提督をみつけたら   作:源治

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貴方の知らない比叡カレーの真実。
 
地味に人気のある残念イケメンホスト回。
そう、やつの名は……。


『ホスト』と『戦艦:比叡』

 

 金剛四姉妹

 

 かつての大戦中、姉妹で背中を預け戦い海を駆け抜けてきた彼女達姉妹のそれぞれの主な役割は陸に上った今も変わらない。

 

象徴であり、全ての姉妹を束ねて愛に生きる長女『金剛』

表の顔として、雰囲気を前向きなものにする次女『比叡』

調停役として、勝手を許さず敵味方を抑える三女『榛名』

裏の顔として、姉妹達の力の側面を象徴する四女『霧島』

 

 多少の差異はあるとは思うが、世間一般での認識はこのようなものだろう。

 だが、私はここで一つの仮説を立てた。

 

 次女である比叡、彼女は果たして本当に上記のような役割を担っていたのだろうか、と。

 

 無論彼女の元気いっぱいな姿は、姉妹のみならず周りをも巻き込んで意識を前向きにさせる。

 また、長女の目に届かぬ所に気を配り、姉妹や仲間が落ち込んでいれば元気付けたりする細やかな心遣いも、表の顔の名に恥じないものだ。

 

 で、あればこそ、よく話題に上げられる彼女の欠点の象徴である比叡カレーのエピソードに私は疑問を禁じえない。

 そんな細やかな心遣いができる人物が、本当に食した艦娘達が意識不明になるような異常な料理を作るのか?

 料理というものは一定の手順を踏めば、どんなに粗かろうが一定の味覚を感じるものとなる、科学ともいえる現象だ。

 にも拘らず異常な料理が出来上がってしまうのは、工程の最中になにかおかしな手順が介入してしまった、もしくは“介入させた”ということになる。

 

 

 以上を踏まえた上で、私が立てた仮説をお聞きいただきたい。

 

 

 もし彼女が意図的に異常な料理を作る、というイメージを植えつけるために、わざと異常な工程を介入させているのだとしたら?

 

 それが意味するものを推測すると、比叡の裏の役割が見えてくる。

 便宜上、その役割を『裏の裏』と表現させていただく。

 もちろん裏の裏が表という意味ではなく、裏のもう一段深い所に隠された裏側という意味だ。

 

 それは事故に見せかけて、姉妹達の邪魔者を排除するためのブラフとなりえないだろうか?

 

 もし、それが是とした場合、飛躍しすぎと思われるかもしれないが、本来の彼女の姉妹での役割が表の顔だけではなく、暗殺、諜報、工作といった裏の裏の側面を持っている。

 

 そんな可能性はないだろうか? 

 

 

 私は怖い。

 

 

 もしこの手記が彼女ら、いや。比叡の組織に発見されてしまった場合、私はどうなってしまうのだろうか。

 

 しかし、私はジャーナリストとしての矜持を捨てられない。

 

 私は今から比叡への張り込みを行おうと思う。

 もし私が帰らなかった場合、そしてこの手記を見てしまった者がいたならばどうか忘れて燃やして欲しい。

 

 比叡カレーの真実を覗く時、比叡カレーもまたこちらの口に飛び込む機会をうかがっているのだから。

 

 

 

『行方不明のとある記者の手記より』

 

 

 

 

 

 

 

 

『ホスト』と『戦艦:比叡』

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧島がホスト遊びにのめりこんでいる。

 

 その報告が比叡組の組長であり、戦艦の艦娘である『比叡』の耳に届いたのは、霧島がショウのホストクラブに出入りし始めて一週間後のことだった。

 

 その時比叡は埠頭の倉庫でたこ焼きを焼いていた。

 

 なぜ港の倉庫でたこ焼きを……というのも、比叡組の主な収入源は祭りの的屋の上がりと港湾の事業関係全般だからだ。

 港湾事業は荷降ろしや倉庫の管理、物資の輸送など多岐にわたって非常に多くの利益を上げている。だが地域住民との交流なども非常に大事な仕事であり、特に表の顔としての役割をかねている比叡にとっては的屋の仕事もまた、非常に重要な仕事でもあった。

 

 比叡は腹巻、パンチパーマ、大きなサングラスという典型的なあっちの家業の組員にしか見えない【諜報員】を下がらせ思案する。

 

(『霧島』の仕事も楽なものではない、自分とは違いまだ比較的若い艦娘でもある彼女のことだ、息抜きにホスト遊びに興味を持ったのかしら?)

