ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜光を宿すもの〜   作:ロンドロ

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ファイアーエムブレムシリーズの一つ聖戦の系譜の二次創作小説です。オリキャラも出していく予定なので苦手な方はブラウザバック推奨。


第1章 少年の旅路
計画は穏便に


グラン歴754年5の月。

春にしては暑く、夏にしては涼しい季節と、日に日に暖かな気候となってきている。初夏というのが正しいのかもしれない。もっとも、大陸の北のシレジア王国はまだ春にも差し掛かってもいないだろうが。

 

ユグドラル大陸中心に位置するグランベル王国の王宮、バーハラ城には他国の書状を運び込む文官や部屋を掃除する使用人、王族を護衛する近衛兵が行き交っていた。あちらこちらで地面を蹴る靴の音が響き、バルコニーには小鳥が忙しなく鳴いている。

 

そんな中、城の書庫で静かに本を読みふける人物がいた。

 

金の長髪を束ね、長い睫毛、ぱっちりとした大きな赤の瞳を持った少年である。まだ成人していないとはいえ、幼さを秘めたその容姿は見るもの全てに中性的な印象を与える。

–––少年ではなく少女なのでは–––と

 

 

「えっと、こっちが大陸史の本であっちが…」

 

少年は椅子に登り高い本棚から分厚い書物を抜き出す。そしてそれらを手に取り、側の机に平積みにしていった。

 

 

彼の名はユミル。

現グランベル王国国王アズムールの次男の息子、すなわち孫であり、バーハラ王家の祖であるヘイムの血を宿す、れっきとした王族の一人である。

 

第二王子の息子であるために正当な王位継承者ではないのだが、

 

この少年がこのユグドラル大陸で長きに渡り繰り広げれる"聖戦"に身を投じていくことをまだ誰も知らない。

 

 

「うーん…やっぱりこういう暖かい場所は、本の虫の特等席だな。」

木漏れ日がさす書庫の窓辺でユミルは本をめくっていく。

今読んでいるのはユグドラル大陸に巻き起こった200年にも及ぶ戦いの記録である。

 

 

 

グラン歴440年、暗黒神ロプトウスが大司教ガレに降臨し教団を作り上げ大国グラン共和国を滅ぼした、そして教団はロプト帝国を成立させ子供狩りや虐殺などの数々の暴挙を行なったのである。しかしその100年後、当時の皇帝の弟マイラが反旗を翻した。マイラはロプト教団以外の庶民が奴隷のように扱われていることに憤りを抱いていたのだ。反乱はすぐに鎮圧されたものの、これに触発され大陸各地に自由解放軍が立ち上がる。それでも解放軍は強大なロプト帝国に次第に追い詰められ最終的にはダーナ砦に立て籠もるほかなかった。誰もが絶望した中、奇跡が起こる。十二人の解放軍戦士の前に神が降臨し、十二聖戦士が誕生したのだ。神は聖戦士達に聖なる武器を授け、打倒帝国を掲げた解放軍により、その15年後ようやくロプト帝国は滅びたのである。その後聖戦士は各地に散りグランベル七公国と周辺五王国を建国した。

 

 

 

 

まるで神話のような話がこの大陸に起こったことを明確に記されている。僅か百年経ったのが今の時代であるということも。

 

「いつ見てもこれが本当にあったことだなんて思えないんだよなぁ…」

 

「何を見ているんだい?」

 

後ろから突然声をかけられ驚いてしまった。夢中で読みすすめていたので人の気配に全く気づかなかった。

声の主はどうやら叔父のクルトのようだ。ユミルの父親の兄にあたる人物である。

 

 

「お、叔父上!」

 

「へぇ、大陸史を読んでいたのか。」

 

「え、えっと…はい、勉強です。」

 

「勉強?今日は歴史学の先生が来るだろう。」

 

「よ、予習しておきたくて…」

 

「そうなのかい?」

 

 

クルトはユミルの挙動不審な様子に気づきはしたものの、あえて触れなかった。すると部屋に1人の文官が入って来た。

 

 

「クルト様、エッダ公国から書状が届いています。」

 

「おや、すぐ行こう。じゃあユミル、またね。」

 

「あっ、はい。それでは…」

 

 

 

書庫の扉がゆっくりと閉まる。

 

「…はぁ…」

 

ユミルは深い溜息をつきながら机に突っ伏す。

 

(まさかあの計画、バレてないよね…?)

