結構難産でした;
同じストーリーの流れで全く違う話にするのって難しい!
けど、一緒に考察してくれるだろう読者様がいれば増えていく『もしも』は楽しい!
今回もよろしくお願いします!
カルマside
1箇所に集めて拘束しとけば何もできないと思っているだろう『死神』に一泡吹かせ、かつ烏間先生のサポートをするために、作戦通り牢屋に閉じ込められている俺等E組27人が監視カメラにまともに映らないだろう部屋の隅で、暗殺迷彩を施した超体育着で壁に擬態したまま肩車をして少しした時……
────バァンッ!
「うぉっ……と、今首輪を爆破した……ってことは」
「あの端末から『死神』がここの映像を見たってことだ」
「誰もいない牢屋に水を流しても意味が無い……よし、これで焦った死神は烏間先生のところまで戻ってくるはずだ。結果がわかるまで、このまま待機だな」
「ぐぐ……キッついな」
「でも楽な方だろ……体力的にはまだラクショーだぜ」
今できそうなことがこの作戦だけだったから乗ったけどさ……活躍、というか立案かつ中心になって実行したメンツがメンツなだけに、嫌なこと思い出して腹が立ってきた。……アミーシャ含め女子のパンツを見ようと中心になって動いてたヤツらが作戦立案とかさぁ……まぁ?専門的知識が豊富っていう適材適所だからといえばその通りだけどいい気はしないよね。自分の、みんなの命がかかってなければ手を出してたかもしれない。
「……ていうか、これでホントに騙せてんの?」
「多分ね。光の加減もバッチリだし、映像くらいなら騙せてるはずだよ」
「まったく……ラジコン盗撮の主犯どもが大活躍とはね……」
「……なんか、腹立ってきたんだけど……ッ」
「後にしろカルマ!今手ぇ出されたら終わる!」
「痛い痛い痛い僕の足に力入ってるってカルマ君;」
「あ、あわわわわ……っ」
「いや後にも渚にもあたるなよ……一応終わった話だし奥田も巻き込まれて落ちるって」
「で、ここまでめちゃくちゃ静かだけど殺せんせーは?」
「先生はフツーに保護色になれるから、俺等の隙間を自然に埋めてる」
「ほほう、つまり今は素っ裸、と」
「うぅぅ……もうお嫁に行けない……」
「赤くなんなよ、バレっから!」
思わずどこにもぶつけようのない苛立ちを肩車を支える手に込めれば、肩の上から渚君の抗議の声と奥田さんの焦る声が聞こえて慌てて力を抜く。……全く関係のない2人を俺の個人的な感情に巻き込むのがおかしいんだけどね、反射的にやっちゃった事だったから許して欲しい。
「……ねぇ、《銀》……聞きたいことあるんだけどさ」
「……お前……余裕あんな……ッ」
「お前も1番下のくせに……ッ」
「適当に話して気を紛らわせようと思って。上の2人落としていいならやめるけど」
「やめてやめて;」
とにかく別の方へ意識を向けようと思って、多分牢屋のどこかにいるだろう《銀》に向かって話しかける。重さに耐えながら唸ってるやつもいるけど、俺の上に乗ってるのは男子で1番小さい渚君と女子で2番目くらいに小さい奥田さんだから別にそこまで苦痛でもないしね。
俺が話しかけたからか、ゆら、と若干の気配が近くに移動してきてくれたのを感じる。……ああ、《銀》にはこの牢屋の中、というか監視カメラの映る範囲内に1人残っているのもおかしいからってことで、クラフトで姿を隠したままでいてもらっている。自分1人であれば完全に姿を隠せるから、《銀》だけに限れば牢屋の中を自由に移動できるわけだ。
「なんだ?退屈そうだな、赤羽業」
「このやり取り見聞きしといて退屈そうに見える?……じゃなくて、あのさ、ロヴロさんとか『死神』とか、あとさっきの独り言も聞いててちょっと思ったことなんだけど……《銀》って凶手って言う割にはこういう暗殺以外にも依頼受けんだなって。暗殺者って言ったら=殺し屋ってイメージしかないんだけど、そうじゃない依頼とかも結構受けてたりするの?」
「……フン、お前達からすればもっともな疑問か。そうだな……」
自分の意識をこの作戦から逸らしたくて関係ない話題を振ろうと思った時に、ふと頭をよぎった疑問だった。だって暗殺者ってことは言葉通りに受け取るなら人を殺す職業ってことでしょ?
