提督をみつけたら   作:源治

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今回の舞台は艦夢守市じゃなくて、京都っぽいところです。
ちょっと怪しい京都弁も出てきますが、生暖かい目でどうか。

※二万文字くらいあります。
 


『若さま』と『重巡:妙高』

 

 その女は疲れ果てていた。

 

 姉妹たちと別れ、さまよい、争い、疲弊し、またさまよい。

 探しても探しても見つからない相手を探し、さまよい続けた。

 

 そうしてついに女は絶望し、ある街の橋の下で座り込んだ。

 

 もうなにも見たくない。

 そうして近くに捨てられていたぼろ布をかぶる。

 

 訪れる暗闇、昼も夜もない、ただの暗闇。

 聞こえてくるのは目の前を流れる川の音。

 

 いまはそれが心地いい。

 

 女はもう一歩も歩けなかった。

 体力ではなく、精神的にもう立ち上がれない状態。

 

 そうして明日が来ることに絶望し、ただ暗闇を見つめ続けていたある日。

 

『ごめんやけど、ちぃと隣、失礼さしてもらうで』

 

 誰か、男の……青年の声。

 

『急に降ってきてかなわんわ、こちとら家出中やってのになぁ』

 

 どうでもいい、だれでもいい、邪魔なら追い払える。

 そう思いながらも、ぼろ布の隙間から相手を見る。

 

 そこには十五~六歳ほどの、身なりがよく、生意気そうな青年の姿。

 

 雨に打たれ、びしょ濡れになった髪。

 その合間から見えた青年の瞳を見て女は───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『若さま』と『重巡:妙高』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ時、梅雨の湿った風が、開け放たれた玄関の敷居をやわらかくなでていた。

 その玄関の上がり框(あがりかまち)に腰掛け、年季の入った下駄を履こうとしている男が一人。

 

 名は『宗次郎』。

 

 この古くも立派な建物に店を構える漬物屋『喜屋』の主である。

 親しい者たちからは『若さま』と呼ばれていた。

 

 と、その背中に、奥から声がかかる。

 

「若さま……お出かけですか?」

 

 声の主は、店舗兼住居であるこの建物に住み込みで働く女中だった。

 

 年の頃は二十代の中程。白い割烹着を身にまとっている。

 背筋はぴんと伸び、姿勢は申し分なく美しい。

 

 割烹着の白布には丁寧にアイロンがかけられているのか、皺ひとつなく、清潔感にあふれている。

 肩から袖にかけてややふんわりとしたその形が、彼女の凛とした立ち姿にやわらかな印象を添えていた。

 

 顔立ちは端正で涼やか。

 黒い瞳には確かな意志の強さが宿っている。

 

 そして彼女の艶やかな黒髪は丁寧に編み込まれ、後ろで束ねられていた。

 その髪型のきちんとした仕立てが、彼女の端正な顔立ちをいっそう引き立てている。

 

 宗次郎は肩越しにちらと彼女を見、下駄の鼻緒を指で押し込みながら返事をする。

 

「ああ妙高か、ちょいとそこまでな」

 

 曖昧な響きは、初めから本音を隠すつもりもないという投げやりさを孕んでいた。

 女中──妙高と呼ばれた彼女は一歩近づいて、ぼんやりとした橙色の玄関照明に照らされた、宗次郎の横顔をそっと見つめる。

 

「いつ頃、お帰りになります?」

 

 宗次郎は一拍置き、ふっと鼻で笑った。

 

「さぁなぁ。負けたらすぐ帰ってくるやろ」

 

 言い終わるか終わらぬうちに、からん、ころんと下駄の音を響かせて、彼は夜の町に溶け込んでいった。

 

 妙高は、しばらく開け放たれた戸口に立ち尽くしていた。

 

 彼女の瞳には、叱責でも哀れみでもない、ただどうしようもないものへの諦念。

 それでもまだなにかを見届けようとするような、複雑な色が宿っていた。

 

 宗次郎は「若さま」と呼ばれてはいたが、店の主人である父母は数年前、事故と病に伏して相次いで亡くなっていた。

 そのため、名実ともにこの店を継いでいる状態である。

 

 店を継いだ最初のうちこそ、彼は懸命だった。

 

 老舗の暖簾を守ろうと、味に口うるさい近所の婆様方に頭を下げてまわり。

 京都ならではの季節の移ろいを漬け物に映そうと努めた。

 

 だが、うまくいかなかった。

 

 流通の変化、得意先の契約打ち切り。

 なにより宗次郎自身が、この仕事に縁の薄い生き方をしてきた。

 

 ひとり、また一人と従業員や職人が去り。

 いまでは店先に立つ者は、彼と妙高だけ。

 

 いや、店先に立とうとも売り物も満足にない。

 店の漬け樽もいまは埃をかぶり、客足も途絶えた。

 

 そんな苦境からなんとか抜け出そうと、宗次郎は徐々に外へ足を向けるようになった。

 支援者や取引先になってくれそうな相手をさがし、接待のため、夜の遊び場にも頻繁に顔を出す。

 

 そんな生活をしていれば悪い噂もたち、それが耳に入って自棄になる。

 気がつけば、賭場と酒場を渡り歩く夜の蝶のような生活が、彼の本音になっていた。

 

 妙高は宗次郎がまだ学生だった頃、雨の降る梅雨のある日。

 橋の下で震えていたところを、彼に拾われた女だった。

 

 赤の他人とはいえ、短くない年月、彼の成長を見守り、同じ屋根の下で暮らしてきた。

 

 ぽつりと、ため息が漏れる。

 

 それが、どうしようもない現実を包む、唯一の音だった。

 

 

 

 夜も更けて、外の虫の声もやんだ頃、玄関の戸ががらりと音を立てた。

 宗次郎が、べろべろに酔いながら戻ってきたのだ。

 

 下駄も脱がずに玄関前の廊下に倒れこみ、意味のない言葉をつぶやきながら笑っている。

 衣の裾は泥で汚れ、鼻の頭には酒焼けの赤みが差していた。

 

 宗次郎の帰りを待っていた妙高が、すぐにやってくる。

 

 彼女は灯りをつけるでもなく、真っ暗な廊下をするすると歩き、宗次郎の身体を支え起こした。

 ふらつく体を背負い、寝所まで連れていくと、濡れた手拭いで額を拭き、口元をそっと拭う。

 

 その仕草は、決して丁寧でも、ましてや嬉々としたものでもなかった。

 けれども、その背中には、不思議な静けさと、微かな温もりがあった。

 

 荒んだ宗次郎を世話するその姿に、どこか満ち足りた表情が浮かんでいたのは、光の加減だったのか、あるいは──

 

 世話を終え、彼の枕元に正座した妙高は一度、宗次郎の寝顔を見下ろす。

 

 彼のその目には、少しばかりの涙が光っていた。

 

 どこか幼さが残るその寝顔を見ながら、妙高は昔のことを思い出す。

 

 

 

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 京都。

 

 対深海棲艦戦争においても、その特殊な立地ゆえに滅びを免れた街。

 その街にある、戦前から使われている古い橋の下で妙高は“みつけた”。

 

『なんや、あんた女やったんか……えらい別嬪さんやな。名前は?』

 

『わ、わたし……みょうこう……妙高と申します』

 

