闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

76 / 76
今回で、本作は終了です。ご愛読、ありがとうございました


第76話

 あれから月日は流れて。

 

「そこまで!」

 

 【フレイヤ・ファミリア】本拠(ホーム)、『戦いの野(フォールクヴァング)』。そこに広がる原野に、昼食の時間を告げる鐘の音をかき消す程の大きさの声が響き渡る。

 

「これより1時間の食事休憩をとる!その後は筆記用具を持って書庫に集まるように!」

『イエス、サー!』

 

 男性──ベル・ヴァレンシュタインの指示を受け、先程まで疲労から転がっていた団員達がボロボロの体に鞭を打って立ち上がり、了承の声を発する。

 姓から分かる通り、彼はアイズ・ヴァレンシュタインと結婚し、更に2児の父となった。

 きっかけは、レフィーヤの嫁入りを機に自分の将来を考えたアイズが自問自答を重ねた結果、ベルに対する好意を自覚。朝の鍛錬の前に告白(プロポーズ)し、ベルが『両【ファミリア】の主神の了承を得たら』という条件つきでそれを受け入れたため。

 だが、二人が交際を始めるまでは、苦労の日々が続いた。

 ベルとアイズの交際を認めない両【ファミリア】の主神の説得。

 『寝取られた!』と泣き喚きながら襲撃してくるベル(若しくはアイズ)を狙っていた冒険者達の迎撃。

 『私の眷族()になれば、二人を阻む【ファミリア】の壁は無くなるわよ?』などと宣う神フレイヤ率いる【フレイヤ・ファミリア】との『戦争遊戯(ウォーゲーム)』。

 これらを経て漸く、『立て続けというほどの頻度ではないが団員が減るのは大きな損失なので、挙式は交際して1年以上経ってから行う』という条件で二人の交際は認められた。

 ベルが『戦いの野(フォールクヴァング)』にいる理由だが、【フレイヤ・ファミリア】との『戦争遊戯(ウォーゲーム)』に勝利した【ヘスティア・ファミリア】は、神フレイヤを神ヘスティアの『従属神』とすることで、【フレイヤ・ファミリア】を吸収。同時に、【フレイヤ・ファミリア】がこれまでに蓄積した技術や知識を吸収し、ベルの『探索しない探索系【ファミリア】』という理念(スローガン)の実現に活用したためである。

 当然ながら、反発はあった。【フレイヤ・ファミリア】の団員達は、ベルの理念(スローガン)に基づく鍛錬内容(トレーニングメニュー)について、『温い』とか『軟弱者を量産するつもりか』と酷評し、協力を拒否した。しかし、ベルが根気強く一人ずつ説得を続けたことで、【フレイヤ・ファミリア】が持つ知識と技術を得た。

 

「いってぇ……」

 

 鍛錬を行っていた団員の一人。金髪赤目の少年が歩くたびに体を走る痛みに顔を歪める。

 少年の名はアルトリウス・ヴァレンシュタイン。ベルとアイズの子供であり、冒険者になって半年の新米(ルーキー)。年は13歳。

 ベルとアイズの子供ということもあって、周囲の神々や人々は彼に期待を寄せる……なんてことはなかった。むしろ、両親のように無茶をしないよう口を酸っぱくして言い聞かされて育ってきた。アルトリウスの方は一度だけ年相応に反抗しようとしていたが、具体的に起きた出来事を両親が滔々と話すことで反抗心を粉々に砕いた。グレイ程ではないが、両親の歩んだ道は茨の道だったとアルトリウスは頭と心の両方で理解した。

 

「何をグズグズしている」

「い゛っ!」

 

 のろのろと歩くアルトリウスの尻に、ヘディン・セルランドが平手を叩きつける。

 

「頭から湯船に放り込まれたくなければ、迅速に体を清めてこい」

「イエス、サー!」

 

 ヘディンに睨まれたアルトリウスは、そそくさと風呂場へと向かう。

 

「あれだけ苛め抜いてなお動く余力が残るか……明日の模擬戦はもう少し苛烈にするとしよう」

「死なない程度に加減してくださいね!」

 

