あの時代、見上げれば深海棲艦に奪われた赤い空
そして、それに挑んだ力強き翼たちの姿があった
クールボーイ僕、最終回
※ほかの話で登場した提督や艦娘が多数登場し、別の話で出てきた内容や設定もドバドバでてきますので、未読の方はご注意ください。
この世界は……とても平等で残酷だ。
強い人も弱い人も、どんな人間でも同じ。
生きてる限り、いつか必ず死んじゃうから。
僕が生きているのは、そんな世界。
どうして生きてるのかな?
だって世界にはこんなにも沢山の人がいるけど。
いまの僕にはなんの意味もない。
それは一番大切な人が、もういないから。
息をするのも、立っていることもつらい。
悲しくて辛くて、ずっと考えてる。
自分はなんのために生きてるんだろうって。
でも、どれだけ悩んでも、どれだけ考えても。
……わからないんだ。
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『……あれだけいた艦娘たちが、もう君だけになってしまったね』
『はい。
『
『……これが最後だからかもしれません』
その“夢”の中で僕は、遠くで燃えている海沿いの施設を眺めていた。
後ろでは誰かが喋っていて……女の子の声。
だけど僕じゃない僕は振り向かず、しばらく燃える施設をじっと見ていた。
『……そろそろ行こうか、虎瀬さんを待たせちゃ悪いから。それに……人類の
『はい。最後まで……その先だろうとお供します、提督』
『最後の先って……さすがにそれは無理なんじゃないかな。死んじゃったらお互いもういなくなるわけだし』
『いいえ。魂は巡り運命を刻みます、私たちという存在がそれを証明している。だから、なにがあろうと、例え僅かな時間離ればなれになったとしても……この先も、ずっとずっと一緒です』
強い意志が籠もった、まっすぐな言葉。
僕じゃない僕は、それを聞いて心に灯がともるような気がする。
『うん、そう……そうだね』
振り返ると、そこには背の低い黒髪の女の子の姿。
まっすぐこっちを見つめてくる、その綺麗な瞳にはどこか見覚えがあった。
そう、たしかこの艦娘は ───
「……どうかした?」
「なにが?」
「私の名前を呼んだでしょ?」
「……特に呼んだ自覚はないんだけど……寝言かな。夢で君を見たのかもね」
「──……ふーん」
目を覚ますと、当然のように僕の枕元に座ってこちらを見ている
肩まで伸びた黒い髪に、僕くらいの小柄な体。
華奢というより、しなやかで細い筋肉が夏服の間から見えた。
この子は大鳳という名前の、正規空母の艦娘。
そして恐らく多分、僕の艦娘のはず……メイビー。
艦娘変わりの最中のせいか、夢の中の姿とは少し違うけど。
まっすぐで綺麗な瞳は、夢で見たままだった。
「今日も来たんだ」
「ええ、あなたには沢山の艦娘がいるけれど、私にはあなただけだから」
「そうか……そうだったね。調子はどう?」
彼女は少し特殊で、普通は長くても一年くらいで終わる艦娘変わりがまだ終わっていない。
そのせいか、体調や精神が少し不安定になってしまうことがあるみたい。
「あなたを見ているわ」
「そういうことを聞いたんじゃないんだけどな……」
僕は目を擦りながらゆっくり立ち上がり、洗面所に向かう。
大鳳さんは当然のようについてくるけど、僕はなにも言わない。
もう慣れてしまったから。
顔を洗って歯を磨き、服を着替える。
さすがに大鳳さんには洗面所の外で待っててもらう。
着替え終わって、朝食を食べるために居間に向かう途中。
縁側を通ると、朝なのに外はもう暑そうで、蝉が鳴いていた。
ふと、思い出が湧き上がりそうになったけど、頭を振って止める。
居間には二人分の朝食が置かれていて、僕は座ってそれを食べる。
大鳳さんも当然のように座って食べ始める。
お米、お味噌汁、漬け物、卵焼き、焼き魚、のり、きんぴらごぼう。
簡単そうで、それなりに手間がかかる和食の料理。
きっと蒼ねえちゃんが用意してくれたんだと思う。
もしかしたら赤城さんか加賀さん、それか翔鶴さんか瑞鶴さんかもしれないけど。
忙しい中、僕の世話を陰ながら焼いてくれるお姉さんたち。
そして僕の『なるべく一人にしてほしい』というわがままな“命令”を、きちんと守ってくれる艦娘たち。
「醤油とって」
「……はい」
命令しても、無視しちゃう娘もいるけど。
むしろ命令されちゃった。
僕の艦娘だと言ってくれた彼女たちの中で、ただ一人僕の命令を聞かない大鳳さん。
なにをお願いしても、どう命令しても「はい」とも「いいえ」とも言わない。
無愛想に、表情を一切変えず、ただ僕の側にいようとする。
変なの、艦娘変わりの最中だからかな。
最初は大鳳さんをなんとかしようと、蒼ねえちゃんが頑張ってくれた。
でも大鳳さんはなにを言われてもなにをされても、気がつけばしれっと僕の傍にいた。
最終的には僕の方が先に根負けしてしまって、いまは好きにしてもらってる。
