シャーリーは戸惑っていた。人生で初めて銀行強盗に人質にされたというのももちろんある。だが、それ以上に
「いやー、銀行強盗か。まあ、下手だけどそれはそれで良いか。しかし、ルルーシュは何処から助けにくんのかね。主人公らしくスマートに屋根から侵入とかやんのかな」
人質とは思えないほどリラックスしている自分の友人の反応に戸惑っていた。
おかしいよね?何で目の前で銃を持った人の前で、胡坐をかいて座ってられるの?どうしてあくびをしながらのんきなことを言ってられるの?
「それじゃあ、ルルーシュが助けに来るまでゆっくりしてるか。あ、昨日買ったガムが残ってた。シャーリーはガム食べる?」
「食べるわけないでしょ!?彰はこの状況分かってるの!?」
「絶賛、銀行強盗の人質になってるな」
「分かってるんだったら大人しくしてよ!目を付けられちゃうでしょ!?」
「静かな声で喋れよシャーリー。聞こえちゃうだろ」
「絶対に注意されたくない人に絶対にされたくない注意されちゃった!?」
そんな風に喋っていれば目立つので、当然のように怒った銀行強盗が寄ってくる。
「おい、お前ら!うるさいぞ!」
「ひっ!?ご、ごめんなさい!」
「すいませんねぇ、この子には俺が良く言っとくんで」
どの口が言うんだとシャーリーは思ったが、この状況では流石に口には出せない。
シャーリーの思いを他所に、この男はとんでもないことを言い出した。彰はシャーリーの肩に手を置いて続ける。
「でも、あんたらこの子には敬意を払った方が良いと思うぜ?」
「何だと?」
「え?」
「この子の彼氏は、日本最強のテロ組織である日本解放戦線の知り合いだよ?」
「な、何だとぉ!?」
銀行強盗が彰の言葉に衝撃を受けるが、シャーリーもまた衝撃を受けていた。
いや、ルルはそんな人と知り合いじゃないと思うんですけど!?聞いたことないんですけど!?
二人の驚き顔を見ながら彰はニヤリと笑う。
「つまりだ。お前らの銀行強盗が上手くいくかはこの娘次第って訳だ。この娘の身に何かあればお前らは色々終わるぞ。命もな」
「そ、そんな凄い人と知り合いだったのかこの女…」
違うからね!?この人の話を真剣に受け止めたらダメだからね!?
シャーリーはそんなことを考えているが口に出してはいないので、当然ながら聞こえるわけがない。
そんな折に、他の銀行強盗が慌ててこちらに近付いてきた。
「か、頭!大変です!」
「ど、どうした!?何事だ!」
「ぐ、軍の奴らが近付いてます!こんなに動きが早いなんて!」
「もう来たのか!?ま、まさか、これもこの娘の策略なのか!?な、何て娘だ!この歳で軍の奴らとも人脈を築いているなんて」
銀行強盗が畏怖の念を込めて自分を見ているのを見て、シャーリーは思った。
違います!偶然です!私は一般人です!
話を聞いていた彰も真剣な顔をして、静かに言葉を発する。
「何?もう軍の奴らが来たのか?マズイな…このままじゃ、ルルーシュの出番がなくなる」
もう黙っててくれないかな、この人!ルルの出番なんてどうでも良いから!
「クソ、俺たちはもう終わりだ!軍が来るだけじゃなくて、こんなテロリストと軍とネットワークを築く娘を相手にして勝てるわけねぇ…」
テロリスト達は勝手な誤解をして勝手に諦めていく。
あれ?何かこれ解決するんじゃない?何かメチャクチャだけど、これ解決するんじゃない?
シャーリーがそんな淡い希望を感じている中で彰はスッと立ち上がった。
「待て、お前ら!諦めるな!お前らにはまだ俺たち人質が残ってるだろ!」
この人一体何言ってるの!?