なのに《銀》は『死神』と契約して行動している中でも別に俺等を殺そうとすることなく、それどころか
「……詳しく語ればそれこそ100年近く様々な契約者との歴史があるが……私は何も人殺しのためだけに存在しているわけじゃない。近年でいえばクロスベルの裏の覇権を
「用心棒ってことは……偉い人の身辺警護ってこと?」
「そんなものだ。まぁ、契約者がそもそも手練のこともあるがな……それと何らかの計画がある際、事前の下調べや情報収集、戦略的に手駒として動くこともある」
「ふーん、ただ依頼されて殺すってだけじゃないんだ」
「でもさぁ、殺すことに関して結構殺し屋側の裁量ってありそうじゃない?」
「確かに〜、沖縄のホテルで会った殺し屋さん達もそうだったしさ、そうほいほい依頼されたから殺してっていうのもないって気がするんだけど……え、実際どうなんだろ?」
「自分の手を汚さずに暗殺者を雇う時点で、依頼者は自分ではもうどうにもできない相当切羽詰った状況だろうからな……手練のプロなら仕事の跡が表に出ることは無い。だが、そもそもそんなに軽々しく『あいつが憎いから』『気に障るから』なんて理由で依頼してくる奴の依頼を受ける殺し屋がいるのかどうか……少なくとも私は受けるつもりは無いな」
つまり依頼されたからはい殺します、な人じゃないってことだ……少なくとも《銀》は。先に情報を集めて仕事を選んで遂行するからには完璧にやり遂げる。やっぱり《銀》は自分が凶手……暗殺者として誇りというかかなりのプロ意識をもっているんだろう。命を扱う職業、というか立場として、それに向き合う覚悟が違うように感じる。
それに暗殺者と言っても=殺しだけをする人ってわけじゃないんだろう。確かに《銀》は姿を自在に隠せるし隠密行動のプロって感じだから、暗殺者として向きすぎてるとは思うけど……別の視点から見れば情報収集要員としてもかなり需要がありそうな存在だよね。
「凶手……いや、お前達にはこちらの言葉は馴染みないのか……暗殺者全てが必ず殺しだけを目的にしているわけじゃない。現に《碧の大樹》も……、」
「《碧の大樹》……?」
「……いや、こちらの話だ……少しばかり話しすぎたな」
暗殺に関わっているとはいえ本来俺等が巻き込まれるはずのなかった裏の世界、闇の世界の内情に深く踏み込みすぎない程度、それでも知って問題ない触り程度はしっかり教えてくれていた《銀》が、とあるワードをこぼした瞬間いきなり口を噤んだ。《碧の大樹》……なんか大層なというか、仰々しい名前だな……
口ごもることなくスラスラ答えていたのにいきなり話すことをやめたこともあって、みんな詳しく聞きたそうにしつつも沈黙を選んだ。気にならない奴はいないだろうけど、あの様子じゃ《銀》は絶対に答えてくれないのもわかるから……でも、誰も納得はできていないのも伝わったのだろう。
「日本で話すなら問題ないかもしれないが念には念を入れてな……どうしても気になるのなら、後からカラスマに聞くといい。彼の立場ならば、《碧の大樹》についての騒動も耳にしているだろうし、私が推薦したとでもいえばある程度は教えてくれるはずだ」
「わ、私だって知ってますが!?」
「お前は外からの情報だけだろう、超生物。いくらお前であっても、内部事情まで知っているとは思えない……知らないだろう?あの《大樹》が破壊されることになった経緯や人の因縁、裏で行われた陰謀に関わること……そもそもあそこに乗りこんだ人選も」
「……えぇ、まぁ……そうなんですが……」
クワッ!と俺等の足元で液状化して文句を言っていた殺せんせーが俺等を倒さない程度に身体を持ち上げて《銀》に……というか話の流れ的には烏間先生にだな、張り合って声を上げた。
でも2人の会話からして、殺せんせーはその《碧の大樹》が関係する出来事そのものの概要は知ってるんだろうけど、誰が関わって何の目的があってその場で実際に何があったのかという内容までは知らないんだろう。《銀》の言葉を聞いて悔しそうに押し黙った。
と、そんな会話をしているときだった。
────ドパァン!