『妙高さんね。おれは宗次郎や、よろしゅうな。なんぞ訳ありやろうけど、まあ短い間やし気にせんとくわ』

 

 震えながらそう口にする女に、宗次郎は軽い口調で返す。

 雨脚は少しだけ弱まっていた。

 

 雨音もほとんどなく、雨で行き交う人々もいない橋の下。

 川のせせらぎがかすかに聞こえるだけの、静寂に満ちた空間。

 

『ここは……静かですね』

 

 ささやくような大きさの声で、妙高はそうつぶやく。

 

『せやなぁ』

 

 その小さなささやきを聞き逃さず、短く返す宗次郎。

 たったそれだけのやり取りは、妙高にとって一生忘れられないものとなった。

 

 

 

 店の軒下のぬかるんだ石畳に、影が二つ映りこむ。

 

 影の主のひとりは、雨のせいで濡れた身なりとなった宗次郎。

 そしても一人は、彼に手を引かれて連れられてきた女──妙高。

 

 どういう心境だったのか、宗次郎は妙高を家へと連れ帰った。

 

 それは家出から帰ってくる口実にしたかったのか。

 それとも加茂大橋の下で、震えていた妙高をそのままにしておけなかったのか。 

 

 もしくはその両方。

 

 古びた漬物屋の玄関先。

 まだ少年の面差しを残す宗次郎が帰ってくると、両親は目を丸くした。

 

『まあ……こちらのおなごさんは、どなたさんどす?』

 

 母親は驚きながらも、その目には責める色はなかった。

 父親もまた、少しの間だけ口を噤んだあと、穏やかな笑みを浮かべた。

 

『まあ、ほら……』

 

『あ……はい、妙高と申します』

 

 自身の本名であり本名ではないその名を、少し戸惑った様子で口にする妙高。

 だがその“事情”を話して問題が起きることを恐れ、訂正せず、素直に宗次郎に伝えた名を名乗る。

 

 なんとも言い難い、どこか気まずい空気が流れる。

 それを破ったのは、厳しい目で宗次郎を見つめていた彼の父。

 

『……どこぞで拾うてきたんか、宗次郎』

 

『ああ……でも、べつに深い意味は……行くとこも住むとこもあらへんていうさかい。おとん、女中探してる言うてたやんか』

 

『連れて来たからには、面倒見る覚悟が要るで。お前が……や』

 

 父親の声は静かだったが、厳しさをたたえていた。

 宗次郎は、不服そうに眉をひそめたが、やがて唇を噛みしめてうなずいた。

 

 その日から、妙高はこの家で暮らし始めた。

 

 梅雨の雨が続く季節だった。

 

 最初のうちは、宗次郎も素っ気なかった。

 だが妙高の世話をする中で、少しずつ彼の中に変化が現れた。

 

 無愛想ながらも、食事を運び、風呂を焚き。

 ときには自分が知る、つたない家業の内容を教えることもあった。

 

 そんなある日の夕暮れ。

 

 漬物樽を眺めていた宗次郎が、ぽつりと言葉をこぼした。

 

『金さえありゃ、こんなぬか臭い樽を相手にする必要もないんやろうけどなぁ』

 

『……そんなことありませんよ……お金を使うにも、力が必要ですから』

 

 その言葉を聞き、妙高は静かに、諭すように。

 そして実感のこもったなにかを噛みしめるように言葉を紡ぐ。

 

 宗次郎は怪訝な顔をして振り返った。

 

『どういう意味や?』

 

『たとえお金があったとしても、まだ若さまにはそれを扱う力がありません。知識、伝手、立場……力というのがなにを指すかは漠然としていますが……その力が無くてはお金があったとしても、あっという間に奪われます』

 

『ほな、誰にも負けへんくらい強うなればええっちゅうことか?』

 

『そうですね……ですがお金や力があったとしても、相手がより強かったらなど、どうにもならないこともありますよ……。そのときは、誰かに助けを求めるしかありません』

 

 宗次郎は押し黙った。

 妙高はまっすぐにその目を見据えて続ける。

 

『ですがそのとき、助けるに値する人間でなければ、誰も手を差し伸べてはくれません……最後にものをいうのは品性や人格と語っていた偉人もいます。見返りもなく、信用に値しない人を助けたいと思う人なんて、いないですから』

 

『……結局なにが言いたいんや』

 

 その問いかけに、儚げな表情を浮かべ、宗次郎を見つめる妙高。

 

『妙高は……若さまに“助けたくなるような人”になっていただきたく思います』

 

 その言葉は、宗次郎の胸の奥深くに染み入った。

 正確には言葉ではなく、それをこともなげに言ってのける妙高の姿が。

 

 それからの彼は変わった。

 

 朝早く起きて、父の手伝いをし、帳簿を学び、職人の声にも耳を傾けた。

 どんな些細な仕事にも手を抜かず、傍らにはいつも妙高の姿があった。

 

 彼は、自分が妙高に見合う人間でありたいと思った。

 

 妙高は口数は少なかったが、いつも彼のそばにいた。

 必要なときに助け、黙って背を押してくれる。

 

 そんな彼女の存在が、宗次郎にとってなによりの支えだった。

 

 ある日、夕焼けに染まる裏庭を見渡せる縁側で、宗次郎が腰を下ろしてひと息ついていた。

 妙高はそんな彼の隣にそっと座り、彼の頭を労わるようになでる。

 

 恥ずかしがりながらも、黙ってされるがままの宗次郎。

 その頬に浮かんだ笑みは、どこか満ち足りたものだった。

 

 梅雨はまだ続いていたが、ふたりの間には、確かな陽だまりがあった。

 

 

 

 しかし、そんな日々も長くは続かなかった。

 

 両親が相次いで亡くなると、漬物屋は少しずつ傾き始める。

 

 物流網の整備によって、漬物の需要は地元の小店よりも大規模なチェーンに流れ。

 立地のせいもあってか、地元客だけでなく観光客の足も次第に遠のいていった。

 

 宗次郎自身もまた、この仕事に適した人間ではなかった。

 ここ数年はまじめにやっていたものの、学業をおろそかにしていた時期もあり、商売の才覚にも乏しかった。

 

 少しずつ悪化していく経営。

 

 弱り目とみて、腕のいい職人たちは他所の店に引き抜かれた。

 そうなると必要な質や量を維持できず、長年取引を続けてきた卸先から契約を打ち切られる。

 

 結果、数字として表れる苦境に、銀行は貸付を渋るようになった。

 

 けれど宗次郎にはどうすることもできず、ただ日々が過ぎていく。

 

 そしていま、二人だけとなった漬物屋には、昔の賑わいの面影はもうなかった。

 

 

 

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 梅雨空の灰色が、地の色のように空を染めるある日。

 宗次郎はいつものように賭場へと足を運んでいた。

 

 店には妙高一人。

 静けさが染み入るような午後だった。

 

 そんな静寂を破るように、古ぼけた黒電話が呼び出しを告げる。

 

「はい、喜屋漬物店でございます」

 

 受話器越しの声は、宗次郎のものだった。

 

『妙高か、俺や。ちと頼みがある。権利書──店のと土地の、両方──いますぐ持ってきてくれ。場所は……下鴨にある屋敷や。前に話したことのある、あそこや』

 

