Fate Apocrypha学園 作:ただの名のないジャンプファン
前回の続き、ジャンヌの手伝いで放課後に部活動の視察を行っていたジーク。
そこで彼はスポーツというものを生で見るのは初めての経験で、好奇心に満ち溢れみていたが、学園のとある問題児がいる剣道部に立ち寄る事になりそこでただ1人の剣道部部員モードレッドに会う。
モードレッドは生徒会からも目をつけられる程、素行の悪さが目立つ女生徒だった。
そこから何をどういえばいいのか、ジークはモードレッドに無理やり部活に入れられる。
だが、モードレッドは名前を貸せば別に来なくていいと言うのだ。
つまり彼女はジークに幽霊部員で居ろと言うのだ。
今回、ジークが見て回った部活動は全て一致団結し時にはライバルとして切磋琢磨していくもののはずなのに1人でやる部活は部活動では無いと宣言してしまう。
格下にものを言われ、目上の説教のような言い分に腹を立てるモードレッドは初心者であるジークに突然野良試合を申し込んだ。
〜sideジャンヌ〜
時は遡ること数分前‥‥てきぱきと部活視察を行うジャンヌ、ジークと違い手馴れているジャンヌは1つ1つにそこまで時間をかけずに次々とやっているので処理速度はジークよりも当然早い。
「ふぅ~ありがとうございました。」
地域交流研究会の部室を出て廊下に立ち残りの部活動に目をやる。
「さて、あと2つですね、後は‥‥あ、あれ?」
ジャンヌは以前から危険視していた部活である剣道部が手元のリストの中にないことに今気が付いた。
何度見返してもそこにはなく段々と最悪な状況を想像しながら顔が青くなっていく。
「も、もしかしたら、ジーク君のリストと間違えて‥‥」
ジャンヌはリストを手渡す時、自分の分のリストとジークの分のリストを間違って手渡してしまったのだ。
いつものジャンヌならこの様なミスを犯さないだろう。でも今回は独りですべて回るつもりだった。その為に急遽作った自分とジーク用のリストを間違えて渡してしまったのだろう。
別に弓道部などは問題ないだろう。むしろ学校やスポーツの真髄を知ってもらう為には行って見た方がいい。
だけど、剣道部は違う。自分でも手を焼くあの不良もどきの生徒に絡まれて滅多打ちにされ、辱められ、口も開けないぐらい虐められ、最悪どこかに障害を持ってしまい、最悪自ら命を‥‥
そのイメージが頭によぎった瞬間ジャンヌは急いで廊下を走り出す。そうなってからでは遅い遅すぎる。
その最悪のイメージを振り払いながらジャンヌは廊下をかけていく。
途中で先生から「廊下は走るな!!」と注意を受けても「すみません」と一言言って彼女は剣道部の道場へと急いだ。
〜side道場〜
烏が泣き始め、日も暮れ始め青かった世界は濃い橙へと色を変え、影も黒くなり木のように伸びていく。
耳に聞こえるは微かに聞こえるチャイムだけというこの静寂が支配する空間で2人の選手が竹刀の距離で向き合う2人。
「いいか!お前はどうやってもいいから俺から1本取れば勝ち!!俺はお前が降参したら勝ちだ!!!分かったか!?」
「分かった。」
ジークは面や小手を付けてもらいがっしりと身体全体を覆っている。
だがモードレッドは道着を1着着ているだけで、他は防具類全て何も身につけていない。
これは自分がお前如きの太刀なんて一太刀も喰らわないという絶対的な余裕なのか?
それとも初心者であるジークへのハンデなのか?
それとも両方なのか?