「なに!?」
「向こうで何か水に落ちたぞ!」
「ふむ……上からの立坑ですねぇ……そして、烏間先生と『死神』!」
無事、俺等の作戦は功を奏したらしい。何をどうしたのかまでは知らないけど、烏間先生が『死神』を連れて上の方のどこかから落ちてきたみたいだ。……どのくらいの高さから落ちてきたかは知らないけど、なんで普通に行動できてるんだろ、あの人間やめちゃってる人達。とりあえず、この牢屋からだいぶ離れた向こうの方で烏間先生が相手してくれていることは確定……これで『死神』が烏間先生を倒して操作室に行き、仕掛けを動かさない限り、この場所は安全になったはずだ。
隠れる必要もなくなったから、全員肩車を崩して鉄格子の前に集まり、2人の戦いを見守る……と言いたい所なんだけど、ここからじゃ何か2つくらい動いてるのがいるなーってぐらいしか分からないだよね。遠すぎるんだよ……それだけ安全なんだろうけど。
「殺せんせーなら見えるんでしょ!今どうなってるの!?」
「え、えぇっとぉ……、『死神』がナイフを出しあぁ違うワイヤーだ!烏間先生これをおおっすごい!避けざまに返しの肘ああダメだナイフを盾にされッ咄嗟に蹴りに変えーと、えーっと同時!な、なんか、なんかすごい戦いだーーッ!」
「何言ってるかサッパリだよ殺せんせー!!」
「ミートゥー!!!」
「自分でもわかってねーのかよ!?」
目をカタツムリのように伸ばして遠くの様子を見る殺せんせー……夏休みにこの殺せんせーを見たことがある前原曰く、ズーム目というらしい。
それを使って遠くの烏間先生達の戦いを実況しようとしてくれてんだけど、とにかく実況が下手すぎる。先生の説明スピードで追いつけないくらい早い攻防が繰り広げられてんのはなんとなく分かった気がするけど、結局1番知りたい向こうの状況はサッパリだ。何が起きてるのかが把握できない。殺せんせー、実況やり始めたならすごいの一言でまとめて諦めんなよ……
「心配せずとも、そう簡単に烏間先生は殺られません。『死神』の持つ
「だからカラスマは、あの場所であえての接近戦を選んだ。周りに何も無く、『死神』が小細工することもできず、且つ自分の最も得意な領域に持ち込むことで、『死神』がこだわる
「先生のセリフとられた!?」
「……フン、さて……」
自然と殺せんせーの言葉を引き継いだ《銀》に先生がなんかショックを受けてるけど、みんなは清々しいくらいにそれをスルーしてて。
今まで姿を隠してくれていた《銀》が見えるようになったかと思えば、自分のペースを崩すことなく殺せんせーの声を一蹴しながら、檻の中へ入ってきた時のように鉄格子を抜けて外側へと姿を現したことに自然と目が追いかけていた。
「《銀》さん、どこへ……?」
「元よりアレに参戦するつもりは無いが、近くで見届けるのもおもしろい。……それよりもお前の危惧することが起きるのならそろそろだろう。私に構う暇があるなら備えた方がいいのではないか?」
「そうですねぇ……『死神』はこんな状況でも秘密兵器を隠し持っている可能性が高い。では、そろそろ準備に入りましょうか。それと《銀》さん、私のことは『お前』ではなく『殺せんせー』と呼んでください」
「……ふっ、考えておこう」
「あっ……」
考えておこうって、それほとんど実行されずに終わるやつじゃ……でも殺せんせーは満足気に頷いてるし、言わなくてもいいか。
そのまま踵を返そうとしていた《銀》だったけど、離れようとした彼を見てか、何人かのクラスメイトが不安そうな声を上げた。多分そいつらも引き止めるつもりは全くなかったんだと思う。でも、俺で気付けるってことは《銀》にも聞こえてるわけで……
「……、不安か?」
「あ、そ、その……ごめんなさい!引き止めるつもりは本トになくて、」
「烏間先生を信じてないわけじゃないんだけど……」
「こ、殺せんせーだっているしね!……うん」
「……、……そうか。……そうだな……お前達は自分達で選んでここへ来たにせよ、一般人には違いないのだから、命の危機に直面して怯えないはずがない。───《分け身》」
「「「!!!」」」
「い、《銀》が2人……!」
牢屋の外……俺等に背を向けたまま、ゴソゴソと何かを服の下から取り出した《銀》はその場でくるりと回りながら地面に何かを押付けた、瞬間。《銀》のすぐ隣に《銀》と姿が瓜二つの人物が現れた。
「これは《分け身》。本体である私よりも体力は劣るが、能力そのものは全くの同一……離れても私が術を解いたり符が破られたりしない限りは存在し続ける」
「沖縄に行く前に見せてくれた分身だ!」
「そうだ。だが、これは幻ではなく実態……そこの超生物のようなスピード頼りの分身とは違う、完全に別個体だ。遠距離でやり取りができるわけでもないが……これを護衛に残していく。それなら、少しは不安をぬぐえるか?」
「っ、はい!」
「ありがとうございますっ!」
「……フフ。では……行くぞ」
小さく笑った《銀》は今度こそ空間を歪ませて解けるように消えてしまった。《銀》が残していった分身は端の方へ移動し、牢屋の鉄格子より外側の壁にもたれかかっている。視線は牢屋の中……というより、殺せんせー?