「あの……若さま、それは──」

 

 言いかけた妙高の声を、宗次郎は制した。

 

『ええから、頼む』

 

 不安の色を顔に浮かべながら、妙高は電話を切った。

 

 店の帳場に鍵のかかった小箱があり、そこに店と土地の権利書が納められていた。

 妙高はそれを丁寧に風呂敷に包み、傘を手にして玄関を出た。

 

 雨は止んでいたが、まだ空気には梅雨の湿り気が残っている。

 道中、ふとした風景が記憶の引き出しを開けた。

 

 五山送り火の夜、宗次郎と連れ立って眺めた鴨川の灯。

 店先で売れ残った漬物を抱えて、河原町の喫茶店で無理やり休憩させられた午後。

 

 妙高が初めて白い割烹着を着て接客に立った日。

 宗次郎は一言も褒めなかったが、夜中に黙って新しい髪留めを買ってきてくれた。

 

 思い出は、やわらかい痛みとなって胸に広がる。

 

 風呂敷を抱え、足を進めるたびに。

 いまいる場所とこれから向かう場所の距離が、まるで過去と未来のように乖離していく。

 

 やがて、下鴨神社の森を抜けた先、古く立派な門構えの屋敷が目の前に現れた。

 重厚な黒漆喰の塀、雨で濃くなった瓦の艶、そして門前に立つ、名家の家紋が彫られた石灯籠。

 

 妙高は足を止めた。

 

 宗次郎から聞いた噂話。

 成り上がりの男が、古くから続く名家を乗っ取り、自分のものとしたという。

 

 そして金にものをいわせ、地盤を広げ、いまではこの街の表と裏の顔となった。

 その噂の人物が乗っ取ったとされる名家の屋敷が、目の前のそれだった。

 

 妙高は不安を押し込むように、ぐっと胸を抑え込む。

 そして息を整え、濡れた足袋の感触を気にしながら、彼女は屋敷の門をくぐった。

 

 

 

 

 赤い夕暮れが、屋敷の窓から斜めに射し込んでいた。

 

 女中──妙高は、召使いに導かれながら広間の扉の前に立たされる。

 開かれた扉の向こうに広がるのは、異国の香りの漂う、赤い絨毯が敷かれた広い洋室。

 

 天井は高く、壁には重厚な額縁に飾られた西洋画がいくつも掛けられていた。

 

 その中央、黒光りする長机の手前に、宗次郎の姿があった。

 姿勢は崩れ、疲れきった表情で、視線は宙を泳いでいた。

 

 対面には、青白橡の和装に身を包み、装飾の施された杖を手にした老人が座っていた。

 後ろには、まるで影のように無言で立つ黒服の男たちがいる。

 

 机の上には、トランプ、麻雀牌、サイコロ、紙幣。

 勝負の残滓が、打ち捨てられた戦場のように散乱していた。

 

「これは……どういうことでございますか」

 

 妙高は宗次郎のもとへ歩み寄り、静かに問いかける。

 

 宗次郎は、顔を上げた。

 その目は赤く濡れ、口元は震えていた。

 

「妙高……すまん。全部、俺の、俺のせいや……」

 

 彼は語り始めた。

 

 借金はしていない、というのが彼の最初の言葉だった。

 

 だが、実際にはそれ以上に深く堕ちていた。

 

 初めは小遣いの範囲で遊んでいた。

 勝てば戻ってくる、負けてもまた頑張ればいい──そう軽く考えていたのだ。

 

 だが、気づけば貯金を切り崩し、両親の遺した資産にも手を伸ばしていた。

 そして、店の経営に必要な金にも……。

 

「自分でも、いつか止めなあかんて、そう思うとった。けど……賭場の連中、口が上手あてなぁ。勝てるかもしれへんって言葉に、つい……」

 

 そしてある日、いままでの損失すべてを覆すほどの大勝負の話が舞い込んだ。

 勝てば莫大な金が手に入る、負ければ……。

 

 その賭けを持ちかけたのが、いま目の前にいる和装の老人だった。

 

「気がついたらな……店も、土地も、俺の名義のもん、全部や。そんだけやのうて……俺の身柄まで、勝負に賭けてもうてた」

 

 宗次郎の声はかすれ、言葉の端々が震えていた。

 

「ほんま、俺はあかんやつや……けど、家の中のもん、私物はなんとか勘弁してもろた。かあさんの形見の着物もあるやろ。好きに持っていってくれ……ほんま、すまん……妙高」

 

 宗次郎は頭を下げ、ぽろぽろと涙をこぼした。

 

 妙高は、そんな彼の姿を、まるで風が止むのを待つような静けさで見つめていた。

 その目には、怒りも、哀れみも、浮かんではいなかった。

 

 ただ、静かに、深く、彼を受け止めていた。

 

 その様子を見て、老人は口の端を歪め、鼻で笑った。

 

「ふむふむ、なんとまぁ、よき見世物じゃのぅ。いやはや、涙ぐましき主従愛というやつかな?」

 

 和装の身なりに身を包んだその老人は、ねちっこく嫌味を感じさせる言葉遣いで、ゆったりと話し始めた。

 

「ひっひっひ……若造よ、まだ希望を失うでないぞ。のう、そこの女中を賭けて、もうひと勝負いたさんか? おぬしが勝てば、わしが最初に出した額の、そうじゃな……二倍! 二倍をくれてやろう」

 

 宗次郎が顔をしかめ、警戒するように老人を見つめる。

 その視線を受けながらも、老人は恍惚とした表情で妙高を見つめた。

 

「なっ……なにを言い出すんや!?」

 

 宗次郎の声が震える。

 椅子を蹴るようにして立ち上がりかけた彼を、妙高の静かな声が制した。

 

「……かまいません」

 

「妙高……?」

 

 妙高はまっすぐに宗次郎を見つめ、静かに頷いた。

 

「わたしの身は、若さまのものでございます。どのようにお使いいただこうと、それが若さまのご意志であれば、従う所存にございます」

 

 その言葉に、老人は扇子を広げて仰々しく笑い出した。

 

「くくく……カカカッ!! いやはや、いやはや! なんと殊勝なおなごじゃな! よかろう、ここで退屈な勝負をしても興が冷めてしまうじゃろうて、勝負を受けるというなら、少々手心を加えてやろではないか。わしの方が少しばかり不利になるようにな……うむうむ、おぬしとの実力差であれば、それでようやく公平というもの」

 

 楽しそうにそう紡ぐ老人。

 だが、続く言葉でするりと声のトーンを落とし、平坦に告げる。

 

「それでおぬしが勝てば掛け金に加え、負け分もすべて帳消し、とうぜんおぬしの身も自由にしてやる。だが負ければ……そこな女中、妙高殿といったか。その全てをいただくがな」

 

 揺れる宗次郎の瞳は、妙高へと向けられていた。

 彼女は一歩前へと出て、静かに頭を下げた。

 

「その条件でかまいません。どうか……わたしを、使ってくださいませ」

 

 しんと静まりかえる広間。

 

 宗次郎の顔には苦悩が浮かび、目は泳ぎ始めた。

 選択を迫られた彼は、妙高の視線を正面から受け止めることができなかった。

 

