『ツバサ』の原作が読みたい・・・・。
連載のネタが滞ってきてしまったので、息抜きに。
深く考えてはいけません。
暗い場所。
地中なのか、土のにおいで充満している。
空気は湿っていて、いるだけで肌がじっとりとしそうだ。
そんな暗闇に、光が灯った。
始めは文字のような模様がリング状に展開し、淡く控えめに自己主張。
続けて駆動音が鈍く響く。
それに呼応する様に、周囲の壁も赤く発光し始めた。
やはり刻み込まれた文字のような紋様が、不気味で荘厳な雰囲気を醸し出していた。
すると、最初に灯った文字のすぐ下が、扉が開くように縦に裂けて。
闇の中、姿を現したのは。
人間一人が漬け込まれた、巨大なガラス管。
蛍光ブルーの液体の中に、十代後半らしい青年が浮かんでいる。
と、鳴り続けていた駆動音がここで止み、紋様の発光も収まる。
液体が抜かれ、水面と共に足元に降りた彼は。
ガラスが解放されると同時に、地面に投げ出された。
土に頭を打ち付け、うめき声。
しばらく静かに横たわっていた彼だったが、やがてゆっくり目を開けた。
「・・・・?」
焦点の合わない、おぼつかない目をめぐらせて。
どこか不安げに周囲を見渡す。
すると、彼の覚醒に合わせてか、模様のすべてが消えてしまった。
消えてしまった明かりに、青年は一瞬怯えた顔を見せたものの。
直後、目の前で開いた通路からの光に、思わず目を覆った。
光に慣れた目で恐る恐る見上げれば、機械的なものではない、柔らかく優しい日光が差し込んできている。
「・・・・ッ」
ここにいても埒が明かないと判断したのだろう。
青年はどこか意を決した顔になると、ふらつく体でなんとか立ち上がって。
光に向けて歩き出した。
吹き込んでくる新鮮な空気は、背後のじめっとした重たいものとは段違いだ。
かすかに感じる花の匂いも気にしながら、一歩一歩踏みしめて。
やがて見えてきた出口。
地下空間よりも強い日差しに目をくらませながらも、最後の一歩を踏み出して。
「――――」
――――見上げた空に、満開の花が飛び込んでくる。
木に咲くらしいその花は、吹き付ける風に薄紅色の花びらを幾千、幾万と散らしていて。
青空を鮮明に彩っていた。
鼻をくすぐったかぐわしい匂いから、先から感じていたのはこの花の香りだったと気付く。
知らない、少なくとも初めて見るはずの光景なのに。
その息を呑む光景に、何故だか無性に泣きたい気持ちを抱く。
日差しで目が痛いだなんてことは、すっかり頭から抜けてしまった。
束の間、ぼうっと呆けて見入っていたが。
「・・・・?」
不意に。
何かを熱したような臭いが、花の香に横槍を入れてきた。
せっかくの澄み渡った気分を害されたことに、怪訝な顔をしながら首を動かすと。
建造物らしき銀色の何かが立ち並んでいるのが見える。
ここから見える部分を想定するに、かなり大きいようだ。
耳を澄ますと、何やら不快な気分になる甲高い音が聞こえる。
どうするべきか、青年は少し悩んでから。
「・・・・」
地面を踏みしめて、駆け出した。
◆ ◆ ◆
『――――翼ッ!―、―う―けッ!このま――とお前――!』
雑音が混じる耳元で、そんな必死な声が聞こえる。
恐らく撤退するように言われているのだろう。
――――今の。
あちこちに擦り傷を作って血を流し、泥に汚れ、立つことすらやっとな姿を見てしまえば、無理も無いことかもしれないが。
だが、止まるつもりなど無かった。
乾いた眼球を瞬きで潤おして、前を見据える。
前方を塞ぐのは、色とりどりの『敵』。
『ノイズ』と呼ばれる殺人モンスターの群れが、自分に狙いを定めているところだった。
撤退するべきだろうが、疲労は限界をとっくに超えていた。
手も足も今の位置からずらすことすら億劫で、ただただ呼吸を繰り返すだけで精一杯。
(・・・・それ、でも)
それでも、背中を見せる理由に足りなかった。
意地を張る理由なんて、ただ一つ。
自分が剣であるから、故に強くなくてはいけないから。
立ち上がる。
得物を支えに、軋む膝と肘を動かして。
喉の奥から込み上げた血を吐き捨てて、目を閉じる。
(もしかしたら、そっちに逝けるかもね。奏)
かすかに微笑みを浮かべて、構えた時だった。
「――――大丈夫?」
不意にかけられた声に、振り向く。
黒い装いの、恐らく同じ年頃の青年。
どこか困った顔の彼は、状況を理解していないのか。