「……私を見ていていいのか?」
「そ、そうでした!よっと……」
「……てか、分身の《銀》も話せるんだ……」
「同じ声に聞こえるけど……本トに別個体なんだね……」
殺せんせーはアカデミックローブの下からトマトジュースのペットポトルを取り出して、何に使うのかと思えば烏間先生を助けるためです、とだけ言ってフタを開けたペットポトルの口をくわえ、ズーム目にして遠くの戦いを見ているまま、そっと檻の隙間から触手を伸ばした。……触手の先は既に見えないけど、言葉通りなら烏間先生の方まで伸びてるんだろう。
聞けば、『死神』のとある技の対策らしい。……音もなく、予備動作も少なく、攻撃そのものが小さすぎてほぼ防げない技を、烏間先生が『死神』を油断させるために利用するんだとか。なんで殺せんせーは『死神』のその技を知ってんだか、と思っていたら、烏間先生から『死神』がここへ乗り込んでくる前に殺された、殺されかけた殺し屋達の殺られ方を聞いて察したらしい。
「どんなに距離があっても、同じ空間で先生の目が届く限りにいてくれさえすれば、この触手は届きますから、必ず守ることができます。だから烏間先生は大丈夫。……ですが恐ろしいですねぇ……」
「殺せんせー?」
「なにが?」
「先程の『死神の見えない鎌』を初見で、しかも他の殺し屋達とは違いすれ違いざまでも姿を見せてからでもなく完全に背後から撃たれたというのに、あっさり防いでしまったらしいですよ、《銀》さんは」
「「「…………え。」」」
「…………」
「ええ、最初ここへ落とされる前に得意気に『死神』が語ってくれました」
「……フン」
……やっぱりこの人も大概どうにかしてるよ。
◆
───ドドッ!ドガガガガッ!
あの場に残っていてもそもそも遠すぎて分かりにくいし、殺せんせーの実況は言いたいことがよく分からない。戦いに割り込むつもりは全くないにせよ近くで状況を把握したくて、クラスメイトたちと殺せんせーの牢屋に《分け身》を一体置いて離れた私は、烏間先生と『死神』がタイマンで戦ってるところを見に来ていた。
「……筋力的には男の人には絶対勝てないけど、あそこでああ動くのはいいなぁ……素手を相手にするならナイフを盾にするのもアリだけど、当たる面積と負荷によっては折れるだろうし……手を切り替えるならもう数瞬早くしなきゃ……あ、やっぱり防がれてる」
邪魔にならなければどこでもいいかと、立坑に降りるための階段の手すりの上に肩膝立ちで座ってるんだけど……けっこう『死神』の使う技術が暗器術に近いところがあって、私が烏間先生と戦っているように置き換えて見ていたりする。いつもの烏間先生との訓練だと私達のレベルに合わせてくれてるから、ここまでの本気の命のやり取りを交えた戦闘は中々見れないから勉強になる。……多分、余裕では無いけどギリギリでもない、これでもまだ全開戦闘ではないんだろうなぁ。
こう見ていると『死神』もそこまで大したことないね。E組のみんなにもチラッと言ったけど、やっぱり多彩な技術をそれぞれ高度に極めるよりも、1つの戦い方にしぼって極めた
「真実を言うよ、烏間先生。僕は実は大金持ちの何不自由ない家庭で育った……悲惨な境遇で育ったなんて嘘っぱちさ。知人の話を自分の事のように脚色しただけ」
「……おまえ……」
「だが僕の親は……殺し屋に殺された。その、目の前で親を瞬殺した殺し屋の動きに僕はこう思ったんだ。───なんて、美しい
「…………」
……やっぱり、私があの時に感じた違和感は正しそうだ。『死神』は、元々この界隈で『死神』と呼ばれていた存在とは別人、むしろその本物の『死神』の暗殺技術に魅せられてしまって、自分の将来の天職だと道を定めてしまった人だ。
裏の世界では『死神』と並んで長い年月が経っても消えることなく存在が噂されている《銀》をろくに知らずに殺しにかかってきたことも、既に暗殺者として名を挙げていた《銀》の技術を軽視していたことも、これで全部説明がつく。どうせホームも違うし、噂の存在でしかないってタカをくくってたんだろうけど……
