だが、そんな時に異変は起きてしまう。
しかも、霊夢たちの身近なところで……
その異変は突然訪れた。
「なんなのよ、これは……」
とても困惑した声を、博麗神社の巫女――博麗霊夢が出した。
彼女の目の前には、大小様々なカボチャが転がっている。
「これじゃあ、除霊もできないじゃない」
「ヒャッホー、霊夢! どうかしたのか?」
頭を抱える霊夢の下に、彼女の主な頭痛の種である人物が降り立った。
もとい、普通の魔法使いの霧雨魔理沙である。
「どうもこうもないわよ。ていうか、あんたはまだ気づいていないわけ?」
霊夢は大層イライラしているようで、とてもきつい視線を魔理沙に送った。
「え? 何のことだ?」
魔理沙はキョトンとしている。
「……。良いから、弾幕なりスペルカードなり撃ってみなさい」
「良いのか?」
「良いから」
「じゃあ……」
そう言って、魔理沙は弾幕を放った。
霊夢に向かって……
「いでででででででででででででででででででででででで!!!!」
当然の如く、被弾した霊夢はピチュった。
「ちょっと、私に向けて撃たないでよ!!」
「ああ……こりゃ、またどういうことだ?」
霊夢の抗議を他所に、魔理沙は目の前の光景に唖然としている。
問題の異変は目の前に広がっていた。
魔理沙が放った弾幕は、魔理沙の手から放たれた瞬間、カボチャに姿を変えていたのだ。
「訳が分からないわよ。まさか、私たちの弾幕がおかしくなっちゃうなんてね」
カボチャの連射を喰らった霊夢は、痛がりながらも魔理沙の質問に答えた。
「何とかして、この異変を解決しないと」
「これはこれで楽しそうだし、別にいいんじゃないか?」
決意を表明した霊夢に反して、魔理沙は楽観的だ。
「それがそういう訳にもいかないのよ。あんた、魔法を使ってみなさいよ」
霊夢に促されて、魔理沙は弾幕とは違う魔法を使ってみた。
ポン!
すると、魔理沙の目の前にカボチャが現れた。
「え?」
「私たちの力が使えなくなっているのよ」
霊夢の発言を聞いた魔理沙の顔は徐々に青ざめていった。
「なんてこった! 魔法使いなのに、魔法が使えなくなるなんて!!!!」
そして、悔しさのあまり絶叫した。
「いや、魔法は使えていると思うけどね。カボチャを出す魔法しか使えなくなっているんだろうけど……」
「そんなの魔法使いじゃないだろ! カボチャしか出さない魔法使いなんて魔法使いじゃないだろ!! ただの農家だろ!!!!」
冷静な霊夢に対して、魔理沙はオーバーリアクションで自分の悲しさをアピールした。
余程、ショックらしい。
「まあ、そういうわけで私も力が使えないのよ」
そう言いながら、霊夢はお札をカボチャに変えた。
いや、自然とそうなってしまうというのが適切だろう。
「じゃあ、私たちはこの異変に関してどうすればいいんだ?」
「手の出しようがないわね。異変の元凶が自分から顔を出してくるのを待つしかないわ」
博麗の巫女が匙を投げた。
即ち、どうすることもできないということだ。
「ええええええーーー……。何とかできないのかよ……」
唖然とした魔理沙は、霊夢を説得する。
「じゃあ、元凶の推理でもしてみる?」
「そうするか……」
かくして、カボチャだらけの神社の縁側で2人は推理することになった。
「早速だけど、魔理沙は誰が犯人だと思う?」
「うーん、そうだな。カボチャって言ったらやっぱりハロウィンだろ? ハロウィンは西洋の催し物だ。ってなると、レミリア辺りが怪しいんじゃないか?」
魔理沙は連想から犯人を推理した。
と言っても、西洋という繋がりしかないが……
「ああ。確かに有り得そう。レミリアが運命を操ってこんなふうにしたとか……」
「失礼ね」
ヌッと、レミリアが姿を現した。
「うお!? どっから出てきた?」
「ずっといたわ」
そうですかー、と汗を流した魔理沙を他所に、レミリアは霊夢に向かっていった。
「ねえ! どういうことなの!? 私、カボチャしか操れなくなっちゃったの!」