蒼ねえちゃん以外の人たちも、色々思うところはあったみたいだけど。
僕を一人にしとくよりはマシだと渋々納得したみたいだった。
食べ終わった後、食器を水につけて登校の準備。
その間、大鳳さんは変わらずこっちをじっと見つめている。
はずかしいから控えてと何度か言ったんだけど、効果は無かった。
そんなわけで、今日も僕はランドセルを背負って大鳳さんと学校に行く。
靴を履いて玄関を開け、誰もいない家に向かって声を掛ける。
「いってきます」
返事はなかった、あたりまえだけど。
なにも考えず、歩き出す僕。
その後ろをついてくる大鳳さん。
「もうすぐおばあさまの一周忌よ」
……突然、そう声を掛けられる。
僕はそれに「そうだね」と、短く返事をする。
準備とかは全部蒼ねえちゃんがやってくれる。
僕にはなにもできないから。
そう返すしかない。
あの日からもう一年がたとうとしている。
おばあちゃんが目を覚まさなかったあの日から。
あれ以来、僕の日々は悲しくてただ辛いだけになってしまった。
なにもせずに、ずっと家に居たいけど。
そうすると周りの人たちに迷惑が掛かってしまうから、平気なふりをする。
われながら、うまいことやれてる、はずだ。
だけど、ふとした瞬間。
おばあちゃんとの楽しかった思い出がよみがえることがある。
眠る前に縁側でおばあちゃんが話してくれた艦娘のこと。
そしておばあちゃんのお母さんの天城さんのことや、お父さんやお母さんのこと。
僕はおばあちゃんの話を聞くことが好きだった。
かけがえのない、おばあちゃんとの思い出。
でも、それが毎日僕を苦しめる。
もうおばあちゃんは、この世のどこを探してもいないから。
おばあちゃんに会うには、思い出にすがるしかないから。
湧き上がる思い出は、とてもあたたかいけど。
湧き上がる思い出は、痛いほど胸を締め付ける。
『考えても、悩んでも、笑っても無関心に時間は進む。だから辛かった過去を思い出にして、男がいなくなった現実も受け入れて、前を向く方が建設的……確かにそうだな!! だがそう簡単に割り切れるものではない!! 誰もが男を過去のものにして忘れることができるように、誰もが前に進めるわけじゃない、誰も、彼もが!!』
グラーフさんが言ったことの意味が、いまの僕にはよくわかる。
グラーフさんが、どうしてあんなに悲しそうに叫んでいたのか。
グラーフさんが、どうしてどこか壊れたように叫んでいたのか。
いまの僕にはよくわかる。
── 僕もきっと、どこかがおかしくなっている。
■□■□■
「──このように人類の文明は対深海棲艦戦争の影響で大きく衰退し、特に科学技術などは深海棲艦の残した『赤界粒子』に代表される爪痕などによって、未だ当時の水準に戻っていないのが現状です。
赤界粒子については先週授業で話しましたが、復習も兼ねてもう一度説明しますね。
赤界粒子とは深海棲艦が陸海空含め、世界を侵食するために使用した環境を変えてしまう粒子です。この粒子の濃度が一定以上になって汚染された場所は『赤界』と呼ばれ、人が住めない……より正確に言うと、生存ができないような空間に作り替えられてしまいます。赤界中で生存できるのは深海棲艦と、それに対抗できる艦娘、そしてその加護を受けた提督適性者だけです。
しかもこの赤界粒子は深海棲艦が滅んだ後も残り続け、おまけに散布する自律兵器も戦後長らく稼働し続けていました。
ですが艦連……艦娘さんたちの長年の努力により、既に残存した兵器のほとんどは破壊されています。
しかしこの兵器は不発弾のように発見されず、いつ再稼働するかわからない状態で海中などに残り続けているものもあって、いまでも度々被害が出ているのはニュースで見ますよね。
この自律兵器の撲滅は、ある意味人類の悲願とも言えるでしょう。
またこの粒子は電子になにかしらの影響を与えるらしく、赤界の中だと戦史前文明の科学技術はほぼ使用不可能になりました。
そしてこの赤界粒子は完全除去が難しく、現在でも薄く空気中を漂っていて、簡単な機械程度なら動かせるようになったものの、高度で精密な機械などについては影響が強く出てしまい、正常に稼働させる技術はいまだ研究段階で実用には至っていません。
正確には無くはありませんが、こういったものに赤界粒子対策を施すのは、よほど重要なものでも無い限り費用に見合わず。素材などの面からみても量産が不可能となっています。
そして地表から十キロ以上の高さにある成層圏という場所には、高密度の赤界粒子が現在でも漂っており、その高度から現実的な除去の方法がなく、宇宙開発に関してはまったくといいほど進んでいません。
また地上の場合と違い、赤界粒子の密度が濃いにもかかわらず、空が常に赤色に見えない原因はいまのところわかっていませんね。
このように赤界粒子に代表される戦争の傷跡によって、人類は未だに戦史時代前の科学技術レベルに到達できていないのが現状です」
午前中最後の授業。