「……そんな勘違い、許せるわけないよね。父様から受け継いだこの道と、当代であるお姉ちゃんをバカにされたようなものなんだから」
黙った烏間先生の心臓の位置に、静かに地面を這って近づいて、烏間先生の肌の色に合わせた触手が貼りつくのを見て、『死神』が動くことを悟った。……私だったら、多分あの1対1の戦いでも特に支障なく介入できる……イレギュラーはあるかもしれないけど、現状自分の技術に酔って烏間先生しか見てない『死神』に攻撃することなんて簡単なこと、……だけど。
私が見ている目の前で、『死神』が音もなく少しだけ腕を跳ねあげる動きをした途端、烏間先生の心臓の位置から赤い液体が吹き上がって……『死神』は勝利を確信して余裕な口調で楽しそうに烏間先生に近寄っていく……のを待っていた烏間先生が全力で股間を殴りあげた。
「うぐおおおおおおおお!?!?!?」
「やっと決定的な隙を見せたな。『死神』でも急所は同じでホッとしたぞ。……さぁ、覚悟はいいな『死神』、俺の大事な生徒と同僚に手を出したんだ」
「ま、待てッ……僕以外に、誰が奴を殺れると……ッ」
「
……出なくて、正解だったな。これは私が、……《銀》が介入してはいけない領域だ。私にその権限はない……私が、『死神』に対して怒っているのは、ただの個人的な感情でしかないから。
凶悪と評してもよさそうな笑顔で『死神』は烏間先生に殴り飛ばされ、打ちどころが悪かったのかそのまま沈黙した。結構な打撃音と、水路の縁に打ち付ける重たい音が響いたもんね……痛そうどころじゃない。
「……だ、そうだぞ。イリーナ」
静かに背後の階段を下りて、私の座る場所に近付いてきていたイリーナ先生に、《銀》として声をかけた。烏間先生が自分の発言をイリーナ先生に聞かせようとしていたかまでは分から、な、……うーん、烏間先生の鈍感さを考えると、本気で偶然かち合ったタイミングなだけな気がするなぁ……
偶然かワザとなのかは分からないけど、タイミングよく烏間先生がイリーナ先生を気遣う言葉を聞くことができたからか、イリーナ先生は少し頬を染めながら私が座る手すりに寄りかかる。
「……気付いてたのね。てか器用な座り方」
「下は戦闘音と水音で聞こえてないかもしれないが、私はここにいたからな。お前が来たのも振動で分かっていた。それに、万が一があれば出ようかと考えていたが……杞憂だったな。……随分スッキリした表情になったな、イリーナ。カラスマの本意は聞けたのか」
「……まぁ、ね。こんなことした私でも、あの教室には必要なんですって。でもね、啖呵切って裏切って走って出てきたのよ、私。正直あの子らに顔を合わせずらいわ」
「フフ、そうか」
きぃ、と小さく金属音を立てた手すりの方を見れば、イリーナ先生は下の烏間先生を見ているようだった。烏間先生は水路の縁石に頭のどこかをぶつけて沈黙した『死神』が水に沈もうとしているのを引き上げに行ったんだろう……人は水深10cmでも鼻と口が塞がれば死んでしまうから。
殺せんせーを暗殺するためならってだいぶ規制が緩い今の防衛省だけど、暗殺対象以外も巻き込もうとしたことや、勝手に国の地下施設を改造して全く関係のない職員にも手をかけたことを踏まえれば、この後烏間先生のことだから防衛省の部下の人たちを呼んで拘束して、『死神』を連れて帰るんだろうなぁ……。防衛省やロヴロさんのような殺し屋斡旋業者を通していない野良の殺し屋って立場だろうし、詳しく事情聴取……尋問する必要があるだろう。
「……、ねぇ、」
隣で下を見下ろすイリーナ先生を真似て、水音やどこかへ連絡を取り始めた声を聴きながらそんなことを考えていたら、ポツリと隣から小さな声が聞こえて顔を彼女の方へと向ける。
「……アンタってさ、自分勝手で神出鬼没に行動するくせに、人に強制はしないわよね」
「……何の話だ」