カリスマは何処へやら、レミリアは手からカボチャを出して、霊夢に抗議した。
どうやら、レミリアの能力が“運命を操る程度の能力”から“カボチャの運命を操る程度の能力”に変わってしまったようだ。
「しかも、咲夜の力もなくなっちゃって、紅魔館が狭くなっちゃったの!!!」
狭くなったのではなく元に戻っただけなのだが、レミリアは酷く狼狽えている。
おそらく咲夜の能力は“カボチャの時間を操る程度の能力”に変わったのだろう。
「それはまた、大変なことで……」
魔理沙は取り繕うようにレミリアに労いの言葉をかけた。
「おかげで、咲夜には『お嬢様、邪魔です!』って言われて追い出されちゃうし、ああもう!!!」
散々愚痴って満足したのか、レミリアはいきなり飛び去って行った。
ついでに、日光の中でもお構いなしだ。
吸血鬼の特性すら書き換えられてしまっているらしい。
ちなみに、咲夜とレミリアの2人はまだ良い方だったようだ。
美鈴は“カボチャの気を使う程度の能力”、パチュリーは“カボチャ+カボチャ+カボチャ+カボチャ+カボチャ+カボチャ+カボチャァ!を操る程度の能力”になってしまっていた。
「違ったな」
「違ったわね」
呆然と眺める2人だったが、すぐに気を取り直した。
「ところで、霊夢は誰が犯人だと思う?」
「私? 私はそうね……うーん……幽々子あたりが怪しいかしらね」
霊夢はしばらく考え込んだ後、1人の名前を挙げた。
「そりゃまたどうして? カボチャとは全く関係なさそうだろ」
「いや、前に春を集めていたじゃない? 今度は秋でも集め出したのかなあって」
「なんじゃそりゃ」
どうやら、まともに推理する気はないようだ。
「それに、幽霊ってハロウィンに付き物じゃない?」
魔理沙は「うーん?」と首を捻ったが、特に反論する気力も材料もなかったため何も言わなかった。
フヨフヨ……
突然、辺りを奇妙な何かが舞い出した。
いや、カボチャなのだが……
「え?」
霊夢は奇妙なカボチャを凝視した。
これがいけなかった。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「え? うお!? えええあああああああああああああああああああああああああああ!?」
2人揃って、この世の物とは思えない叫び声を上げる。
原因は、そのカボチャにあった。
何とそのカボチャは死んでいた。
紛れもなくカボチャではあったが、虫に食われ腐敗し異臭のする、最早ただの生ごみとしか言いようのない物がそこに浮かんでいた。
「しくしく……」
そして、その中心に件の人物、西行寺幽々子がいた。
どうやら、“死を操る程度の能力”が“カボチャの死を操る程度の能力”に変わってしまったようだ。
西行寺幽々子は泣きながら、その場を去っていく。
死んだカボチャを連れて……
「Oh……」
「何て無様なの……」
2人は変わり果てた幽々子の陰を見送った。
霊夢は相変わらず容赦ない。
その後に、幽霊たちの落ちぶれた百鬼夜行が通った。
プリズムリバー姉妹は、カボチャを楽器替わりにしていた。
どうも、楽器を演奏できなくなったらしい。
妖夢に至っては、カボチャで作った二振りの刀を持っている。
その更に後ろを、地底から出てきたのか火焔猫燐が追っていき、幽々子の影響から離れた死んだカボチャを回収していた。
“カボチャの死体を持ち去る程度の能力”である。
「ていうか、その発想だったら、魔法使い全員に容疑がかかるだろ」
霊夢の推理にツッコミを入れる余裕がやっとできた魔理沙は、ようやく突っ込んだ。
「確かにね。じゃあ、他には誰が怪しいかしら?」
「うーん、慧音とか怪しそうじゃないか? 幻想郷の歴史を食べてハロウィンだけの歴史にしたりとか?」
「そうかしら? 鈴仙あたりが私たちの狂気を操ってこんな風に見せているだけかもしれないわよ」
そんな推理をしたが、もちろん外れた。