中学受験の希望者向け授業なので、難しくて所々わからない部分もあるけど、先生がなるべく補足してくれるので、全くわからないわけじゃない。
でも難しいのには変わりないから、後から読み返せるようにノートをしっかりとる。
集中していれば、なにも考えずにすむから。
「ですがその一方で、戦時中には明石様や夕張様が生き残った技術者たちと、妖精さん由来の技術を開発し、当時の技術水準以上の発明も数多く生み出しました。
例えば小型の深海棲艦とでも人間が戦えるようにするための強化外骨格スーツや、体の一部を機械に置き換えるサイボーグ技術。
これらは悪用されないよう、戦後は艦連によって管理され一般には通常出回っていません。
ですが皆さんの生活になじみのある発明もあって、物流の一翼を担っている、普通の飛行機よりも遙かに大きな特殊大型飛行艇などは現在でも普通に利用されています。ですがこの特殊大型飛行艇、元は機内で空母の艦娘を浮かべて艦載機を射出し、超高度から制空権を確保する目的で開発されたと言われていて──」
「先生質問です。
一区切りついたあと、先生が「なにか質問はありませんか?」と聞いたので、友達の健太くんが手を挙げて質問する。
どうやら将来は艦連軍に入りたいらしくて、最近は真面目に勉強するようになった。
「はい健太くん、いい質問ですね。先生も補足が甘かったかもしれません。」
先生はそう言ったあと、咳払いしてからまた話し始める。
「
これは艦娘さんが建造と呼ばれる方法で産まれていた時代に、一緒に生成される『艦桶』と呼ばれる箱のようなものを利用して作られたそうです。
そして使用目的ですが……幾つかありますが、一番の目的は未来に希望を残すためだったと言われています」
「希望?」
健太くんの疑問の言葉に、先生は「はいそうです、希望です」と返して話を続ける。
「深海棲艦との戦争で人類が敗れた場合、誰にも見つからないような
ですが……そうはならなかった。それは他でもない、艦娘さんたちのおかげです。ですので皆さんは、彼女たちへの敬意を、なにがあっても忘れないようにしましょうね……では、今日の授業はここまでにします」
チャイムが鳴り、授業が終わる。
みんなは校庭で遊ぶために外に出ていったり、教室で話をしている。
僕も昔なら健太くんと遊んだりすることも多かったんだけど、最近は健太くん塾に行ってるらしくて、あまりそういうこともなくなってしまった。
まあ、僕の側にいつも大鳳さんがいるから、遠慮してるのかもしれないけど。
あの日から同じクラスになった大鳳さん。
彼女はいつも僕の傍や後ろにいて、いまもじっと僕を見ている。
最初はちょっと思うところもあったけど、もう慣れてしまった。
言い方はよくないけど、正直いまの僕にはどうでもいいことだったから。
「空木くん、ちょっといいかしら?」
「はい、なんでしょうか?」
帰る準備をしていたら、先生に声をかけられた。
ちなみに『
「一年前、私たちを助けてくださった方の一人が、最近目を覚まされたのは知ってるわよね? 実はクラスでその方のお見舞いに行こうって話が出ていたの。でもまだリハビリの最中ということで先延ばしにしてたんだけど、先方さんから一人なら構わないって連絡をもらえたみたいでね。クラスとしては、いずれきちんとした場でお礼をすることになると思うのだけど。まずは代表して空木くんにお願いできないかしら?」
僕たちは校外学習の帰りにバスの事故にあって、本当に危ないところだったみたい。
でも、その時に重傷をおいながらも、助けてくれた二人の人がいた。
事故の三ヶ月後くらいに、クラスでその人達のお見舞いに行ってお礼をしたんだけど。
その時は一人だけで、もう一人の人は昏睡状態という、目を覚まさない状態だったらしい。
でも最近回復して目を覚ましたって、この前ニュースになってた。
だけど、どうして僕なのかな?
なにか予定があるわけじゃないから、別に行くのが嫌というわけじゃないんだけど。
「あの……どうして僕なんですか?」
「じつはね、その方……提督適性者みたいなの。他の子だと失礼な態度や、不躾な質問をしてしまったりするかもしれないから……同じ提督適性者の空木くんなら、先生安心できるのだけど」
なるほど、そういう理由ならなんとなくわかる。
僕も提督適性者免許をとったときは、学校の人たちから色々と聞かれたから。
まあ、あの日からずっと後ろにいる大鳳さんが「なにかあるなら私に聞きなさいよ」と、冷たく言い放ってしまったので、段々そういうことも減っていったけど。
「そういうことなら、わかりました」
善は急げというわけではないんだろうけど、今日の授業が午前中で終わりということもあって、その日のうちにあれよあれよという間に、その人が入院してる病院に行くことになった。
病院は赤城さんの『南雲病院』だったので、迎えにはわざわざ赤城さんが来てくれるみたい。
なんだかとても急である。
でも僕以外の提督適性者か。
どんな艦娘さんの提督なんだろうか?
