の形相で雪を払いのけた。

 だが払いのけたところで、降り始めたばかりの雪が次々と墓石に落ちる。

 

「さわるな!! さわるな!! さわるな!!」

 

 雪が墓石に積もる度に長波は、叫び声を上げて雪を払いのける。

 

 まるで全てのものから、提督を護ろうとするかのように。

 誰もいない墓地に、長波の叫びが響く。

 

 どれだけ払ってもつもり続ける雪にパニックになった長波は、雪から提督を護るために上着を脱いで被せる。

 ただそれでも上着では覆いきれなかった部分があったため、そこは自らの身体でふさいだ。

 

 もう誰も、提督に触れられないように。

 

 もう誰も、提督を傷つけられないように。

 

 もう誰も……────

 

 

 

 やがて雪は墓石ではなく、長波の身体を覆う。

 だが艦娘である長波は、雪に埋もれ寒さに凍えようとも命を失うことはない。

 

 どれだけ望んでも、どれだけ願っても。

 

 雪が身体を覆って行く中、長波はようやく一つの答えを得た気がした。

 

 これは罰なのだ、提督を護ることができなかった自分への罰。

 そして自分の愚かさ、間違ってしまったことへの罰なのだと。

 

 だから自分は、残りの人生ずっとずっと。

 こうして提督の墓に覆い被さり、自らが提督の墓となるのだと。

 

 そうすればもう二度と、提督を奪われないですむ。

 

 故に長波は身じろぎ一つせずに、ただ墓石を抱き続けた。

 

 やがて雪で白く染まり、なにも動くものがいなくなった墓地に鐘の音が響く。

 

 遠くから聞こえてくる除夜の鐘の音を聞きながら、長波は静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

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「うわっ!! うわああああああああッ!!」

 

 山田*1は叫んだ、恐らく彼が誕生した瞬間にあげたであろう泣き声よりも大きな声で叫んだ。

 

 山田健二は、テレビドラマの監督である。

 企画を立てて予算を組み、人を集めて撮影し、ドラマをつくってきた。

 

 けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 あといつか映画も作りたい。

 

「なんだ……要望どおり最大限ポップでライトな話にしたというのに……やはりライトすぎたか?」

 

 陰鬱な目つきで山田を見ながら、そう口にする三文小説家*2

 

「逆ですよ逆!! ポップでライトな艦娘と人間の女性と提督の三角関係メロドラマの企画書から、なにがどうやったらこんな話になるんですか!?」

 

「そういう話にしかならないと思うのだが……」

 

「なんでですか!! しかも最後は提督と艦娘が結ばれて終わるって話でしたよね!? 全然結ばれてないじゃないですか!!」

 

「いや、結ばれてただろ、提督(墓石)と」

 

 三文小説家には人の心がわからない。

 

「そ゛こ゛に゛て゛い゛と゛く゛は゛い゛ま゛せ゛ん゛ん゛ん゛!! マスターもなんとか言ってくださいよ!!」

 

「うるさいねえ……なんだいさっきから大声あげて……どれどれ見せてみな」

 

 騒がしい山田を迷惑そうな目で見ていた喫茶店のマスターである朝霜。

 突然話を振られた彼女は、自身の姉妹が主役とは知らず、山田から脚本を手渡されて読み始めた。

 

「ほんともう……どうするんですかこれ……」

 

 あまりにあまりな出来に力なく椅子に腰を落とし、天を仰ぐ山田。

 やがてどうしようもない感情が溢れ出たような表情をして頭を抱え、うつむく。

 

 その様子を見て、三文小説家は少し不安そうに声をかけた。

 

「……だめなのか?」

 

「いえ、最高です」(真顔)

 

 ノータイムで返事をして顔をあげた山田の表情は、先ほどとは打って変わって酷く真面目で真剣なものだった。

 その顔はまるで、娘さんを僕にくださいと言わんばかりのまっすぐなもの。

 

「確かに当初の要望とは違います……ですが、それはそれとしてこの脚本はなんとしてもドラマ化してみせますよ。この傑作をこのまま埋もれさせることは、神が許してもこの山田が許さない」

 

 絶賛である、この内容を絶賛である。

 正気かと疑いたくなるようなこの内容を、まさかの絶賛。

 

 なんで?