「始めるぞ、準備はいいな!?もやし野郎!!」
「ああ、いつでもいい!!来い!!」
数コンマ間を開けてモードレッドは試合開始の合図を天に向かって吠えつけた。
それと同時に荒々しかったモードレッドの気が突如霧散する。
それに目を開き驚嘆するジークだった。
だが、そんなちょっとした行動は敗北へのきっかけへとなる事を今、この場で轟雷の様な叫び声とともにモードレッドは紫電の様にジークの思考を駆け抜けた。
「面!!」
上から響く振動に痛みこそ軽減されたが面から響く振動は脳に響きぐらつかせ足まで渡っていく。
今分かった‥彼女のあのギラついた気は消えてなんかいなかった‥‥
全て集約し1つに統一していたのだ。
まるで自分そのものが1本の剣の様になるまでに、今のモードレッドは間合いに入った全てを切りかかる妖刀のようだった。
「どうだ?身に染みたか?自分の身の程ってやつをよぉ」
「ま、まだだ‥‥まだ、俺は降参していないぞ‥‥」
強者として膝をつく相手を文字通り見下すモードレッド。
だが、ジークは負けを認めるつもりは無く、すぐに立ち上がり竹刀を構える。
モードレッドは舌打ちしながらルール通り付き合ってやる。
(まっ、後2、3度やり合えば否が応でもでも諦めるだろう。)
そう思ってお互いまた竹刀を突き合わせて剣道独特の距離の測り方で構える。
今度はさっきの様に行かせないためにジークから切り込む。
「やァァァァァ!!」
何度も振り下ろす竹刀をモードレットは片手で遇う様にあしらい、触手のように絡めとる。
「ふっ」
絡まれたジークの竹刀は宙に弾き飛ばされ、空いた胴に鋭い閃光に感じる位一瞬で突き飛ばす。モードレッドの鋭い突きを受けてジークは吹っ飛ばされて尻餅をつく。
吹っ飛ばされては膝をつき、面を打たれて尻餅をつく何度も何度も繰り返し無様を晒すジーク。
「いてて‥‥」
「おい、まだやんのか?」
それでもこの時、モードレッドにはもう侮りや侮蔑何てものは無かった。
ジークを諦めの悪い敵と見定めて低く現実を突きつける。
その為にジークにとって彼女の言葉はもう疑問形では無い。命令形に聞こえた。
自分力を思い知れ、図に乗るなそう言った言葉を交えている気がする。
(モードレッドにとって俺は格下なんて距離じゃない、上を見上げても届かないぐらい離れているんだ。)
ジークは自分とモードレッドとの差を認識はしたが、それでも彼女に対してそう簡単に折れる訳にはいかななかった。
一方、モードレッドの方も、
(勇敢さと度胸だけは買ってやる。でもな、それだけでやっていける世界じゃないんだよ!!剣の世界はな!!)
彼女もジークの度胸は認めた。
しかし物事はそう簡単に上手くは行かない。
だからこそモードレッドは試合形式でそれをジークに分からせる為に勝負を吹っ掛けたのだろう。
「だが負けじゃない。これは正式の試合じゃない、俺が降参と言わなければ俺の負けにはならない例え100本取られたとしてもだ」
そう言うとジークは背中に手をやりコソコソと動かす。
モードレッドはそれが何の行動かわからずに首をかしげて
「おい、お前‥何やっているんだ?背中でも痒いのか?」
彼の行動を尋ねた。
するとジークは、
「すまない、この防具外してくれないか?」
「はぁ?」
思わず耳を疑いたくなるセリフを吐いた。
モードレッドにしてみれば彼の思考がおかしいのかとも思えてくる。
防具を外すなんて幾らルールを知らなくてもそれ外したら軽いケガじゃすまなくなる。
まして相手は自分と違い剣術に関してはドが付くほどの素人なのに‥‥
「お前、ふざけてんのか?タダでさえ実力の差があんのにソレ(防具)を外したら、手前の綺麗な肌もアザだらけの茄子みたいになんぞ。」
