提督をみつけたら   作:源治

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魚雷が目立ちすぎて、ザクのミサイルポッドにしか見えない時期がありました。
 


『無職男』と『駆逐艦:黒潮』

 

 無職になってしまった。(継続中)

 

 次の職を探してはいるが、なかなか条件に合う会社が見つからない。

 条件さえ選ばなければ直ぐにでもいけそうなのはいくつかあったのだが、いかんせんまたラリアットでやめてしまうのは避けねばならないだろう。

 

 もう何時間かしたら日が沈みそうな夕方、職業斡旋所からの帰り道にある公園で、黒歴史を思い出しながら俺はベンチでうなだれていた。

 

 職業斡旋所に行く途中に目に入った結婚式場の入り口、そこで沢山の人に祝福されながら出てくる、名前も知らないカップルの結婚式風景を思い出して涙がこみ上げてくる。

 

 俺って何処で人生間違えたのだろうか、いや、自分が歩いてきた道に後悔などない、が。

 

 それとこれとは別っていう精神的ショックってあるよな。

 

 はぁ……。

 

 こういう時彼女とかいたら励ましてくれるのだろうかなぁ……。

 

 あ”ぁ”ぁ”……。

 

 立ち上がれねぇ……。

 

 

 

 「おにいはんこんな所でなにしてはるん?」

 

 

 

 そんな俺に声をかける誰か、顔を上げると白ジャージを着た黒髪ショートカットの少女が此方を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『無職男』と『駆逐艦:黒潮』

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰だろうか、どこかで見た気がしなくもないが。

 

「なんや思い出せんいう顔してはるなぁ。黒潮や、自己紹介したやろ」

 

 しょうがないなー、といいながら俺の隣にちょこんと腰を下ろす黒潮と名乗る少女。ふわりと髪が揺れてその髪を留める二本のヘアピンが日光を反射した。

 そのヘアピンを見て、俺は先日遭遇した陽炎と妹たちの姿を思い出す。

 

 「ああ……陽炎の妹か」

 

 あの草野球の後、とりあえずなんとなく審判をやり終えた俺は陽炎に妹たちを紹介された。

(ついでにどやされながらルールブックを渡された)

 なんというかどの少女たちも一癖も二癖もありそうな感じで、一体どんな染髪料を使ってるのかという髪色の少女も多数、正直親御さんや学校に怒られないのだろうか? という疑問が尽きない。

 

 まぁ、最近の染髪料は便利らしいし、【憧れ】の人の髪の色に染めたいという気持ちもわからんでもないが。

 

 だが待って欲しい、二十人近い少女たちに一気に自己紹介されて一度で覚えられる人間がいるだろうか?

 おまけに戦艦級の眼光やら自己主張の激しい髪色に染めた姉妹の仲で、いい意味で普通、悪い意味で地味なこの少女の名前まで覚えられるわけがない。

 

 俺は悪くねえ。

 

 此方をくるりとした瞳で見ながら、足をブラブラとしている黒潮。

 

「職業斡旋所からの帰りだよ、そっちは部活のトレーニング中かなにかか?」

「別になんでもないただのランニング中や、そしたらおにいはんがたこ焼きにタコが入ってへんかった見たいな顔でうなだれてるのが見えたさかい、気になってん」

 

 そう言う黒潮は「やっぱりなー」と、なぜか楽しげである。こやつも俺が無職であることに喜びを覚える人種なのだろうか。

 

 オノレェ……。

 

「あー、でも走ってたら喉かわいたわー、うち財布持ってくるの忘れたわー、困ったわー」(チラチラ)

 

 ……こ、こいつまさか俺にたかっているのか!?

 

 無職にたかるという意味を理解しているのだろうか? だが、しかし。さすがに年端も行かぬ少女にジュースを買ってあげられないというのはなんというか男の沽券に関わる気がする。

 

「……スポーツドリンクで良いか?」

 

「へへへ、おおきに!」

 

 実時間で数秒、体感時間で二日悩んだ末に俺は黒潮に飲み物を買ってやる決断を下した。

 決して今後、陽炎から審判のバイトを斡旋してもらえなくなる可能性に屈したわけではない。(結構もらった)

 

 直ぐそばの自動販売機で飲み物を買い、黒潮に放り投げると「っほっと」と言いながら上手い具合に両手でキャッチした。

 おいしそうにごくごくと飲む黒潮の隣に俺は再び腰を下ろす。

 