 その視線は、どこまでも静かで、どこまでも強かったから。

 

 悩みに悩む宗次郎の脳裏に、ある言葉が甦った。

 それはまだ出会って間もないころ、妙高が彼に向けて紡いだ言葉。

 

『妙高は……若さまに“助けたくなるような人”になっていただきたく思います』

 

 心に深く刺さったその言葉が、まるで古びた軋む戸のように、閉ざされていた良心を開いた。

 妙高は彼に残った、本当に最後で唯一の、自分を大切に思ってくれている存在。

 

 目の前の現実。

 それは自分の愚かさが引き寄せた結末だ。

 

 貯えを博打に溶かし、店の金に手を出し、地盤ごと店を失った挙句に、身柄まで差し出す羽目になった。

 

 そのうえで妙高を──こんな自分を助けたいと想ってくれている彼女を賭けるなど。

 なにがあろうと、許されることではない。

 

「……妙高」

 

 絨毯に膝を落とした宗次郎は、震える手で顔を覆った。

 そして、ふいに頭をあげ、真正面から老人を見据える。

 

 

「それは、できん」

 

 

 声は弱々しくも、どこか芯があった。

 

「おれがここまで落ちぶれたのは、すべて自業自得や。自分のケツは自分で拭く。せやけど……それに妙高を巻き込むことだけはできひん。まして賭けの駒になど絶対にせえへん」

 

 老人は、にこりともせず、その細い目を鋭く細めた。

 口元は僅かにゆがみ、どこか獣めいた笑みを浮かべる。

 

「ほほう……殊勝なことを申すのう。じゃが、それがどういうことかわかっておるのか?」

 

 その声には、ぞわりとするような冷たさがあった。

 背後の黒服たちが一歩、二歩と前に出る。

 

「妙高殿の身を賭けぬとなれば、若造、おぬしの身はわしの好きにさせてもらうことになるが……よろしいのかの? それこそ裸にして、檻の中で一生見世物として飼ってやることになるかもしれんぞ?」

 

 老人はやると言えば本当にやる、そういった類の人間だというのはわかっている。

 しかし、宗次郎の目は揺るがなかった。

 

 あの頃、妙高に諭され、恥じ入りながらも真っ直ぐ家業に向き合おうとした日々。

 たとえそれが過ちで終わったとしても、そのときの自分は、確かに人として歩もうとしていた。

 

 もう一度だけ、その道を踏みしめたい。

 

 せめて、いまだけは。

 

「どうとでもしたらええ。ただ、妙高を巻き込むのは、なにがなんでも断らさせてもらう」

 

 その言葉を最後に、宗次郎は目を閉じる。

 妙高はただ黙って、その背を見つめていたが、しばらくしてその瞳からポロリと一粒の涙がこぼれた。

 

 

「ご立派になられましたね……」

 

 

 妙高はそっと目尻をぬぐいながら、宗次郎の髪に手を添えた。

 

 並んで縁側に座り、彼を労わったあの日と変わらず。

 あたたかく、優しく、誇らしげに頭をなでる。

 

「大丈夫です、あとはこの妙高にお任せ下さいませ」

 

「……妙高?」

 

 宗次郎が戸惑いの声を漏らすも、妙高はにこりと微笑む。

 そして静かに立ち上がり、机越しの老人のほうへと向き直った。

 

「……お話がございます」

 

 赤い絨毯の上を歩く足音は、重くも凛とした響きを持っていた。

 妙高は背筋を伸ばし、机の向こうの老人をまっすぐに見つめる。

 

「もしよろしければ、わたしと、勝負をしていただけませんでしょうか?」

 

 老人はその言葉を聞き、目を細める。

 

「ほほう……女中のそなたが、わしに勝負を持ちかけると申すか」

 

「はい。賭けるのは、わたし自身の身でございます。もし負けましたら、どう扱われようとも異存はございません」

 

 宗次郎が大きく目を見開き、「妙高、なにを──」と叫びかける。

 しかし妙高は静かに片手を上げて宗次郎の動きを制した。

 

「宗次郎様」

 

 妙高はその名を丁寧に呼び、ふと微笑む。

 

「どうか、最後までお聞きくださいませ」

 

 それから再び、老人に向き直る。

 

「ただし、わたしが勝ちましたら──若さまを返していただきとう存じます。無論わたしのようなものが、あなた様に勝負を持ち掛けるということが、分不相応なのは承知のうえ。ですので勝負を受けていただけるのなら、店や土地、お金などは要りません。……それよりも、若さまのほうが、何倍も、何百倍も……わたしには、大切でございますので」

 

 老人の唇が、面白げに釣り上がる。

 

「……ほほう。これはまた、風情のあることを申す女よのう」

 

「妙高! あかん、そんなこと……そんな賭けをして、万が一、負けたら……!」

 

「大丈夫でございます、若さま」

 

 妙高は静かに、そして力強く言った。

 

「わたしは……必ず、勝ちます。ですから、どうかご安心を」

 

 その目は揺らがなかった。

 

 かつて橋の下で拾われた雨の日から、長く共に過ごした年月のなかで、彼女がなにを思い、なにを信じてきたのか。

 そのすべてが、その一言に宿っていた。

 

 宗次郎は声も出せず、ただ妙高を見つめたまま、言葉を失っていた。

 

「なめられたものじゃのう……」

 

 老人は口元を歪めて笑った。

 目の奥は細く光り、まるで百戦錬磨の山猫が目の前の獲物を品定めしているかのようであった。

 

「この儂に勝負を挑むだけではなく、必ず勝つなどと啖呵を切るとは……ようよう、愉快なことじゃ。おぬし、ただの女中ではないと見えるのう……何者じゃ?」

 

 言葉とは裏腹に、その声音には余裕があった。

 己が敗れる未来など、微塵も想像しておらぬ様子である。

 

「あまり女の過去を詮索するものではございませんよ?」

 

 妙高は静かに応じる。

 目には一切の曇りがなく、不敵な笑みを浮かべたまま、老人の向かいに置かれた椅子に腰を下ろした。

 

「ふん……で、どのような勝負で決するかの? 先ほど言った手心じゃ、勝負を受けるかはともかく、内容はそちらに決めさせてやろうではないか」

 

「そうですね……」

 

 妙高は周囲の賭け道具にちらと目をやったが、牌やサイコロに馴染みはなかった。

 

「こうした遊びには明るくはございませんので……公明正大に、運にすべてを委ねたく思います」

 

 彼女はそう言って、卓の端に置かれたトランプの箱を手に取った。

 

「十枚のカードを用意していただけますでしょうか。そのうち一枚にだけ、ジョーカーを。互いに一枚ずつ引き、ジョーカーを引いた者が負け──それだけの、単純な勝負にていかがでしょう?」

 

 老人は一瞬、面食らったように眉を上げたが、すぐに「くっくっく……」と笑い出した。

 

「よい、よいぞ、それは面白い。運にすがるしかない者の発想よな。よかろう、受けて立とうではないか」

 

 彼は背後の黒服の一人に目配せをすると、その者が無言で新しいトランプの封を切る。

 そして中から十枚を抜き出し、うち一枚にジョーカーを混ぜ、無作為にシャッフルして、伏せて一列に並べた。

 

「さぁて、どちらが先に引くかの?」

 