 そんな彼の後ろ姿を見て呟いたヘディンに、すかさずベルが耳打ちする。

 それが聞こえたのかは不明だが、背筋がぞわっと凍り付いたアルトリウスは更に歩くスピードを上げた。明日の自分の首を締めることになるとは知らずに。

 

 

 

 

 同時刻、『戦いの野(フォールクヴァング)』書庫。

 

「皆さーん、お昼ですよー」

 

 昼食の準備を終えた『満たす煤者達(アンドフリームニル)』の顔役にして、【フレイヤ・ファミリア】のヘイズ・ベルベットが、書庫の扉を開けて声をかける。

 書庫にはアイズとレフィーヤ、そして、白髪金目の少女が一人いた。

 少女の名はアンジェラ・ヴァレンシュタイン。ベルとアイズの子供であり、アルトリウスの妹である。アルトリウスと違い、彼女はまだ10歳のため冒険者になれず、あと3年待たなければならない。なので、3年後に備えて彼女は日々書庫で勉学に励んでいた。午前中は『竃火の館』か『戦いの野(フォールクヴァング)』の書庫で、昼食後は『ギルド』の資料室か都市東部の『ノームの大図書館』に夕食の時間まで籠っている。彼女は兄と違って年相応に反抗を試みず、大人しく周囲の言いつけに従っている。……今のところは。

 一方、アイズとレフィーヤは午後の座学で使う抜き打ち試験(テスト)のための問題文に間違いが無いかのチェックを行っていた。

 

「行こうか」

「はい」

 

 問題文に間違いが無い事が確定したのか、試験(テスト)用紙を裏返してアイズとレフィーヤは立ち上がる。

 立ち上がった二人の腹部を見れば、少々膨らんでいる。二人とも、3人目の子を身籠っているためだ。そのためロキ、ヘスティア、フレイヤの3柱は時々集まっては、子供につける名前について意見交換を行っている。尤も、ロキとヘスティアが自分の提案した名前にすると譲らないところから取っ組み合いに発展し、それをフレイヤが生暖かい目で見つめて時間は過ぎていくため中々決まらないのだが。

 

「ねえ、お母さん」

「なに?」

 

 食堂への道中、ふと窓の外を見たアンジェラがアイズに訊ねる。

 

「今日って『茶会』があるんだっけ?」

「うん。だから、グレイさんとアナ、ウィンディはダンジョンに潜ってるよ」

 

 『茶会』とは、不定期でダンジョン18階層で開かれる催しのこと。会場の都合上、招待されるのはLv.2以上の冒険者のみ。そしてどういうわけか、『茶会』の間に起きた出来事については決して口外してはならないことになっている。

 

「……私も行ってみたいな」

 

 ポツリと呟いたアンジェラの肩に、アイズがそっと手を置く。

 

「気持ちは分かるけど、焦ったら駄目」

「うん」

 

 娘がかつての自分のように無茶をしてしまわないように、アイズは優しく諭した。

 

 

 

 

 ダンジョン18階層。(リヴィラ)から離れた、『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』の片隅。

 極東の『茶室』というこじんまりとした建物が、ひっそりと建てられている。ここが『茶会』の会場であり、入口横の棚には招待された冒険者の得物が掛けられている。

 

「どうぞ」

 

 今回の席主──『茶会』の主催者であるグレイが、点てた茶を客に出す。客の髪と同じ青色で、少々形が歪な半筒形の茶碗。

 

「お先に。お点前、頂戴します」

 

 一礼して茶碗を手に取ったのは、極東の着物風に仕立てた水精霊の護布(ウンディーネ・クロス)を身に纏ったウィーネ。普段は垂らしている長い髪を、今日は命のようにサイドテールに結われている。

 『茶会』とは、ウィーネのように人型で人語を話すことのできる『異端児(ゼノス)』と、冒険者2名を18階層に招いて行われる催しである。カアス率いるダークレイスの大軍との戦闘時にヨームが巨人というのが称号ではなく種族としてであると判明し、オラリオにある彼の像が作り直されて年月が経ったとはいえ、人とモンスターが手を取り合う日はまだ訪れていない。それだけ、両者の間にある溝は深かった。

