ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜光を宿すもの〜   作:ロンドロ

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久しぶりの更新になります。更新が遅れた理由は試験です。期末だったので試験の二週間前から試験が終わるまで三週間くらいが忙しかったです。感想はある程度見させていただいたのですが、本編の更新までは勉強していて書けませんでした。これから試験がないときは毎週更新出来たらいいなぁ…(´ー`)


若き騎士の苦悩

朝日が岩口から僅かに刺す。

「…うーん…もう朝か…」

目を開けるとすっかり燃え尽きた木片が転がっている。3時間か、それ以上眠っていたのか、今の時刻がどのくらいかを知るには町に出るほかない。今までバーハラ城でしか生活したことのないユミルには全てが新鮮に映る。宝の持ち腐れ状態であったこの知識がどのくらい役に立つのだろうか。

そんなことを考え革鞄から干し肉を取り出し口に入れる。乾物特有の硬さが脳を刺激したのか、みるみるうちに頭が冴えていく。寝起きの細い目はいつもと同じように大きく開き、赤い瞳がハッキリと見える。

そして城に出てから一度も口をつけていない木筒の水で干し肉を流し込む。ユミルは元々が少食なため、少量の食事をとるだけでも十分なのである。それ以上に食料を無駄にできないということもあるが。

干し肉を包み直し革鞄にしまう。空を見上げると先ほどよりも日が昇って随分明るくなってきたので洞窟から這い出る。夜の雨で地面に所々水溜りができたものの、草が大量に生えているおかげで滑りこけることはないみたいだ。泥と雨の染み込んだ革靴とローブを着直しユミルは森をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

一方バーハラ城ではいつも通りに変わらぬ風景がそこにあった。一人の男が鍛錬場にて訓練用の槍を振り下ろす。

 

「2996…2997…2998…」

 

男はかれこれ二時間前の早朝から己を鍛えていた。額からは滝とまではいかないが汗が頰を伝って落ちる。顔が整っているため汗をかいても絵になるような爽やかさを持っていた。水も滴るいい男とはよく言ったものだ。

 

「2999…3000ッ!!ふぅ…ようやく終わったな。」

 

男の名はロトアート。グランベルの騎士で、アズムール王に仕えるフィラート卿の孫である。まだ二十にもなってない若手だが、騎士としての実力を認められ、次期将軍候補とされている。自分にも他人にも厳しい性格で毎朝の鍛錬を欠かさず、今もこうして槍の素振りをしているところだ。

 

最近はクルト王子の甥であるユミルに剣術を教えている。「王族たるもの剣の一つは扱えなければならない」とアズムールからの提案である。実力もあり歳も近いということからロトアートが選ばれた。しかし多少は手加減しているつもりだが、ユミルには全く剣術の才がない。ロトアートの教え方に難あり、というわけではない。力もなく、剣筋もデタラメ、半年にもなるのに技が一向に染み付く気配がないのだ。聖杖を扱う力は一級品だが戦う才能は皆無と言っていいほどに。

 

(戦いよりも人を癒す、か。これもミーミル様とヘスティア様の性格譲りなのかもしれんな…)

 

今は亡き第二王子夫妻のため、騎士の自分に何が出来るか。その遺児であるユミルを立派な王子へと導くこと。…あの時城にいて何もできなかった自分には大したことのない贖罪かもしれない。しかしユミルを支えることこそロトアート自身が出来る二人への最上級の償いであった。

 

 

 

 

今日こそとまでは言わない。いずれ国を束ねる人間として、力を持つ者になってもらうために。ロトアートは槍を片付け城内へと戻るのであった。

 

 

 

ユミルを鍛錬へと誘うため、軽く朝食を済まし部屋に向かう。すると顔見知りの侍女がロトアートの方に駆けてくる。侍女はユミルの世話係であり、顔面蒼白で何やら酷く慌てていた。

 

「君、そんなに慌ててどうしたんだ」

「ロトアート様!!大変でございます!!ユミル様が…」

「何?ユミル様がどうかしたのか?」

「…いないのです。ユミル様が…いなくなってしまわれました!!!」

「な、何だとッ!!??」

 

普段から驚くこともなければ声を荒げることもないロトアートが大きく目を見開いた。

 

「食事を届けようとして部屋に行ったのですが反応がなく…部屋に入ったらユミル様の姿がどこにも無くて…」

「少し待っていろ、私が見てくる」

 

(ユミル様がいない…?一体どういうことなんだ?)