 老人が問うと、妙高は微笑みながら言った。

 

「どうぞ、お先に」

 

「おや、それはかたじけないことじゃ。では──」

 

 先攻。

 

 それはこの手のゲームにおいて、確率的なリスクを背負う。

 だが……一方で後攻は最後のカードを引いてしまうことになった場合、負けが確定する。

 

 言ってしまえば当然のことだが、この状況下でそれが正解かどうかは──

 

 老人は指を軽く鳴らし、中央の一枚を引き上げた。

 カードの裏面をゆっくりと見つめ、表を確認し──ジョーカーではなかった。

 

 老人の口元がにやりと吊り上がる。

 

「ふむ、そちらに運はあるかな?」

 

「どうでしょう」

 

 妙高は残された九枚のうち、一番端のカードにそっと指を伸ばした。

 わずかに呼吸を整え、そして迷いなく、引く。

 

 カードは、ジョーカーではなかった。

 

「引き分けでございますね」

 

「ほほぉ……運は悪くないようじゃな」

 

 老人は、にやりとしながらも、その目にわずかな警戒の色を灯した。

 なぜならカードを引く妙高の動作に、何一つよどみや恐れがなかったからだ。

 

 それはまるで、どれがジョーカーなのかわかっているか。

 それとも、ジョーカーを引いても“構わない”というかの様子。

 

「さて……次は儂の番じゃな」

 

 老人はそんな心中を表に出すことなく身を起こす。

 

 そして静かに、まるで食卓の小鉢を一つ選ぶような気軽さで、一枚のカードを引き上げる。

 

 ──ハートの五。

 

 その顔には、勝ちを確信した者の余裕がにじんでいた。

 

「ふふふ……どうやら、天運はわしに味方しておるようじゃの」

 

 言葉の最後に小さな笑いを乗せながら、老人は絵が見えるようにして元の位置にカードを置く。

 妙高はそれに軽く会釈で応え、指先をカードの列にすべらせて、次の一枚を選ぼうとする。

 

 そのときだった。

 

「やめろ……もう、いい!」

 

 静寂を裂いて、宗次郎の声が部屋に響いた。

 妙高がカードに指をかけた瞬間、その手首をがっちりと掴んでいた。

 

「もうやめてくれ。こんな勝負……おかしいやろ、勝っても負けても、妙高が傷つくだけや。俺のためにそこまでせんでええ。……頼む、やめてくれ……!」

 

 宗次郎の声は懇願そのものだった。

 目は赤く潤み、体の震えがそのまま後悔と恐れを表していた。

 

 妙高は、ふとその顔を見て、ほんのわずかに──本当にわずかに、眉根を寄せた。

 迷いとも、心の痛みともつかぬ揺らぎが、その黒い瞳に宿った。

 

 だがそのとき。

 

「うるさ──いっ!」

 

 老人が、机を強く叩いた。

 

「始まった勝負に、賭け物の身が口を出すとは無礼千万!!」

 

 その声に応じて、背後に立っていた黒服の男たちが動いた。

 力任せに宗次郎の腕を引きはがし、妙高の手から離す。

 

 そのまま引きずられそうになる宗次郎。

 

 その瞬間だった。

 

 

「やめなさいッ!」

 

 

 雷鳴のような声が、部屋を震わせた。

 

 妙高だった。

 

 それまで一貫して穏やかな声で語ってきた彼女が、まるで別人のような怒声を放ったのだ。

 

 低く、太く、重く、まるで海峡に浮かぶ軍艦が敵艦に向けて砲撃を放つような。

 

 ──容赦のない、圧倒的な一喝。

 

「……わたしの若さまに触れるな」

 

 先ほどとは正反対の静かで、しかし重圧をにじませた声。

 その圧に黒服たちは思わず手を離し、数歩後ずさる。

 

 老人も目を見開き、まるで蛇に睨まれた蛙のように、言葉を失っていた。

 

 その一瞬、室内の空気が張り詰める。

 誰もが、妙高という存在の「底知れなさ」に気づかされた。

 

 妙高は深く息を吸い、ひとつ、咳払いをした。

 

「……失礼いたしました。まだ、"わたしの" 若さまではありませんでしたね」

 

 声色はすでに元通り、凪いだ水面のように静かだった。

 妙高はスッと背筋を伸ばし、礼を添えて言い直す。

 

「こちらの宗次郎様は、いまこの場で、あなた様と勝負の賭け物となっている方でございます。どうぞ、丁重に……手荒な真似はお控えくださいますよう、お願いいたします」

 

 その言い様は、毅然としながらも気品にあふれていた。

 圧力も怒気も含まず、ただそれだけで、命令より強く、人々の動きを縛った。

 

 宗次郎は立ちすくんでいた。

 

 恐れではない。

 目の前の妙高という存在の強さに──ただ、度肝を抜かれていた。

 

 そして、再び妙高の指先が、カードの上にすべる。

 そう、勝負はまだ続いているのだ。

 

 だが──

 

「妙高っ……!」

 

 先ほどの騒動があったというのに、それでも宗次郎は叫ぶのをやめない。

 

 その眼差しに宿るのは、怒りでも恐れでもない。

 ただ──彼女の身を案じる、深い憂いと切なる願い。

 

 か細くも確かな芯のようなものが見え隠れしていた。

 

「お願いや……もうええやろ、やめてくれ。お前まで……お前まで失いとうないんや……」

 

 肩を震わせ、絞り出すように言葉を紡ぐその姿に、妙高はそっと目を細めた。

 

「……若さま」

 

 その声音は、ふわりとした優しさの中に、艶やかな熱がにじんでいた。

 

 まるで、熱を帯びた息遣いが、言葉に溶け込んだような──

 

「そんなにも……わたしを案じてくださるのですね」

 

 儚げに微笑む唇の端が、ほんのわずかに艶やかに震える。

 

「……ふふ、それだけで……妙高は、もう、どれほど満たされてしまいますことか」

 

 その視線はどこか潤み、宗次郎の顔を見つめる眼差しの奥には、押し隠してきた渇望のようなものが垣間見える。

 

「ですが、どうかご安心くださいませ。……万が一の際には、わたくしなりの手立てがございますので」

 

「へ? て、手立て?」

 

 ぬるりと、甘やかな声音。

 

 けれど、言葉の内容は──

 

 

「はい。いざ負けたとあれば、この場も、この屋敷も、ここにいるすべての者も……わたしの手で、跡形もなく消し去ればよろしゅうございますから」

 

 

 一瞬、空気がひきつった。

 

「な、なにを……?」

 

 宗次郎が口を動かすのと同時に、室内の空気が──鈍く、重たく、緊張に満ちていく。

 

「ええ。そうすれば、勝負も、契約も、なにもかも……最初から、なかったことになりますもの」

 

 妙高は、にこりと微笑んだ。

 

 その笑みには、恐ろしさと甘美さが同居していた。

 しかしふと思い直したように、妙高は老人や黒服たちの方を見る。

 

 その表情はまるで「わざわざゲームを続けなくても、いっそ今ここで全員消した方が手間が無いかもしれない」と、そう告げるようで──

 

 

 瞬間

 

 