 そこで、『怪物祭(モンスターフィリア)』に追加して開催することになったのが『茶会』であり、そのために茶室は建てられた。表向きは、『冒険者=乱暴者という世間からの良くない認識を改善するために、礼節を身に着けさせる』という理由で。

 席主を務めるのは【ヘスティア・ファミリア】のグレイか春姫、【タケミカヅチ・ファミリア】のヤマト・命のように『異端児(ゼノス)』の存在を知っていて、恐れることなくコミュニケーションをとることができ、ある程度茶道の礼儀作法を身に着けている人物が務めている。『茶会』の間に起きた出来事について口外してはならないのは、『理知を宿しているとはいえ、モンスターと同じ釜の湯で点てた茶を飲みたくない』と冒険者の探索意欲が下がってしまうのを防ぐためである。

 

「結構なお点前で」

 

 茶を飲み干したウィーネが、空になった茶碗を置いて再び一礼する。春姫から教わった茶道の作法に一切の澱みはなく、同席していた2人の冒険者は彼女の一挙手一投足から目が離せなかった。

 ウィーネから目を離せなかった2名の冒険者のうちの片割れ、長い山吹色の髪を三つ編みにした黒目の少女の名はアナスタシア・モナーク。グレイとレフィーヤの娘である。

 一方、黒髪をボブカットにした黒目の少女の名はウィンディ・モナーク。彼女もグレイとレフィーヤの娘であり、アナスタシアの双子の妹である。

 彼女達は15歳であり、2週間ほど前に【ランクアップ】したために『茶会』に出席する権利を得た。

 

「どうぞ」

 

 グレイが再び茶を点てて、アナスタシアに茶を出す。椀形の茶碗には、濃淡の異なる赤で燃え盛る炎のような模様が描かれていた。

 

「お、お先に。お点前、頂戴します」

 

 ヨームの像や書物から理知を有するモンスターが存在することは知っていても、実物を前にして動揺しているのか、彼女の所作は少々ぎこちなくなっていた。

 

「結構なお点前で」

 

 『ごめんなさい、春姫さん!』と、自分に茶道の礼儀作法を教えてくれた師への謝罪の言葉を心の中で口にしながら、空になった茶碗を置いて一礼する。

 

「どうぞ」

 

 三度茶を点てて、ウィンディに茶を出す。夜闇のように黒い輪形の茶碗の外側には、星を連想させる斑紋が浮かんでいる。

 

「お点前、頂戴します」

 

 ウィンディは冷静に茶碗を手に取り、三回回す。だがそれは表面上であり、内面はアナスタシアに負けず劣らず動揺していた。

 

「結構なお点前で」

 

 茶を飲み干し、空になった茶碗を置いて一礼する。

 

「(いいですか?)」

「(ああ)」

 

 グレイとウィーネが目で会話をすると、ウィーネは改めて背筋を伸ばして口を開く。

 

「私のように理知を備えたモンスター、神ウラノスが『異端児(ゼノス)』と呼ぶ存在が、ダンジョンにはいる」

 

 ウィーネがアナスタシアとウィンディの目を真っすぐと見つめ、言葉を紡ぐ。

 

「そして私達は、生き残るために同胞以外のモンスターを殺し、『魔石』を食べて力をつける」

 

 それは、いつかリドがベルに伝えたという説得の言葉。

 

「だから、私達の存在を知ったからといって、モンスターを殺すことを躊躇わないで。例え、それが私達のように喋ったとしても、牙をむいたなら、殺して」

 

 言い終えると、ウィーネは深々と頭を下げる。いくらウラノスが、『異端児(ゼノス)』が人と怪物(モンスター)の共存を求めているとはいえ、モンスターに襲われた時に無抵抗でいることは求めていない。理知を宿さぬモンスター、共存を望まない『異端児(ゼノス)』に相対した時は、自分の命を最優先に欲しいと説得の言葉を投げかける。

 

「「……分かりました」」

 

 アナスタシアとウィンディは、暫し考えた後に同意の言葉を口にして軽く頭を下げる。人もモンスターも平等に殺してきた父親の冷たい部分を二人は受け継いでいたのか、すんなりとウィーネの言葉を聞き入れた。