「構わない。別に肌をそこまで守りたい何て思っていないからな。」
ジークは手を止めることをやめずに上の面を取り外し次に小手を外す行動に移る。
モードレッドは大きくため息を吐き、
「はぁ~骨折とかしても泣きついてくんじゃねぇぞ‥‥それにそれはお前が頼んだ事だからな、後々になって俺に面倒をかけるなよ」
モードレッド自身は既に自分に対する悪評は知っているので、今更悪評の1つや2つどうってことないが、今回はあの生徒会の女狐に見られていた事から、後々生徒会から事情を聞かれるのは不味かった。
その為、事前にジークからの怪我を負っても面倒事にしない様に言って、彼もそれを認めた。
「あぁ」
ジークの背後の防具の結び目を取り外し端っこに置いといた。ジークは後ろの防具に目をやらずに目の前にいる試合の相手を見据えている。
「もう1本いくぞ!」
「来い!」
小さな道場内を響く乾いた音、竹刀が竹刀とぶつかり合い奏でる音は最初そこまでしなかった。
何故ならジークが瞬殺されていたからだ。
でも少しずつ、少しずつだがジークはモードレッドの剣筋を捌けるようになってきた。
ジークにとってもあの防具はとても重く慣れないために動きづらくて仕方なかった。その為に外した方がジークの身は軽くなり動きにキレが出てくる。それだけじゃない、ジーク唯一の才能と言えるものがジークを更に喰いつかせる。その才能とは覚えの速さだ。半年足らずで高校受験を成功させるぐらいの知識を身につけ、それを促進させる貪欲さと度胸がある。
痛みなどにくじけないジークの精神力が常にモードレッドの剣筋を観察し自分の剣筋をその為だけに進化せている。
「手前ぇ!!あぁウザってぇ!!」
そんな剣がとても鬱陶しい、原型など形成されてなく水の様に常に形を変えるジークの剣に腹を立たせる。
(そんな異形の剣なんて認めてたまるか、そんな簡単に自分に追いつかれてたまるか!!)
モードレッドとジークの実力は地と太陽位の差はあるだろう。
でもモードレッドは何故か焦っていた。
覚えるのが早くそして自分と同じ条件で戦うジーク。その目にひっそりと忍ぶ闘志、決して熱くはないし滾ってもない、でも密やかに消えることなくか細くつなぎとめられたそれがモードレットに錯覚させている。
こいつは自分と同じ所に立っていると‥‥
「いい加減、諦めやがれ!!お前もアイツらと同じだろう!?虫のような屁理屈並べてくっだらねぇプライドを守ってやがれ!!」
「俺にそんなのはない、そんな立派なものは俺の中にはない。だけど...」
(そうやってすぐに想像だけで結論づけてはいけません。当たって見なければわからない事なんて良くある事です。)
自分が気を許している少女の言った言葉が頭をよぎるとジークの目はさらに鋭くなっていた。
「想像だけで負けたと決めつけたくない。勝ってお前に間違いだって自覚させてやる。」
今まで見たことのない瞳。
小さい頃からずっと剣道をしていたモードレッド。そんな彼女が男と試合するのは珍しくない。寧ろそこら辺の女子より頭一つ飛び抜けていた彼女の練習は男としなければ成り立たないほどだ。
でもそれもすぐに意味をなさなくなる。モードレッドは男でも手をつけられない位才覚をひめていた。強すぎる才覚は人を人との繋がりを断ち切らせる。しかも自分は女だ。認めたくなくとも事実は現実。男よりひ弱であるのが当たり前の世界で自分と言う存在は周りにとっては目障りでしかなったのであろう。
(女の癖に、無駄に生意気なんだよ。少し強いからって調子のんなよ!!)
(女がそんなにいけねぇのか!?あぁぁ!!!)