 

懐から文字がびっしりと書き込まれた紙を取り出す。

折り畳まれていたということもあり、所々皺になっていたが。

紙を広げて確認するように目を通していく。

この紙に書かれたことこそが、ユミルの言う計画であった。

 

 

約半年もユミルが考えに考えた計画、

それは” 国からの出国 ”

 

出国とは呑気に馬車で各国を旅行する…などではない。逃げるようにこの城から、そしてこの国から旅立つというものである。

勿論これは誰にも他言していない。出国を完璧に済ませたいために。

「王子が国から出たがっている、はいそうですか、ならば馬車を用意させましょう」なんて、済むような話でもない。むしろ大事だ。

 

誰にも知られず、この国から出ることが一番の目標である。

 

出国は明日の夜。馬での移動は無理だ。試しに以前厩舎を訪れたとき、馬を引き連れようとして相当騒がれた。しかも目立つため門番にでも会ってしまったら計画がバレて全て台無しになってしまう。徒歩での移動の方がリスクが少ないというわけだ。

そして文官の持ってくる報せによると、西の方から雨雲が近づいて来ているそうで。雨が降ると外の見張りがいつもより半分ほどの人数になるのでその隙に地下から抜け出す。そのまま森へ進み、街を渡って国から出る。この前、騎士達の狩りに着いて行き、その時ついでに大雨が降っても安全な道を探してみたので、ある程度は把握しているつもりだ。

勿論必ず成功すると決まった訳ではないが。

 

 

随分と自分勝手な話だが、ユミルはクルトが正式な王になるまでにこの計画をやり遂げなければならなかった。

 

それはというもの、グランベル王国はバーハラ王家に代々受け継がれる聖遺物の聖書ナーガを扱うことのできる直系血族が王として、国を治める。本来ならばクルトが次期国王として、そして更に次の国王にはクルトの子供が王位を継ぐのが道理であった。

 

しかし現状では、次期国王の次はユミルが王位を継ぐと言われている。何故ならクルトには妃がおらず、世継ぎが存在しないため。

このままではバーハラ王家の直系血族は断絶してしまうと皆恐れている。最悪の場合、忌み嫌われているが傍系の両親から直系血族並に血の濃い子供を作る近親婚という方法がとられる。そのためにユミルを王にし、他のヘイム傍系の女を娶らせ直系の子供を産ませるだろう。クルトが王になればユミルは直系血族のかわりとして今まで以上に手厚く保護される。そうなってしまっては国を出るどころではない。

国を出るのなら、何の差し支えもない今こそが好機だと、そう思った。

 

もし成功したのなら、国の貴族だけでなく国民からも「王族が城での生活に退屈し国から逃げた」とでも思われるのだろうか。いや、この出国はそんな軽いものではない。まあ己の見解を深めるために、という理由もあるが。

 

 

 

(出来るか出来ないかの話なんかじゃない、やるしかないんだ。)

 

 

自分の考えは愚者の世迷いごとだと思われるのだろうか。

いや、それでも構わない。

 

(絶対に、成功してみせる。)

 

自らの拳を握りしめ、ユミルはそう決意を固めた。




ユミルという名前は北欧神話から。原初の巨人だそうです。(当たり前だけど本作のユミルは巨人じゃない)
「男と女の役割を担うことができ沢山の巨人を生み出した」というところから中性的な容姿と言葉、そして光を作り出すという本作のユミルに当てはまる設定だったので名付けました。

追記

【挿絵表示】

↑ユミルの容姿絵です。デジタルのくせに雑。

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