 

 カッカッカ! と器用にピックを使ってたこ焼きをひっくり返す比叡。

 その手際は世間一般でいう料理下手の雰囲気からはかけ離れた手さばきだ。

 

 しかしよりによってホスト遊びとは、人間の女ではあるまいしおかしなことだ、しかし霧島も息抜きやお酒を飲みたい年頃なのかもしれない。

 だが万が一にものめり込み過ぎて、身を持ち崩し、私達金剛姉妹の顔に泥を塗るような事態になることは避けなければならない。

 

 そんな思考を淡々とめぐらせる比叡。

 

「あまり気が乗らないのだけど、直接調べてみましょうか」

 

 自分の姉妹ですら時には疑わなければならない因果な仕事、深いため息を吐く比叡。

 

 だが、それは必要なことなのだ。

 艦娘として、金剛型の比叡として生を受けてしまった以上。

 

 丁寧でありながら、どこか苛立つような手つきで練習用に焼いていたたこ焼きを、比叡は手早くパックにつめていく。

 

 ふと、比叡は自分を見つめるなにかの視線に気が付く。

 

 見るとネズミ対策に倉庫で飼っている猫がもの欲しそうにこちらを見ていた。

 クスリと笑って比叡は一つたこ焼きを猫の手前に投げる。

 

 嬉しそうに猫はたこ焼きに飛びつく、が

 

 フギャネァアアアア!

 

 と、ひとかじりした瞬間、悲鳴を上げ目を回して気絶した。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 ホスト、それは夜の住人、闇夜の時間を生きる者。

 ホスト、その本質は飢えた狼、金と女性、そして名誉に飢える者。

 ホスト、しかして彼らの仕事はきらめく世界で、夢を振りまく者。

 

『艦夢守市』その歓楽街にも彼らが住まう城があった。

 

 ホストクラブ「YOKOSUKA」

 

 今日も彼らは闇夜の時を駆け、飢えを満たし、そして夢を振りまくのだった……

 

 

 

「腹減った」

 

 最近「YOKOSUKA」名物(局所的)になりつつある欠食ホストのショウは便器を磨きながら飢えていた。

 今日家から出るときに食べたモヤシオンリーモヤシ炒めだけでは、どうにも腹を満たせなかったのだ。

 

「おいショウ!! いつまで便所掃除してんだ!! それはもういいから届いた酒をセラーに運べ!!」

 

 奥から聞こえてきた重低音ボイス、声の主である店長(あだ名:大臣)にそう怒鳴られ、ショウは「了解でウイッシュ!」と返事をしながら、裏口に積まれていたケースを運び込む、も。

 

「腹減った……」

 

 あまりの空腹に耐え切れず、店の床にへたり込んでしまう。

 

「なにサボってやがる、首にされてえか!!」

 

「イテ? ……あ、アザーッス!」

 

 そう言ってへたり込んでいたショウの腹を殴……ろうとして思いとどまり、軽く頭に拳骨を落とす店長。

 ショウは殴られても指導してもらったと思ってるので、体育会系のノリで感謝を叫ぶ。

 

 ちなみに店長は恐い、ゴツイガタイに坊主頭にそりこみ、そしてサングラス。Eで始まるザイルの坊主の人にとてもよく似ていた。

 

 でも何故か最近ちょっと痩せていた。

 

「腹減ったってお前、組ちょ……ふ、太客のお陰で今は多少まともな給料払ってやってるだろうが、ちゃんと飯食ってんのかぁ?」

 

 なにかとても怖い記憶を思い出した店長が、なにかを言い直したのがショウは気になったが、二秒で忘れて言い訳をする。

 

「いや、孫が事故にあったのに金が無いって焦ってるばあちゃんがいたんで、財布の中身全部あげちゃったんすよ……」

 