 なんというか、よほど喉がかわいていたのか随分とおいしそうに飲むものだ。

 素朴なかわいさというのだろうか、派手さはないがどこか心落ち着くようなほんのりと温かい魅力がこの少女にはあるように思う。

 

 やれやれ、そんな顔をされては此方も買ってよかったと思えてしまうじゃないか。

 

「うまいか? 味わって飲めよ、それは俺の血液飲んでるようなもんだからな」

 

 無職からたかるということがどういうことか、なんとなく教えたかったのだが、それを聞いて黒潮は「ぶーーーー!」と口に含んでいた分を噴出した。

 

「あ、コラお前なんて勿体無いことを!!」

 

「おにいはんがきしょいこと言うからやろ!!」

 

「俺は間違ったこと言ってねえ!!」

 

「なんとなく分かるけどもっとましな例えあるやろ!!」

 

 実際それは俺の命をつなぐ血液も同然の金銭から捻出されてるんだゾ。

 ケホケホと咽ながら黒潮は怒っていたが、しばらくしてクスクスと笑いだす。

 

「なんや、こんなに怒ったり笑ったん随分久しぶりな気いするわー」

 

 そりゃまあ、なんとも潤いのない人生だこと、俺も人のことはいえんがな。

 

「うそこけ、お前らの年頃なら箸が転げても面白い年頃だろうに」

 

「ああ、うん、まぁ……」

 

 だからなぜ目を逸らす。

 

 まぁ、そんなことはいいか、それよりこれからどうすっかなぁ……

 軽くため息、だめだ、黒潮が横にいるというのに、重症だこれ。

 

 そんな俺を見て黒潮はベンチから立ち上がって、公園で遊んで行った誰かの忘れ物らしいゴムボールを拾い上げると、俺に向かって放り投げる。

 

 あわててキャッチする俺。

 

 黒潮はボールを受け取りきょとんとしている俺のほうを見て、なにも言わずに軽く微笑む。

 そしてとっとと離れた所まで駆けると、こちらに向かって両手を振ってくる。

 

 ああ、キャッチボールか。

 

 よっこらセックスと言う掛け声とともに立ち上がる俺。

 どれ、俺の強肩を見せてやるか。

 野球漫画の主人公のような美しいフォーム(個人的主観)で投げたボールは黒潮の両手に収まる、黒潮は少し間をおいてからふわり投げ返す、それを俺が受け止める。

 

 そんなことを何回も、繰り返す。

 

 あー、キャッチボールなんざ何時ぶりだろうか。

 まぁなんというか、心が弱った時はこういう何気ないやり取りが沁みるもんだな。

 

 もしこれを狙ってやってくれたとしたら、ずいぶんと察しのいい子だわ。

 

「ほれ、今度は強く投げるぞー」

 

「投げてから言わんといてーなー!」

 

 慌てて遠くに飛んで行ったボールを取りにかけていく黒潮。

 それから俺たちは馬鹿みたいにデブい猫を見ただの、煙草が値上がりしただの、どうでもいいたわいの無いことをだらだらとしゃべりながらキャッチボールを続ける。 

 

「お前今時間取れるか?」

 

「うん? 別に大丈夫やけど、どうしたん?」

 

 やがて俺がボールを受け止め、元あった場所にボールを放り投げた。

 

 なんというか、俺はだんだんこの黒潮の素朴な怒り方や笑顔、そして方言が癖になってきた気がする。

 そう考えると、どうせだし飲み物だけなんていわず飯でもおごってやるか、なんて思いがわいてしまった。

 

「なんか家に帰って飯作るのも億劫だし、一人で外食するのもあれだからラーメンでも食いに行かないかね」

 

「あーーー、うーん、でも陽炎姉さんがなー……」

 

 歯切れ悪そうに片手でぽりぽりと頭を搔く黒潮、なんだ、陽炎たちが家で飯でも作って待ってるのか。

 まあ考えれば不思議でもない、二十人近くも姉妹がいればそれはもう毎日の食事は戦争のようでありながらも大事な時間なのだろう。

 

「ああ、陽炎たちが待ってるとかか、すまんな配慮が足りなかった」

 

「あ、いや、そういうわけやないねん。それとはちょっと別問題というかな……」

 