(なぁ、あいつ同い歳の奴に負けたんだってさ)
(これで少しは大人しくなるだろう。)
(前からアイツは気に入らなかったんだ‥‥いい気味だぜ)
(ざまあみろ)
もう誰が言ったかもわからない言葉の苦汁が頭の中に注ぎ込まれていくモードレッド。
またお互い竹刀を構え直してもう1本試合を行う、だがここでモードレッドの剣筋が乱れ始めた。
まるで何かを怒りのまま振り払うように竹刀を振るっている。
鮮やかな剣筋が乱れ始めた事にジークは驚いたがこれはチャンス、最初のモードレッドの剣筋じゃジークに勝ち目なんて無かった。
これなら...とジークは受け止めながら隙を伺っているがモードレッドの荒ぶる剣は逆鱗に触れた龍の如く暴れ回りジークを喰らってくる。
(何という剣だ。さっきよりも手がつけられない。)
そう考えている一瞬の隙、動くことの出来ないジークにこれまでにない力の籠ったモードレッドの竹刀がジーク叩き割り、勢いを止めるものを失ったモードレッドの竹刀は、先に込められた力全てがジークの脳天に振り下ろされる。
「しまっ!?」
それを食らったジークはそのまま意識が沈下し、タラリと血が流れ落ちる。
「やっちまったぁ!おいしっかりしろ!!おい」
モードレットの声は沈んでいくジークの意識から遠のいていき最終的に...........
〜side???〜
頭が痛い、何だ?このビリビリと来る痛みは、と言うより俺はさっきまで何をしていたんだ。
ジャンヌの手伝いをして剣道部まで行って...
「はっ!?」
ここで意識がはっきりしたジーク、近くにはTシャツの上に赤いレザージャケットとデニム生地のローライズ・ズボンを着たモードレッドが横にいた。
「ここは...?」
(なんだ?この匂い)
嗅いだことのない鼻にするりと入り自分の脳を刺激してくるこの匂いは嗅いでいるだけでむせてくる。
(それにこの部屋、さっきまでいた道場じゃない。)
周りは暗く静かでガラスの中を転がる氷の音がよく聞こえてくる。
「んあ、ふぁぁぁぁあ~やっと起きたか?」
「お前はっ!?」
モードレットが隣に居たために無意識に距離を取るジークにくたびれたようにモードレットは現状を説明してくれる。
「あんま急に動くなよ。思わず頭をやっちまっんだからな、少し待っていろ。」
とその場を離れるモードレッド。
ジークはもう1度自分のいる場所を確かめるために辺りを見回す。
モードレッドが向かった先で話しているのは茶色い髪でこの空間とマッチした黒い服とサングラスが異様に似合う、少し厳つい感じの男でカウンターの中ってことはあの人はこの店の店主...まぁ店の人だろう。
その人の後ろにあるものを見ると数え切れない量の瓶が置いてある。
あの瓶には見覚えがあるあったよくセルジュが飲んでいたお酒というものだ。
興味半分で飲んだら凄く辛くて自分には合わないあの飲物、セルジュから『これはもう少し大人になってからだ。』と言われた。
ここはお酒のお店か、確かに客も自分と同年代の人は1人もいなかった。
そう考えてくると自分の肩身がどんどん狭くなっていく。
「よう、お前さん目覚めた様だな。大丈夫か?手足も問題なく動くな。」
「あ、ぁ」
言われるがまま自分の手や足がしっかり動くのを確認し戸惑いながら答えた。頭もまだ少し違和感がある。
「はぁ、とりあえず首の皮1枚つながったな。にしてもお前さんよくアイツに絡んだな。見た目はどこにでもいる優男なのに‥うちの娘は、まぁ顔は良くても性格が悪いからなぁ、そのせいで学校でも浮きまくりだろう?」
はっはっはと高らかに笑うこの人..モードレッドの父親なのか?
そんな事を言った気がするが、
「黙っていろ!クソ親父!!」
遠くから吠えるモードレッド。
間違いないこの人は彼女の父親だと確信するジーク。
その反面、あまりにも似ていない親子だと思った。
自分と同じく養子なのだろうか?