僕以外の提督適性者さんに会うのは初めてだから、少し興味が湧いた。
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分厚い装甲でおおわれた車の中に、僕じゃない僕と大鳳さんはいた。
その周りには、僕たちを守る為に同乗している強そうな兵隊さん達の姿。
僕じゃない僕は、彼らが『呉の陸戦隊』と呼ばれる、人類で最も強い戦闘部隊だと知っている。
虎瀬提督に忠誠を誓った、小型の深海棲艦を倒すために生まれた兵士たち。
人体の強化や改造を行い、人でありながら一個の兵器になった存在。
そんな怖い人たちに、警護のためとはいえじっと見続けられてた僕は、少し居心地が悪くなる。
なので気をそらすため、特に深い考えがあるわけじゃない質問を大鳳さんにした。
『どうして僕だったんだろうね?』
少し意地悪な内容で、意地悪な聞き方をしてしまったなと思う。
『呉鎮守府まではまだ距離があります。ですので疑問があるならもう少し時間をかけて、具体的に説明してください、提督』
ふわっとしすぎていたせいか、大鳳さんは少し困ったように僕にそう言った。
僕は『ごめんごめん』と、前置きをして質問を補足する。
『他にも提督はいた。でもどうして生かされたのが僕だったのかなって』
『ああ、それは上堂薗提督には、最終的に航空戦力というものが戦争の勝敗を左右する。つまりあなたがいつか必ず深海棲艦を食い破る牙になる。そういった予測と確信があったからだと思います』
『うーん、でも竜崎さんみたいに僕よりも空母の運用がうまい提督は当時もいたし、あとからいくらでも生まれたと思うけど?』
『確かに戦争開始から数十年、提督の適性を持つ人たちは数多く見つかりました。ですが、提督……あなたより、空母の“艦種適性値”が高い提督はただの一人もいませんでした。それどころか……一期提督より艦種適性値の平均が高い提督すら見つかっていません』
(※艦種適性値:提督が生まれ持って備えている、艦娘の艦種ごとの運用能力を数値化したもの。
例としては、駆逐艦の適性値が1の提督と10の提督がいた場合、同じ個体の駆逐艦の艦娘でも、適性値が高い提督の指揮下に入ったときのほうが、性能が大きく向上する。
また、この数値が一定値を超えると特殊技能などが発動する。
ただし数値は先天的に決まっていて、後天的な要素で変動することはない)
(※一期提督:世界で最初の提督である海軍元帥、そのあとに発見された十人の提督たちのこと。各鎮守府に配属されてから約四年で、十人の提督の半分が戦死したとされていた)
『思えば現在の劣勢は、一期の提督たちを多く失った時点ですでに確定していました。ですが、だからこそ……あなたの存在はこの局面においてなによりも強い。それは提督が眠りにつく前からずっと今日まで側にいた私が保証しますよ』
ドヤッっとした様子でそう断言する大鳳さん。
でも僕には、それ以外の理由があるように思えた。
なぜなら──
『聞いといてなんだけどさ、多分それが一番の理由じゃないと思うんだ。まず前提として、僕を生かすことを決断したのは、上堂薗提督じゃなくて野原提督だったと思う』
大鳳さんはそんな後出しの情報を……と言いたげな表情をしつつも、あの提督であればあり得るかも……みたいな複雑な表情をする。
恐らく大きな体を揺らしながらウッシッシと胡散臭そうに笑う、あの人の姿を思い出したのだろう。
どんなときでも濁った目で世界を見ていた、あの提督のことを。
『そして野原提督と話したとき感じたんだ……あの人はなにかを償おうとしてた。だからきっと、僕が生かされた一番の理由は……きっと僕が子供だったからだよ』
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「──……とく、提督。起きてください提督」
目を覚ますと、目の前に赤城さんがいた。
どうやら送迎の車の中で眠ってしまっていたらしい。
赤城さんは僕の肩を、壊れ物でも扱うかのように揺らす。
「……赤鬼先生、ありがとうございます」
自分でもビックリするような硬い声で、艦娘では無い方の赤城さんの名前を呼ぶ。
赤城さんはとてもつらそうな表情を浮かべて、僕から離れる。
あの日以来、赤城さんは弱くなってしまった。
おばあちゃんを助けられなかったと思い込んでいる、あの日以来。
ずっと、ずっと僕に謝り続け、罪を償うようにほかの人たちを救い続けている。
誰も赤城さんを責めないのに。
赤城さんはなにも悪くないのに。
だけど赤城さんだけが自分を責め続けている。
そんな姿を見てられなかった木曾さんは、頭を下げて僕にお願いした。
赤城さんに罰を与えてくれと。
そうじゃないと、赤城さんは壊れてしまうかもしれないから。
だから僕は、赤城さんに冷たく接した。
僕にはそれが正しいことかはわからない。
きっと誰にも分らない。
車から降りると、大鳳さんが退屈そうに病院の屋上を見上げていた。
なぜかその姿が、自分と重なる。
おばあちゃんがいなくなってから、僕もあんな感じによくなる
突然いなくなった人を探してしまうのだ。
例え、どれだけ探しても見つからないとわかっているのに。
探してしまう。
やるべきことは沢山あるはずなのに、なにも手につかなくて。
うろうろと、歩き回る。
そんな自分の姿と重なった。
案内されて病院の屋上に着くと、ベンチに白い髪のおにいさんが座っていた。
その後ろには、銀髪で片目が隠れる感じの髪型のおねえさんが、ボディーガードのような姿勢で立ってて、おにいさんの隣には僕より年下なのかな、ワンコみたいな小さい女の子が座っている。
でもなんとなくだけど、ふんいき?