 詐欺だろそれ、孫が孫が詐欺だろそれ。

 

 

 店長は頭を抱えた。

 

 

 こいつホスト向いてない、なぜ俺はこいつを雇ったのか。

 そもそもこいつを雇わなければ俺は、最近頻繁に悪夢を見なくてもすんだし、胃薬を飲む習慣がつくことも無くて平和な毎日が続いていたんじゃないのかと。

 

 後の祭りだが、店長はIF(もしも)が好きだった。

 正確にいえば最近好きになった。

 

 しかしここでショウが栄養失調にでもなれば、店長に明日は無い。

 

「……厨房でなんか食ってこい、俺が許可してやる」

「マジっすか!! アザーーーッス!」

 

 超いい笑顔で返事をするショウ。

 さすがに腹が立ったので、店長はやっぱりショウの腹を一発殴ることにした。

 

 フルスイングで。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 調査当日、比叡は何時もはざんばらな髪をきれいに整え、和柄のドレスを着てホストクラブ「YOKOSUKA」の前にタクシーで降り立った。

 

 その“仕事柄”様々な所に出入りする比叡は、逆に場所によっては目立たない服装の方が目立ってしまうということを熟知している。特に今回はホストクラブに出向くということで自分が持っているドレスの中で比較的派手すぎず、かといって地味すぎないものを選択した。

 

 把握し“調整した”スケジュールでは、霧島は今日、仕事でここにはこれない。

 店の扉をくぐると、高級ホストクラブらしく躾のよくできた受付の店員が対応した。

 

 一般的なランクの席に通され、料金とプランの説明を受けた比叡は「ホストのチョイス含めて全てお任せ」とオーダーする。

 やがて比叡の席に、黒髪のさわやかなタイプのホストがやってきた。

 

 そして十分ほど会話し、特に手ごたえを得られなかったのかホストが入れ替わる。

 

 最初、比叡は見目麗しい男に言い寄られ面白い話を聞かせてもらえる、という新鮮なその状況を少し楽しんだが、だからといって比叡の中になにか揺さぶられるような感情はわかなかった。

 途中安めの酒を注文し飲むこともあったが、十分程度でチェンジを繰り返す比叡に店のホストは渋い客だなと早々に見切りを付け始める。

 

 店側としても長時間いて料金を払い続けてくれるのはありがたいが、こうも目当てのホストのタイプが定まらない比叡を見て、ひとまず今いるホストはある程度ぐるっと見てもらおうという対応を取った。

 

 入れ替わり立ち代り現れるホストを気のない様子で見る比叡。

 比叡は妹の霧島が、なにが楽しくてこんな所に通うのか、まったく理解できなかった。

 

(私達は金剛型、艦娘として大きな役目を負っている。それはとてもとても大事なことなのに、こんな所で遊ぶことで得られるものなど、無いというのに)

 

 比叡には霧島の行動の理由が未だに理解できない。

 それも当然である、比叡はまだ、大事な、大事ななにかと出会えていないのだから。

 

 やがて、チェンジ毎に次のホストが来る間隔が長くなり、比叡が今まで姉が飲んだ紅茶の数を数え始めるぐらい暇をもてあまし始めた頃、やつが……来た。

 

 他のナンバーワンや上位のホストは常連客や指名客の相手で忙しく、残りのホストはもう全てチェンジされた。

 

 なら申し訳ないが、店の味噌っかすであるやつしかもう残っていなかったのだ。

 某国民的RPG七作目の髪形をした残念イケメン、この店が誇るKY、そう、やつの名は

 

 

「よろしくおねがいしまースッス! ショウデース! 貴方のハートを掴む男の名前どうか覚えてくださいッス!!」

 

 

 そんな姉によく似たポーズを決めるショウの姿を見て、比叡に衝撃が走る。

 頭ではない、自分の中の今まで一度も使われなかった動力機関に初めて火が入ったような感覚。

 

 自分でもまさかと思った。

 