呑気にボロボロのこちらを気遣っていた。
「っな、にを・・・・ッ!」
痛みに遮られて、『何をしている』と上手く言えない。
通信では、避難はとっくに完了していると報告されていた。
逃げ遅れがいる可能性も頭に置いていたものの、まさかこのタイミングで現れるとは想像もしていなかったのだ。
そして、最悪の事態は訪れる。
獲物が増えたことに歓喜したのか、ノイズ達が一斉に飛び掛ってきたのだ。
「ッにげ・・・・!!」
せめて防人として、隣にいる彼だけでも。
出来うる限りの大声を上げるものの、青年には届かない。
ならば自分が盾になってでもと、満身の力でその目の前に飛び込んで。
刹那、ノイズが両断された。
先頭にいた複数体が、何の前触れも無く炭を散らして事切れた。
「・・・・大丈夫?」
呆けるその上から、先ほどと同じ台詞。
見上げると、どこかぼんやりとした目が見下ろしてきている。
どうやら自分は、抱きかかえられているらしかった。
突然のことに追いつかないままの頭で、とりあえず何度か頷く。
すると、シンプルに『そう』とだけ呟いて、満足そうに微笑んだ。
次の瞬間には切り替えて、どこか張り詰めた視線を前に向ける。
「これ、敵?」
「え、ええ・・・・」
「そう」
ノイズを知らないことに引っかかりを覚えながらも、頷くしかできないのでまた首を振る。
すると、一旦地面に降ろされた。
丁寧に扱われて、場違いな気恥ずかしさを感じてしまう。
・・・・そんなこそばゆい気持ちは、即効で吹き飛ばされることになったが。
「それじゃあ・・・・」
青年から溢れる闘気。
今までのぼんやりとした頼りないものとは、全く違う。
鋭く研ぎ澄まされた気配が現れる。
と、耳が何かを拾った。
唸り声だ。
何か大きな獣、それも中々獰猛で狂暴そうな。
少し身を起こしてみれば、その正体が見えた。
――――龍だ。
東洋人が思い浮かべる、蛇のような長い体に立派な角を頂くそいつが。
日差しに銀色の鱗を煌かせながら、まるで従者か何かのように青年に寄り添っている。
「――――全部、斬ってもいいね」
穏やかに、ただ穏やかに。
だがどこかプレッシャーを孕んだ言葉が、トリガーだった。
『龍』が一声、細く、高く鳴いて。
その体を光へ分解する。
一旦散った光の粒は、青年の左腕へ。
何か細長い形を模って、凝固して。
一瞬、閃光。
思わず覆った目を開けてみれば、今度は驚愕に見開いた。
――――刀が、あった。
黒い鞘に、龍の装飾が施された銀色の柄の刀が。
青年の左上腕に、ベルトで固定されていた。
彼は柄に手をかけ抜き放つ。
――――と思ったら、瞬きの合間に納刀しているところだった。
ぱちん。
鍔から心地の良い音がして。
破裂するような音を次々立てて、爆散していくノイズ達。
一度に大量の仲間がやられたためか、まだまだ控えていた群れは一歩後ずさった。
「――――まだ、ダメだよ」
そんな彼らへ、青年はにっこり笑う。
「『全部』って、言ったでしょ?」
再び抜刀され、露になった刀身は。
それはそれは猛々しく、そして美しかった。
「――――そういう出会いだったんですね」
S.O.N.G.、休憩スペース。
一番下の後輩たちに、『彼』との馴れ初めを話し終えた。
「その直前に、封印されていた祠から出てきたのね」
「本人が語るに、そうらしい」
後輩たちと同じ時期に仲間となった親友へ頷き返すと、後輩の方割れた手を上げた。
「名前はどうしたんデスか?祠とやらに何か残されていたんデスか?」
「いや、祠には何も・・・・残されていた装置が、かなり古い年代のものであるということ以外は、掴めなくてな」
「じゃあ、誰かがつけたんですね」
「ああ・・・・櫻井女史が名付けた」
その名前を口にすると、途端に三人の体が強張ったのが分かる。
関係を知っていたからこそ、謝罪の意味を込めて弱く微笑んでから続けた。
「彼が眠っていた祠が木の下にあったこと、その木が桜であったことから、『木之本
「へぇ・・・・」
今ではすっかり仲良くなった彼のルーツを知り、後輩たちと親友は感心した様子で頷いていた。
と、
「――――翼」
背後から声。
振り向きつつ見上げると、件の青年がこちらを覗きこんでいた。
「噂をすれば、ね」
「ん?俺のこと何か話してたんすか?」
「ああ、お前との初対面を少々」