で、その二人はおにいさんの艦娘なのかな……と感じる。
おにいさんの前までいって、僕は自己紹介をする。
そしておにいさんは力の抜けた感じで「火野だ、よろしくな」って、自己紹介を返してくれた。
なんというか、熱くてやわらかい雰囲気な人、説明が難しいけどそんな感じ。
僕はポケットからクラスのみんなで考えて、先生がまとめたお礼の手紙を取り出す。
そして、なるべく気持ちを込めるように、大きな声で読む。
聞いてる最中、火野さんはどこかばつが悪そうな表情をしてた。
けど、僕がお礼を言い終わるまでなにも言わず、ちゃんと聞き終わるまで待っててくれた。
「まぁあんときはテンパってて、なにやったかよく覚えてねえけど……お互い無事でよかったな」
ボリボリと白い髪のはえた頭を搔きながら、なんともいえない表情で火野さんが答えてくれる。
そんな火野さんと対照的に、おにいさんの艦娘さんの二人は、すごく誇らしげだった。
そして喜びが抑えられない様子で、小さい艦娘さんが嬉しそうに火野さんのお腹に抱き着く。
火野さんはそんな艦娘さんの頭を、慣れた様子でぐしゃぐしゃと撫でた。
後ろの銀色の髪の艦娘さんは、とても羨ましそうにその様子を見ている。
ふと、いままでどこにいたのやら、大鳳さんが僕の近くにやってきて頭を差し出す。
なんとなく察しはつくんだけど、それをしたら負けな気がするので無視した。
しかし、火野さんはとても上手に自分の艦娘さんたちと、関係を築けているなと感じる。
僕なんて、赤城さんへの配慮や、大鳳さんとの距離感を考えるだけでも、いっぱいいっぱいなのに。
「あの……火野さんも提督なんですよね? 僕も何人かの艦娘さんの提督なんですけど……火野さんは何人の艦娘さんたちがいるんですか?」
「ん……ああ……えーっと、19人だな、多分」
驚いて思わず口を開けてしまった。
僕の8人でも相当多いと思っていたけど、上には上がいた。
「どうして……そんなことになったんですか?」
「知らん、当事者のほうがわからない場合ってのも、たまにはある」
思わず聞いてしまった僕のあやふやな質問に、火野さんはタイヤ味のグミをかみつぶしたような表情を浮かべながら答えてくれた。
大人の提督さんでも、自分の艦娘のことでわからないことがあるんだな。
僕はなぜか安心してしまう。
「坊主も若いのに提督ってやつなんだな、しかも複数の艦娘持ちか。モテモテで羨ましい……って状態でもなさそうだが」
「はい……何人もいて、正直どう接したらいいのかも、よくわからない艦娘さんもいて……あの、アドバイスとかもらえますか?」
「アドバイスか……自分より年下の子供に、薄っぺらい人生観押しつけるような情けない人間にはなりたくないんだが。悩める若者を導くのも年長者の務めか」
「務め務め!」
小さい艦娘さんが、楽しそうに繰り返す。
「まあ俺だってうまくやれてるわけじゃないし、参考になるかはわからんが……男女のどうこうはひとまず置いといて、まず頭に入れといたほうがいいのは、こいつらは“味方”だってことだな」
火野さんはそう言って、腰に抱き着いている小さな艦娘さんの頭に手を置いた。
小さな艦娘さんは、くすぐったそうに、けどとてもうれしそうにしている。
「味方……ですか?」
「そう、味方だ。いや、まあ例外がある可能性は捨てきれんが……ともかく。そうだな、たとえばだが……自分はどうして生きてるんだろうとか、考えたことってあるか?」
ドキリとした、なぜなら僕は毎日そう考えてるから。
ひとまず「はい」と答えた僕の内心をよそに、火野さんは続ける。
「坊主が何歳かわからんが、まあ考えるよな……大人だって結構考える。でもな、本来生き物ってのは、生き延びるだけで重労働だ。なのに『なぜ生きてる』って考えられるのは、生きてるのが当然の状態だからだよ。言い換えたら、その状態を維持することこそが、本来生き物が持ってる『生きる理由』だ。けどな、もしそうだとしたら、人生において一番でっかい敵ってのが見えてくる……なんだかわかるか?」