 

 なぜなら山田は曇らせが大好きだった。

 

 悲劇と絶望のどん底だからこそ輝く美しいものがある。

 それを映像化することこそが、己の使命だと確信していた。

 

 そのために魑魅魍魎渦巻くテレビ業界でのし上がり、若くしてプロデューサーとなった。(あと監督もやってる)

 

 夢中になれるものがあったため、すげえ奴になってしまったタイプだった。

 

「……そうか。ならこの脚本は好きにするといい」

 

「はい、任せてください」

 

 あまりにもまっすぐな絶賛を受け、どこか照れた様子の三文小説家。

 

 そして山田はノートを取り出し、ドラマ化に向けての計画を練りはじめる。

 必要なのは予算、スポンサー、最高の俳優、腕利きのスタッフ、各所への根回し、そして……。

 

 

「うわっ!! うわああああああああッ!!」(朝霜の叫び)

 

 

 実際の艦娘との意見のすりあわせだ。

 

「ふふふ、わたしの気持ちをわかっていただけましたかマスター? この話……最高でしょう?」

 

「ばッ! ばッ! ばッ!? ふ、ふざ、ふざふざけ……ゴクリ」

 

 同じ艦娘として、あり得ないとも言い切れない妙なリアリティーがある話。

 吐き気を催す感情にとらわれる一方で、どうしても目を背けられない魅力があった。

 

「これ……本気でつくる気なのかい?」

 

「はい、本気です。ですがこのままでは問題も多い……なので、ご協力お願いできますでしょうか?」

 

「……わかった、長波にはわたしから話して必要な許可をとってやる……だけど、やる以上半端なもん撮るんじゃないよ?」

(※この手の映像作品を制作する場合は、艦連だけではなく、長波個人の人格肖像権的な許可が多分必要)

 

 物理的な圧力を感じそうなほどの朝霜の確認に、山田は微笑みながらこう答えた。

 

「半年待ってください、最高のドラマをご覧に入れて見せますよ」

 

 そう答える山田の顔は、どんな困難な作戦だろうと成功させてみせるという、歴戦の将軍のような凄みに満ちていた。

 

 

 

 そして約束通り半年後。

 

 テレビ電波に乗って放送されたドラマ『艦夢守市ラブストーリー』は賛否両論はあったものの、良くも悪くも凄まじい反響をよぶこととなる。

 

 

 

■寄せられた感想(一部抜粋)■

 

『あたし艦娘だけど、これ見て色々認識を改めた。提督は絶対離しちゃだめだ、ていうか家から出しちゃだめだ』

 

『だから(山田と三文小説家は)混ぜるな危険って言ったじゃん、言ったじゃん!!』

 

『情緒ぐちゃぐちゃになってる長波サマ美しいベ……』

 

『やりやがった!! マジかよあの野郎ッ(山田)!! やりやがったッ!!』

 

『俳優みんな命でもかけてんのかってくらいヤバイ演技しててビビった』

 

『山田と三文小説家は世界中の長波サマにごめんなさいするべき、それはそれとして続編まだ?』

 

『あちこちで絶叫あがっててうるさいなとおもったら、自分の絶叫だった』

 

『おれ長男だけど(この物語はフィクションです)って表記が無かったら耐えられなかった』

 

『まって、スタッフロールの協力に<憲兵軍:極東特殊作戦軍>ってあるんだけど、え、これって千鬼衆の……え? 山田マジモン呼んだの? 嘘でしょ?』

 

『ワイ憲兵、これはよい啓蒙作品、全人類は見るべき。それはそれとしてゆるさんぞ山田監督』

 

『ぅぅぅ……長波サマ可哀想、可哀想だよぉ……トクゥン』

 

 

 

 余談だが、放送時艦夢守市在住の中華料理店経営の長波サマ(提督未発見)は、許可は出していたものの、放送されたドラマの視聴後に思わずこう叫んだという。

 

 

 

「うわっ!! うわああああああああッ!!」

 

 

 

*1
・参照『独り身男』と『軽巡:川内』他

*2
・参照『三文小説家』と『駆逐艦:朝霜』他




 

 なんてもん読ませやがる、ゆるさんぞ山田監督。
 

 あと補足しておくと、この話は『独り身男』と『軽巡:川内』よりも時系列的に前になります。
 山田はこのあとがんばって映画監督になりました。

 ……いや、というか、なんかほんと大晦日にこんな話を投稿してすみませんほんと。
 そして今年もあまり投稿できませんでしたが、それでも読んでいただきありがとうございます。

 いつまでたっても完結しない本作ですが、来年は……いや、まあ、うん。

 ということで、来年もなにかしら投稿するかと思いますので、よかったらまた覗いていってください。
 
 それではよいお年を。
 
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