慧音は、カボチャの歴史にしか干渉できなくなり意気消沈。
鈴仙は、“カボチャの狂気を操る程度の能力”というよく分からない能力になってしまい、オロオロしていた。
ついでに、永琳はカボチャの農薬しか作れなくなり、輝夜はカボチャの種を数えよという難題しか出せなくなり、妹紅はカボチャの成長度合いを変えられるようになった。
永琳だけは、この異変の中でも元気だった。
「どれもこれも違うわね。もう、正邪とかサグメのせいじゃないかしら?」
「逆転させちゃったのかよ! ……何を!?」
魔理沙の鋭いツッコミのご指摘通り、この2人も違った。
正邪は、“カボチャをひっくり返す程度の能力”という、人力でも可能な能力を得ていた。
本人は、天邪鬼だからか「便利だろ~」と自慢していたが、陰で泣いていた。
サグメは幸いにしてこの異変の影響は小さかったが、逆にその小ささが仇となった。
彼女の能力は、“カボチャを口に出すと事態を逆転させる程度の能力”になっていた。
そのせいで、サグメは「カボチャ」と発言する度に事態が逆転してしまうため、四苦八苦していた。
「夢オチってのも有り得るかもしれないな」
魔理沙はドレミーのことを言っているのだろうが、これもやはり違った。
ドレミーは、“カボチャを喰い、カボチャを創る程度の能力”に変わってしまった。
魔理沙よりもドレミーの方が農家である。
しかも、自給自足だ。
これほど、嬉しい変化もないだろう。
ただ、ドレミーは獏なので、おそらくカボチャを消化できないだろうが……
「結局、誰か分かんなかったな」
魔理沙は疲れ切った表情をしている。
それというのも、他の方々の意気消沈した姿を見続けたためだ。
「そうね……」
霊夢も同じく疲れ切っている。
「こんなのあんまりよん……」
「「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」
余程疲れているのか、2人は反射的に大声を出した。
思考する気すらない。
だが、そこには余りにも無残な地獄の女神の姿があった。
首からぶら下げた球体は全てカボチャになり、そのせいで全ての要素がカボチャになってしまったヘカーティアがそこにいた。
「私は地獄の女神ではなく、カボチャの女神ヘカーティア・ラピスラズリ……」
存在そのものの全否定である。
「お、おい……ヘカT……気をしっかり……」
「あなたは他の世界に行けば何とかなるわ……」
2人はヘカーティアを励ましたが、既に口から魂が抜けかけているヘカーティアの耳に入ることはなかった。
幻想郷は暗い空気に包まれていた。
ハロウィンなのに……
ハロウィンなのに!!!!!!
「神様たちもこの様なんて……もう幻想郷は終わりかしら……」
「ああ……」
2人が諦めかけたその時、
「幻想郷の皆さーーん!! 聞こえますかーーーーーーーーーー!!!」
突然、幻想郷中を大きな声が包んだ。
「私、守矢神社の東風谷早苗です!! ハロウィン楽しんでますかーーーーーー!!!」
2人の堪忍袋の緒に亀裂が走った。
だが、次の発言がその全てを吹き飛ばした。
「いやあ、昔から憧れだったんですよ、町を上げてのハロウィン!! そこで、山の妖怪たちに協力してもらい、ついでに八雲紫さんにも協力してもらい、更に純狐さんにも手伝ってもらい、遂に開催することができました!!! 純粋なハロウィンを!!! さあ、皆さん楽しんでください!!! これが本当のハロウィンですよーーーーーーーー!!!」
要約すると、こういうことである。
妖怪たちに納得してもらった上で、八雲紫が結界を弄り、更に純狐がハロウィンを純化させたのだ。
ちなみに、この発言の2人の感想はこちら。
(あ、紫の存在忘れてたわ)
(最近、出番ないもんな……)
かくして、幻想郷のハロウィンは幕を開けたのだった。
もちろん、楽しいムードには微塵もならなかったが……
ちなみに地底では、カボチャの核融合による産業革命が起きていた。