僕は少し考えて、答える。
いまそれを口にするのは、すごく勇気が必要だったけど、火野さんの言葉の続きが聞きたい。
「生きること……その敵は、死ですか?」
「そうだ、死ってのはこの世で最も強い相手だ。なんせ有史以来すべての生物が挑んだが、誰も倒せなかった。だけど、戦わないわけにもいかん。そりゃそうだよな、まともな人間なら、普通は生きたいって思う」
誰も倒せなかった相手。
でも戦わないわけにはいかない相手。
おばあちゃんも戦った相手。
「……んで、戦うには“味方”がいる、とくに強くて有能な味方は多けりゃ多いほどいい。なかでもこいつらは“とびきり”だ、多くて困ることなんざないさ。だからまあ、いろいろ苦労するだろうが、そのことだけは覚えておいた方がいいぞ」
そう言って笑う火野さんの表情は、ちょっと複雑そうだけど、どこか幸せそうでもあった。
後ろに立っていた銀髪の艦娘さんが、無言で後ろから火野さんの首に手を回すようにして抱き着く。
火野さんはなれた様子で「そうだな、浜風もな」と言って、器用に銀髪の艦娘さんの頭を撫でる。
なんだか大人な感じ、ちょっとかっこいい。
でも後ろから絡みついている大鳳さんに同じことをしようとは思えない、不思議。
……生きること、か。
確かにいまの僕は、どうして生きているのかわからないなんてことを考えてしまう。
生きたいかどうかでいえば、僕は生きたい、はずだ。
だけど、そう思えなくなってしまうくらい苦しいときもある。
僕にはたくさんの艦娘さん、味方がいてくれる。
だけど……なにと戦えば、僕はこの苦しみから解放されるんだろうか?
「……多くて困る場合もありますが」
瞬間。
いつからそこに居たのか、大きな男の人が火野さんの少し後ろに立っていた。
その場にいた全員が、ビクッっとして男の人から距離をとる。
「……心臓に悪いぞ前島。リハビリはもういいのか」
「すみません、なにやら込み入った話をしていたようなので。今日のリハビリは先ほど終わりました」
オールバックという髪型だろうか。
冷たくて硬そうで、火野さんとは正反対の雰囲気の男の人。
あ、でも確かこの人……僕たちを助けてくれたもう一人の男の人だ。
確かこの人も提督だったはず。
とりあえず僕は軽くお辞儀をする。
「ああ、どうも……たしか空木くんでしたか……」
「知ってるのか前島?」
「ええ、一度あのときの皆さんと挨拶に来られましたから。確かここの院長さんの提督だったかと……あとうちの重役の方と、それと我々の弁護関係をしてくださった方もそうですね……そういえば去年唯一の肉親が亡くなられて、その弁護士の方がいまの保護者だったとお聞きしましたが」
「……なんかいろいろ複雑そうだなオイ。つか、デリカシーがないぞ前島」
「いえ、ああ、確かに……すみませんでした」
前島さんが頭を下げたので、あわてて僕は「大丈夫です」と、口にする。
だけど微妙な空気になってしまった。
なので、僕は現状を、とりあえず話してみた。
おばあちゃんが亡くなってしまったこと。
とても悲しくて、でもどうしようもできないこと。
もしかしたら、火野さんなら。
いまの僕の、どうしようもない心をどうにかしてくれるのかなと、少し期待して。
「あー……そうか。まあ人生語れるほど歳くっちゃいないつもりだが、身近な人の死ってのは辛い。俺のときは坊主より歳食ってたが……」
火野さんはバツが悪そうに、腕を組む。
その様子を見て、前島さんが眉をひそめた。
「先輩のお父さんがなくなったのは、先輩が16の頃でしたね」
「それくらいだったか。つか話の腰おるな」
「あ、すみません」
火野さんは息を一つはいて、頭をガシガシと掻く。
そしてなにかを探す動作をして、すぐ思い出したように手を下ろした。
多分煙草を探してたのかな?