「ん? ああそうか、すまん俺も無遠慮に誘っちゃったな。ていうか俺みたいなのと飯ってのもあれな話だ」

 

 年頃の少女を気軽に食事に誘うというのもデリカシーがなかったか、いかんいかん、通報されかねないぜ。

 

「ちゃう! そんなことやない!!」

 

 と、そんな俺の言葉をびっくりするくらい大声で否定する黒潮。そんな大声も出せたのか、おじさんびっくりしちゃったぞ。

 

「お、おう」

 

「あーもう、なんや悩んでるのがあほらしいなってきたわ。いこ、おにいはん!」

 

 そういって俺の手を取り歩き始める黒潮。

 てか力強いなおい、お前ら姉妹は普段何食ってんだ。

 

 そんな疑問がわいたが、ふんふん♪と機嫌よさそうに俺の手を引きながら歩く黒潮を見てて、まあどうでもいいかと思ってしまった。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 ラーメン屋「大湊」

 

 頑固な老年のオヤッさんと、生意気そうな若いにいちゃんが切り盛りする艦夢守市でも隠れた名店だ。

 ちなみにオヤッさんは銀行員から脱サラしてラーメン屋を始めた、チャレンジャー過ぎる。

 

 店に入り、黒潮と並んでカウンター席に座る。

 程なくして長い銀髪の店員の女性が注文を取りにきた。

 さりげなくこの店員ももかわいいと評判だったりする、おっぱい大きいしな。

 

 軽く見とれてると黒潮が俺の脛を蹴って来た。やめぃ。

 

 スタンダードな店の名物ラーメンを注文すると、女性店員のよく通る声でオーダーが入る。

 アイヌ文様のタオルを頭に巻いた二人がでかい声で返事を返した後、「声がでけえよバカ!」「うるせえっすよこのスカタン!」と言い争ってたが、まあ何時ものことである。

 

 適当に他の陽炎姉妹のことをだらだらとしゃべっていると、やがて旨そうなにおいを漂わせながらラーメンが運ばれてきた。

 

「ほな、いただきまーす」

 

「おう、たらふく……は無理だが味わって食え」

 

 おおきにー、とニッコリ笑いながら礼を述べると、黒潮はハフハフとレンゲに麺とスープを絡ませて上品に食べ始める。

 きちんと躾がされているからだろうか、飾らなくも綺麗に食事を取るその所作に美しさを感じてしまった。

 

 その様子に軽く見とれてしまった自分がなぜか悔しくて、

 

「うまいか? それ俺の血肉を食ってると思えよ」

 

 と、ついつい悪戯心からそんなことを言ってしまった。

 

「っ!? ゴホ、ごっほごほ!」

 

 むせて麺を吐き出しかけてしまう黒潮。

 

「ははは、期待通りの反応だな」

 

 ニヤニヤとその様子を見つめる俺、そんな俺を見て黒潮は抗議するように、ゴツゴツと俺の脛に蹴りを入れてきた。

 

「いて、いってえって、ははは」

 

「おにいはんのいけず! いけず!」

 

 と、黒潮をからかって楽しんでたら厨房からすごい視線を感じたので見てみると、オヤッさんと若いのが青筋浮かべながらすっごいメンチ切ってきてた。

 べ、別にびびった訳じゃないけど怖かったので「すんません」と軽く頭を下げておいた。

 

「でもこのラーメン美味しいわぁ、隠し味に熊で取ったスープ加えるなんてぇよう考えたはったなぁ……」

 

 え、これ熊はいってんのか!?

 いや、それよりなんでわかるんだ、どういう舌してるんだ、いやどうせ適当だろうけどさ。 

 

 だがちらりと見ると、さっきとは別の意味でオヤッさんと若いのが、驚愕に目を見開いていた。

 

 え、本当に入ってるの?