シャーリーは驚愕したが、諦めかけていたテロリストは彰の言葉に希望を感じて、俯いていた顔を上げる。
「軍の奴らが来るにはまだ時間がある。既に集めていた現金を持ってすぐに移動すれば成功する可能性はある」
「で、でもよ、軍の奴らは容赦がねぇ…もし、容赦なく発砲されたらどうすんだよ」
「そのために俺たち人質がいるんだろ?人質を盾にすればそう簡単には攻撃しねぇよ」
もう人質じゃないよ、この人!犯人だよ!むしろ主犯だよ!
「あんたは何も分かってねぇ!軍は人質ごと撃つに決まってる!それにそんな沢山の人質がいれば動きも遅くなるし」
「そうだ。だから人質は一人で良い。それが向こうにとって重要な人物なら攻撃してはこない」
「でも、そんな人が人質なんて…そ、そうか!」
銀行強盗は、ハッと気付いてシャーリーを指差す。
「この娘を人質に移動すれば良いんですね!」
「え…えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」
助かると思っていたのに自分だけ人質として連れ去られそうなことに、シャーリーは悲鳴をあげるが、隣の彰はウムと頷く。
「そういうことだ。お前らはこの娘を連れて逃げろ。後の人質は、俺が上手くこの場から解放する。お前らのことは軍に言わないように言っておくから…お前らも上手くやれよ!」
彰のサムズアップを見て銀行強盗は涙を流してお礼を言う。完全に外道である。
「あ、兄貴…ありがとう…ありがとうございます!」
「ふっ…良いってことよ。じゃあな」
そして、彰は他の人質にもう大丈夫だと言って、解放してから自分も外に出ようとする。その背中を
「いや、待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
シャーリーが思い切り引っ張って止める。それを彰は嫌そうな顔をしながら見る。
「何?俺もう帰るんだけど」
「何で私が悪いみたいなことになってるの!?これ完全に彰が原因だよね!?完全に彰のせいで私だけ逃げられなくなってるよね!?」
「大丈夫だよ。お礼は言わなくて。ルルーシュがシャーリーを助ける場面を俺は作っただけだから。シャーリーがお礼を言うことじゃない」
「どんな思考回路すれば私がこの場でお礼を言ってくれると思うわけ!?怒ってるのよ!彰のせいで私のピンチが続いてることに怒ってるのよ!」
「ヒーローはピンチの時にやってくる。主人公もまた然りだ。安心しろ」
「できないよ!?だって、ルルは肝心な時に間に合わない系主人公だもん!肝心な時にポカを踏む系主人公だもん!」
「兄貴!俺たちが逃げる準備はできました!兄貴も逃げてください!」
「あなた達もバカなんじゃないの!?何でこんな外道の言葉を信じるの!?」
そんなシャーリーの言葉も虚しく彰は手を振りながら去ろうとする。このままでは、本当にこの男は自分を置いて去ろうとすると感じたシャーリーは、必死に考えて叫んだ!
「ちょ、ちょっと待ってください!あの人が…私の彼氏の知り合いのテロリストです!」
彰と銀行強盗の時間が止まる。その後、同時に呟いた。
「「…え?」」
「ど、どうするのこれ!?ね、ねえ、リョウ!これどうすれば良いのコレ!?」
「し、知るわけねぇだろ!俺だって分からないことはあるんだよ!できないことがあるんだよ!逃げ出したいこともあるんだよぉ!」
自分たちが誘拐しようとした娘が皇女だと知って、リョウ達は慌てふためいていた。
「だから私は止めようって言ったんだよ!それをリョウが金で安請け合いするからさぁ!」
「俺だけのせいじゃねぇだろ!お前らだって受け入れたじゃん!俺らは三人で一人のチームだろ!」
見苦しい責任のなすり付け合いが続いた後に、ラチがあかないことに気付いたリョウは、これからの方針を立て始める。
「お、落ち着け。現状俺らは誘拐してねぇ。このまま、さりげなくあの皇女様から離れちまえば良いだけだ」
「そ、そうだな…あれ?ユキヤは?」
リョウの方針に納得したアヤノはユキヤを探すと、何やら皇女様とお話をしていた。