 

ユミルの部屋に辿り着くと扉に手をかける。

「失礼しますユミル様!!」

扉が勢いよく開きロトアートは部屋を見渡す。この時間ならばいつもベッドで寝ているか本を読んでいるかのどちらかである。しかし侍女が言った通り、ユミルの姿はそこにはなかった。それどころか第二王子夫妻の形見である魔道書と聖杖さえも消えていたのだ。

 

「そんな馬鹿な…………」

何故?いつ?どこに?そんな疑問が一瞬にしてロトアートの思考を駆け巡る。

「…!?まさか!」

寝具の毛布に手を差し込んだ。

(冷たい…早朝よりもずっと前か?)

毛布には人肌の温かさはない。ロトアートは先ほどの侍女の元へ向かい問う。

「最後にユミル様を見たのはいつだ?」

「…夜中の八つ時だったと思います。あの時ユミル様は本をお読みになられていたので紅茶を入れて持って行きました。」

「ということはいなくたったのは深夜か…?一体どこに!?」

「わ、私、とりあえず他の侍女達にも知らせてきます!!」

「すまない、頼む!」

 

書庫、手洗い場、礼拝堂、調理場などありとあらゆる場所を探してもユミルは見つからない。探した場所をもう一度回ることを続けては違う場所を見て回り一時間ほど経過した。クルトにこのことを伝えると彼もまた口を開けて驚愕した。

「ユミルがいなくなった!?」

「はい、昨夜の八つ時から姿が見えず…城中のいたる所まで探させてはいますが、一向に…」

「…城外に出たなんてことはないだろう。雨は降っていたし兵がいたはずだ。見落とすなんてことは絶対にありえない…」

 

クルトは下を向き考え出す。

「見落とし………」

他に探していない場所はあるのか?もし城外へと出る術があるとしたら…。

「…あっ!!もしかして地下通路に!!??」

誰もが見落としていた地下通路。クルトはその答えに行き着いたのである。

「早急に向かいます!!」

 

数人もの侍女と近衛兵とともに通路のある地下へと向かう。バーハラ王家とそれに仕える者でしか知ることのない地下通路。隠し扉を開くと寒風が吹き抜け、何人か身震いをする。ロトアートはランプで道を照らしながら通路の出口まで足を進める。

 

「この扉が外に繋がっているのか…」

出口の扉を触るとじっとりと冷たい水が手を濡らした。虫ですらも侵入できない扉が濡れているということにロトアートはユミルの行方がどうなったのかを理解した。

 

「……やられた。」

「どうしたのだ?ロトアート殿。」

一人の兵が尋ねる。

「出口が雨で濡れているということは昨夜誰かがこの通路を使ったということだ。」

「……ま、まさかユミル様はこの通路を通って…!??」

「城外へと出てしまわれた、そうなるな。」

「えええぇぇっっ!!!??」

狭い通路が侍女と近衛兵達の騒ぎで溢れかえる。

 

こうしてグランベル王国の王子ユミルは忽然と姿を消した。雨が降っていたにも関わらず兵に見つかるのことなく城を抜け出したその報せは国中を、いや、大陸中に知れ渡ったのであった。

 

 

 

(ミーミル様、ヘスティア様…申し訳ございません…)

 

ユミルが一人森を抜ける中、騎士ロトアートの苦悩は始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 




ユミルの出自を知っていてなおかつ同年代くらいの人間を出したかったので本編キャラであるフィラートの孫ロトアートを登場させました。オリキャラだけど仕方ないね!

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