「おっと、名乗ってなかったな。俺は獅子劫界離。このバー、『ライオネル親方』のマスターやっている。そしてアイツの親父だよ。」
宜しくと手を差出してくる獅子劫にジークは名乗りながら手を握る。
「ジークだ。」
「ジーク、頭は大丈夫か?竹刀で思いっきり叩かれたらしいが」
獅子劫の言うようにやっと竹刀で叩かれた記憶を思い出し、痛みを和らげようと擦るが傷があるのか触るとヒリヒリしてくる。
遠くを見ると先程自分か寝ていた場所の頭付近にハンカチが置かれていた。あれで冷やしていたらしいそれに包帯も巻かれていた。
「あの、保健室のババァが居なくてな。後の事を考えたら親父に手当任せて最悪こっちで病院に送ってやろうって。親父の仕事場なら車もあるし親父は応急処置ぐらいもできるからな。」
頭をかきながら面倒くさそうに経緯を詳しく教えてくれた。モードレットは「ったく、部活時間にいなくていつ仕事すんだよ。あのババァは」とボヤいている。
「その、すまなかったな。手を煩わしてしまった。」
そうジークが謝ると不機嫌そうにジト目になるモードレットさらに項垂れるように愚痴をこぼす。
「ほん...とによぉ、お前をここまで運ぶのにも難儀したんだぜ〜。荷物纏めて、それごと手前を背負っておぶってここまで歩くんだからな。お前が最初っから諦めていたらここまでスタミナ持っていかれずに済んだのにな。」
ジークはモードレッドの愚痴に顔を暗くして表情が沈む。
こう返されると思っていなかったモードレッドに対して変に調子を崩されジークの胸倉を掴んで自分の方に引っ張る。
「何で、お前はそんななよなよしてんだよ!普通ここは俺に突っかかってくるだろ!!!」
「だが、お前の言うことは尤もだ。俺が試合を申し込んでそれから勝手に怪我した。それが今の現状だろう?」
「だ〜か〜ら、んな堅っ苦しいの要らねぇんだよ!お前さっき俺に突っかかって来た気合いはどこいったんだよ!!」
モードレッドが勝手にキレて逆上しているようにしか見えない。
難儀と言うか、面倒くさい性格だ。
「おい、いいのかマスター?」
「何がだ?」
そのモードレッドの父はカクテルシェイカーをシェイクしながら注文の品を作っている。それを心配した30代後半っぽいお客の1人が、自分の娘を止めなくていいのか聞く。
あれが大人びた空気をぶち壊して青春オーラを漏れさせているために客の人達も落ち着いて酒が飲めなくなってきている。
だが、獅子劫はそれをよしとしているのか口を出さずに見守っている。
「いいんだよ....初めてなんだ。」
「えっ?」
「アイツが、同年代と口喧嘩してんの見るのは‥‥」
嬉しそうに零す言葉に思わず客の人は加えていた煙草を落としてしまう。
今の獅子劫はマスター何ていう雰囲気じゃなく、モードレッドの父親のような雰囲気で話している。
それはそうだ。獅子劫は今父親としての喜びを味わっているのだから‥‥
男手一人で育ててきてせいか、モードレッドは、顔は美人の部類にはるが、性格は男勝りな性格となってしまった。
しかも女扱いされると怒る。だからと言って男扱いしても怒るという大変面倒くさい性格になってしまった。
「じゃあ、どうすればいいんだ。怒ればいいのか?」
「誰が怒れてつったよ!俺はそのままの気持ちを言えばいいだろって言ってんだよ。」
「だから言っただろう。すまなかったって‥‥」
「そんな分けないだろう。俺が頭やったつぅのに何でお前が謝んだよ!?」
「これは俺の行動の結果だ。だから俺に責任が「あぁぁぁもう!!」」
と声を遮って叫ぼうとするモードレッドに2本のペットボトルが飛んでくる。それをモードレッドは軽くキャッチをした。
中身は普通のスポドリで投げられた先を見ると獅子劫がニッと笑っているのが見えた。
これ以上は客に迷惑がかかるからそれでも飲んで頭を冷やせと言う意味で投げたらしく、モードレッドはばつが悪そうにそれをジークに渡した。