 かつてその経験をした何人もの同族が幸せそうに語る光景を見てきた。

 悩み恋焦がれた時期が自分にもあり、諦め、姉妹のために人生を捧げようと心に誓った自分がいた。

 姉妹のためならなんでもできると、そう、それは間違いではなかったはずだ。

 

 だが、これは。

 

 自分の提督を見つけてしまったというこの感情は……。

 

 かつてない経験に衝撃を受け固まっている比叡の姿に、ショウはなんかこの人かーちゃんがゴキブリ見たときみたいな顔してんなぁ。

 と、のんきなことを頭に浮かべながら比叡の席についてトークを開始する。

 

「おねーさん俺最近すげーことに気が付いちゃったんだけどさ、世界中の人に一円づつもらえば超金持ちになれるんじゃないっすかね?」

 

 周りでショウの挨拶とKYトークを聞いていた従業員やホスト達は、ああ、最近太客が付いてなにか変わったかと思ってたけど、やっぱショウだなとなぜか安心していた。

 

「っふ、ふーん。それ本気で言ってるんですか? そんなことが不可能なことくらい少し考えればわかると思いますが?」

 

 凄まじい感情の波に翻弄されながらも、その得体の知れない感情に飲まれまいと、必死に抗うようにショウの馬鹿な話に大真面目に返す比叡。

 

 それは比叡組の組長としてのプライドか、それとも……

 

「まぁ、わかっちゃいるんスけどね。でも正しいコトとか本当のコトって、案外つまんないスよ」

 

 そうなのか、そうなのだろうか。

 裏の裏として、綺麗では無いことも知りたくないことも、沢山の真実を知ってしまった比叡にショウの言葉が突き刺さる。

 

「そ、それでも私は……」

 

「なんかつらいことあったんすか?」

 

 搾り出すように苦しげに言葉を吐き出す比叡、心配するショウ。

 

「つらくなんか、それは、私の仕事で、しなきゃならないことで……」

 

「そうなんすか、大変なお仕事されてるんスねー。なら楽しくしようとしなきゃ、どんなことでも楽しくはならないと思うッスよ」

 

 ニカッと太陽のような笑みを浮かべるショウ。

 真正面からその笑顔を見てしまった比叡。 

 

 

 もうだめだった、比叡の心は溶けてしまった。

 

 

 比叡は気が付いてしまった。

 ちがう、そうじゃなかったのだ、仕事がつらかったんじゃない、足りないまま仕事をするのが、つらかったのだと。

 

「あ、おねーさんのことなんて呼んだらいいかな? あとなんか飲む? できれば高いやつだとうれしいでウイッシュ!」

 

 比叡にはそれが自分の提督がくれた初めての命令(お願い)に聞こえ、歓喜した。

 そして理性ではなく、知識でもなく、本能から出た言葉を叫ぶ。

 

 

「ひっ、『比叡』です! お酒を頼んで、ショウさんに少しでも近づきたいです! ですのでこのお店で一番高いお酒下さい!!」

 

 

 比叡のその注文を聞いて周囲の人間は耳を疑った、全員が耳をホジホジした。

 

「え、比叡チャン大丈夫? うちで一番高いやつっていったらその、別に安いのでもいいんっすよ……」

 

 自分で言っておいてまたいきなり心配してる、やっぱショウさんホスト向いてないっすよ。

 

「気にしないでください! 私お金持ちなので! 他のお客さんには負けません!」

 

「なら遠慮なくっす! 本日ご来店いただいたこちらのお嬢様ぬぃいいいいいい! ロマネ・コンティ! 頂きましたーーーーー!!」

 

 

 ホジホジが終わった直後に聞こえてきたショウのオーダーを聞いて、全員が酒の飲みすぎだな、と自分を戒め現実逃避した。

 

 比叡はショウのトークをそれはもう目を輝かせて食い入るように聞いている。

 その顔はなにか自分に欠けていたものを、完全に見つけて手に入れたかのように幸せな表情だ。

 

 比叡は感じていた、今まででも自分は確かに幸せだった。

 だがそれは姉妹を囲みお茶会をしていてもどこか満たされない、そう、お菓子のないお茶会のような人生だったと。

 