 妙高からほんのわずかに漏れ出した、細く心の臓を刺すような殺気と呼ばれる気配。

 それを察知した黒服の一人が反射的に懐へと手を伸ばし、銃を取り出しかけた。

 

 だが、その手が銃を掴むよりも早く。

 

「──っ!」

 

 妙高の手が、風のように動いた。

 

 証文のサインにつかわれるであろう、机に置かれていた万年筆。

 黒い漆塗りのペンが、その指先に吸い寄せられるように収まる。

 

 そしてそのキャップが親指で弾かれた刹那、鋭く閃いた光が空を裂く。

 

 放たれた弾丸のように思えるそれは、黒服がつかんでいた銃を手元から吹き飛ばした。

 

「ぐっ……!」

 

 男は呻き声をあげ、手を押さえる。

 直撃を受けた手の甲から、赤い筋がわずかに滲む。

 

 室内にいた誰もが、その一瞬の出来事に言葉を失っていた。

 

「……失礼いたしました。少しばかり、手が勝手に動いてしまいました」

 

 妙高は、涼しげな顔で微笑む。

 その声には相変わらず柔らかさがあったが、その瞳には──黒い炎が燃えていた。

 

 ──誰にも触れさせない。

 

 そんな、どろりとした情念が、微笑みの奥底から漏れ出ていた。

 

「万が一にもその無粋な道具で若さまに傷でもつけられでもしたら……わたし、なにをするか自分でもわかりませんから。どうか、ご理解いただけますと幸いです」

 

 最後の言葉は、ほんのわずかに息を含んだ甘い囁きだった。

 

 宗次郎はいままで見たことのない妙高の気配に困惑する。

 なぜか先ほどから少しずつ、いままで彼女を縛っていた鎖が引きちぎられていくように感じられる。

 

 はたしてすべての枷がなくなったとき、彼女はどんな“モノ”になってしまうのだろうか? 

 

 宗次郎だけでなく、その場にいる全てのものがどこか同じような思いを胸に抱く。

 

 そんな周りの沈黙をよそに、妙高は再び静かに席に着く。

 

 そして何事もなかったかのように、一枚カードをめくった。

 カードは、ジョーカーではなかった。

 

 あまりに自然に進んだそれに、誰もが反応できず、時が流れる。

 

 沈黙を破ったのは、妙高の目の前に座る老人──そのくぐもった、湿ったような声であった。

 

「……なるほどなるほど、ようやっと腑に落ちたわい。見目麗しき乙女とて、ただ者ではないとは思うておったが……さては、なんぞの特殊な訓練でも受けた、元軍属か、はたまた裏の世界の育ちかのぅ?」

 

 老人はゆるりと身体を揺らしながら、くつくつと笑う。

 だが、その目には侮蔑でも恐れでもない、どこか白けたような諦念が宿っていた。

 

「道理で……道理であれほど自信ありげに賭けに臨んだわけじゃな……うんうん、わかる、わかるぞ。わしも長く賭場を渡り歩いてきた身、己の手の中に確かな“力”があるという者の目は、よう知っとる」

 

 妙高は答えず、静かに微笑を湛えたまま黙していた。

 

「……じゃがなぁ」

 

 老人の声が、ふいに湿った地を這うように低くなる。

 

「わしはてっきり、その自信は“想い”ゆえのものかと思うておったのじゃ。……あの若造を救いたいという、純朴で、清き信念……そういったものが支えておるのかと、少しばかり感服すらしておった。……じゃが、しょせんはそんなものか──」

 

 どこか失望をにじませながら、老人は手元の鈴を手に取り、軽く振る。

 

 鈍く鈴が鳴った。

 

 チリン──。

 

 小さな音が、あまりにも不穏だった。

 

 直後、部屋の奥にあった重々しい扉が静かに開かれた。

 

 現れたのは、黒一色の装束に身を包み、顔の一部を戦術マスクで覆った十数人の傭兵たち。

 そして彼らの身にまとう装備は、明らかに普通のそれではない。

 

 強化装甲服、近接戦闘用ブレード、グレネード類、重火器──。

 

 身に着けているどれも本物であり、彼らの全身が暴力の塊そのものだった。

 

 宗次郎が思わず小さく息を呑む。

 

「紹介しようかの」

 

 老人が誇らしげに目を細める。

 

「彼奴らはな、自由都市『(くれ)』に根を張る、世界最強と名高いの傭兵集団の面々じゃ。まさか京都の片隅にまで呼び寄せるとは思わなかったじゃろうが……これもわしの“たしなみ”というものでな。ほれ……賭けに負けてなかったことにしようとする者も、少なくないからのぅ?」

 

※自由都市『呉』

 永遠の深青作戦(Operation Eternal deep blue)に出撃した『戦狂少佐提督』の帰りを待ち続けていた艦娘や、呉の陸戦隊と呼ばれた兵士たちによって、呉鎮守府の跡地に創設された都市。

 長きにわたり国家や艦連からの干渉を拒み続けており、独自の政治形態や軍事力などを持つ。

 

 老人は茶を啜るように間を取り、ゆるりとした口調を続ける。

 

「さて、女中よ。おぬしがどれほど凄腕であれ、単独でこやつらを相手にして勝てるなどとは、夢にも思っておらんじゃろう? ましてや、この館で、わしを始末し、証拠隠滅までなすなど……はてさて、いかに?」

 

 傭兵たちは無言のまま周囲に展開し、静かに銃口を下ろした状態で警戒を強めている。

 いつでも即応できる構えだった。

 

 だが、妙高はその様子を一瞥しただけで──

 

「……いえ、可能です」

 

 ──あっさりと、そう言い放った。

 

 空気が凍った。

 

 宗次郎が思わず彼女の横顔を振り仰ぐ。

 

 あまりに平然と、まるで「庭の草を刈る」程度の気軽さで。

 世界最強の傭兵相手に「可能」と言い切った、そのことに。

 

「おやおや……」

 

 老人が目を細める。

 

「おぬし、どうやら己を“少々”買いかぶっておるようじゃな……?」

 

 だが、妙高はその挑発にも動じない。

 それどころか、にこやかな笑みのまま、まっすぐ老人の目を見据えて言った。

 

「いいえ、これ以上ないほど適正に見積もっているつもりです。ですが──そう感じられたのならそれは、わたしにとって、若さまはそれだけの価値があるというだけのこと。命も、この身も、惜しくはありません。たとえこの場が修羅と化そうとも、なにひとつ、後悔することなど、ございませんので」

 

 その瞳には狂気の光ではなく、ただ一つの純粋な意志。

 それも、とびきり執着に満ちた情熱の炎が、深く、妖しく燃えていた。

 

 宗次郎はその言葉に、胸の奥を何か強く掴まれたような感覚に襲われる。

 

 その想いが、愛なのか、それとももっと深く重たいものなのか。

 いままで見たことのない妙高の様子に、彼自身にもまだわかっていなかった。

 

 が──

 

 妙高の背中が、まるで巨大なものに見えた。

 

 華奢な女性の姿をしていながら、その身にまとった圧倒的な存在感。

 それは軍艦の如く、冷徹で強靭、そして揺るがぬ信念の証であった。

 

 老人は、再び茶を一口すすると、気だるげに言った。

 