「何年たってもなかなか忘れられん。とくに寒い日には、オヤジのことを思い出すことが多くてな。そのときは散歩してても、仕事の最中も、飯食ってるときも、煙草吸いながら景色を眺めてても、なにしてようと思い出しちまう。
時間が経てば全ては薄れるっていうけどな、急に鮮明になるんだよ、死んだ人間のことがな」
同じだ、と、僕は思った。
ふとした瞬間、僕もおばあちゃんとの思い出が込みあがって、懐かしくてつらくなる。
「さっきの話とちょっと矛盾するかもだが、人間ってのは生きてるだけじゃ幸せじゃないんだよ。生きたいっていうのは生物ならみんな持ってる“本能”だからな。人間が幸せになるには、それとは別に“欲望”を満たす必要がある。
悪い意味でつかわれることもある言葉だが……なにかが欲しい、なにかになりたい、なにかがしたい、あとはまあ……誰かといたい、とかな。周りに比べれば恵まれてるとか、そんなことは関係ない。欲望ってのは、人によって似てるようで全部違うんだ。
だから悲しみを乗り越えるには、坊主の婆さんが満たしてくれてたもんを、また探す必要がある。それがなにかは坊主にしかわからんし、見つかる保証もないけどな……」
なんとなく、納得してしまう。
ああそうか、僕はいま幸せじゃないのか。
僕を満たしてくれていた、おばあちゃんという存在がもういないから。
「ともかく、これから坊主がやるべきことを教えてやる。メソメソするのをやめとけ。感傷的になるのもいいが、やるべきことがあるならやれ。ないならその可愛い彼女と一緒にどっか遊びにいけ。そうやっていろいろ経験しながら、自分の欲望ってのと向き合って、その穴を埋められる“なにか”を探すんだ。
じゃないとこれからもずっとつらい。人生ってのは短いように見えて長いからな。少なくとも坊主の人生はまだ終わりじゃないんだよ」
それを聞いて、はっとする。
大鳳さんと、どこかに行くかはともかく。
確かに、僕の人生はまだ終わりじゃない。
そして、僕にはやるべきことがある。
そのことを考えると、少し気がまぎれた。
戦う相手はわからないけど、確かに僕にはやるべきことがまだある。
「先輩も丸くなりましたね。昔なら相手が誰だろうと感傷なんて贅沢してないで、しぶとくタフに生きろって背中を蹴っ飛ばしてたでしょうに」
「いまは時代が違うし、子供相手にゃさすがにな。お前も若いやつには優しくしろ、俺らと違って打たれ弱い」
楽しそうに笑いあっている、火野さんと前島さん。
その様子は、どこか赤城さんと加賀さんのようにも見えた。
どこか疎外感を感じてしまったわけじゃないけど、結構時間がたったので、僕はそんな二人に「ありがとうございました」と一礼して、帰ることを告げる。
火野さんと前島さんは、まだしばらく入院してるから、またいつでも会いに来ていいと言ってくれた。
屋上から下の階へと続く階段を下りる途中、赤城さんがいた。
どこか申し訳なさそうに、でも、どうしても僕の近くに居たいんだという想いを感じる。
『まず頭に入れといたほうがいいのは、こいつらは“味方”だってことだな』
わかってるし、わかってた。
赤城さんは、ずっと僕の味方だった。
僕は赤城さんに走り寄って、強く抱きしめる。
そして「もういいんだよ」と、伝えてあげた。
赤城さんは、泣きながら僕を抱きしめてくれる。
僕はなぜかそれがとても悲しくて、少し泣いてしまった。
■□■□■
僕がどれだけ悲しもうとも、無関心に時間は進む。
その日はおばあちゃんの一周忌だった。
集まってくれたのは、おばあちゃんの知り合いや、近所の人たち、そして僕の艦娘たち。
みんなそれぞれいろんなことを言って、僕を気にかけてくれたり、励ましてくれたりした。
だから僕は、その人たちに神妙な顔で『ありがとうございます』と返す。
誰かが僕に『さみしくない?』と、聞いた。
僕はそれに対して『大丈夫です、僕には思い出がありますから』と返す。
もっともこれは、アークロイヤルさんが言っていた『さみしい、か……さみしくなんてないさ、 私には思い出があるからな……さみしくなんて、ない』というのを真似してるだけ。
さみしいに決まってるし、大丈夫でもない。
でもそれ以外どう言えばいいのか、僕は知らないから。
えらいぞ、よくできた子だね、立派よ。
大人の人たちはそう言ってほめてくれる。
つまりこれで正解だったということか。
ほとんどの大人の人たちは、それ以上なにか言ったりはしない。
多分それは、僕の後ろに僕の艦娘たちが必ず誰かいてくれたから。
さすがに普段は一人にしてくれるんだけど、今日はいろんな人がいるから念のため。
実際、少し踏み込むような話をしようとしてくる人も中にはいたけど。
喪主は僕ですが、僕の保護者は蒼ねえちゃんなので、難しい話は蒼ねえちゃんとしてくださいとお願いする。
大人の人たちは大人の人たちできっと、色々とあるのだろう。
それに、おばあちゃんを好きだった人たちにとって、今日はとても大事な日だろうから。
参列してくれた人たちが帰り、後片付けもすみ、ようやく色々と終わったのは夜。
赤城さんに加賀さん、蒼ねえちゃんに飛龍さん、そして翔鶴さんに瑞鶴さん。
少し胸が痛んだけど、いつものように彼女たちにも帰ってもらった。
そう言えば、今日は珍しく大鳳さんがいなかった。
まあそういう日もあるんだろう。
誰だって一人になりたい日があるものだ。
そして僕は夕食を食べてお風呂に入ってから、ぼうっと夜空を見上げていた。
横には大きなリュック。
明日のために、ずっと準備してきた。
『もしおばあちゃんが死んじゃったら、ちょっとでいいから遺骨を空にまいてくれないかしら?』
おばあちゃんが昔、僕にお願いしたこと。
いまの僕が、なににかえてもやるべきこと。
でもやっぱり中々決心がつかず、目をつむって空に祈る。
どうか、どうか──
「なにしてるの?」
その声を聞いても、僕はもう驚かない。
この一年、いつでもどこでも、気がつけば彼女は傍にいたから。
「祈ってるんだ、いつかおばあちゃんや両親のところに行けるように」
「……あなたはみんなのところには行けないわ」
「でも行くんだ」
「……どこに行こうと、会えないわ。あなたが大好きだった人たちにはもう会えない」
「どうしてわかるのさ」
「その人達は死んでるからよ」
目を開けると、月明かりに照らされた大鳳さんがそこに居た。
いつものように、無表情だけどまっすぐな目で僕を見ていた。
「そっか……みんな、死んだらどこに行くんだろうね?」
「どこにも行かないわ、いなくなるだけ」
魂は巡り運命を刻む。
そう言っていた夢の中の大鳳さんとは違うことを言う大鳳さん
それは彼女がまだ艦娘変わりの最中だからだろうか?