「あ、そういえば貴方達はこれからの予定とかあるんですか?」
「そうだね。方針しか決まってないけど、とりあえずあんたを誘拐してコーネリアから身代金を奪おうと「「何を言ってるのかなぁ、ユキヤ君!!」」ふげぶ!」
完全にアウトなセリフを言うユキヤの頭を、リョウとアヤノは踏み付ける。
「今誘拐とか言った?」
「バカだなぁスザククン!誘拐なんて言うわけないだろ!?融解だよ、融解!今やってるゲームの話!コイツゲーマーだからさ!」
「そ、そ、そ、そうだ!完全なる勘違いだ!全くゲーマーは現実と非現実の境目が分かってないから困る!」
「あ、そうなんですか。私も勘違いしちゃいました」
何とか納得してくれたスザクとユフィを見て、リョウとアヤノは胸をなでおろす。
倒れたユキヤが変なことを言う前に逃げようと、リョウとアヤノは逃げる準備を開始する。
「じゃ、じゃあ、俺らはこの辺で!」
「え?一緒に行ってくれないんですか?」
「え、ええ!用事を思い出したので!だからお金ももう結構です!」
「そうですか…残念です。それじゃあ、お姉様によく分からない日本人に変な場所まで連れて来られたので、向かいに来て欲しいと電話で言わないと」
「と、思ったんだけど用事はなかったなぁ!なぁ、アヤノ!」
「そ、そういえばそうだった!なくなったんだなリョウ!」
「そうなんですか!では、一緒に回りましょう」
ユフィのとんでもないセリフに、リョウとアヤノは全身から冷や汗を吐き出しながら、一緒に行くことを了承する。
そんな折に、ふとユキヤが何かに気付いた。
「ねぇ、リョウアレ見て」
「お前は寝てろ!余計なことしか言わねえんだから!」
「んじゃ、黙るけど本当に良いの?」
一体何なのだとリョウとアヤノはユキヤの指の先を追う。するとそこには、日本解放を目指すテロリストなら知らぬ人はいない日本の希望であり、ユフィの敵でもある
((き、奇跡の藤堂が来たーーーー!!??))
日本解放戦線の藤堂が歩いてきていた。
「あら?あの方珍しいですね。軍人みたいな格好をしています。日本人みたいですけど」
「え、そうなんです「スザク君!ちょーっとあっち見て!凄くない!ぐえっ!?ちょ、痛い!」」
情報からスザクが藤堂を知っていることを知っていたリョウ達は、即座に行動に移った。
まずアヤノがスザクの首を固定して、藤堂の方を見れないようにする。その間にリョウが自分の買い物袋を藤堂の頭から被せることで、スザクが藤堂を認識できないようにする作戦だ。
買い物袋に顔を包まれた藤堂は当然疑問の声をあげる。
(む?誰だか知らんがこれはなんだ?)
(あんたみたいな有名人が顔出してちゃ色々マズイんだよ!良いから被ってろ!それでそのまま通り過ぎろ!そうすれば別にこの袋取って問題ねぇから!)
「わあ、それそういう遊びなんですか?」
(何で来るの!?こんな遊びあるわけねぇだろ!?お願い来ないで皇女様!300円あげるから!)
リョウの思いも虚しく、楽しそうに笑いながらユフィは近付いてくる。アヤノの妨害も限界だったのか、スザクもユフィと一緒に近付いて来る。
その様子を見て、脂汗まで出てきたリョウとアヤノは思った。
((誰か!誰でも良いから俺(私)たちを助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!))
その頃のルル
ルル「何故だ!何故なんだナナリー!何故俺ではなくてカレンなんだ!」
C.C.「下着を買いたいからと言ってたろ」
ルル「この間までは俺が買っていた!それなのに…それなのに…もう年頃だから自分で買うとか!女の子同士で楽しみたいとか!訳の分からないことばかり!」ダン!
C.C.「ものすごく訳が分かると思うがな」
ルル「その上、カレンの奴俺が変なことをしないようにC.C.まで置いておくとは…尾行くらいしかする予定はなかったのに俺を信じなかったんだよあいつは!彼女が聞いて呆れる!」
C.C.「立派に彼女してるからお前の行動が読めてたんだろ」
ルル「何故だ…何故なんだナナリー」
C.C.(何となくコイツは他にした方が良いことがある気がする…)