 

「本日はお越しいただき、誠にありがとうございました」

 

 道具一式を下げたグレイが、ウィーネ達に向かって一礼すると感謝の言葉を口にする。

 

「大変結構なお茶を頂戴し、ありがとうございました」

 

 すると、ウィーネがグレイに向かって挨拶をする。

 

「本日はお相伴していただき、ありがとうございました」

「「ありがとうございました」」

 

 続いて、ウィーネがアナスタシアとウィンディに挨拶をすると、二人も挨拶を返す。

 ……これで、今回の『茶会』は終わり。ウィーネ達が退席すると、最後にグレイが茶室を出て、きっちりと施錠して娘達と共に地上へと向かった。

 

 

 

 

 世界の果て。下界に降臨していない神々が身を粉にして働いている天界から、遠く離れた場所。

 そこには巨大なすり鉢状の窪みがあり、端から端まで炎で満たされていた。

 これこそが、『始まりの火』。

 万物に差異を齎し、今も世界を照らし続けている火。

 その火に向かって揺らめく何か──神々に導かれたソウルが吸い寄せられていく。そのソウルの持ち主が何者であったか、そんなものは関係ない。人であれ、獣であれ、草花であれ、全て等しく始まりの火に焚べられる燃料でしかないのだから。

 それらが入り込むと、入れ替わるように透明なソウルが、燃料としての役割を終えたソウルが、新たな器となる肉体を求めて、地上へと向かう。

 

 

 

 

 こうして、始まりの火は世界を照らし続ける。

 

 

 

 

 地上に命の営みがある限り。




以下、『こうだったらいいな』な補足を二つ。
一つ、グレイの兄オスカーの末裔がアストラのアンリであり、その末裔はベルの母親。つまりベルとグレイは(ほぼ他人だけど)親戚。
二つ、現在オラリオがある土地には、アストラという国が存在した。グレイは気づいていないが、故郷に帰ってきていた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編(作者:noanothermoom)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

闇派閥がオラリオで暴れていた時代▼後の世で暗黒時代と呼ばれるその時にオラリオに多数の来訪者が現れた▼異世界から来た異端の力を持つ者らは竈の女神の出会いそして変わった▼時は流れとある少年がオラリオへとやってくる▼彼の名はベル▼かくして本来の物語より離れた物語が始まる▼前作忍びと灰と焚べる者と狩人とダンジョンをお読みいただいた方にはありがとうございます▼前作終了…


総合評価:4185/評価:8.32/完結:73話/更新日時:2022年10月30日(日) 14:14 小説情報

ダクソかブラボとダンまちのクロス流行れ(作者:鷲羽ユスラ)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

だれか書いて(切実)▼はたけやまさんから主人公の絵を頂きました!▼感無量です! 本当にありがとうございます!▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼まるっぷさんから13話のとあるシーンの挿絵をいただきました!▼本当に嬉しいです! ありがとうございます!▼【挿絵表示】▼


総合評価:17938/評価:8.93/連載:22話/更新日時:2022年08月18日(木) 22:45 小説情報

ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?(作者:混沌の魔法使い)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

どうも混沌の魔法使いです▼今回は飯を食えシリーズの3作目としてダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか版です。▼お祭時空で何でもありのダンまちを目指して、オラリオで暴れる(かもしれない)カワサキさんをよろしくお願いします。


総合評価:12412/評価:8.46/連載:101話/更新日時:2026年06月17日(水) 22:05 小説情報

ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。(作者:一般通過社会人)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

ダンジョンで5年過ごした主人公がやらかす、ドタバタコメディ!(なお周りは曇る模様。)


総合評価:2458/評価:6.92/連載:36話/更新日時:2026年07月23日(木) 15:04 小説情報

ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?(作者:アゴン)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

▼これは、英雄の物語ではない。▼これは、神々の物語ではない。▼これは、初っ端から色々とやらかしてくれた眷族と主神による。▼やらかしの物語である。


総合評価:15282/評価:8.32/連載:139話/更新日時:2026年07月21日(火) 23:58 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>