ジークも素直に受け取り獅子劫に礼を入れてからペットボトルの蓋を開けて口をつける。
空気をリセットさせて、頭を冷やしたモードレッドは落ち着いてまた聞き直す。
「まぁ、その‥‥大声を出して済まなかったな。頭に血が登っていた。」
これは素直に受け取った方がいい。そう直感したジークは
「別に気にしてない。」
モードレットはスポドリを一気飲みしてプパーと飲みきったら口を拭い質問してきた。
「なぁ、お前は本当に剣道部に入りたいのか?」
夕方のモードレッドとは何かが違う。そう思わせるのは彼女から出てくる雰囲気とその姿勢。
適当に済まそうとしていたモードレッドとは違う剣筋を会得したいと真剣に考え悩んでいるからだ。
「いや」
でもジークはそんな空気をぶち壊す返答をする。
どんな時でも自分に嘘をつかないジークであった。
モードレッドは目を見開き驚いている。立ってこの答えがジークの本心なら部活のアレは何のための試合だったのか
「お前ふざけるのもいい加減にしろ!じゃあ何で今日絡んで来たんだよ。」
「そもそも、部活動に入る為にお前の部活に行ったんじゃない。」
「んじゃ何のためだよ。」
「ジャンヌの手伝いだ。」
「ジャンヌ?ルーラーか、ぁあそういや抜き打ちで視察に来るってたな。何だ?お前、ルーラーの男か?」
何故か今度は面白そうに絡んでくるモードレッド。
とりあえず肘で突っついてくるのはやめて欲しい。
「男?まぁ、俺の生物学上の性別は男だが‥‥」
かっくりと体勢を崩す。
そこからすかさずにツッコミを入れるモードレットに気圧されるジーク。
「そういう意味じゃねぇよ。その‥あれだ‥‥」
そこから言葉が出なくなるモードレッド。
ジークは彼女が何を言いたかったのか分からないまま聞こうとしてもこれ以上何かしたらまた怒られそうなので止めておいた。
「んで、ルーラーの仕事の手伝いで、何であんな風になったんだ。別に俺の部活を見ればそれで良かったんじゃねぇのか?まぁ変な売女が来ていたが...」
モードレッドは今日来た生徒会の一員を思い出し少し目付きが険しくなる。
思い出しただけで機嫌を悪くするのはやめて欲しい。どうしようもないからだ。
「さぁ、自分でもよくわからない‥‥」
ジークはよく思い返してもあれが何で自分があのような行動をとったかわからない。
「ただ、初めて人をカッコイイと思った。こんな人が頑張っている部活をみすみす失くしてはいけないと思った。努力はしていた。後は人数さえいれば残せるとあいつは言っていただからかもしれない。」
でも感覚だけは覚えている。あの時のモードレッド、誰も立ち入らせない自分だけの域を集中だけで作り出し、一筋の線整った構えで立ち、対象物に自分の意識全てを滔滔と注ぎ込んでいたあの瞬間そこから放たれた雷のような鋭い剣筋、それと伴って発生する雷音のような凄まじい音。
目を奪われた。綺麗とはまた違い感動を感じさせる類ではない。気持ちを昂らせ、興奮が収まらない。無意識に手に力が篭ってくる。胸が激しく動き目を光らせる。男の子が皆子供の時に思う、自分もこんなこと出来たら...と思えて来る。これが格好良い
ジークが話し終わりモードレッドを見るとモードレッドは顔を真っ赤にして目を見開きジークを見ていた。ジークが首を傾げると自分がどんな状態なのか自覚し
「ば、馬鹿じゃねえのか!?んな小っ恥ずかしい言葉を普通に並べやがって...あぁもう!!何で背中がむず痒いんだ!!っクソ、変な汗かいた!!」
モードレッドがさっきよりも緩い眼光だがそれでも真っ直ぐ睨みながらジークに指を指して
「お前もう頭大丈夫何だよな!」
「え?あ、あぁ」
自分の頭を抑えて確かに痛みが引いたことを確かめる。
「ならここにいなくてもいいじゃねぇか!さっさと帰りやがれ!!親父、俺はシャワー浴びてくる!!」