「ふん、虚勢だったとしても、そこまで言い切れるならそれもまた事実となる、か……。のう、妙高とやら。いまさらじゃが、ほんに……手強き女じゃて」

 

 静まり返った空気の中、老人がゆるりと茶碗を置いた。

 

「……して」

 

 その声に呼応するように、傭兵たちが一斉に身構える。

 だがその動きには、先ほどまでの張り詰めた緊張感と、どこか違和感があった。

 

「貴様ら……どうにも、随分と甘く見られておるようじゃがの」

 

 老人は小さく笑みを浮かべ、視線をゆっくりと傭兵たちへ向ける。

 

「その辺、どう思う? ん? 世界最強の傭兵団の面目、保てそうかのう?」

 

 だが、返ってきたのは力強い返事ではなかった。

 

 傭兵たちの中でただ一人、素顔を露出している男。

 傷だらけの顔にスカーフを巻いた、隊長格と思しき存在。

 

 その男が妙高になにか言おうと一歩前に出ようとして──その足が、ピタリと止まる。

 

「……っ」

 

 傭兵隊長である男の顔から血の気が引いていた。

 

 濃いヒゲの下の顎が、わずかに上下するたび、歯がきつく噛み締められる。

 そして冷や汗が額から、頬を伝い、首筋を濡らしていた。

 

 周囲の隊員たちも同様だった。

 

 緊張ではない。

 

 明らかに「恐怖」に支配された、歴戦の傭兵としてあるまじき反応。

 

「……妙高……っ……」

 

 男がぽつりと呟いた。

 

「なんで……なんでこんなところに……」

 

 その声は震えていた。

 まるで過去の悪夢を思い出したかのように。

 

「……は?」

 

 老人が眉をひそめる。

 

 妙高は相変わらず微笑を浮かべたまま、彼らの様子を眺めていた。

 

「──時を翔ける妙高」

 

 隊長の男は、ほとんど唸るように繰り返した。

 

「……艦娘……間違いない……! あの、妙高姉妹ッ!! 伝説の……艦娘の傭兵姉妹ッ!?」

 

 男の声は次第に大きくなりながらも、恐怖に満ちていた。

 

「おまけに……妙高だと!? 帝国の一個機甲師団相手に、たった一人で七日間戦線を維持し続けた、あの化け物……! 俺たちが……いくら訓練されてようと、いくら装備が整ってようと……」

 

 傭兵隊長は振り返って老人を見る。

 

「……あれは軍艦の化身だぞ……こっちは歩兵の一個小隊。相手になるわけねえだろうがッ……!」

 

 その言葉に、部屋の空気がさらに張り詰める。

 

 宗次郎は思わず声を漏らした。

 

「え……?」

 

 そして、老人もまた、茶碗を手から落としそうになりながら、目を丸くして呟いた。

 

「えぇ……?」

 

 その二人の戸惑いをよそに、妙高はにこやかに、まるで近所の道端で出会った顔見知りに話しかけるような口調で、隊長に声をかけた。

 

「まぁまぁ。どこかの戦場でお目にかかったこと、ありましたかしら? あら、その装備と紋章(エンブレム)はもしかしてあのときの、シリグリ回廊*1で夕立さん*2の無茶な突撃を後ろから援護していた方たちでしょうか……? ふふ、違っていたらごめんなさいね」

 

 その声音は穏やかで、上品で、なにより“いつも通り”だった。

 

 だが、それがむしろ恐ろしかった。

 

 呉の傭兵たちは、妙高の一挙手一投足に敏感に反応し、誰もが微動だにできないでいた。

 

 広間にはおおよそ人間離れした者たちが何人もいた。

 

 老人は恐ろしい天運を身にまとい、権力者や金持ちたちを地獄に突き落としてきた。

 黒服たちは様々な敵から老人を守り、それだけでなくあらゆる裏の仕事を遂行してきた。

 そしてその筋で世界最強と称えられる「力」の象徴ともいえる傭兵たち。

 

 彼らすべては、人とは思えない所業を行ってきた存在だった。

 

 が、それでも彼らは人間だった。

 

 ──この場において、最も“人間らしくない”存在は、他でもない、女中の姿をした彼女だった。

 

 

 

 部屋の空気は沈黙と緊張に満ちていた。

 

 その中で、妙高の微笑みだけが変わらず、まるでこの世のすべての騒ぎが無縁であるかのように、静かにそこに在った。

 

 老人はややうつむき気味に、唇をぴくりと震わせると、ぽつりと呟いた。

 

「……無理かの?」

 

 その問いかけは、かつての威厳に満ちた声音とは似ても似つかぬほどにか細い。

 それこそ金も力も失った、他者に縋るような声だった。

 

 傭兵隊長は顔を引きつらせたまま、かすれた声で返す。

 

「……無理……無理だ……時を翔ける異名の……通りなら……あんたの……茶碗が床に落ちる前に……ここにいる全員の首を切り離せる……そもそも重巡洋艦の艦娘だぞ……要塞砲でもないと傷すらつけられん……アホが……なんで……なんでこんな化け物怒らせた……」

 

 怒らせた。

 

 そう、妙高はずっと怒っていた。

 

 宗次郎を追い込んだ存在に対してだけではない。

 

 漬物屋の経営がうまくいかず苦しむ宗次郎。

 戦いしかしてこなかったせいか、その助けになれなかった自分自身に。

 

 誰もが見捨てた彼を、自分だけが支えている。

 そんな状態を悪くないと思ってしまった自分自身に。

 

 そして、追い詰められてなお、自分の身を案じてくれた宗次郎。

 絶望や恐怖に震えながらも輝く信念と魂を失わなかった宗次郎。

 

 そんな愛しい愛しい宗次郎を“自分のもの”にすることができるかもしれない。

 

 それを目の前にして、喜びを抑えられない自分自身に。

 

 ──怒っていた。

 

 

「さぁ……続きを」

 

 

 歓喜、破壊衝動、自己嫌悪、恍惚、憤怒。

 ありとあらゆる感情が濃く混ぜ込まれた声色と表情の妙高が、続きを促す。

 

 その黒い情動を感じとった老人と傭兵たちの脳裏に、ある旋律が静かに流れ始める。

 

 ──ベートーヴェンの「交響曲第九番」

 

 荘厳にして崇高な、しかしこの場にはあまりに不釣り合いなその音楽。

 だがその滝のように押し寄せる音の波が、奇妙なほどに馴染んでいた。

 

 まるで、自分たちの人生の幕が、いま、音を立てて下ろされようとしているかのように。

 

「……やれやれ。まあのう……たとえそうであったとしても、ここで勝負を降りるわけにはいかんわい」

 

 老人はそう口にすると、一拍置いて、すっと背筋を伸ばした。

 その動作には、不思議なほどの気品と覚悟が漂っている。

 

 ──この老人、やはり只者ではない。

 

 幾多の修羅場を潜り抜けてきたその人生は、脅されて口を閉じるようなものではなかった。

 

 老人は伏せられた残りのカードの一枚に、すっと手を伸ばす。

 そして一呼吸置き、カードをめくった。

 

 現れたのは、黒い道化師の絵──ジョーカー。

 

「……ふむ。わしの、負けじゃな」

 

 だが同時に、無意味な死に方もしないだけの“切り替え”の早さも持っていた。

 