 

 何度も来てるけど初めて知ったわ、実はトップシークレットだったりしないよな……

 口封じをされかねない圧迫感が厨房から放射されてるのを感じたが、必死に気のせいだといい聞かせる。

 

 とりあえずいつも通り、ラーメンは旨かった。

 

 

 

 やがてお互いどんぶりの中身がスープだけになり、だらだらとスープをすすりながら会話を交わしていると。

 

「おにいはんは恋人とか結婚とか、どうおもてはるん?」

 

「おっまえなぁ、それ結構無職……じゃなくてもきついワードだぞ」

 

 と、黒潮がNGワードを踏んできた、まあこの年頃だと一番興味がある話題なんだろうが。

 

 だが実際、職が無い俺が彼女や嫁さんを養う甲斐性を持ってるのかと聞かれれば、職があっても無いと答えざるを得ないのが本音である。

 が、わざわざ本当のことを言うこともなかろう。

 

「まぁ、せめてなんぞ定職に就くまでは厳しいだろうなー」

「へー、つまり仕事見つけるまで、いい人とか作る気はないねんね」

 

 ふんふん、となにやら考え込みながら俺の言葉を確認する黒潮。

 やめろよ、そう深く考えられるとむなしくなってくるだろうが。

 

「なんだ、そういうのに興味のあるお年頃か」

 

 軽い感じでたずねたのだが、それを聞いて黒潮はどこか悲しげな表情を浮かべた。

 

「うん、うちも素敵な人見つけられたらいいねんけどね、なんというか色々あってなぁ」

 

「まー、お前ならそのうちいい男捕まえられるだろうから、そう難しく考えなくてもいいんじゃね?」

 

「でも例えばや、その人が陽炎姉さんとかと同じ人とかだったらどうしたらいいと思ぅ?」

 

「修羅場じゃないですかヤダー」

 

 ははは、笑って流そうとしてみたが、思ったより不安そうな黒潮のその真剣な顔を見て、少し真面目に考えてみる。

 姉妹で修羅場かぁ、なんか大変そうだ。

 

「正直俺もそんな経験があるわけじゃないから、そんな状況になった時どうしたら良いってのは言えないけどさ。恋をしらず大人になって死ぬなんて、つまらないんじゃないかと思うわけだよ」

 

「その結果が悲しいことになってしもうても?」

 

「生きていく上でその思いだけがあれば、その後どんな日々であっても生きていけるってのを手に入れるためならさ、それもまた必要なことだと思うわけだわ。でもさ、お前の言うとおり悲しみ続けるっていうのは、生きた人間のすることじゃないからどこかで折り合いはつけなきゃだけどな」

 

「結局、なる様になれってことなん?」

 

「いんや、俺の今の状況と同じで自分が行動を起こさなきゃ誰かがなにかやってくれるっていう話じゃないんだよ、それは。なにもしなければなにも起こりはしない。自分を取り巻く環境は昨日のままなんだ」

 

 未来への希望に溢れた若い人間にはついついSEKKYOUじみたことを言ってしまうな、いかんいかん。

 

 俺のその言葉をどう受け取ったのかわから無いが、黒潮は店を出るまで「別に一番じゃなくても……」みたいなことをブツブツと言いながらずっとなにか考えてるようだった。

 

 なんとなくそれっぽいことを言っただけに過ぎないのは秘密だがな。

 悩めよ若者、それも君らの特権だ。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 店を出ると、夕日がちょうど沈むところだった。

 

「んじゃまたな、黒潮」

 

 そう挨拶をして俺は煙草を取り出し火をつける、最近は喫煙所は全部外だ、世知辛い。

 黒潮は直ぐに答えず俺の先をほっほっ、と数メートル駆けてからくるりと振り返る。

 

 生意気にも夕日をバックにして微笑を浮かべるその姿が絵になっていた。

 

「ごちそうさんやで提督はん。ほなまたなー!」

 

「お前までそう呼ぶかチクショウ。まあいいよ、陽炎たちによろしくな」

 

 そうして俺の返事を聞きニッコリと微笑むと、黒潮は夕日に向かって駆けて行った。

 そのなんでもない後ろ姿に、煙草を吸いながら見送っていた俺はどこか元気をもらった気がした。

 

 

 まったく、いちいち古臭いが絵になる姿をするやつだな。

 

 

 ……さて、明日も職探しがんばりますか。

 

 




黒潮とカウンターに並んで座って、ラーメンを一緒に食べたいだけの人生だった。

 
誤字報告してくださった皆様、ありがとうございます。

本来なら手作りのメダルと賞状お持ちして添い寝するのが筋かとは思うのですが、あんまりそういうの求めてない方もいらっしゃるとは思いますので、後書きで申し訳ございませんがこの場を借りてお礼のみ申し上げさせていただきます。
 
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