でも、その言葉もまた、ひとつの事実な気がした。
夢の中の僕が、夢の中の僕でしかないように。
おばあちゃんを失って悲しむ僕もまた、いまの僕でしかないのだから。
「残念、おばあちゃんにまた会えるなら、僕なんでもするんだけどな」
「……」
「ならせめて約束は果たさないと……」
おばあちゃんの願いで、僕が託されたもの。
僕のリュックの中には、おばあちゃんだったものがある。
「君は見送りに来てくれたんでしょ? 僕が出発するのを。わるいけど出発は明日だから──」
「──……違うわ」
大鳳さんはゆっくりと僕のすぐ前まで歩いてきて、口を開く。
「一緒に行くために来たのよ」
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『来たか。上堂薗から聞いたときは、さすがのヤツもついに狂ったかと思ったが……まさか本当だったとはな。……よくぞ生きていた、小僧』
『もう小僧って年でもありませんけどね』
『ふん。俺から見れば多少背が伸びた以外、あの頃とたいして変わっとらん』
『まあそうかもしれませんけど。虎瀬さんは随分と……老けましたね』
呉鎮守府に到着して、真っ先に通されたのは提督の執務室。
そこには最後に見た姿よりも、すごく白髪やシワの増えた虎瀬さんが待っていた。
『貴様のように
『すみません、僕だけ……』
馬鹿なことを言ったと後悔した。
老けていて当然だ。この人はずっと、それこそ本当に何十年も戦い続けてきたのだ。
僕がのんきに寝てる間もずっと、たくさんの敵を倒して、たくさんの味方を失ってきたのだ。
それにきっと、呉鎮守府に僕を送り届けるために犠牲になった人たちも居る。
部下、仲間、艦娘、友達、敵、好きな人、嫌いな人、色んな別れを踏み越えてきたのだ。
そんな経験を何十年も―――
『構わん。おそらく貴様はあの豚……野原が残した最後の
『はい、僕は僕のままですよ』
『よし、なら行くぞ。上堂薗が死ぬとは思わんが、いくらヤツでも太平洋全体の戦線を攪乱し続けられる時間は長くもなかろう。それに竜崎が死んで舞鶴が落ちてからというもの、深海棲艦どもはこちらにはもうろくな航空戦力がないと完全に油断している、隙を突くのはいましかない』
『竜崎さんも……亡くなられたんですね』
『竜崎だけではない、何年か前に烏丸も逝った。まあ烏丸は寿命だが……しかし思えばあの日から、十人いた面子もずいぶん減ったものだ。いや……むしろ、よくまだ残ってると言ったほうが正しいか』
虎瀬さんはどこか寂しそうな様子で、吐き捨てるようにそう言った。
確かに減った、もう十人の中で残ってるのは上堂園さんと虎瀬さん、そして僕だけ。
おそらく一番強い人と、一番怖い人と、一番運がよかった僕が残ったんだと思う。
『……だが、まだ俺たちがいる。奴らの分も含め、深海棲艦どもから受け続けたこの数十年の屈辱、
『ええ、やりましょう……。だって僕は、その為に今日まで生きてきたんですから』
僕が生かされた理由が、僕が子供だったからだとしても。
僕がまだ生きている意味は、僕にはまだやるべきことが残っているからだ。
次の話(中編)に続きます。
※『僕』の夢っぽいのに出ていた提督たちは、別作品の『豚と呼ばれた提督』に登場しています。
そちら読んでない方は、なんか過去の対深海棲艦戦争における、最終局面の夢を見ているんだなというイメージで問題ないです。
ただ、『豚と呼ばれた提督』を読んでいただいても正直ちょっとわかりにくいので、一応年表らしきものと、今回の話で登場した提督を下記リンク先のページにざっくりまとめてみました。
別サイトで恐縮なのですが、興味がわいたら覗いていってください。