「おう、ゆっくり浴びて来い。浴び終わったらカウンター頼むわ」
「...」
返事は帰ってこない。だが獅子劫は嬉しそうに頬を緩ませた。
「坊主、家は何処だ?送っていくぞ」
「いや、大丈夫だ。1人で帰れる」
ジークはカバンを持って帰ろうとする。話は終わりもう夜分も遅い。時刻は既に夜の9時を回っている。
「そうもいかねぇよ。お前さんの頭をやったのはうちのガキだしな。それに夜遅いし何かあっては申し訳も言い訳もたたん。まぁ、ラッキーだと思って黙って車に乗せてもらえ。」
そう言ってジークの肩に手を回して誘導していく。
「だがお店は...?」
「大丈夫だ。娘はたまに手伝ってくれるからな、あっ、学校にはチクんなよ。未成年だが家の手伝いに含まれっからな。」
獅子劫はそう言って店の外に連れ出して店の裏にある駐車所をから車を取りに行った。
「車か‥初めて乗るな」
ジークは見た目では分からないが内心ワクワクしている。男の子だから未知の機械に気分は勝手に高揚する。
「待たせたな。行くぞ!」
獅子劫の車は最近よく見る型ではなく、一世代前の車種だ。
使い古されているらしく何度も拭いた後が見受けられ、そのせいで付いたような傷もあった。
「乗れ」
獅子劫は助手席のドアを開けジークはそちらに乗る。
しっかりとドアを閉めたのを確認したら自分も乗りエンジンをつける。すると前に見た化学の実験動画でしたようなちいさな爆発のような音がし、そこから小気味よくブロンブロンと音が鳴る。
「んじゃ行くぜ」
勢いよくアクセルを踏み車はその勢いに呼応するように車は走り出した。
走っている途中にジークは住所を聞かれ獅子劫はそれをナビに入れた。
ジークは車に乗った経験があまり無いからわからなかったが獅子劫は見た目によらず物凄い安全運転だ。
周りの車に気をつけ信号も無理は絶対しなかった。ジークもこれは快適と思えるぐらいに気分よく乗れた。
「今日はありがとうな、坊主」
「?」
「初めて見たんだ。アイツがあんなに同年代と楽しんでいるのはな。アイツはあんな性格だからな、周りに浮きまくってそれで独り狼を気取っているから昔から満足に友達も出来なかったんだ。」
思い返すはどんどんねじ曲がっていく根性。腐った人たちが周りにいたせいかモードレットはそれに反感を抱くたびに自分を制御できなくなっていった。
暴れては傷を作り
暴れて恨みを買い、周りに迷惑をかけて
暴れては親が謝り、心配していく日々。
獅子劫が出来るのは口を出しても最期の一線を超えさせない程度しか抑えられなかった。
それでも最期の一線を踏まなかったのは親の努力や心配だけじゃない。
モードレッドには剣があったからだ。
剣こそがモードレッドを畜生に堕さず、ギリギリで踏みとどまらせていた。
「何で彼女はそこまで剣道を?」
「理屈じゃねぇんだろうよ。お前さんと同じで剣を見て自分の中にビビっと来てカッコイイと憧れたんだ。小さい頃にな‥‥そりゃ可愛かったぜ、あの時は‥‥小さいなりで『竹刀買って』ってせがんでくるアイツは」
サングラスを取りながら思い出にふける獅子劫の視線はどこか遠いところに向いていた。
「そう‥なのか?」
獅子劫の可愛いと言うモードレッドの姿が想像できないジーク。
「そう何だよ。だからさ、ジークこれからも暇ならアイツの相手をしてやってくれ。」
「俺如きじゃ、練習にはならない。今日相手しただけで逆に迷惑をかけてしまった。でも多分これからもずっといると思う。」
ジークは外の夜景を見ながらこれからの高校生活に頬を緩ませている。
「友達だからな。」
「そうかい。」
この後、ジークの家に着くとセルジュが心配そうにして玄関にまで出てきていた。
セルジュの目に最初に止まったのはジークの頭の包帯を見てジークに駆け寄ってきた。車で送ってきてくれた獅子劫は頭を下げ何があったかを話した。