 そして提督を得た自分は今、初めてすべて満たされたのだと。

 

「え、比叡チャン料理が得意なの?」

 

「はい! 特にカレーが得意で、あの、よかったら今度味見します?」

 

「まじで!? やった! カレーなんて高級品もう随分食ってなかったんすよ!!」

 

「えへへ、気合! 入れて! 作ります!」

 

 そんな幸せそうな(片方は食事的に)二人に忍び寄る影。

 

 そう、太客のにおいにつられて現れたこの店のナンバーワンホストである。

 

「ショウくーん!! だめじゃな……」 

 

 前のときのようにさらりと割って入ろうとしたナンバーワンホストだったが、比叡の姿を見た瞬間いやな汗が背中から大量に噴出す。

 

 一瞬こちらをちらりと見た比叡の、その、此方に、なんの感情も、能面、顔、どこか、で……。

 

 なんだかとてもとても嫌な勘が働いたナンバーワンホストは、声と自分の姿を取り巻きのホストと一緒に、Eなザイルのくるくる回るダンスを踊りながらフェードアウトさせた。

 勘のよさとパフォーマンスでは誰にも負けないからこそのナンバーワン、その栄光の座にい続けるのは伊達ではないのだ!!

 

 霧島の件? あれは勘とかそういうんじゃ回避できない厄災っていうか蝕っていうか……。

 

 くるくる回りながら器用にフェードアウトしていく先輩達を、ぽかんとした風に見ていたショウだったが、一秒で忘れてまた話し始めた。

 嬉しそうにショウとトークをしながら、比叡は霧島がホストクラブに入り浸っている真の理由に気が付き、どうしたものかと考えをめぐらせる。

 

 

(霧島はたぶん、自分自身にだけショウさんとの適性があると思っている。それは個別適性。歴史的に考えても、当然となる考え方。『艦種適性』や『艦型適性』など、過去の事例から見ても少数の例しか存在しない)

 

 

 だが、と、比叡は思考し続ける。

 

 

(だけど。霧島がショウさんと適合した。そして、私もショウさんと適合した。お姉様や榛名とも適合する可能性はあるわね。まさか艦型適性……つまり金剛型適性? そうだとするなら。いや、そうじゃなくても報告しなくちゃいけない。金剛姉様や榛名にも報告しなければ……)

 

 隣を見る、ショウが不器用ながら一生懸命、比叡のために、比叡のためだけに、やさしそうな笑みを浮かべ、比叡をひたすら見つめながらお酒を注いでくれる。

 

(……報告はしなければならない。でも、そうなればどうなる? 勿論提督をめぐって姉妹同士の血みどろの争いが勃発、などという事態は起こらないだろう、起こるのはどう提督を共有するか、それが争点の会議になるはずだ)

 

 そうなると一番になるのは難しい、金剛姉様が居る。

 

 

 戦後史上『最凶の金剛』とうたわれる金剛姉様が居る。

 

 

(なら今だけは、もう少しだけでも、ショウさんに私のことだけを見ていて欲しい)

 

 そして出した結論は、もうしばらく、もうしばらくだけこの幸せな時間を楽しんでみたい。

 そんな、裏の裏の世界に身を置いた比叡とは思えない、砂糖菓子のように甘い夢のような結論だった。

 

 

 ……なにかの、カウントダウンが進んだ音がした。

 

 

 が、それはまだ先の話。

 

 この後、足しげく通い始めた比叡を見て、店のホストや従業員達は二人目の太客(災害)をゲットしたショウをなんだかんだで祝福してくれた、避雷針的な意味で。

 

 あれな先輩もいるが、なんだかんだでいい職場なのかもしれない。

 

 

 

 余談だが後日、調理工程中におかしな手順が“介入していない”比叡カレーの差し入れをもらって食べたショウが

 

「なにコレ! ウマァアアアアアアイ!?」

 

 と、あまりの旨さに絶叫を上げる姿があった。

 

 

 

 あと、比叡の正体に気が付いてしまった店長は店の裏で吐いていた。

 

 

 




逃げろショウ!! 今ならまだ間に合う!!(間に合わない)
 

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