「一応アンタもガキ共と関わったわけじゃない。私よりは付き合いの長さは短いけど、それでも無条件で先生として頼ってくるのよ?情でも湧いてておかしくないのに……私に対してE組を利用しろとも、この件から降りろとも言わない、暗殺をやめろとも言わないし手も出さない……ただ、見てるだけ」
「…………」
「正直、私とアンタってだいぶ暗殺タイプが違うし、ここでアンタがサポートに入るって聞いた時、速攻邪魔だって言われると思ってたわ」
……イリーナ先生的に、E組の存在でこの依頼をどうするか揺れてたんだろう。全て終わった今、イリーナ先生はこのままE組に戻るのか、裏切り者として去るのかを選ぶ時が近づいている。……私に突き放して欲しいのか、呆れてるとか、期待してないとか、そんな言葉を求めているような言い方をしてるけど……違う気がする。背中を押して欲しいわけでも、言って欲しい言葉があるわけでもないんだろう……ただ、迷っていることを聞いて欲しい、そんな声色をしている気がする。
だったら私は何も答えを出す必要は無い、よね。私が介入しない理由だけ言って、あとはちゃんとイリーナ先生が答えを出すしかないから。あっているかは分からないけど……
「……私は私のやるべきことがある。もちろんお前にはお前の成し遂げたいことがあるだろう。それが契約によるものなのか、信念によるものなのか、はたまた情で動いているのか……私は知らないが、だとしても、それはどれも他人が介入するものではないだろう?」
「……確かに、ね。ま、とりあえず、地上に出るために合流しようかしら……私はあの地下空間を操作できる端末を持ってないし」
左腕に添えられた板とシャツを裂いて作られたように見える簡易包帯を右手で撫で、イリーナ先生は手すりから離れて階段を下りていった。その足取りは迷いのある重たいものではあったけど、確実に前に進んでいるから、心配しなくていいと信じてる。
「……私より付き合いの長さは短い、かぁ……ふふ、実際は私の方がだいぶ長いんだけどね」
なにせ、私がみんなを認識してなかっただけで、中学1年生の頃から関わりがあるわけだから。そうじゃなくても、私は先生が来る1ヶ月前からE組生だったわけだし。
さて、と。 このまま何事もなくみんなが解放されればここでの《銀》の役目も終わり。上手いこと離脱して真尾有美紗として合流すればよし、と。
ただ、烏間先生は『死神』を一撃でしか沈めてないけど、追加で薬使うとかして当分目覚めないようにちゃんと対策して連れてったのかな。烏間先生と殺せんせーは何とかなるだろうけど、まさかE組のみんなの前に置く、なんてことしないよね……?……見張る人員が居ないからってやりそう。うん、そこまでは《銀》としてしっかりケアしておこう。
だって、私の契約は『E組のみんなを守ること』なんだから。
ループ元のお話はこちら
https://syosetu.org/novel/138458/85.html
《銀》が『死神の見えない鎌』を防御したあとがき
https://syosetu.org/novel/138458/80.html
「……あれ?殺せんせーの分身と《銀》の分身は違うって言って……」
「どしたー?」
「分身がどうとかって」
「あ、いや……気のせいだから。うん」
「あ、そ?」
「……《銀》は、いつ殺せんせーの分身を確認したんだろ……《銀》がE組校舎に来てた時って殺せんせーいなかったし……まーでも殺せんせー迂闊だしなぁ、結構山から飛び出してぼろぼろ見られてそうだし気にしなくていっか」
++++++++++++++++++++
難産でした!!!(2回目)
今回どう変えたら読み応えあるかなぁと悩み、
・カルマの質問内容をガラッと変更
・《銀》の《分け身》を置いていく
という部分を押し込みました。
いかがだったでしょうか?《分け身》については次回しっかり使いどころがあるのでご安心(?)ください。
烏間先生と『死神』のタイマンを観戦させたら、最後の最後にオリ主とイリーナ先生の会話が産まれました。これは勝手にキャラが動いた結果です。いつの間にか会話が始まってました。
次回で死神編終わります!
待っててくださいね!