別に隠すことでもないため白状すると、青年は納得したように顎に手を当てた。
「あの時か・・・・いや、あんとき弦さん達に拾われてなかったらどうなってたか」
「最初に出会ったのは私だろうに」
「片付けも出来ない女子力ぶっ壊れに拾われてもねぇ?」
「こら」
からかうように言う彼へ、拳を振り上げるふりをすれば。
『おお、怖い怖い』と、自身を庇った彼は後ずさり。
だが本当に怖がっているわけでもなく、むしろどこか楽しんでいるような子どもっぽさがある。
「それで、何か用か」
「っと、そーだった。弦さんが呼んでる、お前とクリスが遭遇した新種のノイズについて聞きたいんだと」
「司令が・・・・分かった、今行く」
もちろんこちらも心得ていることなので、手を下ろして切り替えた。
「すまない、そういうことだから」
「こちらは気にしないで、面白い話をありがとう」
「ありがとう、ございます」
「デース!」
三人に一言告げてから立ち上がると、それぞれ気にするなを伝えてくれた。
「お前も来るのか?」
「俺も俺で、あのデカブツとやりあってるんでね」
「そうだったな」
青年と他愛ない会話を交わしながら、連れ立って歩き出す。
◆ ◆ ◆
草木も眠る深夜。
その男は、地下へ足を踏み入れていた。
持っていた灯りを掲げてみれば、予想通り開け放たれた生体ポッド。
年月が経っているからか、液体で満たされていたはずの中身はすっかり乾ききっていいた。
ふと、背後に気配が湧く。
「――――あーら、不能、じゃなかった、無能の貴方にしては早く気付いたじゃない?『アダム』」
男は盛大にため息をついて、振り向いた。
「――――『リリス』、やはり君だったか」
出口から注す月明かりを背負って、女が佇んでいた。
「何を考えているんだか。まるで苦しむよ、理解することに」
男は再びため息をついて、空になったポットへ向き直る。
「『カイン』、原初の神殺しを復活させるだなんて」
「いいじゃない、楽しくなりそうでしょ?」
くすくす笑いながら、くるくるステップを踏んで。
女は男の向かいに立つ。
「邪魔なんだけどな、僕の目的には」
「それは結果、私の意志じゃありませーん」
子どもっぽく頬を膨らませてそっぽを向く女に、男は今度こそ言葉を失った。
「あなたこそ、いつまでアナンヌキにこだわるつもり?」
「・・・・超越するまでだ、当然じゃないか」
「あっはは、あなたも飽きないわねぇ」
腹を抱えて心底可笑しそうに笑う女へ、苛立ちを隠さない視線を向ける男。
「だいたいいつ解いたんだい、封印を。けっこう掛けたと思ったんだけどな、頑丈にね」
「何千年も時代遅れの鍵を修理するだけの作業を『封印』と言い切るとは、さっすが『完璧』」
とどめに煽りを入れられて、男はとうとう舌を打った。
「・・・・全く困ったものだよ、君の道楽趣味には」
「だぁーって、せっかく楽しい
またステップを踏む女。
踊り子のようにひらひらと、ポッドの前に立つ。
「清濁善悪
「だがどこまでも残酷だよ、アナンヌキは。対抗できずに蹂躙されるさ、今の人類では」
「それ故の『カイン』だって言ってるじゃない」
ふと、女の目が変わった。
きらきら輝いているように見えて、どこか惨い。
まるで何も知らぬ子どものように、純粋で無垢な目。
「こんなに素敵なおもちゃ、手放すもんですか。あなたにもアナンヌキにも、邪魔はさせないわ」
宣言すると同時に、また踊りだす女。
次第に大きくなる笑い声は、どこまでも純粋で。
「・・・・どうしても思い浮かべるよ、我が侭な幼児を。君を見ていると、イヤでもね」
男は、最後にまたため息をついた。
申し訳程度の『ツバサ』要素。
・液体の中に封印されている若い男。
そのため『青年』のビジュアルイメージは、封印されていた方の『小狼』。
眼帯はない。
・ハンシン共和国編で出てきた『
・後半の男女の会話シーン推奨BGMは『ship of fools』。
作業用に梶浦由紀さんの曲を聞いていて、そこから『ツバサ』熱を燻らせてしまったのが運の尽きでございます。
合体事故にもほどがありますね(白目)
続きも細かな設定も何も考えていない、本当に息抜きの短編ですが。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
いつものとおり、拙作が貴方様の暇つぶしを一助出来たのなら、幸いでございます。