 じつのところ老人は初めから、そのカードの在処を知っていた。

 

 それは細工された一枚。

 この場にあるありとあらゆる道具には、勝つための細工が施されていた。

 

 だが今回その細工は、勝負に勝つためではなく、命を守るための最終手段となった。

 

 当たり前の話だ。

 どんなに多くの財を積もうと、命を落とせば終わりなのだから。

 

「それでは妙高殿、賭けの品を連れて早う出ていってくれ……あ、いや……」

 

 一瞬、声を詰まらせたあと、老人はゆっくりと頭を下げた。

 

「……どうか、出ていってくださいませ……」

 

 その声には、諦めと、どこかしらの清々しさすらあった。

 

「承知いたしました」

 

 妙高はその様子をみて、すっと感情を呑み込むように了承する。

 それはどこか、老人に対する一種の敬意を感じさせた。

 

 そしていまだ混乱し、目を白黒させている宗次郎の腕を取り、そのまま出口の扉へと向かう。

 

「さ、参りましょうか、若さま。あまり長居しても仕方ありませんし」

 

「えっ、えっ……あの……妙高? あの、いまのってぇ──」

 

「言ったではありませんか、妙高は必ず勝つと」

 

 何事もなかったように歩を進める妙高。

 宗次郎は完全に振り回される格好で、彼女に引きずられていく。

 

 残された老人は、静かに立ち尽くしていた。

 

 目の前に広がる、乱れたカードと散らばる小物たち。

 そして、傭兵たちの緊張した沈黙。

 

 やがて傭兵隊長がその沈黙を破るように老人に話しかけた。

 

「……誇っていい、あんたはこの場にいる誰よりも冷静に、最良の判断を最速で下した。おかげで俺たちみんなこうして生きてる……感謝するよ」

 

 その通りだと、周りにいた傭兵たち全員。

 そして黒服たちも老人を口々に称賛し、感謝を述べる。

 

「ああ……いいんじゃよ」

 

 力なく彼らの称賛を受け取りながら、老人はため息をもらす。 

 

「しかし……美しいものには棘がある、とはよう言うたもんじゃが……」

 

 その棘は、可憐なバラのものではなかった。

 

 あの女には、棘どころか──

 

「軍艦の砲が、付いとったわ……」

 

 ため息とともに、老人は小さく肩を竦める。

 

「あんなもん、誰が手に負えるんじゃ……」

 

 うなだれるように目を閉じ、再び目を開ける。

 そこには妙高に連れられ去っていく宗次郎の後ろ姿があった。

 

 それはまるで、己の敗北を象徴するような光景。

 

 だが不思議と、悔しさはなかった。

 なぜか羨ましいとも思えなかった。

 

 ただ──

 

「……ええ女やったなぁ……ほんま……」

 

 どこか遠い目をしながら、老人は静かに呟いた。

 

 そして、カードの山に視線を落とし──ふと、笑った。

 

「ま、これも一興かの……」

 

 屋敷には、しばし静寂が戻った。

 まるで、ひとつの戦争が終わった後のように。

 

 

 

 夕暮れの光が、町の石畳に長く影を落としていた。

 

 かつて宗次郎の家だった漬物屋は、もう彼のものではない。

 

 勝負は勝負、賭けは賭け。

 

 たとえ力でなにもかもをひっくり返せたとしても。

 自分であるために通さなければならない筋というものがある。

 

 それに悪評というほどではないが、もう宗次郎はこの街で商売はできない。

 たとえ再建できても、面子や体面を重視するこの街では、同じことの繰り返しとなるだろう。

 

 取り戻せるものも、戻らないものもある。

 

 けれどいま、二人の足元には確かに新しい道が続いていた。

 

「さて、と」

 

 妙高が取り外した店の看板を風呂敷で包む。

 そして少しだけ重くなった荷を担ぎ直すと、振り返って宗次郎に笑いかけた。

 

「このまま京都にいても居場所はありませんし、しばらく遠くに行きましょう。『艦夢守市』という街をご存じですか?」

 

「聞いたことはあるけど、ようは知らんな……」

 

「ふふ、でしょうね。少し特殊な街なんです。でも、“いまのわたしたち”にとっては都より住みよい場所なんですよ。いろいろ、伝手もありますし」

 

「……そこで、また店でもやるん?」

 

「はい。できれば、また漬物屋を。いえ、若さまが望まれるのなら、なんであろうとお手伝いさせていただきます」

 

 妙高は微笑みながら、まるで春風に包まれるような声で言った。

 

 宗次郎はまだどこか呆けたような顔をしていたが、やがて小さく息を吐くと、肩の力を抜いた。

 

「……なんや、まだ夢見とるみたいやわ」

 

「現実です♪」

 

「……そうか。ほな、現実として受け入れるわ」

 

 少し笑って、宗次郎は妙高の方を見た。

 

「そもそも俺の身は……もう妙高のもんやしなぁ」

 

 その言葉に、妙高の顔がぱあっと花が咲くように明るくなる。

 

「はいっ!」

 

 歳にそぐわぬ、少女のような笑顔だった。

 無垢で、嬉しさが抑えきれず、表情から零れ落ちそうなほどだった。

 

 そのあまりの嬉しげな様子に、宗次郎は思わず吹き出す。

 

「……なぁ、ところでや。妙高、お前……いま、いくつなん?」

 

 妙高はぴたりと立ち止まり、ふり返る。

 薄暮の光の中で、艶のある黒髪が風に揺れた。

 

 一瞬だけ表情が無になり、目が細くなる。

 

 その姿に、宗次郎は小さく身をすくめる。

 

 だが、すぐに妙高は微笑んだ。

 それは、どこか小悪魔めいた、年齢不詳の女の笑み。

 

「──いくつに、見えます?」

 

「うわ、いっちゃん面倒くさい返し方しよった……」

 

「ふふふ。正直に申せば、おそらく若さまの想像より……ずっと、長く生きております。ですがわたしたちにとって年齢は、自身が“どうありたいか”を左右する要素には大してなりません。いまのわたしは──」

 

 妙高はそっと、宗次郎の手を握る。

 

「いまのわたしは、若さまの“女中”で、若さまの“持ち主”……なにより、提督(あなた)の“妙高”になりたいと願っている者でございます」

 

 その言葉に、宗次郎は不思議となにも言い返せなかった。

 

 艦娘がなんなのか、彼女の言う“妙高”というのがなんなのかはわからない。

 しかし、それがなんであれ、悪いようにはならないという信頼が彼にはあった。

 

 だから宗次郎は、ただ静かにうなずいて、手を握り返す。

 

 そうして、二人はまた歩き出した。

 

 ──向かう先は、どんなところかもわからぬ街。

 ──けれど、その先には、確かに新しい暮らしが待っていた。

 

 

*1
・インドにある回廊地帯の名前

*2
・参照『あるじ』と『駆逐艦:夕立』




 
傭兵部隊の隊長は、足柄さんの話で出てきた人たちです。
無職男と絡みがあるのは、その息子なります。
家督は息子に渡してますが、本人はまだまだ現役(その結果が……)

そしてついに艦夢守市に妙高型が集結。
喧嘩別れというわけじゃないけど、また姉妹みんなで仲良くやってほしい。
 
 
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