セルジュはそこまできつくは言わなかった。部活動に参加した事に驚き、やるのかと聞いてきたが別に参加するつもりは無いと答える。
「そう言えば...何かを忘れている気が.......あっ!!」
ようやくジークは思い出した。そう言えば今日部活視察が終えたら校門前で集合して一緒に帰ろうと約束したのにそれを思いっきりすっぽかしてしまった。
「どうしようか、明日謝るか」
無表情ながらも冷や汗を流し、明日ジャンヌに事情を説明することにしたジークだった。
翌日になり学校に行くと、軽やかにジークを挨拶してくる人が増えた。
「よぉ、ジーク」
背中をバンバンと力強く叩いて来る。この衝撃がだいぶ傷に響いてくる。
「痛い、痛い。」
「おっと、すまねぇな。」
ジークの傷に気遣い始めて叩くのをやめたが、モードレッドはジークの顔‥頬の部分にできた紅葉痕に気付く。
これは昨日の傷じゃない。そもそも昨日の傷ならば父親が既に処置を行っていていいはずなのだ。それに自分は彼の頬に攻撃はしていないし、見ると、それは人の手で引っぱたかれた痕のようだ。
傷の具合からこの傷はほんの少し前‥‥今日出来たものだろう。
「あぁ〜と、確かに昨日俺はお前をボコボコにしたけどよ‥‥なんか昨日より増えてねぇか傷?」
「昨日約束に行けなかった罰と無茶してしまった事に物凄く怒られた‥‥ジャンヌに‥‥」
今朝登校しようと歩いていたら仁王立ちして鬼の気を纏ったジャンヌが家の前に立っていた。
昨日ジャンヌはジークの事を心配して剣道場に行くと既に誰もおらず、ジークを探して学校中を駆け回ったらしく、せめてどうにかして連絡でも入れろと怒られた。
だが、運悪くジークは携帯を持っていない。ジャンヌの電話番号すら知らない。
ただ、それだけじゃない。ジャンヌが怒りがやまないのは自分は記憶喪失なのに頭を怪我したからだ。また何か起こったらどうなるのと物凄い剣幕で怒られた挙句にしばかれたのだ。
「へぇ、アイツはお前のおかんかよ。お前も色々と大変だな〜」
ジークの苦労話を肴の様にしてヘラヘラと聞いているモードレッド、ご機嫌なのか今日は昨日より笑っている。
そんな空気の中、怒りの風が流れ込んで来る。
風向き逆に風の中心があるので中心に目を向けるとおかんの仮面を身につけたジャンヌが廊下に立っていた。
「モ――ドレッド!昨日ジーク君に怪我させたことを謝りなさい!!」
「あぁ~朝からうっせぇなぁ~。ってかこいつのケガは俺だけのせいじゃないだろう。お前もやったんだろう?ついさっき‥‥」
「う、これは心配させたジークへと罰です。でも貴女は初心者であるジークをここまで怪我させたんですよ。部活に参加するのに反対はしませんが思いっきり叩きのめしたのは許せません!!」
「はいはい。すまなかったな。」
「なぁ!?なんて適当何ですか!!?大体貴女は女として‥‥」
ジャンヌはモードレッドの適当な謝罪にまた怒り出す。
「そもそも、貴女は何でそんなに適当何ですか!?制服も改造して」
「あぁ〜?あんな堅苦しいもの着てられねぇよ。」
「ジーク君!ジーク君からも彼女に何か言って...」
「ジーク!お前もこいつの相手してくれうるさくて仕方ねぇ...」
2人がジークに援護射撃を頼もうとしたが、そこにジークの姿は既になかった。
「ジーク君何処に行ったんですか!?」
「あの野郎!!どこに行った!?」
2人の声が同調し廊下内に響き渡る。
尚、ジークは女子2人だけで話すのだろうと思い先に教室に戻っていたのだった。
別に逃げたのではない。ただ、いても邪魔になるだけだろうと思いその場を去ったのだ!
・・・・続く
今回モードレッド、若すぎましたかね(精神的に)まぁ、そこは高校生だし勘弁してください。
PS.私は別にジークハーレムを築こうとしてる訳ではありません。ストーリー上モードレッドはこちらについていて欲しいなぁと言うだけです。